リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
蘇った古代竜にたった一人挑もうとするなのはであったが……
その頃、オサム、エンネアを依り代にした屍鬼神 “牛頭”と“馬頭”と戦うヴィータと成実というこれまたクセの強い凸凹コンビも、敵の強大な力に苦戦を強いられていた……
馬頭「リリカルBASARA StrikerS 第五十七章…出陣する…」
「ここを片付けたらすぐにそっちに加わるから」
そう念話越しに、なのはに向かって啖呵を切ってみたはいいものの、今の自分の置かれたこの状況から考えて、自分の発言を果たして有言実行出来るかどうか微妙なところだなと、ヴィータは今更ながら自分の発言は少々自信過多であったかと後悔しかけていた。
「どこだぁ?! どこに隠れたんだぁ!? 出てこいチビども!!」
「気を緩めるな牛頭。奴らは、頭は猿並だが、少なくとも腕っぷしは我が主様にも引け劣らない程の強さだ。あまり舐めてかかり過ぎると、さっき以上の不覚をとるかもしれないぞ」
木々が次々とへし折られ、薙ぎ倒されていく音と共に、ズシリと振動を伴った鈍重な足音、そして
会話の内容がはっきりと聞き取れる事からして、彼らはもうずっと近くまで迫ってきているのであろう。
ヴィータは大木の間を覆い隠すように群生していた野生のブラックベリーの茂みに張って入り、身を隠していた。
幸いにも小さなベリーの木は平均的な成人男性もギリギリ身を隠せるだけの高さまで伸びていた為、(当人としては不本意であるが)小柄なヴィータにとっては身を隠すにはうってつけの場所だった。
ヴィータはブラックベリーの葉っぱを片手で押しのけながら、音の聞こえる方向を覗く。
幸いにもまだヴィータが見える範囲の木々が倒れる様子はないが、まもなく奴らはこっちに来る。
それまでに、どうにかしてあの文字通り『鋼をも越える固い身体』を打ち砕く術を考える必要がある。
(でも、どうすりゃいいんだ…?)
ヴィータは自問自答を繰り返す。
相手はハンマーフォルムではびくともしなかった上に、最重量のギガントフォルムさえも正面から打ち合ってみせるだけの耐久力を持ち合わせた怪物…それも二体もいるのだ。
しかも、自分のコンビ相手は、油断から敵の攻撃を真正面に食らってふっとばされた後、未だにその安否が確認できていない…
まさか、あの一撃で…ヴィータの脳裏に最悪のシナリオが浮かびかけたその時、突然ヴィータの背後でブラックベリーの木の枝がガサゴソと大きく動いた。
「誰だ!?」
まさか、自分の存在を察した奴らに気づかぬ内に回り込まれていたのか…?!
ヴィータがグラーフアイゼンを片手に掴みながら、音が立った方向に目を向けると。
「
口いっぱいにブラックベリーの果実…が実っている枝や葉っぱごと頬張った成実が張って出てきた。
多少、戦装束が土や泥で汚れてはいたものの、特に大きな怪我を負った様子はない。
「し、成実!? おまえ、無事だったのか!?」
成実が五体満足である事を確認すると、ヴィータも思わず顔を綻ばせる。
この際、成実がまたしても意地の汚い行動をしている事には敢えてツッコまない様にしようとしたが…
「ふぁーへ、ふふふぉほほほい、むんがむんがむーん」
「いや、何言ってるかわからねぇよ! まず口の中のもの飲み込め! そしてこんなシリアスな時に食うな!!」
ベリーを頬張ったまま喋ろうとする成実に、結局我慢できずに声は抑えながらもツッコむ事になった。
成実は口に含んでいたものを飲み込むと、改めて話し始めた。
「まぁね。俺多少の怪我なら何か食ったらすぐ治るんだよ。さっきのあれはなかなか痛かったけど、ぶっつけられたのがデケェ“クヌギ”の木だったから、その“樹液”を啜ってすぐに動ける程度まで治してやったぜ」
「いや、樹液って…お前は、カブトムシかクワガタかよ…」
またひとつ、人間が到底食べられそうにもないものを食せる事をさらっと宣言してみせた成実に、ヴィータは改めてその常軌を逸した悪食ぶりに半ば引いた。
「それで、急いで戻ろうとしていたら、丁度姉御がこの美味そうな実がなってる木に隠れるのが見えたから俺も腹ごしらえついでに来たってわけ」
「腹ごしらえ“ついで”って…お前にとってあたしはメシより優先順位下なのかよ…?」
ジロリと睨みつけてくるヴィータに対し、成実は意に介する事なく、目の前に生えていた幾つかの黒がかった赤色のベリーが実った枝を躊躇いなく噛みちぎった。
「それで、あの“牛タン”と“馬刺し”共はどうなってんの?」
「食いもんに例えた呼び方すんな。 相変わらず2体共ピンピンしてやがる。こっちもなんとか色々いい手がないか色々考えを巡らせてはいるんだが、今のところ梨の礫だ…」
「マジかよぉ…」
ウンザリした様にボヤく成実にヴィータは更に悪い知らせを言伝た。
「それに、お前はふっとばされて気づいてなかったかもしれねぇけど…さっきR7支部隊の要塞から新たにとんでもない化け物が飛び出してきやがった。それもかなり強力な“古代竜”だ。今はなのはがそいつを食い止めに当たっているから、アタシとしてはさっさとあの牛野郎と馬野郎を片付けて、応援に向かいたいところなんだがな…」
「竜!? この世界って竜がホントにいるのかよ!?」
成実は何故か微妙にズレたところへ食いついてくる。
「ツッコむところそこかよ!? っていうか、お前六課で既に竜見てるだろ!? ほら、キャロと一緒にいるあのフリードって白い子竜…」
「ええぇっ!?
