リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
しかも、相手はミッドチルダにおいてレジアス以上の権力を有するとも目される貴族魔導師『コアタイル家』の御曹司だった…
しかし、あまり評判がよろしくない相手もさる事ながら、この見合い話が明らかに政略的な意図を察した六課側はどうにかこの話を断る為の対策を考えるが……
成実「リリカルBASARA StrikerS 第四十五章! 出陣だぁぁぁぁぁ!! …腹減った…」
第四十五章 ~お見合い
その日…ミッドチルダの首都 クラナガンでは、珍しくこれといって大きな事件や事故も発生せずに、とても平和な日常が広がっていた。
強いて言えば、地上本部司令官のレジアス・ゲイズ中将が、体調不良を理由に珍しく公務を休み、療養中である事くらいだが、それも特に大きな混乱を招くこともなく、平常通りに事が運んでいた。
そんな地上本部へ機動六課からリインを伴ったはやてに、フェイト、そしてなのはの通称“三隊長”が呼び出されたのは、そんな穏やかな日差しが照りつける昼下がりの事であった…
「珍しいね。地上本部から直接呼び出しがかかるなんて…しかも、はやてだけじゃなくて私やなのはまで一緒に…だなんて」
黒い執務官の制服を纏ったフェイトが話すと、同じく航空隊の白の制服を着こなしたなのはが、ちょっと不安げに呟く。
「ひょっとして…また
「呼び出したのがレジアス中将とかだったら、その可能性が高いやろうけどな。今回は幸い、そうとちゃうみたいやわ。レジアス中将は、しばらくは療養するみたいやし…」
そう応えながら、先頭を歩くはやては、いつもどおり左官の肩章の付いた制服姿であり、彼女の肩にちょこんと乗っかったリインも身体に合わせて作られた特注の制服に袖を通している。
「それに今回の呼び出しは、執政部のメアリング総議長からですしね」
リインがやや緊張を帯びた表情で言った。
公務時間である以上、制服姿なのは当然として、4人ともいつもよりもやや畏まった様子でいるのも、今回呼び出した人物が、この地上本部ではそれなりの地位にある人物であるからだ。
地上本部内のエレベーターで所定の階まで上がった3人はエレベーターを出てすぐの場所に設けられていた受付で、今回の来訪の目的と、呼び出した人物の名を説明すると、それからすぐに迎えにやってきた秘書の局員に、フロアの奥にある一際上質そうな扉のある部屋まで案内された。
「議長。失礼します。機動六課の八神はやて二佐と高町なのは一尉、フェイト・ハラオウン執務官がいらっしゃいました」
秘書が扉に向かってノックの後に呼びかけると、扉の向こうから「入って頂戴」と返事が返ってきた。
「どうぞ」と扉を開きながら、入室を促す秘書に3人は「失礼します」と一礼しながら、部屋へと入る。
地上本部のトップであるレジアスの執務室よりは数ランク程格落ちしている事は否めないが、それなりに豪勢な造りの内装が施された部屋の一角に用意された1メートル程の巨大な水槽の前に佇み、なのは達に背を向ける形で何かをやっている肩下まで伸ばしたウェーブのかかった茶髪の女性の姿が目に入った。
「機動六課 部隊長 八神はやて二等陸佐」
「同じく、分隊長の高町なのは一等空尉」
「同じく、分隊長 フェイト・T・ハラオウン執務官。 ご指示を受け、参りました」
「自分は八神部隊長の補佐を務めますリインフォース
敬礼しながら、挨拶をする4人に深緑色のスーツを纏ったその女性は水槽の方に顔を向けたまま、応えた。
「ちょっと待って頂戴。今、日課のペットの餌やりをしているの。すぐに終わるから、それまでそこのソファーにでも腰掛けて待っていて頂戴」
「ペット…ですか?」
随分と呑気な事を言う女性に4人は、思わず彼女が熱心に“餌やり”をしているという水槽の中身を覗く。
水槽の中には、何故か甲羅にきらびやかなビーズやレース、ミニチュアの王冠やカップケーキなどでデコレーションされた小さな亀が心底鬱陶しそうに泳いでいた。
正直言って「悪趣味」極まりないその姿に、4人は思わず言葉を失う程にドン引きする。
「あ…あのぉ…それ…なんですか?」
恐る恐る尋ねたフェイトに、女性が振り返りながら、自信に満ちた声質で応える。
「素敵でしょ? 巷の若い子達ってスマートフォンとかに、こういう派手なデコレーションをするっていうじゃない? だから、私もそれを元ネタに亀の甲羅でそれをやってみたら、可愛くなるんじゃないかと思ったのよ。どう? ナウいかしら?」
そう話しながら、なのは達に近づいてくるその女性を見て、なのは達は思わず吹き出しそうになってしまうのを必死で抑えた。
っというのもその女性は、初めて見る者であれば思わず二度見、三度見してしまう事間違いなしな、とんでもなくインパクトある風貌であった。
決して顔貌は悪くはないなのだが、壮年の域に入っているであろう年を顧みず、ケバケバしい化粧で若作りしていた。
それだけなら、普通に思えるかもしれないが問題はその化粧のヤバさである。
我武者羅にファンデーションを塗りたくりすぎたのか頬…っというよりも顔面全体が人間離れしたような真っ白に染まり、どぎついマスカラをキメているつもりなのだろうが、方向性が根本から違う様で、完全に歌舞伎の隈取の様な状態になっていた。そして極めつけは厚く塗りたくりすぎて本来の唇の3倍大きく見えてしまっている口紅…と、ここまでくればその…言うのもあれだが…はっきり言ってしまうと「化け物」と例えられても決して過言ではない風貌だった。
一応、この化け物―――いや、女性の名誉の為に言っておくと、彼女はこれでも一応は、この地上本部の中では5本の指に入るお偉い様なのである。
エミーナ・メアリング―――
地上本部・首都執政部総議長で、年齢は53歳。
