リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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R7支部隊に降り立ったなのはと政宗、ヴィータ、成実の4人だったが、そこは見たことのない異形の怪物達によって地獄絵図と化していた。

絶望の光景の中でも、どうにか生存者を救おうとするなのはだったがそんな彼女の想いをあざ笑うかのように隊舎を壊滅に追いやった犯人は、生き残りを非情な手口で惨殺していく、それでもどうにかこの事件の終息の為に煉獄と化した城塞へと乗り込んでいくなのはや政宗達だったが……


※ここでクイズです。
リブート版における秀家の新しいイメージCVは誰でしょうか?
ヒントは次のタイトルコールより…


秀家「リリカルBASARA StrikerS 第五十四章 次は何をすればいい?」

信之「み……三◯月……!?」

幸村「兄上! それは最早ネタバレでござるぞ!!」


第五十四章 ~奏征 魔を操りし妖将 宇喜多秀家~

ヴィータと成実の二人は、崩れ落ちた壁に開いた穴から建物内に入ると、そこは食堂だったらしく、木目調の長机や椅子が無造作な方向に置かれたり、倒されたりして、散漫した状態となっていた。

中にはあの中庭に現れた亡者達にやられたのであろう、巨大な爪に引き裂かれた死体が何体か転がっているのが見えた。

 

「姉御ぉ。中に入ったはいいけど、これからどうするわけ? たった2人でこんなだだっ広い砦を探すのはそう楽じゃないってのに…」

 

成実が若干面倒くさそうな言い草で尋ねてくる。

やや緊張感に欠けた物言いにヴィータは一言注意しようかとも思ったが、成実はフォワードチームの4人とは、いろんな意味で少々異なる思考の持ち主である事を思い出し、ここは注意するだけ無駄だと思い、敢えて無視する事にした。

 

「そうだな…とにかく、エントランスホールに行ってみるか。まずはこの隊舎の構造を知る必要があるし、そこにいけば地図があるかもしれねぇ」

 

「“えんとらんすほーる”……!? それって美味しいの?」

 

 

ズコーッ!!

 

 

一先ずの行動指針を決め、気を引き締めようとしたヴィータだったが、成実の食い物ボケな発言で思わずその場で派手にすっ転んでしまった。

 

「要するに、この砦の玄関入ってすぐの部屋を調べるって意味だよ! ったく、こんな時にまでしょうもねぇ、ボケかますな!!」

 

「えぇぇーっ!? だって、俺腹減ったからさぁ」

 

「つい今さっきまでアイス食ってただろうが!?」

 

っとこんな調子でイマイチ締まりのない凸凹コンビなヴィータと成実は、エントランスホールへと向かうルートを探す事にした。

二人が入った食堂の入り口付近は既に炎に包まれていた為、それを避ける為に食堂にあるドアで唯一火の手が上がっていなかった厨房を通って、廊下へと出る道筋を選ぶ。

厨房もまた、悲惨な状態だった。

器具や食材などが床中に散らばり、10個以上の口があるコンロは上に備えてあったダクトが崩落して落下したショックで火の手が上がったのか、巨大な火の玉の様に激しく燃え上がっていたが、幸い、煙はすべて剥き出されたダクトから外へ出ていっていた為、部屋の中は然程煙に巻かれていなかった。

 

前を歩くヴィータは、いつ敵が飛びかかってきてもいいように、グラーフアイゼンを構えていた。

勿論、生存者の存在もないか、索敵も怠らなかったが、幸か不幸かこの辺りの破壊と殺戮は既に完了してしまっていたのか、荒廃した部屋には物言わぬ骸以外誰もいなかった。

 

「チィッ!…コイツは久しぶりに見る凄惨な現場だぜ……成実。とにかく、生存者にしても敵にしても、どこに隠れているかわからねぇ…少しでも怪しいところを見つけたら、徹底的に調べ上げるぞ?」

 

「合点承知のはらこ飯! この伊達藤五郎成実。 どんなに小さくとも怪しいもんはズバッと見つけちまうやるからよぉ!」

 

そう自信に満ちた声で話しながら成実は、いつの間にくすねていたのか、バスケットに積まれた大量のリンゴに齧りついていた。

 

「……おめーの言う“怪しいもん”っていうのは、リンゴなのか?」

 

額に青筋を浮かべたヴィータが静かにキレる。

 

R7支部隊(ここの奴ら)って、ゴキブリみてぇな連中だったけど、飯は随分いいもん食ってたみたいだな。こりゃ、中々上物のリンゴだぜ? 火で焼けちまって、所々ちょっと炭になりかけてっけど…」

 

「いや、んなもん食うなよ!? 火災の現場で、半分燃えたリンゴを躊躇いなく食うってどんだけ無神経な悪食なんだよ! おめーは!?」

 

「姉御も食べふ?」

 

「食えるかバカヤロッ! つぅか、食いながら喋んな! 腹立つんだよ! その『食べふ?』って言い方が!」

 

「ええぇぇぇ!? 焼きリンゴって結構いけるのに?」

 

「いいからその籠そこに置いてけ! そんなもん持って、捜索なんか出来るわけねぇだろ!」

 

「ふぇーい」

 

っと返事こそ間延びしたものであるが、成実は素直にヴィータの言う通り、リンゴの入った籠を近くの棚の上に置いた。

代わりに籠に残っていた半分焼けたリンゴのうち3個を手に取ると、腰に下げていた巾着袋に入れた。

 

「? おい、成実。なんだよその巾着?」

 

ヴィータが尋ねる。

 

「あっ、これ? いざって時に備えて色んなものを入れてる俺の『ひじょうぶくろ』!」

 

得意満面に巾着袋を翳してみせる成実を、ヴィータは白けたような目で見つめながらボヤく。

 

「色んなものって……どうせ食いもんか、ゴミしか入ってねぇんだろ?」

 

「いやいや。どんな事が起こっても大丈夫な様に色々入れてるんだよ。 え~っと、何入れてたかな?」

 

成実は話しながら、巾着袋の中を探り…中から糸に繋がれた黒ずんだ小袋を出してきた。

 

「……なんだよ。それ?」

 

「え~と…30回くらい使った緑茶のティーバッグ(出殻し詰めた小袋)

 

のっけからゴミじゃねぇか!! なんで、んなもん入れてんだ!? ってか、どんな時に使うんだよ!? んなもん!

