リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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【前回までのリリカルBASARA StrikerS】

魔竜アルハンブラの死体を触媒に無限に現れる屍鬼神『繰駆足(くりからで)』の猛威に苦戦するなのは達は遂に、自分達の魔力リミッターを解放するという手を打ち、反撃に乗り出す。

その一方、機動六課司令室では政宗に撃退されたなのはの見合い相手であった貴族魔導師 セブン。コアタイルの父 ザイン・コアタイル統合事務次官からの謎の圧力がかけられるなど、別方面において不穏な雰囲気が漂いつつあった…

果たして、この激戦の先に待つものとは……?

フェイト「リリカルBASARA StrikerS 第六十二章。出陣します」



第六十二章 ~ラコニア総力戦!増援の到着と恐怖の無限百足地獄~

宇喜多秀家と交戦する政宗のもとへなのはを送り出したフェイトは、一人、無限に出てくる大ムカデの怪物によってその身体を完全に乗っ取られた魔竜と対峙していた。

しかし、リミッターを解除され、魔力が一気に増強された今のフェイトは、射撃、砲撃魔法の威力はもちろん、飛行速度や近接用の斬撃の太刀さばきの速さも、先程までとは比べ物にならない程に向上している。

 

「はああああぁぁぁ!!」

 

夜の帳を明るく照らす輝きを放つ黄色の魔力刃を纏った愛機(デバイス) “バルディッシュ”を目にも止まらぬ速さで繰り出したフェイトは、噛みつかんとしてきた大ムカデの鎌首から胴体までにかけて斜めに切り裂く事に成功する。

そこへ左右双方から挟みこむように2匹の大ムカデが火を噴きかけてきた。だが、それも予め予想していたフェイトは大きく後ろに飛んで回避すると、すぐさまカートリッジを再ロードして魔法陣を展開させる。

そして放たれたのは雷光の槍。それは、一瞬にして1匹目の大ムカデを貫き焼き尽くすと、そのまま2匹目を貫通し、更に奥にあった大木に突き刺さってようやく止まった。

しかし、これで終わりではない。早くも再生した1匹を加えた3匹の大ムカデが魔竜の胴体から身体を綱の様に伸ばしながら、顎を大きく開き一斉に襲い掛かってきたのだ。

だが、それに怯むことなくフェイトはカートリッジをロードしながら飛び上がり、空へと逃れる。それと同時に展開させたのは巨大な環状魔法陣だった。

 

《Plasma Lancer》

 

バルディッシュがそう唱えると、金色のスフィアを中心に4つの環状魔法陣が浮かぶ。そして次の瞬間にはその全てのスフィアからプラズマランサーが発射される。

合計9本の槍状になった雷撃が高速回転をしながら次々と大ムカデ達を貫く中、最後の1本だけ外れてしまうものの、それを空中で掴み取ると再び撃ち出す。

今度は見事に命中するも、やはり決定打にはならないのか、大ムカデ達はまだ健在だ。だが、フェイトの攻撃はまだ終わっていない。

 

《Arc Saber》

 

今度は頭上に展開していた魔法陣より魔力刃が形成される。そしてそれを手に取ったフェイトは、大ムカデ達の頭部を次々と斬り落としていく。

この光景を見たものは誰もが思うだろう――まるで流れる水のように滑らかな動きだと…

 

しかし、フェイトはこのまま、この大ムカデを倒し続けていてもキリがない事は理解している。

それは先程、カラスの様な姿をした小さな獣人型の屍鬼神(しきがみ)が語っていた事から明らかである。

あの時、奴はこう言っていた……

 

―――その大ムカデ共は魔竜の血肉を糧に育ち、出来上がった身体だから、いくらムカデ共を潰そうが宿主の血肉がある限り、いくらでも次のムカデが現れるって腹さ―――

 

つまり、本体となる首を失った魔竜をどうにかかぎり、永遠に湧き出てくるという事なのだ。ならば、ここで決めるしかない……

しかし、一人で出来るのか…? なのはは政宗の救援に向かい、シグナムは最後に目撃した時には秀家に囚われの身になっており、無事に助け出されたのかもまだ確認できていない。

ヴィータは成実と共に、魔竜の亡骸からこぼれ出た一匹の大ムカデを追って、広場を出て行ったのが見えた。

そうなると、この怪物を止める事ができるのは今ここにいるのは自分しかいない……

 

「やるしか……ない!!」

 

そう覚悟を決めたフェイトは、バルディッシュを構え直すと、眼前の大ムカデ達を見据える

そして一気に急降下して魔竜の懐に飛び込む。大ムカデ達は反応できていない。フェイトは勢いのままに右下から左上へ斜めに振り上げた一閃を放ち、切断された首から生える大ムカデの一匹の胴体を真っ二つにする。

さらに返す刀で横薙ぎの一閃を放ってもう一匹を両断し、とどめに後ろ回し蹴りでもう一匹の頭を蹴飛ばして粉砕する。

 

(残るはあと1匹…! 例え無限に再生されるといっても、5匹全てを同時に倒せば、再生させるにも時間がかかるはず…! ちょっと残酷だけど、その間に魔竜の四肢を『ブリッツアクション』で一気に斬り落としてバラせば、再生されても、少なくともこの場から動く事はできなくなるはず…!)

 

しかし、そんなフェイトの考えなどお見通しと言わんばかりに、残る大ムカデはその巨体をうねらせながら、口から黒い炎噴いて牽制を図ってきた。

慌てて後ろに飛んで回避したフェイトは、着地と同時に土煙を立てながら、激しい勢いで後方に押し下げられてしまう。

どうにか足を踏ん張って堪えたものの、その隙をついて残り1匹の大ムカデが、先程ヴィータを襲った個体の様に魔竜の骸から抜け出ると、フェイトに向かって突進しながら、顎を開いて噛み付いてきた。

咄嵯に左腕を前に出して魔法陣型の障壁魔法(シールド)を張って、受け止めるも、あまりの力の強さに思わず苦悶の声を上げてしまいそうになる。

そこへ更に追い打ちをかけるように、全ての大ムカデがいなくなった魔竜アルハンブラの骸の表皮が再び中で何かが蠢く様に波打ったかと思いきや、次々と新たな大ムカデ達が這い出してきたのだ。

しかも、今度は切断された首だけでなく、胴体の背中から2匹、両脇腹から3匹ずつ、ついには尻尾をぶち抜いて新たに這い出た一匹が尻尾の代わりを担うなどして、今までよりもその数は増え、14匹となってしまった。

 

その光景を見て戦慄を覚えたフェイトは、冷や汗を流しながら必死にバルディッシュを握り、自分に迫っていた魔竜の身体から抜け出た大ムカデの長い胴体の回りを光の様に駆け抜け、一太刀でその胴体を切り刻んで撃破しつつ、再び空に上がるが、大ムカデの数が増えて更にグロテスクな見た目になった魔竜の死体を見下ろして愕然としてしまう。

 

「こんな数……一体どうすれば……」

 

そう呟いた時だった――

 

