リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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【前回までのリリカルBASARA StrikerS】

宇喜多秀家が引き起こした古代竜アルハンブラ解放と、それによる騒動は政宗ら奥州伊達軍を中心とした東軍の武将達、そしてなのはら機動六課の奮闘の末に無事に解決した。

しかし、今回の一件で機動六課を目の敵と定めた地上本部統合事務次官 ザイン・コアタイルとその息子 セブン・コアタイル親子は六課への報復の為の策謀を張り巡らせ始めた。

だが、時同じくして別の場所でも新たなる陰謀が起ころうとしていた―――

幸村「リリカルBASARA StrikerS 第六十七章 いざ、参るぅ!!」


第六十七章 ~陰謀の西軍 新たなる謀反の兆し~

「ククク……コアタイル家が古代クライスラ帝国の遺物を独占しているとは踏んでいたが……まさか、生きたまま古代竜を違法に封印していたとはねぇ…」

 

ミッドチルダ某所、スカリエッティの隠された研究施設──

その主たるジェイル・スカリエッティは、前に据えられた等身大ほどの培養カプセルに手を当て、陶酔にも似た笑みを浮かべながら感嘆の声を漏らした。

カプセルの中には、銀色に輝く竜の鱗に覆われた皮膚の断片が、薬液に満たされた空間をゆらゆらと漂っていた。

 

「その上、この古代竜の遺伝子サンプルまで手に入れてくれるとは……。期待以上の成果だよ、秀家君」

 

満足げに振り返ったスカリエッティは、今回の作戦の立役者である宇喜多秀家に言葉を投げかける。

氷を思わせる冷たい無表情を崩さぬまま、秀家はスカリエッティの前に静かに跪いていた。

 

そしてその一方で──

部屋の奥、昏い影の中から鋭い視線を放っていたのは、鶏冠のような銀の髪をなびかせた男……西軍総大将・石田三成だった。

彼の眼差しは、怒気と苛立ちを孕んで、豊臣の忠臣たる筈の秀家を真っ直ぐに射貫いていた。

 

「だが、結局のところ……我らが真に求める“願い”に繋がる手がかりは何一つ得られなかったではないか!それどころか、“機動六課”なる家康の手の者共のたった一人にすら、遅れを取ったと聞いている。…貴様ともあろう者が、そのような無様を晒すとはな!」

 

三成の叱責にも、秀家は目を伏せ、口をつぐんだまま微動だにしない。

だがその沈黙を破るように、彼の右肩に、ひとつの影が現れる。

屍鬼神──烏天狗。

秀家の知恵袋兼第三者との干渉役として仕える異形の物怪である。

 

……面目ねぇ、御大将様。まさか、あの“高町なんとか”って女が、秀家(あるじさま)とあそこまで互角にやり合うとは、思ってもみなかったんだ。しかも、俺たち屍鬼神(しきがみ)も、徳川(たぬき野郎)真田(虎の小僧)の連中に横やりを入れられてなきゃ……今ごろ“伊達政宗の首”っていう、とびきりの土産を持ち帰ってたところだったのによぉ…!

 

言い訳がましく喋る烏天狗に、三成は鼻で笑うように溜息を吐いた。

 

「伊達の首など、私にとってはどうでもよい。…それよりも、既に刑部やうたからも聞いているはずだ。我らが早急に欲するもの……それは“レリック”、そして“クライスラの遺産”と呼ばれる古代の秘宝…全ては私のこの身に代えてでも叶えねばならぬ”悲願”の為…!」

 

三成の言葉には、揺るがぬ信念と苛烈な執念がこもっていた。

 

「……貴様らも西軍本隊に加わったからには、その覚悟をもって行動しろ。二度と、無様を晒すな」

 

……へい、おっしゃる通りで

 

どこかふざけたように応じながらも、烏天狗はなおも口を開く。

 