 

「いや、こいつすげぇんだって! 姉御! これを口に含んで急須からお湯を飲んだら、あら不思議! 口の中で緑茶が出来ちゃうのだー!」

 

口の中、火傷するだろうが!! これはそういう使い方じゃねぇんだよ!!

 

ツッコミながら、成実からティーバッグをかっさらったヴィータは「捨てとけ!」と叫びながら、それを近くで燃えていた火に放り込んだ。

 

「あああぁぁ!! あと20回くらい使えそうだったのにぃぃ!!」

 

「うるせぇよ! そんなに使ったら、袋破けるだろうが! っていうかその袋の中、絶対碌なもの入ってねぇだろ!絶対砂とか入れてるだろ!?」

 

すっかり成実のペースに乗せられたヴィータは周りの殺伐とした現場の光景を忘れて、ツッコみ続ける。

 

「えぇっと…どうだったっけなぁ? あっ! 例えばこれ…さっき食ったアイスの棒!」

 

それも完全にゴミじゃねぇか!? ゴミ箱に捨てろよッ!

 

「それから…あっ!今日のホテル(旅籠)の晩飯に出されたマグロの刺し身も出てきた! そういれば後のお楽しみにと思って一切れとってたんだっけ?」

 

この大バカヤローッ!! 巾着袋に生もんなんか入れんなッ!!

 

「それから………砂!」

 

やっぱり、砂入れてたんかいッ!!

 

喉を振り絞って、ヴィータはツッコんだ。

 

「えぇっと他には…」

 

そう言って、まだ巾着袋に片腕を入れて弄る成実を、ヴィータは無理矢理に制止する。

 

「もういいわ! ほっとけば、その内に犬のウ◯コとか出してきそうでこえーよ!!」

 

「……いや、流石の俺もウ◯コは食わねぇって…」

 

成実がそうボヤきながら、巾着袋から手を出そうとして、ふと手を止める。

 

「あっ! これ入れてたの、すっかり忘れてた!」

 

成実がそう言いながら取り出したのは、黒い野球ボール程の大きさの金属製の球体だった。

 

「なんだよそれ?」

 

「奥州での天下分け目の戦の折に、対上杉用に伊達軍で拵えた特注の“手投げ爆弾”だよ。万一に備えて、俺も足軽達から一個貰ったっきりどっか行っちまったと思ってたけど…こんなところにしまってたんだ」

 

「って危ねぇな! 爆弾を、食いもんやゴミと一緒にしまってんじゃねぇよ!!」

 

「いや、その気になれば“非常食”にしようかなぁと思って…」

 

「なるかぁ! つぅか、前から思ってたけど、お前ホントに人間かよ!? 土とか石とかしまいにゃ爆弾まで食おうだなんて、最早カー◯ィじゃねぇか!!」

 

「? 何? カー◯ィって? この世界のメシ?」

 

「ちげーよ! カー◯ィっていうのは、はやて達の時空の日本の有名なゲームのキャラ…ってんな事はどうでもいいんだよ! いいからしまっとけ、そんな“ゴミ袋”!!」

 

「“ゴミ袋”って…殺生だなぁ、ヴィータの姉御も……」

 

とうとう成実の巾着袋を『ゴミ袋』呼ばわりしながら一喝するヴィータに、成実は不満げにぶー垂れながら、巾着袋に手投げ弾をしまうと、そのまま袋を腰に戻すのだった。

 

「とにかくさぁ。ヴィータの姉御も、もうちょっと俺の事信頼してくれよぉ。俺、こう見えても伊達軍じゃ一番槍として名を馳せてる男なんだから、姉御も“舟盛り”に乗ったつもりでいてくれていいんだって!」

 

「……それを言うなら“大船”だろ? アタシは刺し身じゃねぇよ」

 

「えっ!? 刺し身? 姉御、さっきの俺がとっておいたマグロ食いたいの?」

 

「違うわバカ! つうか、誰が何時間も巾着の中に入れてたマグロなんか食うか! 絶対腹壊すだろ!」

 

「そう? だったら俺が試しに食って―――」

 

「食わんでいい!」

 

成実と二人きりになってから、止まる事のない彼のボケラッシュにツッコミが途絶えないヴィータは内心辟易しながら、思うのだった…

 

 

 

(なのはぁぁぁーーーー!! コイツとのコンビ疲れるってぇぇぇぇぇ!!?…(TОT) )

 

 

 

そんなボケとツッコミを交わしている内に、ヴィータと成実の二人は火の手の広がる通路を通って、どうにかエントランスホールまでたどり着いた。

 

R7支部隊隊舎のエントランスは機動六課の隊舎とは比べ物にならないくらいに広かった。メインホールだけでサッカーコート並の広さはあろう。

ホールは4階までが吹き抜けになっており、2階までは中央から伸びる大階段、更に2階部分のアッパーロビーの左右には3階、4階まで続く階段がある構造となっており、階段の手すりやホールの壁には豪華な装飾が施され、壁や吹き抜けの通路には古代の神殿の石柱を模した丸太のように太い柱がいくつも生え、まるで宮殿の様に豪華絢爛な造りとなっていた。

だが、それも今となっては、壁は蜘蛛の巣の様に大小様々な亀裂が走り、数時間前までは塵一つ落ちていないピカピカに磨かれたものであったあろう床には穴や、砕け散った装飾品やシャンデリア風の照明器具、柱などの残骸や崩れ落ちた天井の一部が無数に散乱し、燃え広がった炎はホール全体を包み込まん勢いで燃え盛り、最早どこが火元であったかさえも特定出来ない有様となっている。文字通りの“地獄絵図”と化していた。

 

「生存者どころか、敵の姿も無し……か……」

 

「姉御! あそこ!」

 

ヴィータが小さく呟いていると、ホール内を見渡していた成実の声がかかる。

成実が指差した先にあったのは壁にかかっていたこの建物の地図と思われる案内板だった。

しかし、それも今は破壊と火災によって、その役目を果たせない状態にあった…

ヴィータは目的の品が使い物にならない事を理解すると、舌打ちをした。

 

