リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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お見合い騒動をきっかけに自分の中にある政宗への想いが急速に高まりつつあるなのは…

そんな中、図らずも政宗の気持ちを少し知ったなのはは、その夜遂に思い切って政宗に自分の胸に秘めたる想いを打ち明けようとする。

ラコニアの街に迫る新たな“脅威”の存在に気がつく事なく……


※ここでクイズです。
リブート版におけるセブンの新しいイメージCVは誰でしょうか?
ヒントは次のタイトルコールより…


セブン「リリカルBASARA StrikerS 第五十一章 俺が必ず――お前を救ってみせる!」

政宗「……コイツには最も似合わねぇ、決め台詞だな…」


第五十一章 ~束の間の安らぎ 告白は湯気の向こうで…~

「はぁ~、いい気持ち~♪」

 

カマサ=ワギ温泉一番の温泉ホテル『ピジョン屋』。

このホテルの一番の売りは、併設された建物内や敷地の各地に点在する大小様々な温泉である。

その温泉のひとつである露天風呂につかり、なのはは一人弾んだ声を上げて、感想を上げていた。

湯船からは、夕日に照らされて仄かに温かい黄昏の雰囲気に包まれたラコニアの街が一望できる。所謂、展望風呂であった。

 

「ここ数日はお見合いの事でずっと気疲れが溜まっていたから、それも相まって気持ちぃ~」

 

お湯に浸かりながら、なのはは背伸びをしたりしてリラックスする。

 

「はやてちゃん…『宿泊代は六課の経費から落とす』言ってたけど、なんだか申し訳ないなぁ。成り行きとはいえ、こんな中々良いホテルでゆっくり温泉なんか入っちゃって…」

 

湯船に浸した手拭いで頬を撫でながら、なのはは申し訳無さそうに呟いた。

今日のお見合い会場だった『Cassiopeia Plaza』に比べたら、良くも悪くも数ランク庶民向けの二流ホテルであるが、それでもこの『ピジョン屋』は、このカマサ=ワギ温泉一番のホテルとして、観光客からの人気が高く、帰る手段が無くなった為の急場凌ぎで泊まるには贅沢といえるホテルであった。

 

「それに…フォワードチームの皆が訓練やってる裏で教官の私がこう呑気な事してるのも―――」

 

「別にいいじゃねぇか、なのは。 ここしばらくお前もずっと働き詰めだったんだし、滅多にない機会なんだから、今くらい素直に羽伸ばせよ」

 

独り言のつもりで発した言葉に、不意に言葉を返され、驚いて声のした方を見ると、それは遅れて露天風呂に入ってきたヴィータだった。

風呂に入る為、いつもはお下げにしているその髪も解いてロングヘアになっている。

 

「あれ? ヴィータちゃん? どうしたの」

 

「なんだよ? 一緒の風呂に入ったらダメなのか?」

 

自分が来たのに不思議そうな顔したなのはに、ヴィータは聞く。

 

「いや、そうじゃなくて…ヴィータちゃん。シグナムさんにテレビ電話で今日のフォワードの皆の訓練の様子を聞いてたんじゃなかったのかな?って思っただけで」

 

「あぁ、それならもう終わったよ。 フォワードチーム(ひよっこ達)全員今日の訓練も何事も無く無事に終了。 まぁ、教官役の家康と幸村がしっかりやってくれていたから、監督役だったシグナムやフェイトの出番も殆どなかったらしいけどな…」

 

なのはが先に風呂に行くことになった時、ヴィータは部屋に残って、隊舎にいるシグナムとホログラム通信で連絡をとり、今日の隊舎での動向を確認していた。

それによれば、今日の訓練はスターズは家康、ライトニングは幸村が、それぞれ教官として担当し、なのはが前もってお願いしていたプログラムに基づいて、無事に全ての基礎訓練の工程を終えたとの事だった。

家康は勿論の事、最初は武田流のやり方に肖り過ぎて、エリオ以外は殆どついてこれないような無茶苦茶な訓練を課していた幸村も、最近になってやっと少しは武田軍以外に併せた訓練を課せるだけの柔軟さが板に付いてきたようである。

 

「にゃはは…スバル達、私やヴィータちゃんがこうしてのんびり温泉入ってるって知ったら、どう思うだろうね…?」

 

「…さぁな。 別にちょっと羨ましがるくらいで、それ以上はなんとも思わねぇんじゃねぇか?」

 

そんな他愛もない会話を少ししていた2人だったが、やがてしばらく沈黙が続いた。

何か話題を…と考えていたヴィータは、ふとあることを思いだす。

 

「そういえばさぁ、なのは」

 

「ん?」

 

「お前、さっき小十郎とバチバチに張り合ってたけど、急にどうしたんだよ? いつもだったら、アイツに恫喝されたら政宗共々しどろもどろになってたのに、見合いの前後辺りから、急に強気になってさぁ…」

 

「…………」

 

それを聞き、再びなのは黙る。

 

「……どうしたんだ? なのは」

 

いつもと様子が違うなのはにヴィータは声をかける。

よく見るとなのはの顔はちょっと顔を真っ赤に染まっているが、どうも湯船に上せたわけではないらしい。

 

「………うん…ヴィータちゃんは、口は固いから言ってもいいかな…?」

 

「うん?」

 

顔を真っ赤にしながらも、なのはは意を決した様に口を開き、しゃべり始めた。

 

「実は…政宗さんの事なんだけどね……」

 

「あ? 政宗がどうかしたのかよ?」

 

突然、政宗の話題を切り出されて怪訝な顔になるヴィータだったが、なのはは突然、湯船から立ち上がり、宣言する。

 

