リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
そんなノーヴェの元親に向ける刺々しい言動を見た西軍幹部 上杉景勝はある事を察するが…
一方、ナンバーズ5番 チンクは元親と一対一で話し合う機会に恵まれ、そこで彼の知られざる過去を聞くことになる…
景勝「リリカルBASARA StrikerS 第四十四章 ンオ゛~オァ゛~ハァ゛~ハァ゛~
これはっ!シ゛ャ゛◯゛リ゛コ゛イ゛ン゛だ゛!゛!゛」
ディエチ「ジャ◯リコインって普通に言っちゃっていいんですか…?」
『西海の鬼』長曾我部元親の施す訓練は普通の戦闘訓練とは違う。
海で育ち、一人の武将であり海賊として常に野性的で実戦的な訓練によって育ってきた彼の鍛え方は文字通り変わったものであった。
通常の人間でも違和感を感じるであろう彼の訓練にナンバーズのメンバー…チンク、セイン、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディの5人は、余計に違和感を覚えていた。
今まで自分達が姉達に受けてきた訓練とは、まったく異なり、仮想シュミレーターも試射施設も使用しない。
すべて対人戦か実地訓練のどちらかという自分達の常識では考えられないやり方に基づいて訓練するのだ。
そんな彼のやり方に、初対面の時から派手に反発していたノーヴェは、この訓練をはじめて、2、3日目から絶えず異議を唱え、7日目にはセインやウェンディ、ディエチ達や常識人のチンクまでも抵抗感を示していた。
しかし、1ヵ月を過ぎたころにはチンク達は不思議と元親の訓練に違和感を感じなくなり、ノーヴェを除く全員が素直に彼から与えられた訓練をこなすようになっていった。
そのチンクですら抵抗感を抱いたという『訓練』。
その中でも特に彼女達が抱いた違和感の大きかったものが…
「え~と。ここの部品がここに繋がって…」
「違うっスよセイン。ここのパーツはこれと繋がるっス」
「えっと…ここはこの塗装でいいんだよねチンク姉?」
「あぁ、長曾我部が渡した設計図によるとここからこの部分までがこの色で塗るそうだ」
『カラクリ兵器の製造』という殆ど雑用に近い『訓練』であった…
ここはスカリエッティのアジトの外れにある物置だった小ホール。
元親はスカリエッティに頼んでここを無理やり改造し、自身のカラクリ兵器製造ドックとして使用していたのであった。
そして今、ホールの中心にはチンク、セイン、ディエチ、ウェンディの4人があれやこれやと話し合いながら、4本の足を持った巨大な鋼鉄製の兵器を組み立てている最中であった。
「あれれ?ここ、こんな構造だったっけ?」
「なんか設計図と違う気がするっス」
設計図と自分達の組み立てたカラクリの部品を見比べて首をかしげるセインとウェンディに横からディエチが慌てて注意する。
「あぁ!セイン、ウェンディ!それは『設計図 参』の組み立て方だよ!そっちは『設計図 七』の構造でやらないとダメなんだよ」
「えっ!?マジっスか!?」
「先言ってくれよ~。これ組み上げるのにどれだけかかったと思ってんだよ」
あ~だこ~だと騒ぎつつカラクリ兵器を組み立て続けるセイン達、すると彼女達とは反対側の部分を組み立てていたノーヴェが、叫び声を上げながら持っていた工具を投げ出した。
「だぁぁぁぁ!畜生!やっぱ無理!こんなチマチマした作業やってられっかよぉ!!」
一人愚痴るノーヴェを見てセインとウェンディが「また始まった」と言わんばかりにあきれた表情を浮かべながらチンクに向かって視線で助けを求め、
それを察したチンクがノーヴェに近づいて、彼女を宥め始めた。
「ノーヴェ。今度はどうしたんだ?また作業が捗らないのか?」
「チンク姉。アタシもう嫌だよ!こんな毎日毎日ディーゼル臭い部屋の中でガラクタ組み立ててばっかりなんて、もっと仮想シュミレーターとかを使った実戦的な訓練がしたいよ」
「そう言うな。それに実戦訓練ならちゃんとこの後、用意してあるじゃないか。長曾我部や黒田、上杉との組手とか…」
「あんなの訓練にならないよ! あの
「それはノーヴェがいつもアニキ達に「ぶん殴る」とかいって殺気全開で挑んでるからっスよ」
「うるせぇウェンディ!お前は黙ってろ!」
作業を続けながらツッコむウェンディに、一喝するとさらにチンクに愚痴を言い出すノーヴェ。
「大体、なんでアタシらが奴の使う兵器の製造を手伝わなくちゃいけないんだよ!?そんなのガジェットみたいに自動製造ドックで造らせたらいい話じゃねぇか!?」
「わかってねぇなぁ。手作業で組み立てねぇと愛着が湧かねぇだろうが。カラクリってのはよぉ」
すると豪快な笑い声とともに、男の声で返答が返ってきた。
ノーヴェやチンク、そして作業をしていたウェンディ達が声のした方に顔を向けると、そこには碇槍を肩に担いだ元親が機嫌よさそうにドックに入ってきていた。
「おおぉ!『木騎』もなかなか好調に進んでんじゃねぇか!結構な事だ!」