「仕方ねぇ。こうなったら時間はかかるけど、怪しいと思った部屋を手あたり次第に当たっていくぞ。思ったよりも火の回りも早ぇ。うかうかしていると、アタシらも炎に巻かれて消し灰になっちまうぞ!」

 

「おう! 合点承知のはらこ―――」

 

成実がいつものお決まりの合いの手を打とうとしたその時―――

突然、彼の全身にビリリと電流のような感覚が走った。

 

「―――ッ!!? 姉御! 上だぁぁッ!!」

 

「ッ!!?」

 

即座にあらん限りの声で叫んだ成実に、ヴィータは驚きながらも、長年の騎士としての感からそれが自分に対する警告であると察し、本能的に声に従って、成実を抱えると後ろに飛び退避する。

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

 

「「ウガァアアアアアァァァァァァァァァァ!!!」」

 

 

直後、エントランスホールの吹き抜けの天井が爆発と共に粉砕され、巻き起こる粉塵の中から凄まじい咆哮を上げた2つの巨体がその超重量に任せて落下してきた。

 

「へっ!?」

 

「伏せろぉッ!!」

 

明らかに人間ではない何かが現れた事に呆然とする成実にヴィータは叫ぶように呼びかけながら、その頭を掴むと、無理矢理に組み伏せるようにして床に這いつくばる。

直後、巨大な岩石が落下したかのような激しい衝撃と、轟音、そして風圧が2人に襲いかかる。

無防備に佇んだままこれを受けていたら、確実に2人共吹き飛ばされて、壁に叩きつけられていたであろう。

 

「い…一体……!?」

 

ヴィータは顔を上げると、粉塵立ち込める視界の先を見据え、2つの巨体の正体を探る。

そして、粉塵がある程度薄れたところで、それを知る事となった…

 

先程までヴィータがいた辺りの地表を完全に粉砕し、出来たばかりの巨大なクレーターの中に佇む2体の巨大な怪物…

 

それぞれ5メートルはあろうその巨人達は、それぞれに牙の生えた馬と丸太の様に太い二本の角を構えた牛の頭部を持ち、馬の頭の方は体型や膨らんだ胸の形から僅かに女性である事が示唆されているが、どちらも筋骨隆々の鋼の様に黒く光った肉体の持ち主である。

そして明らかに温厚さなど微塵も感じさせない赤く光る眼でヴィータと成実を睨んでおり、両者の口からは呼吸の度に蒸気が噴出している。

 

「ゴリラみてぇなゾンビ共の次は、牛面と馬面の巨人かよ…!? とんだお化け屋敷に来ちまったもんだぜ……」

 

ヴィータは冷や汗を浮かべながら、吐き捨てるように言った。

すると、牛頭の巨人はヴィータ達を見据えると、嘲る様に鼻を鳴らした。

 

フンッ! コイツらがこの新たな外界における我らの初の獲物か……!!

 

それに続く様に馬頭の巨人も落ち着いた声質でヴィータ達に話しかけてくる。

 

……貴様達に恨みはないが…これも全ては我らが(あるじ)様からの命……

 

馬頭の言葉に合わせるように、牛頭の巨人は僅かな振動を伴いながら重量感のある足音を鳴らしつつ、数歩前に進み出ると、ふと足元に転がっていた大木のように巨大な石柱が目に留まった。

そして、それを掴み上げるとまるで小枝の様に軽々と片手で振り回して見せた。

 

……コイツはなかなか使えそうだな。さぁ、来い“チビ”共!! この屍鬼神(しきがみ) 牛頭(ごず)が、お前達などすり胡麻にしてやるわ!!

 

 

「「ッ!? 誰が『チビ』だ! この牛野郎!!!」」

 

 

牛頭(ごず)と名乗った巨人の露骨な侮蔑を耳にした途端、その異形の姿に僅かに衰えそうになっていたヴィータと成実の闘志のボルテージが一気に上昇する。

『チビ』…それは見た目は幼い少女であるヴィータや、お世辞にも高身長とは言い難い成実ら二人にとってはこの上なく屈辱的な一言であり、半ば『禁句』ともいえる一言だった。

お互いに同じ琴線に触れられ、激昂する姿に、当人達も驚いたのか一瞬お互いの顔を見据える。そして、少しだけ笑い合った。

 

「どうやら、アタシら初めて息が合ったみてぇだな…」

 

「そいつは嬉しいね姉御ぉ…俺、あの牛野郎を叩っ斬って、“たたき”にしてやりてぇよ」

 

「おぅ、たたきでも、牛丼でも、ステーキでも、なんにでもしてやれ。アタシも手ぇ貸してやるから」

 

「じゃあ、シメちゃう?」

 

「シメるか」

 

ヴィータがそう言うと、二人は顔を見合わせて頷き、互いに胸に宿った激情を一気に噴火させた。

 

 

「「…ぶっ潰すッッ!!!」」

 

 

ヴィータは戦鎚からスパイク状の器具の飛び出た接近戦特化形態“ラケーテンフォルム”になったグラーフアイゼンを握りしめ、成実は口に無柄刀を咥え、両手に直刀、木刀を構えた変則三刀流“三牙月(みかづき)流”の構えをとりながら、濃密な憤怒と殺気を全開にしながら、異形の巨人達に向かって突進していった。

 

フハハハハハハハッ! 威勢の良いチビ共だな! こういう奴らの熱い戦意をへし折りながら叩き潰してやるのもまた一興!!

 

牛頭は愉快そうにそう叫びながら、振りかぶった武器代わりの石柱を、突進するヴィータと成実の正面から猛烈な勢いで振り落としてきた。

 

「ヘッ! バカが! そんな石で出来た柱なんざ、この鉄の伯爵(グラーフアイゼン)が一撃で粉微塵にしてやるぜ!!」

 

ヴィータは不敵な笑みを浮かべながら、グラーフアイゼンを振りかぶって、振り下ろさせる石柱に向かって、対抗して勢いよく薙ぎ払ってみせた。

 

ガキイイイィィィン!!!

