リリカルBASARA StrikerS -The Cross Party Reboot Edition- 作:charley
一方、家康は機動六課入隊後初となる任務に挑む事になるが…
フェイト「リリカルBASARA StrikerS 第五章出陣します」
家康が機動六課に入って既に一週間が経過していた…
機動六課訓練所は、今日は森林地帯をイメージした立体情景を造り出していた為、一面緑豊かな森林地帯に囲まれている。
その中の一角にある空地ではいつもの黄色の戦装束ではなく六課から支給された訓練用のTシャツを着こんだ家康と、同じく訓練用の服装のスバルが組み手を行っていた。
ちなみに今のスバルはリボルバーナックルもマッハキャリバーも装備しておらず、家康も支給されたアーミーグローブ以外に防具を付けていない。
「はあ!とりゃああぁ!」
スバルが繰り出して来る拳を、素早く身体を捻らせて回避する家康。
そして一瞬の隙をついてスバルの腕を掴み…
「はああぁぁ!!」
「えっ!?…うわああああ!」
そのまま背負い投げへと持っていき、彼女の身体を地面に叩き伏せた。
「痛たたた…」
「勝負ありだな」
「あううぅ…また負けちゃったよ…」
尻餅をつきながらスバルはガックリと頭を垂れる。
そんなスバルに手を差しのべながら家康が励ます。
「でもだいぶワシの攻撃の動きも読めるようになってきたな。それに初めて見た時以上に、スバルの拳にもより一層キレがかかってる」
「えへへ。そう言ってくれるとなんだか照れくさいです」
スバルは家康の手を取って立ち上がる。
「じゃあ。もう一度組み手の練習だ。やれるか?」
「はい!お願いします!家康さん!」
そう言うと、再び2人は組み手を始める。
その様子を少し離れた場所から見守るティアナ、エリオ、キャロの3人。
「…家康さんが来てから、スバルって近接格闘の訓練に力入れるようになったわね」
「そうですねぇ。思えばあの訓練があってから、六課も大きく変わりましたからねぇ」
ティアナがスバルを見つめながら呆れたように口を開くと、エリオもそれに続いてしみじみと語りだす。
あの、今では『天下の300機潰し伝説』と称される家康の個人訓練はいろんな意味で、機動六課に大きな転機を与えた。
まず、家康の実力を知ったはやては、さっそく家康の力が六課の中で存分に役立てられるように『非魔法戦対策戦術教官』という役職を無理矢理作り、そこに家康を就かせる事によって隊長クラスの権力を与えて、家康を半ば強引にフォワードチームの指導役の一人に加えたのだった。
最初は「人に戦術を教える事は得意でなく、ましてや自分は魔法を使えないのに教える事なんてない」と断ろうとした家康であったが、そんな彼を押しとどめたのはスバルであった。
スバルは家康に対して直々に頭を下げて家康の格闘術を教えてほしいと頼み込んだのだった。
こうされてまで無下に断る程、家康は冷酷な男ではなかった。
家康は必死に頼み込むスバルに負けて首を縦に振り、民間人協力者という立場にも関わらず、機動六課の『非魔法戦対策戦術教官』として幹部メンバーの中に名を連ねる事となった。
こうしてフォワードチームは今までのなのはやフェイト、ヴィータなどからの通常の訓練に加え、家康から魔法未使用の格闘戦術を教わる事になったが、とりわけ熱心なのがスバルであった。
スバルは今まで自分が習ってきたシューティングアーツとは全く違う、魔法を使わず己の拳のみで戦うその豪快な格闘術に惚れ込み、それを一から学ぶ為に以前にも増して身体作りや格闘の特訓などを行うようになっていたのだった。
そして今も、スバルはかれこれ2時間近くぶっ通して家康と個人訓練に取り組んでいた。
ちなみにティアナ達は攻撃魔法はもちろん、デバイスの使用や回復、身体強化の魔法の使用も禁止されているこの訓練になかなか慣れる事が出来ず、ものの30分で根を上げてしまっていた。
「でもスバルさん。家康さんが来てから、元々明るかった性格がさらに明るくなった感じがしますよね…」
キャロが、家康と組み手をするスバルを見てふとこんな言葉を漏らす。
