リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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【前回までのリリカルBASARA StrikerS】

豊臣五刑衆第四席 宇喜多秀家の手で解き放たれた古代竜 アルハンブラは、ラコニアの街を我が物顔で蹂躙し、止めようとするなのはや小十郎をもまるで意にも止めず、その凶悪な能力で彼らを苦戦させ、遂には小十郎を戦線離脱に追いやる。

そこへ応援に駆けつけたフェイトとシグナムが交代するも尚も圧倒的な強さを見せて暴れるアルハンブラは遂には街の中心部へと落下し、戦いは更に混線を極める事となる…!

一方、それぞれ相対していた敵をどうにか退けた政宗とヴィータも急ぎ、なのは達の元へと駆けつけようとしていたが…


なのは「リリカルBASARA StrikerS 第五十九章。出陣します」


第五十九章 ~轟叫 灰燼の上の竜退治~

時折聞こえてくる轟音と、それに合わせる様に下から突き上げるかのように響く振動に身体を揺さぶられる度に、なのはは自らの代わりに必死で戦っているであろうフェイトとシグナムの救援に行きたいと思ったが、しかし、今自分達がいるこの場所の状況を見ると、むやみにこの場を離れる事への抵抗感が生まれ、そんな中、目の前で新たに手助けが必要な場面を目の当たりにすると、身体が勝手に手を貸しに行ってしまうのだった。

 

負傷した小十郎を連れて、戦線を離脱したなのはが向かった先は、ラコニア市内で一番大きな医療施設とされる“コアタイル記念ラコニア統合医療センター”だった。

その院名を知った時は、おそらく病院の出資先と思われるコアタイル家やR7支部隊のような選民思想で患者や避難民を選り分ける様な愚行を行っているのではないかと心配したが、実際に訪れてみると、その院名に反して中身は普通の総合病院だったのか、それとも今が緊急事態なだけあってか、院内は魔導師や非魔力保持者など関係なく、多数の重軽傷患者を含めた避難民で溢れかえっており、病院側も決してそれを選別する事もせずに公平に受け入れている事がわかり安堵した。

兎にも角にも、病院全体が救急外来か最前線の野戦病院と化していると称しても過言でない程に内部は緊迫していた。

病院の医師や看護師達はひっきりなしに担ぎ込まれてくる怪我人の手当に追われ、警備についた陸士隊はパニック状態の避難民を宥めつつ、未だに街の上空で暴れ続けている未知の敵への警戒もしなければならず、それぞれに多忙を極めていた。

そんな中、なのはは自分の消耗した魔力と装備の補修を済ませた後、同じく中度の重症患者として処置室に運ばれた小十郎の安否を心配し、こうして簡単な検査と治療が終わるのを待っていた。

 

「全く。この世界(ミッドチルダ)にきて数ヶ月になるが、こっちの医療技術や魔法の便宜ぶりを間近で体験すると、未だに鳥肌が立ちそうになるぜ…」

 

トレードマークである土色の陣羽織(ロングコート)の右腕の裾を捲くり、手の甲から二の腕にかけて包帯が巻かれ、額にも同様の処置を施された小十郎がそう呟きながら、処置室から出てくるのを見つけ、なのはは行き交う人にぶつからない様に注意しながら小走りで近づいていく。

 

「小十郎さん! 怪我は大丈夫?」

 

「あぁ。右腕が折れて、眉間に罅が走っていたらしいが、幸い魔導師の医務官がスタッフにいたおかげで、なんとかすぐに治癒魔法で骨は繋いでもらえた。だが、医者からは「今夜一晩は動かすな」と釘を指された。コイツが(利き腕)じゃなかったのがせめてもの救いだぜ」

 

そう言いながら小十郎は負傷した手に目を配った。ちなみに、本来なら、魔導師ならば治癒魔法による施術を受けた後、自身の魔力を消費する事で自己治癒能力を少し向上させる事で、骨折程度であれば治療後の完全回復までのインターバルも必要とせずに治せるのだが、生憎と非魔力保持者である小十郎にはそれができない。

戦いと違って、彼の操る”気”ではどうしても代用する事ができなかった。

 

なのはと小十郎は一先ず、病院の外に出て、アルハンブラと戦っているであろうフェイトやシグナムの戦況を目視で確かめに行く事にした。

二人が病院のエントランスホールを抜けて正面玄関に向かっていく間にも、引っ切り無しに擦り傷や煤に塗れた市民が駆け込み、すれ違っていく。

 

新人達(フォワードチーム)を乗せたヘリは今どの辺にいると?」

 

小走りで駆けながら、小十郎が尋ねた。

 

「5分前にリインと情報交換をしたけど、まだここまで100km圏内に入っていないって。早く見積もってもあと30分はかかるかな…?」

 

「30分か……今のこの街の状況にしてみたら、悠久の時に思えるぜ……」

 

小十郎の言う通り、ラコニア市内はアルハンブラが引き起こした被害によって既に市街地の4割近くの建物や道路が破壊され、多くのエリアで大規模な火災が発生しているという有様だった。

この病院を始め、各地に設けられた緊急避難場所の施設やシェルターは必死でこの災厄から逃れようとする人で溢れかえり、それぞれ従事する医療関係者、救急隊、そしてそれらを指揮・統括する陸士隊もとにかく人手が足りない状況だった。

 

「高町。お前も治療が済んだのなら、早くハラオウンやシグナムの援護に行ってやれ」

 

正面玄関を抜け、病院の前の広場へ出ながら、小十郎はそう促すが、なのはは前線に戻る前にどうしても確認しておきたい事があった。

 

「けど、ヴィータちゃんや成実君…そして政宗さん達が無事かどうかだけ、確認しておきたいの」

 

なのははそわそわしながら、呟くように言った。

レシオ山の『星杖十字団』R7支部隊隊舎で豊臣五刑衆の新手 宇喜多秀家と相対した政宗は、解放されたアルハンブラの対処をなのはに任せ、一人秀家と相対する為に一人隊舎に残り、その前に分かれて行動していたヴィータや成実も新手の強敵に出くわしたという情報を聞いて以来、それぞれ音沙汰がない。

当然、先程ヘリと連絡をとる前になのはは、政宗やヴィータ、それぞれに念話で安否確認をとろうと試みていた。

 

しかし、街の上空を飛び交うアルハンブラが発する強大な魔力による影響か、まだ街から距離を飛んでいたヘリにいるリインと違って、ラコニア市郊外の山にいるはずの政宗達にはいくら念話を飛ばしても、応答がなく、そればかりかこちらの声が届いている様子さえもなかった。

 

「高町…」

 

なのはの言葉を聞いて、小十郎も足を止めた。

確かに彼女の気持ちもよくわかる。特に政宗が相対しているのは豊臣が誇る5人の最高幹部の一翼を担う人物だ。

 

その秀家という者が、五刑衆の”次席”なのか”第四席”なのかはわからない。また彼がどんな能力を駆使する人物なのかは具体的にわからない状況だ。

それでも、これまでそれぞれ六課や東軍を前に、強大な実力を示してきた第三席 小西行長や、第五席 上杉景勝と肩を並べる程の者であるのだから、一筋縄でいかない事は確かである。

何よりも、これだけの被害を生む程の力を有した魔竜を解放したというのだから、それだけでも並の武芸者ではない事は確かである。

 

主 政宗の実力を疑うわけではないが、それでも未知数の強敵に一人で挑みに行ったと聞かされてから、小十郎は気が気でならなかった。できる事なら、このまま政宗がいるであろうR7支部隊隊舎に向かいたいところではあるが、片手を負傷し、おそらく六割程度の実力しか出せないであろう今の自分が応援に駆けつけても力になれるかどうかわからない。

そう思うと、この窮地を前に、手傷を負う事になってしまった己の不覚に、小十郎は怒りさえも覚えそうになる。

 