突然、自分の視界の隅…魔竜の死体から生える大ムカデの大群とは反対の方角の空から、高速でこちらに接近してくる一機のヘリが映り込んだ。

 

「あれは……!?」

 

よく見るとそれは、自らが所属する機動六課が保有するJF704式ヘリコプターである事に気づいたフェイトは、その機体が自分に接近するにつれて聞こえてきたローター音に混じり、自分の耳に聞き覚えのある念話の声が届いてハッとする。

 

《フェイト隊長。遅くなりました! ロングアーチ05 リインフォースⅡ! 並びにスターズ、ライトニング両03、04、イレギュラー01、04による応援部隊、到着ですぅ!》

 

「リイン!! よかった! 最高にナイスなタイミングだよ! …はああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

フェイトは嬉しさのあまりに叫び声を上げると、そのまま両手を振り上げて大きく振り下ろす。

すると、それに応えるかのように、彼女の周囲に魔力弾のスフィアが無数に現れ、一斉に大ムカデの大群の方へと向かっていった。

 

「はああああっ!」

 

そして、フェイトの掛け声と共に無数の魔力弾が、まるで雨のように降り注ぎ、大ムカデ達を貫いていく。

しかし、それでも数が多すぎるため、撃ち漏らした大ムカデが何匹もフェイトに襲いかかってきた。

だが、そこへ上空へ飛来し、停滞したヘリの後方のハッチが開かれるや否や、中から大小それぞれ異なる背丈の2つの人影が飛び出してくる。

 

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」

 

熱苦しい雄叫びの様な掛け声とともに出てきたその人影は……

 

 

「ッ!? 幸村さん!? それに…エリオ!?」

 

それぞれ紅の二槍と、ストラーダを構えながら降下してくる真田幸村と、エリオ・モンディアル……“熱血兄弟”コンビであった。

勿論彼らはフェイトと違って飛行能力はないが、若き虎達はそんな事などお構いなしと言わんばかりにそれぞれ、有り余る闘志を眼に一杯に滾らせながら、真下で暴れる大ムカデの群れを見据えていた。

 

「ようやく戦場(いくさば)へ到着したと思ったら、何やら得体のしれぬ物の怪の気配! しかし! そんな魔の者など、この熱き二槍の前には恐れるに足らず!!」

 

「はいっ! 兄上ッ!!」

 

幸村とエリオはそれぞれ愛槍を交差させ、天に掲げる。

 

「「天ッ!!」」

 

交差させた槍を一回離し、足元でまた交差または一閃する。

 

「「覇ぁ!!」」

 

切っ先を真下にいた大ムカデのそれぞれ標的とした個体に見据え、そして…

 

「「絶槍ぉぉ!!」」

 

 

ドオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

その脳天に突き立てながら大ムカデを踏みつける形で地面に着地してみせた。

 

「……………………」

 

さすがのフェイトも、2人のインパクト絶大な登場に思わず目を丸くして呆気に取られながら大ムカデ達のいた場所に巻き起こった土煙を見据えていた。

そして晴れた土煙の中から、それぞれ槍を構えた幸村とエリオが、“フェイトの方を”向いて臨戦態勢をとりながら、口上する。

 

「甲斐武田軍総大将代行、そして機動六課 委託隊員! 真田源二郎幸村!」

 

「同じく…機動六課 チームライトニング隊員 エリオ・モンディアル!」

 

「「見ッッッ参!!!!」」

 

勇んで名乗りを上げる2人を見て、フェイトはどう言ったらいいかわからないような困惑した苦笑を浮かべつつ、気まずように念話を送る。

 

(あの…二人共……敵はこっちじゃなくて“反対”側なんだけど……?)

 

フェイトがそう指摘すると、幸村は「へっ?」っときょとんとして首を傾げ、エリオは慌ててフェイトが指差す方角を見やった。

すると、ほんの数メートルしかない先で首のない巨大な竜の死体から無造作に生えた大ムカデ達が、突然の乱入者に怒り狂っているのか暴れ、悶ていた。

 

「うわわわわっ!? 兄上ッ!! いつの間にか僕らは敵の胸中にいたようです!!」

 

「なんとッ!? おのれ、物の怪共!! いつの間に我らの目と鼻の先に―――」

 

《アンタ達が、リイン曹長や家康さんの静止も聞かないで、闇雲に飛び出して行ったりするからでしょうがッ!!!》

 

念話越しにティアナの盛大なツッコミの怒声が響く。

その声につられフェイトが見上げると、上空のヘリのハッチの降下口には、バリアジャケット姿のスバル、ティアナ、キャロ、リイン、そして黄色の戦装束を身に着けた家康が立っているのが見えた。

どうやら彼女達もフェイトと同じく幸村達の派手な出陣に唖然としていたらしい。

特にリインは家康の隣に浮遊しながらプンスカ怒っている様子だった。

 

「まったくもうエリオってば! リインがフェイトさんに現場や敵の状況を確認し終わるまでは、キャビンのハッチが開いても待機って言ったのに、何勝手な事してるのですかぁ! しかも監督しなきゃいけない幸村さんまで一緒になって!」

 

「まあまあ、リイン曹長、ティアも。 おかげであのバケモノに不意打ちかける事が出来たみたいだし、結果オーライって事で…。それにフェイト隊長も無事みたいだし…とりあえずよかったじゃない♪ ねっ、家康さん」

 

幸村、エリオの独断専行に怒るリインやティアナを、スバルが宥めながら、家康の方を見る。

 

「あぁ、これも真田達らしいと言えば、そうかもしれないな…。とにかく、こうなったらワシらも降りて参戦しよう! 皆、準備はいいか?」

 

家康の言葉を受けて、スバル、ティアナがリボルバーナックルとクロスミラージュを…キャロが手にはめたケリュケイオンを光らせながら、腰に下げた小太刀を構える。

 

「「はい!」」

 

「いつでもいけます!」

 

それぞれの返事を聞き届けてから、家康は腕を振り下ろす。

 

「よしっ! ヴァイス! もう少しヘリを下げてくれ! リイン殿はここから現場の状況確認とあの怪物の解析を頼む!」

 

「了解ですぅ!」

 

《………わかりましたぁぁ……》

 

家康の指示を受けて、パイロットのヴァイスが何故か気の抜けた様な返事を返しながら、ヘリを少し下げ、魔力や気で強化した身体であれば、飛び降りても問題ない高さまで下がってきたのを確認するや否や、家康は飛び降りながら拳を振るった。

 

「行くぞ!!」

 

「「「はいッ!!」」」

 

「気をつけるですよ!」

 

リインに見送られる中、家康に続いて、スバル、ティアナ、キャロが飛び降りると、それに気付いた大ムカデ達は一斉に彼女達に襲いかかってきた。

しかし……

 

「はぁッ!!」

 

ガキイィィン!!

 

「ギャッ!?」

 

ドオオォンッ!!