彼女の言葉にティアナ、エリオもスバルの表情をよく注視してみる。
家康の拳を必死で避けるスバルの表情は、真剣な中にもどこか楽しそうな雰囲気が浮かんでいた。
それを見たティアナの脳裏にひとつの結論が出来上がる。
「まったく…本当にスバルって安直というかわかりやすいというか…」
「「えっ…どういう事ですか?」」
ため息を吐きながら首を横に振るティアナにエリオとキャロが首をかしげる。
そんな二人にティアナは率直に説明した。
「要するに……スバルは家康さんに惚れたって事よ」
「「えぇ!?」」
驚いたエリオとキャロが一度顔を見合わせてから、再び家康、スバルの方へ顔を向ける。
熱心に組み手を続ける二人はそんな視線など気付きもしなかった。
*
30分後…
「よし!じゃあ今日はひとまず今日はこのくらいにしよう」
「「「「はい!ありがとうございました!」」」」
あれからずっとスバルは家康と一対一で組み手を続け、結局この訓練はほぼスバルのみの訓練に近い状態となってしまった。
「確か今日の午後は自主訓練だったな。自主訓練だからって気を抜き過ぎてはダメだぞ」
「「「「はい!お疲れ様でした!」」」」
家康はそう言って立ち去ろうとすると、スバルに声をかけられる。
「家康さん!よかったら、午後も格闘術教えてもらっていいですか?」
「お!?やる気満々だなスバルは。もちろんいいとも」
「ほんとですか!? よかったぁ!」
スバルの申し出を快く受け入れる家康に、満面の笑みを浮かべるスバル。
「じゃあ午後にまた訓練所で待ってますので、よろしくお願いしますね」
「あぁ、わかった。ではまた後でなスバル!」
「はい! よっし! じゃあ私も基礎の練習しないと!」
そう言うとスバルは、さっそく格闘の自主トレーニングを始めるが、その様子を見ていたティアナが聞いてきた。
「ちょっとスバル。アンタ格闘の基礎ならシューティングアーツで学んでるから別にいいでしょ?」
ティアナはそう言うがスバルは首を横に振って答える。
「ダメだよティア。家康さんの格闘術はシューティングアーツとは基礎から違うんだから一つ一つちゃんと覚え直ししていかないといけないんだから」
「あっ!そうなの?ふ~ん大変ねぇ…えっ!?覚え直し!?」
スバルの言葉に一度納得しかけたティアナだったが、この言葉の内容に明らかにおかしい点があるのに気付き唖然とする。
「あ…アンタ? 今なんて言ったの?…覚えなおしってどういう事よ?」
ティアナがそういうとスバルは当たり前のように話す。
「うん! 私シューティングアーツやめて、家康さんの格闘術を身に付ける事に決めたんだ♪」
この言葉を聞いて一瞬凍りつくティアナ…
だがすぐに…
「うっそおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!?」
訓練所中に響き渡る程に大音量の絶叫を上げるのであった。
「!? 今何か誰かの叫び声みたいなん聞こえてこんかった?」
「いや?別に聞こえなかったけど?」
機動六課部隊長オフィス。
そこに置かれた来客用の応接セットのソファーに腰掛けてお茶を飲みながらなのは、フェイト、はやての3人は家康の事で話し合っていた。
「そんでどんな感じなんや?家康君の様子は?」
「うん。訓練の教え方もだいぶ判ってきたかな?フォワードの方はスバル以外がまだちょっと、魔法を使わない訓練慣れしてないみたいだけど…ティアナやエリオ、キャロも何かスバルみたいに一定の技術を集中して覚えるとかすれば、すぐに適応できてくると思うんだ」
フェイトが家康の教官としての評価を与えるとはやては満足そうにほほ笑んだ。
「うんうん。やっぱ家康君を六課に入れたのは正解やったみたいやな。人間的にも戦力的にも申し分がない。まさに最高の人材やなぁ」
頷きながらご満悦な笑みを零すはやてに、なのはが問いかける。
「そう言えばはやてちゃん。家康君の出身世界の事はわかったの?」
はやては首を横に振った。