その時、病院の施設外から新たな陸士隊員達が慌ただしく駆け込んでくるのが見えた。

見ると、彼らに守られるようにして重軽傷患者や子供を中心とした避難民達が慌てふためきながら逃げてきていた。

小十郎は彼らを誘導する陸士達の中に見知った顔がいる事に気づいた。

自身と共に街を襲ったアルハンブラの最初の災厄に遭遇した陸士066部隊のフォード陸曹長だった。

初遭遇の後、魔竜を追おうとした小十郎と分かれて、自身の部隊の隊員達を連れて、市民の避難誘導と避難場所の造設に向かった彼の無事を知って小十郎は思わず安堵の笑みが溢れた。

小十郎は急いで彼の元に駆け寄る。

 

「フォード!」

 

小十郎に気づいたフォード曹長は、同伴していた陸士達へ「先に行け」と手短に指示を飛ばして、先に行かせた。

 

「片倉さん、それに…高町空尉!? これは失礼。陸士066部隊のレーザー・フォード陸曹長です!」

 

フォードは小十郎と一緒にいるなのはに気がつくと、慌てて敬礼しながら迎えた。

 

「ご苦労さまです。それより、これは一体?」

 

「何か起きたのか?」

 

なのはが手短に敬礼を返しつつ尋ねると、小十郎も追従する様に質問した。

 

「はっ! 我が部隊は先程まで市庁舎前の広場において造設した臨時の避難センターにおいて避難民の保護を行っていたのですが…そこへあの魔竜が突如乱入してきて、今現地は大混乱となってます!」

 

「「なっ…!?」」

 

「こうして重傷者と子供を中心に可能な限りここまで避難させていますが、それでも広場にはまだ大勢の市民が取り残されています!」

 

フォードの報告を聞いて、2人は絶句した。

 

あの魔竜が大勢の人が集まっている場所へ…!?

 

奴と戦っているフェイトやシグナムはどうなっているのか…?

 

それが脳裏を走った瞬間、なのはは迷わず行動に出た。

 

「小十郎さん! ここをお願い! 私は市庁舎の方へ行きます!!」

 

言うなり、なのはは返事を待たずに待機モードに戻していたレイジングハートを再びセットアップしながら走り出し、そのまま浮遊すると、一気に加速して飛び立った。

 

「わかった! 政宗様やヴィータ達の事は俺に任せておけ! そっちは頼んだぞ!!」

 

なのはの姿が病院の真正面に並ぶ建物の向こうへと消えていくのを見届けた小十郎は、右腰に下げた愛刀を確認しながら、フォードの方を向いた。

 

「フォード。すまないが、機動六課のヴィータ二等空尉宛に緊急用の念話を飛ばせないか試してくれないか?」

 

「はぁ…しかし、あの魔竜の放つ強大な魔力波の影響か、今は念話を含めてラコニアの全ての連絡手段が繋がり難い状態になっているのですが…」

 

「それでもいい!今はとにかく、仲間の無事と現在地を確認したいのだ!」

 

小十郎の鋭い声に、フォードは反射的に武者震いをしてしまうのであった。

 

 

 

 

一方、市庁舎前の広場にて相変わらず力衰えぬ魔竜と対峙するフェイトとシグナムはというと…

 

「ハアァッ!!」

 

まだ大勢の人々が逃げ惑う広場の中、魔竜アルハンブラの牙が罪なき一般市民に向けられる前に、どうにかシグナムが先制して奴の関心をこちらに向けさせようと、正面から斬りかかるも、やはりその攻撃は、その巨体にそぐわぬ俊敏な動きであっさり回避されてしまう。

 

「チィッ!! あれだけの高さから落ちたというのにまるで堪えていない…! 流石は古の時を生きた魔竜というべきか……!」

 

「シグナムッ! 私が後ろから援護する! 貴女はとにかくあの竜を避難する人達からできる限り離して!」

 

「了解した!!」

 

フェイトはシグナムの返事を聞くやいなや、飛行魔法で宙に飛び上がり、一気にアルハンブラの懐に入り込むと、今度はシグナムの邪魔にならないように、背後に回り込んでから連続攻撃を仕掛けた。

 

「てぇりゃあああぁッ!!」

 

 

ザシュッザシュッ! ドゴォンッ!

 

 

だが、フェイトの攻撃はどれもアルハンブラの装甲に弾かれるばかりで、有効なダメージにはなっていないようだった。

 

「くぅッ…!? あれだけの勢いで地面に叩きつけられたのなら、多少は脆くなってるかと期待していたけど…」

 

フェイトとしては高所から落下した衝撃で装甲の耐久性が僅かでも衰えている事を期待しての攻撃であったが、相変わらず強固に弾く様子からみて、その希望的な可能性は無いようだった。

 

(それなら…”ソニックムーブ”!)

 

《Sonic Move!》

 

ならばとばかりに、フェイトはソニックムーブで足回りを強化しながら、アルハンブラの背後に一瞬で回り込むと、装甲に覆われていない尻尾の付け根を狙い、全力を込めた一撃を放った。

 

 

ガギインッ

 

 

しかし、渾身の魔力を込めて放った筈のバルデッシュによる攻撃は、まるで小枝を叩き折るように呆気なく受け止められてしまい、逆に反撃と言わんばかりの強烈な尻尾による薙ぎ払いを受けてしまう。

 

 

 

バキイィンッ!! ズダアンッ

 

 

咄嵯に防御結界を張って直撃は免れたものの、その凄まじい勢いまでは殺せず、そのまま数十メートルも吹き飛ばされ、その先にあった陸士隊が

設営していた救護所のテントへと突っ込み、倒壊させてしまった。

幸いテントの中にいた人達はアルハンブラが襲来した時点で真っ先に逃げ出していた為、既に無人であったが、フェイトは崩れたテントの上に思いっきり身を投げ出される事となってしまった。

それを見たアルハンブラは、フェイトの下へと向かわんと、身体の向きを変えようとするが、それを防ごうと、シグナムが立ちはだかり、正面からレヴァンティンを振り下ろして、アルハンブラの顔を纏う装甲に激しく打ち付けた。

 

 

ガギャンッ! ギンッ! ギャリンッ!

 

 

「ぐぅぅッ…! せめてヴィータと二人がかりであれば、罅の一つでも付けられる筈だが……!!」

 

装甲の強固さと、アルハンブラ自身の力の強さに、苦虫を噛み潰しながら呟くシグナム。

 

「シグナム!」

 

その隙にフェイトは再び飛行魔法を発動させて上空へ舞い上がると、体勢を立て直そうと試みる。

一方、アルハンブラの方はというと、シグナムの攻撃を受けながらも、まるで意に介さず、彼女の存在など無視するかの如く、首を捻って彼女を払いのけてしまうと、フェイトがいる上空に向かって、大きく口を開いた。

すると次の瞬間、開いた口から猛烈な風圧が吐き出されたが、フェイトはその中に雨の様に細かな液体のようなものが混じっている事に気づいた。

本能的にそれがまともに食らったらマズいものであると悟ると、咄嗟に横に逸れる形で回避した。

直後、アルハンブラの吐き出した謎の雨が地上…今しがたフェイトが突っ込んだ崩れた救護テントに落ちたかと思うと、途端にジュウッという音を立てながら、テントの残骸や地表を覆っていた石畳が白い煙を上げつつ、ドロドロの粘土状に溶けていってしまった。

 

 

「これは…!?」

 

それは紛れもなく酸性のブレスであった。

フェイトとシグナムはその光景を目の当たりにして驚愕する。

この竜はどうやら炎だけでなく、このような厄介なものを吐き出すだけの芸当を持っているようだ。

しかも厄介なのが、その威力…今しがた吐きつけられた酸の雨は、降り掛かった箇所に散らばっていた救護テントの残骸を跡形もなく消失させてしまった。

この周りに人がいなかった事がせめてもの幸いであったが、もしも今の攻撃が、まだ広場の各方面に避難しようと逃げ惑っている市民に降り掛かっていたら……

フェイトは改めて、アルハンブラの吐いた酸の雨の恐ろしさを実感する。

 