 

先頭の大ムカデが、家康が振るう金色の手甲を纏った拳によって頭部を殴られ、轟音を上げながら地面に叩きつけられた。

さらにそこへ続けざまに襲いくる別の大ムカデに対し、今度はスバルが構えたリボルバーナックルを装着した右ストレートを放つ。

 

「吹っ飛べぇぇぇ!」

 

「ギヤアアアアアアアアアアアァァァァ!!」

 

スバルの拳を受けた大ムカデは悲鳴を上げながら大きく仰け反りながらも、反撃と言わんばかりに顎の先に巨大な火炎球を形成してスバルに向かって放とうとする。

だが、そこへ間髪入れず、ティアナが左手に握った双銃(クロスミラージュ)の片割れを突き出し、銃口から魔力弾を放った。

 

「当たれ!」

 

放たれた魔弾によって火炎球が大爆発を起こし、大ムカデの上半身を吹き飛ばす。

だが、その程度で大ムカデ達が怯むはずもない。むしろ仲間を殺された怒りからか、数でものを言わせる様に着地した家康達を取り囲むようにして迫ってくる。

 

「そうはさせん! エリオ!」

 

「ハッ! 兄上!!」

 

幸村の呼びかけに答え、エリオは手に持っていた槍型のデバイス、ストラーダを構えて魔力刃を形成する。

同時に彼の全身からも魔力光が溢れ出した。

 

Escalate(加速)

 

ストラーダの電子音が鳴ると同時に、

その姿が掻き消えるように見えなくなる。

そして次の瞬間には、既に彼は目の前に迫ってきていた2匹の大ムカデの背後へと回り込んでいた。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!! 燃えよ…我が槍、我が魂!!命の限り道を開けぇ!!」

 

一方正面からは幸村が、それぞれ穂先に炎を宿した二槍を回し、雄たけびをあげながら2匹の大ムカデに迫ってくる。

前後双方から迫りくる二人に対して、大ムカデ達は回避も防御する素振りも見せず、ただ迎え撃つかのようにそれぞれ顎を開いて迫る。

この行動が意味する事など、幸村はもちろん、エリオにも分かっていた。

だからこそ、二人は躊躇わずにそれぞれ食らいついてきた大ムカデ達の口腔内に得物を突っ込む。

 

「スピーアアングリフ!」

 

「“陣風煉(しんぷうれん)”!」

 

刹那、 大ムカデの口内に差し込まれたそれぞれの槍の穂先から電撃と業火を伴った刺破が大ムカデの頭を貫いた。二人の同時攻撃により、一瞬にして絶命し倒れ伏す大ムカデ達。

 

しかしそれでも今度は3匹の大ムカデが魔竜の骸から身を伸ばしながら家康達に襲いかかろうとする。

手始めに先頭にいた大ムカデが一行の中からキャロに狙いを定めて、正面きって襲いかかろうとした。

おそらく、この面子の中で一番非力そうに見えたキャロを真っ先に狙おうという魂胆なのだろう。

 

「キャロ!?」

 

その様子を上空から見ていたフェイトが反射的に助けにいこうとしたが…

 

キャロは自分に向かってくる大ムカデを冷静に見据えながら、腰に下げていた小太刀を引き抜き、その刀身に薄ピンク色の魔力光を宿しながら、脇に構えてみせる。

 

「片倉流秘剣……“十字の太刀(クロスストレイザー)”!」

 

キャロが技名を唱えながら、小太刀を大きく振りかぶると、十字を描く様に魔力の宿った斬撃波が放たれる。それは向かってきた大ムカデの顔をあっさり切り裂いてみせた。

さらにそれだけでは終わらない。

斬破が命中した大ムカデの頭を中心に魔法陣が形成し、そこから召喚した薄ピンク色の無数の鎖が大ムカデの身体を巻き付いて、その動きを止めてしまった。

 

「ギィヤアアァァッ!!」

 

突然自由を奪われて暴れ回る大ムカデだったが、キャロが念じると大ムカデの巨体に絡まった鎖が更に強く絞まり、大ムカデは完全に動きを封じられてしまった。

直後、拘束された大ムカデの脇を抜けて、別の2匹の大ムカデが家康達に迫りながら、その体に黒い稲妻を走らせ始める。

それを見たフェイトは、この予備動作が示す意味をいち早く察した。

 

「スバル! 気をつけて! その大ムカデが放つ黒い稲妻に当たれば、殆どの魔法を使う事ができなくなるから!!」

 

「えっ? そうなんですか?」

 

「来るぞ! 避けろ!」

 

家康の警告と同時に大ムカデ達が口から黒い雷撃を放つ。

雷鳴と共に、2匹の大ムカデの口から黒紫色の閃光が放たれるが、それを察知していた家康達は素早く回避して事なきを得た。

 

ドオオオオオオオオオン!!

 

その直後、彼女のいた場所が凄まじい轟音と振動を伴いつつ爆ぜた。

その威力の強さに家康やスバルは顔を思わず強張らせる。魔法を封じられる云々以前に、今の攻撃を直撃してしまったらひとたまりもない事は明らかである。

しかも、これ程の攻撃を繰り出す怪物が、次から次へと死んだ竜の身体から這い出てくるのだから、その悍ましさは想像を絶するものがあった…

 

しかし、だからといってここで恐れていては始まらない。

家康とスバルは、互いに顔を見合わせ頷き合うと、ほぼ同時に地面を蹴り、こちらに向かってくる大ムカデ達に躍りかかっていく。

 

絆光弾(きこうだん)ッ!!」

 

「シューティングエアァッ!!」

 

地面を飛ぶ様にして駆け抜ける家康と、両足に装着したマッハキャリバーから火花を散らしながら滑るスバル。

それぞれが、技名を上げながら利き手の拳を振るい、それぞれ左右の大ムカデの頭部に目掛けて、それぞれのイメージカラーに輝く気弾を発射して牽制する。

それが命中し、大ムカデ達が怯んでいる隙に二人はその数歩分の距離のところまで迫ったところで、地面を蹴って天に向かって舞い上がる。

そして、それぞれ大ムカデ達の頭上へと超えたところで両掌に魔力光の輝きを発生させながら、眼下の大ムカデ達に向けて、拳を振り上げる。

 

絆合の芯拳(きあいのしんけん)!!」

 

「スレッジハンマァァー!!」

 

家康とスバル、それぞれの手甲、リボルバーナックルを嵌めた拳が大ムカデ達の頭に打ち付けられると同時に、釘を打ちつけるように、数回のパンチ(突き)を常人の目には止まらぬ速さで小刻みに打ちつけてみせた。その衝撃によって生じた細かな振動が大ムカデの長い身体を伝っていく様に波走り、それが全身に行き届いた瞬間、2匹の大ムカデ達の身体が木っ端微塵に砕け散った。

 

この“絆合の芯拳(きあいのしんけん)”は、幼かった家康が当時得物として使っていた槍を捨て、己の拳のみで戦う事を決めた時、修練の末に最初にものにした技であった。

気を纏わせた拳を、瞬間的に小刻みに打ち付ける威力を嵩上げさせるだけでなく、衝撃が奥まで浸透し内部から標的を破壊する…これは並大抵の者では習得するのは至難といえる拳技で、極限まで極める事ができたら、山をも一撃で砕く事が出来るというが、まだ家康にはそこまでの境地には至っていない。ただ、それでも、この技は相手の硬い装甲を持つ相手に対して絶大な効果を発揮する。

