リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

60 / 78
豊臣五刑衆第四席 宇喜多秀家の操る未知なる物怪 屍鬼神(しきがみ)とそれを駆使した多彩な戦術に苦戦を強いられる政宗となのは。

どうにか即席のコンビネーションでこれを耐え凌ごうとするも、そんな彼らを翻弄するかのように秀家は思わぬ新戦力を呼び出してくる。

それは、R7支部隊が密かに封印していた古代竜 アルハンブラだった!


牛頭「リリカルBASARA StrikerS 第五十六章…進軍だぜ!!」


第五十六章 ~覚醒! 古代魔炎竜 アルハンブラ~

竜―――

それは魔法世界 ミッドチルダをはじめとする時空管理局の管理内世界においても希少な召喚生物の一種である。

 

他の魔法生物とは比較にならないほどの力を持ち、中には人間に近い優れた知能を持つ種もいるとされる。

 

だが、その力の強大さ故に召喚魔法で行使する事は非常に難しく、仮に召喚できたとしても、暴走を招く恐れもあり、その際に負うリスクも計り知れない。

 

時に召喚した召喚士さえも食い殺してしまう事などまだ穏やかな方で、最悪の場合、街ひとつが丸々消失した事例も過去に何度か起きた事が確認されている。

 

ましてや、(いにしえ)の時代より生きている竜…“古代竜”と呼ばれる種類であれば余計にその力と、危険性は大きくなる……

 

一般的な生物のご多分に漏れず、竜もまた、年季を重ねる程にその力は強大さを増していく。

つまり、太古の時代から生きてきた竜程、より強く、より賢く、そしてより凶暴なのである。

 

 

機動六課の竜召喚士 キャロ・ル・ルシエもまた、子竜 フリードリヒの他にもう一体 古代竜を召喚する力を持っているが、やはりその力の強大さ故に、まだ完全には制御できておらず、実質的に封印状態にある事を、なのはは以前、キャロを機動六課の隊員に推挙する際にフェイトから聞かされていた。

 

そもそも、時空管理局に属する竜召喚士達の中でも“古代竜”を日常的に召喚、行使する人間など、少なくともなのはの知る者達の間では聞いた事がなかったし、ましてや古竜を戦力として用いるなどというハイリスクな運用方法を行っている組織・機関など勿論、存在しないものと思っていた。

 

せいぜい、魔法生物の生体研究を専門とする部隊や機関が、調査目的の為に半封印状態で飼育しているくらいであり、そうおいそれとその姿を目にかかる機会など早々にないものと思っていた。

 

しかし……今、自分達の目の前…

対峙していた少年武将…豊臣五刑衆第四席 宇喜多秀家が奏でた魔笛の音色に乗って、姿を現したそれは…紛れもなく本物の“古代竜”だった…

 

「どうして……こんなところに、古代竜が……?」

 

なのはは理解が追いつかず、狼狽しながら、呟くばかりだった…

R7支部隊において、古代竜を召喚できる程の竜召喚士がいるなどという話は、今まで聞いた事がない…

しかし、その竜の姿は紛れもなくこの次元世界のそれもかなり古代の魔法生物の特徴が現れており、とても秀家自身の召喚した屍鬼神(しきがみ)であるとも思えなかった。

 

っという事は……この古代竜は、この城塞に封印されていたという事なのか…?

 

それを秀家が何らかの方法を使って、制御下に置いたというのか……?

 

 

必死に頭を回転させて、憶測を並べるなのはに対して、秀家は現れた巨大な魔竜を前にしても、少しも動じる事なく、静かに口を開いた。

 

「うん……どうやら“繰駆足(くりからで)”は上手く定着したみたいだね…」

 

まるで、恐怖さえも感じていないかのようにその口ぶりは穏やかだった。

それが、逆にこの宇喜多秀家という人間の異常性を引き立たせているように見えた。

 

「おいCreatures Tamer…この見るからにヤバそうなWyvernは、テメェの操る屍鬼神(しきがみ)とかいう悪趣味なMonsterとは違うみたいだが…一体どうやってそんな物騒なDragonを手懐けちまったんだ?」

 

政宗が六爪を構えたまま尋ねた。

 

「……手懐けたわけじゃないよ」

 

秀家は翼をはためかせる古代竜の方にゆっくりと歩み寄りながら話した。

 

「僕も詳しくは知らされてないけど、この竜は、今は失われたある古代の魔法文明の遺物に記されていた召喚術で召喚された古代竜……名前は確か…『古代魔炎竜 アルハンブラ』だったかな…?…僕がここへ来た使命は、その古代文明の遺物に関する手がかりになる品を回収する事にあったけど……他に手がかりらしいものも見つからなかったし、これを持ち帰ればいいのかな…?」

 

「なんですって…!?」

 

その話を聞いていたなのはが思わず戦慄する。

 

西軍の最高幹部である秀家が“使命”を受けたという事は、当然彼にその“使命”を下したのはおそらく、なのは達が追っている広域指名手配犯 ジェイル・スカリエッティ、そして彼に協力する石田三成、大谷吉継率いる豊臣軍であろう。

もしも、古代竜なんて危険な代物が、彼らの手に渡る様な事があれば、それこそ後々どんな厄災がこのミッドチルダに降りかかるかわからない。

それだけは、なんとしても阻止しなくてはならないと、直感したなのはは、瞬間的にレイジングハートの穂先を秀家に突きつける。

すると、途端に秀家の足元に円形の魔法陣が浮かび、そこから伸びた複数本の鎖が秀家に巻き付く形で、彼の身体を拘束した。

 