無神経極まりない事を宣う成実にヴィータは改めて礼節について説教でもしようかとも考えたが、流石に今はこんな状況だけに必死に口を噤んで堪えた。
(……とりあえず今の会話は、キャロが聞いたら泣くから黙っておこう…)
ヴィータがそう心の中で教え子への細やかな気配りをするのを他所に、成実はマイペースに話を進めていた。
「だったら、このままうかうか逃げ回っているわけにもいかねぇってわけか。まぁ、俺も兄ちゃんの様子が気になるし、早くアイツらを片付けたいって姉御の気持ちには賛成―――」
「ッ!? シッ!」
突然ヴィータが成実を目顔で黙らせ、ベリーの葉の隙間の向こうを指した。
100メートル程先にある木々がバキバキと大きな音とともに倒れ、その奥から牛頭と馬頭の巨人が辺りを注意深く見渡しながら、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「来やがった…」
ヴィータが緊張を抑え、ラケーテンフォルムのグラーフアイゼンを掴みながら、成実の方を見据えた。
「いつ見つかってもいいように、お前も備えておけ」
「合点承知のはらこ飯!」
成実は頷くと、腰に下げていた『非常袋』から、先程R7支部要塞の厨房で拝借していた半分焼けたリンゴを取り出すと、それを徐に齧り始めた。
「ってそうじゃねぇよ! こんな状況で何リンゴ食おうとしてんだよ?!」
そうヴィータは極力声を抑えながらも、成実の頭をパカンと一発叩いてツッコむ。
「いや、だってこの木の実、味はなかなかいけるけど、いまいち腹に溜まらねぇんだよ。これだけじゃ、すぐに腹が減っちまうって…」
「だからって、状況考えたらわかることだろ! 『備えろ』っていうのはいつでも戦闘になって――――ッ!!?」
成実を叱咤していた最中、ふとヴィータの脳裏に考えが浮かんだ。
そう言えば…成実の『非常袋』の中身には確かひとつだけ戦闘に使えそうなものが入っていた筈…それもかなり強力な――
「…そうだ! おい、成実! お前確か、その非常袋の中に……持っていたよな?! あれ!」
「あれ? あれって何? お楽しみにとっていたマグロの刺し身?」
「それじゃねーよバカ! そうじゃなくて爆弾だよ! 爆弾! お前が“非常食”にしようとかなんとかほざいてた手投げ爆弾!」
ヴィータの言葉に促される様に、成実は非常袋の中身を弄り、特注の手投げ爆弾を取り出した。
「そうそれ! そいつはたしか、対上杉戦の為に拵えた特注品だって言ってたよな? つまり、かなり強力って事か?」
「そうだとは聞いてたけど…一応城塞をふっとばすだけの威力はあるって」
「それだ! 成実、あたしが合図をしたら、そいつを思いっきりあたしに投げつけろ。そいつをアイゼンでぶっ飛ばして、奴らに叩きつけてやる。もしかしたらそいつで奴らにダメージが与えられるかもしれねぇ」
「なるほどどじょうの柳川風! そいつはやってみる価値ありそうじゃん! 流石はヴィータの姉御! あったまいい!」
「こ、こんくらいの事、ちょっと考えたら誰でも思いつく事だろーが…無駄に煽ててんじゃねーよ…///」
妙に必要以上に称賛してくる成実に軽く赤面しながらそっぽを向くヴィータ。
成実としては純粋にヴィータの機転の良さを褒めているつもりで、それが世辞ではない事はわかっているが、やはり褒められる事には慣れていないのか、些か羞恥心を覚えてしまうのだった。
「ほぉ? 自分達から姿を見せるとは…潰される覚悟が出来たのか?」
木々を張り倒しながら進んでいた牛頭が、切り開いた様な場所の真ん中でそれぞれグラーフアイゼンと
ヴィータと成実の挙動は、牛頭の隣でその様子を見ていた馬頭に言わせれば「無鉄砲極まりない」ものだった。完全無策のまま、とりあえず再合流出来たから戦いを再開しようとしているとさえ思えるくらいだ。
しかし、その佇まいからこの2人が決して、我武者羅に自分達に再度戦いを挑もうとはしていない事を馬頭は見抜いていた。
「気をつけろ牛頭。何か考えがあるのかもしれないぞ?」
「何をしてこようが、我が身体に砕けぬものなどないわ!!」
馬頭の忠告を聞き流しながら、牛頭は倒した大木を手に取り、それを先程までの石柱と同じ要領で振り回しながら2人に向かって突進していく。
「アイゼン!“フォルムツヴァイ”だ!!」
《ja! Raketen form Form Zwei!》
グラーフアイゼンが発光と共に柄が2倍程伸び、鎚の後部側の推進ユニットが3基の推力偏向ノズルに形が変わった事を確認すると、全身を砲弾のように投げ出して体当たりをかましながら、牛頭の脳天を目指して、推進ユニットからジェットを噴射させながら鉄鎚を振り下ろす。
