リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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【前回までのリリカルBASARA StrikerS】

豊臣五刑衆第四席 宇喜多秀家と彼の操る屍鬼神達との激闘もいよいよ佳境を迎えようとしていた…!

ようやく到着した家康や幸村、フォワードチームはフェイトと協力して、屍鬼神『繰駆足(くりからで)』の大群の駆逐と、その発生源を消し去る事に成功したものの、最後に残った個体に屍鬼神『烏天狗』が融合。醜悪で巨大な姿へと変貌して襲いかかる。

そして、秀家と交戦する政宗もまた…その五刑衆に名を馳せるだけの力量を誇る彼の猛攻を前に攻め手にあぐねる状況に立たされていた…!

なのは「リリカルBASARA StrikerS 第六十四章 出陣します…!」


第六十四章 ~ラコニア総力戦!Ace of ace、決意の新形態!~

咆哮が空を裂いた。

 

融合された烏天狗と大ムカデの巨体がうねり、その異様な口が開いた瞬間、赤と青──火と毒の属性を帯びた双触手が唸りを上げて振り下ろされる。

 

「くっ……皆、来るぞッ!!」

 

家康の怒声が戦場に響いたのと同時、赤のムカデ型の触手が地を叩き、凄絶な爆炎が地表を飲み込む。まるで大地が燃え尽きるかのように、瓦礫は瞬時に黒灰へと化し、焼け焦げた風が視界をかき乱した。

続いて、もう一方の青いムカデ型の触手が空を切り裂きながら叩きつけられた。次の瞬間、ぶわりと拡がる瘴気──紫がかった毒霧が、戦場全体を包囲するように押し寄せてくる。

 

「……うぅっ…最後の最後にこんな大ボスが控えてるなんて…!!」

 

スバルが唾を飲み込み、喉元に迫る焦燥感を振り切るように地を蹴った。リボルバーナックルを握りしめながら、弾倉を確認する。

 

着地と同時、隣に家康が煙と炎の中から現れ、バックステップで滑り込む。

 

「落ち着けスバル! あの巨体のどこかに──融合した烏天狗が隠れているはずだ! ヤツを見つけ出して、そこを突くんだ!」

 

家康の視線は冷静だった。敵の巨体の動き、触手の軌道、そして中心核となる本体の存在……すべてを読み取ろうとする集中が、スバルの焦りをかき消していく。

 

「でも家康さん! 見つけるって言ったってどうやって?!」

 

問いかけるスバルの言葉に答える前に、双触手がうねり、鉄塔をへし折る勢いで彼らに再び迫る。唸りを上げながら空間をねじり潰し、地面を抉る一撃。

 

反射的に、スバルと家康は左右へ跳び退く。

爆音が轟き、砕けた石片が弾丸のように飛び散る中、家康が叫んだ。

 

「攻め続けたら必ず弱点を見せる! とにかく今は攻撃あるのみだ!」

 

大地を踏み砕くように一歩を踏み出し、家康は拳を握りしめる。

 

「勿論、ヤツの攻撃には気をつけろ!」

 

その声と共に、家康は灼熱と毒霧をアクロバットに避けながら、巨体へと向かって駆け出した。拳に込められた気が、金色の光となって彼の腕を包み込む。

 

スバルも負けじと飛び出す。信頼する師匠の背中を見て、焦りが決心へと変わっていくのを感じながら。

 

「スバル! 私も援護するわ!」

 

後方からティアナの声が飛ぶ。クロスミラージュの銃身を両手で構えながら、彼女は素早く色違いのカートリッジをリロード。

魔力が発射口に集中し、淡い輝きを帯び始める。

だが彼女が狙うのは──あの巨大なムカデではない。

銃口は、自身の足元の影を捉えていた。

 

「佐助から教えてもらったこの技……試してみるわよ!」

 

トリガーを引いた瞬間、魔力弾が影へと着弾。黒い影がぐにゃりと波打つように形を変え──それはやがて、ティアナの身長すら超えるほどの巨大なカラスの姿へと変貌していく。

 

「サモンクロウ!!」

 

召喚された影のカラスが一声鳴くと、その足をティアナの腰元へ差し出した。彼女は迷いなくその足を掴むと、カラスの羽ばたきに乗って宙へと滑空していく。

炎と毒が渦巻く空間を切り裂きながら、彼女は宙からスバルと家康の進路を正確にトレースし──その眼差しに射撃手としての鋭さが宿る。

 

「シュートバレット!」

 

次の瞬間、クロスミラージュが閃光を放った。

片手を塞がれている為、一挺しか使用できないが、その分通常よりも一発の魔力弾の威力を増強したその射撃魔法は、敵の視界と動きを制限するように触手の根元へ集中砲火を浴びせる。

 

「今だ、行ける!」

 

ティアナの精密な射撃が火柱の中を貫き、爆ぜるように赤の触手の動きを一瞬だけ鈍らせた。

その隙を逃すまいと、家康が地を蹴る。踏み出した足元が砕け、衝撃波が地を這った。

 

「淡く微笑め──(ひがし)(しょう)!!」

 

家康の拳に宿る気が咆哮のように輝きを放ち、紅の触手の先端──ムカデを模した頭部へと叩き込まれる。次の瞬間、金光を纏った気弾が爆ぜるように炸裂し、触手の頭部を容赦なく吹き飛ばした。

だが――

 

「くっ……!」

 

唸りを上げて迫る青の触手が、鋭くしなる毒の軌道を描いてスバルへ襲いかかる。その動きはもはや獣のそれではなく、まるで本能と知性を併せ持つ“狩人”のようだった。

 

「──行くよっ!」

 

スバルは反射的に跳び上がり、宙で身体を回転させながら、毒霧を突き抜けて急降下する。

 

「スピニングフィストォォ!!」

 

高速回転するリボルバーナックルがうなりを上げ、視界に映らぬ死角──触手の裏側に潜む急所を的確に打ち抜いた。衝撃と共に、青の触手の頭部も千切れるように吹き飛ぶ。

 

「やった!?」

 

歓喜の声が漏れたその刹那。

 

「あ……っ!」

 

ティアナが小さく息を呑んだ。

頭部を失ったはずの触手は、無機質な蠢動と共に瞬く間にその形を再生させる。赤と青、どちらも。まるでこちらの戦いを嘲笑うかのように。

 