「テスタロッサ! どうにかしてヤツをここから人のいない場所へ誘導するぞ!! あの火炎は勿論の事だが、今の強酸の雨をこれ以上ここで撒き散らされたら、被害は甚大な事になるぞ!!」

 

シグナムはそんなフェイトの傍らに来ると、アルハンブラに向けて構えを取りながら声を掛けた。

 

「そうだね。せめてもう一度空へ誘導できれば…」

 

フェイトはそう答えながらバルディッシュを構え直し、アルハンブラの動きに注意を払う。

だが、二人の目論見は外れる事となる。

何故なら、アルハンブラが次に攻撃行動を取ったのは、二人ではなく、自らがいる場所から一番近い広場の出入り口の方向……つまりはこの場から離れようとしていた人々に対してだったからだ。

アルハンブラは大きく翼を広げて羽ばたかせると、暴風のような強風を発生させ、広場を囲むように建っていた周囲の建物を破壊しながら、次々と避難しようとしている人々を襲っていく。その様子はまさに獲物を見つけた猛禽類のようにも見えた。

人々は悲鳴を上げながら必死に逃げようとはするが、突然発生した突風に足を取られてしまい、転倒する者が続出している。

 

「マズい!」

 

「やめろぉぉぉぉぉッ!!!」

 

フェイトとシグナムは急いでこれを止めんと、それぞれバルディッシュとレヴァンティンを構えながら、翼を羽ばたかせるアルハンブラの背中目指して、突進をかける。

 

「シグナム! さっきと同じ、もう一度同じ箇所に連続して攻撃を当ててみよう! 今の時点で、私達の攻撃で僅かでも手応えがあったのは微妙だけど、少なくとも一瞬でも動きを止める事はできるかも知れない!」

 

「そうだな…。よし、ならば奴の頭を覆う鎧を狙うぞ!!」

 

二人は同時にアルハンブラの頭部を守る兜状の装甲に狙いを定めると、まずはフェイトの方がバルディッシュの魔力刃を巨大化させた一撃を叩き込むべく、振り被る。

だが、アルハンブラはそれを予期していたかのように、今度は逆にフェイトの方を向き、大きく口を開く。

するとそこから、またもや強烈な風圧のブレスが吐き出されようとした。

だが、フェイトはこれを素早く回避。

アルハンブラが口を開けたままの姿勢では、どうしても攻撃に移れないと判断したのか、すぐに閉じようとする。

そこへシグナムがすかさず斬りかかった。

 

ガギャンッ! ギンッ! ギャリンッ!

 

しかし、彼女の渾身の斬撃を受けてもなお、アルハンブラの身体を覆う装甲には傷一つ付いてはいなかった。

その事に舌打ちしつつ、一旦距離を取るシグナムだったが、その間にフェイトは再度アルハンブラの背後へと回り込み、バルディッシュを振り下ろす。

だが、やはりこれも弾かれてしまう。

そしてフェイトが離れた隙を狙って、再びアルハンブラはフェイトの方を向くと、大きく口を開き、先程と同じように強力な風圧のブレスを吐き出そうとする。

フェイトがそれを察した瞬間、アルハンブラの口から、またしても風圧のブレスが吐き出された。

 

今回は酸の雨こそ含まれてはいないものの、その分勢いは更に強くなっており、まるで竜巻のような渦巻き状になっていた。

これでは避ける事もできず、シグナム共々巻き込まれるのは明白であった。

フェイトは思わず顔を青ざめる。

 

(マズい!)

 

次の瞬間、アルハンブラの吐き出すブレスがフェイト達を飲み込もうとした時……

 

 

ドンッ!!

 

 

アルハンブラのブレスが吐き出されたと同時に、突如として上空から一発の魔力弾が落下してきて、フェイトとシグナムを包み込んでいたブレスに命中すると、それを相殺する様に空中で大爆発を起した。

それにより、フェイト達は何とか難を逃れる事ができた。

一体何が起こったのかと、二人が視線を上に向けると、そこには自分達のいる位置よりも遥かに高い位置に、レイジングハートを構えたなのはの姿があった。

 

医療センターを飛び立ったなのはは、市庁舎目掛けて真っ直ぐに飛行していたが、その最中に、アルハンブラに苦戦するフェイト達を遠目に気付き、慌てて砲撃魔法を放って援護した。

 

「フェイトちゃん! 大丈夫!?」

 

なのはがフェイト達の元に降り立ちながら、心配そうな表情を浮かべて声を掛けてくる。

 

「うん、私達は平気だよ。それより小十郎さんは大丈―――」

 

「グオアアアアアアアアアァァァァッ!!!?」

 

フェイトがそう言いかけたところで、アルハンブラが咆哮を上げながら、なのは達の方に向かって飛来しながら突進を仕掛けてきた。

咄嗟にそれぞれ飛び退いて回避する3人だが、すれ違い様によく見ると、今の爆発による風圧を真正面から浴びたせいか、アルハンブラの身体を覆う装甲がまた何枚か剥がれたのか、先程までよりも生身の表皮を晒している箇所が増えているのが確認できた。

 

「いいぞ! 装甲がなければ、こちらの攻撃もヤツに届くやもしれん!」

 

シグナムはそう言うと、改めてレヴァンティンを構える。それを見て、フェイトもバルディッシュを構え直した。

一方、射撃・砲撃魔法がアルハンブラの装甲に通じない事を知っていたなのはは下手に前に出ようとせず、二人の様子を横目に見ながら、アルハンブラの動きを警戒していた。

しかし、アルハンブラは何故か追撃してくる事はなく、その場で滞空したまま動かない。

どうやら、自分の攻撃を邪魔をしたなのは達に怒りを覚えているらしく、3人を睨み付けている。

その間に一時狙われかけていた市民の殆どが、無事に広場から避難する事に成功した。

 

「おい、なのは! テスタロッサ! 奴の様子が変わったぞ!」

 

「「え?」」

 

シグナムの言葉に促されてアルハンブラの方を見ると、確かに先程までの血に狂った猛禽類を思わせるような狂気を含んだ鋭い眼光とは違い、今はどこか理性を失ったかのような濁った瞳をしており、明らかに様子がおかしい。

すると、次の瞬間―――

 

「グルルル……」

 

突然、アルハンブラは喉の奥底から絞り出すように低い声を発し始めると、その両翼を大きく広げる。

そして、その翼を羽ばたかせ始めた。

 

ゴオォッ! ブワアァッ!

 

すると、アルハンブラの周囲に強風が発生し始め、それによって周囲の瓦礫などが舞い上がり、なのは達が立っている地面が激しく揺れ動く。

 

「うわっ!?」

 

「な、なんだこれは?……ッ! テスタロッサ! あの風に触れるなよ!」

 

シグナムが何かに気付いたかのように、慌てた様子でそう叫ぶ。

だが、その時には既に遅く、暴風に晒されるフェイトは、身体のバランスを保つ事ができなくなりかけていた。

しかしそれでもなんとか耐え抜き、吹き飛ばされないように堪えていたが…

 

「きゃあぁっ!?」

 

突如、アルハンブラがこれまで以上の速さで飛び立つと、そのまま3人に向かって体当たりを食らわせようとしてきたのだ。

3人はどうにか直撃だけは回避したものの、その衝撃によってフェイトが大きく後方に吹っ飛んでしまう。

 

「フェイトちゃん!」

 

なのはは咄嵯に飛んでフェイトを受け止めるが、アルハンブラはその隙を突いて再び2人に向かって飛びかかって行く。

 

「させるかぁッ!」

 

しかし、今度はシグナムが間に合い、アルハンブラの突撃はフェイトの代わりにシグナムが受け止める事となる。

 

ガキイィンッ!