 

ところが、グラーフアイゼンとぶつかった石柱は、粉砕される筈が何故か強固な金属音の様な音を立てて、その強烈な一撃を相殺してしまった。

勿論、石柱には亀裂一つ走っていない。

 

「な、なにぃ!? 唯の大理石の柱が、なんでこんなに固ぇんだよ!?」

 

「姉御! だったら俺に任せとけって!」

 

すると、鍔迫り合っていたヴィータの背後から成実が猿のような身のこなしで、飛び越えてくると、ヴィータのグラーフアイゼンによって受け止められていた石柱の上に飛び乗り、そのまま石柱の上を走る形で牛頭に向かいながら、変則三刀を構える。

 

「“とにかくきる!”」

 

技名になっているのか微妙な技名を叫びながら、成実は両手に持った直刀、木刀で、牛頭の頭に激しい乱打を繰り出していく。

 

しかし…牛頭の頭もまた、分厚い鋼のように固く、木刀は勿論の事、真剣である直刀さえもまともに傷一つつける事が出来なかった。

 

フハハハハハ! なんだそのひ弱な攻撃は!? これならまだ蜂に刺された方が痛いくらいだぞ?

 

「ま、マジかよッ!? コイツ、どんだけ固ぇ身体して――――グハァッ!!?」

 

全く刃を通せない巨人の身体に驚愕していた成実は、突然、横から途轍もない速度で飛来した一発の白い羽の形を模した巨大な光弾によって、勢いよく吹き飛ばされてしまった。

編笠が外れ、エントランスの床に叩きつけられた成実はそのまま数メートル程の距離をゴロゴロと転がり、大の字になって斃倒れる形でようやく止まった。

 

「成実ッ!? …くそぉ!」

 

ヴィータはグラーフアイゼンのカートリッジを1発リロードさせ、魔力を強化させると、どうにか受け止めていた石柱を振りほどき、その隙に成実のところまで飛んで、退避する。

 

「大丈夫か!? 成ざ――――ッ!!?」

 

この屍鬼神(しきがみ) 馬頭(めず)の存在も、忘れるでないわ!

 

だが、ヴィータが成実に声をかける間もなく、声の主…もう一体の馬面の巨人 “馬頭(めず)”が叫びながら、その指の一本一本が鉤爪のように太く、鋭利な両手から新たな羽型の光弾を乱射してきた。

ヴィータは急いで自分と成実の身体が隠れる程の大きさの三角形の紅い魔法陣の形をした障壁魔法(シールド)を張って、自分達を守るが、シールドにぶつかって弾けた光弾の衝撃は事の他強い衝撃を発し、それを食い止めるヴィータも耐えきるのに精一杯となる。

 

(こ、これは!? 射撃魔法!? 嘘だろ!? なんであんな化け物が魔法なんか使えるんだよ!?)

 

苦しそうに表情を歪めながら、ヴィータは目の前で起きている状況が理解できずに脳裏で焦燥と混乱の声を上げた。

馬頭(めず)と名乗ったあの馬面の巨人の放つそれは、ミッドチルダ式ともベルカ式とも異なる単純に魔力をエネルギーに置き換えただけのシンプルな構造の術式だったものの、放たれてくる光弾からは相応な量の魔力が感じられた。

 

ヴィータは一瞬、目の前にいる二体の巨人…牛頭と馬頭は自分の知らない魔法生物なのかとも考えたが、すぐにその推測を自ら一蹴する。

あの二体から放たれる禍々しい気の波動…それは明らかに唯の魔法生物が放つそれとは違う…恐らくはこの世界にない術式によるものであろう。

 

「痛てててて…背中思いっきり打っちまったぁぁぁ…!!」

 

その時、倒れていた成実がゆっくりと起き上がった。

ヴィータの予想に反し、あれだけ強力な魔力弾が直撃したにも関わらず、成実は多少打ち身の痛みに顔を歪ませている以外は特に重症を負った様子もない。

 

「成実!? お前…大丈夫なのか!?」

 

ようやく止まった魔力弾の射撃を耐えきったヴィータが尋ねる。

 

「おうともよ! 伊達にガキの頃から奥州の野山駆け回ってきてねぇんだ!! 兄ちゃんや小十郎の兄貴からも“身体の頑丈さ”だけは伊達軍一番ってお墨付き貰ってるくらいなんだよ!!」

 

その言葉を証明するように成実は、宙返りを決めながら立ち上がると、床に落ちていた無柄刀を足で拾い上げて、空中に投げると、それを口で咥えてみせ、両脇の床に刺さっていた直刀、木刀を引き抜いて構え直してみせた。

その様子を見たヴィータは、成実の驚異的な、打たれ強さに驚きながらも、一先ず自分の心配が杞憂だった事を知り、胸を撫で下ろした。

 

グハハハハハハッ!! 馬鹿め! 隙を見せたな!! 落ちよ!“雷鎚”!!?

 

「「ッ!?」」

 

不意に聞こえた牛頭の声にヴィータと成実が顔を向けると、そこには自身の頭上に4本の巨大な光の柱を出現させる牛面の巨人の姿が目に見えた。

それが馬頭の放った羽型の魔力弾と同じ魔法である事を直感したヴィータは、咄嗟に成実に向かって指示を飛ばした。

 

「やべぇ!? あれはアタシのシールドでも防ぎきれねぇって! 成実! 一先ず広い場所へ出るぞ!」

 

「が、合点承知のはらこ飯!!」

 

成実が返すと同時に、牛頭の振り下ろした片手に従う様に、4本の光の柱はヴィータと成実に向かって真っ直ぐ突き刺さりにいくように飛んでいった。

 

「走れぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ヴィータが叫ぶのを合図に、彼女は地面を蹴って、床から1メートル程離れた上を低空飛行し、成実はその野山で鍛え上げたアスリート顔負けの脚力をフルに活かして疾走して、エントランスホールから正面玄関をくぐって、城の城塞を目指して逃げ出した。

2人の後を追って、追尾弾と化した光柱もその背後に張り付いて建物から飛び出していく。

 

バカめ!! 逃げても無駄だぞ!! チビ共が!!