元親は自身の進めるカラクリの製造の進み具合を見て満足そうな笑みを浮かべると碇槍をドックの壁に設けた専用の刀掛けに立てかけた。
「よぉ、ノーヴェにチン公!機嫌良さそうで…」
「よくねぇよ!!」
「だから普通に『チンク』って呼べと何度言ったら判るんだ!?」
声を揃えて怒鳴るノーヴェとチンクに元親が笑いながら謝る。
「ハハハハハ!相変わらず口の減らない奴らだな!…さて俺もちょっくら木騎の整備に参加するか」
そう言って工具箱に手を掛けようとする元親にノーヴェが即座に突っかかっていく。
「おい!その前にアタシと組手しろ!!今日こそ決着を付けてやる!」
「あぁ?お前昨日もそう言って派手に負けたばかりだろ?」
「うるせぇ!昨日は油断してただけだ!今日こそは勝つ!!」
「その台詞、もうここ2週間程毎日聞いてるんだけど?…」
意気込むノーヴェの言葉に、今度はセインがツッコミを入れる。
「うるせぇ!うるせぇ!!うるせぇぇぇぇ!!!とにかく勝負しろ元親!勝負だ!」
まるで子供のように騒ぐノーヴェを見て、元親は首を振りながら手に仕掛けた工具を工具箱に戻す。
「わぁったよ。この後全員での組手もあるから、軽く一戦だけだからな」
「フン!軽く済むと思わねぇ方が身の為だぜ。今日のアタシは本気だ!そっちも全力でかかってきやがれ!」
すっかり呆れた様子の元親と、一人奮起するノーヴェ。
まったく正反対の態度を見せながら二人は、それぞれ刀掛けに立て掛けた碇槍とその下の棚に置いてあったまだ調節段階のガンナックルを手に持つとドックの隣の部屋に設けた道場に向かう。
「ウェンディ、ディエチ。あれどっちが勝つと思う?」
「聞くまでもないっスね」
「うん」
もう慣れたような態度で二人を見送るセイン達の前で道場のドアが閉められた。
そして数秒程間を空けて…
「隙ありーーーーーー!!」
ドアの向こうからノーヴェの叫び声が聞こえた。
そして間を空けずに…
「…!…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
ドシンという鈍い音共に今度は悲鳴が聞こえた。
「ノーヴェ選手 只今の試合時間は4秒でした~」
セインがそう言ってからかうとウェンディはそれを聞いて笑い、ディエチはノーヴェが心配なのかあたふたと焦る仕草を見せ、
そしてチンクは「やれやれ」とため息を吐きながら首を横に振った。
*
しばらくして…
昼の休憩を兼ねてセイン、ウェンディ、ノーヴェ、ディエチはアジトの食堂へ、昼食をとりにやってきた。
食堂といっても普通の食堂と違って厨房や調理師といったものは存在しない、スカリエッティが開発した自動式の食料供給システムから配給される食事を順番に用意した皿に受け取る方式であり、ナンバーズは基本的にそれによって日々の食事を賄っていた。
ちなみに昼食の献立はオートミールに、3種類の栄養素のブロックビスケット、高糖分チョコレートに、オレンジ味のプロテインドリンク―――
「畜生!元親の野郎!!いきなり網でとっ捕まえるなんて反則だろうがよぉ!」
おでこには一枚の絆創膏を付けながら、ノーヴェはトレーに乗せた皿やボールに配給された食事を全て受け取ると、姉妹達と同じテーブルに腰を下ろしながら、誰に聞かれるまでもなく、先程の組手の敗因を憤然と語り始めた。
「『全力でかかってこい』って言ったのはどこの誰だった~?」
「うるせぇよ!!」
ノーヴェはセインの皮肉を八つ当たりで返しながらスプーンを手に取り、オートミールに糖蜜もかけずに、そのまま掻き込むように口に運び始めた。
「ガツガツ!…くそぉ!どうすりゃ元親の野郎に…ガツガツ!…勝てんだよあたしは…ガツガツ!」
「食べながら話すなっス」
口いっぱいにオートミールを頬張りながら話すノーヴェにウェンディが冷やかにツッコんだ。
っとそこへ…
「おぉ! セイン! 今日は妹達も一緒か?」
「よっ! オメェらも飯か?」
相変わらず鉄球を引きずりながら、枷を嵌められた両手におにぎりが山積まれた桶を運ぶという地味に器用な事をする元豊臣与力で今は外様扱いの武将 黒田官兵衛と、金串に刺さった岩魚を焼いたものを咥え、片手には同じ焼き魚の金串を5本、もう片方の手には清酒の一升瓶を掴んだ豊臣五刑衆 第五席 上杉景勝の2人が食堂へとやってきた。
2人の姿を見たセインとウェンディは顔を綻ばせ、ディエチは甲斐甲斐しく一礼し、ノーヴェは不愉快そうな表情を浮かべる。
2人の手にある食事を見ても分かる通り、ナンバーズと共にこのアジトで寝起きしている西軍の武将達の多くはこの食堂を使いこそすれど、ここで供給される食事には手を付けようとしない。
食事…と言ってもここの供給システムから配給されるそれは、各原料の粉末と科学調味料、香料、プロテインを合成しただけの疑似食品が主で、良く言えば栄養成分だけを重視した…悪くいうと味気のまったくなく食べ物を食べている気分さえも起きないものだった。
戦闘と破壊が半ば生きる意義である
