リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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【前回までのリリカルBASARA StrikerS】

ようやく倒したと思った魔竜アルハンブラの亡骸から、屍鬼神“繰駆足(くりからで)”が出現するという予想外の事態に加え、一度は退けた『豊臣五刑衆』が一人 宇喜多秀家の襲撃を再度受けた政宗達。

更に秀家は新たな屍鬼神“(みずち)”を憑身させて政宗、シグナムに襲いかかる…

一方、なのは、フェイト、ヴィータはアルハンブラの死体の血肉を触媒に無限に現れる“繰駆足”にさらなる苦戦を強いられ、いよいよそれぞれの魔力リミッターの解除の必要を迫られるまでになる…!

そんな中、遅れて駆けつけた成実が到着するが……!!


ヴィータ「リリカルBASARA StrikerS 第六十一章。出陣だ」


第六十一章 ~ラコニア総力戦!コアタイルの介入と暴童武騎の大奮闘~

時同じくして、首都クラナガン近郊…

機動六課・前線部隊本舎司令室―――

 

《こちらロングアーチ04。現在私とフォワードチーム、家康(イレギュラー01)幸村(イレギュラー04)を乗せたヘリは、ラコニア市手前の山岳地帯まで差し掛かっています。この山間を抜けたら、街の様子が見えてくると思います》

 

「了解。先発したハラオウン隊長やシグナム副隊長からの提示連絡がない事から見て、既に現地でその未知の敵を相手に交戦している可能性が高いはずや。仔細がわかったら、すぐに教えて頂戴」

 

はやては通信モニター越しのリインフォースⅡからの連絡を受けると、そう指示を出した。

 

《はいですぅ。それでは、また何かありましたらご報告します》

 

「うん。フォワードチームや家康君、ユッキーのフォローもよろしくな」

 

はやてがそう言うと、通信が切れた。

 

「八神部隊長。現地の陸士隊からの報告によると、『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』R7支部隊は既に“壊滅状態”との事です。それと……」

 

「わかっとる。現地で『竜』と思われる未確認の巨大生物も暴れまわってるみたいやけど、そちらについては詳細不明という事なんやろ?」

 

補佐役であるグリフィス・ロウラン准陸尉からの報告を聞きながら、はやても早い内に別方面から入っていた内容だったので特に驚く事はなかった。

 

「しっかし、話には聞いていたけど…ミッドチルダ(こっち)じゃ本当に“竜”なんてのが生き物として存在するたぁ、不思議なもんだねぇ」

 

「竜なんて、私達にとってもそうそうお目にかかるもんやないで。 だからこうして、皆てんてこ舞いになっとるんや」

 

忙しなく働くはやて達の邪魔にならないように、司令室の端の方に身を寄せた前田慶次が、ロングアーチ達の交わす会話の中で度々上がる『竜』というワードに驚きと関心を寄せるように呟いた。

するとそれが聞こえたのか、はやてが自分のデスクに備えたホログラムコンピュータのコンソールを叩きながら、片手間に答えた。

 

「へぇ~! それだったら、俺もフォワードの皆や、家康や幸村(虎の兄さん)に便乗して、出かけりゃよかったなぁ~!」

 

「何を言うとるんよ。慶ちゃんは私らと同じロングアーチ。それも部隊長警護役なんやから、おいそれと出撃なんてしたらあかん!」

 

「つれないねぇ…。わぁったよ。っといってもここだと警護の必要はないし、外野はここで、どっしりと必要な時まで構えている事にするよ」

 

そう言って、慶次は壁に背を預け、懐からスマホを取り出すと、『アルパカ娘 プリティーマウンテン』というアプリゲームをやりだした。

そんな慶次の自由奔放さにグリフィスは呆れた様子で頭を振った。

 

「全く、前田さんは…いくら次元漂流者で、部隊長の警護が主な仕事といえども、一応は我々ロングアーチの一員なんですから、少しは司令室でのデスクワークのひとつも覚える気になってくださいよ…」

 

「まあまあ、グリフィス君。そない言わんと。慶ちゃんには慶ちゃんなりの働き方っちゅうもんがあるんやから」

 

はやてが苦笑を浮かべつつ、グリフィスを宥めた。

 

「部隊長…部隊長は少し前田さんに甘すぎます」

 

「大丈夫やって。それよりも、さっきの報告についてやけど…グリフィス君としてはどない思う?」

 

「そうですね………状況から考えて、今現在ハラオウン隊長やシグナム副隊長、そして先に現地にいた高町隊長達は、その『竜』と交戦しとる可能性が高いと思われます。とにかく、現段階での情報が足りなさすぎるので、ヘリが現地に入ったら、その『竜』がどんなものか確かめた上で、フォワードチームやイレギュラーを戦線投入するか判断する事でよろしいかと」

 

「わかった。それじゃあ、グリフィス君は引き続き、リイン曹長と連絡を取り合って―――」

 

はやての話を遮る様に、彼女のデスクに備えられた念話用の受信機が鳴った。

 

《はやて―――じゃなかった! ロングアーチ00へ! こちらスターズ02 、ヴィータ! ラコニア市内より緊急通信!》

 

「ヴィータ!?」

 

突然受信機から聞こえてきたヴィータの声に、はやてだけでなく、側にいたグリフィス達、そして離れた場所にいた慶次も驚いて、それぞれの作業の手が止まった。

 

「ヴィータ! ずっと報告なかったから心配しとってんで! ってかそっちで一体何が起こってるの!? 」

 

はやてがマイクに向かって叫ぶように問いかける。

それに対して、ヴィータからの返答は実に手短なものとなっていた。

 

《色々と悪い事ばかりだけど……特にやべぇ事は、得体のしれない”古代竜”とそれに勝るとも劣らないバケモノが暴れてる! とにかく強さも性質もすごく凶暴で、アタシら六課の隊長陣が総出でかかっても抑えきれねぇくらいに強ぇんだ!!》

 

「え……ちょっ…待って、それどういうこと!? 竜が暴れてるのは報告に入っとるけど、”古代竜”って何や!?」

 

はやてが驚きに声を上げる。

司令席に近づいてきた慶次は、はやての話している話に含まれる『古代竜』というワードの仔細はわからなかったがそれでも、それが竜の中でも相当に強く、やばいものであるという事は理解できた。

 

《のんびり説明してる暇がねぇんだ! とにかく、すぐに高町隊長、ハラオウン隊長、そしてあたしの魔力リミッターの解除を!》

 

「それは勿論えぇけど…シグナム副隊長はどないしたん?」

 

《シグナムはその竜に変な呪いをかけられちまったみたいで、殆ど全ての魔法が使えなくされちまったんだよ!》

 

ヴィータの報告を聞いて、はやてだけでなく、隣りにいたグリフィスさえも驚きのあまり目を見開いた。

 

「な、なんやそれ!? なんで、竜がそないな芸当を…!?」

 

《アタシだって、わけがわからねぇんだよ! とにかくそいつを倒すにはリミッターがかかっていたらダメなんだ! だから頼む!》

 

「……了解。すぐに3人のリミッターを解除します!」

 

はやてはそれだけ言うと、すぐにグリフィスへと視線を移した。

 

「グリフィス君! 聞いたとおりや!! 諸々の手続きとかお願いね!」

 

「わかりました!」

 

すぐにコンソールを操作し始めるグリフィスを横目にしながら慶次は、はやてに問いかける。

 

「大丈夫か? 緊急とはいえ、そんな思いつきで隊長陣三人同時のリミッター解除なんかして…? 結構、後処理が大変だっていつも愚痴ってただろ?」

 

「状況が状況やしなぁ。背に腹は代えられへんよ」

 

はやては険しい表情を浮かべながらそう答えつつ、席から立ち上がると、魔法陣を展開し、3人の限定解除を行うことにした。

 

「高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、ヴィータ、能力限定解除各2ランク承認……リリースタイム120分……リミット・リリース!!」

 

能力限定解除されると同時に、はやての翳した手の先にベルカ式の魔法陣が展開され、力が解放された。

 

「リミット解除完了! 3人共、2ランク解除でAAA+、2時間に設定しといたで!」

 

《ありがと、はやて!》

 

「けど、くれぐれも無茶はしたらあかんで! もうまもなく、リインやフォワードの皆や家康君、ユッキーもそっちに着く筈やから」

 

《ああっ、わかってる! こっちに余裕ができたら、もっと詳しい事を説明するから!》

 

「うん、頼んだで!」

 

ヴィータとの念話が切れた後、はやては顎に手を当てて考え込むように、席に腰を下ろし直した。

 

「どうした? はやて」

 

「あっ…うん。ちょっとな…」

 

斜め後ろから慶次が尋ねると、はやては顔を上げながら、ふと隣の席にいるグリフィスの方に顔を向けた。

 

「グリフィス君。あのラコニア市周辺に保護研究センターみたいな“竜”に関係する施設があるとかって聞いた事ない?」

 

「いえ……あの街は旧暦時代の史跡が多数点在していますが、その中でも生きた竜を保護しているみたいな施設はありませんね」

 

グリフィスは端末を操作する手を止めずに答える。

 

「ふぅん……っという事は、違法魔導師の召喚士による召喚…っとも考えられるけど、普通に考えて古代竜を召喚できる召喚士なんて、聞いた事あらへんしな……」

 

はやては少しだけ思案するように腕を組む。

 

「まさかとは思いますが…例の”噂”が本当だったという事でしょうか?」

 

グリフィスの言葉に、はやては「う~ん」と小さく首を縦に振った。

「噂?」っと怪訝な顔つきを浮かべる慶次を尻目に、はやては会話を続ける。

 

「実際に『古代竜』が現れた以上、そういう可能性も捨てきれんと思う。まぁ、それを考察するのは、現地で暴れとるその『古代竜』を退治してからでも―――」

 