「動かないで! その古代竜……アルハンブラを貴方の好きにさせるわけにはいかない!!」

 

なのははレイジングハートを構え、強い口調で言い放った。

だが、拘束された筈の秀家はなのはの方を振り返りながらシニカルな口調で語り返す。

 

「………僕を拘束するのもいいけど……竜は放っておいてもいいのかな?」

 

「えっ!?」

 

秀家の言葉に促される様にして、なのはが魔竜 アルハンブラの方を見ると、アルハンブラは羽ばたきながら明後日の方向を向いていた。

どこを向いているのかと、その視線を辿って見ると…その先にあったのは、麓に広がるラコニアの街だった。

 

「この古代竜は今、その身体に寄生させた僕の屍鬼神 繰駆足(くりからで)によって僕のこの笛…“操妖笛(そうようてき)祇音操邪(ぎおんそうじゃ)”の音である程度その行動を操ることが出来る……しかし、この魔竜自身が抱え持つ破壊衝動は完全には制御しきれない……だから、ここで魔竜が放たれてしまったら、僕でも抑える事は出来ないかもね…?」

 

「なっ!? …ふざけんな! そんな事させて――――」

 

「………もう手遅れだよ。独眼竜…」

 

政宗が制止する間もなく、古代竜 アルハンブラは身を翻すと、そのまま大空に向かって飛翔した。

途中で崩れかけていた城塞の城壁にその巨体をぶつけ、一瞬で強固な壁をボロボロと崩壊させてしまった。

 

「Shit!」

 

「そんな…!?」

 

政宗となのはが慌てて、視線を追うと、城塞から飛び立った竜は山に沿る形で街の方に向かって滑空していくのが見えた。

 

「大変! 街の方に向かってるッ!」

 

「ひとしきり暴れ回る気だな!!あんなのを野放しにしたら取り返しがつかなくなるぞ!!」

 

政宗はなのはの方を向き、今までにない…今日の昼間『Cassiopeia Plaza』でセブンを一喝した時ですらなかった程に、怒気含んだ表情で、叫ぶように言った。

 

「なのは! お前は飛んで、奴を追え! それから街にいる小十郎や他の管理局の奴らにも知らせて、街の奴らを避難させろ!!」

 

「でも政宗さんは―――」

 

「今は、呑気に話し合ってるGraceはねぇ!! このCreatures Tamerは俺に任せて、お前はすぐにあのWyvernを追え!! OK?!」

 

政宗は半ば強引に、手短く指示を出した。

ほぼ怒鳴るような口ぶりが、Coolを信条とする彼らしからぬ焦燥を感じさせた。

 

「……う、うん。わかった! それじゃあ、政宗さんはここをお願い!」

 

「I trust you! 俺もココが片付いたらすぐに後を追う!」

 

「うん! 政宗さんも気をつけて!」

 

「You too!」

 

手短に言葉を交わした後、なのはは、浮遊すると、そのまま全速力で切り開かれた大穴から建物の外へ飛び立ち、次の瞬間には魔竜を追い、大空に向かって飛び立って行った…

その背中を見送る政宗に向かって、秀家はまるで皮肉を投げかけるように呟いた。

 

「……果たして、彼女一人であの古代竜を止められるのかな……? 僕の屍鬼神でさえも完全に制御しきれないというのに……」

 

「他人事みたいに言ってんじゃねぇぞ…Creatures Tamer」

 

政宗は六爪を手にゆっくりと秀家に近づきながら、静かにその怒りを燃やす。

 

「それよりもテメェは自分の心配をしたらどうだ?」

 

政宗の指摘する通り、秀家の身体はなのはのかけた鎖型の拘束魔法“チェーンバインド”によって拘束されている。

辛うじて手先を少しだけ動かせて、あとは自力では微動だにも出来ない…傍から見れば、危機的といえる状態だった…

 

「……そうだね。これは少しマズいかな…?」

 

だが、秀家自身はまるで動揺した様子を見せていない。

至って、平時と変わらずに落ち着いた…っというよりは感情を感じさせる事のない淡々とした声で呟く様に話す。

その様子を見た政宗は、からかうように微笑を浮かべた。

 

「……っと言いたいところだがな。ここでR7支部隊の自称“Elite”共だったら、完全に勝ちを確信して無防備にテメェに向かって行き…そこをテメェの新たな術策で返り討ちにするって腹なんだろうが…生憎と俺に、そんな子供騙しの小技は通用しねぇ…次の手を考えているなら、遠慮なく出しな」

 

「…………やれやれ。やはり、独眼竜相手だと一筋縄ではいかないか……」

 

秀家は期待が外れた様に少しだけ、がっかりしたような重い溜息を漏らした。

 

「…君が言うなら…遠慮なくそうさせてもらうとしよう……我が身に宿れ…屍鬼神(しきがみ)殺凄羅(あすら)”」

 

秀家が再び詠唱すると、彼の胸の前に翳された大きな珠が再び突然紫色の光と衝撃波を含んだ黒いオーラを放ち、秀家を拘束していたチェーンバインドを打ち砕きながら、その身体を包み込んでいく。