「やっぱり、あの小さい烏人間を倒さないことにはダメみたいね……!」

 

ティアナが忌々しげに唇を噛んだ、その瞬間――

地鳴りと共に、融合ムカデの尾のあたりに炎を纏った閃光が駆け抜けた。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!! 天羽(てんう)うううぅぅぅぅぅッ!!」

 

雄叫びと共に、幸村が二槍を旋回させて跳び込み、融合ムカデの側面に斬撃を叩き込む。炎を纏った双槍が十字を描き、外殻を貫くように突き刺さる。

直後、稲妻が天を裂いた。

 

「ハーケンセイバー! 穿て──!」

 

フェイトの雷撃が鎌状の斬光を描き、融合ムカデの背中を走るようにして中心部を断ち割った。空間を震わせる一閃が、重々しい装甲の一角に大きな亀裂を刻む。

 

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

融合ムカデが狂ったように咆哮し、巨体をのけ反らせる。血と毒と霊気の混ざった瘴気が爆風のように周囲へ撒き散らされた。

そして──その中心、巨大な一つ目と嘴を備えたムカデの顎がゆっくりと開かれ、中から禍々しい気を纏った烏天狗の上半身が現れた。

赤い双眼を爛々と光らせる烏天狗――人間とも妖怪ともつかぬ存在が、融合ムカデと一体化したまま、怒りに歪んだ顔を剥き出しにしていた。

 

忌々しい……!! どいつもこいつも、邪魔ばかりしやがって……!

 

闇の瘴気を帯びた吐息を漏らしながら、烏天狗が呻く。

 

「あれだっ!! 皆、あそこを狙って攻撃するんだ!!」

 

家康の叫びに、全員の意識が集中する。

──いける、今度こそ!

 

五人はそれぞれの武器と術式を構え、烏天狗の本体が融合した異形の頭部へと一斉に殺到した。

家康の拳が空気を裂き、スバルがマッハキャリバーをフルに発揮させ、超加速で駆け抜ける。ティアナのクロスミラージュが銃声すら置き去りにして魔力弾を放ち、幸村の二槍が閃光のごとき突進を見せる。フェイトの雷撃が空を切り裂き、槍となって敵を貫かんと迫る──。

一瞬、勝利の未来が見えかけた。

 

だが。

 

「ググググググッ……!!」

 

融合ムカデが全身の節を蠢かせると、赤と青の触手が爆発的な速度で展開し、瞬く間に空間を覆い尽くす。

その動きはもはや本能ではなく、完全に“戦闘のために最適化された意志”だった。

まるで獰猛な獣が牙を剥くかのように、無数の毒針と魔力の干渉波が網状に展開され、突進する者たちを阻む壁と化す。

 

「──っ!!」

 

スバルの拳が触手の装甲のような鱗に弾かれ、勢いそのまま地表へと叩きつけられる。

家康の鉄拳も重力をねじ伏せるほどの破壊力を誇ったはずが、触手の渦に包まれて力を吸収されるように止められる。

 

「やはり、簡単に取らせてはくれないか……!」

 

地面に膝をついた家康が悔しげに唇を噛んだ。

攻撃は、届かない。

ほんのわずか、届く寸前で、すべてを拒むように融合ムカデが反応し、遮断してしまう。

 

「くぅ……! 動きが……速いっ!」

 

ティアナの精密な狙撃すら、逆巻く触手の防御機構に感知され、射線の先を瞬時に封じられる。

引き金を引くたびに、敵が「見えているのか」と錯覚するほどの対処が返ってくる。

 

「諦めちゃダメ!」

 

「そのとおり! 必ず突破口があるはずでござるッ!!」

 

フェイトと幸村が叫び、再びバルディッシュと二槍を構え直す。

それぞれに雷と炎が走り、戦斧と槍がそれぞれ唸る。だが、融合ムカデの咆哮が空気を震わせ、彼らの決意を嘲笑うかのように轟いた。

──これはただの巨大生物ではない。

明確な知性と悪意を持ち、戦場そのものを“理解している”敵。

まさに“融合された意志”、人智を超えた存在が、そこにいた。

 

以降も家康たちは幾度となく連携し、頭部への突破口を探ろうとするが──

触手の網、毒の雨、干渉波の嵐。すべてが彼らの進撃を阻む。

 

戦局は、次第に膠着していく。

 

だが、誰ひとり退かない。

誰もがわかっている──あのバケモノを討たねば、この地に明日は来ない。

 

 

 

 

瓦礫の舞う戦場に、黒鉄の長笛が唸りを上げて振り下ろされる。

政宗はその一撃を紙一重でかわし、反撃の刃を繰り出す。

 

「He! 俺は別段 chatterなわけじゃねぇが、テメェのだんまりには流石に気味の悪さを覚えるぜ……!」

 

政宗の斬撃が空を裂くが、秀家は無言のまま後方へ跳躍し、間合いを取る。

その瞳には感情の色はなく、ただ政宗の動きを冷静に見据えている。

 

「チッ、手強いな……! だが、いつまでもまごついてばかりじゃいられねぇ!」

 

政宗は刀を構え直し、次の攻撃の機を伺う。

秀家は静かに長笛を袈裟構えにして、再び戦闘態勢に入る。

二人の間に緊張が走り、次の瞬間、再び激しい攻防が繰り広げられる。

 

――ギン、と。

 

火花が宙に咲いた。

吹き下ろされる鋼の長笛。それを、斬り上げの一太刀でなんとか受け流す政宗。

斬波の余波が掠め、秀家の頬をわずかに裂いた。赤い血が一筋、流れ落ちる。

だが、秀家は動じない。痛みも怒りも感じていないかのように、無表情のまま血を流し続ける。

 

「マジかよ…!? テメェ、自分の顔切られてんだぜ……それでも眉一つ動かさねぇのかよ……!?」

 

政宗の額に、冷たい汗が滲む。軽口もどこか空回りし始めていた。

 

目の前に立つ“怪物”――宇喜多秀家。

頬を血に染めながらも、無言で鋼の長笛を構えるその姿は、まるで命を持った兵器。己が操る“屍鬼神”と何ら変わらぬ、不気味な静けさと非人間性を湛えていた。

 

「……Ha。死人をバケモノに変えて操るMonster Tamerだぁ? 笑わせんな。テメェ自身がよっぽど死人(Living dead)みてぇじゃねぇか……!」

 

呼吸を整えながら、政宗は静かに足を引く。そして、腰に下げた残りの五振りを一挙に抜刀――!