「いやあ、それがどうも…未だに特定できないんよ。場所は地球であるのは間違いない筈なんやけど、なにせ時代が私達と違うし、なにしろ歴史が私らの知ってるものとは違うやろ?…っとなると家康君は私らと同じ地球の出身っというわけではない筈やからなぁ」
「つまり…家康君は“パラレルワールド”から来たって事?」
「まぁ、結論からして言えば、そう言う事やなぁ…」
はやてが頷きながら返すと、フェイトは何かを考え込むように顎に手を当てた。
一言に次元漂流者といっても、その種類は様々である。
なのは達の住んでいた第97管理外世界“地球”をはじめとする、時空管理局の管轄外の世界から飛ばされる事が通常であるが、一言に次元世界といえど、その数は膨大で、未だ時空管理局が把握する事のできない謎の部分は多い。
その中の代表格といえるのが『パラレルワールド』という存在である。
本来なら同一の世界として存在されるはずが、実際はその裏に幾つもの並行世界が存在し、そこで発生する事変、歴史などが“表”の世界とは全く異なった道を辿っている。
つまり、一言で“地球”といっても、全く違う並行世界の地球であれば、当然そこに住む住人も異なる存在となってしまうのだ。
家康の事例で例えると、地球・日本には“徳川家康”という武将が必ず歴史の中に存在するが、なのは達の世界での“徳川家康”は関ヶ原の戦いの時には年齢は57歳、それにいうまでもないが『拳だけで戦場を渡り歩いた』などという命知らずも甚だしい武勇伝を持っていたなどという記録もあるはずがなかった。
それに対してもう一方…今この機動六課にて保護されている“徳川家康”は、なのは達と同じ19歳。それに豊臣秀吉を直接倒したというなのは達の故郷の地球・日本での家康との大きな差違を持っていた。
「ん~…そうなると簡単に家康さんの出身世界を特定するのは難しいだろうね。本局でもパラレルワールドへの転送用の航路を定めるのは難しいって話だし…」
「まぁ、家康君も早く帰りたいと言って無いことやし、そこは問題ないんとちゃうか? それより家康君の出身世界に関して捜索してたら気になる情報が2つ入ったんよ」
「「気になる情報?」」
なのはとフェイトが声をそろえて問うと、はやては詳しく説明し始める。
「まずひとつは陸士108部隊のナカジマ三佐からのある情報が入ったんや」
「ナカジマ三佐から?」
フェイトははやての恩師の名を口に出す。
ゲンヤ・ナカジマ―――
スバルの父で、陸士108部隊部隊長である。
士官職に就いたばかりのはやてを支え、指揮者としてノウハウを教えたはやての恩師的な存在であり、はやての階級が昇進し、立場が逆転した現在でもはやては彼を師匠として慕い、様々な事で協力や助言を求めていた。
その為に今回の事もはやては、一番に彼のもとへ相談に言ったのだった。
ちなみに先祖が地球の日本出身である彼は、幼いころから個人的に日本史の勉強をやっていた為か家康の名を知っており、彼の事を聞いた際には、はやて達と同様に驚いていた。
ちなみに余談だが、はやて曰く「ナカジマ三佐と家康君って…なんか声がそっくりなんよね」との事らしい。
「ナカジマ三佐の話やと家康君が保護されたあの日から、このミッドチルダの各地で正体不明の奇妙な発光や隕石の目撃情報が相次いでいるらしいんや」
はやてはゲンヤから提供された映像をホログラムモニターで投影させる。
映像にはミッドチルダの大都会の中のひとつのビルの屋上に謎の光が輝くのが確認できる。
「この謎の発光が確認されはじめたのは、ちょうど今から一週間程前や。最初は違法な魔法実験かロストロギアじゃないかと推測して捜査しとったらしいんやけど、現場に不審な点が無かった事からどうもその線ではないらしくて…」
「一週間前って…家康君がこの世界へやってきた頃だよね? まさか…」
なのはがそう推測すると、はやてが頷く。
「そう。もしかしたらこの謎の発光事件は家康君がこの世界へ来た事と、なにか関係があるんやないかって事や」
はやてはそう言うとホログラムモニターを消した。
「せやから私、ナカジマ三佐に頼んでこの事件をもっと詳しく調べといてもらう事にしたんよ。もしかしたら家康君が元の世界に帰る為のなんらかの手掛かりが見つかるかもしれないし」