すると、秀家の髪の色が、今度は銀色の短髪へと変貌し、その両目は禍々しい光る真紅の瞳を宿し、鋭い牙と槍のように尖る一対の角が生えた黒がかった紫色の着流し姿の流浪人の様な姿へと変貌し、その手にあった愛武器の魔笛が煙のように消えた。

 

新たな風貌に変わった秀家は、辺りを見渡すと、ゴキゴキと首を回すようにして鳴らすと、静かに口を開いた。

 

「へぇ。久々のお呼びと思ってきたら、なかなか面白そうな修羅場じゃねーか」

 

秀家の声に重なる様に高飛車な女の声が聞こえた。

どうやら、新たに彼に宿った屍鬼神は女の物怪らしい。

 

「……新しい屍鬼神だな……テメェは一体何者だ?」

 

政宗が六爪を向けながら、秀家に宿った何かに向かって尋ねる。

すると、それに気づいた屍鬼神は牙の生えた口を釣り上げ、そしてまるで極上の獲物を見つけたかのようにペロリと舌を出した。

 

「あたいの名は“殺凄羅(あすら)”…秀家様に仕える冥府の刀将さ……そういうあんたの名前はなんだい?」

 

そう言って、秀家に宿った女屍鬼神…“殺凄羅(あすら)”はまるで一騎打ちに望む武士の様に政宗の名を尋ねてきた。

 

「なんだ?俺の名が気になるってか? Monsterの分際で随分律儀な奴だな」

 

「自分がこれから斬り刻んで喰おうと思う奴の名前くらい覚えておこうと思ってね…特にアンタみたいな剣士はあたいにとっては大好物だ。食っちまってそれでおしまいにしてしまうなんて勿体ないじゃないか? それよりも…さっさと名前を教えてくれよ」

 

「………Ha…やっぱり、屍鬼神(テメェら)は碌な趣味持ってねぇな……そんなに知りてぇなら、教えてやる…俺は、奥州筆頭 “伊達政宗”! だが生憎と俺は、大人しくテメェの餌になる気なんざねぇ!!」

 

政宗がそう言いながら、両手に掴んだ六爪を振りかぶりながら、地面を蹴った。

それを見た秀家(殺凄羅)は再び口の端を歪ませて、笑った。

 

「いいねぇ! その闘志! そしてその見たこともない剣術…お前の様な強い剣士は、その心をへし折った時や、その後に切り刻んだ時の快楽や、それから喰らう骸の味もまた格別だろうよ!!」

 

秀家(殺凄羅)は狂気に満ちた目でそう言い放ちながら、両手に黒と白のオーラをまとった日本刀をそれぞれ一振りずつ出現させて、その手に握る。

 

すると、その背中から青白い火で出来た四対八本の手が生えてきた。しかもその手にはそれぞれ一本ずつ刀剣が握られている。

 

即ち、秀家(殺凄羅)は合計十本の刀剣を操ろうというのだ。

 

 

ガキイイイィィン!!

 

 

政宗の持つ六本の刀と秀家(殺凄羅)が取り出した掟破りの十本の刀がぶつかり、組み合う。

当然、政宗にしてみても、前人未到の十刀流の使い手である殺凄羅の能力に思わず片目を大きく見開く程に驚いた。

 

「十刀流だと…!? こりゃ確かに人間では絶対に成せない芸当だな…!?」

 

「当然だろ! あたいの剣は人間如きには誰も真似出来ねぇ! そらよ!!」

 

秀家(殺凄羅)は組み合っていた十本の刀の内、鬼火の手に握られた4本を競り合いから外すと、そのままそれぞれ鬼火の手ごと長く伸ばして、それぞれ政宗の頭と両足に向かって突き立てようとしてきた。

 

まさに空気を裂く程の強い刺突。

まともに直撃すれば、それだけでその部位をふっとばしてしまう程であろう。

それを察した政宗は無理矢理に秀家(殺凄羅)を弾き飛ばした。

距離を取り、政宗は言い放つ。

 

「なるほど……俺もSword Summitは嫌いじゃねぇが…こいつは久々にとんでもないSword manと相対する事になったみたいだな……」

 

「フフフフ…あたいもアンタみたいに骨がある獲物と相見えるのは久しぶりだよ。関ヶ原じゃ雑魚ばかり相手にして、思ったよりも肩透かしな戦いだったからね……ここでたっぷり、溜まった溜飲を下げさせてもらおうじゃないか」

 

「やってみな。Spider man! 否、Spider Ladyというべきか?」

 

政宗は軽口を叩きながら六爪を構える。

秀家(殺凄羅)も十刀を構えた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「ふっ…これだけ刀の数で勝っているあたいを相手にそこまで啖呵を切れるだけの肝っ玉がある男は久しぶりに見たねぇ。いいねぇ、ますます切り刻み甲斐や、食べ甲斐があるってもんだよ」

 

「刀の数だと?」

 

政宗はそれを鼻で笑い飛ばした。

対する秀家(殺凄羅)はその態度を不快に感じたらしく、顔を顰めた。

 

「なんだぁ? 何笑ってやがんだよ?」

 

「ああ、笑えるぜ。 アンタ…Monsterにしちゃ中々侍然としていると思ったが……肝心なところを見誤っているところを見るに、やっぱり唯のAmateurだな」

 

政宗は、六爪の内、片手に握った三本の刀を秀家(殺凄羅)に向かって突きつけて見せる。

 