――“六爪流”。

伊達政宗が誇る、真の剣豪としての姿が現れる瞬間だった。

 

「この“独眼竜”の本気……その薄気味悪ぃPoker Faceに刻んでやるぜッ!!」

 

地を蹴った政宗の姿が掻き消える。

六振りの刃が旋風のように舞い、風と雷を纏って一気に秀家へ襲いかかる!

 

対する秀家も、微動だにせぬまま、長笛を旋回させた。

 

ギィンッ! ガンッ! バチィィッ!!

 

火花が散る。

六本の異なる斬撃に対して、秀家はたった一振りで受けきる。まるで重力を無視するような正確さで、殺到する刃の全てを捌いてみせる。

 

「くそっ……このッ……!!」

 

PHANTOM DIVE(ファントムダイヴ)

DEATH FANG(デスファング)

MAGNUM STRIKE(マグナムストライク)

 

過去に数多の強敵を切り伏せてきた政宗の剣技が畳みかけるように炸裂する。

だが――秀家は崩れない。体勢一つ崩さず、長笛の回転と僅かな軸移動だけで全てを逸らす。

 

(……バケモン無しでこの俺にここまで食らいついてきやがる…コイツで四番手(4th)たぁ、改めて末恐ろしいGroupだぜ…『豊臣五刑衆』…!)

 

焦燥が政宗の胸を焼く。確かに攻めている、当たっているはずなのに、手応えがない。

“殺せる気配”が、まるで感じられない。

圧倒的な剣圧の中、政宗の胸中に微かな焦りが芽生える。

確実に押してはいるはず。しかし、呼吸一つ乱さぬ秀家の立ち回りは、まるで感情も痛覚も捨てた亡者の如し。

 

「……上等だ。 こうなりゃ意地でもテメェの泣きっ面、拝ませてもらうぜッ!! 」

 

六刀を構えながら、政宗が跳ねた。

舞うような剣閃――その軌道はまるで雷鳴を裂く龍の咆哮。

 

CRAZY STORM(クレイジーストーム)ッ!」

 

炸裂する斬撃。

斜め、縦、横、下段――あらゆる角度から叩き込まれる連続攻撃。

これさえ決まれば、確実に長笛が折れるかと思われた瞬間――

 

「…………」

 

突然、長笛を縦に翳すように持ち直した秀家が、それをバトンのように――否、それ以上の精度と速さで回転させはじめた。

 

「ッ……!?」

 

突如現れた異様な動きに、政宗の目がわずかに見開かれる。だが、相手の顔に変化はない。まるで最初からこの流れを計算していたかのように、無感情な声が漏れた。

 

 「………髏霞(くろがすみ)

 

その声と同時に、秀家の周囲に不気味な薄紫色の靄が巻き起こる。中に浮かぶのは、光弾の形をとった髑髏――それも、ぞっとするほど異様な数。

 

 

ケタケタケタケタケタ――

ケタケタケタケタケタ――

ケタケタケタケタケタ――

 

 

無数の髑髏たちが一斉に嗤った。その嘲りのような笑い声が周囲の空間に染み渡ると同時に、政宗の視界が、ひび割れた鏡のように歪みはじめた。

 

「What…!? 目が―――ッ!!?」

 

世界が揺らぐ。足元の感覚が、今自分が地に立っているのかすら曖昧になる。焦りが、反射を鈍らせた。

その一瞬――わずかに開いた隙を、秀家は逃さなかった。

 

「……千尋神楽(せんじんかぐら)

 

それは、まるで空気そのものが凍りつくような一言だった。

次の瞬間――全身を締め上げるような冷気が背筋を走る。視界が僅かに波打った、その刹那。

 

ドガァッ!!

 

「――がはッ!!」

 

炸裂音にも似た衝撃音。

鋼鉄の長笛が、一閃の稲妻の如く政宗の腹部を撃ち抜いた。

 

その一撃は、装甲を容易く貫き、重戦車すら沈める暴力的な質量を持っていた。骨が砕け、内臓が震える。口から血と共に肺の空気が吐き出される。

 

――そして。

 

政宗の身体は、抵抗すらできぬまま宙を舞った。

重力の法則すら嘲笑うように、木偶人形のように空を裂き、瓦礫の山をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。

その度、爆ぜる石、軋む鉄、舞い上がる土煙と血飛沫――。

 

轟音の中に混じって、誰かの心臓が脈打つ音すら聞こえるようだった。

 

ようやく動きが止まった時、政宗は瓦礫の山に崩れ落ちていた。

背をもたれ、半身が沈み込むように崩れている。

 

「……ッく、Shit……!」

 

呻くように、搾り出される声。

政宗の蒼き甲冑は、腹部がぐしゃりと凹み、その下から血が溢れ出していた。

月を模した前立の兜は消し飛び、額から滴る鮮血が、その鋭く整った顔を濡らしていた。

 

だが、立ち上がれない。――否、立ち上がれるはずがなかった。

 

秀家は、その様をまるで予測していたかのように、ゆっくりと歩を進める。

まるで死刑執行人のように、一歩一歩、冷たい足音だけを響かせながら。

 

そして、止まる。長笛を軽く構え、静かに、ただ一言。

 

「………とどめだよ」

 

殺気も怒気もない。

そこには、ただ確実に命を刈り取る“役割”としての冷徹さだけがあった。

 

――その時だった。

 

「――政宗さん!!」

 

「政宗!!」

 

空気を割くように、二つの声が響いた。

 

秀家の足が止まる。

耳に届いた声の方へと視線を移す。そこには――

 

戦火の空を切り裂き、魔法の光翼を翻して降りてくる少女、なのは。

その足元には、地を駆ける焔の如き疾風、シグナム。

彼女たちの眼には、恐怖も逡巡もなかった。あるのは、ただひとつ――“救い”の意思。

 

「……そうか。蛟はやられたんだね」

 

静かに秀家は呟く。

冷酷な死神のような面差しは微塵も揺れない。だが、その言葉にこそ確信があった。敗北の気配を、彼は確かに感じ取っていた。

 

けれど、なおもその足取りは迷いなく。死の帳を下ろすため、彼は再び政宗へと歩を進める。

 