実際、先ほど放った拳打による打撃は、大ムカデを内部から破裂・粉砕させていた。大ムカデ達は、体内から破壊されるという想像するだけで悍ましい倒され方に悲鳴を上げる間もなく絶命し、そのまま文字通りに塵と化した。

 

一方のスバルが行使した、家康から教わった“絆合の芯拳(きあいのしんけん)”を自己流にアレンジしてみせた"スレッジハンマー"は、家康程に拳擊自体の威力が及ばない事を補う為、マッハキャリバーに内蔵されているカートリッジシステムを用いて、圧縮強化魔法を発動させる事で、“絆合の芯拳(きあいのしんけん)”をほぼ忠実に再現して見せた一撃である。

一見すると、その見た目が巨大な鉄槌の如く見える事から名付けられたこの攻撃方法は、威力だけなら家康にも匹敵するが、その反面、使用者への反動も大きく、一度使えば使用後の腕の負担が半端ではない。

なので、普段はおいそれと使おうとはしないスバルだったが、今回はそうはいかなかった。

 

「やったっ!」

 

「気を抜くな、スバル!! 次、来るぞ!!」

 

「え?……あっ!?」

 

家康の言葉を受け、スバルはハッとした表情を浮かべつつ、慌ててその場から離れようとしたその時、彼女がいた場所に再び黒い稲妻が降り注ぎ、轟音と共に爆ぜた。

慌てて、稲妻が飛来した方を向くと、倒れた大ムカデ達を尻目に現れた新手の大ムカデが黒い電撃を纏わせながら、こちらに向けて狙いを定めている。それも三匹同時に…

おまけに、新手達は家康やスバルの動きを読んで、狙いを定めているらしく、今まさに発射しようと構えている。

 

このままではまずいと、焦燥感に駆られたスバルは咄嵯に防御障壁を展開させようと魔力を集めようとするのだが……

 

「アルテマ…シュート!!」

 

突然、技名を叫ぶ声と共に、大ムカデ達の上空より無数の魔力弾が降り注いだ。

ドガガガッ! と、次々と着弾した魔力弾の雨によって、黒い稲妻を放とうとした大ムカデ達の体が撃ち抜かれていく。

 

「「「ギヤアアァァッ!?」」」

 

悲鳴を上げて地面に落下していく大ムカデ達にスバルと家康が驚いて、声のした方に目をむけると、ティアナがクロスミラージュを天上に展開した巨大な魔法陣に向かって構えながら、呟く。

 

「…こないだの即興技…やっと新技としてものにできたわ」

 

どうやら彼女はこの間の“潜伏侵略事件”の際に、豊臣五刑衆 第五席 上杉景勝と交戦した折に、即興で披露した“天上に向けて魔力弾を撃った後、目標地点に魔力弾の雨を降らせる技”を更に改良させ、それを実戦で使えるレベルにまで昇華させる事ができた様だ。

そんな彼女を頼もしそうに見つめて微笑を浮かべながら頷いた後、家康はそれぞれ奮戦する仲間達に向かって檄を飛ばす様に叫ぶ。

 

「よし、その調子だ!! このまま、一気に片をつけるぞ!!」

 

家康がそう言った直後、彼の近くに降りてきたフェイトが叫んで注意を促す。

 

「家康君! 皆! 待って! その大ムカデ達はただ倒すだけじゃダメなの! なにか特殊な方法で、宿主にしている竜の死体を触媒にしていて、倒しても無限に新しい個体が出てくるみたい!!」

 

「なんだって!? 死体を触媒にして無限に出てくる…だと…!?」

 

フェイトの報告を受けた家康は、信じられないとばかりに大きく目を見開き、大ムカデ達の方へと振り返る。

見れば、先ほど倒したはずの大ムカデ達の代わりに新たな個体が次々と竜の死体から這い出てきていた。

しかも今度は一体だけではなく、十体近くが一斉に……。

その様子を見て、家康は何か思い出した様に眉を顰める。

 

「するとこれはやはり…!? どこか見覚えのある魔の物とは思っていたが……ッ!?」

 

「ど、どういう事なんですか?」

 

事態を飲み込めていないスバルが尋ねていると…

 

そのとおりだぜ、東の大将さんよぉ。関ヶ原じゃ、おたくら徳川軍も散々手こずった西軍の雄 宇喜多が誇る秘密兵器“屍鬼神(しきがみ)”の恐ろしさ。覚えていてくれて嬉しいぜぇ…

 

突然、どこからともなく、誰のものでもないしわがれた声が愉快そうに話しかけてくる。

家康達と共にフェイトが咄嗟に声のした方を向くと、自分達を見下ろすように上空で黒い翼を羽ばたかせたさっきの烏頭の屍鬼神がこちらを見下ろしながら笑っていた。

 

「なっ!? なんなのあれ!?」

 

「ユニゾンデバイス…でもないわね。召喚獣…!?」

 

スバルとティアナが突如現れた不気味な存在に驚く中、家康が険しい表情を浮かべながら呟く様に屍鬼神に呼びかける。

 

「お前は……豊臣五刑衆 第四席 宇喜多秀家の腹心の妖怪…“烏天狗”!?」

 

家康の声に応じるかのように、黒い翼を持つ鳥人型の小さな屍鬼神はニタリと不気味に笑う。

 

ほほう…主様だけでなく俺様の事も覚えていてくれたのか? 光栄だなぁ……東軍総大将・徳川家康公。それともこう呼んだ方がいいかぁ?…『卑怯卑劣な東の国盗り狸』と…

 

「ッ!?」

 

「なっ……なんて事を…!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、家康とスバルは揃って表情を強張らせた。

特にスバルにとっては自分の恩師である家康を明らかに侮辱する内容の呼び名に怒りの感情が湧き上がったらしい。

すると、エリオ、キャロと共に近づいてきた幸村が、烏天狗と呼ばれた屍鬼神を見て、ハッと気づいたような顔になる。

 

「き、貴殿は…秀家殿が伴っていた物の怪の…」

 

おおっ。これは、これは。親愛なる“同志”真田幸村じゃあぁりませんかぁ。久方ぶりだなぁ…確か武田と豊臣の同盟締結の折に主様共々、大坂城で顔を合わせて以来だったような……しかし、なんでまた西軍として戦っていた筈のアンタが、徳川家康(敵の総大将)と一緒にいるんだぁ?

 

「そ、それは……」

 

幸村は思わず口ごもりながら、チラリと家康の方へ視線を向ける。

そんな彼に気づかれないよう、家康は小さく首を振って答えないように指示を出した。

 

まあいいか…どうせ、アンタも小早川のションベン垂れ小僧や、その他有象無象の尻軽連中同様に、家康(コイツ)の口八丁手八丁に乗せられて東軍に寝返ったってオチなんでしょうがよぉ?