「私ね…政宗さんの事が……“本当に”好きになっちゃったみたいなの!」

 

「…………へっ?!」

 

ヴィータはなのはの思わぬ告白に、しばらく唖然となってしまう。

 

 

「え、ええええええええぇぇーッ!!?」

 

 

そして約十秒の間を空けた後、頭の中で大爆発が起きた様に驚愕の声を上げた。

まさかのなのはの告白に、ヴィータは驚くあまり、湯船の中でひっくり返りそうになってしまった。

 

見合いの前後から小十郎の気迫にも負けず劣らずに張り合う姿勢を見せ始めていた一連の挙動の正体が、まさかの芝居ではなく政宗への“本当の好意”だったなんて予想しなかったからだ。

 

「ちょ、ちょちょちょ! ちょっと待てよ、なのは!? なんでだよ!? だって、“仮想恋人作戦”ははやてが筋書き書いた芝居だぜ!? それなのになんで、マジで惚れちまったんだよ!?」

 

元々半ば無理矢理強いられた作戦だったにも関わらず、何故なのはが政宗に“本当の”好意を抱く結果になったのか問いただすヴィータに、なのはは再び湯船に浸かりながら、照れくさそうに話し始める

 

 

「…実はね。ヴィータちゃん……私、はやてちゃんに今回の偽装恋人作戦を提案される前から、政宗さんの事が気になっていたの……政宗さんと初めて出会った時…ホテル・アグスタでユーノ君が西軍に狙われた時…そして、私が後藤又兵衛の罠にかかって捕まった時……その度に私、政宗さんに助けられていたけど…3回目の後藤又兵衛の一件の後の頃から、時々、政宗さんの事が何故か頭の中で浮かびあがっていたの……」

 

「……その矢先に今回の見合い騒ぎがあったわけか……?」

 

「うん。勿論、始めは私も恥ずかしかったんだけど……日を重ねる毎にどんどん『嬉しい』って気持ちが強くなっていって……政宗さんの方は“お芝居”のつもりでやっているのかもしれないけど、恋人として接してくれるのを見る度にドキッってなって……今日のセブン准陸佐から私を守ってくれようとした際に「高町なのはの“恋人(Fiance)”だッ!」って宣言した姿を見て、私やっと自分の気持ちに気づいたんだ……私は、芝居なんかじゃなくて、本当に伊達政宗さんが好きなんだって…」

 

「マジかよ…?」

 

ヴィータは呆れているのか、悩んでいるのか、片眉を顰めながらガシガシと、おさげを解いた赤い髪を掻く。

 

「ったく。はやてに続いて、お前まで戦国武将相手に色恋話作っちまうなんてなぁ…」

 

ヴィータのボヤきを聞いて、なのはは思い出す。

はやてははやてで、慶次に一目惚れして、二人は一先ず“友人”として順調に交際の段階を踏み出していたのだ。

そんな中、その事情を知る者=はやての守護騎士“ヴォルケンリッター”の中で唯一それをあまり歓迎していないヴィータにしてみれば、まさかはやてだけでなく、なのはまでもが機動六課が保護したパラレルワールドとはいえ歴史上の人物に惚れてしまうという事態を前に、どう受け止めていいかわからないのだろう。

 

「大体さぁ…お前にはユーノがいるじゃねぇか?」

 

ヴィータは、10年前からの仲間で、長らくなのはのパートナー的存在であったユーノ・スクライアの事を口に出した。

なのはが魔導師としての道を歩み始めるきっかけになった『P.T.事件』や、ヴィータら“ヴォルケンリッター”との出会いとなった『闇の書事件』…

なのはの“エース・オブ・エース”としての華々しい活躍の創世記をずっと支えてきた彼は、今ではなのはを1人の女性として愛している事は、なのは以外の仲間達の間で噂になっていた。

 

「うん…ユーノ君は確かに私にとっては大切な“仲間”だし、性別の垣根を越えた大切な“親友”だよ。けどね……正直言うと、“恋人”としてお付き合いしたい…ってわけじゃないんだよね」

 

「お、おい……」

 

どうやら、なのは自身としては、ユーノに対する意識は、あくまでも“仲間・親友”止まりである様であった。

そんなとんでもなく残酷な事実をしれっと話すなのはに、ヴィータは思わず呆気にとられてしまう。

10年来の付き合いで、しかも魔導師の世界へ導いてくれた張本人という決して浅からぬ縁を築き上げてきた自分ではなく、出会って半年もない筈の政宗にあっさり靡かれてしまったなんて、ユーノが知ったらどれだけのショックを受けるのだろうか…?

ヴィータには全く想像できなかった。

 

(絶対ユーノにはバレねぇように気をつけないと…知ったらアイツ、ショック死するぞ……)

 

ヴィータはせめてこの事が、ユーノの耳に一日でも届くことがないように願うのだった。

 

「ま、まぁ…恋愛は人それぞれだし、それに政宗(アイツ)も言うこと成すことはハチャメチャだけど、根は悪い奴じゃねぇしな…良いんじゃないか?」

 

「ありがとう。ヴィータちゃん」

 

なのはが嬉しそうに笑いながら言った。

対して、ヴィータはやや疲れた様な溜息を漏らす。

 

「まぁ…アタシは別にいいけどさぁ…やっぱ一番のネックは小十郎だろ? アイツ、もしお前が政宗にマジ恋したなんて知ったら、それこそお前の分の白装束と短刀用意して、「腹切れ」って地の果てまで迫ってくるぜ?」

 

「そ、それは嫌だなぁ……」

 

