リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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【前回までのリリカルBASARA StrikerS】

セブン・コアタイルとのお見合い…宇喜多秀家との交戦…古代竜アルハンブラの暴走…数々の苦難を経て、それぞれの想いを自覚した政宗となのは…。

なのはの故郷 海鳴市へとやってきた2人は、月夜の下で遂にお互いの想いを明かす…

それは“偽り”から始まった恋人達が“本物”のへと昇華された瞬間であった…


慶次「リリカルBASARA StrikerS 第六十九章 命短し!人よ恋せよ!」


なのは見合い篇後日談
第六十九章 ~ようこそ翠屋へ! 大波乱の里帰り~


一連の見合い騒動のお礼、そして、あの騒動の渦中で告げた自らの“告白”への返事を受け取るため、高町なのはは伊達政宗を伴って、第97番管理外世界――通称“地球”の、かつて自分が育った街・海鳴市へと帰ってきた。

 

そして政宗からの返答――すなわち、両想いというかたちでその想いが結ばれた翌日。

新たに“恋人同士”となった二人は、朝から海鳴市内を散策しに出かけていた。

 

「ここが、なのはたちの住む世界の日ノ本……いや、こっちじゃ“日本”って言うんだったか。Hu~! なかなかイカしたもんじゃねぇか」

 

政宗が感嘆の声を漏らすのは、海鳴市郊外にある高台の総合運動公園。その一角には展望台があり、市街地を一望する眺望はもちろん、遥か彼方の東京湾に連なる湾岸都市群までもが、その目に映る。

 

昨日宿泊した温泉旅館もまた、街と海の美しさを一望できる絶好のロケーションだったが、今日のように快晴の昼間に展望台から見る風景は、また別種の感動があった。

 

異世界の戦国を生き抜いた伊達政宗にとって、目の前に広がる景色――それは「未来」の日本の姿そのものであり、どこか夢のような現実に、自然と心が高ぶっていた。

 

一方のなのはも、久しぶりに帰ってきた故郷の風景を、大切な人と共に見ているという事実に、胸がじんわりと温かくなるのを感じていた。

 

「それで、政宗さん。今日は、どこか行ってみたいところある?」

 

昨夜の喜びが、未だ現実感を伴わず、ふわふわと夢見心地のまま残っているのだろうか。なのはの声はどこか少しだけ緊張を含んでいた。

 

「Ah~……どこと言われても、何があるんだ?」

 

「ええとね、この街は基本的になんでもあるよ。遊園地に映画館に水族館、それに……」

 

「Hmmm……未来(竜の世界)の娯楽ってやつは、どうにもまだしっくりこねぇんだよな」

 

政宗は眉をひそめつつ展望台の案内板に目をやる。そして、その中にあった一つの文字列に、ぴたりと視線が止まった。

 

「“海鳴歴史博物館”……? ほぉ、歴史か……」

 

思わぬところで興味を示した政宗に、なのはは思わず目を丸くするのだった―――

 

 

 

 

「まさか、この世界に来て最初に興味を示したのが、“こっちの”日本の歴史だったなんて、ちょっと意外かも」

 

館内に入り、戦国期の展示資料の前で真剣なまなざしを向ける政宗に、なのはは思わず小さく笑って声をかける。

政宗は、目の前に飾られた『戦国時代に現在の海鳴市一帯を治めていた地方武将の甲冑と太刀』に視線を移しながら答えた。

 

「昨日も言ったけどな、俺も一応は戦国の乱世を駆ける(warrior)の端くれだ。並行世界(Parallels)とはいえ、こっちの“日ノ本”がどんな歴史を歩んだのか……その乱世を、どんな奴らが生き、どう終わらせたのか。知っといて損はねぇだろ?」

 

政宗となのはが今訪れているのは、博物館の中でも最大規模を誇る「戦国時代」エリア。ここでは、この世界における戦国の世の始まりから終焉に至るまでの流れが、豊富な資料や展示によって詳細に紹介されている。

 

 

応仁の乱から始まる守護・守護代体制の崩壊…各地で領地支配を謀り、戦乱に興じる戦国大名達…

そんな中現れた『天下布武』を掲げる織田信長の台頭…その信長の天下統一目前に起きた明智光秀による謀反“本能寺の変”…そしてその明智を討伐した豊臣秀吉が成した天下統一…やがて日ノ本ではなく世界をも統べようと大陸へ侵略の手を伸ばすも志半ばでその野望が潰え、斃れた秀吉。

そして、その後釜を巡り争った徳川家康と石田三成による天下分け目の大戦“関ヶ原の戦い”…

 

多少の差異はあるものの、大まかな部分は政宗の世界の日ノ本と同じ戦国時代であった。

だが、この世界では、その後の結末までしっかりと判明している。

 

 

“関ヶ原の戦い”に勝利した家康は諸国の大名を従わせ、征夷大将軍に就き、その天下を我がものに収めることに成功した。

そして、後顧の憂いを断つべく、前時代の異物の象徴である豊臣家を滅ぼす目的で引き起こした戦国最後の合戦“大坂の役”―――

“冬の陣”“夏の陣”2つにかけて行われたその戦の果てに豊臣家は滅亡。それを保って戦国乱世は終焉を迎えた―――

 

だが、『槿花一日の栄(きんかいちじつのえい)』という言葉があるとおり、歴史というものに“永遠”というものは存在し得ない…。

天下人となった徳川家はその後、265年に渡って、天下泰平の世を築き上げたというが、その徳川の世も、およそ100年も前に、異国からの圧力とそのきっかけに巻き起こった戦乱“戊辰戦争”の果てに、呆気なく終焉――――以来、たった一人の天下人による天下の治世の世は無くなったという…

 

「……皮肉なもんだな。あれだけ誰もが血眼になって奪い合ってた“天下”の椅子が、結局、最後にはその椅子そのものが消えちまうとはよ……」

 

