リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition-   作:charley

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『なのは見合い編』もようやく終わって今回から久しぶりの短編に入ります。


成実「リリカルBASARA StrikerS 第七十二章 合点承知のはらこ飯!」

ヴィータ「…前から気になってたんだけど、お前のその口癖なんだよ…?」


幕間短篇その2
第七十二章 ~長曾我部元親の海賊流看護奮闘記~


スカリエッティアジト―――

ナンバーズ私室区画内・医務室

 

「うぅ……頭がガンガンする……」

 

「大丈夫? チンク姉」

 

ベッドの上で額に冷却布を載せて横になるナンバーズのNo.5 チンク。顔は青白く、うっすらと汗を浮かべている。

その傍らでパイプ椅子に座り、心配そうに覗き込むのは妹のノーヴェだった。

見れば、どうということはない光景に見えるかもしれない。だが現実には、戦闘機人であるチンクが、珍しく風邪をこじらせて寝込んでいた。

朝から38度の発熱と激しい頭痛に見舞われたが、それでも訓練だけは……と、妹たちの前に立とうとしたチンク。

しかし彼女を慕うノーヴェがそれを止め、無理を押してまで動こうとする姉を説得し、ついに今日は丸一日、休養をとることになった。

 

ノーヴェはそれ以来、姉の看病にずっと付きっきりである。

 

「ノーヴェ……私のことはもういい。お前もウェンディたちと訓練に行くといい。寝ていれば、そのうち熱も引くはずだ」

 

「だーめ。チンク姉、まだ熱は高いんだよ? こんな状態で放っておけるわけないでしょ?

それに訓練って言ったって、今日は機材の整備だけだし。私がいてもいなくても大して変わらないって」

 

ノーヴェは手際よく冷却布を外し、氷水の入った洗面器に浸して冷やすと、再びチンクの額に丁寧に戻した。

 

「……どう? 少し楽になった?」

 

「ああ……ありがとう、ノーヴェ。お前には世話になりっぱなしだな」

 

チンクはかすかに微笑み、体を少し傾けると、ふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、長曾我部の奴には伝えたか? 今日の訓練を休むということを―――」

 

その名前が出た瞬間、ノーヴェの顔が一気に険しくなる。

 

「……チンク姉! あんな奴にいちいち報告なんて必要ないって! どうせアイツのことだから、“見舞いに行くぜ!”とか言って勝手に乗り込んできて、チンク姉に余計な負担かけるだけなんだから!」

 

言った直後だった―――。

 

バァンッ!

 

医務室のドアが、勢いよく開いた。

 

「よぉ、チン公!! ウェンディから聞いたぜ! 風邪引いたってな!!」

 

「げっ!? も、元親!?」

 

ノーヴェが絶句するより早く、派手な音を立てて長曾我部元親が部屋にズカズカと入ってくる。

相変わらず遠慮という言葉とは無縁の男だ。

 

「おっ、ノーヴェも来てんのか。サボリかと思ってたら、姉ちゃんの見舞いだったかよ! いい心がけじゃねぇか!」

 

「う、うるせぇ! テメェこそ、何しに来やがったんだよ! チンク姉が静かに休めないだろ! とっとと出てけ!!」

 

ノーヴェが怒鳴りながら追い返そうとしたそのとき、チンクが体を起こし、制止の手を上げた。

 

「よせ、ノーヴェ。ちょうど私も、長曾我部と少し話がしたかったんだ」

 

「チ、チンク姉~~!?」

 

ノーヴェは露骨に不満げな顔を浮かべたが、姉の意志は固いと見て渋々、もう一脚パイプ椅子を引き寄せ、元親のために用意した。

元親はふんぞり返るようにそれに腰掛け、気軽な口調でチンクに語りかける。

 

「で? 調子はどうだ、チン公」

 

「……正直、あまりよくはない。熱も頭痛も引かないし、悪寒もするな…」

 

「そうか…。なら、ちょっと失礼」

 

――その瞬間。

 

「「――は?」」

 

元親が、唐突にチンクの額に手を当てた。

 

「お、おい!? 長曾我部――!?」

 

「な、なななななな、何チンク姉に気安く触ってんだこのスカポンタンがぁぁぁぁ!!」

 