だけどよぉ、御大将様…。屍鬼神である(おれ)から言わせてもらうのも変な話だろうが……あんたらの“願い”ってやつは、本当に叶うもんなのかぁ? 確かに、(おれ)たち屍鬼神は、死人を依り代にして現世に出ることができる。けどよ、あんたらが目指してるその“願い”ってのは、ぶっちゃけ、(おれ)達から見ても異常だぜ? どれだけこの世界が、優れた文明や技術、法術に満ちてるっつっても、とっくに骨になっちまってる人間を、“完全”に蘇らせるなんて―――

 

その言葉が終わらぬうちに、突如、空気が一閃した。

 

瞬間、三成の居合が放たれ、烏天狗の霊体は切り裂かれる。

断末魔も上げる間もなく、黒い瘴気となって掻き消える烏天狗──

だが秀家は、眉ひとつ動かすことなく、その様を静かに見つめていた。

 

「……秀家。貴様の片腕の物怪は、口の利き方というものを知らんようだな…」

 

長刀を納刀しながら、冷え冷えとした声で三成が言い放つ。

 

「次にあの煩わしい鳥が、我らの“願い”を愚弄した時は……飼い主である貴様の首が落ちるものと思え!

 

「……ひらに…」

 

三成の視線を真っ向から受け止めながらも、秀家は無感情のまま、静かに頭を垂れ、淡々と詫びを述べた。

 

「…同志をそう邪険に扱うものではないぞ。三成よ」

 

浮遊する輿に乗って姿を現したのは、包帯で全身を覆った男――西軍の冷徹なる参謀・大谷吉継。

その傍らには、朱の戦装束を軽やかに纏った若き双刀の名手――西軍一番槍・島左近が続く。

 

「それより、今、我らが真に憂慮すべきは――“機動六課”ではないか」

 

そう言って大谷が視線を向ける先には、ホログラムモニターに映し出された六課の面々。中でも、ゼロレンジフォームを展開し、秀家との一騎討ちを制した高町なのはの姿が、鮮烈に映し出されていた。

その映像を、両腕を後頭部で組んだまま眺めていた左近が、軽口を叩くように口を開く。

 

「まさか、秀家の“屍鬼神”軍団すら退けちまうとはねぇ…こりゃあ、いよいようかうかしてはいかなくなってきたっスねぇ、刑部さん」

 

「左近の言葉、尤もぞ…。伊達、真田、前田、そして徳川……。あの(わらべ)達は、東軍方(とうぐんがた)の武豪たちの教えを糧に、着実に力を蓄えておる。特に“高町なのは”…。かの潜伏侵略の折には人質として用いた女子(おなご)であったが、なるほど、これがこの世界で謳われる『エース・オブ・エース』の真の力…ということか」

 

「フン……どうしようというのだ。刑部…。 再び奴らの本陣を奇襲でもしようというのか?」

 

三成の問いに、大谷は静かに首を横に振った。

 

「否。むしろ――逆ぞ。今は、敢えて泳がせておく方が得策と見た」

 

「……理由は?」

 

「奴らは、われらが掲げるもう一つの目的……即ち、ぬしの“願い”には、いまだ気づいておらぬようだ。ならば、こちらも不用意に動くべきではない。攻め時を誤れば、やつらにわれらの意図を悟られかねぬ。事が整うその時まで…機は待つべきぞ」

 

「……ぐぅ…! 忌々しいまでに、もどかしい!

 

三成はホログラムに映る家康の姿を睨みつけ、その怒気を声にぶつける。

 

「家康の居所はすでに掴んでいるのだぞ!? それでもなお、指をくわえて座して待てというのか!」

 

その憤怒の声にも、大谷はあくまで静かに、諭すように応じた。

 

「ぬしのその歯痒さはよぅ判る…。だが――われらの“目的”を果たすには、今はまだ、将兵も戦力も決定的に足りぬ。まずはその土台を築かねばな…。のう、スカリエッティ?」

 

名を呼ばれた科学者は、興味深げに顎を撫でながら、ひとつ唸った。まるで、遊戯に心を躍らせる少年のような笑みを浮かべて。

 