戦国時代の流れを紹介するビデオ展示に耳を傾けながら、政宗は独りごちるように呟いた。

その声音は、どこか他人事のようでいて、どこか諦観を孕んでいた。

 

「政宗さん……大丈夫?」

 

感慨深げな表情を見せる政宗に、なのははそっと声をかける。

自分達にしてみれば“未来”に値する歴史を目の当たりにしたことで、少なからず衝撃を受けているのではないか——そんな心配が胸をよぎったのだろう。

 

だが、政宗は小さく笑って首を横に振った。

 

「No worries. ここにある“歴史”は、あくまで“こっち”の世界の話だ。俺たちの世界が、同じ道を辿るとは限らねぇ」

 

そう言って、政宗はふと博物館内を見渡す。

そこには、平和な日常を楽しむ人々の姿があった。老いも若きも、男も女も、誰もが笑い合い、穏やかな時間を過ごしている。

そこには、かつて日ノ本にいた民たちが常に背負っていた、

“明日には命を落とすかもしれない”という恐怖や、言葉にできない不安の影など、どこにも見当たらなかった。

 

「ま、俺たちみてぇなwarriorはともかく……戦を知らねぇ奴らにとっては、こういう時代こそが、ほんとうに望まれていたもの…なんだろうな」

 

政宗の口元に、ふっと微笑が浮かぶ。

 

「政宗さん……」

 

なのはは、その微笑の奥に、どこか寂しげな影を感じ取っていた。

 

展示には、“独眼竜”伊達政宗――つまり、“この世界”における政宗に相当する人物についても詳細な紹介がなされていた。

 

奥州の覇者として頭角を現しながらも、小田原征伐を機に秀吉に降り、その後は豊臣、徳川に仕えていった政宗公。

最終的には仙台藩62万石の主として、徳川の治世を支える存在となったという。

英語を操ることも、六本の刀を振るう剣術も、この世界の政宗はしなかったようだが、それでもその戦国武将としての才覚は際立っており、歴史家たちの間では「あと十年早く生まれていれば、天下を獲っていた」とさえ語られている。

 

だが、今ではその政宗公が興した仙台藩もすでになく、伊達家の末裔たちはごく普通の市民として社会に溶け込んでいるそうだ。ちなみに最近ではお笑い芸人や、アイドル声優として人気を集めている者もいるのだとか。

 

そして、かつては誇りであった“武士”も、この世界ではいまや過去の存在―――

刀を携えることすら、特別な資格を持たなければ許されない時代となっていた。当然ながら、今の政宗は愛武器である六爪は携えてはいない。

 

「……とはいえ、“こっちの世界”の伊達政宗()が天下を獲れなかったってのを知っちまうと、やっぱり少し複雑な気分になるもんだな。『Oh come on!』って、ケツに一発蹴りでも入れてやりたい気分だぜ!」

 

「ふふっ! 政宗さんが、政宗さんに喝を入れるの?」

 

想像したらシュールな光景が浮かんできそうなその不敵な冗談に、なのはは思わず吹き出すのだった…

 

 

歴史博物館を出た二人は、海鳴市の湾岸エリアにある大型モールへとたどり着いた。

ガラス張りの巨大な吹き抜けに、数え切れないほどの店舗が並ぶその空間に、政宗はあっけに取られる。

 

「……これは、ひとつの城って規模じゃねぇな。砦の群れって感じだぜ」

 

「ふふっ、でしょ? ここでは、服も雑貨も食べ物も、なんでも揃うんだよ」

 

「Hu~。未来(竜の国)ってのは果てしないところまで進んでいやがるぜ」

 

二人は館内を歩きながら、目に映る様々な現代の品々に政宗は興味津々といった様子を見せる。

だが、なのはがふと足を止め、ある店のショーウィンドウを覗き込んだ時、その表情が変わった。

 

「……ねぇ政宗さん、ちょっとこっち来て?」

 

「ん? なんだ、気になるものでもあったか?」

 

「うん……政宗さんに、似合いそうな服、見つけちゃった」

 

そう言って彼女が指差した先には、黒を基調としたシンプルなレザージャケットと、濃いインディゴのデニム、そして無骨なブーツ。

全体として“ワイルド&スタイリッシュ”にまとめられたディスプレイマネキンが立っていた。

 

「……ほぉ、こいつはなかなか悪くねぇDesignじゃねぇか」

 

政宗は興味深そうに腕を組み、その装いを見つめる。

ちなみに今の政宗は六課で私服用に支給されたひとつである灰色のワイシャツにスラックス…

政宗にしてみれば、少し地味でお硬い服装であり、少なからず不満に思っていた。

それに対して、この服装はなかなか政宗の嗜癖にも刺さるアクティブでワイルドなものだった。

 

「ちょっと試着してみようよ?サイズ、たぶん合うと思う」

 

「面白ぇ。着てみるか」

 

店員に案内されて試着室に入っていった政宗は、しばらくして姿を現した。

その瞬間、なのはの目がパッと見開かれる。

 

「わ……! かっこいい……!」

 

黒革のジャケットに身を包んだ政宗は、まるで現代ドラマでアウトロー系のヒーローさながらの風貌になっていた。

戦国の世を生きる彼だが、こうして現代のカジュアルファッションも十二分に似合っている。

 

「フッ……こいつは、悪くねぇな。動きやすいし、見た目も引き締まってる。……気に入ったぜ」

 

「ほんとに似合ってる! そのままポスターに出られそうなくらい!」

 

なのはは顔を輝かせながら頷く。

 

「政宗さん、せっかくだし、今日はその服で過ごしてみない? お代は全部、私が出すから!」

 

「いいのか?――ま、ここは素直に、お前の好意に甘えさせてもらうとするか」

 

なのはの大胆な申し出に、政宗は肩を軽く鳴らして応じると、試着室の鏡に映る自分の姿にニヤリと笑みを浮かべた。

レザージャケットにダークカラーのジーンズ、首元には細めのチェーンアクセ。どこかアウトローな雰囲気を漂わせるワイルド系のファッションに身を包んだ政宗は、なのはと共にショッピングモール内を歩き出した。