「なるほど。でももし家康君がその光によってこの世界へ来たとすると、もしかしたら他にもその光でこの世界へ飛ばされた次元漂流者がいるって事じゃないかな?」
なのはの言葉に、フェイトも頷きながら言葉を添える。
「確かに状況から考えたらそうなるね。仮にその光が次元漂流者をこの世界へ転送する為の光だとしたら、目撃されてる発光の数だけ次元漂流者がこの世界に迷い込んだ可能性があるって事だし…」
3人は真剣な面持ちで考える。
「まぁ、いずれにしてもまずはその光の正体を探らない事にはわからんしな…とにかく、ナカジマ三佐がえぇ情報を持ってきてくれるのを待つとしようか。それよりもう一つの気になる情報やけど…」
ここではやては、数秒ほど黙り込む。
「実はなぁ…」
「実は?」
「…………実はスバルが家康君に惚れとるかもしれへんのや!」
「「は?」」
それまで真剣に話を聞いていたなのはとフェイトがあまりに抜けた話題に思わず目を丸くして呆気にとられる。
「え、えええぇ!? は…はやて!? 気になる情報のもう一つってそれなの!?」
「せやで。家康君が六課に入ってからスバルの様子を見とったけど、いやぁあの子ほんまにわかりやすい性格してるわぁ。 家康君の顔見たらすぐ顔赤くしたり、ごはん食べるときかてここ数日毎日、家康君の大好物のスパゲティ、海老フライ、ドーナツに合わせて一緒に食べてるし、わたしがちょっと家康君の話題を出したらすぐ全身から蒸気出さんばかりに恥ずかしがるんやで。あれは絶対年頃の恋する乙女の行動や!!」
「あのぉ…はやて?」
フェイトが心配そうに声をかけるが、はやては一人今までの凛とした部隊長らしさをぶっ壊すオヤジキャラトークを続ける。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも気ぃつかへんかぁ? スバル、家康君の訓練の時になったらやたら張り切っとるんやで。 あれは間違いなく家康君に惚れとる証拠や」
「まぁ確かにスバルは、フォワードの皆の中で一番家康君の訓練を頑張ってるけど…別に恋してるとかそれは…」
「甘いでなのはちゃん! アンタも19なんやからもっと乙女心を察しなあかんで、ウチらロングアーチの中でも絶対あの二人は出来てるって結論付いてるんやから!」
「そ…そうなんだ…」
するとはやては「はぁ~」とため息を漏らし、たそがれるように天井を見上げる。
「あぁ~あ。折角、かの時の人が機動六課に入って恋人にできるチャンスやったんやけど、スバルに取られてもうたし…誰か他に有名で美形で強い男が現れないもんかなぁ…できれば家康君みたいな戦国武将がえぇなぁ……そうやなぁ、“伊達政宗”とか“真田幸村”とか…私らの世界では狸親父やった家康君があんなハンサムになってるんやから、家康君の世界のあの二人やったらきっと相当なイケメンやできっと」
「は…はやてちゃん。さすがにそれはないんじゃないかな?」
「うん。いくらなんでも伊達政宗や真田幸村がこの世界に来てる筈が…」
*
同時刻、ミッドチルダ某所では…
「あっくしぇ!!」
「ん?政宗様? どうかなされましたか?」
また別の場所では…
「ひぃぃっくしゅん!!」
「真田の大将ぉ、風邪でも引いたの?」
ミッドチルダの大都会の中、2か所の場所で、この世界に流れ着いた竜と虎がそれぞれ大きなくしゃみをした…
*
そんな事など知る由もないなのは達はその後しばらく談笑を続けていた。
そこへ部屋のドアが開き、シグナムが部屋に入ってくる。
「主はやて、車の用意ができました」
「あっ!もうこんな時間かいな?ごめんシグナム。急いで用意するわ」
そう言ってはやては立ち上がった。
「はやてちゃんどこかに用事?」
「うん。昨日シスターシャッハから連絡があって「聖王教会の今後に関わる重大な相談」があるらしいから来てくれって頼まれてもうてなぁ」
「シスターシャッハから?」
なのはとフェイトははやてが積極的に関わっているとある団体の名を口に出した。
---聖王教会
数多くの次元世界に影響力を持つ大規模組織の名前である。