なのはは冷や汗を浮かべながら失笑を零した。

 

「今日の『Cassiopeia Plaza』や、ここへ来てからだって見ただろ? アイツの神経質な反応…散々、皆が芝居だって言ってるのにあんな敏感になってやがるんだぜ? これでもしお前が政宗に『ホントに惚れた』なんて聞いたりすりゃ…」

 

話しながら、ヴィータは青ざめ、首を激しく横に振り出す。

 

「ぶるるるー! ああぁ!ダメ、ダメダメ! 絶対、ダメだって! 今から想像するだけで、おぞましいっつぅの!」

 

「えっ!? 小十郎さんが?」

 

「小十郎だけじゃなくて、おめーもだよ! さっきの模擬嫁姑バトルもう忘れたなんて言うんじゃねぇよな?」

 

「あっ、あれはつい“本能的”に…」

 

「本能であんな強気に出られたら、巻き込まれる身としたらたまったもんじゃねーよ!!」

 

ヴィータがそうツッコんでいた。その時だった…

 

 

「Hu~! こいつがこのHotel自慢のPanorama Bathか! Excellent!」

 

隣の男湯から大声が聞こえてきた。この声は政宗だ。

 

「ま、政宗さん!?」

 

「噂をすれば影だな…」

 

まさか今しがた噂をしていた意中の人物の登場に少し動揺するが、なのははヴィータと共にそのまま、男湯の方に聞き耳を立ててみる事にした。

 

「イヤッホーイ!誰も入ってねぇからとっつげきーーーーーー!」

 

今度は成実のはしゃぐ声と共にドッボーンと何かが水に落ちたような音が聞こえ、巨大な水柱が上がるのがなのはとヴィータのいる女湯からもはっきりと見えた。

まるで小学生の様なノリとテンションだが、これでいて成実は17歳…ティアナよりも年上なのである。

 

「成実!! 湯船には飛び込むな! それと風呂に入る時はちゃんとかかり湯を浴びろ!!」

 

今度は小十郎の怒声が聞こえてきた。

成実が何かをしでかす度に叱責を浴びせる姿は最早、父親と子供のようなやりとりに思えた。

 

「まあ、いいじゃねーか小十郎。 風呂の中に小便されるよりはよっぽどマシだろう?」

 

「政宗様…その冗談は笑えませんぞ。実際、この成実にはそれをされた事があったではありませんか?」

 

「おっ? Ah~そういえば、あったっけな? そんな事……確か、3年前に青根*1の湯に湯治に行った時だったか?」

 

「違うって兄ちゃん。 あれは去年の正月に鳴子*2に行った時だって」

 

「そうだったなぁ。青根じゃ、風呂桶をソリ代わりにしてSkateの真似事していたら、露天風呂の雨屋の柱に激突してへし折っちまって、そのまま湯殿を半壊させやがったんだったな」

 

 

「ッ!!? …プフフッ!」

 

「いや、なにやってんだよ。あのバカは…」

 

女湯と男湯を隔てる壁の向こうから聞こえてくる成実のとんでもエピソードの、あまりのシュールさに、なのはは思わず吹き出し、ヴィータは呆れた表情を浮かべながら男湯との境の壁を見据えていた。

 

 

「なんでもいいから、せめて風呂に入る前には身体を洗え、それが温泉におけるしきたりだぞ」

 

「へーい」

 

小十郎に促された成実は素直に湯船から出たのか、水音が聞こえてきた。

それから、少しして2人分の湯に浸かる音が聞こえてきた。

 

「Hu~!なかなかにいい湯じゃねぇか! コイツは」

 

「然様ですな。奥州の温泉とはまた違った趣で…」

 

「そうだな…」

 

それからしばらく男湯からは、恐らく洗い場で成実が身体を洗っているのであろうバシャバシャとやたらと騒がしい水音が聞こえてくる以外は特に何も聞こえてくる事がなかった。

政宗達は無言で風呂に浸かる派であると悟ったなのはは諦めた様に湯船から出ようとしたその時だった…

 

 

「そういえば。政宗様…」

 

「What…?」

 

不意に男湯から再び会話が聞こえてきて、なのはの動きが止まる。

 

「不躾ながら唐突にお尋ねしたい事が…」

 

「別に構わねぇよ…で? なんだ?」

 

「……政宗様は、高町の事をどう思っていらっしゃるので?」

 

壁の向こうから聞こえてきた小十郎の質問に、なのはとヴィータが反応した。

2人共聞き漏らしがない様に、しっかりと男湯の方に耳を欹てる。

 

「どう思ってって…何がだよ…?」

 

「いや…此度は成り行きとはいえ、政宗様と“恋人”という体裁で此度の急場を凌ぐ事が出来ましたが…しかしながら、実際のところ、政宗様は高町に対してどのような印象をお持ちであるのか? その心中を確かめたく思いまして…」

 

小十郎の思い切ったような内容の質問に、なのはは勿論の事、話を聞いていたヴィータまでもがドキドキと胸の鼓動が高まっていく感覚を覚えた。

 

「俺がなのはをどう想っているかってか…?」

 

「「……………………///」」

 

壁の向こうから聞こえてくる政宗の言葉になのは達は固唾をのみながら聞き入る。

 

 

「そうだな……俺としては“嫌いじゃねぇ”。いや…寧ろ、女として見れば、中々

好印象(Good impression)を抱いてるぜ」

 

 

「ブフォッ!!!?」

 

 

壁を隔てて飛んできた政宗の返答を聞いた途端、なのはは顔をヴィータの髪の色にも劣らぬ程に真っ赤にして、頭から蒸気を吹き出しながら、思わず湯船の中でお尻を滑られてそのまま派手にひっくり返りそうになり、思わず水面を激しく揺らして音を立ててしまった。

 

「Ah? なんだ今の音…?」

 

その音は男湯の方にも聞こえてしまったのか、政宗の怪訝な声が聞こえてくる。

慌てて、ヴィータがなのはの肩と口元を手で抑えて、これ以上怪しまれそうな音が出ないようにした。

 

(バカ! 動揺し過ぎだっつぅの!)