「政宗さん!しっかりして! 政宗さん!」

 

叫びながらなのはが飛び降りるように政宗のもとへ駆け寄る。

その体を抱き起こした彼女の腕に、ずしりと重い感触――血の臭い、鉄の冷たさ、命の灯火が揺らいでいる現実が、容赦なく迫ってくる。

 

「……な…なのは……!」

 

「政宗さん!」

 

意識を手放しかけたその中で、政宗がかろうじて呻くように呟く。

 

「…Sorry…俺としたことが……下手…打っちまった……」

 

隻眼の目元は腫れ、呼吸は浅く、痛みに顔を歪めていた。

 

「――貴様……!!」

 

政宗の無残な姿を目の当たりにしたシグナムが、怒気を迸らせながら、彼らを庇うように秀家の前に立ちはだかった。

 

「なのは! 政宗を守れ! 奴は私が引き受ける!」

 

シグナムがそう言いながら、レヴァンティンを構え、秀家に向かって飛びかかっていく。

戦乙女の如き気迫と共に、手にした剣――レヴァンティンを構え、秀家に鋭く切っ先を向ける。

 

「子供といえども…仲間に手を出す者であれば、手加減はしない!!」

 

疾駆。シグナムの全身から噴き上がるような殺気が爆風となって、周囲の空気を一瞬で焼く。

風を裂くほどの踏み込みと共に、鋭利な斬撃が閃光のごとく秀家に叩きつけられる。

 

――だが。

 

 ギィン!!

 

金属が激しくぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、長笛がシグナムの剣を受け止める。

反撃を警戒していた秀家は、軽々とその一撃を受け流していた。しかも――その手応えは、異様なほどに軽い。

 

(……ぐぅッ! やはり、魔力無しの身でかかるとこの程度か……!)

 

斬った瞬間、シグナムは悟った。

魔力はまだ完全には戻っていない。いまの彼女は、本来の半分にも満たない状態だ。

 

「くッ……!」

 

それでも、シグナムは退かない。退けるはずがなかった。

連撃。突き。捻じり。斬撃の応酬が、戦場の空気を紅く染めてゆく。

だが――それを、秀家はあくまで冷静に、舞うような身のこなしで次々とかわしていく。

刀ではない。笛という、打撃にも防御にも適さぬはずの武器一つで――彼はまるで戦場で踊っていた。

 

「……魔力を封じられてるのにこれだけ動けるなんて……大したものだね。蛟も、貴女を見くびり過ぎていたみたいだね」

 

珍しく饒舌に言葉を紡ぎながらも、その目元に揺らぎはない。

むしろ、さらに冷徹な刃となってシグナムの弱点を見抜き、彼女の剣をいなしていく。

 

そして――

 

「しまったっ!!」

 

秀家が回転するように身を翻し、次の瞬間には風のように加速していた。

目指すはただ一つ、地に伏している政宗。そこに、長笛が振り下ろされる――

 

(間に合わない!!)

 

シグナムの瞳に焦燥が走った。追いつけない。防げない――

 

「させないッ!!」

 

――その刹那。

 

ガキイイィィィンッ!!

 

雷鳴のような金属音が戦場に響き渡った。

閃光とともに現れた白い魔導師が、政宗を守るように立ちはだかる。

 

なのはだった。

 

秀家の一撃をレイジングハートの柄で受け止め、金属と金属が火花を散らしてぶつかり合う。

 

「プロテクション!」

 

《Active Protection!》

 

即座に詠唱を走らせ、なのはは魔力を練り上げた。

眩い円形の魔法陣が現れ、展開されたバリアが秀家の攻撃の余波を吹き飛ばす。

地面を滑るように後退しながらも、秀家は華麗に回転して立ち直る。

しかし、今度こそ彼はなのはを正面から意識せざるを得なかった。

 

一方、なのはは政宗の前に立ちふさがり、構えたレイジングハートの穂先をまっすぐに秀家へと向ける。

 

「……私は、政宗さんに――何度も助けられてきた……」

 

その声は、震えてなどいなかった。

怒りでも、焦りでもない。彼女の中にあるのはただ、決意。

 

燃え上がる想いが、魔力となって迸る。

 

「だから今度は……この私が――政宗さんを、守るッ!!」

 

空気が震え、魔力が爆ぜる。

その瞬間、なのはという少女は、魔導師から女武士(もののふ)へと変貌を遂げていた。

彼女の背に浮かぶ魔力のオーラが一際大きくなり、レイジングハートの輝きが、夜の帳に新たな光を灯した。

 

 

 

 

一方、烏天狗が操る融合ムカデと対峙する家康たちは、すでにその弱点を把握していた。だが、その嘴の隙間から内部に潜む烏天狗を狙う試みは、2本の巨大な触手にすべて阻まれていた。赤と青、蛇のようにしなやかに蠢くその触手は、獲物の気配を察知しては先読みし、襲い来る攻撃をまるで予定調和のように退ける。

 

状況は、まさに拮抗――いや、じわじわと押されつつあった。

 

「くっ…全部読まれてる……っ!」

 

ティアナが額に浮かんだ汗を拭う間もなく叫ぶ。

瞬間、精密な魔力弾を放つが、触手は軌道をわずかに弧を描きながら遮り、あたかもそこが“防ぐべき場所”と知っていたかのように弾き飛ばした。

 

「はぁ…はぁ…! キリがないね……」

 

スバルが肩で息をしながら呟く。呼吸は荒く、身体の至る所に擦過傷と打撲の痕がある。それでも、拳を握る力は衰えていなかった。

 

「皆、聞いてくれッ!」

 

家康が張り上げた声が戦場に響く。地を跳ね、フェイトと共に一時的な後退を取るその瞳には、確かな光があった。

 

「このままじゃ埒が明かない! 奴の触手、防衛反応は優秀だが──逆に言えば“攻撃の主軸を一つに絞れば、確実にそっちへ全防御を向ける”ってことだ!」

 

「つまり……囮ですか?」

 

スバルがすぐに理解し、頷く。

 

「でも相手は中々知恵が回りそうな奴ですよ? そんな単調な動きだとすぐに読まれてしまうんじゃ…」

 

ティアナが懸念を口にする。

 

「そうだな。ティアナの言う通り、烏天狗は謂わば秀家の知恵袋。この程度の戦法であればすぐ手の内を読まれるだろう」

 