非魔力保持者の叩き上げ局員…っというよりは現在地上本部長官のレジアスが現在の体制を敷いた際に論功行賞と派閥順送りといった半ば成り行き任せの果てに気がついたら現在のポストについていたと、表現した方が正しいのかもしれない。
そんな人物が何故、これだけの重職に就けたのかというと、首都防衛長官のレジアス率いる強硬派…所謂『ゲイズ派』をはじめに地上本部に属する2つの派閥の双方が、それぞれ地上本部における実権を把握する為に、敢えてエミーナの様な人間を要職に置いておく事で、要事には実権を奪い取ろうという『神輿を担ぐ為の傀儡』とする為であるのではないかと、地上本部の各部隊だけでなく、本局の人間にもその噂がある程度出回っている程、半ば周知の事実となっていた。
そして、そんな彼女の傀儡ぶりにさらなる拍車をかけているのが、彼女自身の軽薄…どころか“何も考えていない”と言わんばかりにいい加減な発言や対応、そして彼女の壊滅的なメイクや、ペットの亀の惨状から見てもわかるとおり、その「ズレにズレまくっているセンス」が、余計に周囲から嘲られ、今では地上本部や陸士隊からも密かに『地上本部の女ピエロ』等と陰口を叩かれる始末だったが、幸か不幸か、彼女自身は自身の悪評など意にも止めていない…っというよりはそもそも自分がバカにされている事などわかっていない様子であった。
(り、リイン…『ナウい』ってどういう意味やっけ?)
(えっと…だいぶ古い言葉なのでよくわからないのですが…多分「可愛い」って意味じゃないですかぁ?)
「……そ、そうですねぇ…とってもナウいかと思いますよ…アハハ…」
エミーナのこれまたセンスのズレた言葉遣いに難儀し、リインの助けを借りながらどうにか応対するはやて。
すると、それに気を良くしたのかエミーナはニッコリと笑みを浮かべた。その笑顔は際どいメイクと合わさって、余計に化け物にしか見えない。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。ナイストゥーミーチュー」
「…そ、それ今使う言葉じゃないと思います…」
フェイトが冷や汗を浮かべながら指摘する。
「あら。ごめんなさい。私ったら、横文字の言葉を見ると日常会話についついねじ込みたくなっちゃうのよね。なんていうかその…かっこいいじゃない? 日頃から会話に横文字をねじ込んで喋るの。 ほら、例えばそう…「一緒にトゥギャザーしようぜ」とか「藪からスティック」とか「ザ・股間のバベルタワー!」とか…」
「どこのルー◯柴ですか!? っていうか最後のは色々と問題あるワードだと思います!」
フェイトがツッコミを入れるのを聞きながら、なのはは「政宗さんが聞いたら激怒するだろうな…」と思いながら、苦笑を浮かべた。
「そ、それよりもメアリング議長。私達にお話というのは…」
とはいえ、まだ話の本題さえも始まっていない現状をどうにか打開すべく、なのははちょっと強引に話を進めようとした。
それを聞いてエミーナも思い出したように手を打った。
「あらいけない。私ったらすっかり忘れてたわ。アイムソーリー・ソゲソーリー。 とにかく皆さん。座って頂戴。 ジミー、皆さんにミルクとクッキーを用意して頂戴」
「議長。普通はコーヒーか紅茶を用意するものです」
そう言うとエミーナは改めて執務室の中央にミニテーブルを挟む形で置かれたソファーセットの下座に3人を促しながら、部屋の隅に控えていた秘書に茶菓子を用意するように命じた。
ソファーに腰掛けながら、これはレジアスとはまた違う意味で色々疲れさせられる対談になると、なのは達は思うのだった。
「それで、用件というのはなんでしょうか?」
「そんなに固くなる必要はないわ。今日は貴方達に折り入って“良いお話”を持ってきたのよ」
「「「「良いお話?」」」」
エミーナは嬉しそうにそう語るが、4人は彼女の言った“良いお話”という意味深なワードに少々警戒心と懐疑心を覚えた。
彼女は、レジアスのような本局の局員を毛嫌いする強硬派ではないが、それでも自分達『機動六課』にとって、端的に言えばライバル部署の人間である。
故に、そんな人物が持ち込んできた『良い話』というものも、端からそのままの意図で受け止める事ができなかった。
すると、エミーナは不意になのはの方へ顔を向けて、何の前触れ無く言い放った。
「ことに高町“このは”さん。貴方…“お見合い”してみない?」
「ほえっ!?」
「「「へっ!?」」」
唐突に告げられた言葉になのはは、自分の名前を呼び間違えられた事にさえ気づく事なく呆ける。
同じく、話を聞いていたはやて、フェイト、リインも一瞬何を言われたかわからずに硬直する。
そして――
「「「「ええええええええぇぇぇぇーーーーーーーーー!!?」」」」
エミーナの執務室に4人の悲鳴のような声が響き渡った。
それを聞いたエミーナは…
「あら? お昼ごはんの時間を知らせる合図?」
「議長、違います。皆さんが驚かれた声です」
と呑気な事を口走って秘書にツッコまれていた。
*
「えっと…一体どういう事なのでしょうか?」
しばらくして、我に返ったなのはが、エミーナに尋ねた。
エミーナは秘書に用意させたクッキーを齧りながら、呑気な口調で説明してくれた。
「実はね…地上本部のさる御方が、今このミッドで話題になっている『機動六課』の中でも屈指の人気を誇る “エース・オブ・エース”である貴方を是非、ご自身の御子息とのお見合いにって…強くご希望されているのよ」
「さる御方というのは…?」
フェイトはまるで自分がお見合いを申し出られたかのように、気が気でない様子で尋ねる。
「貴方達もよく知っている人物よ…統合事務次官 ザイン・コアタイル少将。お相手はそのご長男でコアタイル家次期当主 で…えっと名前は…確か“フォー”だったかしら?」