 

「そ、そうではござらぬ! 某は―――」

 

幸村の弁解を阻むように、烏天狗は叫んだ。

 

言い訳はいいんだよ、薄汚ぇ裏切り野郎が! 豊臣を裏切った連中はどのみち我が主 秀家様の名の下に俺達“屍鬼神”の餌となって死んでいく“神罰”を下される運命だからな! 言わずもがな、お前さんもだぜ! 家康公よぉ!

 

「……」

 

烏天狗の言葉を聞き、家康は無言のまま鋭い眼差しを彼へと向ける。

すると、それを挑発と受け取ったのか、彼は不遜な口調で言い返した。

 

おっと、勘違いしないで欲しいねぇ。俺様は生憎と今宵はもう“現界”できない身の上でねぇ。アンタ達に直接“神罰”を下す事は出来ないんだよ。だからその代わり…

 

烏天狗は、ニヤリと笑いながら片手を上げて、パチンと指を鳴らした。

すると、その背後で、魔竜の亡骸から、全ての大ムカデが再生され、今度は次々と身体から這い出てきて、家康達を取り囲むように動き出した。

 

「なっ!? さ、さっきより数が多くなってる!?」

 

「ひぃっ……気持ち悪い!!」

 

その光景を見たエリオとキャロが悲鳴を上げる。

唯でさえ嫌悪感を覚えるフォルムのムカデがとてつもなく大きいサイズとなって、しかも大量に辺りを蠢いている状況を前に、キャロは元より、スバルやティアナ、エリオでさえも、生理的な恐怖を覚えて、鳥肌を立てていた。

一方、フェイト、家康、幸村は円陣を組むように背中を合わせながらそれぞれデバイスや武器を構えた。

 

「家康君、大丈夫!?」

 

「ああ。だが、こいつは予想外だな……ここに屍鬼神がいるという事は、秀家も…?」

 

「……うん。今、政宗さんやなのは達が戦っている…」

 

「!? なのは殿や…政宗殿が!?」

 

フェイトの返答を聞いて、幸村が驚きの声を上げた。

あの豊臣五刑衆の第四席 宇喜多秀家が現れただけにいざ知らず、今現在、なのはや政宗達と交戦しているのは、流石に予想外の事態だった。

 

カーカッカッカッカッ! お友達が心配かい? その前に自分が喰われちまいそうな事を心配しろよ! 遠慮はいらねぇ、繰駆足(くりからで)! こいつらまとめて挽き肉にしてやれ!!

 

烏天狗の命令を受け、大ムカデ達は一斉に家康達に向かって飛びかかった。

それに対して、フェイトはザンパーモードとなったバルディッシュを構え直し、魔力刃を展開すると、光の如き速さで向かってくる大ムカデ達を次々にバラバラに裁断する。

一方の幸村もまた、手にした二槍を振り回し、襲ってくる無数の大ムカデを串刺しにしていった。

そして、家康は、自分を取り囲んできた数十匹の大ムカデの群れに対して、両手で構えた拳打による衝撃波を放って、その巨体を吹っ飛ばしていく。

しかし、数が多すぎた。いくら家康の拳の威力が強くても、相手は巨大なムカデである。

打撃系の攻撃は、あまり効果は期待できず、すぐに起き上がって再び襲いかかってきた。

それも次から次へと悪鬼魍魎の如く、魔竜の死体から這って出てくるのだからたまったものではない。

 

「このぉ! いい加減にしてよぉッ!!」

 

スバルは、苛立ち紛れに大声で叫ぶと、リボルバーナックルを装着した右腕を前方に突き出して、魔力カートリッジを2発リロードさせながら、魔法を発動させた。

 

「ディバインバスター!」

 

彼女の叫び声と共に、拳の前に形成された魔力波が高速で発射される。

放たれた魔力波は、迫ってきていた数匹もの大ムカデを吹き飛ばす事ができたものの、それでも、次から次に新たな個体が現れて、彼女に襲いかかろうとしていた。

 

「くぅ! キリがないよ!」

 

「あぁもう! 鬱陶しい!! こうなったら、私がやるわ!!」

 

ティアナはそう言うと、足元にオレンジ色の魔法陣を展開しながら腰を入れ、ワイドスタンスで構えながら、愛機 クロスミラージュの銃口の先に巨大な光球を形成する。

 

「ファントム…ブレイザァァーーーッ!!」

 

次の瞬間、強烈な閃光が走り、大爆発が巻き起こった。

 

「うひゃあっ!?」

 

その凄まじい破壊力を目の当たりにしたスバルは思わず目を覆ってしまう。

 

「……やった?」

 

「ティ、ティア!?」

 

爆煙が晴れると、そこには十数体にも及ぶ大ムカデの死骸があった。

しかし、それでも大ムカデの大群は魔竜の身体から流れ落ちる水の様に無尽蔵に現れてはこちらに迫ってくるのだった。

それを見たエリオが叫んだ。

 

「フェイトさんの言う通り、ムカデだけを倒してもダメなんです! 大元である竜の死体をなんとかしないと!」

 

「なんとかって言っても、どうやって!?」

 

ティアナが困惑気味に呟く。

その時、幸村が何かを閃いたの様な表情を浮かべると言った。

 

「そうだ! ならば、あの魔竜の亡骸を原型を留めぬまでに刻むのは如何でござろうか!? 少々、慈悲の無いやり方でござるが…」

 

「うん。実は私もさっき、その方法を考えていたんだ。でも、この猛攻の中をどうすればいいかまではまだ…」

 

フェイトが幸村の案に同意しつつも難しそうな顔を浮かべた。

すると、その会話を聞いていた家康が言った。

 

「よしっ…ならば、ワシに任せてくれ!」

 

「え? 家康君?」

 

「ひとつ、献策がある………スバル! ウイングロードを張るんだ!!」

 

「えっ!? は、はい!!」

 

突然、指示された事に戸惑いながらも、スバルは言われた通りに足元に魔法陣を展開し、魔力を溜める。

 

「……ウイングロード!!」

 

そして技名を唱えると、魔法陣から空に向かって、光の道…ウイングロードが展開された。

 

「よし! 真田! フォワードチームを連れて、ウイングロードの上へ待避してくれ! フェイト殿も空へ!」

 

「えっ!? それじゃあ、家康さんは!?」

 

スバルが不安そうな眼差しで見つめながら尋ねる。しかし、家康はフッと笑みを浮かべると、拳を構えて答えた。

 

「心配無用だ! 必ず、道を切り開いてみせる!!」

 

家康の自信に満ちた表情を見て、フェイト、幸村、スバル達は少し驚いた様に目を見開く。

しかし、いち早くその意図を汲んだ幸村が気を取り直すと、他の皆に呼びかけた。

 

各方(おのおのがた)! 今は家康殿の申される通りに! さぁ、早く!!」

 

「急いで!」

 

「「は、はい!!」」

 

「わかりました! 兄上!」

 

「了解です!」

 

幸村とフェイトに促され、それぞれ返事をしたフォワードチームの4人は、家康の指示したとおり、スバルが作ったウイングロードの上に退避する。

一方、家康は迫り来る無数の大ムカデの群れを睨みつけながら、拳を握りしめると、グッと腰を落として構えを取る。

 

「陽岩割り!!!」

 

家康は技名を叫びながら、金色に輝く気のオーラを纏った拳を振り上げ、それを足元の地面に打ちつける。

 

 

ドゴオオオオオオオオオオォォォォォォン!!!