顔を真っ赤にしたノーヴェがすぐさま飛びかかるが、元親はそれを片手で軽く受け止めたまま、チンクの額の熱を慎重に確認する。

 

「ん~~、こりゃかなりの高熱だな。ちょっとやそっとじゃ引きそうにねぇ……」

 

そしてノーヴェをぽいっと押し戻すと、急にテンションを上げた。

 

「任せな! この俺が、海賊流のやり方で看病してやるぜ!!」

 

「えっ!?」

 

「はぁ!? 何勝手なこと言ってんだよ!? 看病は私がやってるし、テメェに任せたら余計悪化する未来しか見えねぇぞ!!」

 

ノーヴェが大声で抗議するが、元親はまるで聞いていない。

 

「まずは氷嚢だな! そんな布切れじゃ効かねぇよ。冷えが足りねぇ、冷えが!よっしゃ、俺様特製の“氷嚢”を用意してやるぜ!!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ! “特製”って何!? 氷嚢に特製もなにもねぇだろうが!?」

 

ノーヴェが食い下がる間もなく、元親は勢いよく医務室を飛び出していった。

 

その背中を唖然と見送るチンクとノーヴェ。だが、すぐにノーヴェが我に返る。

 

「チンク姉! あんな奴に任せて大丈夫なの!? アイツが看病とか言い出したら、マジで逆に命が縮むって!!」

 

「ま、まぁ落ち着けノーヴェ……。長曾我部も人の子だ。多少なりとも常識はある……はずだ。ここはひとまず、任せてみよう」

 

「ぜっったい後悔するよ!?」

 

ノーヴェの絶叫もむなしく、姉の“寛大な判断”は、元親の海賊魂に火をつける結果となった―――。

 

そして数分後―――

元親の“海賊流のやり方”とやらが自分達の予想の何杯もぶっ飛んでいるものであった事を、彼女たちはまだ知らなかった。

 

 

 

数分後――

 

「……おい、長曾我部……?」

 

「な、なんだよそれ……?」

 

冷や汗を伝わせるチンクと、怒りでこめかみに青筋を浮かべたノーヴェが、医務室の中心で得意満面に立つ長曾我部元親を凝視していた。

――チンクの額には、紐で縛られて乗せられた一本の冷凍マグロが鎮座していた。

それも、切り身でも何でもなく、丸ごと一匹。カチンコチンに凍りついたそれは、どう見ても病人に施す処置とは思えない異様な光景を作り出していた。

 

「海賊が風邪ひいた時には、みんなコイツで熱を下げるんでい! 覿面に効くぜぇ!」

 

自信満々の口調で元親が胸を張る。その背後には、天井から吊るされた漁網があり、中には冷凍マグロが何本も詰め込まれていた。見た目は完全に鮮魚市場の光景だ。

 

「名付けて――長曾我部軍・秘伝の瞬寒・冷凍枕(しゅんかん・れいとうまくら)! 熱冷ましにはもちろん、夏の寝苦しい夜にもオススメだぜ!」

 

満面の笑みで親指を立てる元親。

 

「って、これマクラじゃなくて“マグロ”じゃねーかっ! シャレのつもりか!? バカヤロォォーーーッ!」

 

ノーヴェの鋭いツッコミが、医務室に木霊した。

 

「どうだい、チン公? この特製マグロ枕、つけた途端に熱がスーッと引いてくるだろう?」

 

「……あっ、あぁ…。 熱が引くどころか……巨大な氷塊を頭に乗せてるような感覚で……冷えすぎて脳が凍りそうだ……それに……魚が、生臭い……」

 

絞り出すようにそう答えるチンク。

彼女の頭上では、凍てついたマグロが無言の圧を放ち続けていた。

その重量に耐えかねてか、チンクの首はふらふらと揺れており、今にもマグロごと崩れ落ちそうな気配すらある。

 

(チ、チンク姉ぇぇぇぇ!? なんちゅー姿にされてんだよぉぉぉっ!? くっそぉ……元親、てめぇ……絶対あとでぶっ飛ばす!!)