 

絶対に逃さない…

 

その様子をあざ笑う牛頭と、呟く様に戦意を高めた馬頭もその巨体に違わぬ素早さ…それも馬頭に至っては成実にも劣らぬ脚力を見せながら、激しい地響きを鳴らしつつ、後を追っていくのであった……

 

 

一方…政宗を抱えて空を飛んだなのはは、城塞の一番高い塔の屋上へ降り立つと、そのまま、螺旋階段を降りて城塞の中への侵入に成功した。

2人が侵入したエリアは、比較的荒廃の度合いが少なく、火の手も回っていなかった為か、城塞全体を襲っている災厄が嘘の様な静寂と薄暗闇に包まれていた。

それでも窓の外から差し込む城塞各所から上がる火災の焔の橙色の光が不穏な明かりとなって無人の廊下を照らしつけている。

だが、完全に人の気配が無いかと言えばそうではなく、時折、遠くの方から人でも獣でもならざる不穏な叫び声が聞こえてくる。

 

「まるでUnder Worldだな…この地獄を作り出した野郎のSenseの無さが伺い知れるぜ……」

 

索敵がしやすい様に六爪の内の五本を鞘に収め、一刀だけを手にとった政宗は重々しい声で呟いた。

中庭と違って見える範囲に凄惨な死体なその痕跡は見当たらなかったが、遠くから吹き付ける熱い空気に混じって漂ってくる血の臭いが、ここが凄惨な事件の現場である事を否が応でも思い出させる。

 

先程、自分達の目の前で非情にも命を奪われた隊員といい、ここでどれだけの人間が無惨な形で命を奪われたのか…?

この手の修羅場には慣れている筈の政宗でさえも今はあまり考えたくはなかった。

 

「……………」

 

そして、そんな政宗の後ろについて歩くなのはに至っては、さっきの様に茫然自失になりかける程ではなかったが、やはり少なからずショックを引きずっていたのか、その顔色は決して良くはなかった。

 

「……なのは?」

 

そんななのはの異変に気がついた政宗が、なのはの方を振り返って尋ねる。

 

「……ッ!? ご、ごめん政宗さん。私はもう大丈夫だから…」

 

そう言って、頭を振りながら気を持ち直すなのはを政宗は、じっと見つめた後…何かを悟った様に小さく溜息をついた。

 

「…Sorry なのは。さっきは咄嗟だったとはいえ、手を上げちまうのはあまりCoolなやり方とはいえなかったな…」

 

「い、いや…そんな事はないよ。政宗さんに頬を叩かれてなかったら私、あのまま気が動転してどうなってたかわからなかったし…その…眼の前で人が殺されるところをまともに見たのって…初めてだったから……」

 

なのはは、青ざめた表情でそう説明する。

魔導師になって、かれこれ10年になるなのはは、これまで様々な事件や災害の現場を目撃し、大勢の命を救ったり、悪と戦ってきた。

当然、中には自らが手を差し伸べようとしたものの救える事の出来なかった命もあるし、時空管理局という一種の軍事組織に属している以上、非情にも人の命が奪われる事など当たり前の事だと、なのは自身頭の中ではしかと割り切って考えていた。

 

しかしながら…頭では理解できても、やはり目の前でそんな凄惨な光景が繰り広げられるとどうしても心の動揺を抑える事ができない。

ましてやなのはは、元来不要な争いを嫌い、どんな悪人でも救える余地がある人物であれば手を差し伸べようとする心優しい性格の持ち主であった。

そんな彼女が、目の前で人の命が無惨に奪われる光景を目撃すれば、思わずパニックを起こしそうになってしまう事も無理のない話だった。

 

「……なのは、お前は確か9歳の時に魔導師を始めたって言ってたよな?」

 

不意に、政宗がそんな事を尋ねてきた。

 

「えっ? う、うん。そうだけど…?」

 

「…実はな。俺も大名としての初陣は、9歳(ここのつ)の時だったんだ」

 

「えっ!?」

 

政宗は昔話を語るような口ぶりでなのはに話し始めた。

 

「相手は、“蘆名”という奥州の地方領主だった。軍自体も、それを率いる敵将(Head)も、お世辞には手練と呼べる程でもなかったが、そいつらは狡猾にも当時、伊達のTopを務めていた俺の親父を人質にして、戦の主導権を握ろうとしやがった。

けど、俺は奴らの要求に屈する事なく、力技で敵軍を“全滅”させる事に成功した。その頃には俺も既に剣術叩き込まれて、伊達領の中で山賊や野武士を相手に暴れまわったりしていたからな。戦自体は楽だった。だがな…」

 

政宗の顔が暗くなった。

 

「……俺はその戦で初めて、真剣を握って…そして敵を斬り…そして、部下達にも“皆殺し”を命じた…」

 

「……“皆殺し”…」

 

「それまでの山賊や野武士共は木刀で痛めつけて、後は家臣共に任せていたから…この時、俺は初めて人間の“死”というものを目の当たりにする事となった……」

 

「…その時、政宗さんはどんな気持ちだったの?」

 

なのはが聞いた。

政宗は手にした一振りの真剣を小さく振った。

 

 

「怖かったぜ……途方もなくな……」

 

 

それから、思い出したように言葉を付け加えた。

 

 

「それから、人間のLifeっていうものは本当に呆気ないものなんだなって事を、ガキながらに悟らせてもらった……」

 

 

そう語る政宗の表情は、いつになく悲しそうに見えた。

 

その表情は、なのはを大いに驚かせた。

彼と出会ってから、そのような表情を浮かべるイメージなどなかった政宗が見せた新たな表情……それは、彼の語るこの物語には、今の言葉以上になにか壮絶な悲話が隠されている事を物語っている事を意味しているとなのはは直感した。

政宗でさえも言い淀むその悲しき物語の一片…それをさらに突っ込んで聞いてみたいという好奇心と、これ以上政宗の古傷を抉る様な事をしてはならないという良心の呵責とが、なのはの脳裏で複雑に相殺しあっていたその時―――

 

 

《♪~~~~~ ♪~~~~~~ ♪~~~~~》

 