三成や大谷などの一部を除いて、鮮度の良い素材を使い、味も香りも芳醇な“本物”の食事を食べ親しんでいる武将達は、これら合成食品を受け入れる事ができず、特に左近や景勝からは抗議の声も上がり、結局、スカリエッティとの話し合いの末、ここの食事を受けつける事のできない武将達は各自アジト周辺の山岳地帯で食材を仕入れ、それぞれ自分で賄う…所謂、自給自足をする事となった。
意外だったのは、左近や元親、景勝達は言わずもがな、あの他者を虐げる事しか興味がなさそうな五刑衆第三席 小西行長でさえも、自給自足する派に転じた事である。
その理由というのは「やはり食事は、血の流れるものが恋しい」という如何にも彼らしい残酷な理由からであったが…
っというわけで、景勝の要請を受けた元親は早速、アジトの一角にある空き部屋を改装して、簡単な炊事場を造り、自給自足派はそこでアジト周辺の山から入手してきた食材で各自食事を作る事となっていた。
幸い、アジトのある山は自然豊かで様々な動植物が生息しており、さらに近くには大きな渓流も流れている為、魚もよく採れる。
米や麦などの穀物に関しては食糧供給システムの素材として搬入されたものがあった為、そのうちの一部を拝借する事で補う事ができた。
「おっちゃん! もう謹慎部屋の外に出てもよくなったの?」
隣に鉄球を椅子代わりにして腰掛けた官兵衛にセインが尋ねる。
「まぁな。 又兵衛の奴が逃げ出したおかげで、すぐに動ける人員を控えさせる必要が出たとかで、小生の謹慎は一応解いてもらえる事になったのさ。まだ行動は色々制限されてるけどな…」
「そうなんだ。でもよかったじゃん。アジトの中は自由に動けるようになって」
「っというか三成に背いて“謹慎”で済んでいる時点で、ある意味奇跡だと思えよ?」
官兵衛の向かい側の椅子の上で胡座をかきながら、手に持った岩魚の金串をテーブルに突き立てながら景勝が軽口を叩いた。
「うるせぇやい! 五刑衆様々には、下請けの苦労がわかってたまるか!」
「おいおい。オレに八つ当たりすんじゃねぇよ。それにオレだって好きで豊臣の幹部やってるわけじゃねぇんだっつぅの」
そう言いながら、景勝は一升瓶の蓋を歯で抜いて開けると、それをラッパ飲みで煽り飲み始めた。
その女とは思えない豪快な振る舞いに見ていたセインとディエチとウェンディは呆気にとられた。
「か、景勝様…!? その…昼間からお酒なんか飲んで大丈夫なんですか…? それもそんな身体に悪い飲み方…」
ディエチが心配そうに尋ねる。
「ぷはぁっ! あぁ、へーきへーき。大谷から暫くはオレに仕事はねぇって言われたし…今日は特にやる事もねぇから、少し早い晩酌だよ」
景勝は手をひらつかせながら、そう言うと岩魚の腹わたを食いちぎり、それから一升瓶を煽る事で、清酒を流し込んだ。
「…かぁぁぁぁぁぁっ! 越後や会津の地酒に比べりゃ、月とすっぽんの出来の差だけど、ホント酒造る腕前は大したもんだな! あのカラクリ。メシはクソマズだけどよぉ」
少し酔いが入ったのか頬をほんのりと赤らめた景勝は上機嫌で、食堂の壁際に備えられた食料供給システムの装置に目をやりながら称賛する。
この酒はこのシステムが作成できた唯一の日ノ本由来の品で、ここの供給する食事を受け付けられない武将達も、これだけは唯一口にする事が出来たのだった。
「おい
「だぁから、だいじょーぶだっつぅの! それに、いざとなったらクロカン。お前代わりに行ってくれよぉ?」
「いや、なぜじゃっ!? なぜお前さんの代わりに小生が余計な仕事受けなきゃならんのじゃ!?」
「かったい事言うなよ。そんなしみったれた性格だから、いつまでも女にモテないんだぜ?」
「女を捨てているお前さんにだけは言われたくないぞ!!」
一升瓶をテーブルに置き、ヘラヘラと笑いながらからかってくる景勝に対し、おにぎりを頬張りながら突っかかる官兵衛だったが、そこへセインが口を挟む。
「まあまあ、おっちゃん。 おっちゃんはその身なりもなんとかしないと余計にモテないと思うよ」
「セイン! お前はどっちの味方だよ!?」
憎まれ口を叩き合いながらも、それなりに和気あいあいとした雰囲気で話し合う官兵衛とセインにウェンディ、ディエチも楽しそうに話を聞いていた。
元々、
先日の後藤又兵衛脱走事件の際に官兵衛がセインとウェンディを庇った事をきっかけに後発組は、元親に次いで官兵衛もまた西軍の面々の中では穏健派である事を知り、気を許すようになった。
豊臣の上級幹部である五刑衆の一員である景勝に対しては、当初は三成や行長のように冷酷無比な性格と思い、距離を置いていたが、何度か話す機会があり、それを繰り返す内に、その地位に反して、当人は寧ろ外様寄りな考えと元親のような小ざっぱりした性格の持ち主であった事がわかり、今ではこうして一緒に食事をとって談笑できるまでに気を許されるようになっていた。
(チッ……元親といい、コイツらといい……勝手に馴れ馴れしくしてきやがって。あたしはまだお前らを認めてるわけじゃねぇんだからな…!!)