「うむ、大谷殿の言う通りだよ三成君。西軍の将たちは着々とこの地に集まりつつあるし、ナンバーズ(私の娘たち)も、実戦運用や新規起動に向けて順調に調整が進んでいる。とはいえ…やはり問題は、その下に控える“雑兵”たちだな。ガジェットドローンの量産は進んでいるが……管理局相手に正面から挑むには、まだまだ戦力が心許ないのが実情だ」

 

「だったらさぁ。アンタの言う“娘”達――戦闘機人ってやつ? あれをもっと増やせば済む話じゃねぇの?」

 

左近の提案に、スカリエッティは小さく首を横に振り、苦笑混じりに応じた。

 

「それが簡単にできれば、私も苦労はしないよ、左近君。それに私にとって戦闘機人(ナンバーズ)は、ただの兵器ではない。愛情を注いできた“作品”であり”家族”なのさ。ゆえに――容易には造れないんだよ」

 

「へぇ? “愛情”だって? 人としての情がカケラもねぇアンタが、そんな殊勝な言葉を口にするとはね。こりゃあ、明日は空から大判小判が降ってくるかもな?」

 

左近はそう言って、わざとらしく肩をすくめてみせた。

 

「ハハハハ、手厳しいな。だが、それだけが理由じゃない。ナンバーズほどの戦闘機人を量産するとなれば、膨大な資材と極めて高度な施設が必要になる。ガジェットとは比べ物にならないスケールだ。残念ながら、このアジトではすでにリソースを割き切っている状態でね…。仮にどこかの大企業クラスの組織と連携できれば、話は別になるのだが……」

 

「へッ! とどのつまり、テメェの懐が素寒貧(すっかんぴん)ってだけの話じゃねぇか」

 

左近が肩をすくめ、あきれ果てた口調で皮肉を放つと、大谷は苦笑を浮かべつつ、柔らかく諫めた。

 

「まぁ、そう言うな。左近。無い物ねだりをしても始まらぬことは、ぬしとて解ろう。そもそも元手が要るならば、官兵衛や長曾我部といった外様衆を使えばよい。……ぬしも、何か入り用な時は遠慮なく申すがよいぞ、スカリエッティ」

 

「それはそれは、心遣い感謝するよ。大谷殿」

 

スカリエッティは口元に陰湿な笑みを浮かべ、どこか芝居がかった仕草で一礼する。

その様子を、三成は不快げな眼差しで見つめていた。

 

「……それで貴様らは、今後どう動くつもりだ? 刑部、スカリエッティ」

 

鋭く問いただす三成に、大谷とスカリエッティは一瞬目を合わせた後、静かに思案を巡らせた。

 

「そうだね……当面の目標は引き続き『クライスラの遺産』の発見と確保。それと、触媒として使えるレリックも、あといくつか必要かな? ああ、それと――」

 

スカリエッティはふと口角を上げ、意図的に間を置いてから続けた。

 

「……私の本来の目的であった“ゆりかご”の件も、そろそろ再始動させたいと思っていてね」

 

「あぁ? “ゆりかご”?」

 

「……なんだ、それは?」

 

左近が眉をひそめ、三成も鋭く目を細める。

その初耳の単語に警戒を滲ませる中、彼らの疑問に答えたのは、部屋の奥――闇の中からひそやかに歩み出てきた、もう一人の人物だった。

 

「“聖王のゆりかご”……かつて一度、世界を滅ぼしかけたとも言われる、超弩級の飛行戦艦さ。古代ベルカのロストロギア――」

 

静かに、しかし確信をもって語りながら姿を現したのは、大谷と並ぶ西軍の女謀将・皎月院。日ノ本の出身であるはずの彼女が、ミッドチルダ…それも古代ベルカに関する精密な知識を持っていることに、スカリエッティは一瞬、目を細めて興味深そうに微笑んだ。

 

「これは驚いた。貴女がそれを知っているとはね……ミス皎月院」

 

「ふふ、ちょっとした座興さ。この世界について調べる中で、あんたが“本来狙っていた”ロストロギアにも辿り着いただけの話さ」

 

言いながら、皎月院は三成たちの輪の中へとゆるやかに歩を進める。

 