牛頭はそれを黒いオーラで包んだ大木で受け止めた。先程まで使っていた石柱同様に大木もまた、元の素材ではありえない鋼の様な耐久力を持ち合わせていた。
「チィッ! ホントに手にしたものならなんでも自分の身体と同じだけ頑丈な武器にしちまうんだな!」
舌打ちをしながらそうぼやいたヴィータは何を思ったのか、今度は早々に打ち競り合いを切り上げると、そのまま後ろに飛び退いて距離を空けた。
「馬鹿め! 三度も逃してなるものかぁぁぁぁぁぁ!!!」
牛頭の咆哮の様な叫びと共に振り下ろされる大木を、巧みに飛び躱すヴィータを狙い、後方から馬頭が羽型の魔力弾で狙撃し、援護攻撃を加えてくるが、ヴィータはそれさえも宙返りを交えた華麗な機動飛行で避けると、カッと目を見開きながらどこへともなく声を張り上げた。
「今だ! 成実!! あれを出せ!」
瞬間、大樹の隙間から成実が2体の巨体の前に飛び出してきた。
「おうよ! 頼むぜ姉御ぉぉ!!」
叫びながら、成実は『ひじょうぶくろ』から取り出したそれを真上にいたヴィータに目掛けて素早く投げた。
回転しながら飛んでいったそれをヴィータはグラーフアイゼンを振りかぶりながら待ち受け、渾身の力で振り下ろして打ち付けると、牛頭の顔に向かって打ち飛ばした。
「……へっ!?」
ところが、予想していた音とは全く異なる間の抜けた効果音と共に、予想していたものよりも明らかに質量が小さく、物質も異なり、そしてちょっと生臭いものが牛頭の顔に向かって飛んでいき、牛頭の額に当たったのを見て、ヴィータは思わず間抜けな声を上げる。
それを見た成実は…
「いっけねぇ! 間違えて、お楽しみにとっておいた“マグロの刺し身”ぶん投げちゃった!!」
『ひじょうぶくろ』から本来投げる筈だった爆弾を取り出しながら間抜けな声質で叫んだ。
「バッカヤローーーーーーーーーーーーーーッ!!」
刹那の速さで地表に向かって急降下して、成実の胸ぐらを掴む形で回収すると、猛スピードで飛んで退避しながら、叱咤する。
「もっかい言ってやる! このバカヤロッ!! 生ゴミなんか投げつけてどうすんだよ! 無駄に怒らせただけじゃねぇーか! なんでお前はこうも肝心な時にヘマすんだよ!!」
「ぐげげげ…!? そ、そんな事言ったって咄嗟だったんだからさぁ…! って姉御せめて、掴むなら襟首にしてよ! このままじゃ俺窒息しちまうってぇぇ…!?」
「うるせぇ! むしろ一回窒息しろ、アホーー!」
「そんなご無体なぁぁ…!ぐええぇ…!!」
成実の大失態を叱責しながら、またも森の中を飛んで逃げる羽目になったヴィータの後方から羽型の魔力弾を乱射した馬頭と、額に成実の投げつけてきた鮪の刺身を貼り付けられた牛頭が怒りに吼えながら木々をなぎ倒しつつ追いかけてくる。
「おのれ、どこまでもふざけ腐ったチビ共め!! もう勘弁ならんぞ!! 我らをコケにするとどんな事になるか思い知らせてくれるわ!!」
牛頭はそう怒号を上げながら、額に張り付いていた鮪の刺身を鬱陶しそうに手に取ると、躊躇う事なく口に含んで、噛まずに飲み込んでしまった。
「あああぁぁっ!? あの牛野郎!俺のお楽しみにとってたマグロ食いやがった!! ひっでぇぇや!」
「言ってる場合か! それより逃げるぞ!!」
必死に低空飛行で逃げる2人を、牛頭は両手に持った大木を振り乱しながら、森の中を突き進んでいくのだった。
*
六爪を構える政宗と、新たな屍鬼神“
先程までの激戦の舞台となっていた隊舎の本館は既にその3分の2が紅蓮の炎に包まれつつあり、その明かりは政宗達のいる城壁は勿論の事、要塞のあるレシオ山の森の木々をうっすらと紅に染め上げている。
秀家(殺凄羅)は青い鬼火で出来た八本四対の腕で掴んだ八振りと、生身の腕で掴んだ二振りを併せて十刀の妖刀を構え、殺生欲の抑えられない狂気的なギラつく瞳で政宗を睨みつけていた。
「へへへ…アンタなかなか粘るねぇ、早くその身体たっぷり切り刻んで食ってやりたいよ」
秀家の言葉に併せて、年若い女性の様な声が重なって、政宗に向かって挑発的な言葉を投げかけてくる。
「Ha! 腕っぷしを褒めてくれるのは結構だが、後半の悪趣味なWordは蛇足だろう?」
「いいや。むしろ、あたいとしてはそっちのが本心なんだぜ」
秀家(殺凄羅)は背中に生えた鬼火の腕に持った八刀を頭上に掲げ、腕ごと高速で回転させるように振り回し始めた。
対する政宗は六爪を構えたまま、じりじりと両足の爪先をにじるように前に推し進め、いつ秀家(殺凄羅)が斬りかかってきても良いように備えていた。
「食らいな!