 

姉の無惨な姿に、ノーヴェは目の前の“犯人”に対してメーター振り切れの怒気を燃え上がらせる。しかし――

 

そんな殺気すらどこ吹く風とばかりに、元親はベッドの背もたれに肘をかけ、のんきにチンクの顔を覗き込む。

 

「ところでアンタ、ちゃんとメシは食ってるのかい?」

 

「いや……最近はちょっと、食欲がなくてな……」

 

遠慮がちにそう答えるチンクに、元親は「いかんいかん」と大げさに首を横に振った。

 

「駄目だぜチン公~。こういう時は消化のいいもんを食って、精を付けるのが一番だ」

 

そう言うや否や、「よっしゃあ!」と勢いよく立ち上がる元親。ない袖を捲る仕草をしつつ、まるで戦にでも挑むかのように声を張り上げた。

 

「うぅぅっし! “西海の鬼”長曾我部元親特製!『海賊お宝粥(かいぞくおたからがゆ)』! 振る舞ってやろうじゃねぇか!!」

 

「か、海賊…!?」

 

「お宝…粥……!?」

 

その名からして、もはや料理というより何かの儀式めいた響きすらある。

チンクとノーヴェの心に、どす黒い不安が渦巻いた。

 

一握――いや、百握以上の不安が…

 

「の、ノーヴェ……すまないが、様子を見てきてくれないか…?」

 

「えっ? あっ……う、うん……」

 

そうして交わされた短い会話。しかし、2人の瞳に宿る光は、もはや灯火のようにか細かった――。

 

 

「元親のヤツ……チンク姉に、一体どんなモン食わせる気なんだよ……」

 

不安9:好奇1という割合で、ノーヴェは厨房のある区画へと足を進めていた。

あの無骨で粗野な海賊・元親が作る料理。

それは果たして“料理”と呼べる代物なのか?否、それ以前に――本当に料理ができるのか?

 

足を踏み出すたび、胸中の不安は確実に膨張していく。嫌な予感は、時に現実よりも雄弁である。

 

そして、不安が確信に変わったのは、その通路を曲がった瞬間だった。

 

「ッ!? ディエチ!? ウェンディ!?」

 

ノーヴェの視界に飛び込んできたのは、通路の真ん中で倒れ伏している二人の姉妹――ナンバーズのNo.10・ディエチと、No.11・ウェンディだった。

 

「お、おい!? どうしたんだよ、お前ら!? しっかりしろってば!」

 

焦燥と困惑の中、ノーヴェは必死に二人の体を揺すりながら声をかける。

すると、ディエチがうっすらと目を開け、力なく上体を起こした。

 

「ノ…ノーヴェ……」

 

「ディエチ! 一体何があったんだよ!?」

 

「そ、それが……元親さんが突然『チンク姉のためにお粥を作る』って言い出して厨房に入っていったの……でも……しばらくして、あの異臭が……!」

 

「異臭……!?」

 

困惑するノーヴェの鼻を、次の瞬間、猛烈な生臭さが直撃した。

 

「げっ……くっせぇぇぇええ!! な、なんだよコレ!? 魚市場の裏路地か!? いや、もはや事故現場だろコレ!!

 

それはもはや“海の香り”などという悠長なものではない。

腐りかけた海藻、打ち上げられた魚の死骸、発酵した潮風のハーモニー。自然と呼ぶにはあまりに凶悪で、人災と呼ぶには元親があまりに元気すぎた。

 

さらに視界を凝らすと、通路全体にうっすらと漂う薄紫色の煙。

この煙こそが、通路中を襲ったあの異臭の震源地。そして、その発生源は――奥の厨房。

 

ノーヴェは鼻と口を手で覆いながら、意を決して厨房の前に立った。そして、そっと覗き込む。

その光景は、想像を軽く三段階ほど上回っていた。

 

「てぇやあああああああぁぁ!!」

 

気合の掛け声と共に、包丁を振るう“西海の鬼”長曾我部元親。

マグロを皮、骨諸共、輪切りに裁断し、まるで木材を薪にくべるような勢いで巨大な釜に次々と投下していく。

 

周囲には、タコ、カニ、小魚、ハマグリ、ホタテなど、海産物の宝庫と化した食材箱。

さらにその隣には大根、にんじん、ネギ、しいたけ、白菜と、やけに栄養バランスに優れた野菜群も待機中。

 

一見すれば、豪華なお粥の材料としては申し分ない。

 

――だが。

 

問題は、そのすべてを受け止める「釜の中身」である。

 