一般には聖地ベルカを統治した一族“聖王家”を信仰とするミッドチルダでも有数の宗教組織だが、その本拠点とされる聖地ベルカ護衛の為の教会騎士団を有するなど独自の戦力を有し、ロストロギアの保守・管理も行っているため、時空管理局とは関係が深い。
しかし、管理局員の中には強い権力を持つ聖王教会を敵視している者もいる。
機動六課設立の際にも多大なるバックアップを受けており、六課…特にはやてはこの教会と深い関わりを持っていたのであった。
その聖王教会からはやてに相談事があるという事は、只ならぬ事が起きたのかとなのは達は少し心配になった。
そして、その気持ちははやても同じらしく、どこか不安げに答える。
「なんか知らんけど昨日テレビ電話で話した時に、えらいやつれとったんよ。せやからただ事ではないと思ってな。ちょっと顔出して来ようと思うんよ」
はやてはそう言うと、デスクから聖王教会へ入る為に必要なローブを取り出した。
「ほな。ちょっと行ってくるから、後の事はよろしゅうな。なのはちゃん、フェイトちゃん」
「「うん。気を付けてね。はやて(ちゃん)」」
なのは、フェイトに見送られて聖王教会へと出かけて行くはやて…
だが、この時はやては知らなかった…
これから行く聖王教会が自分の予想以上に“只ならぬ事態に陥っている事に”…
聖王教会 礼拝堂―――
そこには男は皆トンスラ頭になり、女は皆キンキラキンのごてごてな派手な色合いのシスター服を着込んだ教会騎士達が大勢並ぶ前に聳える祭壇に、濃い顔つきのおっさんの顔を模した移動砲台のような乗り物に乗った童話に出てくる王子のような服に身を包んだ少年が立っていた。
「皆さ~ん。この世のすべての愛は誰の下で生まれますか~~~?」
「「「「「グレートティーチャー!ザビー!」」」」」
少年の問いかけに教会騎士達は一斉に声を張り上げる。
「ではザビー様の愛を教え、やがてはこの世界に愛を広げる為にこうして次元を超えて降臨した伝道師の名前はだぁ~れ?」
「「「「「グレートスチューデント!ソーリン!」」」」」
「では答えなさい! お前達が愛を示し、友愛と共に生きるこの組織の名は何という組織ですかぁ~~~~?」
「「「「「聖王ザビー教会!」」」」」
まだ十代前半の年端も行かぬ少年に向かってまるで神の如く崇めるその様子はまさに異様な光景だった。
この少年こそ、日ノ本は九州大友領最高権力者にして、大友家現当主…そして謎の異教集団『ザビー教』の伝道師である“大友宗麟”―――
聖書のようなものを開きながら、大げさな仕草で両腕を上げる。
「グレェェイト! その通りです! 僕らは今始まったのです! 聖王教会改め…この“聖王ザビー教会”こそ! このミッドチルダにザビー様の愛を広げていくための礎となるのです! 僕達はザビー様を信じ、そしてザビー様の愛をミッドチルダ、そして幾多の星の民達に分かち与えるのです!」
「「「「「イエス!ザビー! イエス!ソーリン!」」」」」」
もはや発狂したかのようなテンションで両手を上げる教会騎士達、そこへ一人の女性が宗麟の立つ祭壇に上がって来た。
「ブラボー! 素晴らしい言葉だったわ。宗麟君♪ 貴方の愛が言葉のひとつひとつに重く込められていたわよ!」
金髪で長身の美しい容姿の女性…聖王教会の騎士 カリム・グラシアが、宗麟の洗礼の言葉に感動の涙を浮かべながら、その小さな手をとった。
「フフフ~。お褒めに預かれて、光栄至極! 我がザビー教の新たなる聖母“ノストラダムスカリーム”! アナタのお墨付きともあれば、この大友宗麟。この世界の地の果てまでをもザビー様の愛に染め上げる自信が湧いてきそうです!」
宗麟はそう言ってカリムにお辞儀をした。
ちなみに『ノストラダムスカリム』とはカリムの洗礼名である。
察しの良い読者の諸兄はお気づきになったであろうが…カリムはあろうことか、この「愛」の名のもとに意味不明な行動や思想ばかりに染まった最強の色物集団 “ザビー教”に毒されたこのミッドチルダの住人第一号であった。
何故、こんな事になってしまったのか…?