秀家(殺凄羅)が技名と共に飛び上がり、鬼火の腕を回転させたまま、それぞれ斜め十字に振り乱しながら振り下ろしてくる。
政宗はそれを後ろに飛び避ける。
刹那、政宗が立っていた場所の地表は巨大な爪で抉り取られるように消失した。
その斬撃の威力と刀数に物を言わせた攻撃の悍ましさを、政宗は改めて思い知ることとなった。
(コイツ…剣術のskill自体は大した事ねぇが、やはり10本も同時に刀を使われると、色々と面倒だな…)
心の中でそう吐き捨てていた政宗の面前に、秀家(殺凄羅)が着地から再び飛び上がり、今度は八本の鬼火の腕を大きく回しながらの斜め切りで襲いかかってきた。
政宗がそれさえも避けると、その機動力が厄介と踏んだ秀家(殺凄羅)は、再度着地すると、今度は身を沈ませてからの、突きに転じる。
刀刃の切っ先が夜風に舞い散る火の粉を反射し、ギラギラと光を放ちながら、政宗の身体を串刺そうと鋭く躍った。
先程、政宗が秀家(殺凄羅)に説いた言葉にもあるとおり、武器とは、決して数にものを言わせて所有すればするほど優位に事を運べるだなんて子供じみた理屈は通じないものである。
むしろ、操る武器が多ければ多い程、操り手はそれを片手ひとつで扱い、使いこなすだけの腕力や、技術が求められる。
政宗の出身である時空の戦国時代はともかく、少なくともなのは達の出身の地球・日本の歴史に二刀流の使い手の武人が少ない事もそういった理由からである。
しかし、秀家(殺凄羅)はそうした複数以上の得物を同時に使いこなす上のネックなど全く感じさせずに、自由自在に扱いながら、政宗を追い詰めていた。
対峙したまま、少しずつ後ろに追われている政宗の背のほんの数メートル後方で城壁が崩壊して、絶壁のような状態となっている。
「トドメだ! バラバラにしてやるぜ!!」
「Ha! Things don't! Yeah ha!!」
ここで政宗が六爪に電撃を走らせて、青白く発光させた三本二対の刀を爪のように斜めに振り上げた。
追い詰めたと油断した隙を突いて、相手が刺突を放とうと身構えたところを雷撃を含んだ斬破を打ち飛ばして、形勢を転じる一手にするつもりであった。
だが、秀家(殺凄羅)は鬼火の腕で掴んだ八刀を身体の前に組み交わせる様に防御の構えをとると、呆気なく防ぎ、砕いてしまった。
勿論、秀家(殺凄羅)には僅かなダメージも負った様子はない。
組んでいた八刀を解れる奥で、秀家(殺凄羅)の嘲りの笑みが不気味に浮かぶ。
「Shit!! 読んで字の如く冥府のAsuraの笑い顔ってか…!!」
「フヘヘ…! アンタを喰らう時にはもっと良い笑顔を浮かべているだろうよ」
凍りつきそうな邪悪な声で語りかけてくる秀家(殺凄羅)。
政宗は改めて、この年端も行かぬ若者が『豊臣五刑衆』に連ねている理由を思い知らされるような気がした。
「流石、大したものだぜ。テメェの主人は…扱うMonsterはどいつも中々の手練…テメェみてぇな“香車”の駒でさえ、この腕前とくりゃ、他にはどんな伏兵を持っているか興味が湧いてきたぜ」
政宗が話している間も、両者共に動きを止めていなかった。
「アハハハハハ! そうか、そうか! 我が主の強さに興味をいだき……んっ?」
政宗の話を聞いて愉悦の笑いを上げかけた秀家(殺凄羅)だったが、話している最中にその言葉の意図に気が付き、笑いを止める。
「待ちな! テメェ! あたいを“香車”の駒だとか言いやがったな! “金将”や“銀将”、“飛車”、“角行”ならまだしも何故、“香車”なんだよ!?」
「気づいたか? Spider Lady刀の数と人外の力に物を言わせて強引に押し寄せようとするBattle Styleなテメェにはピッタリな例えだと思ったんだがな?」
そう言って、政宗は意図返しと言わんばかりに不敵な嘲笑を返してみせた。
「――――ッ!? 身の程知らずの人間風情が!」
一転して激昂した秀家(殺凄羅)は後ろへと後退し、距離を空ける。
「餌にしようと思ったが気が変わったぜ! テメェはここで灰にしてやる! “
すると、秀家(殺凄羅)の操る十本の刀に異変が起こる。
それぞれの刀身の周りに纏わりつく様に炎の渦が走り、瞬く間に妖刀を燃え盛るトーチの様に紅の炎に包み込んでしまった。
秀家(殺凄羅)は躊躇う事なく、それらを振りかぶりながら、身体を弾ませて政宗に迫り、乱れ斬りを放って、その四肢をバラバラに切り裂こうとする。
だが、政宗はその時を待っていたかのように咄嗟に地面を蹴ると、突っ込んできた秀家(殺凄羅)の背面に周り込んだ――――
「何ぃッ!?」