視線をあちこちに泳がせながら、政宗は目についたものに次々と興味を示しては、事あるごとになのはに尋ねる。一方のなのはも、そのひとつひとつに楽しげに答えながら、彼との会話を自然に広げていく。

 

そんな調子で二人のモール散策は和やかに進んでいったが、ふと政宗が足を止め、周囲を見回した。

 

「……そういえば、なのは。さっきからずっと、視線を感じねぇか?」

 

「にゃはは……実は私も思ってたところなんだよね。なんでだろう?」

 

周囲から向けられている視線。その理由は、二人の“見た目”にあった。

 

眼帯にレザージャケットという、やや物騒な雰囲気を醸す男――しかもその容貌も整っている伊達男・政宗。

一方で、可憐で整った顔立ちにどこか小動物的な愛らしさを残した美少女・なのは。

 

一見すれば不釣り合いにも見える二人が、親しげに腕を並べて歩く姿は、道行く人々の目を自然と引きつけていたのだった。

 

「Ah~……そんなにUnbalanceか、俺たち?」

 

「え~、そんなことないってば。でも……ちょっとだけ目立っちゃってるかもね」

 

「ふっ……目立つのは嫌いじゃねぇがな。ま、そろそろ歩き疲れたし、どっかで一休みするか」

 

「うん。私もちょうど小腹が空いてきたなって思ってたところ」

 

そんな会話を交わしながら、二人が休めそうな場所を探そうとした、そのとき――。

 

プルルル、と、なのはの携帯が控えめに鳴った。

 

「あ、ごめんね。ちょっと出るね」

 

そう言って少し離れた場所に移動し、電話に出るなのは。

その顔はすぐに柔らかくほころび、親しい相手と話しているのが見て取れた。

 

「フッ……やっぱり、そういうところは年相応のgirlだな」

 

政宗は、くすりと笑いながら彼女の姿を見守った。

 

「――うん、じゃあね。“お母さん”」

 

「……Mother?」

 

その一言に、政宗の眉がわずかに動く。

 

「……なのは。今、話していたのは誰だ?」

 

「あ、うん。お母さんからの電話だったの。こっちに来てるなら、せっかくだし寄っていかないかって」

 

「なのはの実家……この辺にあるのか?」

 

政宗の問いに、なのはは明るく頷く。そして――何か思いついたように、手をぽんと叩いた。

 

「そうだ! 政宗さんも良かったら寄っていかない? 私の家、お店やってるんだ!」

 

「へぇ、そいつは興味あるな。どんな商売してんだ?」

 

「ケーキ屋さん。あ、他にもいろいろあるけどね」

 

「ケーキか……ちょうど甘いもんが欲しかったとこだ。じゃあ、案内してくれ」

 

そうして話はトントン拍子に決まり、二人はなのはの実家へ向かうことになった。

 

 

 

 

数十分後、なのはと政宗は、一軒の喫茶兼ケーキ店の前に到着した。

 

「ここが、私の実家が営んでるお店――『翠屋』だよ」

 

「Hu~…“翠屋”か。こりゃまた洒落たカフェじゃねぇか」

 

ヨーロピアンテイスト漂う外観に、政宗は感心したように口笛を吹く。

それを受けて、なのはは照れたように微笑んだ。

 

店のドアを押して中に入ると、カウンターの奥に二人の女性が立っていた。ちょうど手が空いていたのか、すぐにこちらに目を向ける。

 

「いらっしゃ――あら、なのは!」

 

「お母さん」

 

中でも、なのはによく似た髪色と面差しを持つ長身の女性が、娘の姿を見つけて思わず声を上げる。なのはも笑顔を返しながら、その女性のもとへ駆け寄った。

 

もう一人、三つ編みの髪に丸縁眼鏡をかけた女性も、にこやかに歩み寄ってくる。

 

「久しぶりだね、なのは」

 

「お姉ちゃん、久しぶり!」

 

母と娘、そして姉妹との再会を喜ぶ声が店内に柔らかく響く。

その様子を一歩引いて見守っていた政宗に、やがて眼鏡の女性が気がついた。

 

「あれ? なのは、この人は? 初めて見る顔だけど……」

 

「あっ、そうだった!」

 

なのはは慌てて政宗の方を向くと、彼の横に立って紹介する。

 

「えっと、政宗さん。このメガネをかけてない方が私のお母さんで、かけてる方が姉の、美由希お姉ちゃん」

 

そう――彼女たちは、高町桃子と高町美由希―――

なのはの家族であり、喫茶『翠屋』の二大看板でもある。政宗は一瞬、驚きを隠せなかった。特に桃子のあまりに若々しい容姿に目を奪われる。

 

「へぇ……なのはのMomとSisterか。けど、Motherって割に……随分と若ぇな。正直、三姉妹って言われた方がしっくり来るぜ?」

 

「うふふ、ありがとう。私は桃子よ」

 

優しく笑って答える桃子の声に、政宗はほんの少し肩の力を抜く。

 

「たしかにお母さんは、昔から変わらないもんね~。ところで、君の名前は? 私は美由希」

 

「Ah、そうだったな」

 

政宗が口を開きかけたところで、なのはも紹介しようとするが――

 

「いや、なのは。ここは自分で言わせてくれ」

 

軽く右手を上げ、彼女の言葉を遮る。そして、政宗はいつものように名乗った。

 

「俺は奥州の“独眼竜”伊達政宗。今はちとワケあって、なのはと同じ職場(Office)で世話になってる身だ。Nice to meet you」

 

「政宗君…ね? “どくがんりゅう”ってことは、東北の方で道場か何か開いてる人?」

 

桃子はその呼び名を、武道の異名か流派のように捉えたのか、特に不思議そうな顔はしなかった。

 

「ていうかさ、“伊達政宗”って……まんま戦国武将の名前じゃん! なにそのネーミングセンスぅ~!」

 