「な、なんだあれ……?」

 

そこに広がっていたのは、明らかに“粥”と呼んではいけない何か。

 

紫色にギラつきながら発光する液体。

まるで魔法薬と放射性廃棄物を混ぜて煮込んだかのような異常な色合い。

しかも、表面からは常時ぷすぷすとガスが噴き出し、あの強烈な異臭が周囲へと拡散していた。

 

「やっべぇ……絶対これ、保健所に怒られるやつだ……てか、下手したら火葬場の許可が必要なレベル……」

 

ノーヴェの中の何かが、音を立てて崩れていった。

 

その厨房には、料理をする男の姿はあった――だが、料理はなかった。

あったのは、災害であり、事件であり、そして一種の芸術だった。

 

「“海賊お宝粥”……あれが……!?」

 

ノーヴェは、口元を覆う手にさらに力を込めながら呻いた。

紫色に妖しく光るその液体――もはや“粥”と呼ぶことすら冒涜的な何か――を前に、思考が凍る。

 

「ん? おぉっ! ノーヴェ! どうしたんだ?」

 

陽気な声とともに、元親が玉杓子を手にこちらへ笑顔を向けた。

 

「『どうしたんだ』じゃねぇよ!! なんだよ! これ!?」

 

鼻をつまみながら勢いよく厨房に乗り込んできたノーヴェは、半ば叫ぶようにして紫色の釜の中身を指差した。

 

だが、元親は一切動じず、豪快に笑いながら杓子で鍋を混ぜ回す。そのたびに「グボッ」「ボボボ…」と、もはや粥ではありえない音が立ち上る。

 

「おうよ! コイツこそ、土佐の(おとこ)の病中飯! “海賊お宝粥”!! コイツを一杯ぶちこめば、風邪なんざ一発で吹っ飛ぶって寸法よォ!」

 

「うるせぇわ!! 風邪どころか命まで吹っ飛びそうだっつぅの!? てか、なに!? なんで粥が発光してんだよ!? これは食い物じゃなくて、もはや生き物の領域だぞ!!」

 

ノーヴェが全身を震わせながらツッコむ。彼女の目には、もはや粥という概念が崩壊していた。

 

「おっとぉ? 細けぇ工程は“企業秘密”ってヤツだぜぇ、ノーヴェ。なんたってこの“海賊お宝粥”はな、土佐の荒波と命のやり取りをしてきた海の漢だけに伝承される――いわば魂の飯!

聞いた話じゃ、その昔、死にかけの爺さんにこの粥を一口食わせたら、三秒後に立ち上がって、そのまま四国一周を三日三晩休みなく走りきっちまった…なんて話もあんだぜ!」

 

「いやそれ、確実に何かヤベェ成分が混ざってんだろ!? 合法か!? いや、合法なわけねぇよな!? てか、誰がどう見てもそれ、普通に毒物だよな!!?」

 

ノーヴェのツッコミはもはや悲鳴に近かった。

頭の中では「食品衛生法違反」「劇物指定」の文字がネオンのように点滅している。

すると、元親はふんっと鼻を鳴らし、どこか誇らしげに言い放った。

 

「毒物たぁ、心外だな! ここに入ってんのは、全部俺が直々に選りすぐった天然素材ばっかりだぜ! マグロにタコにカニ! 数種類の小魚と貝類! それに大根、ニンジン、ネギ、しいたけ、白菜、そして……コイツだッ!

 

そう叫びながら、元親は野菜の入った木箱をガサガサと漁り、その中から自信満々に“何か”を取り出した。

 

それは……青梗菜のようなカブのような、しかし明らかに様子のおかしい代物だった。

表面にはなぜか彫刻のように浮かぶ、髭面の濃い顔の西洋人のおっさんの模様。

彫りが深くくどい顔面と胡散臭さを漂わせるその表情が、やけに立体的に刻まれている。

 

…って待て待て待て待て!! なんだよその変な野菜は!? っていうかホントに野菜かそれ!? 明らかに“誰か”の顔だよな!? なんで野菜に顔があるんだよ!?