そんな中、ノーヴェだけは未だに、対抗心全開な元親はもとより、官兵衛は勿論、(本人は捨てているが)同じ女性である景勝に対してもつっけんどんな態度で接していた。
「おっしゃ!ごちそうさま! お前ら、先に自主練行ってるから、いつまでもグダグダ喋ってんじゃねぇぞ!」
「おっ! 随分、ご精が出てる事だねぇ! 何をそんなに必死こいてんだよ?」
「うるせぇ! 大きなお世話だ! この呑んだくれ!!」
2匹目の岩魚を食べ終えた景勝に茶々を入れられ、ムキになりながら言い返すノーヴェ。
すると、話を聞いていたウェンディが補足する様に説明する。
「景勝様~。ノーヴェはずーっとアニキを倒す事に夢中なんスよ」
「アニキって…長曾我部の事か?」
一升瓶を傾けながら景勝が尋ねた。
ウェンディが頷く。
「実は、ノーヴェは一度アニキに挑戦してコテンパンにやられた事があるんスよ。それ以来、ずーっと、アニキへのリベンジに必死で…」
「って勘違いさせるような事言うんじゃねぇぞウェンディ! あたしは元親に負けたわけじゃねぇ! あたしが一本取る前にあいつが勝負を投げたんだ! つまり、アイツの『勝ち逃げ』だよ! アタシは負けた覚えはねぇ!」
「けど、背中向けた元親さんに尚も挑もうとして結局一撃でノックアウトさせられたよね…?」
「余計な事言うなディエチ!!」
必死に妹達の言葉を否定していくノーヴェ。
その様子を見て、景勝は「ほぅ」と何か悟った様子を見せた。
「つまり…アンタは長曾我部の鼻を明かしてやろうと、そうやって休憩もそこそこにする程、必死になってるってわけか?」
「ったりめぇだ!だらだらしてたんじゃ元親には勝てねえ!!」
「…っとまぁ、こんな調子で最近はアニキがいるいないに関わらず、『元親、元親、元親…』と…そればっかっスよ…」
すっかり呆れ返るウェンディに、ディエチも便乗する。
「ノーヴェ…こんなに挑んでも勝てないんだったら、もうあきらめた方が良いんじゃないの?」
「あんだとディエチ!」
「素人から見ても分かるよ。元親さんはノーヴェとは器量も能力も全然違う。それに元親さんはノーヴェと違ってこれまで様々な修羅場を経験しているし、一つの大きな軍隊を率いてた程の統率力もある」
「軍隊ったって、所詮海賊の頭だろ? 悪党上がりのにわか大将じゃねぇか」
ノーヴェの言葉に官兵衛が口を挟んだ。
「いいや。小生は豊臣の与力だった頃に四国征伐*1に際して、
「うぅ……あんな見るからにならず者っぽい見た目しているのにか?」
官兵衛の話を聞いて、ノーヴェは悔しそうに言葉を詰まらせる。
「見た目は関係ないよノーヴェ。それに元親さん自身の戦い方にしたって、一見粗暴な戦い方に見えるけど、あれはあれでちゃんと考えながら動いている。
猪突猛進な動きしかできない上に、実戦に出た事もない今のノーヴェじゃ、とても勝てる気はしないよ」
「同感っス」
自分の昼食のブロックビスケットを齧りながら頷くウェンディ。
「おいおい。妹達にまで散々な言われようだな…」
その景勝の同情半分、皮肉半分な一言がトドメとなって、ノーヴェは駄々を捏ねるように、その場で地団駄を踏みはじめた。
「うるせえ! うるせえ!! うるせえ!!! あたしは元親を超える!超えると言ったら絶対超える!!」
「でもノーヴェ。なぜそこまでアニキにこだわるんっスか?」
前から疑問に思っていた事を口にするウェンディ。
「あ、それ私も聞きたいな」
そうウェンディに続いたのはセインだった。
「ノーヴェがいけ好かない奴にとことん突っかかるのは今に始まった事じゃないけどさぁ…元親のアニキに対するそれは、なんか異常なくらいなんだよね~」
「それはあれだよ。ほら…さっき
「本当にそれだけっスか?」
「あ…あったりめぇだろ!」
ジト目で睨み付けるウェンディに顔を赤くしてそっぽを向きながら答えるノーヴェ。
すると、その様子を見ていた景勝が確信づいた様な表情を浮かべる。
「……ははぁーん。なるほどなぁ…」
「な、なんだよ…?」
意味深に自分を見つめながら納得したように呟く景勝を見て、ノーヴェはたじろいだ。
「お前さては……“惚れた”んじゃねぇのか? 長曾我部に…」
「「「「え!?」」」」
景勝の言葉にこの場の空気が一気に固まった。
「ええええええええええええええええ!?」
ノーヴェは頬を真っ赤に染め、驚愕して二、三歩後ずさる。
「ば、ばばばばばばばばばばばばば馬鹿じゃねーか!? なんであたしが、あんな大雑把で、ガサツで、乱暴で、金に汚くて、四六時中カラクリばっか造ってる、いけ好かねー海賊野郎なんかを!?」
「そら見ろよ。いつの間にか
「こ…こここ、こんなのの…一体何処が「好きだ」って証拠になるんだよ!悪口ばっかりじゃねーか!」
必死に反論するノーヴェだったが、そこへディエチが乱入する。
「でも前にチンク姉から聞いたけど、好きな人に対しては、好きな程相手の悪口を言ってしまうものだって」
「ほら。やっぱりだろう?」
景勝が手を叩きながら、茶化してくる。
「ディエチテメェ!余計な事言ってんじゃねぇぞ! だ…大体理由とか過程とか全然ないだろ! そんなんで好きとか何とか、あるわけねーだろ!」
「チッチッチッチ…」
すると今度はウェンディが、煽るように舌を打ちながらノーヴェに向かって人差し指を立て、メトロノームのように指を振ってくる