と、そこまで言ったところで、グリフィスとは反対側の部隊長席の隣にあるシャリオ・フィニーノ一等陸士の通信席に備えてあった通信装置が緊急連絡を知らせる電子音を鳴らせる。

 

「はい! こちら機動六課H.Q.……えっ!? こ、これは、どうも! お世話になっています!」

 

「「「?」」」

 

通信を受信したシャリオが突然、慌てふためきながら応対する様子を見て、はやて、慶次、グリフィスが不思議そうな表情を浮かべる。

 

「えっと……はい……はい、了解しました! すぐに部隊長に繋げますので、少々お待ち下さい!」

 

そう言ってシャリオは通信を保留状態にすると、はやてに向かって慌てた様子で報告する。

 

「はやて部隊長! 地上本部から緊急の通信です!」

 

「えぇ!? この忙しい時に、なんでまた?」

 

はやてがうんざりした様な顔をしていると、グリフィスが代わりに尋ねた。

 

「シャーリー。 一体、地上本部の誰からなんだ? まさか、レジアス中将じゃないだろうな?」

 

「いや、グリフィス君。それはないやろ。だって、レジアス中将は今、療養休暇中の筈やで?」

 

「い、いや…それがですね……」

 

グリフィスの問いにはやてが苦笑しながら返すが、シャリオの顔色は更に青ざめていた。まるで最悪の事態でも起きたかのような反応である。

そんなシャリオをはやて達が訝しんでいたその時、不意に司令室のメインモニターに通信の相手の映像が映し出された。

 

 

《…久しぶりだな…古代遺物管理部機動六課部隊長。 " 八神はやて"二等陸佐…》

 

威圧感と威厳溢れる落ち着いた声と共に、モニターの中に時空管理局地上本部の上級将校である事を示した腕章付きの青い制服を身に纏い、その上に大魔導師の象徴ともいえる深緑色のケープを羽織った一人の老紳士が現れた。

白髪交じりの銀髪をオールバックにし、完璧に整えられた口ひげを蓄え、若干黒ずんだ肌に、銀色の瞳が光る狼の如く細長く鋭利な目と、見るからに冷徹さを感じさせる風貌に自然と圧を感じさせる。

その姿を見て、はやてだけでなく、グリフィスやシャリオ、アルトやルキノなど司令室にいたロングアーチメンバー全員が驚いたような顔を見せる。

それはレジアス中将と双璧を成す形で、地上本部では知らない者がいない人物であった……

 

「こ、これは…“コアタイル”少将! ご無沙汰しております!」

 

はやてが慌てて立ち上がり、姿勢を正して敬礼しつつ、いつもより少しだけ張り上げた声で返答すると、それに続くようにグリフィスら他のロングアーチ隊員も立ち上がって敬礼した。

 

「!? なぁ、はやて。あのオッサンって確か――――」

 

「「前田(慶次)さん!! ちょっと静かにしててください!」」

 

「ぐぉっ!!?」

 

唯一この中で正式な管理局員ではない慶次は、空気を読まずに、怪訝そうな顔を浮かべながら、はやてに耳打ちしようとしたが、慌てて横からシャリオとグリフィスに両肩を掴まれて、無理やりデスクの下にその身体を隠されてしまった。

 

《……うむ…今日は、我が息子が”色々と”君の隊の人間に、世話になったようだな……》

 

モニター越しに映る男は、鋭い眼差しのまま、小さく頷きながら開口一番に皮肉を投げかけてくる。

その様子を司令席のデスクの下から覗いていた慶次は、男を一目見た時から既視感があった理由を思い出した。

 

この男こそ、時空管理局・地上本部ナンバー2に当たる”首都防衛統合事務次官”にして、現在まで続く時空管理局と魔導師文化の礎を築いた偉大な魔導師達の末裔達、”貴族魔導師”の肝煎である名家『コアタイル家』の当主。

そして今日、なのはの見合いをし、政宗ら伊達軍三将の手で無傷ながら屈辱極まる惨敗を喫したというセブン・コアタイル准陸佐の父親…“ザイン・コアタイル”少将であると……

 

「い、いいえ! とんでもございません! こちらこそ、せっかくのご縁談をお断りさせていただいただけにいざしらず、ウチの委託隊員がセブン准陸佐に対しても大変ご無礼な事をしてしまい、申し訳ありませんでした!」

 

はやてがは普段であればめったに見せる事のない平身低頭な態度で、冷や汗を浮かべ、緊張した面持ちで頭を下げながら、背筋が凍るような緊張感を覚えた。

このタイミングでの、ザインからの緊急通信…それは言うまでもなく、昼間の『Cassiopeia(カシオペア)Plaza(プラーザ)』ホテルで行われたなのはと、息子 セブンとのお見合いの一件についてであろう事は明白だった。

 

(最悪やぁぁぁ! この大変な時に、また違う方向で大変な人から連絡がくるやなんてぇぇぇぇぇ!!!)

 

はやては心の中で頭を抱えて絶叫した。そんなはやての心の声を知ってか知らずか、ザインは続けた。

しかし、何故その件に関してわざわざザイン自らが、しかもこのタイミングで、通信を入れてきたのか?

グリフィスやシャリオら他のロングアーチ達が首を傾げる中、ザインは特に怒るわけでもなく、あくまでも冷静沈着な態度で淡々と告げた。

はやて達にとっては逆にそれが恐ろしくて仕方なかった。

 

《……見合いの返事については、別に謝ってもらう必要はない。そちらの高町空尉がその気ではなかったというのならば、こちらとしてもそれ以上無理強いするわけにもいかないだろう……》

 

「そ、そうですか……」

 

ザインの言葉を聞いて、はやて達は思わずホッとした表情を浮かべた。

だが、それも束の間……次にザインの口から出た一言で、はやての消えかかった冷や汗が再び浮かび上がる事となる。

 

《……とはいえ、見合いの席に恋人…それもどこの馬の骨ともしれん非魔力保持者の“委託隊員”なんぞを立ち会わせるとは…少々、非常識にも程があるのではないか?》

 

と、言い放った瞬間、はやての顔色が一瞬にして真っ青に染まり、同時にアルトとルキノがビクッと身体を震わせた。

グリフィスとシャリオに至っては、はやて以上に顔面蒼白となり、シャリオなどは「あわわわ…」とあからさまに狼狽する様子を見せていた。

その様子をデスク下で聞いていた慶次は、ザインの厭味な態度に不快感を顕にしていた。

 

《君達がどんな意図をもってそうしたのかは、この際深く追求はせんが…そんな事をされたら、私の息子の面子が立たなくなるとは、考えなかったのかね?》

 

と、どこか呆れたような口調で尋ねるザインの言葉を聞き、はやては血相を変えて立ち上がった。

 

「ちょっ…ま、待って下さい! その話、一体誰から聞いたんですか?」

 

《……今、君自身が言ったではないか。『ウチの委託隊員がセブンに対して無礼な事をしてしまった』と…息子に無礼を働いた『ダテ・マサムネ』なる若造が非魔力保持者だとは、息子から聞いたが、まさかそんな無頼の徒が六課の委託隊員だったとは、ますますもって驚きだな》

 

「あっ……!!」

 

はやては「しまった!」という顔になって固まってしまい、その隣ではグリフィスが頭痛を抑えるように眉間を揉み、反対側ではシャリオが「あちゃ~」っと言いたげな様子ではやての顔を見つめ、デスク下では慶次が失笑を浮かべていた。見ると、アルトもルキノも、呆れたような顔をしていた。

 

《見合いの結果については、コアタイル家(我々)も『縁がなかった』という事で素直に諦めもつけられる……しかしだ。見合いの席で君達の仲間が見せた“無作法”についてはどうしてもこのまま黙って見過ごすわけにもいかないのでな…ましてや、それが“委託隊員”によるものであったと聞けば、尚の事許しがたい》

 

「…………」

 

もはや、ぐうの音も出ずに絶句するしかないはやて。ここで下手な言い訳をすれば、自分の首だけではなく、なのはや政宗達は元より、六課全員の首にまで危険が及ぶ可能性があるからだ。

グリフィスをはじめ、シャリオやアルト、ルキノも緊張を含んだ顔ではやてを見守っていた。

 

《……とはいえ。私とて、血も涙も無いわけではない。何より、その様な事で今すぐ君達に処分を下したりなどすれば、『公私混合』として他の官僚…特にあのレジアスの奴から小言を言われる口実を与えかねん。そこでだ。私から今回の騒動について、双方共に穏便に事が片付く良案がある》

 

「え……? ほ、本当ですか!?」

 

はやてが目を輝かせて身を乗り出すと、ザインは相変わらず冷徹な眼差しのまま、不意に話題を大きく切り替えてきた。

 

《先程、部下から報告があったのだが…ラコニア市内に”古代竜”が出現して、暴れているとの事らしいな?》

 

「え……はい!」

 

《それでもって、偶然にも、まだ街に滞在していた高町空尉以下、機動六課の隊員がこの古代竜の対処に当たっていると?》

 

「はい! その通りです!」

 

《そうか…それで、今現在の戦況はどうなのだ?》

 

仮にもコアタイル家の影響下の強い街で事件が起きているというのに、まるで定時報告を尋ねてくるかのような冷淡さで尋ねてくるザインに対し、はやては一瞬違和感を覚えながらも、包み隠さずに事の全てを報告した。

未知の能力をも行使してくる古代竜に六課隊員達は各自苦戦を強いられている事…つい今しがた、なのは、フェイト、ヴィータの3人の魔力リミッターの解除を行った事…その全てを報告した。そして最後に、まもなく増援に送ったフォワードチームが到着する事を告げると、通信機の向こう側からザインの溜め息混じりの声が聞こえて来た。

 

《そうか……ならば、丁度良い》

 

その言葉を聞いて、はやて達が思わず首を傾げる中、ザインは冷たい声で告げる。

 