「じゃあ、どうして―――」

 

家康の表情が不敵に笑った。

 

「そこを突くんだ。こちらの戦力を分散するように見せかけて、最終的に同じところに守りを集中するよう仕向ける。そして“手薄になった頭部を狙う”…と見せかけて、敢えて別の場所を叩く」

 

「別の場所…って?」

 

フェイトが訊ねる。家康は以降の作戦を、相手に感づかれぬよう念話で伝える。

 

「それでいいな? よし! 行動開始だ!」

 

家康が力強く拳を握り締める。空気が震えるような気迫だった。

 

「よぉし! 私が正面から派手にアイツを誘う! ティア!バックアップをお願い!」

 

スバルがリボルバーナックルを構え、マッハキャリバーのブースターを解放。足場が爆ぜ、土煙を撒き散らしながら、一直線に突進する。

 

「任せなさい! ─ファントム…!」

 

ティアナがクロスミラージュを構え、無数の魔力演算式が空間を這う。レーザーサイトの精密な光線が融合ムカデの中央頭部を捉える。

 

「ブレイザー!!」

 

叫びと同時に発射されたオレンジの魔力砲は、空を裂きながら一直線に飛ぶ。

 

バカめ! 火力を増したって無駄な足掻きだぁ!!

 

烏天狗の嘲笑が響いた瞬間、赤と青の触手が奔流のように交差し、砲撃を完全に遮断する。大気が震え、魔力が空中に拡散していく。

 

「…っと見せかけて」

 

次の瞬間、触手の死角――その足元を滑り込むようにスバルが駆け抜けた。

 

「シャイニングカノン!!」

 

拳を振り上げ、地面へと叩き付ける。その衝撃から放たれた風の柱が、真下から融合ムカデを打ち抜いた。

 

続けざまに、リボルバーナックルをリロード。二度、三度と爆音が轟き、風の柱が連続して吹き上がる。対応が遅れた触手が、切断面から青い体液を撒き散らしながら崩れ落ちた。

 

「…今でござるッ! フェイト殿!」

 

「うん!」

 

幸村の声に応じ、フェイトが疾風のように舞い上がる。二人の戦士が、融合ムカデの両脇から鋭く突貫する。フェイトの稲妻が空を裂き、幸村の槍が熱を帯びて唸りを上げた。

 

ハッ! 大技で触手を引き付けて、その隙に本体(おれ)を叩こうって腹かぁっ!? テメェらの単調な戦法なぞ既にお見通しだぁ!!

 

烏天狗の嗤いと共に、融合ムカデの巨体がうねりながら立ち上がり、回避運動に入ろうとした――

だが、それが“罠”だった。

 

「かかったな! 烏天狗!」

 

なにぃっ!?

 

突然響いた家康の声に、烏天狗の動きが一瞬止まる。

 

直後――

 

「はあああぁぁぁぁ………絆合の波動(きあいのはどう)!!!!!」

 

ドゴオオオォォォォォォォッ!!!

 

轟音とともに、スバルの背後から家康が飛び出す。金色の気を纏った両拳が、無防備になった融合ムカデの腹部に炸裂。

 

体表が裂け、内臓のような組織が破裂し、口が悲鳴とともに大きく開かれる。そこに巣食っていた烏天狗の本体が、剥き出しになる。

 

「今だ! スバル、頼む!!」

 

「はい! ウイング…ロード!!」

 

地面に魔法陣が展開され、空へ向かって魔力の螺旋が走る。

生成されたウイングロードは、まるで神の階段のように空中に伸びていく。

家康がそれを駆け上がる。風を切り、爆風を背に、真っ直ぐに天を目指して――

 

その右手が、途中で“手刀”の形に変わった。親指を内に折り、4本の指を揃える。そこに収束される金色の気――気迫と闘志のすべてを込めた渾身の一撃。

 

「これで終わりだ! 破鉄手刀(はてつしゅとう)ぅぅッ!!」

 

一閃。

 

まるで雷鳴が直撃したかのような衝撃と共に、手刀が嘴の内奥――烏天狗の本体を切り裂く。

 

ぐぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! そ、そんなバカなああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 

断末魔の絶叫が、血と瘴気に満ちた戦場に響き渡る。

刹那、切り裂かれた烏天狗の上半身が空中に弾け飛び、黒い霧のように霊子を撒き散らしながら地に叩きつけられた。

同時に、それと繋がっていた融合ムカデの巨体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、地鳴りを立てて沈んでいく。

 

「退けっ!」

 

家康の号令と同時に、スバル、幸村、フェイトがそれぞれ反射的にバックステップを取り、破壊された怪物の巨躯の直撃を回避した。

土煙が上がる中、四人の背後で巨体がずしんと地に沈み、戦場の空気がわずかに静まった。

 

その刹那、音を立てて──まるで何か重いものが降ってきたように──切り裂かれた烏天狗の半身が、ドサリと家康たちの眼前に落ちてきた。

 

ぐぅっ…!! くそぉ…! またしてもテメェにしてやられるたぁ……このタヌキ野郎ぉ…!!

 

黒い瘴気を撒き散らしながら、朽ちていく身体を引きずるように動かす烏天狗。

片目が血に染まりながらも、なお家康を睨み据え、憎悪を剥き出しにして喚いた。

 

「…お前達、屍鬼神は死人を依り代にして受界する存在。このくらいで滅びるとは思っていない」

 

家康は淡々と、だが鋭い光を宿した眼差しで、地に伏した烏天狗を見据える。

その言葉には、長き戦乱を乗り越えてきた者ならではの冷静さと、確かな覚悟があった。

 

「しかし…己の欲で、ミッドチルダ(この世界)の罪なき人々を弄び、蹂躙しようというのであれば―――」

 

家康は一歩前に踏み出し、その拳を固く握りしめた。

 

「何度この世に現れようとも、ワシらの手でもう一度霊界へ送り返してやる! その事を覚えておけ!」

 

その声は凛然とし、戦場の風すら押し返すかのような迫力を宿していた。

家康の拳は、まるですべての犠牲に報いるように、高々と掲げられていた。

 

へッ…! 関ヶ原で西軍(おれたち)を追い詰めたからって、もう天下人気取りか…? その気でいるならまだ早ぇよ…!