「強さとは得物の数で決まるもんじゃねぇ。 大切なのは、そいつ自身の素質と鍛錬、そして心意気だ! 例えテメェが刀を十本使えようが…百本使えようが、千本使えようが、この独眼竜の操る至高の六爪を容易くへし折るなんて、甘ったれた事考えてんじゃねぇぞ!!」

 

政宗は秀家(殺凄羅)に堂々と宣言してみせた。

自分の六爪流は、秀家(殺凄羅)の十刀流にも負けない事を…

 

「ここで証明してやるぜ! この独眼竜の爪は、本物の物怪をも超えるって事をな!!」

 

「戯言を! その無駄な根性! お前の六本の刀と一緒に、へし折ってやる!!!」

 

対峙する2人から莫大な闘気と殺気が放たれる。

互いに相手を鋭い視線で睨みつけた後…全く同じタイミングで地面を蹴った…

 

 

 

ラコニア市内の中心部を走る幹線道路の途上では、片倉小十郎が乗った管理局のパトロールバンがレシオ山へ続く道の途中で、無数に続く車の渋滞に挟まれて、難渋していた。

幹線道路は、R7支部隊隊舎(城塞)の爆発・炎上を目撃した街の人々でごった返していたのは勿論、道行く車も次々に止まって、その様子を一目見ようと勝手に車を降りてしまうなどして、運転手のいない車があちこちに放置されるなどして、すっかり芋洗状態といえる程の渋滞と化していた。

バンの助手席に座っていた小十郎は、堂々と幹線道路の真ん中に出てきて、「R7支部隊陥落バンザイ!」とバカ騒ぎしている不良の集団を一瞥しながら忌々しげに舌を打った。

 

それぞれなのはとヴィータに空輸してもらう形で、R7支部隊隊舎へ向かった政宗、成実と分かれた後、小十郎はその足で、カマサ=ワギ温泉街にあったラコニア市内配属の陸士066部隊の分舎に駆け込み、事情を説明すると、機動六課への報告と、応援要請を頼み、自身もまたすぐに動ける陸戦魔導師5人を含んだ20人もの陸士隊員と共に三台陸路でR7支部隊隊舎のあるレシオ山へ向かった。

しかし、市内に入って間もなく、この大渋滞に巻き込まれた小十郎含む066部隊の車団は完全に立ち往生してしまう事となってしまったのだった。

 

「くそッ! これじゃあ、山の麓へたどり着くまでに夜が明けちまうぞ! なんとかならねぇのか!?」

 

小十郎は隣の運転席にいるバンの運転手の陸士隊員を責めるように睨みつけ、怒鳴る。

 

「一応、市内に配属されている全警邏隊員を動員したとの事ですが…何分、この街の人員配置は全てR7支部隊と後ろ盾のコアタイル准佐が担っていたもので。基本、非魔力保持者が主力の警邏隊は申し訳程度しか配置していなかったせいか、殆ど手が回らないのが現状なんです」

 

バンの運転手…陸士066部隊のフォード陸曹長は、そう震える声で説明する。

 

「やっぱり、あのバカ息子のせいか…! ったく! つくづくあのガキは人間としても、将兵としても、碌な事しねぇな!!」

 

「な…なんかすみません…我々、陸上部隊のお恥ずかしき醜態をお見せしてしまって…」

 

そう一人憤慨する小十郎の剣幕を見て、フォード曹長は完全に萎縮した様子を見せていた。

そんな彼の怯える姿に気づいた小十郎は、流石に申し訳ないと思ったのか、慌てて出来るだけ声を穏やかに加減しながら、諭した。

 

「あっ…いや…お前達に対して怒ったわけではない。すまん。少し気が立っていた…」

 

「い、いえ、お気になさらず。それに我々、所轄の陸士隊やラコニア市民(彼ら)としてもコアタイル准佐や星杖十字団の横暴にはほとほと参っていたのですからね…」

 

笛を吹き鳴らしながら駆けつけた警邏隊員に歩道の方へと追い立てられていく不良達を見つめながら、フォード曹長が説明した。

 

「実は貴方方『機動六課』が今日の昼間にR7支部隊の主力部隊との諍いに勝利したという噂は、夕方頃には市民の間でもすっかり話が広がっていたのですよ。

唯でさえ、皆、忌々しく思っていたR7の奴らが、あぁして派手にやられたとあってか、それまでの鬱憤が晴れたとテンションが上がっていたところへ、あの事態ですからね……完全に収拾がつかないまでになってしまったのです」

 

「それだけ、この街の連中も思うところがあったという事か……」

 

小十郎は、車窓からまだ遥か向こうに見えるレシオ山と、その頂きで炎上し続けるR7支部隊隊舎の城塞を見据えながら、シニカルな口調で語った。

おそらく、政宗達は既に現地に辿り着いて、あの堅城を崩壊に追いやった原因を探っている頃であろうか?