《…ではここからが話の本題であるからして、よく聞きたまえ。今現在、地上本部では事の重大さを考慮した結果、特殊作戦群『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』のなかで、最もラコニア市に近い場所にいたR3支部隊に、先程出動命令を下した。

従って、君は、現在ラコニア市内で活動中の機動六課の全隊員に“ただちに前線より退却し、R3支部隊到着まで標的の『古代竜』の監視と、行動の抑制に徹すること”を命じたまえ。そして、R3支部隊が現地到着後は、“この事件に関する全ての捜査権を『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』に一任し、今後、一切機動六課は関与しないこと”を約束するのだ。この条件を呑むというのであれば、此度の見合いの席で起きた事については全て無かったこととしよう》

 

「「「「「えッ!?」」」」」

 

突然告げられたその一言に、はやてを始め、司令室にいたロングアーチ全員が驚きの声を上げる。一方、そんな六課側の反応を見て、ザインは小さく鼻を鳴らした。

 

《なんだね? 何か不都合でもあるのか? これは君達に取っても決して悪い話ではないはずだぞ? 本局が誇る”エース・オブ・エース”たる高町空尉を筆頭に、機動六課ご自慢のエースが3人もリミッターの解除を要求するという事は……相当彼女達もその古代竜に苦戦を強いられているという事なのであろう? ならば、“陸上のエースチーム”とその名を誇りし、我がコアタイル家…おっと、失礼。“地上本部”の精鋭師団である『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』に後を任せて、自分達は真っ先に“撤収”できる上に、そうすることで君達の仲間が起した不始末で、六課の栄光に泥が塗られる様な心配もなくなるのだからな》

 

「……………」

 

《……それとも、まさかとは思うが…このまま君達の取るに足らない自己顕示を優先して…委託隊員(高町空尉のフィアンセ)を“犯罪者”にしてしまいたくはないだろう?》

 

そう言って、ザインは底冷えするような声で脅しをかけてくる。

 

「そ、それは……」

 

はやては一瞬口籠りながらも、副官であるグリフィスの方に目をやり、意見を求めた。

対するグリフィスは苦い顔を浮かべながらも、小さく頷いた。

それを見たはやては小さくため息をつきながら、モニターの方を向き直して、頷いた。

 

「わ、分かりました……すぐに、仰せのままに下命致します……」

 

「そ、そんな!? 部隊長、どうして―――!?」

 

話を聞いていたシャリオが驚きと納得がいかないといった表情を浮かべ、抗議の声を上げた。

しかし、はやてがそれを手で制したところで、ザインは冷静な態度の裏に隠した不遜な心をわざと滲ませているかのような微笑を浮かべながら、椅子の背もたれに深く身を預けた。

 

《流石はその歳で佐官に上り詰めただけの事はあるな。実に賢明な判断だ……よろしい。では、この件に関しては以上とする。通信終了》

 

それだけ言うと一方的に通信を切り、ザインはモニター画面から姿を消した。

もう出てきても大丈夫と悟った慶次はゆっくり、デスクの下から顔を出して立ち上がった。

 

「部隊長!」

 

開口一番、シャリオが抑えていた衝動を発散するかのように、司令室全体に響かんばかりの大声で声を張り上げた。その声には明らかに怒りが含まれていた。

 

「何や? シャーリー」

 

「何だじゃないですよ! いいんですか!? あんな理不尽な要求を黙って受け入れて!!」

 

彼女が怒る理由…それは、言わずもがな今しがたザインから下された理不尽な内容の下知であった。

 

「なのはさん達が今、街を守る為に必死で古代竜と戦っているというのに、それをいきなり横からズカズカと割り込んできて、こっちの状況も無視して、『手を引け。さもないと、昼間のお見合いで起きた騒ぎで政宗さんを罪に問う』だなんて…いくら意図返しの嫌がらせのつもりでも、無茶苦茶じゃないですか!!」

 

「シャーリー…」

 

まくし立てるシャリオを、アルト、ルキノは心配そうに見ていたが、グリフィスは腕を組んだまま瞑目して、話を聞いている。

はやてと慶次は、彼女がここまで怒りを顕にするとは思ってもいなかったのか、少々面食らっている様子だった。

 

「大体、何が『“陸上のエースチーム”とその名を誇りし、星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』よッ!! その一部隊であるR7支部隊が、真っ先に壊滅したっていうのに、今更別の分隊を応援に寄越したところで、焼け石に水どころか火遊びにしかならないだろうってわかりきってるはずなのに!? そんな事もわからないのかしら!? あの憎たらしい銀狐オヤジ―――!!」

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

 

いい加減にしないか! シャーリー!!

 

 

 

突然、グリフィスが机を叩きながら立ち上がり、怒鳴り声を上げた。

めったに感情を昂ぶらせる事のないグリフィスが見せた初めてともいえる剣幕に、興奮気味に捲し立てていたシャリオのみならず、その場にいた全員がビクっと体を震わせた。

 

「……あ」

 

グリフィスからの叱責を受け、シャリオは自分が立場を忘れて感情的になりすぎてしまった事に気づき、ハッとして口を閉ざす。

 

「えっと……その……」

 

狼狽えるシャリオに対し、グリフィスは静かに息を整えると、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「シャーリー。ザイン少将からの要求内容に納得がいかないという事は、僕らだってよくわかる。しかし、少しは八神部隊長のお気持ちも察してやれ。部隊長だって本心では誰よりも心苦しいんだ」

 

「……そ、それは…分かっています!……でも……!」

 

諭すように語りかけるグリフィスの言葉を聞きながらも、シャリオは尚も食い下がる。

そんな彼女に、グリフィスは再び口を開いた。

 

「もしあの場で、考えなしにザイン少将に逆らっていたところでどうなる? 結果は目に見えているだろう。それに、どんな事情や経緯があったからって、弱味を握られているのは機動六課(ぼくたち)なんだぞ? つまり、あの場ではどんなに無理難題な要求であっても、黙って了承するというのが最善の選択だった…否、それ以外に方法はなかったんだ」

 

「…………」

 

グリフィスの言葉を受けて、シャリオは押し黙った。

グリフィスの言う通りだと、頭の中で理解しているのだが、それでもやはり、今こうしている間にも未知の強敵と必死に戦っているであろう、なのは達の姿を想像すると、その手柄を身勝手な理由だけで全て横取りして、水泡に帰そうと目論むザインの態度がどうしても許せなかったのだ。

もちろんそれは。グリフィス、そしてはやてとて同じである。

 

しかし、相手は地上本部では、首都防衛長官のレジアスに次ぐナンバー2の統合事務次官のポストに就く男…言わずもがな階級だって、はやてよりも上である。それも、このミッドチルダにおいては地上本部長官以上の権力とコネクションを持っているともいわれる大名家の家長なのだ。

そんな相手に、いくら本局や聖王教会の強い後ろ盾があるとはいえど、立場上はたかだか一部隊の隊長に過ぎない自分が何を言ったところで無駄なのだ。

下手に逆らえばそれこそ部隊の評判に響くばかりか、唯でさえ地上本部との折り合いがあまり良くない現状を更に悪化させてしまう恐れがある。

はやては、ザインからの無理難題に対して、どうすることも出来ない現状に歯痒さを感じずにはいられなかった。

その悔しさをどうにか堪えながら、はやては自らを落ち着かせるかのようにフゥと小さなため息をつく。

 

「……まぁ、確かにグリフィス君の言う通りやで。私かて、ホンマはこんな理不尽な命令従いとうない。でも、今回ばかりは逆らうには、相手もリスクも悪すぎるわ。下手に逆らったら、政ちゃんが犯罪者として拘置所送りにされてしまうんやで? シャーリーはそれでもえぇんか?」

 

「そ、それは……」

 

はやてからの問いかけに、シャリオは何も言えずに押し黙る。

するとそんな彼女の心境を考慮した慶次が、この場には不釣り合いなくらいに陽気な口調で話し始めた。

 

「そうそう。ただでさえ、独眼竜ってば、既に一回“街中ぶっ壊しドライブ”なんてお縄寸前のとんでも事やらかしたってのに、これでマジもんのお縄になっちまったら、洒落になんないでしょうに」

 

慶次はいつもの調子でおどけたように笑って見せたが、それがここに集った全員を和ませようとわざとしている為であると察したグリフィスは、その笑顔を見て申し訳なさそうな表情になる。

 

「すみません…前田さんにまで気を遣わせてしまって……」

 

「いいって事よ。グリリン♪」

 

「ぐ、『グリリン』ってなんですか!?」

 

グリフィスは突然、変なあだ名で呼ばれて困惑する。

だが、そんな慶次の小ボケを挟んだトークのおかげで、シャリオの風船の様に限界まで膨らんでいた憤りの気持ちは、急速に空気が抜けるかのようにしぼんでいき、冷静さが戻ってくる。

 

「言われてみたら……そうですよね…一番辛いのは部隊長だっていうのに……すみません。私ったら、つい感情的になって……」

 

シャリオはそうはやてに向かって頭を下げると、シュンとなって椅子に座り直す。

 

「ええんよ。シャーリーが謝ることやあらへん。気にせんといて」

 

はやては小さく微笑むと、今度は慶次に視線を向けた。

慶次はその意図を察すると、小さくウインクをして見せる。

 

「それに、グリフィスも……ごめんなさい」

 

「いや、僕の方こそ…急に怒鳴ったりして、すまなかった……」

 

シャリオとグリフィスは再び互いに謝罪の言葉を口にした。

その様子を微笑ましそうに見つめながら小さく頷いた慶次は、改めてはやてへと向き直った。

 

「さてっと。一段落収まったところで…こっからどうするよ? はやて」

 

慶次からの問いかけに対し、はやてもまた難しい顔をしながら、腕を組んで考え込む。

 

「せやなぁ。あぁは言ったものの…やっぱりこのまま黙ってザイン少将(あっち)の言いなりになって、現場に退却命令出す…っちゅうんは、どうもいけ好かへんなぁ」

 