美由希がクスクスと笑いながら、ついにツッコミを入れる。

それに対し、桃子は少し考えるような表情を浮かべながら、穏やかに口を開く。

 

「あら、そんなこともないわよ。歴史に名を残した偉人にあやかって、子どもに同じ名前をつけるって、珍しくないし。戦国武将に憧れてる人の中には、子どもに好きな武将の名前をつけたっていう話、結構あるもの。政宗君も、歴史の偉人“伊達政宗”を敬愛する武家好きの家で育った……ってところかしら? その眼帯まで、きっと真似してるのね?」

 

桃子の視線が、政宗の右目を覆う眼帯へと移る。

興味深そうに、まじまじと見つめてくる。

 

「…Ah~……」

 

「あ、あはは……」

 

政宗となのはは、気まずそうに顔を見合わせ、どちらともなく乾いた笑みを浮かべた。

まさか目の前にいるこの人物こそが、例え並行世界の存在とはいえ、その“伊達政宗”本人だなんて、口が裂けても言えない。

そんなことを話したが最後。どれほどの混乱を招くか、想像に難くない。

 

「それよりなのは。 Cakeを食わせてくれるんじゃなかったのか?」

 

「ヘ~。 政宗君ってケーキが好きなの?」

 

政宗の言葉を聞いて、桃子が嬉しそうに尋ねる、

 

「俺はどちらかといえば辛党なんだが、なのはのMotherの作るCakeなら是非食ってみたいと思ってな」

 

「まぁ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。だったらタダでいいわよ。今日はご馳走するわ」

 

「えっ、いいのか?」

 

思いがけない申し出に、なのはも政宗も、そして美由希も目を見開いた。

 

「ええ、構わないわ。なのはの友達なら、それくらい安いものよ」

 

「Ha! さすが美女は、顔だけじゃなく器もでけぇな! じゃあ、遠慮なくいただくぜ!」

 

「まぁ、“美少女”だなんて! もう、お世辞が上手なんだから、政宗君ったら♪」

 

政宗の軽妙な褒め言葉に、桃子はすっかり上機嫌に。

しかしそのやりとりに、傍らの美由希がすかさず違和感を覚える。

 

「いやいや、お母さん…政宗君は別に『美“少”女』とは言ってなかったと思うけど?」

 

ツッコミ混じりにさらっと訂正しようとしたその瞬間だった――。

 

「……あ・ら? ちゃんと言ってたわよ? ねぇぇぇ……?

 

にこやかに微笑む桃子から、ゴゴゴゴゴ……と地響きすらしそうな威圧感と黒いオーラが噴き出す。まるで笑顔の下から妖気が立ちのぼるような迫力に、美由希の言葉は喉元で凍りついた。

 

「あ……は、はい……言ってました、たしかに……」

 

「あはははは……」

 

「………Oh…scary…」

 

なのはは苦笑を浮かべ、政宗は小声でひとこと、英語混じりに本音を漏らしたのだった。

 

 

政宗の粋な褒め言葉にすっかり気を良くした桃子は、彼をすっかり気に入った様子で、なんと看板メニュー――しかも一番高価な特製ケーキに、淹れたてのコーヒーまでセットにして大盤振る舞いをしてくれた。

 

テーブル席に着いた政宗は、さっそくそのケーキにフォークを入れ、一口。

 

「……おお、こいつは great な味だな! 甘さ控えめで、生地はしっとり、舌触りも滑らか。……ほう、この香り……香り付けの酒は、ラムじゃなくて日本酒か」

 

まるでグルメリポーターのように感想を述べながら、政宗は美味しそうにケーキを口に運んでいく。

 

「すごいわね、政宗君。日本酒は、余程舌の肥えた人にしかわからないくらいに分量を調節した、いわば“超・隠し味”だったのよ。それを見抜くなんて、相当な目利きね」

 

「Ha! これでも俺は舌にはちょっとばかし自信があってな。どこぞの、舌も腹もBlack Holeな野郎を身近で見てると、反動で食に対する感覚が研ぎ澄まされてくるんだよ」

 

「あははっ、それ絶対、成実君のことでしょ?」

 

なのはが苦笑混じりにツッコミを入れると、政宗はいたずらっぽく肩をすくめてみせた。

 

そんな二人のやり取りをにこにこと眺めていた桃子は、ふと何かを思いついたようにニヤリと笑い、なのはに声をかける。

 

「ねぇねぇ、なのは?」

 

「なに、お母さん?」

 

「政宗君って……もしかして、なのはの彼氏?」

 

 

「「ブッッ!!?」」

 

 

あまりにも唐突な爆弾発言に、なのはと政宗は揃ってコーヒーを噴き出した。

 

「にゃ、にゃにゃにゃに言ってるの、母さんっ!? 政宗さんは、その……!」

 

「……な~のは。その反応、完全に自白してるようなもんだからね……」

 

美由希が呆れ顔で的確なツッコミを入れる。

 

「あぅぅ……」

 

なのはは恥ずかしさに耐え切れず、顔を真っ赤に染めてうつむく。

一方の政宗も、なのはほど露骨に取り乱してはいないものの、どこか気恥ずかしそうに視線を逸らし、頬をかすかに染めていた。

 

そんな二人の微妙に初々しい反応を見て、桃子はさらにニヤリと悪戯っぽく微笑む。

 

(ふ〜ん……やっぱり、そういうことなのねぇ)

 

娘と政宗を交互に見つめながら、桃子はどこか嬉しそうに頷く。

 

「ほんっと、意外だわ〜。まさか、なのはがこんな素敵なボーイフレンドを連れてくるなんてねぇ~♪ 私はてっきり、あのユーノ君とお付き合いしてるのかと思ってたんだけど……なのはも案外、政宗君みたいな『東京○リベンジャーズ』とか『HiGH○LOW』に出てきそうなイケイケ男子に靡いちゃうタイプだったのねぇ〜。やだ、意外と肉食系?」

 

「……お母さん、伏せ字の意味がまるで成してないから……」

 

美由希がボソッとメタなツッコミを入れるも、桃子はまったく意に介さず、さらに娘への好奇心を膨らませていく。

 

「で? いつからお付き合いしてるの? ね? ね? ねぇ〜?」

 

まるで女子高生のようなテンションで身を乗り出してくる桃子に、なのははたまらずうつむいたまま、政宗をちらりと見上げる。

政宗は苦笑しながらも、静かに頷いた。

 

「ま、いいんじゃねぇか。話しても…。家族なんだしよ」

 

政宗の言葉に背中を押され、なのはは小さく息を吐き、ポツリと告白するように言葉を紡いだ。

 

「……その……こないだ、私から告白して……。昨日の夜……正式にOKの返事、もらったの……////」

 

ええええぇぇぇぇぇっ!?