時は5日前に遡る―――
*
あの日は雲ひとつない綺麗な月夜の晩であった…
まだ、混沌のこの字も縁のない清楚に満ちた文字通りの神聖な場所であった聖王教会の執務室では、この教会に駐屯する教会騎士の一人にしてその中心的存在であったカリム・グラシアが、いつものように山のようなデスクワークを終えて、ようやく一息つこうとしているところであった。
ここしばらく、所用で珍しく教会を離れ、管理局本局へと出向いていたカリムは久方ぶりに教会へと帰ってきたばかりだった。住み慣れた教会に帰ったと言っても別にゆっくりくつろぐ等と思う訳ではなく、帰って早々に聖王教巡礼者からの書簡や貢物などの品の整理など教会騎士としてやらなければならぬ事は山程あった。教会騎士団の重鎮であり、聖王教会全体の中でもそれなりに重要な存在であるカリムの下にはその様な物が毎日引っ切り無しに送り届けられている。書簡は魔法で文字をその場に投影させる事で連続的に閲覧していく。そして賂目的な貢品に関しては、送り主が判明している場合は一切手をつける事無く送り返し、判明していない場合は遺失物として教会騎士が管理する形で預かる事となっていた。
そんな作業を一段落させ、カリムは大きく息を吐きながら天井を眺めていた。
「ふぅ…聖王教の一角を司る者の一人として、当たり前の宿命とはいえ…やはりこう毎日毎日、職務に追われるのは疲れますね…」
カリムは生まれてこの方あまり感じてきた事がなかった“疲れ”というものを珍しく感じていた。
教会信者として生を受け、教会騎士となり、“予言”という特異な魔法スキルを持った自身の存在を特別視され、こうして今や教会騎士の中でも重要なポストについて、聖地ベルカ、そしてミッドチルダをはじめとする次元世界の安泰の為に日々、その身を投じていた自分の運命を恨んだりなど一度もなかった。
自分は一生、聖王様に身を捧げ、聖王教を信じる者達、そして自身のスキルを必要とする者達の為に身を捧げる事と覚悟していたし、何より自分の使命と信じていた。
けれども、こうして激務の合間に少し休憩を挟んだ時、ふと頭の中によぎる事があった。
“聖王教の為に教会騎士として生きる事以外の生き方”をする自分はどんなものなのか…?
しかし、何度考えてもカリムはそれを具体的に思い描く事ができなかった。
それ即ち、自分には聖王教会の騎士として生きる道しかないという意味なのか…? そう考えると一握の寂しさを覚える事があった。
「………少し、紅茶でも飲んで疲れを取りましょうか」
カリムがそうつぶやきながら席を立ちかけたその時だった…
ドーーーーーン!!