「スカリエッティの本懐は、この戦艦を蘇らせ、その力を以てミッドチルダ、ひいては時空管理局に対抗する切り札とすることだった……そうだろう?」

 

「――長曾我部が有していた“富岳”なる戦艦のようなものか?」

 

三成の脳裏に、同盟締結の折に長曾我部元親が乗ってきた巨大海上戦艦の姿が甦る。島すらも吹き飛ばすほどの超重口径主砲を備えた、あの浮かぶ要塞。あれを目の当たりにしたとき、三成は怒りを抑えきれず叫んだものだった。

「何故これほどの兵器を、秀吉様がご存命のうちに豊臣へ献上しなかったのだ!」と―――

 

だが、皎月院は即座にかぶりを振る。

 

「とんでもない。“富岳”なんて、あれに比べればガキ騙しのおもちゃさ。さっき言ったろう? “世界を一度滅ぼした”ってね」

 

「……ま、マジっスか、それ……?」

 

左近がごくりと唾を飲み込む。三成の表情にも、明らかな衝撃が走った。

そして鋭い眼光をスカリエッティへと突き刺す。

 

「スカリエッティ! そのような兵器の存在を知りながら、我らには一切口を割らず、今の今まで黙っていたというのか?! まさか貴様…初めから、それを手に入れるために我らに近づいたのではあるまいな!?」

 

三成の瞳に宿る殺気。それを正面から受けてもなお、スカリエッティの余裕に満ちた笑みは揺るがなかった。

 

「……まぁ、ひとつには、それもあるね」

 

「貴様ッ!!」

 

激昂した三成が、思わず腰の長刀に手をかけようとする――だが、その動きを制するように、スカリエッティが言葉を重ねた。

 

「だが聞いてくれ、三成君。もしその力が我々の手に渡ったなら……いや、君たち“豊臣”の力として活用できたなら…。それこそ常勝豊臣の覇道を引き継ぐ君達には相応しい切り札となるのではないかね?世界をも屈服させる圧倒的な武力――君が“神”と讃える覇王・豊臣秀吉公…。彼の思想であった“武”の象徴として、これ以上に相応しいものがあるかね?」

 

その言葉に、三成の手が静かに止まる。

 

「確かに―――『ゆりかご』の復活、そしてその力をもって異世界(次元の海)を制すること。それは、私が元より抱いていた大望に他ならない。だがね、豊臣(君たち)と出会ってからというもの、私の野望にも少しばかり変化が生じたのだよ」

 

スカリエッティは、目を細めながら含みのある笑みを浮かべた。

 

「自ら世界の頂に立つのも、もちろん魅力的だ……。だが、それ以上に―――“武”をもって世界を統べるという信念を宿す君たち“豊臣”が…誰もが手に余すほどの力を得たとき…果たして、この世界はどのように変貌を遂げるのか……。それを私は“傍観者”として、特等席から見届けさせてもらう……。そっちの方が面白いと思ってね。フフ…クククッ…」

 

「……結局は俺たちを“ダシ”に使おうって魂胆じゃねぇかよ」

 

左近が鋭く睨みつけながら、吐き捨てるように言った。

だが、大谷も皎月院も、その言葉に眉ひとつ動かさず、むしろその企てすら娯楽と受け取っているかのような余裕を滲ませていた。

 

スカリエッティはなおも語調を緩めず、三成の方へと視線を向ける。

 

「それに―――三成君。もし君がその“願い”を遂げたとして、その時この力を携えて“彼”を迎えたならば……どうなるだろうね? これ以上ない貢物として、彼の心を動かせるのではないかと、私は思っているのだが…」

 

「………………」

 

三成は沈黙したまま、冷ややかな視線でスカリエッティを見つめていた。その瞳は、何かを測るようでもあり、断罪を下すかのようでもあった。

やがて、ひとつ深く息を吐くと、鋭い声で問うた。

 

「……つまり、貴様はその『聖王のゆりかご』なる戦艦を、我ら豊臣の戦力として提供するつもりでいると、そう断言するのだな?」

 

「あぁ。断言しよう」

 