 

「「ッ!!?」」

 

どこからか不思議な音楽が2人の耳に届く。

妖艶で重々しく…それでいて、意識の奥へと滑り込んでくる様な不思議な音のそれは、笛の音色のように聞こえた。

 

「政宗さん!」

 

「あぁ! こっちだ!!」

 

二人は顔を見合わせ、頷くと笛の音の聞こえてくる方向へ向かって駆け出していった。

長い通路を駆け抜け、そのフロアの一番奥にある部屋に辿り着いた。

笛の音は確かにこの部屋の中から聞こえてくる。

なのはも政宗も、それぞれレイジングハートと竜の(かたな)を握りしめて、どんな相手と相対してもいいように気を引き締めた。

この非常事態な状況下の中、こんな優雅な曲調で笛を奏でる時点で、部屋の中にいる人物はまともな人間ではない事は既に明確である。

 

政宗は部屋の二枚扉の部屋のドアの右側、なのはは左側に立った。

 

「大丈夫。結界や障壁は、かかっていないみたい」

 

なのはがドア付近に罠がない事を確認すると、政宗は片手でジェスチャーを交えながら小声で指示を送った。

 

「……3(Three)2(Two)1(One)で踏み込むぞ? OK?」

 

なのはが頷いて了承すると、政宗は小さく深呼吸を整えてから、秒読みを開始する。

 

3(Three)2(Two)1(One)…Go!」

 

 

政宗が合図と共に扉を蹴りつけ、それをなのはが片手に込めた魔力を変換した軽い衝撃波で吹き飛ばし、2人は部屋の中に突入した。

 

部屋は多目的ホールだったのか、バスケット用のコートが4つ分はあろう大広間だった。狭く見積もっても50畳程の広さはあるろうか?

 

 

《♪~~~~~ ♪~~~~~~ ♪~~~~~》

 

 

そして、その大広間の一番奥…窓枠に腰掛け、優雅に六尺棒程の長さを誇る横笛を吹く少年の姿が2人の目に止まった。

 

年は成実と同い年か、1つ年下くらいの年齢か?

下半分が白く染まった黒髪を肩の下まで伸ばし、右半身が黒と灰色を基調とした肩当てと胴巻、具足の戦装束、左半身が白と灰色を基調とした道服という左右全く趣旨の異なるアンバランスな服装…そして、その上半身に拘束する様に巻き付いた色鮮やかな珠の連なった長数珠…

明らかにこの世界の人間のものではない少年の服装に、なのはは警戒する。

 

この世界でこの様な衣装を纏う人間…それは即ち、政宗達と同じ時空の古の時代の地球からやってきた“戦国武将”であるという証……

 

 

そして、政宗もまた、この少年に既視感を覚えた。始めて会うはずなのに、彼が自分と同じ世界の戦国武将であること、それも相当な猛者だということがわかる。

 

そして……この少年があの異形の怪物達を操り、R7支部隊隊舎を壊滅に追いやった張本人であるということも…

 

「テメェ…何者だ?」

 

政宗は刀を少年に向けつつ、静かに殺気を上げて問いかけた。

 

「…………」

 

少年は答えない。

代わりに、笛を奏でるのを止めると、ゆっくりと2人の方へ振り向いてみせた。

 

美少年と呼んでも差し支えない程に端麗な顔つきながら、生気のない白い肌がどことなく不気味さをも感じさせるミステリアスな雰囲気を漂わせる。

そして、その虚ろ気な薄紫色の目からは想像もつかない程に強い殺気と覇気の篭もった眼光が二人を射抜く。

政宗となのはは、少年の顔を見た瞬間、冷汗を浮かべる。

 

開かれた窓からは相変わらずミッドチルダ特有の2つの月の穏やかな明かりが薄暗い大広間を照らす。

まるで、地上で何が起きようとも、天上はまるで関わりがないと主張するかのように、月明りはいつもとまるで変わらぬ穏やかさで、大広間にいる三人の男女の姿を照らした。

その一人…政宗は、刀を少年に向けて構えてながら静かに近づいた。

後ろに立つなのはもレイジングハートを構えながら警戒する。

すると2人の警戒の対象…少年の前に、紫色の光のオーラに包まれた烏の頭と翼を持ったリイン程の大きさの獣人が姿を現した。

 

これはこれは、“奥州筆頭”伊達政宗殿とお見受け致す。 お会いできて光栄の至りだぜぇ

 

「ッ!? なんだ、テメェは!?」

 

突然現れた新たな異形の姿に驚きつつも、政宗は刀を向けたまま問いかける。

すると、烏の獣人は気障な物言いで、返してきた。

 

これは失敬。アンタの噂は予々聞いてはいたのだけれど、こうして直接相対するのは初めてだったもんだからなぁ…

 

「テメェら…豊臣の人間か?」

 

刀を構えつつ問いかける政宗に対し、少年は頑なに口を開こうとしないが、その代わりに獣人が気取った様な振る舞いで、その場で一礼しながら口上を述べ始めた。

 

すまないなぁ。俺の(あるじ)様は無駄な口を叩く事がお嫌いな性分でな。代わりに俺が自己紹介してやろう。 こちらにおわす御方こそ、豊臣軍与力 宇喜多家当主…そして、豊臣五刑衆 第四席“妖将”…!!

 

獣人はまるで従者の如く傍に立つ少年を、立てる様な仕草で紹介する。

 

宇喜多(うきた)備前宰相(ひぜんさいしょう)秀家(ひでいえ)”様にあらせられる! そして俺様は、その秀家様の軍師を務める屍鬼神(しきがみ)“烏天狗”だ!