 

(ご、ごめん…ヴィータちゃん…!)

 

幸い、これ以上怪しまれる事はなかったのか、男湯では政宗と小十郎の会話が再開されていた。

 

「なんと!? では、やはり政宗様は―――」

 

「おいおい。勘違いするなよ小十郎。俺は別に今回の芝居にかこつけて、ちゃっかりなのはを物にしようとか、そんなNastyな事は企んじゃいねぇよ。っていうか、そんな事したら、完全に俺もあの七光りのセブン(Stupid son)と同じ穴の狢だろうが?」

 

「も、勿論。政宗様が節度をお守り下さる御方である事は、この小十郎も信じておりますが…しかしですな」

 

すると、政宗の辟易したような大きな溜息が聞こえてくる。

 

「じゃあ何だって言うんだよ? 小十郎。 仮に俺となのはが付き合う事になったからってそれに不満でもあるのかお前は? なのはは別に女としても、人間としてもなかなか出来た奴じゃねぇか?」

 

「はぁう!!?///」

 

(だから、いちいち反応すんなっつぅの!?)

 

政宗の素直な評価を聞き、なのはは頭から二度目の蒸気を噴射してしまい、ヴィータの念話でのツッコミが飛んだ。

 

「い、いや…この小十郎は、別に高町のことを見くびっているつもりはございません。 ですが、貴方は“奥州筆頭”として、いずれは日ノ本の天下をとる御方。やはり男女の交際という人生において大事な指針を左右させる大事な物事にも、もっと厳かに構えなければ…」

 

「お前は固く考えすぎなんだよ小十郎。最近、六課のStaff連中の間でお前密かになんて呼ばれているか知っているか?「ガチガチ堅物の片倉小十郎(こじゅうろう)ならぬ“片倉小姑(こじゅうと)”」だとよ」

 

壁の向こうから聞こえた政宗の話に、なのはもヴィータも「うんうん」と頷いて強く同意した。

 

「こ、この小十郎が…小姑ですと!? おのれ! 一体誰がそんな事を―――ッ!?」

 

「猿飛とヴァイスの奴が若い連中と酒盛りしてる時に言い出したんだとか…」

 

「あいつら…今度見かけたら、ケツに筍ぶっ刺してやる! …ってそういうお話ではなくてですね! この小十郎が言いたいのは、恋愛というものは紐の切れた凧のようなふらついた中途半端な好意を擦り合うようなものではなくて、きちんとした手順を―――!?」

 

「…つまりあれか? 俺がなのはにProposalでもして、お互いに意思確認して、両思いだったとわかれば…お前は“小姑mode”にならずに黙って見守るっていうわけか?」

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

 

不意に飛び出した政宗の大胆な一言に小十郎、そして壁を挟んで聞いていたなのはとヴィータが言葉を失う程の衝撃を受ける。

 

(ま、政宗さんが……!? 私に…ぷ、プロ…プロ…ッ!!?///)

 

(アイツ…ホント意味わかって言ってんのかよ!?///)

 

なのはもヴィータもすっかり温泉の温かさを感じられないほどに体温が上昇し、顔だけでなく一糸纏わぬ全身が真っ赤に染まる程に赤面していた。

 

「で…では政宗様…そこまで仰るという事は…やはり政宗様は高町を…?」

 

壁の向こう側で緊張を含んだ声で尋ねる小十郎の問いかけに、なのはとヴィータもドキドキと激しい自分の胸の鼓動を耳にしながら、聞き入る。

 

 

「……俺は…」

 

 

((…俺は?))

 

 

それに対して、いよいよ政宗の口から、なのはへの本当の想いが出てくるのかと、なのは、ヴィータの2人がそれぞれに息を呑みながら期待していた……

 

ところが…

 

 

「………っておい! 成実!! なにやってんだお前!?」

 

なのは達の予想に反して、男湯から飛んできたのは政宗の怒声だった。

意表を突かれたなのはとヴィータが何事かと戸惑っていると…

 

「何って、温泉で卵を煮たら“温泉卵”になるっていうじゃん! だから、野菜でも茹でたら、美味い野菜になるんじゃないかって思ってさぁ」

 

「だからって、温泉の湯船で“にんじん”放り込んで茹でる奴があるか!!」

 

また、例によって成実が何かバカな事をやらかしたらしい。

政宗と小十郎は今しがたの会話も忘れて、意識は完全に成実の方に向いてしまった。

 

「まあまあ、これがホントの“温野菜”…ってね! っというわけでおひとつどう? 兄ちゃんや兄貴も?」

 

「「いるかぁ! そんな人の浸かった浴槽にぶちこんだニンジンなんか…!」」

 

「ええぇぇっ!? 結構いけるけどこれ…バリバリッ!」

 

「「って食うなぁぁぁッ!!!」」

 

っという感じで、すっかり男湯はいつもの伊達軍のノリに戻ってしまったのだった。

その喧騒を壁越しに聞いていたヴィータは呆れるように言う。

 

「…やれやれ…もうちょっとってところで、成実のバカのせいで、肝心な部分が聞き出せずじまいだな…」

 