 

シグナムは、突進するアルハンブラの頭部の装甲をバルディッシュで受け止めると、魔力カートリッジを2発リロードして強化させつつ、そのまま力任せに押し返そうとするが、アルハンブラの巨体を前にしては、流石にそう簡単にはいかなかった。

 

「く……この……! 刀身の強度を上げてもダメなのか…!?」

 

「グウゥッ!!」

 

「ぬおぉ!?」

 

シグナムが押し返すよりも早く、アルハンブラが首を大きく振り払いシグナムを天上に向かって大きく突き弾いてしまった。

すると、アルハンブラは不意に、自身の翼に一筋の黒い稲妻を走らせる。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!」

 

そして咆哮と共に両翼を一閃振り下ろすと、打ち上げられたシグナムに向かって、黒い稲妻が空を走り、体勢を直す為に一瞬無防備になっていたシグナムに直撃した。

 

「ぐああぁぁ!!」

 

「「シグナム(さん)ッ!!」」

 

なのはとフェイトが悲痛な声を上げる中、空中に投げ出されたシグナムは苦痛の声を上げながら、更に吹き飛ばされ、そのまま地表へと叩き落とさてしまった。

 

「がはあっ!」

 

シグナムはそのまま地面に落下し、全身を強く打ちつけてしまう。

そこへ追い打ちと言わんばかりにアルハンブラが口を大きく開くと、再びあの凶悪な威力の火炎弾を発射する構えを見せた。

 

「く……ぐうぅ……」

 

まだ意識はあるようだが、立ち上がって回避行動を取るだけの余力は残されていないようで、シグナムは苦しげに声を上げながら、トドメの業火を吐きつけようとするアルハンブラを見つめていた。

しかしその時――

 

《Plasma Lancing!》

 

シュンッ!

 

突如として現れたプラズマランサー5本が、アルハンブラへと命中し、攻撃態勢をとっていた魔竜の関心を背けさせる。

 

「お前の相手は私だ!」

 

基本形態であるアサルトフォームの形をとったバルディッシュを構えながら、フェイトがアルハンブラに向かってわざと挑発する様に叫んだ。

どうやら先程の一撃は、フェイトがアルハンブラの注意を逸らすために放ったものだったらしい。

だが、今のアルハンブラにはそんな事は関係なく、ただ自分の邪魔をする存在にしか見えていないらしく、フェイトの方を振り向きもせず、すぐにシグナムの方を睨み付ける。

 

「グルル……」

 

「こっちだよー! 来ないなら、今度はその鎧が取れちゃったところに当てにいくけどどうするー?」

 

すると、フェイトの隣に並んでいたなのはもレイジングハートをバスターモードの状態で構え、アルハンブラの気を引こうと、少しおどけてみた様な口調で語りかけた。

すると、その一言に反応したのか、アルハンブラは標的をシグナムからなのは達の方に変えて飛びかかった。

 

「グオォッ!」

 

「よし! 今のうちに!」

 

攻撃を回避しながら、フェイトは地上にいたシグナムに向かって叫ぶ。

 

「恩に着る…!」

 

2人が時間を稼いでくれている間に、シグナムはどうにか立ち上がる事に成功すると、すぐに戦線に戻るべく飛び立とうと試みた。

しかし、先程の黒い電撃のダメージは深刻だったのか、体中に強いしびれが残り、思うように力が入らない。

まだすぐに動くことは無理だった。

 

(シグナムさん、大丈夫!?)

 

シグナムの脳裏になのはからの念話が届く。

 

(あぁ、どうにかな…しかし身体が動かない……どうやら唯の雷撃ではなかったみたいだ…)

 

シグナムは内心で舌打ちをした。

まさかこの自分が、いくら古竜といえども、古代ベルカの時代から幾度も相手取り、討ち取ってきた竜を相手に不覚をとるとは……。

しかし、後悔している暇はない。今はとにかく、少しでも早く戦場に復帰する事が最優先事項なのだ。

その為にも、まずは飛行魔法を発動させようと試みるが……。

 

「……っ!?」

 

シグナムは愕然とした表情を浮かべた。

何故か、魔法が発動しないのだ。

それだけではない。魔力変換資質『風』を持つシグナムは、本来ならば自身の周囲に風の防護フィールドを発生させており、それがシグナムの防御の要となっていたのだが、それすらも発生しなかった。

つまりそれは、自身の身を守る術がないという事に他ならない。

 

(くそ! 一体何が起こっている!?)

 

シグナムは自分の身に起きている事態に困惑するが、原因を考える前に目の前で戦っている2人の危機が迫っていることを思い出し、シグナムは歯噛みした。

 

「く……動け、私の体よ……ッ!」

 

シグナムは必死に動こうとするが、やはり上手く体が言う事を聞かない。

 

(まさか…!? さっき食らったのは魔法を封じる"呪法”とでもいうのか……!?)

 

そう考えると、全ての辻妻が合う気がする。

現在のミッドチルダを始めとする時空管理局の管理下の世界で知られる”封印”の魔法は、ロストロギアをはじめとする強大な魔力を伴った遺物を封じる為に使われる術や、なのは達をはじめとする強大な力を持った魔導師が、力を抑制するという目的から敢えて魔力の出力を抑える為のリミッターなどが主である。

 

だが、シグナムら守護騎士(ヴォルケンリッター)が知る古代ベルカの時代には、攻撃と共にそれを受けた者の力を封じ込め、使えなくしてしまう、今でいうところの「呪法」と呼ばれる攻撃魔法が存在した記憶がある。

しかし、それは古の時代の魔導師の中でも特に一部の者しか使われる事はなく、また、その難解さ故に時代と共に廃れ、今となってはその術式は殆ど残っていない筈だった―――

その失われた筈の呪法を、人間ではなく竜が使用した事例など、現代のミッドチルダはもとより、シグナムが知る古代ベルカの時代でさえも、見た事がなかった。

 

(バカな…いくら古代竜とはいえ、”呪法”までも使う竜だなんて規格外にも程がある!! あれは、一体どこの魔法文明の産物なんだ…!?)

 

シグナムは内心で驚愕しながらも、何とか立ち上がろうと試みたが、やはり体は思うように動いてくれない。

その間にもアルハンブラは、空を飛び交いながら、なのはとフェイトに向かって炎弾を放ち続けていた。

2人は何とかアルハンブラの攻撃をかわし続けているが、それもいつまでもつかわからない状態になっていた。

 

 

「グオオォッ!」

 

 

「きゃああ!」

 

「うわあっ!」

 

アルハンブラの放った炎弾の一つがなのはとフェイトに命中し、2人とも悲鳴を上げて落下していく。

更にそこへ追い打ちをかけるように、アルハンブラは口から灼熱のブレスを吐き出す。

どうやらアルハンブラは、自分の邪魔をする存在は全て排除するつもりらしい。

そして、そのままなのはとフェイトに向かって急降下していった。

このままではあの2人が危ない。

シグナムは、なんとかして立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。

 

 

(く……こんな時に……!)

 

 

シグナムが己の不甲斐なさに苛立つが、その間にも2人に目掛けてアルハンブラが突っ込みながら、徐々にその大きな口を開ける。

何も吐きつけようとする予兆が見られないところをみると、単純にそのまま二人に喰らいつこうという事が察せられた。

 

「マズい! テスタロッサ! なのは! すぐに回避しろ!!」

 

シグナムが2人に向かって叫ぶが、既に遅かった。

アルハンブラは大口を開けて、二人の身体にかぶりつこうとした。

 

しかし次の瞬間――――

 

X-BOLT(エックスボルト)!!!」

 

不意に広場に響いた叫び声と共に突如として、青白い稲妻が3本ずつ十字に交差して出来た雷撃がシグナムの背後から飛来し、2人を喰らおうとしていたアルハンブラの頭を直撃した。

それによって、アルハンブラの軌道は大きく逸れて、広場の端の方へと落下していくが、それでも地面に向かって落ちてくるなのはとフェイトは止まる事がない。

シグナムは慌てて二人を助けようとしたが、先程の電撃によって体が麻痺していたせいでまだ素早く動く事が出来ずにいた。

 

(ダメだ…! 間に合わない!)