「そいつぁ同感。俺だって、あんな狐みたいな厭味ったらしいおっさんの、横車を押す様な命令に黙って従うなんて、傍から見てても胸糞悪ぃし、なによりも、そんな筋の通らない事、はやてらしくないと思うぜ?」

 

「嬉しい事言ってくれるなぁ、慶ちゃんはぁ…/// っとは言っても、このままどうにもなぁ……グリフィス君。何かえぇ知恵はあらへんやろうかぁ?」

 

「……そうですね…」

 

はやてはそう言って再び困り果てたような顔を浮かべながら、グリフィスに意見を求めた。

グリフィスは顎に手を当てて考える仕草を見せる。そして、少しの間を置いてからふと思い出したかのような顔つきになった。

 

「…ッ!? 待てよ……確か、R3支部隊といえば…!」

 

グリフィスは慌てて自分の端末を操作すると、ディスプレイ上にある資料を呼び出して、皆に見えるように掲げる。

そこに映し出されていたのは、今回の事件の現場となっているラコニア市と、その周辺地方の地図であった。

グリフィスが画面を操作し、広域マップに切り替えると、そこには一つの光点が点滅していた。

グリフィスはその光点付近を拡大する。

そこには、ザインが機動六課に代わる古代竜への対抗部隊として向かわせる予定の『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』R3支部隊を示すマーカーが記されていた。

 

「やっぱり……R3支部隊は、この街からラコニアへ向かうつもりなのか……」

 

グリフィスは、一人ブツブツと呟きながら、表示されたマップの簡易的な略図を指差す。

そこは今現在、古代竜と交戦中のなのは達がいるラコニアからは東に約200キロ程離れたセントクレアという都市であった。

グリフィスはそこを拡大表示すると、説明を始めた。

 

「ザイン少将はこの街に展開しているR3支部隊を応援に寄越すと言っていました。ですが、この辺りは山岳地帯が多く、道も細く入り組んでいる地域が多い……航空隊であれば、空戦魔導師が飛行して20分もかからずに到着できる距離ですが、確か『星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)』は陸戦魔導師を主とする部隊…陸路で向かうとすれば2時間以上…輸送ヘリを使っても少なくとも1時間はかかるはずです」

 

グリフィスの説明を聞いていたシャリオがハッとした様子を見せる。

 

「そっか! つまり、あのR3支部隊が現地に到着するまでは、まだなのはさん達に時間があるって事かぁ!」

 

「そういう事だ」

 

シャリオが手を叩きながら話すと、グリフィスは小さく微笑んでうなずいた。

しかし、同じく彼の説明を聞いていたルキノが懸念の表情を浮かべながら尋ねた。

 

「けど、グリフィスさん。ザイン少将は、『すぐに六課の退却命令を出せ』って要求してきているのですよ? その辺りはどうやってごまかすのですか?」

 

確かに、R3支部隊到着までは六課で事を解決させる事ができるチャンスがあるが、もしそうなれば、R3支部隊が到着した時に、ザインの要求を六課側が叛意して、六課へ撤退の指示を出さなかった事が明白となる。そうなれば、もう言い逃れなどできないだろう。

だが、それを聞いていたはやてが「いいこと考えた」とばかりに笑みを見せた。

 

「アルト。今現在のラコニア市内周辺の通信や念話回線の状況はどないなってる?」

 

突然の質問に、アルトは一瞬キョトンとするが、すぐに我に返って自分のコンソールを叩く。

 

「あ、はい。現在ラコニア市内の主要拠点や各管理局施設、ミッドチルダ東部方面の基地局……いずれも依然として混線や古代竜と思われる強大な魔力波の影響で繋がりづらくなっているみたいです」

 

「ふぅん…つまりはまだ市内の通信回線は全然回復しとらんっちゅうことやなぁ…」

 

アルトの言葉を聞きながら呟いたはやての意味深な一言に、他のロングアーチ達は首を傾げていたが、いち早くその意図を察した慶次が納得したような顔でポンと手を叩いた。

 

「あっ!! いくらこっちから撤収命令を出そうとしても、念話や通信が混線して、肝心の命令が向こうに“届かなかった”ら…」

 

「そっ! そうなったら、誰のせいやない。私達はザイン少将のご要望通り、前線におる六課の隊員に撤収するよう指示を送ったのに、通信網が混信したせいで、その指示を現地におった隊員は誰も気がつけなかった…つまりこれは“やむを得ない状況によって生じた不幸な過失”…っちゅうわけや♪」

 

はやてがニコッと笑いながら説明すると、グリフィス達もようやく彼女の言わんとしている事に気づいたのか、「ああ!!」と声を上げた。

すると、慶次が突然芝居がかった様な仕草で揉手をしながらはやてに近づいた。

 

いやいや、相変わらず考える事が、強かで悪どぅございまするなぁ~。流石はお代官様! イーッヒッヒッヒッ!

 

フッハッハッハッハッ! 越後屋!お主程でもないわぁーッ!

 

 

「………あの…部隊長…前田さんも……なにやってんですか?いきなり…」

 

突然前触れもなく始まった慶次とはやてによる時代劇のワンシーンを真似た陳腐な寸劇を見て、ルキノが困惑しながら尋ねる。

そんな彼女に対し、二人はさっきまでの真面目な雰囲気を一変させて、ドヤァ…っと胸を張る。

それを見たロングアーチメンバーは、思わずズッコケそうになった。

 

「けどさぁ、はやて~。越後は俺にとっても縁ある土地だからあんまり悪役にはしたかねぇんだよ。せめて他の地名に変えられない?」

 

「そうなん? ほな、今度から“越中屋”か”越前屋”にしようかと思うけど……グリフィス君、シャーリー。どっちがえぇと思う?」

 

「「どうでもいいですよ、そんな事!! ってかこんな時にふざけないでください!」」

 

息ピッタリにツッコんだグリフィスとシャリオに対し、テヘッと舌を出して誤魔化すはやてと慶次達のコントの様なやり取りを見て、ルキノとアルトは肩をすくめつつ、苦笑しながら思った。

 

((ホントこの人達って、いつもノリピッタリだなぁ…))

 

……と。

 

 

そんなわけで横道に逸れてしまったもの、一応はやての提案してきた方法は、言い訳としては十分筋が通っていた。

 

「でも、やっぱりちょっと無理があるのでは……? それに、もしそれでザイン少将の機嫌を損ねることにでもなれば…」

 

ルキノは尚も、不安そうに言うが、はやてはニッコリと笑って返した。

 

「大丈夫やって。実際、通信が混乱しとるのは事実なんやから。あとはグリフィス君が交代部隊を通して、現地の陸上部隊とかと帳尻合わせとけば、いくらでも誤魔化しは効くやろ。 それに、万一に備えて、私の方でも上手い事言い逃れる為の方便のひとつかふたつ考えておくから心配せんでええよ♪」

 

「おっ! だったら、そいつは俺に任せときな、はやて! 「相手を煙に巻く為の方便を考えろ!」とくりゃ…この風来坊!前田慶次の専売特許よ!」

 

「は、はぁ……」

 

自信満々なはやてと慶次の様子を見て、ルキノはどこか釈然としないながらも頷くしかなかった。

すると、同じくやや呆れ顔を浮かべていたグリフィスも腹をくくるかのように、頭を振った。

 

「……まぁ、確かに交渉の際の駆け引きにおいて主導権の握りやすさでいえば、僕らよりも前田さんの方が一日の長がありますからね……。わかりました。では、我々は交代部隊と連携して現地の陸士隊との帳尻合わせを…部隊長と前田さんは万が一の場合に備えての交渉の準備をお願いします」

 

「うん。よろしく頼むわ」

 

「任せときな!」

 

グリフィスが今後の方針をまとめ終えると、ロングアーチメンバーはそれぞれに動き出した。

今尚も危険な最前線で死闘を繰り広げている仲間達の使命、そして誇りを守る為に…

 

 

 

 

首都クラナガン郊外にある隊舎にて、はやてらロングアーチが星杖十字団(せいじょうじゅうじだん)。そしてコアタイル派の介入から、仲間達の尊厳を守るべく奮闘し始めた頃―――

 

機動六課が誇る隊長陣…なのは、フェイト、ヴィータは古代竜を相手に今もなお激戦を繰り広げている最中であったが、その最中、突然に身体をそれぞれのイメージカラーの魔力光のオーラが包んだかと思いきや、急にのしかかっていた重石が取れるかのように身体が軽くなる感覚と、それに伴って抑えられていた力が湧いてくる様な感覚を覚えた。

 

「なのは! これって…?」

 

「うん。魔力リミッターが解除されたのかも…?」

 

ここまでのリミッターがかかった状態で激しい戦闘と、強力な砲撃魔法を連発した代償か、本調子の時に比べて格段に落ち込んでいる魔力ではあったが、それでも通常の魔導師ならば、本調子の状態であってもなかなかお目にかかれないであろう、オーバーAAAランク相当の魔力量へと一気に膨れ上がった事になのはとフェイトは驚いた。

そこへヴィータからの念話が届く。

 

(なのは! フェイト! やったぞ! はやてがリミッターを2ランク解除してくれた! リリースタイムは120分! これなら、いけるぜ!!)