「あはははは…そ、そうだね……チィッ!」

 

「いや、だからこえーよ…」

 

苦笑を浮かべながらも、顔を背けるなり、露骨に悔しそうに舌を打つなのはの豹変ぶりにドン引くヴィータだった……

 

 

 

 

カマサ=ワギ温泉街から然程遠く離れていないとある山…

同じくラコニアの市街地を囲む山々のひとつであるその山は、カマサ=ワギと違い、特にイデア・クリスタルの鉱脈や遺跡・史跡があるわけではなく、普段から人の手入れどころか、出入りさえも殆どない寂しい場所であった。

その山の頂き付近にある少し切り開かれた様な場所に、一人の怪しげな少年の姿があった。

 

縁の張った形に縫い、頂部に高い突起をつくり、縁から白い薄い布を垂れ下がる菅笠…所謂『市女笠』と呼ばれる日本の公家の人間がよく被る様な高貴な笠を目深に被ることで顔を隠し、その顔貌の仔細は判然としないが、背丈からして、恐らくは十代半ばか少し年を重ねた成実くらいの年齢であろうか…?

 

奇異なのはその装束である。

右半身が黒と灰色を基調とした肩当てと胴巻、具足の戦装束、左半身が白と灰色を基調とした道服、双方の衣装を繋ぐように上半身に☓の字を描くように交差した長い数珠を巻きつけるというアシンメトリーな服装に身を包んだその手には光沢が走る黒い六尺棒程の長さを誇る『能管』と呼ばれる横笛が握られていた。

 

「…………………」

 

日も完全に沈み、無数の灯りに包まれて神秘的な輝きを灯しだすラコニアの市街地をじっと見据える少年。

否、その視線はそれの遥か先…街を挟んで対面する一際高い山の頂きに聳える城塞の様な広大な建物だった。

 

……あれが、大谷(屍野郎)が言っていた『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』とかいう連中の砦か…? なかなか狩りがいがある山城じゃねぇか。のぉ、主ぃ?

 

その時、どこからともなく少年に話しかける声が聞こえ、それから間髪を入れずに、少年の影が波打つように蠢き出し、そして少年の目の前で地面から飛び出して実体と化すと、瞬く間にそれは異形の姿を形作っていった。

 

体長はリインフォースⅡよりも少し大きい約50cm程―――

首から上は烏の頭部…背中には黒い翼…爪先が鋭く発達した両手と、猛禽類の様な両足を持った獣人の様な姿をしていたそれは黒がかった紫色の光のオーラに包まれながら、少年の目の前を浮遊する。

 

少年は突然現れたそれを見ても、全く動じないばかりかほぼ無反応な様子で、再びラコニアの街の方に目線を向けた。

 

おいおい、シカトかよ? 仮にも異世界に渡って初めての仕事前なんだからよぉ、ちったぁ打ち合わせぐらいしようぜ?

 

「……………」

 

烏の獣人がそう尋ねると、少年は無言で自分の手の指を肩にトントンと当て、その上に乗るように促した。

それを見た烏の獣人は呆れた様に頭を振る。

 

今回も俺様の采配に任せるってか? やれやれ…これじゃあ、どっちが“屍鬼神(しきがみ)”なのかわからねぇな……

 

聞き慣れない単語を混じえながら烏の獣人が少年の肩に乗ると、少年はスッと踵を返し歩きだした。

 

大谷(屍野郎)の言うことにゃ、今回は殲滅戦(皆殺し)でいけとの事だとよ。 それに相手は術と権力に胡座をかいた一流気取り共とはいえ、一応はこの世界でも指折りの精鋭の端くれだそうだ。 こちらも相応の“駒”を用意しておくべきだと思うぜ?

 

「…………(コクリ)」

 

饒舌に語りかける烏の獣人に対し、少年は沈黙を貫いたまま、微かに頷いて反応する。

 

(あるじ)の今回の目的はあの山城を徹底的に探り、『クライスラの遺産』とかいうこの世界の古い文明の宝に関する手がかりを見つけ出す事だ。生き証人共は当てにならないが、物の手がかりは必ずなにか掴める筈だと、あの皎月院(魔女みたいな花魁)もえらく自信ありげだったしな…

 

「……………」

 

それから、今回石田(総大将様)が手を組んだっていう“スカリエッティ”とかいう陰気な性悪野郎は、今回の(あるじ)の成果次第で相応の報酬を寄越してくれるみたいだが…そいつはいつもどおり、俺様が代わりに頂戴して構わないよな?

 

「………(コクリ)」

 

少年が頷く。

 

相変わらず、欲の無い(あるじ)様だねぇ…まぁ、欲を持っちまったら、屍鬼神(俺様達)を行使する事はできなくなるし、それはそれで困りものなんだけどな…

 

「………………」

 

市女笠の薄布(ベール)で隠れた少年の顔を見据えながら、烏の獣人がニタリと不穏な笑みを浮かべる。

相変わらず、少年は全く無反応だった。

 

それじゃあ、早速“ご挨拶”に伺うとするかぁ…“R7支部隊”とやらへ…

 

獣人は口先で呟くようにそう言うと、再度歪な笑みを浮かべるのだった…

 

 

 

 

思わぬ形で、政宗の気持ちを聞き出す事ができるチャンスにめぐり逢いながらも、成実の起したバカなトラブルのせいで肝心な部分が聞けなかったなのは。

おまけに中途半端に政宗からの自分に対する評価が然程悪いものではないと知ってしまったせいか、風呂から上がってからは余計に政宗を変に意識し過ぎてしまい、返ってしどろもどろな接し方しかできなくなってしまったのだった。