 

まぁまぁまぁまぁ~~♪

 

美由希が目を見開いて驚きの声を上げる一方、桃子は両手を頬に当て、まるで少女のようにはしゃぎ出した。

 

「ってことは、付き合い始めたばかりってことぉ〜!? なのはったら、思い切りがいいんだから〜!」

 

美由希がからかうように口元を緩めて言うと、すかさず桃子もニヤニヤとした笑みを浮かべて便乗する。

 

「お付き合いして早々に家族に紹介するなんて、やっぱりなのはは真面目ねぇ〜。礼儀正しくて母として鼻が高いわ〜♪」

 

「ち、違うってば、お母さんっ! それはたまたま、政宗さんと一緒にいる時に、お母さんのほうから『こっちに寄らない?』って電話してきたから……!」

 

必死に弁解するなのはだが、桃子はさらに調子に乗って追撃する。

 

「ふ〜ん? じゃあその“一緒にいた”っていう時は、なにをしてたのかしら〜?」

 

「……で……デ、デート……してました……////」

 

顔を真っ赤に染めたなのはが、小さく震える声でしぶしぶ答える。顔を真っ赤に染めたまま、なのはは蚊の鳴くような声で答える。その肩が小刻みに震えているのは、羞恥で限界寸前の証拠だった。

その瞬間、桃子の目がキラリと輝いた。

 

きゃああああ~~~~~っ!! デートですってぇ~~~!? 美由希聞いた!? なのはが男の人とデートしてたんですって!! デ・エ・ト! D・A・T・Eィィィィ~~~~~~~!!

 

桃子が両手で頬を押さえ、店内に響き渡る黄色い歓声を上げる。

 

「お母さんっ、ちょっと落ち着いて!! はしゃぎすぎだからっ!!」

 

美由希があわてて制止に入るが、時すでに遅し。桃子の声は完全に店の外にまで響いており、窓越しに歩行者たちが「何事か!?」とばかりに店内を覗き込んでいた。

なのはは恥ずかしさのあまり、顔を伏せて机に突っ伏してしまい、政宗も頭を掻きながら「まいったな……」とばかりに苦笑する。

これ以上、なのはばかりが辱められるのは気の毒だ。そう思った政宗は、ここから先は自分の口で正直に話すことにした。

 

「あーっと……まぁ、確かにコイツとは、俺が六課に世話になってた頃から、助けたり助けられたりって関係でな。でも、実はこの間――ちょっとした事情があって、仕事の一環として、なのはと恋人を装うことになってな……」

 

「恋人を装う…? 仕事で…?」

 

美由希が眉を顰める。しかし、政宗の口ぶりからして、それ以上深掘りしてもそこへ至った経緯については話すつもりはなさそうだった。

興味本位で突っ込めば、そっちはそっちで面白い話が聞けるかもしれないとも思う美由希であったが、桃子はすでに別の話題――なのはと政宗の馴れ初めのほうに興味津々だった。

 

「まぁ、そのおかげで、仕事の目的自体は果たせたんだけどな。その過程で、俺もなのはもお互いのことを改めて知るようになって……気がついたら、“camouflage”のはずだったのが―――」

 

「本物の恋人になっちゃった、ってこと?」

 

桃子が目を輝かせながら、先回りするように言った。

 

「……ま、そういうことだ。……な、なのは?」

 

「う、うん……///」

 

政宗が照れたように頬を掻きつつ、なのはに視線を向ける。なのはも顔を真っ赤にしながら、それでも小さく、確かな動きで頷いた。

 

「まぁまぁ、なんて素敵なの! 最初は偽りだったはずの恋が、いつの間にか本物になってたなんて……まるでマンガかアニメのような展開じゃない♪ ふふっ、なのはもすっかり正統派一直線かと思ってたけど、なかなかロマンチックな一面もあるのねぇ~!」

 

「お母さんっ!」

 

羞恥のあまり、なのはが思わず抗議の声を上げるが、桃子はどこ吹く風とばかりにニコニコしながら続ける。

 

「あらあら、ごめんなさい。でも、そんなに恥ずかしがることないでしょ? だって政宗くんって、一見するとちょっとアウトローな雰囲気だけど、よく見ると誠実そうで、頼れるタイプに見えるわよ♪」

 

その言葉に、政宗は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

(俺ぐらいで“真面目”って言われるなら、真田や家康なんて“堅物”って言われるだろうな……)

 

心の中で、思わず苦い笑いを浮かべる。だがそれでも――この温かい空気は、悪くなかった。

だが、政宗のそんな内心など知る由もなく、桃子は朗らかな笑顔のまま話しかけてきた。

 

「正直、私としては安心よ。政宗くんなら、うちのなのはを任せてもいいかなって♪」

 

「……えぇっ!?」

 

「……What!?」

 

思いがけない発言に、政宗はなのはと揃って声を上げる。

桃子は構わず、にこにこしながら続けた。

 

「政宗くんさえその気なら――なのはをお嫁さんに迎えてくれても構わないのよ?」

 

「ちょ、ちょっと待て! なんでいきなりそんな話になるんだ!?」

 

思わず身を乗り出してしまう政宗。

今日会ったばかりの、いわば“彼女の母親”から、いきなり結婚の許可どころか、後押しまでされるとは思いも寄らなかった。

 

その反応に、桃子は首を傾げる。

 

「だって、政宗くんは、なのはの“恋人”なんでしょう?」

 

「いや、まあ…それはそうだが……」

 

「け、結婚とか、その……そういうのはまだ……全然考えてないっていうか……」

 

政宗もなのはも、バツが悪そうに視線を泳がせながら頭を掻く。

 

すると桃子は、ふと思い出したように手を打った。

 

「そうだわ! だったらもう、私のこともこう呼んでくれていいのよ? 『お義母さん』って♡」

 

「「……へ?」」

 

一瞬、脳がその言葉の意味を処理しきれなかった二人だったが、数秒後――

 

な、なななっ……!