「甘いっスねぇノーヴェ。そういうのは、理由とか過程とか関係なく好きになる時だってあるんっスよ」
「な…にぃ!?」
完全に沸騰状態のノーヴェに、ウェンディはさらに攻撃をかける。
「ノーヴェは気付かないうちに一目惚れしたんっス。
ほら、確かに初対面の時、ノーヴェはアニキに悪印象を持ったかもしれないっスけど、多分それと同時に恋心ってのも抱いちゃったんっス。
だから形はどうあれ、いつもアニキのことを考えちゃってるんスよ」
「だからそれはあいつが嫌いだから…」
「ほんとに嫌いなら、その人の事はすぐにでも忘れたくなるのが普通じゃないの?」
「!?」
ディエチのその言葉で、完全に反論できなくなったノーヴェ。
そこへ景勝がマウントを決めにかかってくる。
「どうやらアンタの負けみたいだぜ? 諦めな、跳ねっ返り♪」
「う、うう……うるせぇぇ! テメェにだけは言われる筋合いはねぇよ! この呑んだくれの“
「の、ノーヴェ!?」
「うわっ! バカ!! それを言うんじゃない!」
明らかに負け惜しみとしか言いようのない暴言を景勝に浴びせたノーヴェに、セインと官兵衛が慌てて諌める。
景勝に対して『女』に関するワードは禁句なのは、官兵衛は勿論の事、ナンバーズの間でも周知の事実となっていた。
そんな景勝に対して堂々と『女』と吐き捨ててしまったノーヴェの命知らずな暴挙に官兵衛もセインも慌てふためくが、当のノーヴェはそれよりもこの羞恥心を吐き捨てる場所を探して必死だった為、自分の発言を意に留めていなかった。
「認めねえ…絶対認めねえーーーーーーーーーーーー!!」
ノーヴェは酷く赤面し、食堂から猛ダッシュで出て行った。
「あ~あ。ほんとノーヴェも素直じゃないっスねぇ~」
「そうだね」
ノーヴェの態度を見て、やれやれと首を振りながらも今までの彼女からは想像できない意外な一面を見た事で、微笑ましく思うウェンディとディエチであった。
一方、今しがたノーヴェから自分にとって最大のタブーを吐かれた景勝はというと…
「ハッハッハッハッ! アイツ、唯のきかん坊と思ったら意外と可愛いところあんじゃねぇか!! ヘッヘッ! なかなか良い酒の肴を見せてもらったぜ!」
意外にも、上機嫌な表情を崩すことなく酒を呑んでいた。
その反応に呆気にとられる官兵衛とセイン。
(あれ…? 意外と怒ってない?)
(ひょっとして、だいぶ酔いが回ってんじゃねぇのか?)
安堵半分、驚き半分な面持ちで見つめるセインと官兵衛だったが―――
「……あぁ、そうだクロカン。 ちょっと…」
「ん?」
不意に景勝が官兵衛を呼んだ。
何事かと思い、官兵衛が
「へっ!?」
不意に、官兵衛の前髪に隠れた額に何かが刺さる感覚を覚えた。
ふと視線を上げると、そこには一本の金串が刺さっていた。
見ると、テーブルの反対側で一升瓶をラッパ飲みする景勝の空いている片手は何かを投擲した様な手つきだった。
「……ってお゛お゛お゛おおおおぉぉぉぉッ!!? 痛ってえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!なぁぜじゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
遅れて額に激痛が走り、官兵衛は金串の刺さったおでこを抑えながら、床にもんどりを打って転げ回った。
「官兵衛のおっちゃんーーーーーー!!」
「か、官兵衛のオッサン!?」
「官兵衛さん!!」
突然の事に仰天したセイン、ウェンディ、ディエチの3人が大慌てで駆け寄る中、景勝は一升瓶を一煽りして、「ふぅ」とため息をついた。
「さっきのオレに対する侮辱は、良い肴を見せてくれた事に免じて、今回はクロカンの身代わりで許してやるよ」
っと、官兵衛にしてみれば理不尽極まりない事を呟く景勝なのであった。
*
「あっくしゅん!!あぁ?誰か俺の噂でもしてやがんのか?」
食堂でそんなやり取りが繰り広げられている事など知る由もない元親は、廊下で一人豪快なくしゃみをしていた。
午前の訓練が終わった後も、元親は一人木騎の組み立て作業に徹し、ようやくそれも一区切り打ったところで自分も昼食をとろうと食堂に向かって足を運んでいたところであった。
「ん?」
鼻をこすりながら廊下の先を見渡していると、固く閉じられている部屋ばかりの廊下の中に一つだけ開いている部屋があることに気が付いた。
「なんだぁ?あの部屋は?」
元親が何となく気になり部屋に入ってみると、そこはテーブルと椅子が幾つか並べられている小さな部屋であった。
その椅子の一つにチンクが一人腰かけて紅茶が入ってるカップに、ミルクを入れていた。
「ん?長曾我部か?どうしたんだ?」
「あ、いや…部屋の戸が空いてたからちっと気になって入ってみたんだが。悪ぃ、邪魔したな」
そういって部屋を出ようとする元親に、チンクが軽く笑いながら声を掛ける。
「まぁ、待て。長曾我部、私も茶飲み仲間がいなくて少々寂しかったのだ。よかったらお前も飲んでいかないか?」
すると元親は足を止めてチンクの方を振り返る。
「そうか? じゃあ遠慮なく呼ばれるか。 まぁ、本当言えば俺は酒の方が嬉しいんだが…まだお天道様も真っ盛りだし、そうも言えねぇな。ハハハ!」
「フフッ…このアジトの中では太陽の高さなどまるでわからないであろう…」