「「「フォー?」」」
明らかに正解ではないであろう名前を聞かされ、首をかしげるなのは、フェイト、はやて。
「あっ、違ったわね。 えっと…“ファイブ”? “シックス”?」
「議長“セブン”です。“セブン・コアタイル”」
見かねた秘書がエミーナに助け舟を出した。
「あぁ、そうそう“セブン”さんね。なんだかまるで“メガネで変身する光の巨人”みたいな名前じゃない? セブンー、セブーン、セブーーン♪ …なーんちゃって! プークックックッ!!」
「…あの、すみません。ぶん殴っていいですか?」
「は、はやてちゃん! 気持ちはわかりますけど、相手は執政総議長ですから!」
空気を読まずにいい加減な発言を連発するエミーナに苛ついてきたのか、はやてがとうとうニッコリと笑ったまま、眉間に青筋を浮かべて暴言を言い放ち、慌ててリインに諌められた。
すると、なのはも、今しがたのはやての口からでた暴言にエミーナが気づいていない事をいいことに、急いで話を進める事でごまかすことにした。
「セブン・コアタイル氏の事は私もお名前だけは存じております。確か第七陸士訓練校の主任教官でしたよね?」
なのはが尋ねると、エミーナは「そうそう」と頷きながら、ホログラムモニターを投影して、なのはの見合い相手となる男の顔写真とプロフィールを画面に投影してみせた。
画面の中に投影された小枠の中から、ブロンドのロングヘアにやや釣り上がった青い瞳に非常に端正な美男が気障なスマイルを浮かべながらこちらを見つめている。
「年齢は25歳。階級は准陸佐。所属はミッドチルダ北部第七陸士訓練校の主任教官。部隊の指揮経験はまだないけど、この歳で局の訓練校で要職に就けるなんて大したものだわ」
「まさに…絵に描いたようなエリート…ですね」
フェイトが複雑な面持ちで写真に写された今回のなのはの見合い相手である“セブン”なる男を睨みつけながら呟く。
一方、はやてはやや皮肉を効かせた様な物言いを写真に向かって投げかけた。
「うわぁ。見るからにえぇとこのお坊ちゃんって感じな人やなぁ…」
「勿論! なんたってこのミッドチルダではその名を知らない者はいない程の貴族魔導師“コアタイル家”の御曹司だもの。そんな御方に見初められるなんて、流石は本局の“エース・オブ・エース”ね」
「あははは……それは、どうも……」
何も知らずに煽ててくるエミーナに、苦笑を浮かべながら会釈するなのはであったが、内心では、とんだ“ハズレ”を引かされたと嘆きたい気持ちであった。
コアタイル家―――
それは旧暦時代から現代まで続く、ミッドチルダの魔法の術式を確立させる大きな功績を果たした大魔導師達の末裔…通称“貴族魔導師”の中でも現存する家系としては、最も歴史が古く、そして最上級に位置づけられる名家である。
歴史だけでなく、歴代当主をはじめ、数多くの偉大な魔導師を輩出してミッドチルダの魔導師文化の発展に貢献してきた功績から、時空管理局からも一目置かれ、局内において様々な重役の席に身を置き、そして様々な功績を上げてきた。
現在6代当主にあたるザイン・コアタイル少将は、先程エミーナが言ったとおり、地上本部ではNo.2に当たる『統合事務次官』に就き、一部からは防衛長官のレジアスをも凌ぐ程の権力やコネを有していると言われている。
そんな名門中の名門であるコアタイル家の御曹司とのお見合いと聞けば、普通は心を躍らせる筈であろうが、なのは達が全く気が進む様子を見せていないのは、コアタイル家…そして彼らがこのミッドチルダの一部の魔導師達の間で浸透している魔導師を絶対的優位とする選民思想“魔法至上主義”の最先鋒的存在である事…
それも、現当主であるザインと、その長男で今回のなのはの見合い相手であるセブンを含めたコアタイル本家の家人達は、その中でも特にその思想が強い傲慢な人物として有名であったからだ…
同じく、フェイトの義実家である『ハラオウン家』もまた、代々管理局の重役を司る人間を数多く輩出してきたエリート一族であるが、実はハラオウン家とコアタイル家とは以前から確執があった。
理由としては、フェイトの義母 リンディ・ハラオウンがコアタイル家とその信仰者達の集まり…所謂“コアタイル派”のあまりに露骨な非魔力保持者への差別視に一度抗議して、管理局上層部に物申して、同じく貴族魔導師出身である三提督の一人 ラルゴ・キール名誉元帥から、ザインに対して増長した行動を慎む様に忠言してもらった事を逆恨みされた事にあった。
その一件をきっかけに、ハラオウン家とコアタイル家…特に両家の家長であるリンディとザインは文字通りの犬猿の仲だった。
その為、フェイトもまた、コアタイル家を快く思っておらず、事もあろうか、そんな連中に親友であるなのはが見初められてしまった事に、心配と不愉快の2つの感情が複雑に絡み合った心中で話を聞いていた。
「メアリング議長。一つだけ、お尋ねしますが…どうして私や八神部隊長ではなく、高町空尉にお見合いのお話がきたのでしょうか?」
フェイトはできる限り冷静を保とうと努力しながら、尋ねる。
「いやねぇ、実は最初にザイン次官から、『是非に機動六課の幹部メンバーと
「議長。それを言うなら“犬と猿”です」
秘書のジミーが訂正を入れた。
「あぁ、それそれ。…とにかく、私もどちらかに肩入れしたりすると、後になってもう一方から仕返しされるのが怖いから正直本当はやりたくなかったんだけどねぇ…私がそれで返事を渋っていたらザイン次官の手の者達に『仲人やらなきゃ、今のポストから閑職へ追っ払うぞ!』なんて脅しかけられちゃったもんだから仕方なく…」
「……貴方の保身目的に仲人になった経緯など聞いていませんけど…?」
(フェイトさん! 抑えて! 抑えるのですよぉ!)