 

ちょ、ちょっとお母さん!! からかうのもいい加減にしてよぉ!!

 

なのはは耳まで真っ赤にしながら叫ぶ。

だが、桃子はどこ吹く風とばかりに、楽しげに笑っていた。

 

「あははっ、ごめんなさいね? 冗談よ、冗談! でも、二人ともほんとに初々しくて可愛いんだもの。見てるだけでこっちまで幸せになっちゃうわ♪」

 

「………お母さんったら、急に老け込まないでよ」

 

冷や汗を垂らしながら、ツッコミを入れる美由希。その様子を見て、政宗も呆れながらも少し肩の力が抜けるような気がした。

 

その時、店の扉が静かに開かれた。

 

「ただいま、桃子」

 

「ただいま」

 

入ってきたのは、白髪が混じった黒髪の壮年男性と、彼によく似た風貌を持ちながらも、鋭い眼差しを湛えた青年だった。

 

「あなた、おかえりなさい」

 

桃子が笑顔で出迎えると、なのはも思わず声を弾ませる。

 

「お父さん!」

 

「おお、なのはじゃないか。いつ来たんだ?」

 

「うん、久しぶりにお休みが取れたから、ちょっと顔を出そうと思って。それに……お兄ちゃんも帰ってきてたんだね」

 

「……ああ、久しぶりだな、なのは。俺もちょうど休暇をもらって、先週からこっちに戻ってきてた」

 

2人の男性――なのはの父・高町士郎と、兄・高町恭也は、桃子や美由希の傍になのはがいるのを見つけ、どこか張り詰めた表情をほんの僅かに緩めた。

 

「ほんとに久しぶりだね、お兄ちゃん。前に帰ってきた時は、お仕事でドイツ行ってて会えなかったもんね」

 

そんな風になのはが懐かしそうに話している頃、ケーキを食べ終えた政宗が、ふと気になって声をかけた。

 

「なのは? この2人は……?」

 

「あ、政宗さん。こっちは私のお父さんと、お兄ちゃんだよ」

 

紹介されると、士郎と恭也の視線が、なのはの隣に座る政宗へと注がれた。

明らかに“誰だこいつは”と言いたげな目つきだ。

 

「なのはの父親で、この店、翠屋の店長をしている高町士郎だ」

 

「高町恭也……で、お前は一体何者だ?」

 

士郎は常識的な礼儀をもって挨拶を交わしたが、恭也の方はというと、初対面の相手に明らかな敵意を滲ませた視線を突き刺してきた。政宗は、なぜここまで警戒されるのか分からず戸惑う。

 

「俺の名は伊達政宗。今は訳あって、機動六課(なのはの職場)で世話になってる者だ」

 

「ほう……なのはの同僚というわけか。にしても、伊達政宗とは……随分と由緒正しい名前だな」

 

士郎は美由希と同様の反応を見せ、やや呆れ混じりに苦笑する。

しかし、恭也の視線だけは変わらない。むしろその目は、さらに鋭さを増していた。

 

「……で、その“同僚”がなぜ、母さん達やなのはと一緒に、うちのケーキを食べて談笑しているんだ?」

 

「お、お兄ちゃん! 政宗さんは、別にそんな……!」

 

なのはが慌ててフォローに入ろうとした、その時だった。

 

あなた、恭也。実は政宗くんはなのはの彼氏でね、今日はご挨拶に来てくれたのよ♪

 

黒い笑顔を浮かべた桃子の口から、爆弾発言が放たれた。

 

「What!?」

 

「な、何言ってるのよお母さん!!?」

 

「「な、なにぃぃぃっ!?」」

 

場が凍りついた。

 

政宗はあまりの急展開にぽかんと口を開け、なのはは顔を真っ赤にしながら、必死に否定の言葉を探して口をぱくぱくと動かす。だが、もはや手遅れだった。士郎と恭也の表情が、驚愕と混乱、そして怒気に満ちて政宗へと集中する。

 

「ちょ、ちょっと待て桃子! それは本当なのか!?」

 

「うそだろ!? こ、こんな奴が…なのはの…彼氏だとォォォ!?

 

悲鳴に近い絶叫が二人の父兄から飛び出した。

特に恭也は怒りのオーラを纏いながら、なのはと政宗の間にズカズカと詰め寄る。

 

なのはあぁっ!? 一体どういうつもりだ!? 俺や父さんに黙って、こんなどこの馬の骨ともしれん眼帯野郎を彼氏にするなんてッ!? あれほど『相手は選べ』って口酸っぱく言ってきただろ!!

 

「お、お兄ちゃん落ち着いて! 政宗さんは……その……」

 

なのはが慌ててなだめようとするも、恭也の怒りはボルケーノ級。勢いそのまま、政宗に指を突きつけて叫ぶ。

 

伊達政宗ぇぇぇ!! 貴様みたいなヤ○ザもどきになのははやらん! どうしてもというなら俺と勝負して勝ってみせろ!!