 

ノーヴェの本能が、全力で“口に入れてはいけない何か”の警報を鳴らしていた。

 

だが、元親はそんな警戒など一切気にせず、得意げに奇怪野菜を掲げて説明を始める。

 

「あぁ、確か“ザビッシュ”…だったっけな? この間、近くの街に今開発中の新兵器『暁丸』の材料を買い出しに行った時だ。妙ちきりんなローブ着た集団――確か『聖王ザビー教会』とか名乗ってたな…とにかく、そいつらが『女神カリーム推薦!』っつって道端で売ってたんだよ。なんでも、“心まで温まる救世の新野菜”とか謳ってやがったぜ!」

 

「うっわあ……もう、そのフレーズの時点でヤベぇ宗教臭がダダ漏れだっつぅの……」

 

「奇遇にも、俺のいた世界にも“ザビー教”っつう宗教紛いのやつらがいてな。なんかその名前とノリに懐かしさ覚えちまってよ。おまけにあんまりにも売り子の眼力が凄くて断れなかったんで、つい箱買いしちまったってワケさ。……それがこの“ザビッシュ”! 見るからにパワー漲ってそうだろ?」

 

漲ってるのはパワーじゃなくて“煩悩”だからな!? てか、なに!? その顔面がそのまま残るくらいの野菜ってどういう成分してんの!? どう見ても祟るだろそれ!

 

ノーヴェは後ずさりながら叫ぶ。

彼女の中で「この粥は食べ物ではなく儀式用の何か」という認識が完成しつつあった。

 

「おっと! 見た目で判断しちまうたぁ、お前もまだまだだな、ノーヴェ。こういう“いかにも怪しいブツ”こそ、実はとんでもねぇ代物……だったりするって相場が決まってんだよ。俺たちゃ今まで、そうやって価値あるお宝を見つけ出してきたってもんだからよぉ!」

 

元親がニヤリと笑いながら、顔面付き野菜――ザビッシュを誇らしげに掲げる。

 

テメェの宝探しの法則を、食いもんに持ち込むなぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

ノーヴェの魂を込めたツッコミが炸裂する。

額に青筋を浮かべ、文字通り地団駄を踏みながら叫ぶその姿は、もはや芸人の域。

 

だが、当の元親はどこ吹く風。むしろ「これぞ愉快痛快冒険野郎の生き様!」とでも言わんばかりに、自信満々な顔でザビッシュを手に取る。

 

「なんだよ、別に変なもんじゃねぇぞ? ほれ――」

 

言い終わるより早く、バリッ! バリバリッ!!

 

……齧った。

 

それも、生で。

 

なんの躊躇もなく、ザビッシュの“おっさんの顔面”に食いついたのだ。

白目をむきそうになるノーヴェの目の前で、元親は豪快に咀嚼を続けていた。

 

うげっ!? ま、マジで食いやがった!? ていうかなんで笑顔なんだよお前ェ!!

 

叫びが裏返る。

あまりの動揺に声がト音記号の領域に突入しかけた。

だが、元親は気にするどころか、「朝のサラダ感覚」みたいな顔で咀嚼を続けている。

なんなら眉間にシワを寄せて味を吟味してすらいる。

 

「うん……ちょっと変わった味だが……まぁ悪かねぇな。滋養ありそうだぞこれ。お前も食うか?」

 

まるで道端で買った焼き芋を気軽に差し出すノリで、元親はザビッシュの断面――鼻筋から頬骨にかけての“渋い笑みゾーン”――をノーヴェに向けて突き出してきた。

 

食うかああああああああああッ!!!!!

 

ノーヴェの魂が悲鳴を上げた。

拒絶という言葉が擬人化して現れそうな勢いで、両手をクロスして全力後退。

 

「冗談じゃねぇよ! こんな得体の知れないもんが入った粥なんかチンク姉に食わせられるかぁ!!」

 

「だぁから大丈夫だって言ってんだろ、ノーヴェ。まだまだ、滋養に良いもんがこの粥にはたっぷり入ってんだからよ! え〜と……確か、ウナギ、納豆、ニンニク、くさや、ブルーチーズ、スッポン、タガメ、ヒキガエル、イモリ、マムシ、海蛇、ウミガメの卵、ウツボ、ウコン、朝鮮人参、ノニ(世界一苦い果実)、鮫の生首、牛の肛門(ケツメド)、豚の子宮、サイのキ◯タマ――――」

 

ってちょっと待てやおいいぃぃぃぃぃぃっ!!!