フェイトが握りこぶしを固めながら、やや声質を低くして話しているのを見て、相当腹を立てている事を見抜いたリインが必死に彼女を抑え宥める。
「それでね…私としては“かなた”さんも、貴方も、“ほたて”さんも、皆相応に実力と実績があったし、年もセブン准陸佐に丁度釣り合うくらいじゃない?」
「あの…さっきからちょくちょく気になっていたんですけど…私“なのは”です」
「ついでに私は“ほたて”じゃなくて“はやて”ですので…」
エミーナの地味に名前を間違える小ボケにはやてだけでなくなのはでさえも、流石にイライラしてきた様子でツッコミを入れた。
「それで、3人のプロフィールを見比べてもらったところ、セブン准陸佐は“はるか”さんを見合い相手としてお気に召したと…そういう事なのよ」
「いや、だから“なのは”だっての…人の話聞いてます?」
「まぁきっと、能力や容姿は拮抗していたのだし…後はそうね。ザイン次官もセブン准陸佐も経歴を見て、最終的に一番潔白だった貴方を見初めたという事じゃないかしらね?」
無意識にちょいちょいと3人の癇に障るような事を挟んでくるエミーナに、なのはも、フェイトも、はやても、いよいよストレスがMAXレベルに差し掛かろうとしていた。
その様子を見ていたリインは、誰がいの一番に爆発しないかハラハラしながら見守っていた。
「とにかく、先方もすっかりその気になっているみたいだから、せめてお話だけでも聞いて貰えないかしら? そうしないと、私が八つ当たりで地方に飛ばされちゃう…なんて事になっちゃうかも? あぁ恐ろしい!」
「貴方は本当に自分のポスト守る事しか頭にないんですね」
はやてが軽蔑した眼差しを送りながら、ツッコんだ。
「それにあのザイン次官の事よ。貴方のお気持ちはともかく、お話さえも蹴ったりしたら、後で何されるか本当にわかったもんじゃないわよ? いくら、機動六課が本局の管轄下の部隊とはいっても、ザイン次官はレジアス長官と違って本局にだってそれなりに顔が効いている御方だから…」
メリーナの忠告を聞いて、なのははしばらく考えたあと、静かに頷いた。
「わかりました…とりあえず、お見合いのお話はお受けします」
「な、なのは!?」
「ほんまに、えぇんか?」
フェイトとはやてが心配そうに尋ねる。
(もちろんお見合いしたって、交際を受けるつもりなんてないよ。 大体、六課の仕事はこれからさらに忙しくなりそうだし、それに……私自身決められた人なんかと結婚なんて考えられないしね)
(まぁ、そら当然やろうな)
念話で話し合うなのはとはやて。
(でもザイン少将の事だから、お話も聞かずに断るときっとそれを口実に何かしらの嫌がらせをしてくるかもしれないし…だったら、断るにしてもちゃんと会って断った方が、少なくとも礼儀に反してはいないだろうし…)
(だけどなのは…ザイン少将達の性格から考えて、会おうが会うまいが関係なく、断った時点でどのみち嫌がらせ仕掛けてくるかもしれないよ?)