 

 

次の瞬間、轟音と共に、まるで地面そのものが隆起するかの如く、巨大な衝撃波が円形に放たれて、四方八方から襲いかかってきた大ムカデの大群を土煙と共に空に打ち上げた。打ち上げられた大多数の大ムカデの身体はバラバラになって宙を舞い、残りの個体は空中で体勢を立て直そうと必死にもがく。

そんな中、家康は間髪入れずに、上空へと跳躍すると、右手の掌底を突き上げるようにして構えながら、気の光球を作り出すと、金色の気のオーラに包まれた左手を真っ直ぐ前に突き出す。

 

天網快来(てんもうかいらい)!!」

 

そして、突き上げた右手の先にあった気の光球をそのまま前方に打ち出した。

次の瞬間、巨大な光の弾が炸裂し、大爆発が起こると、打ち上げた大ムカデの群れを遥か上空まで押し返すだけでなく、その発生源であった魔竜アルハンブラの死体までも空へと吹き飛ばした。

 

「今だ! フェイト殿! あの竜の死体を撃つんだ! 真田とフォワードの皆は、打ち上げられたムカデ達をフェイト殿に近寄らせぬように、援護だ!」

 

家康がウイングロードの着陸しながら呼びかける。

 

「ッ!? わかった!!」

 

フェイトはそう返事をすると共に、バルディッシュを構えると、カートリッジを2発リロードして、目の前に魔法陣を展開させ、砲撃魔法の準備をとる。

一方の幸村は、ウィングロードの上を駆け抜けながら燃え上がる二槍を振り回して、打ち上げられ、落下ながらもフェイトに食らいつかんとする大ムカデ達を次々に切り裂き、近づかせないようにした。

 

そして、スバルもまた、リボルバーナックルを両手で握りしめて、魔力を込めていく。

 

「これ以上、こんなバケモノ達の…好き勝手にはさせない!!」

 

そう叫ぶと同時に、スバルは思い切り腕を後ろに振りかぶる。すると、彼女の背後にあるウイングロードの上に落ちてきた大ムカデが咆哮を上げながらスバルに目掛けて襲いかかった。スバルは振り返ると同時にリボルバーナックルを足元に打ちつけながら叫んだ。

 

「シャイニング…カノンッッ!!!」

 

次の瞬間、スバルの掛け声とともに、打ちつけたリボルバーナックルから小さな風の波が放たれたかと思いきや、それがウイングロードを突き抜けていく内に瞬く間に大きくなり、大ムカデの元に到達した時には、その巨体を飲み込み、中で巻きおこた風の渦でその身体を粉砕してしまう程の大きさと威力となっていた。

そして、風が止むとそこには真っ二つに引き裂かれた大ムカデの姿があり、それを少し離れたところを通ったウイングロードの上から見た家康は感心したような声を上げた。

 

「ほう、やるじゃないか!」

 

「えへっ! 前から考えていた新技です!」

 

家康の言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべながら答えるスバルだが、その真上から、別の大ムカデが落下しながら喰らいつこうとする。

 

「ッ!? スバル! 上だ!」

 

「へっ!? うわぁ!?」

 

家康の声に慌てて反応するスバルだったが、その瞬間には既に眼前まで迫っていた大ムカデに思わず顔を青ざめる。しかし、そこへ……

 

「トリックスナイプ!!」

 

突然聞こえた掛け声と共に突然、スバルの足元にあった影が水面の様に波打ったかと思いきや、突然オレンジ色の魔力光が真上に発射され、スバルに食らいつかんとしていた大ムカデの三つ目に命中して炸裂する。

目を潰された大ムカデは着地ポイントを見誤り、そのままスバルの脇を抜けて、地表へと落下していった。

 

「な、何?」

 

「大丈夫? スバル!」

 

「あ……ティア!?」

 

驚きながら視線を向けた先にいたのは、クロスミラージュの空になったカートリッジの薬莢を排出しながら、ウイングロードの上をこちらに走ってくるティアナであった。

 

「まったく、油断大敵よ! 新技が成功して喜ぶのもいいけど、ちゃんと周りもよく見なさいよね!」

 

「ごめん…。でも、そういうティアだって、今ちゃっかり新しい技使ってたよね?」

 

スバルは今しがたティアナが自分を援護する際に使った『自分の影を通して、標的を撃つ』という変わり技が新技である事を指摘する。

 

「えぇ、まぁね。 佐助から教わってる忍術を射撃魔法にも応用できないかと思って、試行錯誤しながら思いついた技よ。自分の影に魔力弾を撃ち込んで、弾を目標とする相手の影へ転送して、足元から不意打ちする…できればもう少し遠距離から発動できる様にしたいけど、まぁものにしたてだし、最初の内はこんなものよね?」

 

さり気なく話したティアナの一言を聞いて、スバルは目を丸くしながら、軽くショックを受ける。

 

「ええぇっ!? それって……ひょっとして今、私を新技の実験台にしたって事!?」

 

「……ちょっとだけね。さっき家康さんに自慢してるアンタのドヤ顔見てたら、なんかイラッときたから…」

 

「ちょっ!? ひどいよぉ!! いくらなんでもそれは、ないんじゃない!?」

 

「結果的に助かったんだから、いいでしょ。 それよりほら! また新手が来るわよ!」

 

ティアナが指差す方向に目を向けると、今度は5匹程の大ムカデが天上から、スバル達に食らいつかんと、顎を開きながら落ちてきていた。

 

「もう! 本当にしつこいなぁ!」

 

スバルはそう言うと共に、再びリボルバーナックルを地面に打ちつけて、先ほどと同じ要領で大ムカデに向けて風の渦を放つ。

 

「もう一発! シャイニング…カノンッ!!」

 

そして、大ムカデ達は空中で粉々となり、バラバラになって地面へと落ちていった。

 

別のウイングロードの上ではエリオとキャロが背中を合わせながらそれぞれ、ストラーダと小太刀を手に、落ちてくる大ムカデを弾いたり、なんとかウイングロードに飛び乗るなどして地表に落ちないように抵抗する大ムカデを蹴落としていた。

 

「はあっ!!」

 

「えいや!!」

 

それぞれに、本場戦国乱世を生きる武将達から直に仕込まれた槍術と太刀術、そしてそれを駆使するエリオとキャロの息の合った動きによって、次々と落とされていく大ムカデだが、それでもまだかなりの数が残っており、しかも2人を取り囲むように、四方八方から一斉に襲いかかってきた。

 

「くっ…ッ! まるでキリがない!」

 