 

シグナムは思わず目を瞑りかけたその時だった。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

今度は聞き覚えのある威勢の良い男の声が聞こえてきたかと思うと、シグナムの真上を紅と蒼の影が高速で通過していった。

そして、シグナムの目に紅の影の正体がヴィータである事に気がつくと同時に、ヴィータは両手に抱えていた蒼の影の正体…政宗を落下してくるなのはに向かって力の限り投げつけてみせた。

 

「In time!」

 

「フェイト!」

 

宙に投げ出された政宗は鮮やかな一回転を決めながら、地面に激突するギリギリのところでなのはを両手に抱える様にキャッチしてみせた。

同じく、ヴィータも政宗を投げた勢いのまま、少し離れた場所に落ちかけていたフェイトの下へ飛ぶと、見事その身体を受け止める事に成功した。

 

「Hu~…まさにjust in timeだったな。Are you OK?」

 

突然現れた自分の想い人の腕の中に抱かれた事で呆然としているなのはに対して、政宗が声を掛ける。

 

「ま…政宗……さん…!?」

 

すると、それに答えるかのようになのはは自分が今、政宗の両手の上に全身を任せている…所謂”お姫様だっこ”な状態である事に気がつき、ハッとなって、顔を真っ赤にして慌てふためき始めた。

 

「あ、え、えっと、これは……!い、いきなりそれは、ちょっと大胆というか……! って、ち、違うの! その、大胆っていうのは、決して変な意味とかじゃなくて……」

 

「What? 何の話をしているんだ? それより状況見ろ」

 

軽くツッコミを入れながら、政宗は、アルハンブラが広場の端の方にあるまだ残っていたビルを押しつぶす形で落ちたのを確認してから、フェイトを間一髪受け止めたヴィータ、そしてシグナムの方をそれぞれ目視で確認する。

 

「政宗! ヴィータ! お前達、無事だったか?!」

 

シグナムが、ホッとした表情を浮かべながら言葉をかけると、ヴィータはフェイトを地面に下ろしながら答えた。

 

「あぁ、色々な事がありすぎたが、なんとかこの通りアタシも政宗もこのとおりピンピンだ!」

 

そう言いながら、ヴィータは政宗の腕の中で恥ずかしげに俯いているなのはを一睨みする。

 

「なのは! お前もいつまで政宗の腕の上でのろけてんだよ!?」

 

「…ハッ! ご、ごめんヴィータちゃん!」

 

ヴィータに指摘されて我に返ったなのはは、慌てて政宗の手から降りた。

一方、フェイトは先程のアルハンブラの炎弾によって裾が焦げたバリアジャケットのケープを脱ぎながら、ヴィータに尋ねる。

 

「それにしても2人共、よく私達がここにいるってわかったね」

 

「小十郎がフォードって所轄の陸士隊員を通して、念話でここまでの大まかな戦況込みで知らせてくれたんだよ。ちょうどアタシと政宗の2人もレシオ山を降りて街に入ったところだったから、そのままここへ直行したら、この状況だったってわけだ」

 

そう話すヴィータの言葉を聞いて、なのはが気がつく。

 

「ちょっと待って、ヴィータちゃん。政宗さんと2人って言ってたけど、成実君はどうしたの?」

 

R7支部隊隊舎で分かれる際にはヴィータと組んでいた筈の成実の姿がない事に気づいたなのはが指摘すると、ヴィータはさも当然の様に言いのけた。

 

「アタシ一人で二人も運べる筈ないだろ? だから、成実(あのバカ)には自力で山降りてくる様に言って置いてきたんだ」

 

(((おい…)))

 

思わず思い浮かんだなのは、フェイト、シグナムの3人のツッコミの言葉が奇跡的なシンクロを起した。

 

「……そんなんで良いの?」

 

冷や汗を掻きながら言うフェイト。

まぁ、聞かなくても良い訳無いのだが…

 

「まぁ、大丈夫だろ? 成実(アイツ)にとって野山なんざ庭みたいなもんだ。それにアイツの脚力なら今頃山を降りて街に入っている頃だと思うぜ」

 

義弟に対する信頼か、責任放棄か、軽々しくそう言ってのける政宗になのはもフェイトも思わず苦笑を浮かべるのだった。

しかし、その一瞬生じかけた束の間の緊張の綻びも、倒壊した建物の残骸を押しのけながら、魔竜アルハンブラが再び姿を表した事で終わりをみせた。

 

「よぉっ! テメェもまるで元気みてーだな。Magic Dragon…しかも、ウチの小十郎に手傷負わせてくれやがったみたいだな…」

 

政宗はなのはを受け止める為に一度鞘に収めていた愛用の6本の刀…”六爪(りゅうのつめ)》”を引き抜きながら、不敵な笑みを浮かべて呟く。しかし、その隻眼は全く笑ってはいなかった。

 

その隣ではフェイトもまた、バルディッシュを構え直しながら、必死に瓦礫を払おうと藻掻く巨大な古代竜の姿を見据え、その身体を覆っていた装甲がまた剥がれて大分少なくなっている事に気づく。

全身を覆っていた黒い鈍重な装甲は今は頭と首筋、そして両翼の前縁と翼角の部分と、片足と胴体の一部分を残すのみとなっており、大部分は赤い爬虫類の様な生身の表皮を晒している状態にあった。

 

「……装甲が大分無くなってる。今なら私達の攻撃も通じるかも!」

 

「よっし! 久しぶりの竜退治といこうじゃねぇか!」

 

フェイトの言葉を聞いた、ヴィータが気合を入れるように紅いバリアジャケットの片袖をまくりながらグラーフアイゼンを振りかぶる仕草を見せるが、そんな彼女達にシグナムが忠告を言い放つ。

 

「待て! 決して油断はするな! さっきの様子からして、装甲が無くなった分だけコイツの動きは更に俊敏になっているはずだ! それにコイツは唯の古竜ではない! 魔法を封印する”呪法効果”を含んだ攻撃も放ってくるぞ!」

 

「「「えっ!?」」」

 

シグナムの言葉を聞いたなのは、フェイト、ヴィータの3人が同時に驚きの声を上げる。

 

「本当なのか!?」

 

政宗がシグナムに確認を取ると、彼女は小さく頷いて返した。

 

「あぁ、間違いない。実際に私はさっき、奴が放った黒い電撃を受けてから…魔法が使えない」

 

そう言いながらシグナムは自分の愛機のレヴァンティンをかざして、今の自分の状況を診断させてみる。

 

Vorbehalt! Aufgrund ungeklärter Faktoren(原因不明の要因により) kann Magie nicht eingesetzt werden(殆どの魔法を使用する事ができません)!》

 

「ッ!? そ、そんな…!?」

 

「マジかよ…!?」

 

「う、嘘でしょ……?」

 

レヴァンティンが発した警告の意味を理解したなのは、ヴィータ、フェイトは動揺の色を見せた。

政宗も苦々しい表情を浮かべ、話を聞いている。

 

「お前達も気をつけろ。恐らく、あの竜には、飛行能力だけでなく殆どの魔法を使う為の魔力すら封じられる術があるようだ」

 

「そ、それってかなりマズい事じゃない!? シグナム、無理をしないで。ここは私達に任せて貴方は後方に―――」

 

実質的に魔導師として戦えない状態になったシグナムを案じ、撤退を進言するフェイトであったが、シグナムは首を横に振った。

 

「心配はない。幸い、念話を使う事や、魔力を身体の強化に充てる程度はできるようだ」

 

そう言いながら、シグナムは尚も闘志折れる事なくレヴァンティンを構えてみせようとする。

だが、そんな彼女の言葉とは裏腹に、既にシグナムの纏っていた騎士甲冑には無数の亀裂が生じており、そこから覗く肌からは血が滲み出ている様子が見て取れた。

おそらく、先程の電撃によって、身体に施していた強化魔法の多くが封じられた事でそれにより補っていた身体のダメージが一気に現れているのであろう…

 

「シグナムさん!」

 

「お、おい!」

 

「案ずるな。この程度の傷、大した問題ではない……」

 