フェイトがそう懸念している事を念話で伝えるが、なのはは既に腹を決めた様子であった。
(いくら、コアタイル家が魔法至上主義の中枢的立ち位置だからって、流石に貴族魔導師の名家だし、面と向かってはっきり断られたら潔く諦めるくらいの最低限の礼儀は辨えているとは思うけどね…特に本家の次期当主ともあろう人だったら尚更…)
(それさえ弁えてなかったら、とんだ若殿…もといバカ殿っちゅう事やな)
はやてが皮肉を含めて呟く。当人と直接対面した事がないが、既に彼女のセブンに対する事前評価は最低なものとなっていた。
「まぁ、それはオポチュニティね。それじゃあ、ザイン次官には私から伝えておくから、具体的なお見合いの日にちと場所については後でメールで送信するからよく拝見しておいてね。それじゃあ、当日はよろしく頼むわね? “アムール”さん」
「……いや、最早“なのは”の文字どころか語感さえも原型留めてないじゃないですか。っていうか誰? “アムール”って…」
最後まで自由奔放なエミーナに、苛つかされっぱなしな、なのは達であった……
*
その夜―――
隊舎に帰投したなのは、フェイト、はやて、リインは早速、ヴィータ、シグナムと、武将達の中ではたまたま手が空いていた家康、政宗、幸村、慶次の4人を部隊長室に招集し、地上本部でエミーナから受けた話を説明する事にした。
「見合い…か…それはまた随分と唐突な話だなぁ…」
家康が怪訝な顔つきで率直な感想を述べる。
それは政宗達やヴィータ、シグナムも同じ気持ちだったのか、いずれも歓迎したり、祝福したりする様子は見せていなかった。
「しっかしまぁ、古典的なやり方するもんだねぇ。今やマッチングアプリで婚活するのが主流なこのご時世に、仲人を介してのお見合いだなんてさぁ」
「ついこないだまで、マッチングアプリどころかスマホもない時代を生きてたお前が言えた口か?」
スマホを操作しながら軽口を叩き、ヴィータからチクリとツッコまれている慶次を横目に、家康は話を続ける。
「けど、皆の様子からして、なのは殿にこういった話がきたのも今回が初めてってわけでもなさそうだな?」
その質問に答えたのはフェイトだった。
「うん。元々なのはは航空隊時代から、様々な方面にファンがいて、管理局の各部署の幹部の方とかには、よく見合いとかを勧められていたんだ。もちろんなのはにしてみれば結婚なんてまだまだ早いし、それに仕事の方も多忙だったから、話が来る度に体裁よく断ってはいたんだけどね…」
「それで六課が設立されてからは、しばらくこんな話は来なかったから、一先ず落ち着いたのかな?っと思っていたら、今日のこの話だもん…完全に油断していたよ~!」
なのはが、そう言いながら頭を抱えて項垂れる。
「そうだ。さっき、メアリング執政総議長を介して、お相手の方からなのはさん宛のメッセージが届いていたですよ」
話しながら、リインがホログラムコンピュータを操作し、メッセージの文面を画像にして皆の前に投影してみせた。
別段隠し立てする必要もない為、なのはだけでなく全員でそのメッセージの内容確認してみた。
「うわぁぁ……!」
「な、なんと……!?」
「あはは……随分とまた見え透いた文面だな」
皆が言う通り、メッセージ自体は一見、当たり障りのない挨拶的な文が書かれているのだが、その丁寧な言葉遣いでまったくぬかりのない文調や無駄に哲学的な言い回しや単語を用いている点が、逆に彼が猛烈的に自分を知的な人間であるとアピールしている事が窺えた。
故に皆は、ますます何とも言えない表情を浮かべていたが、中でも政宗は特に懐疑的な面持ちであった。
「Something’s fishy…見るからに、自己顕示欲丸出しな文面だが…なのは、コアタイルって言えば確か…?」
「うん。ティアナのお兄さんのティーダさんを辱めたあの“コアタイル派”の指導者 ザイン・コアタイルの家だよ」
「“コアタイル派”…か…」
政宗は怪訝な表情でモニターのメッセージにあった名前を睨みつけていた。
以前、ティアナが周囲への劣等感を暴走させた事件の際、彼女に強い反骨心と向上欲を植え付けるきっかけとなった兄ティーダの上司…その上司が属していたという、魔法を唯一無二の絶対的な力と信じ、魔導師を崇高な存在と崇め、それ以外の戦術を使う者や魔力を持たない者を塵芥の如く見下す選民思想を掲げる極右保守派集団『コアタイル派』…
その御大将というべき家の御曹司が相手という事を聞いた政宗は、今回の見合いが決して、純粋な動機に由来したものではないと直感で察するのだった。
そして、それは家康や幸村…遂には件の話を直接聞いていない筈の慶次でさえも同じ想いだった。
「俺もコアタイル家の話は、六課に来る前から旅の噂で聞いていたけどさぁ…魔法至上主義ってのもそうだけど、それ以上に相当お高く止まったいけすかねぇ上級国民共だって話だぜ? そんな連中が持ちかけてきたお見合いって時点で、恋もへったくれもないだろうよ」
慶次はそう怪訝な表情を浮かべながら言った。
恋愛に関しては相応にこだわりを持つ彼からしてみれば、幾らなのは自身が女性としても、魔導師としても相当なスペックを持った優秀な人物であったとしても、この手の遥か格上の身分にある人物から一方的に持ちかけられたお見合いというものは、半ば道楽目的か、“人材”としてのなのはを欲しているだけに過ぎない可能性が高く、信用するに足らなかった。
すると、黙って話を聞いていたシグナムも頷きながら慶次の意見に同調する。
「私も前田と同意見だな。コアタイル派は近年、本局や民間から優れた魔導師を表裏問わず、様々な方法で強引に味方に抱き込む形で勢力を拡大化させているという話だからな。そのセブンとかいう見合い相手の気持ちはわからんが、おそらく
「なんと!? それでは、完全に“政略結婚”ではござらぬか!!」
幸村が憤慨しながら声を張り上げた。
「正確には“政略お見合い”やな。全く、嫌な話やで…」
「ホントだよ…なんだか、なのはを賞品みたいに扱われているようで、気分が悪い…」
「ったく、あの
はやて、フェイト、ヴィータもそれぞれ大事な親友であるなのはを蔑ろに扱われているかのような今回の話に、それぞれ並ならぬ鬱屈した想いを抱えている事が伺い知れた。
「皆、そんなモヤモヤするこたぁねぇじゃんか? はやてもなのはちゃん達も皆、気持ちは「お断り」って答え出ているんだろ? だったら、直接会ってそのセブンとかいう御曹司にきっぱり言ってしまったらいいじゃんか。「結婚はできません」って。簡単な事だろう?」
慶次がそう言うと、その懐から飛び出してきた小猿の夢吉も肩の上に飛び乗って、主に便乗して励ましてきた。
「
(……え、ええぇぇ!?)