一方目標を失い、虚しく空気を切った事に動揺する秀家(殺凄羅)の背中に政宗は躊躇なく六爪の片割れの三刀を突き立てながら、解説する様な口ぶりで言った。
「何時の日か、小十郎と遊興で将棋を指していた時に教わったのさ…『前に一辺倒しか進む事の出来ない香車を取りたい時には自前の駒を後ろから回し込んで挟み込め』ってな…今がその時ってわけだ」
「が…!? がが……ッ!?」
政宗は決して追い詰められていたわけではなかった。
追い詰められている様に装いながら、新たに秀家がその身に宿した屍鬼神の特性を見定めていたのだった。
そして一通り把握した後、相手が十分に気を緩めた時、一気に攻勢に転じた結果、勝負はあまりにも呆気なくつく事となった。
殺凄羅の十刀とそれを操る鬼火の腕、そして火を宿す妖刀は確かに強力だ。
しかし、実際に刃を交えて分かった事は、“それだけ”の存在でそれ以上の特異な強さが感じられない。
恐らく、秀家の従える屍鬼神の中でもあまり重要な存在ではないのであろう。
「あ……あたいが……こ、こんな…人間風情に……!?」
秀家(殺凄羅)が驚いた表情で自分の胸から突き出た三本の刃先を見下ろす。
「だから言っただろう? 『強さとは得物の数で決まるもんじゃねぇ』って」
「だ…黙れぇ!!」
政宗の言葉を必死に否定するかのように、秀家(殺凄羅)は激昂の言葉を上げながら無理矢理に背に刺さっていた刃を引き抜くと、振り返りつつ、火が消えた十刀を闇雲に振り回した。
「DEATH BITE!!」
政宗は身を微かに沈めながら、引き抜かれた三刀を地表に向けて構えながら、間合いを詰め、一気に天上に打ち上げる様にして振り上げた。
「ぎゃああああああぁぁぁぁッ!!?」
青白い雷光のような三重の斬破が秀家(殺凄羅)の身体を紙人形の様に吹き飛ばし、そのまま崩壊した城壁に開いた巨大な亀裂の反対側の壁の絶壁へと打ち飛ばし、叩きつけた。
政宗に勝利の余韻に浸る暇はなかった。
街に向かって飛んでいった古代竜を単身追跡に向かったなのはの安否が気になる。それに、別行動している成実やヴィータ達も何かしらの刺客が向けられているのかもしれない…
刹那、そんな政宗の不安を確証させるかのように麓のラコニア市内の各所から火の手が上がり、レシオ山の中腹近くの森からは轟音と共に木が巻き上げられるのが見えた。
「Shit! 一難去ってまた一難…か。 無事でいてくれよ…なのは……」
政宗は、苛立たしげに呟くと、10メートルはあろうかという城壁から地表に向かって飛び降りると、着地と同時にまずは木々が巻き上がった森に向かって駆け出して行くのだった。
しかしこの時、政宗は気が付かなかった。
砂埃の消えた城壁の崩れ出てきた絶壁に叩きつけられた筈の秀家の姿がどこにもいない事に…
*
「あのチビ共め…! あまり我らをコケにしているとどうなるか思い知らせてやる!」
大樹を次々となぎ倒しながら、牛頭は奮然としながらも、追い立てた獲物を弄ぶのを楽しんでいるかのような嗜虐的な声を上げながら森の中を進んでいた。
「牛頭…弄ぶのは勝手だが、そろそろ奴らの息の根を止めないとな…あれは小さいがバカじゃない。特にあの紅の雌ガキは見かけに反して相当な猛者だ。恐らく今にも我らの鋼の肉体を砕く術を考えつくかもしれないぞ…」
その横を走る馬頭が言った。
「現にさっきも失敗したみたいだが、何か我らを倒す良い思案を上げていた様子だったからな」
「フン! 生魚の切り身を顔にぶつける嫌がらせが良い思案ってか? 馬頭よ! 我らも随分と見くびられたようだな!! それか奴らは相当なバカだという事であろう!」
「…まぁ、あの雄の野猿がバカなのは間違いないようだが…それでも油断をしない方が―――」
馬頭がそう話していた時、一際大きな大樹を押しのけ、木々がない切り開かれた広場の様な場所へと出てきた二体の前方にグラーフアイゼンを構えたヴィータと、変則三刀の内、何故か木刀だけを片手で構えた成実が立ち、待ち受けているのが見えた。
「ほぉ。とうとう逃げるのを諦めて、我らに叩き潰される決心がついたようだな。いやはや、殊勝な事で結構だ」
「生憎、アタシも
「ほぉ、大した自信だな…! ならばやってみせるがいい! チビどもが!」
怒声と共に牛頭が大地を蹴り、右腕に掴んだ大木を勢いよく振り上げた。
その瞬間、ヴィータはキッと目を鋭く尖らせながら脇に控える成実に向かって叫んだ。
「今だ成実! 今度はしくじんなよ!!」
「合点承知のはらこ飯! 姉御!」
成実が元気よく返しながら、手ぶらの筈の片手を腰に下げていた『ひじょうぶくろ』の中に突っ込むと、今度は間違える事なく、中から野球ボール程の大きさの爆弾を取り出した。