元親はチンクの向かいの椅子に腰かけた。
するとチンクは空のカップを一つ手に取ると、慣れた手つきで紅茶を注ぎ、それを元親に差し出した。
元親はカップを、湯呑を持つような仕草で手に取ると紅茶を少し飲んだ。
「かぁぁ! やっぱ緑茶とは全然違う味に香りだな。本当にこれ茶か?」
「まぁな。 ドクターの開発した食糧供給システムは、食事は無機質だが、こうした嗜好品はそれなりの品ができる。
私も食事に関しては栄養さえとれたら別に良いので、味は構わんのだが、
「へぇ~。なかなか洒落者なんだな。チン公も」
そういって再び紅茶を飲む元親。
それを見て柔らかい笑みを浮かべるチンク。
そして自分も紅茶を飲むと、ふと思い出したように話し始めるチンク。
「そういえば長曾我部」
「なんだ?」
「いつもノーヴェがすまないな…事ある毎にお前に突っかかってばかりいて…」
「あぁ、その事か?」
チンクの言葉を聞いて、元親はなんでもないように首を振った。
「別に俺ぁ気にしちゃいねぇよ。まぁ確かに少々しつこい時もあるけどが、あれくらい跳ねっ返りなところがアイツらしくていいと思うぜ? それに、俺の知り合いの中じゃ、
「ノーヴェくらいのが“当たり前”か…なかなか殺伐とした国なんだな…お前の元いた世界は…」
「まぁ確かに殺伐とした世の中だったかもな? ダハハハハハハハハハ!!」
チンクが苦笑いと共につぶやくと元親は口を大きく開けて笑い出し、チンクも釣られて笑う。
笑いながらチンクは目の前に座る男に対し不思議な感情を抱いた。
(本当に変わった男だな…こんな奴は今まで出会った事がない。まったく未知なタイプの人間だな…)
しかし、チンクは内心この男が現れてから自分にも大きな変化がある事を自覚していた。
(しかし不思議だ…この男と一緒だと何故か心が和らぐ。今まで姉妹達以外に心を開く事などなかったのに…この男にだけは不思議と心を許せる…
何故だ? この男はあの冷酷な石田や、邪悪な大谷と手を結んでいるというのに…いや、そもそもなぜこんな性格の男が石田達のような連中に加担しているんだ?)
チンクは出会った当初から抱きつつあった疑問を思い切って本人に問う事にした。
少し間を空けた後に、チンクは思い切ってその話題を切り出す事にした。
「ところで長曾我部。前から聞きたかったのだが…」
「なんだ?」
「その……お前みたい男が、一体どうして石田みたいな凶気的な男に協力しているんだ?」
「!?」
チンクの問いかけに一瞬驚いた表情を浮かべる元親。
「それは…その……」
言いづらそうにそっぽを向く元親を見て、慌ててフォローを入れるチンク。
「い、いや……言いたくなければ言わなくていいんだぞ? 私も少し気になっただけで…」
「別にいいさ……こうして美味い茶も奢ってくれた事だし、それにお前は口が堅そうだから話しても大丈夫だよな」
元親はそう言うと一度紅茶を飲んで気持ちを落ち着けてから、チンクに話し始めた。
西軍と敵対する『東軍』の総大将 徳川家康とは親友であった事―――
その家康に留守中の自領を襲撃され、大勢の部下や領民を亡くした事―――
親友の裏切りを許容できず、部下達の仇を討つ為に西軍に参加した事―――
元親はチンクにすべてを打ち明けた。
「………そんな事があったのか…」
想像していた以上の過酷な経緯に言葉を失うチンク。
豪快で常に気丈に振る舞う元親からは想像できない悲惨な過去…
それを知ると共に、チンクはノーヴェが元親と初めて張り合った時に元親がノーヴェの顔を見て突然勝負の放棄を宣言した事を思い出し、その理由を察した。
「そうか…お前があの時、ノーヴェの表情を見て勝負を放棄しようとしたのも…その時の事を思い出して…」
「まぁな。 なんとなくあのときの俺が家康に対して抱いた憎しみと被って見えてな」
元親は話しながら残っていた紅茶を一気に飲み干した。
「確かに俺は一から十まで西軍に味方してるつもりはねぇ…同じ西軍でも、どうしてもいけすかねぇ、奴らは多いからな。あの得体のしれない妖術使いの大谷に…息をするように人を苦しめて楽しむ下衆野郎の小西…それから、あの皎月院とかいう三成の妾気取りでいる花魁女は特にそうだ。それに…ここにはまだ合流していないが、西軍には“毛利”の奴もいやがる」
「…毛利?」
チンクが尋ねた。
「……“毛利元就” 石田軍と双璧を成して、この西軍の中枢戦力となっている軍を率いる大将で……この俺がこの世で最も相容れない野郎だ」
元親はかつて日ノ本にいた頃、領土である四国と海を挟んで幾度も対峙していた日ノ本有数の勢力を誇る戦国大名の話をチンクに語って聞かせた。
毛利元就―――
安芸毛利家当主で、勝利の為には手段を選ばない常に冷徹な策略家で、兵士のことを「捨て駒」と言い放ち、策を狂わせかねない「情」というものを激しく嫌悪し、目的を果たす為ならば多少の犠牲さえも厭わず、それをさも当然の如く切り捨てる…
そんな冷酷極まる辣腕と、類まれな権謀を武器に日ノ本最強といえる水軍を率い、元親率いる長曾我部軍と幾度もぶつかってきた。
厳島の戦い、四国の戦い、高松城攻め、瀬戸内の決戦――何度も相対する中で元親は幾人の大切な仲間を失ってきたかわからない。