 

烏天狗は咳き込みながらも、なおも嗤うことをやめなかった。

瘴気に包まれ、魔力が霧のように揺らめくその口から、意味深な言葉が絞り出される。

 

既に西軍(おれたち)は…豊臣は、着実に準備を推し進めてる…! 次こそは確実に勝つための(いくさ)へ向けた…準備をな……!

 

「なんだと!?」

 

家康、スバル、幸村、フェイト──全員の表情が同時に強張る。

不吉な暗示を含んだその言葉に、空気が凍るような緊張が走った。

 

「それはつまり…西軍(貴方達)とスカリエッティが企てている何か…ってこと?」

 

フェイトが一歩進み出て、鋭い視線を突きつける。

しかし、烏天狗はその問いすらも愉快そうに嗤った。

 

どうさなぁ…? 俺様も(あるじ)もまだ細けぇ話は聞かされてねぇしな…。 まっ、どのみち俺様達の本来の役割は最低限果たせたんだ…

 

その声は、もうかすれていた。

そしてついに──烏天狗の肉体は、黒い瘴気と化して空へと溶け、音もなく崩れ落ちていく。

 

テメェらから受けたこの貸しは…いずれきっちり返させてもらうからな……

 

怨念だけを残して、屍鬼神――烏天狗は黒い瘴気とともに崩れ去った。声の残響もすでに消え失せ、その場には不穏な沈黙だけが取り残される。

 

「……………」

 

「……石田殿。貴殿らは一体…この世界で何をしようとしているのでござろうか……?」

 

微かに揺らめく残滓を見据えながら、幸村が重たく呟いた。

元の世界では同志であったはずの西軍の者たちが、異世界の闇と手を組んでまで動いているという事実が、彼の心に重くのしかかる。

 

戦いには勝った。だが、打ち破った敵の残した言葉が、勝利の余韻を霞ませていた。

 

家康もまた、拳をゆっくりと解きながら、その場に立ち尽くしていた。

怒りでも憐れみでもない、混じり合った感情が胸の内で渦を巻く。

 

そんな空気を切り裂くように――

 

 

ドオオオオオォォォォン!!

 

 

突然、地鳴りのような爆音が響き渡った。振動とともに、遥か後方――彼らが通ってきた戦場のさらに奥から、眩い桃色の閃光が夜空を貫いた。

 

「「「「「ッ!!!?」」」」」

 

咄嗟に振り返る一同。その視線の先に、はっきりと広がる巨大な魔力光。

 

「あの魔力光は……なのはさん!?」

 

スバルが驚愕の声を上げるのとほぼ同時に、フェイトが既に一歩を踏み出していた。迷いも躊躇もなく、彼女の身体は閃光の先を目指して駆け出している。

 

「皆、行こう!」

 

家康、スバルもすぐに後を追う。その表情には、仲間を思う強い決意が宿っていた。

 

幸村、ティアナも続き、五人は再び駆ける。荒れ果てた戦場を抜け、仲間の元へと――

 

 

 

 

家康たちと、融合ムカデと一体化した烏天狗との決着が着く数刻前―――

なのはは、重傷を負い倒れ伏す政宗の傍に立ち、その前へと歩み寄ってきた秀家と対峙していた。

 

「………………」

 

「―――ッ!」

 

風が、二人の間を鋭く裂いて駆け抜ける。

ぶつかり合う視線。張りつめた沈黙が空気を重く染め上げていく。

 

秀家の表情は、死人のように無機質だった。

その顔には、感情の欠片すら浮かばない。

しかし、確かにそこには“命を奪う者”の気配がある――否。

もはや“意思”すら感じさせぬ、魂を失った機械のような、凍てつく殺意。

 

なのはは、一歩、静かに前へと踏み出す。

その小さな背中に、守るべき者の命を背負って。

 

「――これ以上…政宗さんを傷つけさせはしない!」

 

淡い桃色の魔法陣が、足元から展開された。

レイジングハートが高鳴る起動音を響かせ、周囲の魔力が波打つ。

空間そのものが震え始めたかのように、風圧が渦を巻く。

 

《Accel Shooter!》

 

次の瞬間、なのはの周囲に数十発の魔力弾が展開された。

鮮やかな光球が浮かび、静かに熱を帯びていく。

 

「………ッ!? 操霊鳴楽(そうりょうならく)……」

 

それに呼応するように、秀家もまた長笛を構え、唇を添える。

 

《♪~~~~~ ♪~~~~~~ ♪~~~~~》

 

幽玄なる旋律が、広場に染み入るように流れ始めた。

その調べとともに、淡水色の鬼火が秀家の周囲に浮かび上がる――その数、魔力弾に匹敵するほど。

 

「…アクセル!」

 

「……(うて)

 

合図は同時。

魔力弾と鬼火が、一斉に空を駆け、相手目がけて放たれた。

 

炸裂。

 

空中で交差し、ぶつかり合い、次々と閃光と衝撃波が炸裂する。

爆風が舞い上がり、かつて街だったラコニアの広場は、今や戦場と化していた。

なのはは地表ギリギリを滑るように飛び、空中で急角度に旋回しながら魔力砲を連射。

 

「ショート…バスタァァーーッ!!」

 

叫びと共に放たれる連続砲撃。

小ぶりな魔力弾が連なり、まるで魔法の雨の如く秀家に降り注ぐ。

 

だが――

 

「…召神雅楽……出でよ。屍鬼神“雅舎髑髏(がしゃどくろ)”…」

 

秀家は静かに言葉を紡ぐと、手にした長笛を再び奏でる。

その胸元に提げられた数珠の一部が空中に浮かび、淡く光を放ったかと思えば――

 

次の瞬間、巨大な髑髏の怪物が二体、魔法陣もなく出現した。

その口が開かれると、紫がかった魔力の奔流がなのはの砲撃を迎撃、打ち消していく。

 

「くっ……!」

 

炸裂音の余韻を背に、なのはは滑空して一度距離を取る。

空気を切る風が肌を刺し、浮かぶ汗が冷たく感じた。

 

(ロングレンジの撃ち合いに持ち込めば、こっちが有利…そう思ったけど――)

 

視線を向けた先、そこに立つ秀家は、微動だにしない。

呼吸のリズムすら乱れない。

 

(この子…全然、隙がない…!?)