スカリエッティは自信に満ちた微笑を浮かべながら、ゆるやかに頷いた。

 

「それでその……『聖王のゆりかご』って(ふね)は、いま何処にあんだ?」

 

左近がやや訝しげな口調で問いかけた。

スカリエッティは肩をすくめながら答える。

 

「残念ながら、現時点では私の手元には無い。だが心配は無用だ。既にナンバーズ(私の娘たち)の一人を使って、水面下で事を運ばせている。状況さえ整えば、すぐにでも私の手中に収められる手筈だよ。―――ただし、ひとつだけ問題があってね」

 

「……問題?」

 

「あれを動かすために必要な“(マテリアル)”の存在だ。本来であれば、とある取引相手から受け取るはずだったのだが……その仲介を担っていたレジアス・ゲイズ中将との縁が断たれた今となっては、計画を一部修正せざるを得なくなった」

 

「なんだよそれ? 結局、そっちも詰んでんじゃねぇかよ」

 

左近が肩を落として呆れたように言うと、スカリエッティはゆるく首を振った。

 

「いや、詰んではいないさ。大凡の居場所については既に把握している。あとは機を見て、奪取するのみだ。もちろん、君たちの計画に支障をきたすような真似はしない―――約束しよう」

 

その言葉に、場の空気は再び張り詰める。

 

スカリエッティが語る真の目的――“聖王のゆりかご”。

それは、三成ら豊臣にとって果たして脅威か、あるいは、新たな武としての可能性か。

三成の眼差しには、未だ冷徹な理性の炎が静かに灯っていた。その思考の深淵を覗くような鋭い視線を前にしても、スカリエッティは一切臆せず、むしろ愉悦を滲ませながら言葉を畳み掛けていく。

 

「君たち豊臣の誇る圧倒的武力と、“ゆりかご”が持つ古代の叡智。その二つが融合を果たした時――君達の故郷“日ノ本”はおろか、このミッドチルダをはじめとする星の海すべてが、ひとつの旗の下に収束するだろう。かつて秀吉公が思い描いていた“富国強兵”――それが、かつて無いほどの規模で現実のものとなる……。君も、それを望むのではないかね?」

 

一瞬の沈黙。

やがて三成は、静かに口を開く。声は冷ややかに、しかし確固たる意志を帯びていた。

 

「……いいだろう。その“聖王のゆりかご”とやら……来たるべき時に備え、確かに我ら豊臣の戦力へと組み込むように事を図れ。ただし――」

 

鋭く細められた眼が、スカリエッティを射貫く。

 

「わかっているな…? もし貴様がその(ふね)をもって、我らに牙を向けるような真似をすれば……その身、塵一つ残らぬまでに、私の断罪の(やいば)で斬滅してくれる!!

 

その言葉に、スカリエッティは一瞬だけ目を細め――すぐに、狂気じみた笑みを深く刻む。

 

「……ククククッ。勿論だとも、三成君。約束しよう。私は君たちを裏切るつもりなど毛頭ない。“ゆりかご”は必ず君たち豊臣に捧げよう。君たちは、私の想像をも超える“面白さ”を見せてくれている……その礼として、これ以上ない贈り物だよ」

 

「ふん……ならば、早急に取りかかれ! 私をいつまでも焦らせるな!」

 

冷ややかに言い放ち、三成は踵を返す。

その背には一片の迷いもなく、武人としての決意と理知が染み込んだ気配だけが残された。

やがて彼の姿は、重たく沈むような暗がりの通路へとゆっくりと吸い込まれていった。

それに続こうとした島左近は、数歩進んだところでふと足を止めた。

振り返りざま、ギラリと鋭い眼光をスカリエッティに向け、言い捨てる。

 

「三成様はああ言ってるけどな……俺は、あの人以上にテメェを信用してはいねぇ。覚えとけよ。もし少しでも三成様を出し抜こうなんて真似してみろ? そん時は俺が、真っ先にてめぇのその薄気味悪ぃニヤケ面を叩っ斬ってやる……そのイカサマ塗れの腹の(うち)ごとな!」

 