 

ノーヴェのツッコミが爆音で炸裂。

台詞の勢いで周囲の空気すらねじ曲がるレベルだ。

 

「それもう“滋養”じゃねぇぇ!! ただの《罰ゲーム風味の魔界食材リスト》だろうが!! ていうか今、聞き捨てならない部位がいくつか混じってたぞ!?!?」

 

ノーヴェの叫びは、もはや怒りというより悲鳴に近い。それもそのはず、彼女の脳内では今、牛のケツメドや鹿の睾丸が粥の中で踊り狂う地獄絵図がフルカラーで再生されていた。

 

「え、でもどれもちゃんと栄養あるんだぜ? 俺が独自ルートで仕入れた超・強壮食材コースなんだよこれが!」

 

どこまでもあっけらかんと、そして誇らしげに胸を張る元親。

おそらく本人に悪気はまったくない。むしろ“良かれと思って”の笑顔である。

だからこそ、ノーヴェの怒りは限界突破寸前だった。

 

「独自ルートって何だよ!? まだ、ウナギやブルーチーズはわかるとして…牛の肛門(ケツメド)とかサイのキ◯タマなんてどんなルートから仕入れたんだよ!?」

 

「おぅ! コイツもまた、こないだ街に行った時のことなんだが…なんでもミッドチルダのあちこちを不定期に流離ってるっつぅ珍しい寿司屋を見つけてな! そこで食った寿司ってのがまたどれも珍味でよぉ! 食材を分けてくれって相談したら、いくつか分けてくれたんだよ!」

 

「それがケツメドやキ◯タマかい!? お前の味覚のチョイスは一体どうなってんだよ!? というか、その寿司屋、営業停止にした方がいいぞマジで!!」

 

あまりの濃密なトークに、周囲の空気が粘性を帯び始める勢いだった。

だが、そんな中。

 

おいっ!! 一体これは何の騒ぎだ!?

 

バァン! と厨房のドアが開かれ、怒鳴り声と共に飛び込んできたのは――

 

青いボディースーツに身を包んだ長身の女性。紫の髪に鋭い眼光、筋肉質な肢体はまさに鉄壁の軍人そのもの。

ナンバーズのNo.3、トーレ。

ノーヴェやチンクの姉であり、冷徹な前線指揮官として恐れられる存在である。

 

「おぅ、アンタは…確かトーレだったか? 珍しいじゃねぇか、アンタがここに面ぁ出すなんて…」

 

「そんなことはどうでもいい! 一体なんだ!? この得体のしれない臭いは!? なんでディエチとウェンディが廊下で倒れてるんだ!?」

 

鼻を押さえながら詰め寄るトーレ。

その眉間には、まるで重火器でも撃ち込まれたかのような皺が刻まれていた。

すると、ノーヴェが助けを求めるようにトーレに詰め寄った。

 

「トーレ姉! 聞いてくれよ! 元親の野郎がとんでもないもんをチンク姉に食わせようとしてんだよ!!」

 

「だぁから、いい加減に俺の『海賊お宝粥』を信用しろっての!」

 

元親はむしろドヤ顔で、粥の入った鍋をかき混ぜながら言った。

その表情は、まるで賞を取ったシェフか何かのようである。

 

「実はかくかくしかじかでよぉ…」

 

そう言って、これまでの経緯と今作っている「海賊お宝粥」の材料について事細かく説明を始めた。

その内容は、人体への善悪の境界線が吹っ飛ぶようなものばかりで――

 

「………それは……食せるのか…?」

 

しばし沈黙した後、トーレが青ざめた顔で尋ねた。

 

「勿論だ! 風邪なんか一発で吹き飛ぶし、滋養強壮にも打ってつけだ!」

 

元親は満面の笑みを浮かべながら、鍋から紫色に発光する謎の液体をすくい上げ、椀に盛って差し出した。

謎の湯気とともに、軽く目眩を誘う刺激臭が漂う。

 

「そうだ! トーレ! せっかくだから、アンタちょいと味見してくか? ほら、ノーヴェも!」

 

 

「「はぁっっっ!!?」」

 

 

あまりに予想外な提案に、ノーヴェだけでなく、普段感情を表に出さないトーレまでがユニゾンで仰天した。

しかも、声が完全にハモっていた。

トーレはわなわなと肩を震わせ、ノーヴェはブンブンと首を高速で横に振り、これでもかという拒否反応を見せた。

 