思わず駆け寄ろうとするなのはとヴィータだったが、シグナムはそう言いながら、ゆっくりと立ち上がり、戦列に加わろうとする。

しかし、その顔色はやはり青白く、普段のような覇気が感じられない状態であった。

 

「無茶言わないで! どう見たって、まともに戦える状態じゃないよ! 万一に備えて救急センターで応急用のアンプルを幾つか貰ってきてあるから、これを打って今は少し身体を休めて!」

 

なのはがそう言って、取り出してきたのは澄んだ青色の薬剤の入ったインスリン注射器のような細長い箱型のアンプルだった。

これは、回復魔法程、傷を劇的に癒やす力はないものの、それでも出血や体温の消耗を一時的に止め、体力を多少なりとも回復させるだけの効果がある。そのため、時空管理局では救急の現場などで回復術士による本格的な治療までの応急的な処置として重宝されていた。

 

「し、しかし…」

 

「なのはの言う通りだシグナム。 ここはこいつらに任せておけ」

 

そう諭しながら、政宗はシグナムに代わって、なのはから応急用アンプルを受け取った。

 

「それより、早く構えろ。奴がくるぞ」

 

「わかった。政宗さん、シグナムの事をお願いね」

 

政宗の言葉を受けたフェイトは、一言だけ言い添えると、アルハンブラの方を向き直りつつバルディッシュを構える。

そして、その隣ではなのはもレイジングハートを握り締めて、政宗の方へと振り返る。

 

「政宗さん!」

 

「I know! こっちは心配するな! お前らはDragon退治に集中しな!!」

 

「はい!」

 

なのはが力強く返事をしたのとほぼ同じタイミングで、ようやく全ての瓦礫を払い除けたアルハンブラを誘導する様にフェイト、ヴィータと共に、天高く舞い上がった。3人の視線は既に、古代竜アルハンブラの姿を捉えている。

 

「グオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!」

 

アルハンブラは咆哮を上げながら、その巨体を大きく震わせると、身体に残っていた全ての装甲を払い落とし、完全に全身生身の姿を曝け出した。

鈍重な金属音を響かせながら、アルハンブラの払った装甲の残骸が崩れ落ちた瓦礫の上へと落ちて土煙を立てる。

それと同時に、その赤い巨体に黒い稲妻が走り、周囲の空気が震え上がる。

 

「気をつけろ! その稲妻は絶対に受けるな! 浴びれば魔法を封じられるぞ!!」

 

地上からシグナムの声が響くと、なのはとフェイト、ヴィータは揃って大きく首肯してみせた。

 

「わかった! フェイトちゃん!ヴィータちゃん! 行くよ!」

 

「うん!」

 

「おぅ!」

 

3人は互いに目配せをしてから、それぞれ空を蹴って加速しながらアルハンブラに向かって飛翔していく。

 

「ハアァァッ!!」

 

そして、先に仕掛けたのはフェイトであった。

半実体化した魔力刃を備えた大剣型の”ザンバーフォーム”の姿に変えたバルディッシュを振り被りながら、一直線にアルハンブラの元へと向かうと、アルハンブラが魔法を封じる黒い稲妻を放つ寸前のところで、すれ違い様にその左翼の付け根の辺りを狙って渾身の力を込めて振り下ろす。

 

ザシュッ!

 

「ギャオアアアアァァァァァァァッ!!!」

 

「効いてる…!」

 

すると、装甲が無くなった事で、さっきまでとは嘘の様にフェイトの一閃はアルハンブラの胴体に傷を付け、アルハンブラは苦悶の声を上げながら身を捩らせた。

しかし、フェイトは攻撃の手を止めない。

そのままアルハンブラの脇を通り過ぎると、再び上昇し、今度は逆側の翼に向けて袈裟斬りを仕掛ける。

 

「ガアッ!?」

 

またもや同じ箇所を切りつけられ、怒りが頂点に達したのか、口を大きく開いたアルハンブラはフェイトを焼き払わんと、巨大な炎の渦を放射する。

だが、その直前にフェイトは急上昇しており、熱波は虚しくも空を焦がすのみであった。

 

「こっちだ! バケモノ!!」

 

そこへ、ヴィータが打ち放った魔力弾が次々と飛来する。

放たれた光球の数は全部で5つ。いずれも、アルハンブラの顔や腹といった急所ばかりを狙い撃ちにしていた。

 

ドゴオオオオオォォォン!!!

 

「ギャオオオオオォォォォォォォォッ!!!」

 

 

そして、5つの魔力弾が着弾した直後、その全てが炸裂し、アルハンブラは叫びを上げつつ、爆煙に包まれる。

 

「なのは! 今だ!」

 

ヴィータが合図をすると、既になのははカートリッジを1発ロードした状態でレイジングハートを構えていた。

 

「OK! 今ならこれも通じるね…全力全開!」

 

なのははそう言うなり、更に2発のカートリッジを立て続けに装填したレイジングハートを振りかぶると、一気に加速した。

 

《Divain Buster!》

 

電子音と共に。レイジングハートの先端から桃色の閃光が解き放たれる――――その直前だった。

 

「グアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

突然、一際大きな咆哮と共に空が揺れ、爆煙が切り開かれたかと思いきや、アルハンブラの赤い巨体が瞬く間になのはの目の前にまで迫ってくるのが見えた。

まさに不意をついた早技になのはも思わず呆けてしまい、回避行動が僅か一瞬遅れてしまった。

それが仇となって、次の瞬間にはなのはの身体はアルハンブラに弾き飛ばされていた。

 

「きゃああぁっ!!」

 

「「なのは!!」」

 

悲鳴を上げながら吹き飛んでいくなのはを見て、フェイトとヴィータは慌てて救援に向かおうとするが、すかさず2人めがけてもアルハンブラの暴風の如き突進が飛来する。

 

「うわぁっ!?」

 

「くぅ…ッ!!」

 

辛うじて直撃こそ免れたものの、凄まじい勢いで身体を吹き飛ばされた2人だったがフェイトはどうにか途中で体勢を立て直すと、得意の高速移動で、空を飛び交うアルハンブラを必死に食らいつく勢いで追跡し始めた。

 

(シグナムの言ってたとおりだ…! 装甲が剥がれて身軽になっただけ、スピードが劇的に上がっている。失った耐久力をカバーする為に俊敏性で翻弄するつもりか…!?)

 

アルハンブラはフェイトを引き離そうと、その翼を大きく羽ばたかせると、周囲に嵐の様な突風を巻き起こし、フェイトはその風に煽られてバランスを崩しながらも、何とか堪えてみせる。

 

「フェイトちゃん!」

 

すると、いつの間にか後ろに、先に吹き飛ばされていたなのはがついて、追撃に加わっていた。

 

「なのは!? ケガはない!?」

 

「うん! 突進を食らう直前にシールドを張ったからギリギリまともに受けるのだけは回避できたんだ!…っと言っても流石に全身が痛いけど

 

「そっか、よかった……。でも油断しないで! あの竜、装甲が無くなった分、スピードで私達を翻弄するつもりみたい!」

 

フェイトの言葉に、なのはは小さく首肯してみせた後、改めて前を見据えながらレイジングハートを構える。

 

「わかってる。けど、逆を言うと、どうにかして動きを止めて、そこへ私の”全力全開”の一撃を撃ち込めば、倒せる可能性があるって事だろうけど…さっきみたいなただ踏みとどまってディバインシューターを放つだけじゃ、また不意打ちを受けるか、避けられる可能性が高いだろうし…」

 

なのはは悔しげな表情を浮かべながら呟いた。

先程は、相手が予想外の速さを見せた事で意表を衝かれた事もあり失敗してしまったが、その前のフェイトの斬撃やヴィータの魔力弾が通じていた事からみて、さっき撃とうとしていた”ディバインシューター”ならば、今の耐魔力仕様の装甲に守られてはいない今のアルハンブラには通用する可能性が高い。しかし、その肝心の魔法を当てる為の隙を作る事が出来ないのだ。