 

彼の術は魔法とは違う――だが、だからこそ読みにくく、そして恐ろしく洗練されている。

感情がない分、判断に揺らぎもない。

その“静”の圧に、なのはは久しく感じていなかった感情を覚える。

“恐怖”――

 

だが。

 

「それでも…!」

 

なのはがそう呟いた直後。

突如、秀家が動いた。

地を蹴る。

鋼の軋みを引き裂くような速度で、長笛を槍のように振りかざし、一直線に迫る影―――秀家。

 

「ッ――近い!」

 

バリアを展開する暇すらなく、なのはの目前に、死の気配が突きつけられる。

 

ガァン!!

 

咄嗟にレイジングハートを掲げて受け止めるも、凄まじい衝撃が腕に伝わり、骨の芯まで痺れた。

続けざまに振るわれる第二撃、第三撃――容赦という概念が欠落したような無機質な連撃が、暴風のごとく襲いかかってくる。

 

(まずい……近接戦は、私の……!)

 

なのはの苦手とする距離――逃げ場のない至近距離での応酬。

展開した防御魔法は衝撃を逸らすのが精一杯で、反撃のための隙などほとんど残されていない。

一撃一撃が、呼吸を奪い、体力を削る。

 

秀家の瞳は、凪いだ水面のように一切の感情を映さず、ただ命を断つ道具として動くだけのように見えた。

それが、逆に底知れぬ恐怖を煽る。

 

「ッ……ぐうッ!」

 

レイジングハートを強く軋ませる激突音。

その一撃を受け止めきれず、なのはの肩を浅く裂いた魔力の刃が、鮮紅の花を咲かせる。

 

身体が吹き飛び、地面を転がる。

砂塵が舞い、瓦礫がきしむ音が耳の奥で鈍く響いた。

 

(……っ、くぅっ……、ま、まだ……!)

 

視界が揺れ、息が詰まる。

それでも、なのはは両膝をつきながら、奥歯を噛み締める。

 

「なのは!」

 

その様子を見たシグナムが救援に入ろうとするが、そこへ2体の屍鬼神“雅舎髑髏(がしゃどくろ)”が襲いかかる。

 

「くっ…! 邪魔をするなぁ!」

 

シグナムはレヴァンティンを振り払い、応戦するも、やはり魔力を封じられた状態ではまるで翻弄する様に周りを飛び交う二体の雅舎髑髏を捉えることができない。

 

そんなシグナムの状況を遠目に見やり、なのはは尚の事、今自分が倒れるわけにはいかない事を再認識した。

 

(政宗さんを、守るんだ……! 倒れるわけには…いかない)

 

瓦礫の向こう、血に塗れたまま動かぬ政宗の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。

あの時、自分が一歩でも遅れていたら――そう思うたびに、胸の奥で何かが強く燃え上がる。

 

「……立って。立ちなさい、なのは……!」

 

震える声が、自分の内側から漏れた。

自らを奮い立たせるためだけの、祈りにも似た言葉。

呼吸を整え、脚に力を込め、痛む身体を無理やり引き起こす。

 

そして構える。

魔力を再び練り直し、レイジングハートのフォルムを手元で調律する。

秀家は――寸分の揺らぎも見せないまま、再び前進してくる。

その足取りに迷いはなく、静寂の中に死を運ぶ。

 

だが、なのはの瞳に、確かな意志の光が戻っていた。

 

――ここから先は、信念の戦いだ。

 

(レイジングハート! “ゼロレンジモード”を展開して!)

 

《“Zero Range”!? That's unreasonable, Master!(無茶ですマスター!)

Isn't that a specification that has(あれは実戦で殆ど使用した)almost never been used in actual combat!?(経験のない仕様ではありませんか!?)

 

レイジングハートの声に、普段は感じさせないほどの戸惑いが滲んでいた。

それもそのはずだった。

“ゼロレンジモード”――

それはその名のとおり、敵との距離が文字通り“ゼロ”に近い状態での白兵戦を想定した超近接戦闘モード。

外見的には、バスター・モードを基軸とした形態であり、砲身の穂先を魔力刃で包み、槍のようにして扱う独自の仕様だ。

しかし――

なのはの場合、それはあくまで模擬戦や訓練での実験的使用にとどまっており、なのは自身、実戦では基本近中距離での戦闘では汎用形態であるアクセルモードを使用し、この形態の使用経験は皆無に等しかった。

 

(それでも……使うしか、ない……!)

 

接近戦において、回避と牽制の魔力弾だけでは押し切れない。

防御も限界に近い今、攻勢に転じるには――未知の領域に踏み込むしかなかった。

 

Understood...(承知しました) Master. Stay safe!…(マスター。ご無事を!)

 

レイジングハートが変形を開始する。

刹那、魔力が迸り、構えたデバイスの砲身が鋭い魔力刃へと変貌していく。

魔力光を纏う刃が、空気を焼く。

これが、なのはが切り出した奥の手――未踏の領域への挑戦。

 

正面、秀家の無感情な眼差しが、その動きを見据えていた。

だが、なのはは一歩も退かず、今度はこちらから踏み込んでいく。

 

なのはにとっては圧倒的に不利な距離――

それでも、なのはは躊躇しなかった。

 

「……やるしかないんだッ!」

 

叫びと共に、なのはの周囲に風が巻き起こる。魔力の奔流が腕を伝い、レイジングハートへと注がれていく。

 

《承認――ゼロレンジ・モード、展開開始!》

 

レイジングハートが赤い閃光を放ち、機構が変形を始める。バスター・モードの砲身が収縮し、刃先には半透明の魔力刃が重なり合うように形成され、槍のようなシルエットが浮かび上がった。

 

ガキィンッ!

 

地面を蹴った瞬間、石畳が砕け、なのはの身体は弾丸のように前方へ飛び出した。

視界が風に流れ、耳を裂くような風切り音が鳴る。視線の先には――無表情のまま迫る、秀家の姿。

 

だがその一瞬。

――秀家の眼が、わずかに見開かれた。

速度が違う。これまでのなのはとはまるで異なる間合いと闘気。もはや教官でも隊長でもない…

守りたい人の為に戦う一人の魔導師としての彼女が、真正面から接近戦を挑んできたのだ。

 

「ストライクアクション!」

 

《Strike Action!》

 

魔力刃が火花を散らしながら、秀家の長笛と激突する。

 

ギィィン!!