 

そう考えていると、その時、出し抜けに車内の通信システムが小鳥が囀るような音を発し始めた。

フォード曹長が運転席に搭載された機械を操作すると、助手席との間の空間に小さなホログラムモニターが投影され、そこに機動六課・分隊長 フェイト・T・ハラオウンの姿が映し出された。

 

《機動六課のハラオウンです! 片倉小十郎委託隊員はいらっしゃいますか?》

 

モニターから聞こえたフェイトの声を聞いたフォード曹長はすぐにモニターのカメラを小十郎の座る助手席側へと切り替えた。

 

「ハラオウン、俺だ! そっちの状況はどうだ?」

 

《小十郎さん! さっき、本局から正式に出動許可が降りたよ! 私とシグナムは先発組として飛んで向かっているからあと30分程で着くと思うけど、フォワードチームの皆と家康君、幸村さん、リインは、ヴァイス君のヘリで向かってもらうから、そっちに着くまであと2時間はかかるかもしれない》

 

「…2時間か…しかし、お前とシグナムが先に来てくれるだけでもありがたい。 ラコニア(こっち)はとにかく一人でも人手が欲しい状況だ。現場の様子を見に向かった政宗様や高町達からの連絡は未だ無いし、何よりも市内全体が混乱して、所轄の部隊だけではとても対処しきれねぇんだ。かくいう俺もなんとか政宗様達を追いかけようとはしているが…酷い渋滞で、このままじゃ夜明けまでに市内を抜ける事すらできねぇ」

 

《わかった。ラコニアに着いたら、R7支部隊隊舎(現場)に入る前に小十郎さんを拾いに向かうよ。それから、必要があれば、私も所轄部隊の指揮に協力するから》

 

「あぁ。頼む」

 

報告を終えると、フェイトの顔を投影していたホログラムモニターが消えた。

 

「聞いた通りだ。俺達、機動六課も出来る限りお前達に力を貸す! 苦しい状況かもしれないが、お前達も決してめげるんじゃないぞ!」

 

小十郎の激励にフォードはこの緊迫した状況を前に強張っていた気持ちが少しだけ綻ぶような気持ちだった。

出会って間もない上に、半ば素性のしれない次元漂流者であるにも関わらず、この片倉小十郎という男は不思議と頼もしさを感じる…そんな魅力をフォード曹長は感じていた。

 

その直後であった…

 

 

「グオアアアアアアアアアァァァァッ!!!?」

 

 

 

そんなフォード曹長の僅かばかりの安心感をも打ち消す巨大な獣の咆哮がラコニア市内全体を包む様に届いたのは……

 

 

 

 

「おいこらそこ! 道の真ん中で酒盛りなんかすんじゃねぇ! とっとと片付けろ! そこの2人も車の上に乗って自撮りなんかすんな!!」

 

幹線道路の脇に停まった宣伝車の屋根の上から、メガホンを使って、車や人のひしめく道路に向かって絶えず怒鳴りながら、時空管理局 陸上警邏予備隊の ダニエル・アリオン一等陸士は、ここしばらく運に恵まれていないが、今日は特に厄日だなと内心毒づきたい衝動に駆られていた。

 

通常の警邏隊と違い、警邏予備隊は特定の街を管轄とせず、一定期間ごとに、それぞれ担当する地区の中の各地を回り、その都度当地の警邏隊の応援として加わるのが主な仕事である。

ダニエルの所属する第33地区担当班は2週間前からこのラコニア市内の警邏補佐の職務についていた。

 

ダニエルは警邏予備隊の職務の中で、このラコニア市内の警邏補佐の仕事を一番億劫に思っていた。

理由は言わずもがな。この街の実質的な支配者であるコアタイル派とその手先である星杖十字団R7支部隊による絶対的魔導師優位な選民思想…魔法至上主義と、それに基づく権威主義、そして強権的な振る舞いだった。

 

自分を含め、魔導師が配属される事などまずない警邏予備隊などは、コアタイル派に組み入れられたエリート部隊…ましてや星杖十字団のようなコアタイル派の後ろ盾による精鋭部隊からしてみれば、一般市民同然の下の下といえる部隊であり、文字通り毛ほどの価値もない底辺部隊である。

 

普通に魔導師もいるはずの一般の武装隊でさえもR7支部隊からは雑兵同然にこき下ろされているのであるのだから、警邏予備隊などは最早、下僕同然に扱われる有様だ。

現に査察と称して、R7支部隊員達が警邏隊の拠点にやってきた際には、自分達、予備隊員達はもっぱら彼らの接待役としてお茶くみや鞄持ちといった使用人同然にこき使われていた。

 

そんなR7支部隊でなにかトラブルが起きたのか、やつらがまるで自分達の特権を誇示し、街全体を監視する様に配置されていた巨大な城塞が、突然爆発して炎上した事は正直「ざまぁみろ」とも思ったものの、その為にせっかくの休日を返上する羽目になったのを考えるとすぐに下りた筈の溜飲が再び戻ってきた様な気分になった。

街の連中は唯々、R7支部隊がなにか不幸な目に遭った事を単純に喜び、狂乱しているものの、もしもこれで後々になってR7支部隊…ひいてはコアタイル派から報復としてさらなる暴政がかけられるような事にでもなったらどうするのだろうか…?

その辺りのところも考えてはいないのだろうか?