 

「「―――ッ!!?」」

 

少年…秀家の名とその肩書きを聞いた政宗となのはは、自分達が初見で感じた覇気の理由がよく理解できた。

 

「き、君が……豊臣五刑衆…?」

 

「宇喜多……秀家…だと!?」

 

政宗は秀家自身の顔を見るのは初めてだったがその評判は風の噂で耳にしていた。

 

豊臣軍全盛期、『豊臣三武神』と呼ばれる特に武力に秀でた猛将の一人に数えられていた西国の梟雄 “宇喜多直家”を父に持ち、自身も若干、16歳で豊臣軍重臣 宇喜多家の当主となり、豊臣軍与力として恐るべき戦果を上げているという。

さらに、彼の行く先にはこの世のものとは思えぬ悪鬼魍魎達が蔓延り、見た者達を瞬く間に血祭りに上げる事から『夜行遣い』『魔界童子』の二つ名で畏れられる等、西軍の中でも要注意人物の一人とされていた。

 

「Ha! コイツはSurpriseなGuestだぜ…! まさかこんな場所で、3人目の五刑衆に蜂合うとはな…!」

 

政宗は不敵な口調で話しながらも、その手は何時でも刀を振りかぶりながら、飛びかかれる様に身構えている。

そして、その隣に立ったなのはも、レイジングハートの穂先を秀家に向けて構えながら、厳しい口調で尋ねる。

 

「この隊舎を襲ったのも…あの怪物を生み出したのも……すべて、貴方達の仕業なの…?」

 

なのはは鋭い視線を投げかけながら、秀家と烏天狗双方に目的を問う。

秀家はやはり口を開こうとしなかった。

 

「答えなさい! 一体何が目的なの!!?」

 

なのはが、毅然と声を荒げて秀家に迫る。

しかし、その内心この少年から発せられるどす黒い殺気と覇気に圧倒されそうになるのを必死に耐え忍んでいた。

 

否…厳密にはこの少年からではない。

この少年に纏わりつくように渦巻いた何十、何百もの有象無象の人ならざるなにか……

それらが放つ、欲望、殺気、憎悪がこの少年の身体を介して、自分達に向かってその底知れない負の感情を放ってきているのを感じた。

 

緊張で汗が流れる。自然とデバイスを握る手に力が入る。

そして、それは隣で刀を構える政宗も同じの様だった。

窓から吹き入る熱い夜風が、三人の頬を撫でた。

 

どうしたよ独眼竜? そこの魔導師の姉ちゃんも…さっきからボーッと突っ立ってるだけかぁ?

 

秀家の前に浮かぶ屍鬼神…烏天狗の鋭い目が、二人を射抜くように見つめた。

 

せっかく、こうして相対したんだから、2人共…

 

刹那、烏天狗の声質がそれまでの軽薄なものから、その異形の姿に相応しいドスの効いた声に切り替わる。

 

 

 

「……我が(あるじ)様の西軍本隊への手土産とする首級(みしるし)を差し出せや! 今だ(あるじ)様!

 

 

 

烏天狗がそう叫びパッと煙のように姿をくらますと同時に、秀家は持っていた長笛を吹き矢の様にして構え、筒先の照準を政宗に向けて構える。

 

「………“死笙針(ししょうじん)”」

 

微かに溢れるように唱えた技名と共に、秀家が軽く息を吹き込むと、長笛の筒先から弾丸の如き速さで一発の小さな矢が射出された。

 

「Shit!!」

 

政宗は一刀で宙を薙ぐようにして、飛来してきた矢を弾き飛ばした。軌道を逸らされた矢は大広間の壁に命中すると、特殊な分厚い壁を粉微塵に粉砕し、小さな穴を開けてしまった。

その威力に圧倒されながら、政宗はある事に気がついた。

 

「I got it! さっきなのはが助けようとした生き残りを仕留めたSniperもテメェだな! だったら尚の事、手加減する必要はねぇみたいだ! Don’t away!!」

 

政宗は叫び声と共に地面を蹴り、秀家に飛びかかると、真正面から刀を振り下ろした。

まだ六爪は引き抜いていないが、それでも直撃すれば間違いなく頭に太刀が深く喰い込み、絶命する程の勢いである。

 

だが、秀家は表情を変える事なく、軽々とその攻撃を長笛で受け止めて見せた。

その小柄且つ運動慣れしていなさそうな風貌に反し、攻撃を受け止めたその身体はミシリと、床に罅を走らせながら、その場所から微動だにもせずに余裕で踏みとどまって見せた。

 

「華奢な見た目のわりには力あるじゃねぇか。 これくらいのPlay ballは微温かったか?」

 

「……興味ないね…」

 

秀家はそう言うと、長笛を棍棒の様に回し、構え直した。

その手付きは非常に鮮やかなものであり、決して素人ではない腕前である事がよくわかった。

 

「Hu~…Fluteが得物とは、随分独特なBattle styleじゃねぇか。この竜の太刀筋相手にそんな個性的な得物でどこまで食らいついて来られるか見ものだな!!」

 

政宗は叫びながら、もう一度秀家と距離を詰め、今度はその眉間を狙って、刺突を放って見せた。

 

ガキイィィィィン!!

 

だが、秀家は長笛を中断に構え、突き出されてきた刀の切っ先をその指止めの穴に通す事で、刀を受け止めてみせた。

 

「むっ!?」

 

政宗は力づくで刀を長笛の穴から抜いて戻すが、構え直す前にその隙をついて秀家が動いた。

 

「“千尋神楽(せんじんかぐら)”……」

 

秀家が唱えると同時に、風を切る音と共に政宗めがけて、目にも留まらぬ速さで長笛による刺突の乱撃を返してきた。

その予想以上の素早さに、政宗は思わず舌を巻いた。

切っ先の動きが目で追いきれない。刺突の乱撃で、政宗を持ってして完全に目に捉えきれる速さを見せるのは、好敵手の幸村ぐらいしか知らなかった。

政宗はどうにかそれを後ろに飛び退いてそれを避ける。

 

「DEATH FANG!」

 

政宗は体勢を直しながら、そのまま刀を上に打ち払い電撃を放つが、秀家は身体を回転させながら長笛を薙ぎ払い、電撃を弾く。

 

明らかに長笛としては異常な程の頑丈さに目を丸くしながらも、政宗はそれを表に出す事なく、駈け出して再三秀家との距離を縮めると、秀家は次々に振り下ろされてくる政宗の刀を長笛で華麗に受け止め、弾いていった。

 

「チィッ!」

 