「い、いるか! バカモノ!!」

 

「冗談じゃねぇよ! 誰が食うかそんなもん!」

 

しかし――聞く耳持たずの海賊は強い。

元親は「気合が足りねぇんだよ」とばかりに、既に湯気を立てる“海賊お宝粥”がよそられた椀をふたつ、盆に載せてずいっと差し出してきた。

 

「おいおい。遠慮すんなって、ひと思いにグッといくんだよ!!」

 

その満面の笑みはもはや、善意という名の暴力。

少しずつ…だが確実に…二人の口元へと椀が迫ってくる。

 

「い、いらねぇっつってんだろ!」

 

「や、やめろ長曾我部!」

 

椀から立ち上るのは、発光する紫という、明らかに自然界に存在しない色の湯気。

近づくほどに嗅覚が警鐘を鳴らし、理性が逃亡を図ろうとする。

 

「いいからいいから、はい一気にグイッ!」

 

「「や…やめ―――ぐおっ!!?」」

 

もはや言葉も無意味。

元親は筋力全振りの“豪腕強制給食”で二人の口元に椀を押しつけ、その中の粥――否、もはや未知の液体――を勢いよく流し込んだ。

 

そして……

 

 

 

 

 

「「……ゴクッ…………」」

 

 

 

 

 

 

 

重力と反射神経に裏切られ、二人の喉はそのまま粥を受け入れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ぶあああああああああああああああああああああ!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、厨房が爆発音にも似た断末魔の大絶叫に包まれた。

同時に、天井まで吹き上がるかのような紫色の閃光と煙――!

衝撃波でアジトの無機質な壁の一部がビリビリと振動し、天井からパラパラと砂埃が落ちるのだった……。

 

 

 

 

 

 

「……で? この有り様というわけか…?」

 

 

 

淡々とした口調ながら、その声には呆れを通り越して、もはや悟りの境地が滲んでいた。

チンクは頭に瞬寒・冷凍枕(しゅんかん・れいとうまくら)を乗せたまま、静かに自らの寝床――医務室のベッドの右隣に視線を向ける。

 

そこには、トーレ、ディエチ、ウェンディ、ノーヴェの4人が、見事な等間隔で横一列に並んで追加されたベッドに横になっていた。

全員、額に同じく瞬寒・冷凍枕(しゅんかん・れいとうまくら)を装着済み。まるで冷却保存中の標本のように、ピクリとも動かない。

 

「だから言ったんだよ…アタシは嫌な予感しかしなかったんだ…」

 

天井を見上げ、頬がこけて白目をむいたノーヴェが、幽霊のような声でボヤいた。

 

「私たちなんか、匂い嗅いだだけでこんなことになったんだけど…!?」

 

ディエチが涙目でボヤく。彼女の顔色は悪かった。

 

「ディエチなんて、まだマシっスよ。自分なんて……これがこの話で唯一のセリフっスから……」

 

ウェンディが虚空を見つめながら涙目でつぶやいた。魂の抜けたその目には、あまりにもおざなりな扱いに対するの悲哀がにじんでいる。

一方で、彼女たちの悲劇の元凶――長曾我部元親は、チンクのベッド脇のパイプ椅子に腰かけ、気まずそうに後頭部をボリボリかいた。

 

「う~~~ん……やっぱり、あれだな。ちょっとばかし塩を多めに入れすぎちまったかもしれねェ。はは、悪ィ悪ィ~」

 

塩の問題じゃないだろうが! 馬鹿者ッ!!!

 

怒り爆発なのは、言うまでもなくこの話が記念すべき初登場だったはずのトーレ。

にも関わらず、登場数行で謎の料理テロに巻き込まれ、胃も精神も大ダメージ。早速医務室送りという、まさにどこぞの悲惨(笑)コンビや手枷を付けられた迷軍師並みの不幸体質である。

 

あんな劇物にも勝るようなものを作るなど…! 貴様にはもう金輪際あの厨房は使わせんぞ!!

 

「だから悪ぃって。今度はちゃんとお前らの口にも合う様に改良した『海賊お宝粥』食わせてやっから…」

 

だからその『海賊お宝粥』自体いらんと言ってるんだぁ!!