「ッ!? キャアァァッ!!?」
突然、砲音のような音と共に激しい地響きが部屋中を揺るがし、そして窓の外からは、夜にも関わらず日光のようなまばゆい光が部屋に降り注いだ。
突然の事にカリムは思わず悲鳴を上げながら、その場に頭を庇いつつ、しゃがみ伏せた。
幸いにもほんの一瞬で閃光も振動も轟音も止まり、再び部屋に静寂が戻った。
「今のは…なんだったのでしょう…?」
突然の事にカリムが戸惑っていると、窓の外では同じく突然の轟音と光に驚いた教会騎士や関係者達がバタバタと浮き足立っている喧騒が聞こえてきた。
「一体、何事かしら…?」
不安になったカリムが様子を見に行こうかと考えてた時、執務室のドアが開かれ、一人の修道女姿の女性が駆け込んできた。
「騎士カリム! 失礼します! 今、敷地内で謎の爆発騒ぎのようなものがあったようですが、ご無事で!?」
カリムは駆け込んできた紫色のボブカットヘアーの女性…自身の秘書でありボディガード的存在の教会騎士 シャッハ・ヌエラの姿を確認すると胸をなでおろしながら、立ち上がった。
「シャッハ。えぇ、私は大丈夫です。それより一体、何があったのですか?」
「わかりません。今、原因を調べようと騎士団総出で中庭を調査していますが…」
シャッハから報告が全て言い終わる前にカリムは行動に移していた。
「私も行きます。今の爆発…どうも普通の爆発とは思えません」
カリムとしては予想外ともいえる行動にシャッハは思わず口をあんぐりと空けてしまう程に驚きを見せた。
「そ、そんな…!? 危険です!? 何が原因なのかもわからないのですよ! 調査は私が行いますから騎士カリムはここで待っていてください!」
そう制止するシャッハだが、カリムは珍しく首を横に降って拒否の意思を示した。
「いいえ。今の光が唯の爆発ではない事は私もわかっています。ですが、この現象の原因は私自身この目でしかと確かめないといけない気がしてやまないのです」
「騎士カリム?」
シャッハはカリムの頑なな態度に戸惑いながらも、彼女がそこまでいうのには彼女の持つスキルが関わっているのではないかと察した。
カリムの持つレアスキル“プロフェーティン・シェリフテン”はこの先に起こるであろう真実を散文形式で書き加える能力…言い換えれば“予言”であり、それが影響しているのか、カリムは人並み以上に第六感に優れている一面があった。
この謎の現象を前にここまで頑なになるという事は何か彼女の第六感を刺激する何かがあるという事実なのかもしれない…そう考えるとシャッハはカリムを引き止めにくくなってしまった。
「…わかりました。では、せめて私の傍からは離れないようにしてください」
「わかったわ。では行きましょう」
2人は連れ添って、中庭へと向かった。
爆発が起きたと思しき聖王教会の中庭には既に教会騎士達がバリアジャケットと武装を整えて、一心に警戒し、駆け回っていた。
当時、施設外にいた目撃者の話では突然、中庭の方に落雷らしきものが堕ちていくのが見えたという。
一方で、敷地内の施設に特に損傷した施設や人員的な被害などはない事を確認したカリムとシャッハは、一先ず自分達も捜索に加わる事にした。
「魔力反応はありませんでしたので、違法魔導師による襲撃などの類ではなさそうです。ですが念の為に注意してください」
「えぇ。さっきの音や振動がした方向からして、多分、爆心地はこの近くだとは思うのだけど…」
カリムがそういって、中庭の一角にあった草木の生い茂った場所へと目をやったその時だった。
「う……う~ん……………」
突然、木々の向こうから微かだが呻き声らしき声が聞こえてきた。
カリムとシャッハはお互いに顔を見合わせて、互いに聞こえてきたものが空耳ではないという意思を確認し合った。
「騎士カリム。私の後ろに下がっていてください。私が先に何なのか確認してみます」
シャッハはそう言いながら、即座にバリアジャケットに着替えると、トンファー風のフォルムの双剣デバイス『ヴィンテルシャフト』を装備し、カリムを自身の後ろに下がらせながら、木々の間を抜けて、その先にいる者の正体を探ってみる。