 

「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん!? 何勝手に決闘モードに入ってるの!?」

 

なのはが慌てて止めようとする中、政宗は恭也の怒鳴り声をよそに、肩の力を抜いたままなのはに一言。

 

「おい、なのは…お前のBrother、なんか一人で熱くなってんぞ?」

 

「え、あ〜……うん、その…お兄ちゃん達、昔から私に男の人が近づくのすっごい嫌みたいで……」

 

「Ah〜、なるほどな……」

 

(要するに伊達軍(ウチ)でいう、小十郎みたいなもんか…)と政宗は恭也の様子となのはの言葉を聞いて大体の事を察する。

一方、士郎はというと、やや渋面を浮かべつつも冷静さは保っていた。だが、恭也の過激発言にはさすがに眉をひそめる。

 

「恭也、気持ちはわかるがな。いきなり決闘とか言い出すのはやりすぎだろう?」

 

だが恭也は引かない。むしろ目をギラつかせながら胸を張って宣言した。

 

「いいや、ダメだ! 父さんだって、いつも言っていたじゃないか!「なのはが将来の伴侶を選ぶ事に失敗しない為にも、もしもなのはの彼氏が挨拶に来た時には、その人間が本当になのはの相手として相応しいか、テストをしよう」と!」

 

「えぇぇぇぇ!? お父さん! 私の知らない間にそんな事決めちゃってたの!?」

 

「うっ……ま、まぁ…確かにそんな事言ったような覚えが………そういえば、何時の頃か恭也と酒を飲んでた時に、酔った勢いから、つい………」

 

恭也の発言を聞き、なのはは驚愕の表情を浮かべながら問い詰めると、士郎はバツが悪そうに頭を掻きながら頷いた。

つまり恭也としては、なのはの恋人として相応しいか否かを見定める目的のテストという正当性を掲げてはいるものの、その本当の目的は明らかに個人的に政宗が気に入らないだけという理不尽極まる動機で、彼に喧嘩を売っている事が、この場にいる全員が察していた。

 

「なんだそりゃ……?」

 

呆れたように呟く政宗。だが恭也は止まらない。むしろ勢いに拍車がかかっていた。

 

「フン、何を驚いてる? 当然だろうが! 母さんや美由希の事は上手く言い含める事が出来たのだろうが、この俺や父さんはそう安々と誑かされんぞ! それにな、貴様の名前を聞いた時点で既に俺は気に食わなかったんだ! 伊達政宗!? フザけるなぁぁ! お前みたいな目つきの悪いチンピラ風情が、よりにもよって、俺の好きな戦国大名ランキング第1位、“独眼竜 伊達政宗”公と同姓同名だとぉ!? しかも、その象徴たる眼帯まで真似しやがって!! そんなヘッポコなコスプレなどされては政宗公への冒涜も甚だしいわぁぁ! 恥を知れ!このインチキコスプレイヤーめッ!!

 

「……いや、cosplayも何も、俺がその“独眼竜”伊達政む―――」

 

わーっ! わーっ!! わーっ!!!

 

なのはがとっさに飛び出し、政宗の口を慌てて塞ぐ。

 

こら、なのは! こんな時に一体何してるんだ!? こんな奴に気安く触っているんじゃない!

 

政宗が本物だと知られては面倒になる――そんな焦りから口封じに走ったなのはだったが、その行動が逆に火に油を注ぐ形になり、恭也の怒りゲージはついに限界突破。

しかし、なのはが弁明しようと口を開くより早く、今度は士郎が割って入って恭也を宥めにかかる。

 

「落ちつけ恭也……じゃあ、こうしようじゃないか。これからウチの道場でお前と政宗君を剣術で立ち会わせるって事でどうだ?」

 

ちょっ!? お父さぁぁぁん!?

 

いきなりとんでもない提案をする父親に、なのはは仰天して叫ぶ。だが士郎の方は至って真剣な表情だった。

 

「俺が審判役をやる。なのはが立会人。これならお前も文句はないだろうし、万が一の時はどちらかが止めに入れる」

 

「父さん! 別に審判なんて必要ないだろ!?」

 

「いや、必要だ。お前のことだ、感情に任せて真剣を抜きかねん。それこそ危険だ。やるなら、血が流れない程度の勝負にしておけ」

 

「うぅ………」

 

士郎のきっぱりとした口調に、恭也も言い返せず、悔しげに唇を噛む。

その顔には、どうやら本気で真剣勝負を考えていた様子がありありと浮かんでいた。

 

「ていうか……お父さんは結局、誰の味方なのよ……?」

 

傍らで呆れた様子の美由希がぽつりと呟く。止めたいのか煽っているのか、士郎の行動が全く読めず困惑しているようだった。

 

お父さんもお兄ちゃんもっ! 勝手に話を変な方向に持っていかないでよーーーッ!!

 

なのはが思わず叫ぶその時——

 

「………いいじゃねぇか、なのは」

 

「ッ!? ま、政宗さん…!?」

 

必死に2人を宥めようとしたなのはを尻目に、当の本人である政宗は迷わず、士郎の突拍子もない提案に賛同してしまった。

そして恭也に向かってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「なんなら……俺としては別に真剣の勝負でもよかったんだぜ?」

 

な、何だと!?

 

「ちょっ、政宗さぁぁあんっ!?」

 

なのはが悲鳴を上げるのも無理はなかった。

政宗は完全にその気で、挑発的な笑みを浮かべながら恭也を真正面から見据える。

 

「生憎と、アンタみたいなtypeの人間の相手をするのは初めてじゃないもんでな…それに家に道場まで備えているところを見るにアンタ…相当な使い手と見たぜ…そういうStrong manと手合わせが出来るなんて、俺としてもまたとないchanceだ…是非とも一勝負交わしてみようじゃねぇか」

 

「フンッ、口だけは達者だな! 後で泣き言を言うなよ!」

 

恭也もその言葉にすっかり火がついたようで、鼻息荒く政宗を睨みつける。二人の間にバチバチと火花が走る。

 

その様子に、なのははオロオロと動揺し、美由希は「また始まった…恭ちゃんの悪い癖」と呆れ顔で頭を振る。

桃子は苦笑しながら「あらあら」といった表情で見守り、士郎はといえば、並大抵の男であれば忽ち震え上がる筈の殺気を隠さない恭也を前にしてなお、余裕のある政宗の態度に感心を示す様な眼差しを向けていた。

 

(ど、どうしてこうなっちゃったのぉぉぉッ!?)