 

それはまさに、待ち望んでいた朗報だった。

これでようやく、自分達も本来の力を取り戻す事ができる。

なのはとフェイトは互いの顔を見合わせ、同時に力強くうなずいた。

 

「よし、行こう! 今度こそあの魔竜を倒して、それを操ってる秀家(あの子)を止めよう! フェイトちゃん!!」

 

「うんっ!」

 

なのはとフェイトは、揃って空高く舞い上がり、その身に寄生した大ムカデ…屍鬼神(しきがみ)繰駆足(くりからで)”が切断された首からだけでなく、胴体や尾、翼の付け根部分からも新たに数匹その身を踊らせ、合計10匹も身体から這い出て、さらにグロテスクな風貌へと成り果ててしまった古代竜アルハンブラを見下ろし……っとふと、そこでフェイトが、アルハンブラの遥か後方で、交戦する政宗と秀家達の方で見えるある異変に気づいた。

 

「ッ!? シグナム!!」

 

「えっ!?」

 

フェイトの叫び声を聞いて、慌ててなのはも彼女の視線を追った先に目をやると、すっかり荒野と化してしまった広場に広がる瓦礫の上で激しく打ち合う政宗と秀家、その真上に浮かんだ水球と思しき物体の中にシグナムが囚われているのが見えた。

 

「シグナムさん!?」

 

なのはが驚愕の声を上げる中、シグナムは必死になって拘束から逃れようと暴れるが、しかし、水球の中の彼女にはなす術がない様であった。

一方、政宗は、先程までの長笛とは違った武器を持っているらしい秀家と剣戟を交えつつ、どうにかシグナムの囚われた水球を壊そうとしている様子だったが、秀家に邪魔されて、中々近づく事ができない様子であった。

それを見たなのはとフェイトの決断は早かった。

 

「なのは! ここは私に任せて! なのはは、シグナムの救出と政宗さんの援護を!」

 

「わかった! 任せたよ、フェイトちゃん!」

 

言うなり、なのはは、飛行魔法を発動させながら政宗達の下へ高速で向かった。

リミッターが解除されているだけあって、その加速速度も今までとはまるで桁違いであった。

 

 

 

 

「Shit! 邪魔すんじゃねぇ!」

 

「うふふふ…その血の気の多いお顔もなかなかカワイイわよ」

 

政宗は叫ぶと同時に手に持った一刀(竜の爪)を振るい、両手に握った釵を俊敏に振るう秀家(蛟)の斬撃を打ち払う。

だが、その時、政宗が逸る気持ちで放った一撃によって体勢を崩しかけてしまった瞬間を狙って、秀家(蛟)が、あの瞬間移動の如き速さで懐に飛び込んできた。

そして、右手に構えた釵を大きく振り上げてくる。

――しまった! と思った時にはもう遅かった。

 

「はい、隙あり♪」

 

次の刹那、秀家(蛟)の右手に握られた釵が深々と政宗の左肩を抉った。

 

「ぐあぁあっ!!」

 

鋭い痛みが走り抜け、鮮血が飛び散る。

政宗はその衝撃に思わず悲鳴を上げてしまうが、すぐに歯を食いしばってその痛みに耐えた。

 

「あらあら…後ろに焦って勝負を急ぎ過ぎちゃった?」

 

秀家(蛟)の挑発を受けながら、政宗はどうにか片手で刀を構え直す。

 

――まだだ! この程度、なんという事はない!!

それに、早く助けなければシグナムが…!

 

『ごぼ』と、シグナムが喉元を抑え苦しげに呻いた。

水球に閉じ込められてから、どうにか酸素を温存しつつ、息継ぎをしていたようだが、それもとうとう限界が近くなってきているようだった。

早く助けなければ、秀家に取り憑いている性悪な女屍鬼神の言っていたとおり、シグナムは水球の中で溺れ死ぬ事となる…

 

「ふふふ…いよいよ、時間切れみたいね。ざんね~~~ん♪」

 

「どけぇっ! Syaaaaagh!!」

 

政宗は、怒りを込めて叫びながら刀を振り上げる。その瞬間だった。

 

「ディバイン…バスター!」

 

突然、政宗の叫びに応じるかのように、真横から凄まじい勢いで、桜色の魔力光の奔流が吹き荒れる。

 

「えっ!? ちょ…どういうこ―――キャアアァァッ!?」

 

その威力は凄まじく、瞬く間に、そのまま一直線にシグナムが囚われていた水球を跡形もなく消し飛ばし、さらにその衝撃の余波で政宗へと斬りかかってきた秀家(蛟)がそれに気づき驚く間も与えずに、その身体を紙人形の如く吹き飛ばしてしまった。

 

「……!?」

 

政宗は、何が起きたのか分からず一瞬呆然としたが、すぐにハッとなって、砲撃魔法の飛んできた方向に目をやる。

するとそこにはーーー

 

「お待たせ。政宗さん、シグナムさん」

 

肩で荒々しく呼吸しながら、レイジングハートを構えたなのはの姿があった。

どうやら、今の砲撃は、彼女が行ったものらしい。

 

「なのはか! 助かったぜ!」

 

政宗は、なのはの姿を見て心底ホッとした表情を浮かべた。

水球から解放され、地面に投げ出されたシグナムも、ゲホゲホと咳き込みながらも、なのはの顔を見て安堵と感謝の念の混じった様な微笑を投げかけた。

なのははそのまま地面へと降り立ちながら、シグナムの元に近寄る。

 

「シグナムさん、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、危うく宙に浮きながら溺れ死ぬところだったがな…」

 

シグナムはそう言いながらよろめきつつも立ち上がると、なのはに支えられつつ、秀家(蛟)が吹き飛ばされた方に視線を向けた。

そこへ、政宗も駆け寄ってきたが、なのはは彼の左肩から流れ出る決して少なくない血に気づいた。

 

「政宗さん、その傷は…!?」

 

「心配するな、こんなものScratchesだ…」

 

政宗は、なのはに向かってニヤリと笑いかけるが、なのははそれでも不安そうな顔のまま政宗に言った。

 

「痩せ我慢しないで! 明らかに軽い怪我なんかじゃないでしょ!? さっき、シグナムさんにも渡した応急用アンプルがもう一つあるから、それを使って!」

 

そう言って、ポケットの中から取り出した注射器型の薬剤を政宗に差し出す。

しかし、政宗はそれを受け取ろうとしなかった。彼は苦笑交じりに首を横に振った。

そんな彼に、なのはは怒ったような口調で言う。

 

「政宗さん! お願いだから言うことを聞いて!」

 

意固地なくらいに強く薦めるなのはを、隣で聞いていたシグナムは意外そうに見つめる。

いつもの彼女ならば、政宗が多少強引に事を押し通しても、それが彼の性格であると諦め、彼の意志を尊重して、ここまで強く意見する事などまず無いだろう。

だが、今は違う。

この騒動のせいで有耶無耶にされたものの、自分の正直な“気持ち”を伝えたばかりである想い人である政宗が、万が一にも取り返しのつかないような事になってほしくはないという気持ちが強かったのだ。

 

「……OK。そこまで強く言われたんじゃ仕方ねぇ。使わせてもらうぜ」

 

政宗は、なのはの手から受け取った注射器を首筋に当てると、躊躇なくその中身を体内に注入する。

すると、みるみると政宗の出血が止まり、やがて完全に止まってしまった。

 

「That's a big one. 流石は魔法の国の薬…効果覿面だな。恩に着るぜ、なのは」

 

政宗は、満足げに呟くと、改めて秀家(蛟)の方へ向き直る。

すると、瓦礫の山の中からゆっくりと起き上がってきた秀家(蛟)の目は、先程までの翻弄する様な妖艶な目つきではなく、他の屍鬼神と同じ憎悪と怒りの籠った鋭いものへと変わっていた。

 

「……よくもやってくれたわね……せっかくのお楽しみをよくも水の泡にしてくれたわね!」

 

秀家(蛟)は、ギロリと政宗たちを睨みつける。

その迫力に、なのはとシグナムは思わず気圧されそうになるが、政宗は怯むことなく不敵に笑いながら言い返した。

 

「これが本当の『水に流される』ってやつだな! 水を操るMonsterのくせによぉ!Ha! つまらねぇjokeだぜ!」

 

政宗の言葉にカチンときたか、秀家(蛟)は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

 

「うるさいっ! たかが人間風情が生意気を言うんじゃないわ! いいわ、もう許さない! ご主人様! 悪いけど、すぐに“現世(げんせい)”させて頂戴! この生意気な小僧は、私が直接食べてやるんだから!!」

 

秀家(蛟)がそう言うや否や、突然バチッと何かが弾ける音と共に秀家の身体が一瞬力が抜けた様にその場に跪き、それと共に彼の髪や服の配色、そして武器が再び本来のものへと戻っていった。

どうやら、秀家に憑身していた屍鬼神が抜けたようだ。

その証拠に頭を上げた秀家の表情は再び感情を感じさせない無気力なものへと戻っていた。

 

「………わかった………召神雅楽(しょうじんががく)……()でよ。屍鬼神(しきがみ) “(みずち)”…」

 

秀家が詠唱と共に、再び二振りの釵から戻った長笛を奏でると、秀家の足元に転がった水色の珠が光を帯びて、それは瞬く間に、新たな異形の巨体を形作った。

政宗達の前に阻むように現れた新たな怪物は、巨体をずどんと横たわらせ、長い首を持ち上げて、その全貌を晒してみせた。

 

「蛇……じゃない! 半人半蛇の大蛇……!?」

 

「しかも、身体の大きさだけではあの大ムカデさえも、しのいでいるぞ!?」

 

なのはとシグナムは目の前に現れた巨大な化け物に圧倒されるかのように声を上げる。

それは、なのはの口にしたとおり、本来鎌首にあたる部分が髪の長い人間の女性のような上半身となった大蛇であった。しかし、その姿は、ただの大蛇ではない。

女性の頭部には、まるで竜を思わせるような二本の角が生えており、下半身の胴体部分も鱗で覆われているものの、その表面からは無数の節足がうねっており、更に、背中の部分では巨大な翼の様なものが生えている。また、全身を彩る色合いは青を基調とした色をしており、見る者に嫌悪感を与えるものであった。

その外見を見た瞬間、政宗は、十八番である軽口を叩くようなシニカルな感想を述べた。

 

「Hu~…それがテメェの正体か? やっと、その腐った本性を具現化させてきたってところだな」

 

政宗の挑発とも取れる言葉を聞いた半人半蛇の屍鬼神(しきがみ)(みずち)”は、口を文字通り蛇の様に大きく開きながら、秀家の身体を借りていた時の色気に満ちた声とはまるで異なる、低く掠れる様な声で吐き捨てる。

 

黙れ。下等な人間風情で我が高貴な肉体を愚弄するか…? その不敬は貴様らの血肉、そして魂を私の贄に捧げる事で償ってもらうぞ!