この面子の中で、慶次を除いて唯一夢吉の言葉を理解できるリインは、そのあまりに過激且つ下品極まりない啖呵に呆然となった。
「えっと…リイン。なんて言ってるの?」
「いえ…その……ゆ、夢吉君も「僕も慶次さんと同じ気持ちです!」って言ってるんですよ! アハハハ…!」
(((((絶対、違う事言ってるな……))))
とてもなのはに翻訳する事のできないような内容だったので、リインは一先ず(かなり強引な)意訳でごまかしたが、彼の言う事を精確に理解できる慶次と、既に彼の性格を知っているはやて、シグナム、ヴィータはそれがリインの詭弁である事と、夢吉が本当はとんでもない内容の発言をした事を見抜くのだった。
「あのなぁ前田。そんな簡単に解決するような話じゃねぇから、こうして皆で悩んでんじゃねぇかよ」
「? どういう事だい? ヴィータちゃん」
イマイチよくわかっていない慶次に、家康が代わりに解説してあげた。
「つまり…そのコアタイルとかいう奴らの性格から考えて、見合いの席で誠意を示して断ったとしても、先方が素直に納得して引き下がるとは思えないから、対処法に苦慮していると…そういうわけなんだな? なのは殿?」
「そういう事。ましてやお見合い自体を断ろうなんてしようものなら、エミーナ議長の言ってたとおり、コアタイル派からどんな嫌がらせされてしまうか、わかったもんじゃないからね…それもあったから、仕方なくお話自体は承知したんだけど…」
「地上本部からの嫌がらせは、レジアス中将だけで沢山やで…」
はやてが辟易した様子で言葉を添えた。
「やれやれ…ホント、とんだカス札掴まされちまったなぁ」
「なのは殿。心中お察し申すでござるよ」
慶次も幸村も、それぞれなのはに同情する。
するとなのはは、改めてこの見合いどう対処すべきか悩み、深い溜息を付いた。
その時、リインの開いていたホログラムモニターに新たなメッセージが受信された知らせが入る。
確認すると、それはエミーナからの、詳しい見合いの日時と場所が決まったという一報だった。
「どうやら向こうは、なのはの気持ちも知らずにすっかり乗り気な様子でいるらしいな…」
政宗が呆れた様子でそう皮肉った。
ちなみにメッセージに記載されていた見合いの日にちは5日後―。
当日は、ミッドチルダ東部 “ラコニア”と呼ばれる街にある一流ホテル『Cassiopeia Plaza』を丸々貸し切って会場としているとあった。
「ヘッ! 流石は貴族魔導師様々だな。見合いの為だけに一流ホテルを貸し切りするたぁ、大盤振る舞いじゃねぇか」
「しかし…それ即ち、見合いの席は完全に
ヴィータの皮肉全開の言葉に対し、シグナムは冷静に自らの懸念を口にする。
「精鋭戦力まで味方につけているのか…そうなると尚更に、穏便に断る方向には運びづらいだろうな…」
家康が唸りながら考えていると、話を聞いていた幸村が天啓を得たかのように、自信有り気な面持ちで挙手する。
「ならば! 当日は我ら機動六課総出で会場に趣き、厳戒態勢でなのは殿を守り、こちらの誠意を相手方に理解してもらうというのは―――」
「お前バカかよ幸村!? 端から喧嘩売るばかりか、宣戦布告しに行くような事をしてどうするんだよ!!」
早速入るヴィータからのきつーいダメ出し。
「だ、ダメでござるか…!?」
「う~ん…幸村さんの実直な気持ちはよくわかるんだけど…もうちょっと後の事も考えなきゃね…」
フェイトもそうオブラートに包んだ物言いながらも、優しく諭す様に幸村の提案を却下してしまった。
すると、そこへ…
「いや。ちょい待ち、フェイトちゃん。…ユッキーのアイディアは全部やないけど、一部は案外使えるんとちゃうか?」
「「「「「えっ!?」」」」」
はやての一言に、部屋にいた全員の視線が彼女に集う。
「どういう事でござるか? はやて殿」
元ネタとなるアイディアを提案していた幸村が聞いた。
「つまり、相手が強気に出るのも思わず躊躇ってまうような手練を一人、なのはちゃんに同行させたったらえぇねん」
「手練って…一体誰の事?」
フェイトが尋ねると、はやてはニンマリと怪しい笑みを浮かべながら政宗の方に顔を向けた。
「!?」
はやてから怪しい視線を受けた途端、政宗の中で嫌な予感がした。
はやてがあんな表情を浮かべる時は、いつも碌でもない事を企んでいる時の表情だからだ。
「おい…なんで俺を見つめてるんだよ?」
「アホやなぁ政ちゃん。 こういう時こそアンタの『独眼竜』としての器量を見せるときやろ?」
「What…!?」
「はやて殿…まさかそれって…?」
政宗が愕然となり、家康が恐る恐る尋ねると、はやては自身満々に宣言する。
「政ちゃん! アンタ…なのはちゃんの『恋人』になり!」
「…Ah?」
「ほぇっ!?」
「「「「「へっ!?」」」」」
政宗が固まるのとほぼ同時に、なのは達も固まった。
その表情は若干青ざめており、そして―――