だが、失われた仲間の命へ報いる目的も去ることながら、元親は元就の掲げているその思想そのものを真っ向から否定し、毛利との戦いに勝つ事でそれを証明しようと考えていた。
そんな折、徳川によって四国を壊滅され、傷心する元親の下に元就から思いも寄らない提案が齎される事となった。
それが、休戦協定及び毛利、豊臣派諸勢力による連合軍『西軍』への参加の呼びかけだった。
まさか宿敵からの誘いに、長曾我部軍内は激しい討論の中、二分された。
家臣達の様々な意見に耳を傾けた後…元親が下した決断は、休戦協定と西軍加盟への受理だった。
こうして、長曾我部軍は西軍の一員となって、豊臣・毛利の主導の下、天下分け目の戦いに向け、各地に侵攻を開始するが、その過程で同じ西軍の諸大名、そして毛利の仕掛けたものと思われる非道な策略により滅ぼされた国や脅かされる人々を目の当たりにし…そして時には直接、怨嗟の叫びとして直接浴びせられた事さえあった…
その都度、自分のこの判断は正しかったのか…元親は良心の呵責に苛まれる事となった…
「俺は…死んだ野郎共の為にも仇である家康を討たなければならねぇ……そう思って、俺は、絶対に相容れねぇと思っていた毛利と手を結び…気がつけば奴や豊臣と同じ穴の狢になっちまったわけよ…」
元親はここまで話すと、自嘲するかのように鼻で笑った。
「皮肉なものさ…かつては“鬼ヶ島の鬼”なんて粋がっていたこの俺が…気がつけば、大勢の人間の死体の上を歩いていく…冗談としても笑えねぇ本当の“人食い鬼”の仲間に堕ちちまったわけよ…」
元親は破れかぶれに話している、チンクは真剣な表情で頭を横に振った。
「違う…」
「ん?」
「それは違うぞ、長曾我部……私から見たら、お前は決して『人食い鬼』なんかではないぞ」
「? どういう事だよ?」
元親が首をかしげると、チンクは丁寧に説明し始めた。
「知っての通り私達は戦う為に造り出された戦闘機人だ。
私達はいずれ管理局と戦い、その際に多くの犠牲が出るかもしれない…
その時管理局側の連中からは私たちは人殺しの『悪』とみられるかもしれないな…
しかし、私達ナンバーズは、それぞれ『信念』を持って行動を起こしている。それは『善』か『悪』かなんて単純な二論で考える必要はない…」
チンクはグッと元親に顔を近づけると真剣な眼差しを送る。
「“元親”…『信念』というものはな…必ずしも『善』か『悪』かで決めてしまう必要はない…大切なのは自分が何を果たすか、果たした先にある何を見据えるかが大切なのだ……だから…自分自身のあり方に葛藤はしても構わんが…だからといって自分を『悪』と決めつけて皮下する事は、違うのではないか?」
「チン公…」
チンクはさらに言葉を繋げる。
「お前だからこそ打ち明ける。私は石田…否、厳密には大谷や皎月院といった方が良いか…彼らのやり方にはとても賛同できないし、正直言って彼らは我々戦闘機人の目から見ても、冷酷極まりない連中だ…
だから、姉も妹達も、奴らに賛同する西軍の将というものは皆、大谷達と同じだと思っていた。
だが…お前と出会い、お前の人となりを知った事で、少なくともそこに属するすべての者が『悪』であるとは思わなくなった…
上杉や黒田、島…それから石田でさえも、冷酷でいけ好かない奴ではあるが、少なくとも大谷や皎月院、小西のような下衆の類ではないと信じられるようになった…
そう姉の心を変えたのは紛れもなくお前だ…」
「………」
「少なくとも姉は、西軍の将の中ではお前の事を一番信用している。姉や妹達に親身になって接してくれるお前の事がな」
「……へっ…よせよ。照れるじゃねぇか。そう言われると…」
元親は恥ずかしそうに頭を掻きながら、照れ隠しなばかりに二杯目のお茶を注ぐとそれを一気に飲み干した。
しかし元親は内心、チンクの言葉を嬉しく思った。
最初西軍に入るか否かを決める際に元親は、悩みに悩んでいた。
西軍を取り仕切るのは『復讐』という名の狂気に駆られた石田三成に、そして今まで散々思想の違いで激突してきた元親の宿敵にして冷酷非道な策士 毛利元就…
彼らと手を結ぶということは、今まで自らが進めてきたやり方とは正反対の非道な道を行かねばならないという事であった。
そうなれば、今まで四国の総大将として人望も厚く多くの友好を築いてきた『長曾我部元親』という人間はどうなってしまうのか?
そんな葛藤を抱え戦ってきた自分がこんな事を言われるとは、考えてもいなかった。
だが、その言葉は半ば諦めかけていた自分にわずかながら自信を取り戻させてくれたように感じられた。
「でも…ありがとなチン公。感謝するぜ」
「……感謝するなら、いい加減名前くらい普通に呼んでくれてもいいのではないか?」
チンクが頬を膨らませ、少し拗ねたように言うと、元親は「悪ぃ悪ぃ」と軽く笑いながら改めて礼を言う。
「ありがとな…それから今話した事はお前の姉妹達には内緒にしてくれよな。…“チンク”」
「!? フフッ…あぁ、わかってる」
いい雰囲気に包まれる中、二人は憩のひと時を楽しんだ。
*
スカリエッティのアジト内 ナンバーズ専用道場―――
「1、2、3、4、5、6、7、8…」
さっきの景勝達の言葉を忘れようと必死に腕立て伏せをするノーヴェ。
(何でアタシが元親の事を…!? 駄目だ!元親の事なんて忘れろ!あんな海賊野郎なんざ嫌いだ…嫌いだ…嫌いだ…嫌い…)…!