 

蛟は、そう言い放ち、その身をゆっくりと起こすと、政宗たちに向かって凄まじい勢いで飛び掛ってきた。

そのスピードたるや、胴回りだけで約2メートル、長さでいえば約40メートルもあろう巨体さを一切感じさせず、まさに飛ぶかのような速度で襲い掛かる。

政宗たちは、慌ててその場を離れ、攻撃をかわすが、巨体に似合わず素早い動きに翻弄されてしまう。

すると、そこへ秀家がサッと地を蹴り、宙を回りながら荒れ狂う蛟の頭の上に飛び乗ってみせた。

 

「…………暴れるのは構わない………けど、僕がいる事を忘れちゃダメだよ。蛟……」

 

心配ご無用です。ご主人様…ご主人様の面子を潰すような無粋な真似は致しません……然らば、ご主人様の手足として、あの愚かな生き餌を共に誅伐いたしたく……

 

「……………好きにしたら、いいよ…」

 

秀家が眉一つ動かさないまま答えた。次の瞬間、頭上に乗った秀家を全く気にする様子もなく、再び大きな口を開き、政宗達に向けて、毒液を吐き出してきた。

 

「なっ!?」

 

二人は、驚きながらも咄嵯に飛び退いて難を逃れるが、その威力たるや、あの魔竜アルハンブラの吐いた強酸の雨にも勝る程で、既に灰燼に帰していた広場の地面を大きく溶かして、あっという間にその場所を瘴気の毒沼へと変えてしまう程だった。

 

「うええぇぇっ!? 強酸の次は猛毒!?」

 

「ったく今夜はとんだ季節外れのHalloween Nightだな!! こうも次から次にMonsterの大進撃とくりゃあ、流石の俺もうんざりしてきたぜ!!」

 

なのはが、あまりの理不尽さに思わず悲鳴を上げ、政宗は悪態をつく。

だが、そんな事を言っている間にも、今度は秀家が蛟の頭から飛び降りると、政宗に目掛けて長笛を高速で回転させながら振り下ろしてくる。

 

「“輪廻囃子(りんねばやし)”…」

 

「Hum! テメェのそのバカに頑丈な笛の動きも、いい加減に読めてきたんだよッ! Monster Tamer!!」

 

政宗は舌打ちしながら、手にした刀を振り上げ、振り下ろされる長笛と激しく打ち合うのだった。

 

 

 

 

一方、隊舎への連絡とリミッター解除申請の大役を見事に果たし終わったヴィータが、仲間達の戦況に目を配ると、一番に瓦礫の山の上を這い回りながら暴れ狂うはぐれ大ムカデと、それに果敢に立ち向かい、変速三刀流を振るう成実の姿が真っ先に目に入った。

 

「うぉっ!? テメ、コノヤローッ! でっけぇ図体のわりにちょこまかと動きやがって!!」

 

成実が振るう三牙月流の刃は確かに巨大である大ムカデを簡単に捉える事は出来たが、百足ならではの表皮の屈強さに加え、それが本来のものの数万倍も大きな身体に加え、宿主であった魔竜アルハンブラの装甲の性質を受け継いだのか、流石に本物には及ばずともその表皮は非常に固く、攻撃が中々通らない。

しかも相手はその大きさに反してやたらと素早く、成実が我武者羅に奮った太刀筋など、まるで蝿の突進を振り払う様に、あっさり躱し、逆にその巨体をぶつけられた成実の方が弾き飛ばされてしまう。

 

「痛ってぇぇッ!? こんにゃろー!! 足が百本あるくらいで調子こくんじゃねーぞ!!」

 

だが、それでも成実は決して諦めず、意味がわからない内容の負け惜しみを吐きながら、体勢を立て直すと再び地面を蹴った。

しかし、既に大ムカデは成実の攻撃範囲から逃れており、成実が再び追いつこうとした瞬間、成実の背後にあった瓦礫の山に飛び込むと、そこから地面へと潜り、地面をメリメリとめくりながら、広場の出口の方へと向かって猛烈な速度で進んでいった。

 

「あれ!? お…おい! どこ行きやがる!?」

 

「成実ぇぇッ!!」

 

突然の事態にあっけにとられ、静止した成実の下にヴィータが駆け寄ってきた。

 

「あっ! ヴィータの姉御!! あの大ムカデ、いきなり地面に潜って逃げやがったんだよ!!」

 

「えっ!? ちょっと待て! 地面に潜ったぁ!? それで奴はどこに!?」

 

ヴィータが慌てて辺りを見渡すと、先ほどまで自分達がいた場所から、大ムカデのものと思われる巨大な地響きと、何かが這っている様な音が響いているのに気付いた。

 

「まさか……この広場から逃げ出すつもりなのか!?」

 

ヴィータの呟きに、成実は目を丸くして驚いた。

 

「えぇっ!? それマズい事?!」

 

「マズいどころじゃねぇぞ! 大マズだ! アイツきっと、街の地下を這い回って、地中から街の人達を襲うつもりだ!!」

 

「マジで!? それヤベーじゃん!」

 

ヴィータに指摘された事で成実はようやく事の重大さに気づき、焦りだす。

 

「それで、どうすんだよ姉御!?」

 

「決まってんだろ! ヤツを追うぞ!」

 

そう答えるや否や、ヴィータは大ムカデの通った地面の隆起跡を辿り、サッと踊るように空に向かって飛び上がる。

 

「成実! お前も来い!」

 

「が、合点承知のはらこ飯ッ!!」

 

成実も慌ててヴィータの後を追い、瓦礫の山の間を駆け進んで助走をつけながら、彼女の背中へと迫っていく。

 

「走ってたら、間に合わねぇ! 手ぇ貸してやるから飛べ!!」

 

「あいさー!」

 

ヴィータが肩越しに成実に向かって叫ぶと、成実は頷きながら走る速度を速め、少し先にあった一際大きな瓦礫の山までくるとそれを踏み台にして、一気に高く舞い上がった。

それを見たヴィータはそのまま成実の手を取ろうとしたつもりだった…が、成実はそのままぐんぐんとヴィータよりも上に跳ね上がったかと思いきや、そのまま一回転を決めながらその背中目掛けて真っ直ぐ両足を突き出す…所謂“ドロップキック”の要領で落ちてきた。

 

「えっ!? ちょ、おま……なにやって―――」

 

予想外の成実の行動にヴィータは思わず声を上げるが、成実の足裏はヴィータの背中に着地……っと同時に彼女の背中を思いっきり、地面へと蹴り落とす。

 

「げぼこぉっ!!?」

 

奇妙な悲鳴を上げながら、ヴィータと成実の2人は土煙を上げながら地面に落ちると、瓦礫の上をゴロゴロと勢いよく転がり進み、そしてようやく止まった。

 

「ゲホッ! ゴホォッ!? い、いきなりなにしやがんだよ!? このバカしげざ―――!」

 

盛大に尻餅を着く形で止まったヴィータが咳き込みながら、この状況を作り出した元凶である成実に文句を言おうとして、ふと下を見下ろすと、そこにはヴィータの下敷きになった状態で仰向けになっている成実の姿があった。

 

「い、いてて……あ、姉御~~~…背中乗せてくれるならちゃんと受け身とってくれよぉ~~……」

 

成実は力なく、弱々しい声で何故か逆に文句を言ってくる。

そんな事を言われてもヴィータとしても何の事かわからず、困るしかない…っとそこで自分が尻餅をついているのが成実の腹の上である事に気がついた。

当然、バリアジャケットは思いっきりはだけ、顔だけ起こそうとしてる成実の目の前に見えているのは……自前の赤の下着(ショーツ)という事になるわけで……

 

ってわあああああぁぁぁっ!!? なにやってんだよ! この大バカァァッ!!

 

そこまで考えたところで、ヴィータは慌てて成実の上から飛び退くと、顔を真っ赤にした。

一方、成実は片手で頭を抑えながら起き上がりつつも、ヴィータがなんで赤面しているのかわかっていない様子で首を傾げた。

 

「え? なに? どったの姉御? 蛇苺みたいに顔真っ赤にして?」

 

「ま、“真っ赤”って…!? テメェ、思いっきり見やがったなぁぁ!?」

 

「へ!? ちょ、だから何の話だってぇの!? ってあっっぶな! グラーフアイゼン(それ)でぶん殴ったら死ぬってぇぇぇぇ!!」

 

「うっせぇ! 死ねぇぇぇ!!」

 

完全に逆上したヴィータは成実に向かって何度も鉄槌を振り下ろし、それを成実は必死になって避け続ける。

傍から見たらまるで鬼ごっこをしているように見える光景だが、当事者達にとってはそれどころではない。

 

「だいたいテメェ! いきなり、背中蹴ってきて、なんの真似だよ!?」

 

「へっ!? だって、姉御が“手ぇ貸してやるから飛べ”って言ったから、俺ぁてっきり“背中乗せる”もんだと思って…」

 

あっけらかんと話す成実に、ヴィータはあんぐりと空いた口が塞がらなかった。

ヴィータとしては先程の屍鬼神“牛頭、馬頭”との戦いのように成実を両手で抱えつつ、飛行するつもりでいたのだが、その為に呼びかけた言葉から、成実がまさか『背中に乗れ』と解釈するなどとは思ってもいなかった。

 

「なんでそうなるんだよ!? さっき、レシオ山でもずっとお前の事抱えて飛んでたじゃねぇか!今度もそうするつもりだったに決まってんだろうが! このあんぽんたん! バカか!? アホなのか!? それとも、わざとやってんのか!? 殺すぞ!!