 

折角の休日が返上になっただけにいざしらず、この先の不安と、ぬか喜びである事も理解せずに無責任に浮かれ騒いでいるバカな連中を相手にする事への疲労とがダニエルの心に大きな重石となって、唯でさえここ最近は不幸が続いていて気が重くなっているのをさらに増長させているように思えた。

 

中でもとりわけ不幸を感じたのは約一ヶ月前、首都クラナガンで久々の“恋人”とする予定だった意中の女性 ソフィー相手に、あともう少しで一線を越える寸前まで持ち込めたというのに、連れて行った高級ソープリゾートに突然乱入してきた一台のバイクによって全ておじゃんにされてしまい、自身は局部を強打したせいで全治2週間の怪我を負い、おまけにソフィーにはやや理不尽ともいえる動機で去られてしまう羽目になった。

勿論、越えられるはずだった一線も儚く夢幻と消えたのであった……

 

思えば、あの事件で何か縁起でもないものを取り憑かれてでもしまったのか、以来自分は何かとツキに恵まれていないような気がする。

 

この任務を終えて、返上した休暇の埋め合わせの有給が貰えたら、一度占いにでも行って見てもらうべきなのかもしれない。

 

そうダニエルが考えていたその時だった……

 

ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた街の気分をかき乱すように、突然、R7支部隊のある山の方から聞いたこともないような低くおどろおどろしい咆哮がラコニアの街の上の夜闇をつんざいて、街一帯に響き渡った。

 

表に出ていた市民は全員驚いて、空…否、咆哮の聞こえてきた先であるレシオ山の頂…つまり、今まさに市内にいる8割以上の人間が注視していたR7支部隊隊舎の方を仰いだ。

 

大通りに出て馬鹿騒ぎをしていた若者達も皆、表情を一変させ、燃え上がる山頂の方を見つめている。

 

「おいおい…一体なんだって言うんだ?」

 

周りの有象無象と共にダニエルもまた訝しげに遠くに見える城塞を見つめていた。

 

次の瞬間、燃え上がる城塞の壁が爆発と共に吹き飛んだ。

それはまるでレシオ山に隠されていたマグマが突然活性化し、火山としての活動を開始させたかのようなまさに噴火のような爆発だった。

 

突然の事にダニエルも、大通りにいた群衆も皆、飛び上がる。

崩れた城塞の周りにもくもくと黒い煙が上がるが、それは次の瞬間には瞬く間にかき消される事となった。その黒煙の向こうから巨大な城塞と比較しても負けず劣らぬ巨大な“何か”が切り開くようにしてこちらに向かって飛び出してきたからだった。

 

城塞から飛び出したそれは一度大空を高く舞い上がり、ミッドチルダでは常識である2つ重なる様に浮かんだ2つの月をバックにその姿をラコニアの街にいる全ての人間から否が応でも見える様に堂々とその全容を晒してみせた。

 

前足の代わりに持つ巨大な翼…所々に赤く光る血管のようなラインが走る身体…鋭く長い尾…そして人間の想像をあざ笑うかのような途方も無い巨体…そのフォルムは紛れもなくダニエルやこの街にいる誰もが知っているあの希少な魔法生物であった。

 

「りゅ、りゅりゅ……竜だああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

群衆の中の誰かが狂乱した声質で叫んだ。

 

ダニエルもまた恐怖のあまりに凍りついていた。

同時に頭の中に収めた管理局員としての知識や経験が全て抜け落ちて、空っぽになっていくような感覚を覚えた。

話には聞いていたが所詮は自分みたいな非魔力保持者の警邏予備隊員の自分には一生かかっても縁のないものと思っていた巨大な化け物を実際に前にして、これまでの訓練や経験など何の役にも立ちそうにない。

そもそも…一介の警邏隊員に何が出来るのかという話である。

 

 

「皆ぁぁぁぁ! 逃げろおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

それでも、ダニエルは最低限、警邏隊員としての職務だけは果たさねばと考え、無意識のうちに宣伝車の屋根の手すりを両手で掴み、腹の底から放り出した大声で叫び、通りにいる全ての人間に聞こえる様に呼びかけた。

恐らく、ソフィーとのデートを台無しにしたあの忌まわしきバイクが現れた時でさえもここまで大きな叫びは上げなかったであろう。

 

「地下だ! 近くの建物の地下室、地下道、地下水路! どこでもいい! とにかく地下に逃げるんだああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

それで100%身の安全が確保できるのかダニエル自身わからなかった。

しかし、このままここにいたら、あの竜に蹂躙され、確実に命の保証はないだろう。

 

ダニエルの呼びかけを耳にした群衆は忽ち、言われるがままに、近くの地下室がありそうな建物や地下道、地下水路に繋がっていそうなマンホールを求めてそれぞれに走り始めた。

 

ラコニア市内は突如として、今度は違う意味で大パニックとなった―――

 

 

 

 

「なっ!? なんだあの怪物は!?」

 

幹線道路の別の場所では同じく城塞から現れた巨大な影を前に、集まっていた群衆が一斉に逃げ惑う中、小十郎は車内に備え付けてあった双眼鏡をフォード曹長から拝借すると、パトロールバンから飛び降り、逃げ惑う市民の間をくぐり抜けて、近くで持ち主に置き去りにされて放置されていた青いセダンの屋根に飛び乗った。

望遠レンズと、2つの月が浮かぶ空に向け、突然現れた得体のしれない影の正体を探し求める。

そしてレンズ越しに見えた影を見つけ、その正体が、弟子のキャロが常に伴っているパートナー フリードリヒと同じ“竜”である事がわかった―――

 