なのはが考え込んでいる間にも、アルハンブラは2人を引き離す事に躍起になっているのか、次々と翼を羽ばたかせながら風の刃を乱射してくる。

だが、フェイトもまた飛行速度では負けじと食い下がり、互いに譲らず、空中を駆け巡り続ける。

 

「おい! アタシの事も忘れんじゃねぇぞ!!」

 

その時、向かってアルハンブラの先の方から、威勢の良い掛け声が聞こえてきた。

2人が目をやると、そこにはグラーフアイゼンを振りかぶりながらアルハンブラ目掛けて突っ込んでくるヴィータの姿が見えた。

 

「ラケーテン…ハンマァァーーーー!!」

 

気合いと共に振り下ろされたグラーフアイゼンだったが、アルハンブラはそれをあっさりとかわすと、反撃に口から灼熱の炎弾を放ってきた。

 

「ちぃ!」

 

ヴィータは舌打ちしながら咄嵯に身を捻りながらそれをかわすが、その際、大きくバランスを崩してしまい、そのまま失速していく。

その間にフェイトのなのはが追い抜くと、急いでヴィータも方向を転換し、フェイトの後ろを飛ぶ、なのはの横に並んだ。

 

「ヴィータちゃん! 大丈夫?!」

 

「なんとかな。にしても…やっぱり速さでアイツにまともに渡り合えるのはフェイトくらいか…畜生! シグナムが魔法を封じられてさえいなけりゃ…」

 

ヴィータはそう毒づきながら歯噛みする。

今、この場にはシグナムがいない――つまり、アルハンブラへの対抗打としては最も適正であろうスピードと剣技による近接戦闘を行えるのがフェイトしかいない。

だからこそヴィータはせめてもの援護として自分の持ち味である打撃攻撃や、中距離からの砲撃などを駆使してアルハンブラの動きを制限しようと試みたものの、今のアルハンブラから全く機敏さが衰えていない様子からしても、そのどちらも決定打とはなり得ていないようだった。

 

「くそっ! そうなるとやっぱり、なのはのどデカイ一撃を浴びせるっきゃねぇのか?」

 

「うん。私も同じ事を考えてはいるんだけど…まずはあの竜の動きを止めないといけなくて…」

 

「止めるっつったって…フェイトでさえ食いつくのがやっとな程に素早い奴なんだぞ!?」

 

「うん。だから、どうにかしてフェイントをかけてみれば、動きを止められるかな?…っとも考えてはみたんだけど」

 

「フェイン……? えっと……よくわかんねーけど、要するに腕づくでなくて、頭でアイツを止める手はないかって事だよな?」

 

「うん。それで、何かいいアイディアとかあるかな? 私、ヴィータちゃんやシグナムさん程、竜との戦いとかって経験がないからあんまり慣れてなくて…できれば、皆が無茶をしなくて済む方法が望ましいんだけど」

 

「…なかなか無理難題な注文してくるよな」

 

なのはが困ったような顔をしながら訊ねると、ヴィータは呆れた様子で答えた後、しばらく黙考してから、ふと思い出したように口を開いた。

 

「……そうだな。一応、ひとつだけなら思い浮かばなくもないぜ?」

 

「本当!?」

 

なのはが驚いた声を上げると、ヴィータは自信ありげな笑みを浮かべてみせる。

 

「あぁ。けど、それはあくまでもフェイトにそれをやれるだけの魔力が残っているかに限る。それに、そもそもあの竜相手にこんな猫騙しみてぇな技が通じるかどうかもわからねぇ。それでも聞くか?」

 

「うん!」

 

「わかった。じゃあ、詳しく説明すっから、フェイトにも念話を繋いでくれ」

 

ヴィータの言葉になのはは素直に従い、少し離れた前方を飛ぶフェイトに念話を送った。

 

(フェイトちゃん、聞いて! ヴィータちゃんがアルハンブラを倒す為の作戦を思いついたの!)

 

(えっ!? それって一体?)

 

フェイトは驚きながらもすぐに反応を返す。

 

(今から説明する。二人共よく聞けよ)

 

そして3人はアルハンブラを追跡しつつ、念話を通して作戦を練り上げると、それぞれ小さく首肯した。

 

「これでいいな…? じゃあ行くぞ!」

 

「わかった!……なのは! 上手く言ったら、すぐ合図をするから準備しておいて!」

 

「うん! 二人とも気をつけて!!」

 

 

3人のやり取りを終えると、フェイトはアルハンブラの追跡をスピードでは及ばない筈のなのはに交代し、自分とヴィータはそれぞれ左右に分かれるように、わざと軌道を外れていった。

その様子は地上にいる政宗とシグナムの目もはっきり見えた。

 

「…アイツら。何を始めるつもりだ?」

 

「……………」

 

空を見上げながら政宗は怪訝な顔つきで呟き、シグナムは珍しく何かを懸念する様な不安の籠もった眼差しで空を飛ぶ仲間達を見据えていた。

 

 

一方、突然離れていく様に左右に展開するフェイトやヴィータに気づいたアルハンブラは懐疑心の籠った目つきでそれぞれを睨みつけていたが、やがて興味を失ったかのように視線を外すと、再び前を向いて飛行を再開した。

唯一自らと互角近くに渡り合える速度で飛行できるフェイトが離れた以上、自らの背後には驚異がないものと判断したのか、僅かにその速度が落ちる。

 

(今だ! フェイト!)

 

ヴィータから届いた念話に反応したフェイトは即座に身体を返しながら、バルディッシュを介してある魔法を発動させる。

 

《Blitz Action!!》

 

「Go!」

 

フェイトが心の中で合図すると同時に彼女の身体は文字通り閃光の如き速さで空を駆け抜け、次の瞬間には、アルハンブラの進路上に先回りする形でその姿を移動させた。

戦線を離れようとしていた筈のフェイトがいきなり目の前に現れた事で、アルハンブラは一瞬驚いて動きを止めるものの、すぐに目の前に現れた相手を敵と見なし、その巨大な顎門を開いて噛み砕こうと、一気に加速して接近していく。

しかし――

 

「食らいやがれええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

真横から、ギガントフォルムに変形させたグラーフアイゼンを構えたヴィータが砲弾の如き速さで突っ込んでくると、フェイトに食らいつかんと伸ばしかけていたアルハンブラの首に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

ガキイィィンッ!

 

硬い物同士がぶつかり合う甲高い音が響き渡ると共に、アルハンブラは首を横に振り払うようにしてヴィータを振り払おうとするが、ヴィータはその勢いに逆らわず、あえてそのまま吹き飛ばされるような形で距離を取った。

 

「……なのは!!」

 

それを見ていたフェイトがどこへともなく叫んだかと思うと、先程と同じ閃光の如き速さでアルハンブラの目の前から姿を消す。

この意味深な挙動の意図が理解できないアルハンブラがふと、背後を振り返ろうとしたその時―――

 

「ディバイン…バスタァァァァーーーーーーーーーーッ!!!!」

 

突如として、振り返ってみた前方で桃色の光が輝いたかと思いきや、その巨体に同じ発光色の光で出来た巨大なレーザーが直撃した。

そして、その閃光の発生源には、レイジングハートを構え立つ、なのはの姿があった。

 

なのははフェイトが機動魔法”ブリッツアクション”を利用した瞬間移動の如き速さと、その隙をついたヴィータの不意打ちでアルハンブラが翻弄されている隙に、呪文詠唱や魔力の増強、そして照準合わせと、諸々の準備を整えていたのだ。

そして、フェイトの合図と共にそうして準備を整えたディバインバスターを撃ち込んだのだった。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!」

 

アルハンブラが初めて明確に苦悶に満ちた叫びを上げながら、バランスを崩す。

そして、閃光が途切れると同時に、背中から白煙を上げつつ、力が抜けるように地上に向かって落下していく。

しかし、なのは達の攻撃はまだ終わっていなかった。

落ちていくアルハンブラに向かって、フェイトが急降下しながら、バルディッシュを振りかぶって飛びかかっていく。

 

「スプライトザンパァァーーーーー!!!」

 

技名と共に振り下ろしたフェイトの斬撃が巨大な閃光の様な斬撃となって、落下しつつあったアルハンブラの首を捉える。

 

ザシュッ!!!