「でも、なんとかフェイトさんが砲撃魔法を発射するまでの時間を稼がなきゃ―――きゃあ!?」

 

その時、エリオとキャロの二人のいるウイングロードの上に一匹の大ムカデが落ちてきて、2人に目掛けて炎を吐きつけてくる。

 

「危ない!」

 

咄嵯にエリオがキャロを飛びかかって倒れ込み、その身を盾にして庇うが、その直後その背中を火炎放射が掠り、バリアジャケットを焦がした。

 

「ぐぅ!?」

 

「エリオ君!」

 

苦痛で顔を歪ませるエリオを見て、真下にいたキャロが悲鳴を上げるが、エリオは無理に笑顔を作りながら答える。

 

「だ…大丈夫…! これくらいの火…耐えられなければ、武田の熱血武士の名折れだから…!!」

 

「痩せ我慢しちゃダメだよ! すぐに回復魔法(ヒーリング)をかけなきゃ―――」

 

慌てて身を起こそうとするキャロだが、そこへ更にウイングロードの反対側から大ムカデが二人に向かって迫ってきた。

もはやこれまでかと思った次の瞬間、2人に襲いかかろうとした大ムカデの胴体が突如爆発し、木っ端微塵となった残骸が周囲に散らばった。

 

「エリオ! キャロ殿! 無事か!?」

 

直後、幸村が紅い二槍を手の中で高速で回転させながら、エリオとキャロに襲いかかろうとしていた2体の大ムカデ達の長い胴体をバラバラに切り裂きながら、2人の目の前に鮮やかに着地を決めた。

 

「兄上!?」

 

「幸村さん!?」

 

突然現れた幸村に驚きながらも、エリオとキャロはすぐに立ち上がりながら、それぞれストラーダと小太刀を構える。

 

「エリオ! 大事はないか!?」

 

「えっ!? は、はい。なんとか―――痛ッ!!」

 

エリオは幸村の問いに答えようとしたが、その背中に激痛が走り、思わずその場に片膝をついてしまう。

その背中には先程、大ムカデが噴き付けられた火炎放射によって炙られた火傷跡が痛々しく走っていた。

 

「むむっ!? これはいかん! キャロ殿! 早く、回復を!」

 

「は、はい!」

 

「待って下さい兄上! これくらいの火傷なら―――!」

 

幸村はエリオの言葉を遮る様に、珍しく厳しい目つきを向けながら忠告する。

 

「確かに『心頭滅却すれば火もまた涼し』は我が師 信玄公(おやかたさま)の教え…! なれど、手傷を癒やすべき頃合いを見誤る事は、時にそれが己が命取りに繋がるやもしれぬのだ。エリオ。今は然と、その火傷を癒す事に徹しろ」

 

「…は…はい」

 

幸村に諭され、エリオは少しだけシュンとしながら俯いた。

そんな彼にキャロが近づいて、ケリュケイオンを嵌めた右手先に魔力光を灯し、エリオの背中の火傷の患部に当てた。

すると、柔らかな薄ピンクの光がエリオの背中の火傷を徐々に癒していく。

 

「ありがとう…キャロ……」

 

「うぅん。酷い火傷じゃなくてよかった。それより、まだ動けそう?」

 

「うん。もう大丈夫だと思う」

 

エリオの返事を聞いて、キャロはホッとした表情を浮かべた後、改めて幸村の方へ向き直った。

 

「幸村さん! お待たせしました!」

 

「うむ! 各々、抜かりはないか!?」

 

「「はい!」」

 

「では、参ろうぞ!」

 

そして、3人はそれぞれの得物を手に、迫り来る無数の大ムカデ達へと向かっていった。

 

 

家康や幸村、そしてフォワードチームが奮戦してくれたおかげで、フェイトは、大ムカデの群れに邪魔される事なく、砲撃魔法を放つ為の魔力をチャージする事が出来た。

 

(よし……! これだけ溜めたら、一発であの魔竜の亡骸を粉砕…上手くすれば焼失させる事だってできる!!)

 

フェイトは身体の前で展開していた魔法陣に向かって翳していた手の先に形成されていた光球へ十分魔力がチャージできたのを確認すると、標的である大ムカデの群れの触媒と化した魔竜の亡骸へと照準を合わせる。

家康の大技で空高く打ち上げられたそれは、再び地表へと落下しており、間もなく広場の真ん中に落下するところであった。

そして、その身体からは更にそこへ、今まさに数十匹の大ムカデ達が顔を出そうとしていた。

そこへ、フェイトが片手を構えながら叫んだ。

 

「トライデント…スマッシャーッ!!!」

 

次の瞬間、なのはが放つディバインバスターとも互角とも劣らぬ程に巨大な、3本の金色の魔力光の奔流が、大気を震わせながら一直線に発射された。撃ち出された膨大なエネルギーを内包した閃光が空気を切り裂くように駆け抜けていく。

 

 

「「「「「ギャアアアアアアアアアァァァァッ!!!」」」」」

 

 

ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

その威力は凄まじく、身体から新たに生まれようとしていた大ムカデ達は一瞬にして蒸発して消え失せ、本命の的である魔竜アルハンブラの亡骸もその肉片を完全に焼き消すまでにはいかなかったものの、木っ端微塵に吹き飛ばす事には成功した。

 

「やった!」

 

「見事だ! フェイト殿!!」

 

大ムカデの群れを相手にしている家康も、フェイトの攻撃に喝采を上げた。

だが、すぐに彼は眉間にシワを寄せて呟いた。

 

「いや……待てよ?……何かおかしい」

 

家康の視線にあったのはフェイトの砲撃魔法“トライデントスマッシャー”で粉砕された魔竜アルハンブラだった肉片が大量の血と共に広場の真ん中に土砂降りの雨の様に落ちていくというグロテスクな光景だった。

しかし…よく見るとそこへ形成された血溜まりの池が不気味な光を帯びて、そこから新たに大ムカデ達が形成されているのを見て、家康は思わず目を疑った。

 

「あれは……まさか…ッ!?…肉片や血でさえも触媒に出来るというのか!?」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

家康の驚愕の声に、フェイトや幸村、フォワードチームの4人も驚いた様子で声を上げる。

一方、魔竜の亡骸が消滅し、その跡に残った血の池が触媒となって新たな大ムカデが生まれようとしているその中心で、いつの間にか姿を見せた屍鬼神(しきがみ)烏天狗が血の池の上で胡座を組んで浮かびながら、愉快げに天を仰いでいた。

 

カッカッカッ! 宿主の魔竜を粉々にするたぁ大胆な戦法を打ちやがったなぁ! しかし、生憎それだけではまだまだ繰駆足(くりからで)の増殖を止める事はできないぜぇ!