そのせいか、夕食もせっかく、豪華な山の幸をふんだんに使った懐石御膳が出てきたというのに、その味は殆どわからなかった。

尤も、その席では例によって成実が皿や箸まで平気で食べたり。小十郎の分のおかずをネコババしようとしてゲンコツを食らうなどの一幕が絶えず騒々しく、違う意味で食事の味を堪能する余裕がなかったのであるが……

 

そんなわけで、せっかく意中の人と温泉に来ているというのに、なのははまともに政宗と一対一で話す事もままならないまま、時間だけが過ぎていくのだった…

 

「はぁ……」

 

「なのはぁ、そんなクヨクヨすんなよ」

 

時刻は21時過ぎ…ホテルから支給された浴衣姿のなのはとヴィータはホテルの展望室を兼ねたラウンジに併設されたベンチに腰掛けていた。

そして、ベタなくらいに不器用な様を曝け出す自分の不甲斐なさに落ち込むなのはにヴィータは呆れながらも励ましていた。

 

「そんな事言ったってヴィータちゃん…私、お風呂から上がってから、政宗さんの顔もまともに見れない有様なんだよ…せっかく、こうして温泉に来たっていうのに普段よりお話できなくなっちゃってどうすんの…って話だよぉ」

 

「そ、そりゃ気持ちはわかるけどさぁ。けど別に今日機会を逃したからって、政宗とはしばらく会えないってわけでもないんだぜ? だから、そんな固く身構え過ぎなくてもいいんじゃねぇか?」

 

「身構えてる…っていうよりは、政宗さんの気持ちをちょっとだけ知っちゃったせいで、勝手に私の心の中で余計に政宗さんへの想いが強くなっちゃって…///」

 

「…ダメだ。こりゃ重症だ…」

 

既に温泉に入ってから数時間経過しているにも関わらず、まるで湯上がりの様に顔を真っ赤にして一人のぼせあがるなのはに、ヴィータは冷ややかにツッコんだ。

 

「言っとくけど、アタシは前田とかと違って、この手の甘酸っぺー話題には端から興味ねーから。お膳立てなんか宛にすんじゃねぇぞ?」

 

「も、勿論! ヴィータちゃんに迷惑をかけるつもりはないよ! それに…ヴィータちゃんに“恋愛”なんて、まるで縁のないお話だって事はわかりきってるもの」

 

「………いや、事実なんだけどさ…なんかすっげぇムカつく言い方だな……」

 

眉間に青筋を立てたヴィータがボヤいていると、そこへ、またしても噂をすればなんとやら…この2人が現れた。

 

「おっ! なのは姉ちゃんに、ヴィータの姉御!」

 

「なんだ? お前らも夕涼みか?」

 

成実を伴った政宗である。

2人ともなのは達と同じく浴衣姿だったが、成実は浴衣に着慣れていないのか、帯がぐちゃぐちゃになっており、かなり着崩れてしまっていた。

 

「はぁぁう!? ま、ままま、まま、まひゃむねひゃんッ!!?」

 

「って動揺しすぎたろバカ! ちょっとは落ち着け!」

 

言ってる傍から露骨な動じぶりを晒し、横からヴィータに窘められるなのは。

明らかに挙動不審な態度であるが、幸いにも政宗は少し怪訝に思う程度にしか気にしなかった。

 

「? どうしたんだ? なのは」

 

「はっ!? う、うぅん! な、なんでもないよ! それより、政宗さん達はどうしてここへ?」

 

ある程度落ち着きを取り戻したなのはが尋ねる。

 

「あぁ。せっかく温泉に来た事だし、成実と一緒に温泉街の方でも回ろうかと思ったんだが…小十郎に「R7支部隊の手の者が出回っているかもしれないから自重しろ」って言われて、仕方ねぇからホテルの敷地内のGardenにでも夜の散歩に出ようかと思ってな…そうだ。どうだ? お前らも一緒にどうだ?」

 

「えっ!? わ、私達も…!?」

 

なのはがドキリとしながら、尋ね返す。

そんななのはの気持ちに気づいていない成実が呑気な口調で声かける。

 

「いいじゃん! 一緒に行こうよ!? 姉ちゃん達も!」

 

すると、話を聞いていたヴィータが咄嗟に何かをひらめいた様に手を叩いた。

 

「あぁ、そうだ! 成実。お前ちょっと面貸せ」

 

「ん? なんで?」

 

「昼間の礼…と言っちゃあれだけどよぉ、売店行ってアイスでもおごってやろうと思ってな」

 

突然のヴィータからの呼び出しに、怪訝な顔を浮かべていた成実だったが、続いて聞かされた「アイス」という単語を耳にした途端、その目がキュピーンと強く光り輝く。

 

「マジで!? ぃいやっはぁぁぁぁぁ!! 流石は姉御! 太巻き寿司ぃ!」

 

「… “太っ腹”って言いたいのか? まぁいいや。っというわけだから政宗。ちょっとだけ、成実を借りるぜ?」

 

「Ah~…OK.I don't mind.」

 

政宗の了承を得たヴィータは成実の襟首を掴んで早々にラウンジの出口に向かう。

 

「よっし! そんじゃ行くぞ。成実!」

 

「せんきゅー姉御ぉ! 一体いくつ奢ってくれんの!? 500個くらい?」

 

「バカヤロッ!! アタシの財布を空っけつにする気かよ!? 1個に決まってんだろ! 1個ッ!」

 

「ええぇぇっ!?」

 