 

今さら嘆いても遅いと分かってはいても、内心で叫ばずにはいられないなのは。

一方の政宗はというと、むしろこんな形でなのはの兄と手合わせできる機会が生まれたことを、心から嬉しく思っていた。

政宗は、店に入った時から、士郎と恭也の二人が並外れた手練であることを肌で感じ取っていた。

根っからの“強者と剣を交える快楽”を知る男にとって、恭也のような猛者との立ち会いは、この上ない喜びであり挑戦でもあった。

 

だがそんな彼の余裕が、ますます恭也の癇に障るのだった。

 

「先に言っておく! どうやら貴様も多少は剣に覚えがあるようだが……俺の剣術を、そこらの流派と同列に扱っているなら後悔することになるぞ!」

 

恭也は冷たい視線を政宗に向けながら、言葉に鋭い刃を込める。

 

「俺、いや――高町家が継承する“御神流(みかみりゅう)”は、表の剣術とは一線を画す、実戦のための流派だ!裏の世界を生きる者たちの中で磨かれ続けてきた技……そして俺自身、既にこの剣で幾人もの悪党を斬り捨ててきた!」

 

「……おい、なのは。お前んちって、本当にケーキ屋なのか?」

 

あまりに物騒な宣言に、政宗はぽつりと疑問を口にする。

なのはは困りきった表情で、目を泳がせながら答えた。

 

「え、えっと……説明するとちょっと長くなるんだけど……。お父さんは代々“御神流”っていう剣術の継承者で、昔は海外で、要人のボディーガードとか、そういうお仕事もしてたの。それで、今はケーキ屋さん一本でやってるんだけど……そっちの“お仕事”の方は、今はお兄ちゃんが引き継いでて……」

 

要するにこの高町家――そして恭也という男は、見た目は一般家庭に見えても、その実態は常軌を逸した剣の世界で生きてきた、まさに“裏”の住人と言える存在なのだろう。

政宗は、戦国の世を渡り歩いてきた自身の経験と照らし合わせながら、常人離れしたこの兄の経歴をようやく理解した気がしていた。

 

それにしても、と政宗は内心で溜め息をつく。

 

「(この手の男が“Sister Complex”なんて思想に目覚めたら……そりゃあ、面倒なことにもなるわけだ) Ah~…まぁいいさ。深くは聞かねぇ。要するに……アンタとは、HotでCoolなPartyを楽しめるってわけだろ?」

 

パーティーじゃない! これは真剣勝負だ!

 

政宗の軽口に、恭也は即座に反応して語気を荒げる。

しかし政宗の方は、まったく動じる気配も見せず、肩をすくめただけだった。

 

「ふっ……まるで真田を彷彿とさせる様なreactionだぜ。まっ、堅物なその性格はウチの小十郎にそっくりだけどな」

 

そのやり取りを横目に、士郎が政宗に声をかけた。

 

「それじゃあ、政宗君。場所を移そうか。うちの道場へ」

 

「OK」

 

気負う様子もなく、政宗は即答した。

一人だけ興奮冷めやらぬ恭也を尻目に、士郎に促されながら、政宗は店を出て、高町家の道場へと足を向けていった。

そんな二人の様子を、桃子は目を細めて見守っていた。

 

「うふふ……なんだか面白くなってきたわねぇ♪」

 

「お母さんったら……また楽しんでるし」

 

美由希は、状況を一番楽しんでいるであろう母の姿に、半ば呆れたように小声でツッコミを入れる。

 

「もぉ~! そもそも全部お母さんのせいだからね! ……待って、政宗さん! 私も行く!」

 

そう言ってなのはは、士郎と政宗、そして一人だけ気合いが入りすぎている恭也のあとを追って、慌てて店を飛び出していった。

 

店のドアが閉まるのを黙って見送っていた桃子だったが、その直後、ぽんっと手を打ち、ぱっと表情を明るくして娘の方を振り返った。

 

「さ、美由希。私たちもお店を閉める準備をしましょ」

 

「えっ!? でもまだ閉店時間じゃないよ?」

 

突然の提案に、美由希が驚いた顔で返す。時計の針はまだ夕方前、通常であればまだまだ営業中の時間帯だ。

しかし桃子は、まるで修学旅行前夜の子どものようなキラキラした目で娘に微笑みかける。

 

「なに言ってるのよ。あんな面白そうなことが始まるってのに、のんびり店番してる場合じゃないわ。幸い今日は予約も入ってないし、お客さんもいないから、はい! これで臨時へ~いて~ん!」

 

言いながら、迷いもなく『本日の営業は終了しました』の札を扉に掛けてしまう。

 

「い、いいのかなぁ……?」

 

美由希が心配そうに呟くも、桃子はまったく気にした様子もなく、鼻歌まじりに店内の片付けを始める。

自由奔放――その一言がこれほど似合う母親も、そうそういなかった…




今回の話も3年間の休載期間中に書かれていた話でした。着々と封印されていた話を陽の下に出すことができて嬉しいものですね。

オリジナル版では政宗となのはの関係を(本人公認の)恋人かどうか曖昧な感じになっていましたが、前回の告白があった以上、リブート版でははっきり恋人と認めさせた上で、大波乱の高町家へのご挨拶(?)へと行かせることにしました。

そのためか、桃子がオリジナル版以上にはっちゃけまくり、恭也は政宗に対し敵愾心むき出しな事になってますw
さてさてどうなることやら…

家康「っていうか、ワシらの出番ももっと増やしてほしいような…。元々、独眼竜に株取られてたけど、再開してから殆ど脇役扱いみたいな感じになってないか…?」

スバル「い、家康さん! 元気だしてください!」
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