 

「……うぅッ!」

 

慣れない攻撃手段腕に走る衝撃、弾かれるような反動。

しかし――今のは、確かに“届いた”。

振り返る秀家に、なのはは即座に追撃を重ねる。魔力を抑え、重心を低く保ち、刺突と斬撃の連撃を繰り出す。

 

《Cartridge reload!》

 

レイジングハートが一拍置いてカートリッジをロードする音が響いた。

だが、それを待たずになのはは動いた。

 

(今、押し切らなきゃ……!)

 

己の不得意を押し殺し、ただ前へ。

全身全霊の一撃を叩き込むために、なのはは己の命すら賭ける覚悟で踏み込んだ。

 

「ショート…シューター!」

 

即座に自分の周りに展開した10発の魔力弾が投影するなり秀家に向かって飛来していく。

これもまた、通常使用するディバイン/アクセルシューターと比較して威力・射程を犠牲に、チャージ時間の短縮した超接近戦仕様の弾幕魔法であった。

すかさず、後ろに飛び退いて回避しながら秀家の表情が、わずかに変化する。

 

「……さっきまでと…動きが変わった…」

 

呟くと同時、長笛がしなるように動き、レイジングハートと打ち合う。

その軌道は、これまでの正確無比な連撃とは違う、明確な“止め”を意識したもの――超近接での攻めに徹してきたなのはに対する迎撃。

 

「はぁああああぁぁッ!!」

 

「ふッ――!!」

 

刹那、激突。

 

閃光。衝撃。爆音。

レイジングハートで直接打ち合いながら、瞬発的に魔力弾を出現させ、射出する。

秀家もそれを長笛で弾きながら、振り下ろされる魔力刃を受け止め、流す。

周囲の瓦礫が吹き飛び、煙が舞い上がる。風が逆巻き、地面が抉れ、周囲に圧倒的な力の波動が放射されていく。

 

そして――

沈黙の中、煙の中から立ち上がったのは、ボロボロの服と肩口から流れる血を押さえた少女の姿だった。

なのはだった。

 

「……っ、はぁ……はぁ……!」

 

血の味が口に広がり、呼吸のたびに肺が悲鳴を上げる。

ゼロレンジ・モードの魔力刃は損壊寸前。レイジングハートもコアの限界を訴える警告を発していた。それでも、なのははまだ立っていた。立たなければならなかった。

 

対する秀家は――数メートル後方へ跳躍し、地を滑るように着地していた。

彼の左肩には、斜めに走る魔力刃の裂傷。淡い血が白い法衣を滲ませている。

 

確かに、彼女の一撃は届いていた。

 

「……やるね。でも…これで終わらせる……」

 

秀家の声音はあくまで平坦で、戦意を揺らがせる感情の起伏は一切なかった。

だが、視線の奥に宿る冷ややかな殺意だけが、なのはの肌に針のように突き刺さる。

 

なのはは、それでも前に出る。

震える足に、ありったけの意志を込めて――一歩。

 

「…悪いけど…私は…終わるわけにはいかないんだよ……!」

 

傷だらけの身体に鞭を打ち、満身創痍の少女は剣を構える。

その眼差しは、決して逸れない。倒れてなお、信じたものを貫こうとする強さが、そこにはあった。

 

(だって……政宗さんから、まだ――告白の返事をもらってないんだから!)

 

思考の奥に浮かぶのは、彼の顔。

誠実で、どこか不器用で、それでも誰よりも人を救おうとする強さを持つ人。

その背を、共に並んで歩きたいと願った、大切な人。

 

だから、今ここで倒れるわけにはいかない。

 

「カートリッジリロード! レイジングハート! ありったけの魔力をチャージして!」

 

《Yes Master!》

 

バシュッ!と鋭い音を立てて、カートリッジが砲身に吸い込まれる。

同時に、レイジングハートの魔力核が白熱し、魔力刃に濃縮されたエネルギーが集束していく。

 

《Accel lancer!――Charge Mode! Active!》

 

なのはの周囲に、淡い桜色の魔力が渦巻く。

空気が振動し、砂塵が舞い上がる。圧縮された魔力が槍のように魔力刃へと纏わりついていく。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

叫びと共に、なのはは地面を蹴った。

地を抉り、爆風を巻き上げ、彼女の身体が一直線に秀家へ向かって突き進む。

全魔力を一点に集中させた高速突撃――それが、彼女のゼロレンジモード特有の必殺魔法“アクセルランサー”。

 

魔力の光が軌跡を描き、空間すら歪ませながら突き抜ける。

対する秀家の眼が、確かに細くなった。

 

「……いいよ――受けて立つ…」

 

彼の周囲に、薄紫色の気が奔る。

長笛を回転させ、刃の如き気が長笛を槍のように変化させた。

 

翔之一舞(かけりのいちぶ)……」

 

二つの“槍”が、今、空中でぶつかり合う。

 

 

ギィィィィィィン――ッ!!

 

 

閃光が空間を裂いた。

二人の間に生じた衝突点から、奔流する魔力が爆ぜ、周囲の空間すら震わせる。

辺りの建物の窓ガラスが割れ、地面がひび割れ、まるで小さな爆心地のように一帯が揺れ動く。

 

しかし、どちらも退かない。どちらも譲らない。

 

「はああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「……ふっ!」

 

己の全てを込めた突撃と、技巧の全てを注いだ迎撃――

まさに、矛と盾のぶつかり合い。そして―――

 

 

ドオオオオオォォォォン!!

 

なのはの魔力と秀家の気―――

2つの力が相殺され、巨大な爆発が起こった…

 




長かった(ホント長かった(苦笑))宇喜多秀家戦もようやくクライマックス!
いやぁ、約3年の休止期間は長く感じましたw(政宗「自分で言うなよ…」)

秀家戦の決着は政宗につけさせてもよかったのですが、(あまりに休止期間長すぎてワスrてかけてましたが)『なのは見合い編』という事なのに加え、今までなのはが政宗に助けられる展開が続いたので、ここらでなのはが政宗のピンチに介入して、『エース・オブ・エース』として花を持たせても良いかなと考え、決め手は彼女に任せることにしました。

さあ、ようやく…ホントのホントにようやく決着がつく秀家との一戦の勝敗の行方はどうなるか…次回をお楽しみに!

成実「その“次回”っていうのがまた3年後になったりして?」

ヴィータ「バカ! 縁起もねぇこと言うなよ!」
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