政宗の了承を得たヴィータは成実を連れてラウンジを出ていくが、その際になのはにだけわかるようにウインクしてアイコンタクトを送っていた。

それを見たなのはは、ヴィータが自分と政宗を二人きりにするために成実を連れ出してくれたのを察するのだった。

口では「当てにするな」と言いながらも、しっかりとお膳立てしてくれる親友のさり気ない気遣いに、なのはは心から感謝するのだった。

 

 

 

 

こうして、念願の政宗との二人っきりになる事が出来たなのはは、ラウンジから建物の外へと出て夜の庭を散歩する事にした。

ホテルの敷地内なのでR7支部隊と鉢合わせる心配はなかったが、それでも万が一の護身用の為に、なのはの首には待機状態のレイジングハートがぶら下げられ、政宗の腰には六爪の内の一振りが下げられていた。

 

「A likely。 夏入りとはいえ、やはり夜は涼しいもんだな。なのは」

 

「そ…そうだね……」

 

庭園だけでなく、ホテルを囲む野山から聞こえてくる虫の大合唱を聞きいれながら、2つの月の輝く夜空の下、2人は整備された散歩道を歩いていく。

 

「Hu…ここにいると忘れかけていた奥州の風景を久々にゆっくりと思い出す事が出来るぜ。 クラナガンの周りはSeeばかりでMaunntennは殆どねぇからな…」

 

「そ、そうなんだ。確かに東北地方は緑豊かな山が多いからね」

 

こんな調子でしばらくは取り留めのない話を繰り返しながら歩いていた政宗となのはだったが、やがてその話題も尽きてしまい、2人共沈黙してしまう。

 

(ど…どうしよう!? なにか話題を作らないと……!?)

 

どうにか、話題を作ろうとなのはは必死に頭を働かせる。

 

「「……あ、あのね(な)!!」」

 

唐突に口を開くなのはであったが、ちょうど同じタイミングで政宗も話し出してしまい、ダブってしまった2人は余計に気まずい沈黙に包まれてしまう。

 

「…そ、Sorry…」

 

「う、うん。別に大丈夫…先に言っていいよ」

 

「いや…別に他愛もねぇ事だから、お前から先に言ってくれよ」

 

「そ、そう…? それじゃあ、お言葉に甘えて…」

 

政宗の譲渡されたなのはは、意を決した様子で話し始める。

 

「政宗さん。その…改めて、本当にありがとう。私の為に色々と苦労かける事になって…」

 

「What? なんだよ急に改まって…今日のこの見合い騒ぎはお前だけじゃなくて機動六課全体に関わるProblemだったんだから、俺が一肌脱ぐのも当然だろ? っていうかはやてに無理矢理押し付けられたからでもあるけどな…」

 

政宗はそう苦笑しながら語りかけるが、なのはは歩きながら首を横に振る。

 

「うぅん。 このお礼は今日の事だけじゃなくて、政宗さんが六課にやってきてからお世話になってきた事全てに対するお礼……」

 

「Ah?」

 

その言葉の意味がよくわからなかったのか、首をかしげる政宗に対し、なのはは空を見上げながら思い返すように口を開く。

 

「恥ずかしい話なんだけどさぁ。政宗さんがこの世界に来てから今までを思い返してみたら…私って政宗さんに助けられてばっかりだったなぁって、今日改めて思ったんだ」

 

「…そうか?」

 

「そうだよ。敵の潜伏侵略にかかった時や、ホテル・アグスタでユーノ君が狙われた時…それに政宗さんとはじめて出会った時だって、私助けてもらったんだよ?」

 

なのはの言葉を聞いて政宗はようやく思い出すことができた。

確かに言われてみると、自分は六課と協力するようになってから3回もなのはの窮地を救っている。

しかし、政宗にしてみれば、それは目の前で凶行を犯そうとした敵…ガジェットドローン、島左近、後藤又兵衛…数ある火の粉を払い除ける為であり、特別にお礼を言われるものでもないと思っていた。

 

「…本当にありがとう…政宗さん……///」

 

なのはは顔を赤くし、政宗から目をそらしながら改めてお礼を言った。

 

「だからなにもそんな改まって言うもんでもねぇだろ? っていうかお前、顔赤いけど大丈夫か?」

 

「あっ!? う、うぅん! 別に!」

 

顔を覗きこもうとしてくる政宗に、なのはが慌てて頭を振って誤魔化した。

 

「歩き疲れたのか? だったら少し休憩していこうぜ。 ちょうど休憩所も近いみたいだしな」

 

「う、うん」

 

散歩道の脇にある立て看板を指差しながら、エスコートしてくる政宗に対し、なのはは少しでも顔の赤らみを解そうと、頭を冷やす努力をする事にした。

 

 

それから2人は散歩道を抜けた先に広がっていた崖の傍を切り抜いて造ったような展望台も兼ねた休憩所に辿りつく。

そこは、温泉街はもちろん、ラコニアの市街地やその奥に聳えるこの辺り一帯の最高峰 レシオ山と、その山頂にあるR7支部隊の拠点である城塞。その他にも街を囲む周辺の山の景観も楽しめる絶景ポイントであった。

 

さらに、夜である今は2つの満月が真上に眺められてその周りに広がる夏の星空を満喫できる非常に美しい場所であった。

 

「Hu~…こりゃいい眺めじゃねぇか」

 

政宗は崖ギリギリの柵に寄りかかりながら星空とラコニアの街の夜景を見下ろし、楽しんでいた。

一方のなのはは、展望台にベンチ代わりに置かれた大きな丸太に腰掛けたまま、まだ顔を赤らめているのだった。

 

「おい。 さっきからどうしたんだなのは?」

 