政宗は秀家の首や急所に向けて刀を薙ぎ払おうとするが、秀家は鮮やかな手つきでそれを防ぎ、凌ぐのだった。

やがて、そのやりとりを数十回繰り返した後、秀家は軽く飛び上がり、手に持った長笛をそのまま目にも留まらぬ速さで回転させ始めた。

 

「… “輪廻囃子(りんねばやし)”」

 

秀家は回していた長笛を政宗目掛けて投げ飛ばしてくる。

長笛は回転したまま、政宗に目掛けてブーメランの様に飛来してくる。

 

「ッ!? Jet X!!」

 

政宗もすかさず迎撃しようと、刀を振り下ろして、刃先から電撃を撃ち飛ばした。

電撃と長笛がぶつかり合って、互いに相殺され、長笛が宙に大きく舞い上がった。

その隙を見逃さず、政宗は走りだす。

 

「MAGNUM STEP!!」

 

蒼い電流が走る刀を突き出して、政宗が秀家に向けて突進する。

だが…

 

「………甘いよ」

 

「―――ッ!? 何!?」

 

秀家はまるで軽業師のように軽々と飛び上がる事で、政宗の突進を回避してそのまま空中で宙返りすると、長笛をキャッチして、そのまま政宗に向けて振りかざす。

 

「“翔之一舞(かけりのいちぶ)”」

 

秀家はそのまま滑る様に地を移動し、政宗の横を通り過ぎ様に長笛を政宗の腹部に向けて横に振り下ろした。

避けきれず、鋭い薙ぎ技が吸い込まれるようにして腹部へとぶち当たった。

 

「グハアァァァァッ!!?」

 

そのあまりの衝撃に、政宗は刀を取り落し、少量の胃液を吐きながら背後にあった大広間の壁に向かって勢いよく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

その衝撃はかくや、あまりの勢いで粉々に破砕され、政宗の身体は大量の瓦礫と共に廊下に叩き出されてしまった。

 

「政宗さん―――ッ!?」

 

なのはが悲痛な叫びを上げる間もなく、秀家が次の標的であるなのはへと狙いを定め、地面を蹴って迫る。

 

なのはは、即座にレイジングハートを掲げ、ピンク色の魔力弾を自分の身体の回りに囲むように8個程浮遊させる。

 

「シュート!!」

 

なのはがレイジングハートを振り下ろすのに合わせて、8個の魔力弾が秀家目掛けて発射される。

まるで弾の一つ一つに意志があるかのように、8個の弾は秀家の急所を狙って飛来していく。

 

しかし、やはり秀家はその身のこなしひとつで、軽やかに避けながら、なのはに向かって迫り、長笛を振り下ろしてくる。

 

「ッ!? レイジングハート!!」

 

《Yes sir! “Round Shield”!》

 

なのはは、咄嗟に障壁魔法“ラウンドシールド”を張って、秀家の繰り出してきた打撃を受け止めるが、軽く振り下ろしただけにも関わらずその威力は絶大で、本来敵の攻撃を跳ね返す効果のある筈のラウンドシールドでさえも秀家を押し戻す事が出来ず、逆にシールドを支えていたなのはの片手にその衝撃だけで鈍い痛みが走るくらいだった。

 

「ぐっ……うぅ……ば…“バリアバースト”…!!」

 

なのはが、ラウンドシールドに追加で魔力を送るとのピンク色の円形型の魔法陣の形をしたシールドから突然衝撃波が放たれ、真正面からそれを受けた秀家は、流石に耐えきる事が出来ず、今度は自分自身が回転しながら背後の壁に勢いよく吹き飛ぶ事になった。

粉塵を上げながら壁に叩きつけられる秀家を見たなのはは、今のうちに政宗の元へと駆け寄った。

 

「政宗さん! 政宗さん!! 大丈夫!?」

 

そうなのはが声をかけた瞬間、倒れていた政宗がゆっくりと起き上がった。

駆け寄ってきたなのはに支えられて、近くに落ちていた一刀を拾い上げながら、粉塵が立ち込める秀家の叩きつけられた大広間の反対側の方を睨みつけ、首をコキコキと鳴らす。

 

「あぁ…Sorry。少しばかし気ぃ抜きすぎたみたいだ……しかし…一体、アイツはなんなんだ…? あのガキとは思えねぇ腕っぷしといい、あの鉄骨みてぇに強ぇ笛といい…見かけは華奢でもやはり五刑衆…それも上杉景勝(の鬼姫)より格上だけあって、実力は本物…か…これはこっちも本気でかからねぇとマズいようだな」

 

政宗は舌打ちをしながら腰に下げていた残っていた五本の刀を引き抜き、ゆっくりと六爪の構えをとった。

すると、ようやく薄れてきた粉塵から、秀家がゆっくりと歩み出てきた。

今の一撃で大きなダメージを負った様子はなかった。

 

「………………」

 

やはり、特定の感情を浮かべる事なく、まるで虚空を見つめるように見据えてくる秀家に、なのはも、政宗も冷や汗を浮かべながら睨み返した。

 

(……コイツは久しぶりにDangerousなEnemyだな……)

 

それは、自分が今まで相対してきた敵とは異なる未知の存在と戦う恐怖なのか…それとも武人として強い者と戦う事への胸の昂りなのか…?

 

理由のわからない心拍数の上昇を抑えながら、政宗は六爪を構える。

なのはもそれに合わせて、レイジングハートを構えた。

 

「………そうだね……僕もそろそろ本気で行こうか……」

 

「……かかってきな……宇喜多秀家……」

 

 

“独眼竜”と“エース・オブ・エース”……対峙するは、未知の物怪“屍鬼神”を操る“夜行遣い”…果たして…三者の戦いの行く先に待つものとは…!?




遂になのは見合い篇後半戦も本格的なバトルが始まりました。

とりあえず、緒戦はなのは&政宗VS秀家、ヴィータ&成実VS牛頭&馬頭という構図で開始されましたが、これが今後どのような形に変化していくかはお楽しみに。

それにしても、秀家のキャラ変は今の所好評みたいですが、リブート版ではオリジナル版みたいにキャラ立ち出来ずに影が薄くならない様に気をつけていきたいと思います。

っというわけで次回もお楽しみに!

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