それと同時にヴィータはハンマーモードに戻ったグラーフアイゼンを野球のバッターの様に大きく振りかぶって構えてみせる。
「思っきりかっとばしちまえ! 姉御ぉ!」
「シュワルベ……」
成実が叫びながら手を振り上げ、爆弾をヴィータの目の前に投げる。
「フリーデン!!!」
それを見計らい、ヴィータは黒い鉄製の球体に向かってグラーフアイゼンを力を込めて振り下ろすと、鎚の中心に見事に命中させ、そのまま飛びかかってくる牛頭に向かって打ち放った。
「させるか!!」
しかし、ヴィータの打った爆弾が牛頭の脳天に命中する直前、その背後から馬頭が山野を揺るがすような怒声と共に羽型の魔力弾を放ち、牛頭に直撃する前に爆弾を炸裂させてしまったのだった。
薄暗い夜の森を一瞬だけ昼間に変えてしまう程に眩い閃光と共に爆弾が炸裂し、白煙と共に熱く、凄まじい圧力の爆風が広場中に吹き付ける。
それを真正面に受けたヴィータと成実は吹き飛ばされながらも、どうにか地面の上で受け身をとって、体勢を大きく崩して、隙を見せてしまう事は避ける事ができた。
しかし、肝心の牛頭は…?
2人がすぐに正面を警戒し、白煙が晴れていくのを待っていると…
「ふぅ……今のは直撃していたらまずかったかもな。ありがとよ馬頭よ…!」
「何ッ!?」
「マジソン!?」
角の片方が折れながらも、それ以外は全く傷を負った様子のない牛頭が勝ち誇ったように鼻息を立てながら現れた。
その様子を見て、目を見開くヴィータと、大袈裟な仕草で仰天する成実の反応を見て、牛頭の隣に立ちながら馬頭が不敵な笑みを零す。
「馬鹿め…一度しくじった手の内が通じるとでも思ったのか? しかし、それもどうやらもうお終いみたいだな…」
「……チィッ!」
「どうするよ? 姉御?」
苛立たしげに舌を打つヴィータに成実が尋ねる?
ヴィータは振り向く事のないまま小さく頷いた。
「仕方ねぇ……やるぞ」
ヴィータは言うと同時に成実を背後から抱えると、そのまま空に向かって地面を蹴って飛び立った。
突然の挙動に思わずビクリとした二体の屍鬼神だったが、それがすぐに例の如く敵前逃亡と理解すると、すぐに余裕を取り戻した。
「フハッハッハッハッ! 哀れだな。せっかくの切り札も通じぬと踏んで逃げるとは…!」
天上高く舞い上がっていく2人を見据えながら、牛頭は嘲りの色を濃くしながら哄笑を上げる。
「しかし…最早、貴様らの茶番に付き合っているのも飽きたわ。馬頭、撃ち落としてしまえ」
「…任せろ」
馬頭は頷きながら牛頭の横を進み、前方へと歩み出ると、片手を天上に向けて構えてみせた。
一方、地上から50メートル近くの高度まで達していたヴィータは地上の様子をちらりと確認するや否や…
「……しめた! いくぞ成実!!」
「おうよ! ドーンと言っちゃってくれよ!!」
何を思ったのか、突然その場で成実を手放すと、手にしたグラーフアイゼンをギガントフォルムへと変形させる。
一方の成実は宙で膝を抱え、まるで球体を作るように丸くなる姿勢をとってみせた。
「……全身の骨が粉々に砕けちまってもしらねぇからな!? ヴィルデス…ゲシュッツウゥゥッ!!!」
初めて唱える技名と共にヴィータがギガントフォルムのグラーフアイゼンを全力で薙ぐと、その等身大以上の大きさの鎚でなんと成実をボールの様に打ち飛ばしてみせたのだった。
「「ッ!? なんだと!?」」
「っしゃあああああああああぁぁぁぁぁ!!! 三牙月流奥義………!!!」
そして、打ち飛ばされた成実はそのまま空中をピンボールのように高速回転しながら、隕石もかくやの様な速度で、地表に向かって突進していく。
完全に油断していた馬頭も牛頭も、自分に向かって回転しながら落下してくる成実を前に回避もしくは防御の構えをとるのが僅かに遅れてしまい、慌てて迎え討とうとしたその時には成実は馬頭の懐の前に迫っていた。
「小十郎の兄貴命名…“
「グハアァッ!?」
次の瞬間、馬頭の巨体の背中を突き破って、口に無柄刀を咥え、両手に直刀と木刀を咥えた成実が大量の黒がかった大量の血と共に現れ、文字通り隕石のように大きな轟音と衝撃、噴煙を上げながら地面に着地…っというよりは“着弾”するのだった。
「わ…我の身体…が……貫かれた………だ……と……ッ!?」
口から血反吐を吐き、何が起こったのか理解できないと言わんばかりに濁った声を上げながら、屍鬼神“馬頭”はゆっくりと地面に倒れ伏す。
思わぬ攻め手で相方を斃されたのを見て、牛頭は何が起こっているのか理解できなかったのか、ほんの一瞬だけたじろいだ。
その隙を突くように、天上に逃げていた筈だったヴィータがそのまま引き返してくると、その垂直降下の勢いに任せながら、グラーフアイゼンをもう一度振りかぶってみせる。