まるでどこから、攻めようか品定めをしているかのように目下に広がる街を見下ろしてい姿が確認できる。

街では警邏隊が発令したアラートが鳴り響き、それを聞いた逃げ惑う人々の悲鳴や怒号も一段とボリュームが上がった様に感じた。

誰かが言いだしたのか、「地下だ! 地下に逃げろぉ!」と口々に叫ぶ声も聞こえてくる。

 

 

R7支部隊隊舎崩壊の原因が奴にあるのかはわからない…しかし、あれがフリードとは違い、我々人間に対して、微塵の友好感もない事は長年の勘から察する事が出来た。

 

小十郎は双眼鏡を下ろし、セダンの上から飛び降りると、急いでパトロールバンの周りに集まっていたフォード曹長以下、約20人の陸士隊員達の元に駆け戻った。

彼らの顔には様々な度合いの恐怖と戸惑いと驚きが浮かんでいた。

 

「我々はどうすれば…!?」

 

集った陸士隊の誰かが泣きそうな声で尋ねてきた。

見ると、全員が小十郎の方を見ている。

急ごしらえの招集で連れ出す事が出来た隊員達は主に将校階級も持たない陸士達が中心だった。

実質、小十郎の副官として付いたフォードでさえも階級は陸曹長である。

彼もまた、他の隊員達と同じく強張った顔で小十郎を見据えていた。

 

これまでの言動から、この中では一番経験的に優れていると踏んだ小十郎にこれからどうすればいいか、行動指針を仰ごうとしていた。

 

それを察した小十郎の反応も速かった。

 

「よく聞け! とにかく、まずはこの幹線道路にいる人間を出来る限り道から遠ざけるんだ! 見てのとおり、あれだけデカイ巨体の怪物だ! こんな広い場所にいたら格好の餌だ! とにかくまずはこの大通りから人を離せ! それと魔法が使える奴は避難場所に障壁や結界を張って守りを固めろ! どうやら皆、地下を避難場所にするらしい! 地下道周辺に安全地帯を作るんだ!」

 

皆動揺しているせいか、小十郎の指示にすぐに反応できなかったが、フォード曹長が身動ぎして、皆に発破をかける。

 

「話を聞いただろう。魔導師は安全圏の確保、それ以外の隊員は市民の避難誘導にかかれ! 行け!」

 

フォード曹長の指示を聞いた陸士達が一斉に動き、散り始めた。

小十郎はもう一度、空に目をやると、月をバックに滞空していた翼を持った巨大なモンスターは遂にどの地点から襲うのか心に決めたのか、まるで地表に身を潜める獲物を見つけた猛禽類のように、一気に地表に向かって急降下していく…

 

幸か不幸か、奴の目標とする地点は小十郎達がいる幹線道路から東の方に見える繁華街の方だったが、巨竜は滑空しながら、その大口を開き、その奥の口腔から白がかった紫色の炎のブレスを放射した。

凄まじい火焔が街中を駆け抜けて…立ち並ぶ建物を吹き飛ばし、飲み込み、そして焼き尽くしていく。

忽ち、その区画は火に包まれ、街に響き渡る人々の悲鳴がまた一段と大きくなった……

 

 

果たして、その内の何割が“断末魔”の叫びであるか等と、小十郎は考えたくもなかった……

 

 

 

 

なのはが城塞を飛び立った時、古代魔炎竜“アルハンブラ”は、既に最初に襲う街の区域に狙いを定め、そこへ向かって降下している最中であった。

猛スピードで降下していきながら、その巨大な口を開いたかと思うと、次の瞬間、紫色の炎を行く先の街のビルや家屋に向かって吐きつけ、あっという間にそのエリア全体を火の海に変えてしまっていた。

 

その禍々しい程の威力に戦慄しながらも、なのはは飛行する速度を更に速めて、魔竜の後を追いかける。

既にこの未知なる強敵と戦う覚悟は出来ている。

今ここで自分があの魔竜を止めないと、何千、何万のラコニアの市民が犠牲になるかもしれない…なのはには迷う事はおろか、考える暇さえなかった。

 

《おい、なのは! 一体、そっちで何があったんだ!? さっき飛んでったドでかいバケモンは何なんだよ!?》

 

この時、なのはの耳にヴィータからの念話が入った。

切羽詰まった様子の声質からして、あっちもゆとりある状況ではなさそうだった。

 

「ヴィータちゃん! 時間がないから手短に説明するね! R7支部隊隊舎に古代竜が封印されていて、それが蘇っちゃったの!」

 

《なっ、にぃぃっ!? 古代竜だって!?》

 

なのはは、詳しい経緯を省いて、現状が最低限伝わる点だけを念話で伝えた。

 

「詳しくは追々説明するから! とにかく、相手はかなり凶暴で、少しでも人手が欲しいの! ヴィータちゃん! そっちは今どこに!?」

 

《アタシと成実は今、レシオ山の山中だ! 本当ならすぐにでもそっちに手ぇ貸してやりに行きてぇけど…! 生憎と、こっちも今、厄介な化け物とぶつかっちまってんだよ!》

 

「化け物…!?」

 

ヴィータの念話に含まれたワードを聞いたなのはは、直感した。

恐らく、ヴィータと成実の元にも秀家は配下の屍鬼神(しきがみ)を送り込んだのであろう…

それも接近戦では無類の強さを誇るヴィータが苦戦しているというのだから、その屍鬼神もまたかなりの強敵の筈だ。

 