「!?…いや別に…!」

 

「別にって…お前さっきからずっと、顔が赤いじゃねぇか。それにこのホテルに着いてからなんか挙動もちょっとおかしかったしな…」

 

政宗はなのはの隣に座ると、顔を頭上の星空に向けたまま、さりげなく話しだす。

 

「何か悩み事でもあるのか? よかったら話してみろよ」

 

「で…でも……」

 

「思っている事があるなら、溜め込んでねぇで、素直に吐いちまった方がスッキリするぞ?」

 

穏やかに諭してくる政宗の顔を見て、なのははドクンと再び大きな鼓動を感じた。

 

「う…うん…」

 

なのはは固唾を飲むと、ゆっくりと口を開き始めた。

 

「ま、まま、政宗さん!…わ………私……ね……///」

 

これ以上ないくらい顔を真っ赤にしながらも、なのははついに政宗に自分の胸の内を率直に打ち明ける事を決意する。

 

 

 

「私………政宗さんの事が………好きです…!!///」

 

 

 

「―――ッ!? Oops!?」

 

 

突然のなのはの告白に思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう政宗。

普段の彼であれば、絶対に出ないような間抜けな声だった。

 

潜伏侵略騒動以来、心の奥底で芽生えていた初めての想い…それは政宗に恋をしたなのはの初恋であった。

 

 

「……Sorry…Throw a wet blanketな質問かもしれねぇが、一応確認だけさせてくれ。 それは“芝居”で言ってるんじゃないんだな?」

 

沈黙を破って、政宗が尋ねた。

 

「………はい…///」

 

「…Realでか?」

 

「うん……Realで……///」

 

再三確認してくる政宗に、小さな声で返事をしながらも、なのはは顔を真っ赤に染めながら頷く。

 

「………Oh my god…ッ!!」

 

政宗はネイティブな発音で動揺しながら、どうしたらいいかわからず、首を左右に振りながら動揺する。

 

「それで……政宗さんの気持ちとしては………どうなのかな?///」

 

「お…俺の気持ちか……?」

 

今度は政宗が赤面しながら、動揺する事となってしまった。

こういう状況に慣れていない政宗は、どう返事を返すべきなのか全くわからない為、いつもの大胆不敵な物腰は消え、軽くパニックを起こしそうになっていた。

 

(お、落ち着け! Coolで行け! 俺! それがこの独眼竜のPolicyじゃねぇか…Shit! なのになんで…!? なんでこんなに動揺するんだ…!? 畜生! どうしたらいいんだ!?)

 

必死に冷静さを求めようとする政宗の思考と裏腹に、胸の鼓動は高まり、目は激しく泳いで定点が定まらず、額には冷や汗が大量に浮き出てくる。

 

それも、必死に威厳を保とうと、軽く咳払いをしてから、こちらを見つめてくるなのはを見据え、重い口を開く。

 

 

「き、聞いてくれなのは…」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

「………お……俺は―――」

 

 

 

 

政宗がなのはの告白に対する自分の返事を返そうとした…

 

 

 

その時だった――――

 

 

 

ドオオオオオオオォォォォォォォン!!!

 

 

 

「「―――ッ!!?」」

 

 

二人の周りを包んでいた甘酸っぱい雰囲気、そして静寂を切り裂くような爆音が遠くから聞こえてきた。

 

一体何事かと2人が音の聞こえてきた方に目をやると、それはラコニア市街を挟んで向かいに聳える山 レシオ山の頂…その山の頂上一帯を締めていたこの街の負のランドマークともいえる星杖十字団R7支部…その荘厳且つ強固な雰囲気に包まれていたあの城塞が……

 

 

「ッ!? うそっ!?」

 

「お、おい! あれって確か、あのR7支部隊(あのバカ息子の取り巻き連中)の拠点だっていう……」

 

 

なのはは口を掌で押さえ、政宗も隻眼を大きく見開きながら、遠くに聳える城塞を見つめる。

 

いや…正しくは城塞“だった筈”のものを見つめていた。

 

っというのも、2人の視線の遥か先にあるそれは、何か大きな爆発が起こったのか、真っ赤な炎に包まれ、敷地の四方を囲っていた遠目から見ても頑丈さが伺えた筈の城壁も所々で崩れるという、まるでそこだけ巨大な震災に見舞われたかのような惨たらしい有様となったからだった。

 

 

「まさか…!? R7支部隊で何かあったっていうの…!?」

 

「Can't wait! 急いで、小十郎達に知らせるぞ!」

 

 

政宗となのはは立ち上がると、脱兎の如き速さで急いでホテルの中へと駆け出すのだった……

*1
青根温泉…宮城県柴田郡川崎町にある温泉。仙台伊達家の湯治場として1528年に開湯して以来490年以上の歴史を誇る名湯で、歴代仙台藩主専用の湯治場であった青根御殿が置かれるなど、仙台藩の御用湯のひとつとして愛された。

*2
東鳴子温泉…宮城県大崎市鳴子温泉郷にある温泉。かつて平家の落人によって発見されたという伝説がある名湯で、青根温泉と共に仙台藩主専用の湯治場である御殿湯が置かれた。




遂に、なのはが告白しちゃいました。

っていうかこの手の場面でそういう告白しちゃうのは、完全に死亡フラ―――ゲフンゲフン!!

とにかく肝心の政宗の返事については、もう少しお預けとなります。
っとは言っても、もうほとんど予想はつくかと思いますけど(苦笑)

っというわけで、次回からなのは見合い篇 後半戦へと突入します。

果たして、謎の物怪“屍鬼神”なるものを従える少年の正体とは…!?
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