「「「「「「えええええぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーー!!?」」」」」」
昼間、地上本部のエミーナの執務室でなのは達が放ったものの数倍のボリュームの悲鳴が響き渡った。
またしても、とんでもない発案をしてきたはやてに仰天する一同。
中でも、政宗となのはに至っては、同じタイミングと同じ仕草で仰け反りながら驚いていた。
「ちょ…ちょちょちょちょ!! な…なに言ってるのはやてちゃん!? なんでそうなるわけ!?」
「そ…そうだ! Body Guardならまだしも、なんでFiancéeなんだよ!? 意味がわかんねぇぞ!?」
お互いに顔を赤くしながら抗議するなのはと政宗。
しかし、当のはやては平然とした表情で答える。
「二人共、何をそんなに必死こいとるん? 簡単な話やないの。 お見合いの間だけ、二人にはちょこっとお芝居すればえぇだけやっちゅうてんの」
「それはわかってるけど! なんで、政宗さんなの!?」
「えっ!? だってなのはちゃんと政ちゃんって、最近えらい仲えぇし、それに並んでみたら結構お似合いやと思うけどなぁ?」
はやてにさり気なく茶々を入れられて、耳まで赤くなってしまうなのは。
すると、はやてはその隙を見逃さずに巧みな口撃を加えてくる。
「それともなのはちゃん。政ちゃんじゃ不満なんかぁ? だったらロングアーチの適当な男性陣から選んだってもえぇんやで? それこそヴァイス君とかでも―――」
「い…いや…別に政宗さんが不満っていうわけじゃ…少なくともヴァイス君は“問題外”だし…」
「おい…ヴァイスが聞いたら泣くぞ…」
「……かわいそうに…ヴァイス殿…」
さり気なくなのはに思いっきりディスられてしまうヴァイスに、シグナムと家康はボソリと同情の言葉を呟いた。
「なのはちゃん、よう考えてみぃや。 『私には既に心に決めた相手がいますので、今回のお話は受け入れできません』って言ってしまえば、断るにしたって筋もきっちり通った理由やろ? しかも、目の前にその相手もおったら、真偽を問う余地かて無い。断りの返事を返す上では完璧な回答例やと思わん?」
「そ、それは…そうかもしれないけど……」
なのはは、熟れたトマトのように赤くなった顔を反らしながら反論するが、その口調からは完全に動揺している事が伺える。
「ほな何なん? 政ちゃんが相手やとなんか都合の悪い事でもあるんか?」
「う…ううぅ… 」
完全にはやてのペースに踊らされるなのは。
こうなった彼女にもはや選択の余地はない。
「わ…わかったよぉ…政宗さんを恋人役にして、はやてちゃんの言う通りにお芝居するよ」
「それでえぇんや! ほなら、さっそく―――」
「って全然よくねぇだろうが!? 俺のOpinionはどうなるんだ!?」
そう吠えるのは、言うまでもなく政宗である。
「なんやもぉ! 政ちゃんまで、この計画に不満あるんか?」
「あたりまえだろうが! なんで、よりによって俺が偽のFiancéeなんて演じなきゃいけねぇんだよ! 面倒くせぇ!!」
「何をそんなにいきり立ってるんよ? ほんのちょっと芝居したらえぇだけの話やろ? そんなん簡単やないかぁ」
「なら別に俺じゃなくったって、真田や家康、前田の風来坊にでも頼めばいい話だろうが!!」
政宗の反論を聞いたはやては、やれやれと言った表情を浮かべながら頭を振った。
「わかってへんなぁ政ちゃんは。 家康君やユッキーは、確かに腕っぷしや器量は政ちゃんにも引けを取らないけど、肝心の“お顔”が優しすぎるから、相手を威嚇しきれずに、付け上がらせてまうかもしれへんやろ? だからって慶ちゃんに、なのはちゃんの恋人を演じさせるっちゅうのは……それは私にとって面白くないし…」
「はやて…後半は若干自分の私情踏まえて話してない?」
フェイトが冷や汗を浮かべながらツッコむのを無視して、はやては続ける。
「その点…政ちゃんのその暴走族の
「Shut Up! 褒めるフリして、ボロクソ言ってんじゃねぇ!!」
「ま、まあまあ独眼竜!」
「落ち着くでござるよ! 政宗殿!」
吠える政宗を家康と幸村が必死で抑えながら、宥める。
「とにかくや! まさに今回のお見合いを無事に断る上で、政ちゃんは鍵となる人物として、まさに適任っちゅうわけやな? ニャーハッハッハッ!」
「勝手に適任にすんじゃねぇよ!! 俺は絶対御免被るぜ! そんなくだらねぇLow comedyなんかに付き合ってられるか! Nonsense!」
政宗はそう言い張り、断固として首を縦に振ろうとしなかった。
そんな政宗を、はやてはジト目で睨む…
「ふぅん。どうしても嫌なんかぁ? 政ちゃん?」
「当たり前だろ!」
すると、はやては思いっきり悪意の満ちた笑みを浮かべながら、政宗に向かって声高らかに告げた。
「えぇーお知らせしまーす。“伊達政宗”委託隊員は、部隊長命令無視により今後、三ヶ月の“帯刀禁止”並びに“実戦任務及び模擬戦の参加自粛”の懲戒処分とさせていただきます♪」