「わかった! ヴィータちゃん! こっちは私がなんとかするから、ヴィータちゃんは成実君と一緒にそっちを集中して!」

 

《なんとかするって…!? ホントに一人で大丈夫かよ!? その様子だと、政宗もいなさそうだし…》

 

「わかってる。小十郎さんの連絡が行っているとしたら、フェイトちゃん達が応援に向かってきてるかもしれないし、もしまだなら、私が直接要請するよ! とにかく、もう無茶な事はしないように気をつけるから!」

 

なのははそう嘆願する様に念話を飛ばす。

すると考えていたのか少しの沈黙を挟んで、ヴィータから返答が返ってきた。

 

《わかったよ。けど、約束だからな! くれぐれも一人で無茶な事だけはすんなよ! アタシもここを片付けたらすぐにそっちに加わるから、決してそれまでは行き急ぐ事だけはすんな!》

 

「うん。お願いね!」

 

キツい口調の中に含んだヴィータの心から心配する言葉に、なのはは嬉しさと共に頼もしさを噛み締めながら、返答し、念話を切ると、今度は市内にいる小十郎に繋げた。

 

「小十郎さん! 聞こえる!? こちら、なのはです!」

 

《高町! 無事なのか!? あの竜らしき怪物は一体!?》

 

「小十郎さん! 説明してる時間がないの! それより、六課本部への連絡と出動要請は?!」

 

《あぁ、それならもうすぐハラオウンとシグナムの2人がラコニアに着く。少し遅れるがフォワードと徳川、真田達も今こっちに向かっているとさっき連絡を受けた!》

 

自分の思う良い返答が返ってきた事に、なのはは少しだけホッとした。

 

「よかった…! とにかく、危ないから小十郎さんは出来る限り離れて! フェイトちゃん達が到着するまでは私がなんとかするから!」

 

《………分かった。死ぬなよ!》

 

そう小十郎もまた、ヴィータと同じ様な返答と共に念話を切った。

それを聞いたなのはは一瞬だけ、自分は生き急ぎすぎている風に見られているのかと疑問に思いかけるも、すぐにそんな雑念は振り払い、アルハンブラの後を追う事に集中する。

 

ふと、真下を見下ろすと、ラコニアの街の至るところで、一直線を引くように家屋が火に包まれていた。火焔ブレスによって焼き払われたのであろう。

 

「いた!」

 

やがてほどなくして、街の住宅街に次々と火を吹き付けながら飛行する古代竜 アルハンブラの姿を捕捉した。

 

 

「グオアアアアアアアアアァァァァッ!!!」

 

 

まるで破壊を楽しんでいるかのように、飛び回りながら、炎を吐きつけて、街の建物を次々と焼き払っていく…

 

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

「助けてぇぇぇぇ!!!」

 

「たすけてくれええええぇぇぇぇ!!!」

 

 

通りでは焼け落ちる建物からなんとか逃れようとする人々が逃げ惑っていた。

これ以上、あの魔竜を好き勝手にさせるわけにはいかない。

なのはは、その場に止まり、滞空したまま、足元に魔法陣を展開すると、レイジングハートの照準を少し離れた場所を旋回しながら火を吐くアルハンブラの脳天に向けて構えた。

 

魔力カートリッジを2発装填させると穂先にピンク色の魔力光を集束させていく。

 

「ディバイン……バスターーーーーーーー!!!」

 

魔力リミッターがかかっていて、どれだけの効果を発揮できるかわからないが、自分の砲撃魔法の中でも五本の指に入る技“ディバインバスター”を放つ。

レーザー状の魔力砲がアルハンブラの頭部に直撃。

次の瞬間、オレンジ色の巨大な火の玉となって炸裂した。

 

しかし、炸裂した閃光、そして白煙が晴れた時…そこに平然とした様子で羽ばたき続ける古代魔炎竜の姿があった。

砲撃が直撃したと思われし頭部の上半分のプロテクターは黒い煤が付いていたが、傷を負った様子などは微塵も見られない。

 

「流石は古代竜……どうやら…簡単に撃ち落とさせてはくれなさそうだね…」

 

なのははゴクリと固唾を飲みながら、バスターモードの形状になったレイジングハートの照準を向けたまま、目の前にいる古代竜と対峙する。

 

対する古代竜も、なのはの存在に気づくと標的を目下の有象無象から、強い魔力の持ち主である彼女に切り替えたのか、彼女の方を向くと、そのプロテクターに覆われた紅い目で睨みつけてくる。

頑丈な顎の奥で、子供の背丈を優に超える大きさの牙がギラリと光った。

刹那、その大きな口がひらかれて、敵意に満ちた咆哮が街中に響き渡った。

咆哮と共に空気が激しく揺さぶられ、なのははその振動に思わず晒されそうになるもどうにかその場に踏みとどまる。

 

そして、まるで挑戦ともとれるような咆哮に応えるかように、白の魔導師(エース・オブ・エース)は古代竜に向かって臆する事なく向かっていった―――




前回更新の折にリリバサリブート版一周年記念をお祝いするコメントを頂き、誠にありがとうございました。

リブート版はオリジナル版みたく途中で力尽きる事が内容に頑張っていきたいと思います。

P.S. 前回軽く予告していたヴィータ&成実VS牛頭、馬頭戦の続きは諸事情で今回の話に入れる事が出来ませんでした。申し訳有りません。
次回こそお送りするように気をつけたいと思っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。