 

刹那、アルハンブラの巨大な首が一太刀の下、胴から引き離され、宙を舞った。

それはまさに華麗なる死神如き、鮮やかな一閃であった。

なのはの全力の一撃とフェイトの怒涛の一閃を立て続けに受けたアルハンブラは地上に落ち、広場のランドマークであった女神像を中心とした彫刻の施された噴水を下敷きにして地響きと轟音を立てながら、地面に叩きつけられる。

少し間を空けて、少し離れた場所に斬り落とされた首がゴトリと落下し、横たわった。

首の無くなったアルハンブラの胴体は激しく痙攣し、やがて動かなくなった。

その様子を見届け、なのは達はそれぞれ顔を見合わせて小さく笑みを浮かべると、アルハンブラの死体の前へと降りてきて、着地した。

広場の各入口の方ではなのは達の戦いを遠巻きに見守っていた人々が歓声を上げているのが見える。

するとそこへ、政宗とシグナムが駆けつけてきた。

 

「3人共、無事か!?」

 

「はい。どうにか」

 

「久々に手応えのある敵だったけど、この通りなんとか傷らしい傷は無しだ」

 

「私も大丈夫だよ!」

 

順にフェイト、ヴィータ、なのはがそれぞれ返事をするのを見て、シグナムは胸を撫で下ろしつつ、微笑を浮かべた。

 

「A job well done. それにしてもあのMagic Dragonもそうだが、お前らも随分とまた派手に暴れやがったな」

 

政宗は呆れ半分感心半分といった様子で苦笑いしつつ、殆どの建物が崩壊し、辺り一面が荒野の様な惨状を晒した広場を一瞥する。

 

「まぁな。でも、むしろこんな得体のしれない古代竜相手によくこれだけの被害で済んだってもんだぞ」

 

ヴィータはそう言って目の前に転がっている首の無いアルハンブラの死体を見ながら、肩をすくめる。

一方、シグナムとフェイトは改めて、この古代竜の姿をまじまじと見つめていた。

 

「しかし、一体何なんだったんだ? この竜は? 外見や能力の特徴を見ても、ミッドチルダとも、古代ベルカとも違うが…」

 

「キャロの出身の“ル・ルシエ”族が行使する竜にもここまで奇怪な能力を行使する竜は聞いた事がないよ…もしかして、私達も知らない全く別の魔法文明のものかも…?」

 

フェイトが緊張を帯びた顔でそう仮説を上げるのを聞いていたなのはが思い出したようにシグナムに尋ねた。

 

「そういえば、シグナムさん。あの竜が倒されたって事は、シグナムさんにかけられた魔法封じの呪いも解けたんじゃない?」

 

なのはに指摘されたシグナムは、急いでレヴァンティンをもう一度手にかざして、自身の状態を診断させてみた。

その結果は…

 

Tut mir leid, Sir.(申し訳ありません)Der Zauber des Siegels, das auf den Herrn(まだ、主に施された呪法は) angewendet wurde, wurde noch nicht aufgehoben(解除されていません)

 

「ダメか…」

 

レヴァンティンからの診断結果を聞いて、シグナムは残念そうな表情を浮かべた。

 

「えぇっ! そんな…どうして!?」

 

フェイトが慌てて、シグナムの持つ剣身を覗き込む。そこには確かに先程までは無かったはずの、赤黒い禍々しい魔力光を放つ文字が浮かび上がっていた。

それはまるで何かしらの文字そのものが、それ自体意思を持っていて、シグナムの体に纏わりついているかのように見えた。

 

「シグナム、それって…?」

 

「うむ…この魔法文字(ルーン)はミッドチルダ語でも古代、近代、両ベルカ語でもない…すると、やはりこの呪いはどちらのものとも異なる文明発祥の魔法か…」

 

シグナムが険しい顔つきのまま、そう呟くのを聞いたフェイト達が驚きのあまり言葉を失う中、政宗は顎に手を当てて、考え込んだ。

 

「異なる文明の魔法の力を操る古代竜だと? なのは。こいつはますます、きな臭ぇ話になってきたんじゃねぇか?」

 

「うん。こんな危険な魔法生物が、どうしてまた『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』の支部隊舎から現れたのか…? どうしてその竜を豊臣五刑衆の一人が解放して、街を襲わせたのか……? もうわからない事だらけだよ」

 

何気なしに話す政宗となのはだったが、ふと気がつくと、フェイト、シグナム、ヴィータが目を丸くしながら自分達の方を見ている事に気がつく。

 

「お、おい、なのは! 『豊臣五刑衆』ってどういう事だよ!? まさか、あのR7支部隊の隊舎を壊滅させて、化け物屋敷みてぇな有様にしたのも西軍(やつら)のしわざだったっていうのか!?」

 

「そ、それよりもこの竜が『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』の隊舎に封印されていたってどういうことなの!? 一体、あそこで何があったっていうの!?」

 

「えっと…それは…」

 

「そういや、フェイト、シグナムは元より、ヴィータにもR7支部隊で二手に分かれた後に俺達が見た事、具体的には話してなかったっけな?」

 

ヴィータ、フェイトからそれぞれ投げかかる質問に、なのはと政宗はどこから説明したら良いのかと迷っていた。

その時だった―――

 

 

♪~~~~~ッ ♫~~~~~~ッ ♪~~~~ッ

 

 

突然、どこからともなく風に乗って笛の音が聞こえてきた。

フェイト、シグナム、ヴィータの3人は「なんでこんな時に笛の音が?」と怪訝な表情を浮かべるが、この笛の音に聞き覚えのあるなのはと政宗は一気に顔に緊張が走る。

 

「こ、この笛の音は…!? まさかあの野郎! まだくたばってなかったのか!?」

 

「政宗さん! 政宗さんがここに来たって事はあの後、政宗さん一度はあの子に勝ったんだよね?!」

 

「あぁ! だが、少し釈然としねぇGame overだったから妙だとは思っていたんだが…」

 

「おい! だから一体何の話だって―――」

 

話しながら、それぞれレイジングハートと六爪を構えようとするなのはと政宗に、ヴィータがさらに問い詰めようとしたその時だった。

風に乗って響く笛の音に合わせて、地面に倒れ伏して死んでいた筈のアルハンブラの胴体がその全身を激しい振動で震わせたかと思いきや、メキメキと不穏な音を罅効かせながらその背中の表皮が中から何かが蠢いているかのように波のように激しく揺れ動く。

そして、真っ直ぐ裁断された首の切れ口から血肉を激しく飛び散らせながら3匹…否、5匹もの巨大な“それ”が顔を出した。

 

「「「「「ギョアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」」

 

「「「「「ッ!!!?」」」」」

 

人一人丸ごと飲み込めるだけの胴回りを誇る大蛇の如き体躯を誇る“それ”の正体は、巨大な2本の牙と顔の大部分を占める程に巨大な3つの赤く光る眼球が特徴的なムカデのバケモノであった。




ようやく『なのは見合い編』のバトルも佳境に入ってきました。

っといってもまだまだ魔竜との戦いも終わってませんし、聞き覚えのある笛の音がしたという事は当然“彼”も……苦笑


そして、これは私事ですが…とうとう身内からコロナ患者が出てしまいました(泣)
まぁ、一緒に住んでいたわけではなかったので私が濃厚接触者になったわけではないのですが、私の住んでいる場所は全国でもダントツに感染者の多い都道府県なので、どこで貰ってくるかもわからないもんで、日々落ち着けません…オミクロン怖ス…
皆さんもコロナは元より、風邪やインフルにかかる事がないよう手洗い、うがい、マスクを徹底しましょう(今更!?)


スバル「コロナっていえば、今公開中のバイオハザード ウェルカム・トゥ・ラクーンシティって面白いらしいね♪」

ティアナ「不謹慎でしょうが!!」
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