「ギガント…ハンマァァァァーーーーーッ!!!!」
牛頭の横をすり抜けながら、ヴィータは全身を回転させる様に身の丈以上の鉄槌を斜めに振り下ろし、牛頭の残っていたもう片方の角に向かって叩きつける事に成功した。
巨大な岩石が砕けるような音と衝撃を伴いながら、牛頭の残っていた角は僅かに付け根の部分を残して、粉々に粉砕されたのだった。
「グオオオォォッ!?」
くぐもった悲鳴を上げながら、牛頭が数歩後ろに仰け反った後、そのまま背中を地面に打ち付けるようにして倒れ込んだ。
初めて、大いに手応えのある一撃を加えられた事を確信しながら、ヴィータは地面に着地すると、倒れ伏した巨体の前で今だ白い砂塵が巻き上がったままのクレーターの方を振り返った。
「成実!? おい、成実! 大丈夫か!?」
自らやった事とはいえ、巨大な岩はおろか、巨大な鋼鉄の壁をも容易く打ち抜く程の威力を誇る、グラーフアイゼンの…それもギガントフォルムの強打を全身で受けるという前代未聞の命知らずな事をしでかしてみせた成実が果たして無事でいるのか、ヴィータは攻撃が成功した事を確認して尚も心配で仕方なかった。
バリアジャケットを装備した魔導師でさえも四肢のいずれかの骨が複雑骨折する事は避けられない。ましてや一般人で、後進的な文明の粗雑な防具しか身に着けていない成実が受けようものなら、それこそヴィータが最初に懸念していたとおり、全身の骨が粉砕されてしまう事はおろか、最悪人の形も留めていない肉塊へと成り果てている可能性だってあったのだった。
もしそんな事にでもなったら、政宗や小十郎になんて詫びを入れたら良いかわからない…そんな不安を抱えながら、薄れかけた白煙に向かって呼びかけるヴィータだったが、そこへ…
「痛ててて…珍しく打ち身が出来ちまったよ……こりゃしばらくアザが残るな…」
地面に生じた3メートル程のクレーターの中から砂埃に塗れた成実が這い出てくるのが見えた。
一瞬、それが四肢の骨を折って起き上がれないのかと危惧するヴィータだったが、その直後、成実は何事もなかったかのように立ち上がってみせた。
「し、成実!? おま…大丈夫なのか!? どこも骨折れてねーか!?」
「あっ? ちょっとばかし背中が痛ぇーけど、別にどこも骨は折れてねーからだいじょーぶだって」
そう言いながら、両腕を大きく回しながら、その場で跳ね上がってみせる成実を見て、それが決してやせ我慢ではない事を理解したヴィータは胸を撫で下ろしながらも、最早人外ともいえるその強靭な身体に軽く引き気味になっていた。
「そ、そうなのか…? だったらよかった…って言うべきなのか…? お前のその打たれ強さにどん引くべきなのか…? ま、まぁ、無事だったんならそれでいいけどよぉ…」
本当であれば安堵すべき場面であるのだが、何故か釈然としない様子でボヤくヴィータであったが、一先ず成実が生きていた事を確認して胸を撫で下ろした。
次の瞬間、倒れていたはずの牛頭が勢いよく起き上がった。
「おのれえぇぇぇぇ! チビどもめ!! よくも、よくも我が片割れを…!! 許さん…許さんぞおぉぉぉ!!」
発狂寸前ともとれる咆哮を上げながら、振り下ろされる豪腕を、ヴィータと成実はそれぞれに真横に側転する事で回避してみせた。
「アタシの全力の“ギガントハンマー”でも倒れないとは…その頑丈さはまさに生きた要塞だな」
「黙れぇぇ!? 貴様のナマクラ如きに倒れるなどありえぬ!! こうなれば我が全ての力を尽くして、その小さな体叩き潰してくれようぞ!!」
ヴィータと牛頭は言葉を交わし、互いの全ての力を懸けてぶつけ合おうとした。
その時だった……
シリアスな空気の中に突如鳴り響く不穏な音…
「おぉ!?」
突然叫び声と共に顔を絶望に歪ませて牛頭が腹を押さえ出す。
「なっ…なんだぁ…?!」
あまりに予想外な展開に再度グラーフアイゼンを構えようとしていたヴィータも思わず唖然となる。
「は……腹が……!? な、なぜだ!? 何故、急に……!?」
「腹ぁ!? な…なんで!? なんで急に…?」
牛頭の口から出た思わぬ言葉にヴィータはますます困惑した様子を見せた。
すると、話を聞いていた成実が手を打ちながら、何か思い出したように頷く。
「あっ…! ひょっとして、さっきテメェが食ったマグロの刺し身…あれやっぱ腐っちまってたのかも?」
「ってあれかよ!?」
あまりに予想外にして間抜けな理由を聞かされ、ヴィータが思わず声を張り上げてツッコむ。
まさかここへきて、一番役に立たなそうなゴミ同然のものが思わぬ切り札になった事に、ヴィータは今の自分の感情をどう表せばいいかわからなくなりそうだった。