その声には、単なる威圧ではなく、一人の忠臣としての“覚悟”が滲んでいた。

吐き捨てるように言葉を投げた左近もまた、三成に続いて闇の中へと身を消した。

だが、スカリエッティはその背に一瞬だけ視線を送り、やがて小さく肩をすくめると、静かに笑みを浮かべる。

 

「フフフ……“凶王”・石田三成。“左腕に近き男”・島左近。どこまでも愚直で、どこまでも不器用な忠義者たち……だが、それがまた、たまらなく面白い」

 

独り言のように呟いたその言葉に応じたのは、その様子を見守っていた大谷と皎月院だった。

 

「ヒヒヒ……それゆえに、われもヤツに尽くす甲斐があるというもの。三成の狂気と理性の、あの危うい均衡…。果たして、今度の計略の果てにそれがどのように転がっていくのか……? のう、うたよ?」

 

「まったくだね。…三成はまるで、“仕組まれた運命に抗う演者”のよう。フフ……だからこそ、わちきも惹かれるのさ。アイツの中に眠る、まだ見ぬ“業火”に――」

 

女の笑みが、花のように咲いたかと思えば、そのまま三人の策士たちは――

 

ククク…フハハハハハッ!!

 

ヒーッヒヒヒヒヒヒヒッ!!

 

フフフフ……!

 

笑い声を重ねていく。

それはまるで、舞台の幕が上がる前に奏でられる序曲のように、研究所の天井へと怪しく木霊していった。

 

「…………………………」

 

そのただ中、床に膝をついたまま、秀家は微動だにせず沈黙を守る。

無垢なまでの無表情。その双眸に、嘲笑も反発もなく――ただ静かに、何かを見定めようとするような、透明な眼差しだけが宿っていた。

その心中に何を思うか――それを知る者は、未だ誰一人としていなかった。

 

 

 

……だが、一連のやり取りを耳にしていたのは、秀家だけではなかった。

 

 

三成と左近が去っていった通路とは正反対――研究室の奥、壁に沿って伸びる太く重厚な柱。その影にひっそりと身を潜めるひとりの少女がいた。

白いケープを羽織り、茶色の髪をふたつに結んで垂らした姿。整った顔立ちには大きな丸縁の伊達眼鏡がかかり、普段は愛嬌すら漂わせる柔らかな笑顔を浮かべている彼女――ナンバーズNo.4、クアットロ

 

しかし、今の彼女の表情は、いつものような優雅な微笑みからはかけ離れていた。

引き結ばれた唇の端が震え、眼鏡の奥の瞳には憤怒の色が宿る。

愛想という名の仮面の奥に隠してきた本性が、今は隠される事なく顔に浮かんでいた。

 

冗談じゃないわよ…! “ゆりかご”が復活したら、豊臣(あいつら)に献上する…ですって?! あれはドクターの野望(ゆめ)を乗せる為の“神の方舟”のはずでしょ!?

 

喉の奥で噛み殺した声が震える。

細くしなやかな指が握り込まれ、白手袋の下で爪が手のひらの肉に食い込む。わずかに滲んだ血が、怒りの熱を証明していた。

 

ナンバーズ(私たち)が造られて、今まで闇の中で動いてきたのは、すべてはドクター――ジェイル・スカリエッティという男の《夢》を叶えるため。“聖王のゆりかご”をもって、あの方が世界に名を刻む、その未来のためだった…。それを……!あんな、どこの馬の骨とも知れない異世界の蛮族共なんかに横流してしまおうだなんて……ドクターは本気で正気を失ったんじゃないの?!)

 

怒りが胸の内を灼くように熱し、次第に冷たく、黒い感情へと形を変えていく。

 

( 『凶王』だかなんだか知らないけど、今でさえ、あんな狂犬みたいな男や、大谷(ミイラ)左近(遊び人)達如きに尻尾振って、頭を垂れなきゃいけない……それだけでも十分、耐えがたい屈辱だっていうのに…。その上、私達の『ゆりかご』まで横から掻っ攫おうってつもり!? ふざけるのも大概にしなさいよ!