 

「姉御ぉ~! ちょっと間違えただけじゃんかよぉ~!いい大人なんだから笑って許してくれよぉ~! 見てくれは“タカノツメ”みたいだけど…」

 

「今なんつったコラァ!! “チビ”って言いたいのか、コノヤローッ!!」

 

「じょ、“冗九(ジョーク)”だって姉御! 奥州冗九(ジョーク)だよぉぉぉ!!」

 

2人は取っ組み合いをしながらギャーギャーと言い争いを続ける。

しかし、その茶番は、ヴィータが振り上げた鉄槌(グラーフアイゼン)が成実の顔面を捉えようとした瞬間、広場の出入り口付近の建物が轟音を立てながら崩れていくのが2人の目にとまった事で強制的に終了となる。

 

「やっべぇよ姉御! アイツ広場の外に逃げちまうって!」

 

「誰のせいだと思ってんだよ!? それより追うぞ! …それと後でお前にはたっぷり説教だからな!」

 

「ひでぇぇぇ!? 姉御の女片倉ーッ! 一味唐辛子ーッ!」

 

「意味わかんねーよ!!」

 

おそらく、彼なりに非難の言葉を投げかけているのであろう成実の首根っこを掴みながら、ヴィータは崩れ落ちた建物から市街地の中へと飛び出していく大ムカデを追って、再度地面を蹴って、低空飛行で飛んで、追跡を再開する。

 

幸い、逃げた大ムカデを追いかけるのは簡単だった。

不自然に細長く破壊された跡が、一直線に伸びていた。まるで鉄道車両が無理やり通っていったような跡だった。

 

「姉御! あそこだ!!」

 

破壊された家屋を幾つか超えていった先、何筋目かの大通りに出たところで暴れる大ムカデを発見した。

その通りには、まだ逃げ遅れた大勢の人達が逃げ惑っており、先程の広場程ではないがパニック状態の群衆により騒然となっていた。

 

幸い大ムカデは逃げる人々に襲おうとして通りに散らかるように捨て置かれた自動車に阻まれて、難儀しており、苛立つようにその巨体を振り回して次々と自動車を薙ぎ払っているところだった。

 

「よし、このまま人を襲う前に一気にケリをつけるぞ!」

 

「合点承知のはらこ飯ッ!!」

 

大ムカデに向かってヴィータが抱えていた成実を投げ飛ばすと同時に、手にグラーフアイゼンを出現させ、成実は宙返りを決めながら、両手に木刀と白鞘を、左足の親指に無柄刀を挟み込むスタイルをとった。

 

「「行くぜ、ムカデ野郎!!」」

 

先にヴィータがグラーフアイゼンを振り上げる。

すると、それに呼応するようにカートリッジが1発排出され、赤い魔力光がアイゼンの先端に集まった。

 

「ラケーテン…ハンマァー!!」

 

そして、ヴィータが叫ぶと共に振り下ろされたグラーフアイゼンは、先端から勢いよく噴出した真紅の魔力光によって推進力を得て加速し、大ムカデに向かって放たれた。

 

それに対して、成実は空中で回転しながら、右手の木刀と左手の白鞘を十字に交差させる構えを取り、無柄刀を親指に挟んでいた左足を飛び蹴りの要領で突き出す。

 

三牙月(みかづき)流…“みずきり・さんれん”ー!!」

 

成実が技名を叫びながら、大ムカデの腹めがけて、無柄刀を挟んだ状態で飛び蹴りを、その真上に大ムカデの鎌首を狙って『ラケーテンハンマー』を繰り出したヴィータが並ぶようにして、飛んでいく。

 

ガキィィィィィン!!

 

次の瞬間、大ムカデは飛んできたヴィータと成実の攻撃に対し、一際強固な頭を突き出す事で、それぞれ攻撃を防いで、弾き返してみせた。

 

「うわっ!!」

 

「どあぁぁぉッ!!」

 

しかし、ヴィータはどうにか空中に踏みとどまり、成実もバックステップで着地を決めると同時に足の親指で挟んでいた無柄刀を地面に突き立てる事で、これ以上吹き飛ばされるのをどうにか防いだ。

 

「くそっ! 屍鬼神(しきがみ)とかいうバケモノは、どいつもこいつも硬すぎんだろ!」

 

「うへぇぇぇ! 守りの固い敵なんざ、もうこりごりだってぇの!!」

 

その硬さを見て、レシオ山で対峙した屍鬼神(しきがみ) 牛頭・馬頭を思い出したヴィータと成実はそれぞれ眉を顰ませながら悪態をつく。

だが、そんな2人に構う事なく、大ムカデは攻撃してきたヴィータ達に対して反撃を開始しようとしていた。

大ムカデはその長い身体を使って、2人を包み込むように旋回を始める。その速度は徐々に増していき、回転の速度が上がるにつれて2人の視界が歪んでいった。

 

そして、大ムカデは2人が回避行動を取るよりも早く、ヴィータ達に突撃を敢行する。

 

「まずいッ!」

 

「姉御ォ!!」

 

大ムカデが突進してくるのが見えた瞬間、ヴィータは反射的に防御態勢をとり、成実は彼女を守ろうと前に出て、彼女を庇う形で噛み付いてきた大ムカデの巨大な顎に挟まれてしまった。

 

「ガフッッ!!?」

 

「成実ぇッ!?」

 

大ムカデに両脇腹を噛まれて、血を吹き出す成実を見て、ヴィータは悲鳴じみた声を上げる。

 

「……こ、こんにゃろぉ…今のはちょっと…痛かったじゃねぇかよぉ……!」

 

咄嗟に両手の木刀と白鞘で押さえつける形で、どうにか身体を噛み砕かれる事は避けられた様であるが、今の一撃はそれなりに効いたようで、その証拠にヴィータのグラーフアイゼンで殴られても多少の身体の痛みだけで済ませていた成実が、あの時よりも明らかに苦痛で顔を顰めていた。

 

「この野郎ッ! 成実を離しやがれ!」

 

ヴィータはグラーフアイゼンを再度振り上げ、大ムカデの頭に叩きつけた。

しかし、今度は大ムカデは頭を引いてそれを避けると、そのままヴィータに向かって大ムカデの巨体を横薙ぎに振るった。

 

「うわあああっ!!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

ヴィータは、それを両腕でガードするが、それでも勢いまでは殺しきれず、まるで大型トラックにはねられたかのように、軽々と吹き飛ばされてしまう。

その拍子に成実も大ムカデの顎から飛ばされ、大通りの端にある建物の壁に叩きつけられて、ズルリと壁伝いに落ちていく。

 

「……あ、ぐぅ……し、成実……!?」

 

地面を転がりながらも途中でどうにか体勢を立て直すことができたヴィータであったが、ダメージはかなり深刻らしく、全身から汗を流しながら苦悶の表情を浮かべている。

 

「……くっ……お、おい、成実……大丈夫か?」

 

「………うぅ……あっ……姉御ぉ……」

 

ヴィータは、自身も決して軽傷ではない身体を引きずるようにしながら、急いで倒れている成実の下に駆け寄り、声をかけるが、彼は意識こそ保っていたが、既に起き上がるだけの力はないのか、弱々しく返事をするだけだった。

 

「ちくしょう……こんなところで……万事休すってか…!」

 

ヴィータは悔しそうに歯を食い縛りながら呟き、そして、せめてもの抵抗として、再び大ムカデに向けて構えを取った。

その時だった。

 

「あっ…姉御………」

 

「んっ……なんだよ、成実。なんか言っ―――」

 

不意に成実が、ヴィータに何かを訴えかけてきたので、彼女がそちらに視線を向けると、成実は震える様な声を必死に絞り出しながら言った。

 

「く…食いもんだ…食いもんくれよぉ……そうすりゃ、これぐらいのケガなんて、すぐ治っちまうからさぁ……。だから…早く何か食わせてくれぇぇ……」

 

それは、一見すればあまりにも場違いとも言える発言であった。

確かに成実の特異な体質からしてみれば、それが一番重要かもしれないが、今この状況では余りにも間抜け過ぎる言葉であり、ヴィータも思わず呆気に取られてしまった。

 

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇぞ!! こんな時に何寝ぼけた事抜かしやがんだ! !」

 

だが、成実は本気で言っているようで、口から血の混じった泡を吹き出しながらも、ヴィータに懇願するように手を伸ばしてくる。

 

「お願いだぁ姉御ぉ……さっきの一撃で血が思いっきり抜けちまってやがる……なんでもいい……とにかく何か腹に入れてぇんだ……!」

 

「そ、そんな事言ったって…こんなところで食いもんなんか……!?」

 

ヴィータがそう言って辺りを見渡しながら狼狽えていると、ふと少し離れた場所に見覚えのある小汚い巾着が落ちているのに気づいた。

 

「あれは…?…そうか! 成実の“『非常袋』”!!」

 

ヴィータは、それが成実が小腹を空かせた時やいざという時の切り札とする秘密兵器…そしてその他、ゴミ同然のよくわからないものなどを諸々詰めている『非常袋』である事を思い出すと、すぐにそれを拾い上げる。

 

「ひょっとしたら、こんな中になにか食いもんが…!?」

 

一握の期待を胸に袋の中に躊躇いなく手を突っ込んだヴィータは、適当に掴んだそれを取り出してみる。するとそれは…

 

 

クネッ…

 

 

白いゲル状の質感の表皮を持った体長約10センチ程の巨大なカブトムシの幼虫であった……

 

 

ギャアアアアアアァァァァァッ!! なんちゅうもん入れてんだよ! この悪食バカああぁぁぁぁ!!」

 

ヴィータは、それを地面に叩きつけるように投げ捨てると、そのまま必死にバリアジャケットの裾で手を払いながら、大声で叫んだ。

 