「ぐああああああああああああぁぁぁぁぁ!! こ、こんなふざけたような戦術で……我がしてやられるだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
牛頭は腹を抱えながら、その巨体を投げ出すようにもんどり打った。
「っしゃあ! 今なら叩き潰せるぜ! 姉御!!」
「…なんかイマイチしっくり来ないけど……やるか!」
成実に促されたヴィータが動いた。
経緯はどうあれ、トドメを刺すには絶好の機会ができた事に変わりはない。
ヴィータは成実をもう一度抱えると、そのままもんどり打つ牛頭のずじょう30メートル程の高さまで上昇していく。
「アタシはヤツの脳天を! オマエは土手っ腹を! 同時に打ち込むぞ!」
「合点承知のはらこ飯!」
「それ!」と掛け声と共にヴィータは成実の身体を離し、彼を地表に向けて落としたかと思うと、すぐに自身も直滑降に降りて、彼の横に並ぶ形で、地面に仰向けに倒れる牛頭に向かって落下しながら、グラーフアイゼンを振りかぶり、。
それに合わせて、成実も
一瞬の後、再び隕石が堕ちたかのような激しい爆音と振動がレシオ山の森に響き渡る。
そして間髪を入れずに数本の巨木がへし折れて、地面に倒れ打つ音が追従した…
*
土煙の立ち込める巨大なクレーターの底に、ヴィータの鎚撃で頭の上半分を叩き潰され、成実の斬撃で胴体を真っ二つに裁断された牛頭が動かなくなっていた。
ヴィータと成実はクレーターから這い上がりながら、荒れた呼吸を整えつつ、今一度自分達が討ち取った化け物がもう動かない事を確認する為に振り返ってみる。
「ぐ……ぐぐっ………おの…れ……チビども………これで…終わった……と…思うなよ……」
半壊した顔で必死に恨み節を絞り出し、多量の黒い血反吐を吐きながら牛頭は、最早その姿を捉えているかもわからないヴィータと成実に向かって言い残す。
「我……ら……
最後にそう言って完全に動きを静止した巨大な牛顔の巨人から魂と思しき青白い発光体をスッと天に向かって抜けていくのが見えたかと思うと、瞬く間にその体を縮ませていき、遂には一人の男の亡骸へとその姿を変えた。
「…コイツは…!?」
「あっ! あの見掛け倒しのヘタレ隊長じゃね!?」
亡骸の男に、ヴィータも成実も見覚えがあった。
顔は潰されているものの、その服装と体躯は間違いなく
「っという事はまさか…!?」
ヴィータが何かに気がついた様に、少し離れた場所に倒れ伏しているであろう馬頭の下へと駆け寄って確認した。
すると馬顔の巨人の代わりに残されていた一人の女性らしき遺体を見つけ、その傍に立って、顔を確かめてみた。
「やっぱりそうだ……副隊長のフェートンだぜ」
「どういうことなの?」
成実が両手に持っていた直刀と木刀を背中に戻しながら歩み寄って尋ねた。
「つまり、あの化け物の正体はR7支部隊の
「ゲゲッ!? って事は俺たち、さっきまで“人間の死体”と戦ってたって事!? マジかよ、あの牛野郎の肉焼いたら美味そうって思ってたのに、人間の死体は流石に食えないって! エンガチョー!」
「いや、そもそも牛の巨人の化け物を食おうって考える時点で『エンガチョー』だっつぅの…」
激戦を制したばかりにも関わらず、相変わらずのペースで話し続ける成実に呆れ顔のヴィータであったが、一先ず手こずっていた強敵を倒せた事を実感し、ホッと胸を撫で下ろした。
だが、その安堵も森の木々の向こうに望むラコニアの街の各所に広がる赤い炎…そしてその上空を閃空する大きな影とそれを追うように飛ぶピンク色の閃光を見て、直ぐに消えた。
「成実! どうやらぼんやりしてる時間はねぇみたいだ! 街が危ねぇ! すぐにアタシらも行くぞ!」
「マジで!? それじゃあ、その前にちょっと腹ごしらえを――――」
そう言って呑気に腰に下げていた非常袋に手をかけようとする成実だったが、その前にヴィータは天上目掛けて飛び立ちながら、その襟首を子猫のように掴み上げてしまう。
「いいから行くぞ成実!! メシは後ッ!!」
「えええええぇぇぇぇぇぇっ!!! そんな殺生だってば姉御おおおぉぉぉっ!!!」
ドップラー効果の混じった成実の悲痛な叫び声を響かせて、2人は市街地の方へと飛んでいくのだった…
みなさん。約2ヶ月ぶりです。
また更新間隔を開けてしまい申し訳有りません。
ホントに調子良い時と悪い時の差が激しすぎるのはなんとかならないものかと悩んでいるところです。
とりあえず、今回はどこまでペースを上げられるかわかりませんが、飛ばしすぎて『燃え尽きる』事がないように気をつけたいところです。