 

クアットロは静かに、だが確かな怒気を孕んで柱の陰から視線を送る。

スカリエッティは、彼女の気配にも気づかぬまま、大谷、皎月院とともに、満足げな笑みで今後の計画について語り合っていた。

 

(……ドクター、あなた、本当にそれでいいの? 自分の野望を踏みにじった連中なんかと笑い合って、あまつさえそんな奴らの安い“願い”に手を貸そうっていうの……!?)

 

胸の奥でくすぶっていた違和感――

それが今、ひときわ鮮やかに火を灯す。

 

静かに、だが確実に……

忠誠という仮面に罅を走らせる熱が、彼女の内側から膨れ上がっていく。

 

(……そう。そういうことなのね、ドクター。あなたってば、表面上は『娘』だの『可愛い子たち』だのと、まるで親のような言葉を使っておいて――でも、結局はそういうこと。私たちナンバーズは、“道具”…。あくまで、自分が楽しむ為に、手の内で踊っていればいい玩具に過ぎないってこと)

 

眼鏡を指で押し上げる仕草。その裏にある瞳には、もはや微笑はなかった。

あるのは、冷めきった知性と、毒にも似た確信。

 

(優しい笑顔も、褒め言葉も――全部、私たちに“利用価値”があるうちは…ってだけの話。私たちが“面白い”、飽きの来ない玩具である間は愛してやる……あなたは、そういう人だったわけね。ジェイル・スカリエッティ…)

 

その時、クアットロの中に、何かが音を立てて崩れた。

それと同時に、別の何かが――ひどく静かに、確かに、立ち上がっていた。

 

(でもね…お生憎様。私はウーノ姉様やトーレ姉様のように愚直でもなければ、あの役立たずな妹達のようにただ従うだけの駒でもない…。私は、ナンバーズの中で最も聡く、最も優秀で、そして最も“上に立つ”に相応しい存在……。都合よく道具にされるだけの存在で終わるつもりはないわ)

 

吐き捨てるような思考の中で、彼女はすでに一つの決意を固めつつあった。

それは、三成たち豊臣の諸将達、そしてすっかり豊臣に組み入れられたスカリエッティの手から“ゆりかご”を取り戻し、真に“ナンバーズ”の未来を自らの掌に収めるという、彼女だけの“野望”…

 

そして――その一歩が、今、静かに踏み出されようとしていた。

 

(フフフ……その時が来たら、“裏切り”なんて言葉がどれほど滑稽か、身をもって知ることになるわよ、ドクター)

 

柱の影から静かに身を引き、足音を立てる事なく暗闇を歩き、去っていくクアットロの表情は、すでにいつもの柔和な笑みに戻っていた。

だが、その微笑みの奥に宿るものは、もはや従順な仮面ではない。

それは――冷たく、計算された、“裏切り者”の笑み。

 

そして彼女は、まだ気づいていなかった。

 

「…………フッ…」

 

その背中を――

本来は死角となるはずの位置から、一瞬だけ鋭く見据えていた者がいたことに……

 

皎月院――彼女はその眸を細め、愉悦の色を滲ませながら、まるですべてが己の掌中にあるとでも言うように、微かに口角を上げていた。

 

まるで――クアットロの抱き始めた新たなる野望すら、己の計算の一環であるかのように……

 




今回の話を執筆するにあたって、改めてオリジナル版を読み返してみたところ「そういえば、オリジナル版では『聖王のゆりかご』について殆ど言及してなかったな」という致命的な点に(今更!?)気づきました。

そこで、今回はゆりかご…そしてリリカルなのはシリーズ屈指の悪女 クアットロが、オリジナル版同様に謀反劇へ至る経緯について、ちゃんと伏線を貼ることにしようと思い、今回のストーリーを仕上げました。

さて、前話に続いて今回も敵サイドの陰謀話ですが、そろそろ気になる人(というかちゃんと覚えている人(苦笑))もいる筈な、今回の長編を通して少しずつフラグが立っていた『なのは×政宗』の恋路の行方ですが…次回でいよいよそちらに触れようと思います。
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