 

そう話している烏天狗の真下で、血溜りが波打ち、そこからまた新たに数十匹を超える数の大ムカデ達が這い出てきた。

 

「「「ガアアッ!!」」」

 

「「「キシャアアアァァッ!!」」」

 

しかも、今度の大ムカデ達は外見も今までとは違っていた。

上半身から上こそ今までの個体と同じであるが腹の真ん中辺りで異様な程に膨らみ、その両脇から明らかにムカデのものとは異なる歪な形の翼が生えているのだ。

その形はまるで…

 

「あ、あれは…あのアルハンブラ(魔竜)の翼…!!?」

 

フェイトが愕然としながら叫ぶと、烏天狗がニヤリと笑った。

 

ご名答ぉ! この繰駆足(くりからで)は再生される程、宿主の能力ばかりでなく、ついには姿までも模倣して無限に進化していく屍鬼神(しきがみ)! その宿主が強い生き物であればある程、より強固なバケモノの群れが生まれるってわけなのさ!

 

「そ、そんなッ!? それじゃあ、このままじゃ、あの大ムカデの軍団がゆくゆくは…竜の軍団になっちゃうって事ッ!!?」

 

スバルが戦慄した表情を浮かべながら叫んだ。

 

そういう事になるねぇ。ま、俺様らにしてみれば、大歓迎なんだけどよぉ。あれだけの力を示した“魔竜(アルハンブラ)”が一気に一万…二万の大軍となって主様、そして豊臣の戦力になるんだから…カッカッカッ! コイツぁ、凶王三成(きょうおうさんせい)も喜ぶ、いい手土産になりそうだなぁ!

 

「「「「「…………ッ!!!」」」」」

 

烏天狗の言葉に、その場にいる全員が息を呑んだ。

つまり、この大ムカデ達が、完全に魔竜へと進化し、その上で、一万にも二万にもなるような事態になれば、もはや家康達の力ではもはや手に負えない。

 

「どうしましょう?……家康さん…」

 

「兄上……」

 

スバルとエリオが不安そうな声で尋ねる。すると、家康と幸村は真っ直ぐに烏天狗を見据えて言った。

 

「決まっているじゃないか。スバル…」

 

「然り……ならば、確実に滅するのみ…!…奴らが完全な進化を遂げる前に…!」

 

家康と幸村の瞳には、既に決意の光が灯っている。それを察して、フェイトも力強く首肯した。他の皆も同様だ。

家康達は、改めて大群となった大ムカデ達を前に身構える。

 

「こうなれば方法はただひとつ…あの血の池を完全に消し去る事のみだ…!」

 

家康はそう言って、フォワードチームや幸村、フェイトに視線を向ける。

 

「でもどうやって…?」

 

スバルが首を傾げると、自信に満ちた顔つきで、家康は答える。

 

「先程の策の様に、ここにいる全員の力を合わせれば、必ずや出来る筈…!だが、その為にはまず、あの血の池の中から這い出てくる大ムカデ共を止めないと……!」

 

「それで、その策は?」

 

家康の言葉に、フェイトがその策の仔細を尋ねようとする。

だがそれに気づいた烏天狗が声を上げた。

 

「おっと!…そうはいかないぜ! 者共かかれ!!」

 

烏天狗の指示を受け、血溜りから這い出ようとしていた大ムカデ達が一斉に襲いかかってくる。

しかも、中には既に進化して得た翼を使って飛び立とうとしている個体までもいる。

 

「皆! ワシがあの血の池の真ん中から、”葵の極み”を発動して、一気に消し去りにかかる!フォワードチームとフェイト殿! 真田は援護してくれ!」

 

「「「了解!!」」」

 

「わかりましたッ!!」

 

「承知ッ!!」

 

家康が手短に説明した策を聞き、フォワードチームが一斉に散開。

それぞれ魔力弾を展開しつつ、向かってくるより魔竜然とした姿へと変貌した大ムカデの群れに向かっていく。

一方、フェイトはバルディッシュをハーケンフォームに切り替えると同時に、大鎌型の魔力刃を展開。空に向かって飛び立とうとする大ムカデの進化態を次々に切断していく。

 

「一匹も空に逃しちゃダメ! 絶対にここで食い止めるよ!」

 

「「「はい!」」」

 

「心得ました!」

 

声を揃えて答えるスバル、ティアナ、キャロ達と、一人だけ幸村に触発された様な言葉を返すエリオの返事を聞き、フェイトは頼もしそうに見つめながら頷くと、大きく跳躍していく。それを追うように次々と翼の生えた大ムカデ達が空へ上がっていこうとした。

それを見たティアナは、咄嗟にキャロの方を向いて指示を出した。

 

「キャロ! フリードを呼んで、元の大きさに戻すのよ! それからエリオと二人でフリードに乗って空に上って、フェイトさんを援護して!」

 

「はい! …フリード!」

 

キャロは指笛で相棒の子竜フリードに指示を出すと、リインと共にヘリの護衛についていたフリードが駆けつけてくるように飛来してきた。

すると、キャロがフリードに向かってケリュケイオンをかざすと、フリードは薄ピンク色の巨大な魔力光につつまれ、キャロの足元には菱形の召喚用魔法陣が現れた。

 

「蒼穹を走る白き閃光、我が翼となり、天を駆けよ…」

 

キャロが詠唱を唱えると共に、両手に嵌めたケリュケイオンが発光する。

 

「来よ、我が竜、フリードリヒ、竜魂召喚!!」

 

キャロが詠唱を完了すると共に、光球を突き破るようにして、航空機程の大きさを誇る白い飛竜の姿に戻ったフリードが現れた。

 

「な、なんと!? フリードが…巨大な竜に…!?」

 

何気にフリードの本来の姿を見たのはこれが初めてであった幸村は、驚きの声を上げた。

家康も実際に見るのは初めてであった為か思わず見とれてしまう。

 

「過去の映像資料で見た事はあったが…実際に見ると実に荘厳だな…!」

 

家康がそう呟いている間に、本来の大きさに戻ったフリードはキャロ達の傍に降り立ち、即座にその背に二人を乗せた。

 

「いくよ! フリード!」

 

「キュルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

巨大になったフリードはキャロとエリオを乗せると力強く羽ばたいて上昇し、そのまま、フェイトを追って空へと舞い上がる。

その様子を見上げていた烏天狗は、舌打ちした。

まさか、敵方にも竜を行使する者が現れるとは思わなかったからだ。

 

……コイツはあんまり遊んでばっかもいられねぇようだ…!

 

烏天狗は、不意に何かを探すように血の池の中を飛び回りはじめた―――




っというわけでお待たせしましたw
第四十七章(2021年07月10日投稿)以来、15話ぶりに家康や幸村、フォワードチームの4人が登場しました。
しかもこの間、更新停止期間も挟んだので実質的に半年以上ぶりの登場という……(苦笑)

こんな扱いですが、一応この作品の主役は家康とスバル…って事になっているんですよね…一応w
(まぁ、実際は完全に政宗となのはになってますけど)

家康・スバル「「“一応”って何!? “一応”って!!?」」

まぁ、『なのは見合い編』が終わったら彼らを主役に置いた話も考えていますのでお楽しみに。

政宗「……まぁ、この作者の場合、そういう予告しても大抵、その通りいかない事が多いんだけどな…」

なのは「シッ!!」
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