腕立て伏せを止め、頭を抱えて床に崩れ落ちるノーヴェ。
「ああああああああああああああああああ!?忘れられないいいいいいい!!」
「ノーヴェ」
「元親なんて大嫌いだ!大嫌いだ!大嫌いだあぁぁぁぁぁあ!!」
「おい、ノーヴェ!」
「うるせ…って、元親!? それにチンク姉!」
背後にいた元親とチンクにようやく気付くノーヴェ。
「元親!アタシはお前なんて大っっっっ嫌いだ!!」
慌てて声を張り上げるノーヴェに、怪訝な表情を浮かべる元親とチンク。
「? 何を言ってるんだ?ノーヴェ」
「いつまでも訳のわかんねぇ事叫んでねぇで、これから午後の訓練に入るぞ。セイン達はどうした?」
「まだ来てねぇみたいだけど……ってそれよりも勝負だ元親!勝負!…」
ノーヴェがそう叫んでいつものように元親に突っかかろうとすると、遅れて道場にセイン、ウェンディ、ディエチ。そして、彼女らのトレーニングの様子を見に景勝がやってきた。
「おっ! 言ってた傍から早速おっ始めてやがんな!」
景勝がからかうようにそう言うと、セイン、ウェンディも便乗してからかいだす。
「お~お~、熱いねぇお二人さん。よっ! ご両人!」
「ノーヴェ~、やっぱりノーヴェはアニキの事―――」
「!? それ以上言うんじゃねぇぞウェンディ!でなきゃぶっ潰す!!」
ウェンディの言葉を慌てた様子で遮るノーヴェの様子を見て首をかしげる元親。
「なんだ?何の話だよ?ウェンディ」
「テメェは知らなくていいんだよ!! それより早く勝負しやがれ!!」
吠えるノーヴェにため息を吐く元親。
「ほんとしつこい奴だなお前も。俺と勝負したいならもっと強くなってから言いやがれ」
「テメーが出したトレーニングメニューも全部完璧にこなせるようになったよ!前のあたしと思ったら大間違いだかんな!」
「そうか?…んじゃあこうするか」
一枚の紙をノーヴェに渡す元親。
「なんだよこれ?」
「お前だけ今日から基礎訓練の量を6倍に増やしてやるぜ」
「何ぃ!?腕立て、腹筋、背筋それぞれ600回!?逆立ち15分!?素振り300回!?加えて滝打ち1時間に!?座禅1時間!?丸太運び30分だぁ!?てめぇアタシを殺す気かよ!?ふざけんのも大概に!!……」
「うちの野郎共ならこれくらい平気でやってたぜ? できないって言うならもっと量を減らしてやっても構わないけどどうすんだ?」
「んな!?…やってやろうじゃねーか!!うおおおおおおお!!1,2,3,4…」
顔を真っ赤にして腹筋を始めるノーヴェ。
それを見て苦笑するセイン達。
「あ~あ。完全にアニキのペースに乗せられてるねノーヴェ」
「そうっスね。でもこれではっきりしたっス」
「うん」
「? 何の事だ?」
食堂でのやりとりを知らないチンクが問うと、景勝がチンクに耳打ちで話す。
「ノーヴェの奴よぉ…どうやら長曾我部にほの字らしいんだよ」
「長曾我部の事が?」
チンクは一瞬驚いた表情を浮かべたら、すぐに面白可笑しそうに笑みを浮かべる。
「フフフ…そうか…ノーヴェも奴の事が気になり始めたか…これは一筋縄じゃいかなそうだな」
「おっ? それどういう―――」
チンクの意味深な言葉を聞き逃さなかった景勝は、どういう意味か問い直そうとするが…
「さて、長曾我部。私達も訓練を始めるか」
「よっし!じゃあ軽く組手でも始めるか」
問いかける前にチンクは元親の元へ行き、訓練を始めるのであった。
その背中を見た景勝は「はは~ん」と一人納得した様に頷いた。
「景勝様ぁ~。チンク姉がどうかしたんスか?」
ウェンディが尋ねるが景勝は、一人ニヤッと笑いながら元親、チンク、ノーヴェの3人をそれぞれ見つめ…
「そういう事ねぇ…野郎ばかりに好かれているとは思ってたけど、案外女受けも悪くねぇのかもな? 長曾我部の奴…」
「「「???」」」
何故か楽しそうに呟く景勝の言葉に、セイン、ウェンディ、ディエチの3人はわけが分からずに首を傾げるばかりだった…
「うおりゃあああああああ!!クソ元親め!覚えてやがれ!!てめぇだけは、ぜってぇぶん殴ってやっからな!!」
そして、そんな彼女達の事など気にも留めておらず、一人何も気づいていないノーヴェは、一人必死に腹筋をするのであった……
っというわけで、第一回目の幕間短篇ラストは元親とノーヴェ、チンクが主役の話でした。
基本的な展開はオリジナル版からあまり変わっていませんが、リブート版では官兵衛、そしてオリキャラの景勝を絡ませる事にしてより濃い会話にする事ができました。
元親もチンクもノーヴェも作者お気に入りのキャラなので、本当はもっと活躍させたいところなんですけどね…
っというわけで次回からいよいよ次の長編に入ります。
オリジナル版では『なのは見合い篇』としてなのは、政宗と豊臣五刑衆の新たな刺客との戦いが繰り広げられましたが、リブート版はどんな展開になるのでしょうか…!?