 

トーレがキレていると、医務室のドアが開いた。

 

「おい、長曾我部~。頼まれてたもん、用意できたぜ!」

 

そう言ってカーゴを押しながら部屋に入ってきたのは、西軍最高幹部 豊臣五刑衆第五席 上杉景勝であった。

彼(女)の運ぶカーゴにはホカホカと湯気の立つ粥が満たされた土鍋と、5人に増えた患者の分の椀、それから胡麻塩の入った小壺と梅干しと大根、白菜の漬物が盛られた皿が置かれていた。

粥は勿論、紫色でもなければ、異臭を放つこともない。

 

「おぅ! すまねぇな景勝! 悪ぃな。無理言っちまってよぉ。…にしても流石は米処 越後生まれだな。米の扱いはお手の物ってか」

 

「へッ! んなことで褒められたって嬉しかねぇよ! ったくこんな花嫁のマネごとなんてオレの嫌いなことだってのに…! あぁぁ! 蕁麻疹が出てきそうだ!!」

 

そう文句を言いながらも、景勝は慣れた手つきで土鍋から白粥を椀によそおっていく。

 

「そう言うなって。なんだかんだで、お前飯作りはうめぇんだからよぉ!」

 

そう言いながら他人事のように豪快に笑う元親の言葉を聞いて、チンクをはじめ部屋にいた全員が心の中で思った。

 

 

 

(最初から景勝(コイツ)に任せとけばよかった……)

 

 

っと…

 

 

 

 

 

同時刻――――

 

 

 

「…チェッ! 昨日はついてなかったなぁ…。 すっかり懐が素寒貧(すっかんぴん)だよ。ったく…」

 

西軍一番槍・島左近は、一人うんざりした様子でアジトの通路を歩いていた。

前夜、アジトを抜け出し、こっそり近くの街の賭場へ出かけていたものの、この日の左近はツキがなく、すっかり負けがこんでしまい、むざむざと帰ってくると、少し遅い朝食をとる為に食堂へと向かう。

しかし、時間が時間故か食堂内には誰一人おらず、当然ながら食事の用意などまったくされていなかった。

 

「おいおい…。懐だけじゃなく腹までスッカラカンでいろってのかよぉ…」

 

ブツブツ文句を言いつつ食堂を探し回る左近。

すると、厨房の片隅まで足を運んだ時だった。

 

「おっ!? なんだぁ? これ?」

 

隅っこに置かれた釜の中に入った紫色の液状のものが目に付く左近。

 

「なんだぁ? やけに変わった匂いだけど…この世界の食い物か?」

 

左近は一瞬戸惑ったが、しかし辺りに何もないとわかると仕方なくこれを食べる事にした。

 

「しかたねぇ。こいつでもかっこんで腹だけでも満たすか」

 

そう言って鉢と箸を用意した左近は、鉢に紫色の液状物を注ぎ込んだ。

 

「まっ! 厨房に置かれてる事だし、そんな不味いわけが―――」

 

そう自分に言い聞かせるようにつぶやきながら鉢の中身を一気に掻きこむ左近。

そして…その結果は予想通り…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ふぐわああああああああああああああああああああ!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厨房から左近の断末魔と共に紫の発光と煙が上がったのであった…

 

 

 

 

 

数分後、医務室で安静するチンク達の隣にまた一人……左近が追加されたことは言うまでもなかった―――

 

 

 




久しぶりの『幕間短篇』。初回はオリジナル版にもあった元親の看病と長曾我部軍の生体兵器(?)『海賊お宝粥』のギャグ話のリブート版でした。

オリジナル版ではノーヴェと、看病される筈のチンクが酷い目に遭う話でしたが、リブート版では何気に今作初登場のトーレにその栄えある(!?)海賊お宝粥の犠牲者役を担って貰うことにしましたw

何故、敢えてここでトーレを登場させた理由としては、単純にオリジナル版ではトーレ殆ど活躍させてねぇなと思ったことがきっかけでしたが…
ちなみにリブート版ではトーレは今後、ある陣営のキャラと深く関わらせていこうと考えていますので、お楽しみに。

佐助「…その前に作者がまたバテてしまわないか、心配なんだけど…」

ティアナ「シィッ!」
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