「What!? はやて! テメェ、汚な過ぎだぞ!!」
「んー? なにか文句でもありますかぁ?」
まさに職権乱用…自分の発案した計画に乗らないと、政宗にとって三度の飯より好きな剣と戦を取り上げるというまさに脅迫同然の横暴極まりないはやてのやり口に、なのはのみならず、その様子を傍観していたフェイトや家康達も一瞬引く。
政宗に至っては、思わず腰に下げていた六爪を引き抜きそうになっていたがギリギリで怒りをこらえると、しばらくの葛藤の後、渋々頭を下げて、頷いた。
「お、OK……やればいいんだろ…! なのはのFiancée…」
「フフフ、わかってくれたらえぇんや」
これによって完全に政宗、なのはを手玉に納めたはやて。
まさに恐るべきチビ狸といえる狡猾ぶりに、呆れる家康やフェイト達であったが、はやてはそんな周囲の冷ややかな視線などどこ吹く風とも言わんばかりに得意満面なドヤ顔を決めていた。
「ほな、さっそく作戦会議と行こか。なのはちゃんも政ちゃんも、さっそく私の私室に来てくれるか?」
「はやてちゃんの部屋に? どうして?」
なのはが尋ねると、はやてはさも当たり前の様に答えた。
「決まっとるやろ? 2人の為に服をコーディネートするんよ。お見合いに備えて…」
はやてのこの言葉を聞いて、再び政宗は抗議し始める。
「ちょ、ちょっと待て!! そこまでするなんて聞いてねぇぞ!」
「なんでやねんなぁ? お見合いの席にちゃんとした服装を用意するのは、当たり前の話やろ?」
「んなもん普通に管理局の制服でいいだろうが! っていうか、あれでさえも俺にとっては窮屈でしかたねぇのに、その上、余計に堅苦しい装束に袖通さねぇといけねぇのかよ! 流石にそれは割に合わねぇ―――」
「“帯刀禁止”並びに“実戦任務及び模擬戦の参加自粛”の期間を“半年”に延長!」
捲し立てる政宗の言葉を遮るように、はやては鬼の首を取った様な笑みを浮かべながら宣言する。
「ぬおっ!? ぐぬぬぬ……!!? お、OK…これでいいだろ!!」
「判ればよろしい。政ちゃん、これもすべては、なのはちゃんの為を思ってやってるんやから、政ちゃんもしっかり人肌脱いでくれな。 大切な仲間を守るのも機動六課としての大事な務めでもあるんやで?」
「……どう見ても、半分遊んでるの丸わかりだけどな…」
ヴィータの遠目からツッコミを他所に、はやては語り続ける。
「心配せんでもえぇよ。何もペアルックとかそんな寒い格好させるつもりはないから。 ただ折角の機会やし、政ちゃんにもこの世界のファッションを色々試してもらいたいと、そう思っとるんよ。 ほら、普段と全く違う格好をする事でその人の新しい一面を開花させるってよく言うやない? 例えば、シグナムの“お姫様”然り――――」
「わ゛ーーーっ! わ゛ーーーっ!! わ゛ーーーっ!!! お、お戯れを! 主はやてええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
突然、はやての言葉を遮る様に顔を真っ赤にしながら狂乱して叫び始めたシグナムに、唯一その言葉の意図を知っている慶次を除いた部屋にいた全員が困惑する。
「ど、どうしたの!? シグナム!」
柄にも無くパニックになって叫ぶシグナムにフェイトが心配そうに尋ねる。
一方、ヴィータはシグナムによって無理矢理遮られたはやての言葉の最後にあった単語を聞き逃さず、眉根を寄せた。
「なぁ…一体なんの話だよ? 今“お姫様”がどうとかって―――」
「ギャラクティカ“シグナム”!!!」
「ごぶしっ!!?」
尋ねる間もなく、シグナムから腹のど真ん中に強烈なボディブローを叩き込まれたヴィータは白目を剥き、その場に前のめりに倒れ込んで悶絶した。
「「ゔぃ、ヴィータ(ちゃん)ーーーー!!?」」
「「ヴィータ殿ぉぉ!!?」」
フェイトとリインが悲鳴を上げ、家康と幸村が慌てて駆け寄る光景を見た、はやては今のうちに…と言わんばかりになのはと政宗の背中を押して、部隊長室に隣接している自身の私室の方へと促した。
「ほな。ちゃっちゃと準備にかかろうか。2人とも♪」
「えっ…!? でもはやてちゃん…」
「あっちで色々Chaosな事になってるけど、いいのか…?」
狂乱するシグナムを必死に鎮めようとするフェイトとリインと慶次に、気絶したヴィータを介抱する家康と幸村…っといったように混乱を極める光景に目をやりながら、心配するなのはと、呆れる政宗であったが、はやてはこれ以上、そっちに介入して時間を潰すつもりはない様子だった。
前々からちょくちょく話していましたが、今回からリブート版『なのは恋路篇』こと『なのは見合い篇』に突入していきます。
オリジナル版での同長編は、六課側に散々立ちふさがる何敵『コアタイル家』や新たな敵キャラが登場していましたが、リブート版ではどんなストーリーになるのか…?
そして、図らずも“恋人”を演じる事になったなのはと政宗の運命は…!?
新しい長編もお楽しみに!