「あぁ……ちょっと姉御………せっかく、美味そうだから捕まえてとってたのにぃ……」

 

「知るかああぁぁッ! つぅか、リンゴや爆弾ならまだしも、生きたイモムシなんか袋に入れてんじゃねぇよ!!」

 

ヴィータのその叫び声を聞きながら、大ムカデは、ゆっくりとその顎を開き、またもヴィータに向かって襲い掛かろうとした。

 

「だぁぁぁぁ!! くそぉ! こうなったら仕方ねぇ!! 成実! ほら、コイツを食え!」

 

ヴィータは半ばヤケクソ気味に、投げ捨てた幼虫を摘むと、それを成実の口に目掛けて投げた。

 

「ぺやんぐっ!?」

 

だが、既に虫の息の成実の口に入ることはなく、彼の顔面に直撃してしまう。

 

「ちょっと姉御ぉ…!ちゃんと狙い定めてくれよぉ…!」

 

「うるせぇ! だったら自分で取れ!」

 

「無理だってのぉ……もう身体中痛くて動かねぇし………」

 

成実は、そう言いながら、どうにか顔を器用に動かす事で、鼻の上にいた幼虫を口に運び入れる事ができた。

 

「むぐむぐむぐむぐ…………んっ?…」

 

「どうしたんだよ?……まさか、それ毒虫だったんじゃねぇだろうな!?」

 

「…ね……」

 

「……ねっ…?」

 

成実は顔を一瞬顔を伏せて静止したかと思いきや…次の瞬間には、まるでバネ仕掛けの人形のように跳ね上がり、歓喜の声を上げた。

 

ハーハッハッハァァァァァァァァ!!! 燃料補充完了ぉぉぉ! 亞癖流(アクセル)全開ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!

 

うそだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!?

 

成実が突然元気を取り戻した事に驚いたヴィータだったが、そんな彼女を尻目に、成実は今の今まで虫の息だったのが嘘の様に、思いっきり地面を蹴ると、目の前に迫ってきていた大ムカデに飛びかかりながら、指に無柄刀を挟んだ左足で力の籠った回し蹴りを繰り出してみせた。

 

「ちょ、おま……どんだけ、でたらめな体質してんだよっ!?」

 

ヴィータが呆れた様に叫ぶが、成実はそんな事など気にせず、華麗に着地を決めて、復活をアピールした。

 

「うっしゃあぁぁ! 流石に本調子とまではいかねぇけど、これならまだまだ戦えるぜぇ!!」

 

成実がそう言って意気込むと、足で掴んでいた無柄刀を投げて口に咥えると、先ほどまで虫の息だったとは思えない程に軽やかな動きで、大ムカデの懐に潜り込み、再び渾身の一撃を放つべく両腕を振りかぶった。

 

三牙月流(みかづきりゅう)…“まぐなむすとらいく”!!」

 

 

ガキィィィィィン!!

 

 

無柄刀を口に咥えたまま、白鞘と木刀をそれぞれ手の中で回転させつつ、敵に突っ込み、一閃する剣技…義兄 政宗の技『MAGNUM STRIKE』を三牙月流(みかづきりゅう)として昇華させた必殺剣が大ムカデの顔に命中する。

相変わらずその表皮の硬さ故に斬り伏せる事は出来なかったが、自身に深手を負わせた顎の片方の牙を砕く事に成功し、顎の一部を失った大ムカデはそのまま巨体を仰け反らせた。

 

「ちぃ! やっぱり、まだ力が入らねぇ……! でも、今なら!!」

 

成実は、自身の体調に舌打ちしながらも、宙の上を大きく舞いながら、地上にいるヴィータに向かって叫ぶ。

 

「姉御ッ!! 俺がこいつの土手っ腹に無柄刀をぶっ刺すから、姉御はそいつをグラーフアイゼン(自慢の槌)で思いっきり打ってくれよ!!」

 

「はぁぁッ!? なんだそりゃ!? このバカは、また変な技思いつきやがって…!!」

 

成実の提案に、ヴィータは呆れて怒鳴りながらも、どこから満更でもないのか、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「まぁ…変な技だけど、やってみる価値はありそうだな! よしっ! 任せろ!」

 

「へへっ! 流石、ヴィータの姉御は話がわかるぜ!」

 

成実もまた、ヴィータの返答に満足げに笑い、そのまま空中で体勢を整えると、両手に持っていた白鞘と木刀を手放すとバチバチと弾ける音を立てながら、電撃の走り始めた両手で、無柄刀をしっかりと握りしめる。

そして、顎の片方を失って暴れている大ムカデを真下に見据えて狙いを定めた。

 

「さっきのお返しだぜ!! 堅焼きせんべい野郎!」

 

成実は、そう言い放つと同時に、無柄刀を握ったまま、身体を縦に回転させつつ、大ムカデの頭に目掛けて真っ直ぐ落下していく。

そして、その頭に着地すると同時に、振り絞れる限りの力を込めて無柄刀を突き立ててみせた。

 

 

グチャッ!!

 

 

大ムカデの頭部に突き立てられた無柄刀は、その固い外皮を貫き、肉を切り裂いて脳にまで達すると、成実はちょうど自分が舞っていた高さまで上がってきたヴィータを見上げて、叫ぶ。

 

「今だ、姉御!! 思いっきりやっちゃって!」

 

「おう! 任せておけ!!」

 

成実の言葉にヴィータは大きく返事をすると共に、手にしていたグラーフアイゼンを振り上げながら、成実と同じ動作で真っ直ぐ大ムカデの頭に向かって突っ込む様に降下していく。

それを見計らって、成実は大ムカデの頭の上から飛び退いた。

 

「トール……ハンマぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

ヴィータは即興で思いついた技名を叫びながら、大ムカデの頭に突き立てられた無柄刀を、釘に見立てて思いっきり打ち付ける。

 

ゴガンッ!!!

 

ヴィータの一撃を受けた大ムカデは一瞬ビクンと痙攣を起こし、動きを止める。

 

ドオオオオオオオオオオオオン!!!

 

次の瞬間、大ムカデの鎌首を貫通する形で無柄刀が落雷もかくやの速さで、轟音と衝撃を伴いながら地面へと突き刺さり、同時に大ムカデの頭がまるで電気カッターを貫通させたように綺麗に切断された。

首を失った大ムカデが力なく倒れ伏し、しばらくビクビクと震えていたが、それも数秒の事であり、完全に動かなくなる。

 

「はぁ……はあ……」

 

大ムカデの巨体がボロボロと灰の様に崩れ落ちる様を見て、ヴィータは肩で息をしながら、地面に降り立つ。

 

そんな彼女に、地面に落ちた白鞘と木刀、そして無柄刀を回収した成実が駆け寄ってきた。

 

「っしゃあぁぁ!! やったぜ姉御ぉぉぉぉぉッ!!!」

 

「うるせぇ!」

 

成実は無邪気に全身を使って喜びを表現しながらヴィータに抱きつくが、ヴィータは鬱陶し気にそれを払う。

しかし、その表情にはどこか嬉しさが入り混じっているように見える。

 

「ふぅ……なんとか勝てたか……ったく、お前はホント、やることなすこと先が読めねぇな」

 

ヴィータは溜息交じりにそう呟きながらも、その顔には笑みを浮かべていた。

 

「……で、でも…今回は色々助けてもらったし…感謝するよ……ありがとな…成実…///」

 

ヴィータは照れ臭そうに頬を掻きながらも、小さく成実に礼を言う。

対する成実は、ニッと自慢の八重歯を覗かせながら、いつも通り屈託のない無邪気な笑顔で返した。

 

「ヘヘンッ! これで姉御も、俺が兄ちゃんや小十郎の兄貴に負けてねぇくらいにすげぇって事がわか――――ッ!?」

 

そう言いかけたところで、突然成実は、力が抜けた様にガックリと膝を着いて、項垂れしまった。

 

「!? お、おい! 成実ッ!?」

 

突然の事に驚いたヴィータがその顔を覗き込むと、そこにはまたも顔面蒼白になっている成実の顔があった。

 

「ど、どうしたんだよ!? まさかやっぱりさっきの傷が…!?」

 

ヴィータは心配そうな声を上げるが、当の本人は先ほどまでの元気はどこへやら、青いを通り越して真っ白い顔で口を開く。

 

「は…」

 

「は?」

 

 

 

腹減った……

 

 

ぐううううぅぅぅぅ………

 

 

ハァッ!!?

 

 

成実の口から出てきた間抜け極まる一言を聞いて、ヴィータは素っ頓狂な声を上げると共にズッコケる。

 

「アホかテメェはッ!! 人を心配させやがって!!」

 

「いやぁ、最後の姉御との合体技で一気に“燃料”を使いきっちまったみたいなんだよぉ……やっぱカブトの幼虫ってのは、味は悪かねぇんだけど、どうも腹持ちがよくねぇや…」

 

心配して損をしたと言わんばかりに、ヴィータは再び深い溜息をつく。

 

「はぁぁ……今日は色んなバケモンを見てきてるけど…成実(お前)が一番 “バケモン”に見えてきたぞ…」

 

ヴィータは呆れたような口調で言うのだった……

 




家康、スバルや幸村の登場はまだかと期待の声を頂く中…また今回もヴィータと成実メインに活躍させてしまいました(苦笑)

さて、世間では今日はバレンタインデー…なんていう都市伝説の日だそうですけど、ソンナモノ、ホントウニアルノデスカネー(棒読み)

…っと女っ気のないひとりもんの虚しい愚痴は置いておいて…

何気に政宗×なのはのオリジナルカップリング以上に良きコンビになりつつある成実とヴィータのチビ&ガキコンビ。何気に私自身リブート版の新要素として特に気に入っているので、これからどんどん推していきたいですwww

スバル「…だから、私と家康さんのカップリングは…?(泣)」

ティアナ「その……ドンマイ。スバル…」
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