緊張感の走る中庭に、ざわざわと夜風が吹付け、木や草がざわざわと靡いた。
「こ、これは…!? 騎士カリム! 来てください!!」
木々の向こうからシャッハの驚愕する声が聞こえてきた。
慌ててカリムがその背中を追って木々を抜けていくと、唸り声の正体がそこにいた。
「う…う~ん…ムニャムニャ…ザビー…様~…」
そこにいたのは一人の少年だった。
顔付きこそそれなりに整っているものの、その服装はまるで童話の中に出てくる王子様のような悪趣味極まりないゴテゴテ派手衣装を着ている。
その背丈は小さく、まだ年齢は十代前半と思われる。手には聖書のような分厚い本がしっかりと握りしめられていた。
そして、少年のすぐ後ろには何やら人の顔のような形の乗り物らしき機械が転がっていた。
「こ、この子は……?」
カリムが驚きと心配を孕んだ声を上げると、その声に反応するようにシャッハが声を上げた。
「誰か来てください! ここに子供が倒れています!!」
その声に反応するように駆け寄ってくる教会騎士達の足音を聞きながら、どうするべきかと考えるシャッハにカリムが語りかけた。
「一先ずこの子は救護室に運びましょう。 恐らくさっきの爆発になに関わりがあるかもしれません」
カリムの指示にシャッハは素直に頷いた。
この時はその指示が至極適切であると思っていたからだ…
―――
「今思えば……今思えば、あの時にアイツを“危険人物”として勾留しておけば…更に言えば、無理にでも騎士カリムを調査に同行させずに執務室に留め置いておけば、こんな事には…あぁぁ!! 騎士カリムぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
そして現在、この教会で唯一ザビー教に毒されていない関係者…シャッハ・ヌエラは5日前の自分の判断ミスが招いた礼拝堂内の混沌の極みな光景を前に、滝のような涙を流しながら、嘆きの叫びを上げたのであった。
*
数時間後--―
聖王教会正門前。
ローブを纏い、いつものように門の前に停まった車から降りたところではやてとシグナムの身体は凍りついてしまった。
顔が真っ青になり、あんぐりと口を開いたまま、二人は目の前に立つ聖王教会本部の建物を見つめる。
そこには2人が以前訪れた時と何ら変わりない、聖王教会の長きにわたる歴史を物語るかのような立派な造りの門に…二人が今まで見たことがない、“気持ちの悪いハゲのオッサンのシンボルマーク”が大きく描かれ、その下にはこんなネームプレートが飾られていた。
『全ての愛を求める子羊達を救ってあげましょう!! 聖王ザビー教会』
「あ…主はやて……聖王教会は、いつの間に名前を変えたのですか?」
「わ、わたしかてわからんよ!だって先日来た時は何の変わりもなかったんやから!」
はやてもシグナムもシンボルマークとネームプレートを見ただけで、これはただ事ではないという考えが頭に過った。
「とりあえず、カリムとシスターシャッハに会わんと…2人なら何か事情知ってるかもしれへんし…」
はやてはそう言って聖王教会の中へ入ろうとすると…
「騎士はやて~~~~~~~~~!!」
「!?…し…シスターシャッハ!?」
教会の中からシャッハが、泣き顔でこちらに向かって駆けてきた。
シャッハは、はやての下へ着いた途端にすがりついて号泣し出す。
「助けてくださいいいいぃぃぃぃぃ!! 騎士カリムがああぁぁ!! 聖王教会がああぁぁぁ!!」
「ど…どないしたんですかシスター!?とりあえず落ち着いて!」
「シスターが取り乱しては話にならないですか!ひとまず落ち着いてください!」
はやてとシグナムがそう言ってシャッハを宥めると、彼女はなんとか落ち着きを取り戻す。
「す…すみません騎士はやて、騎士シグナム…つい取り乱してしまって…」
「うん、ウチらは別にいいけど…」
「常に冷静な貴方がこんなにも取り乱すだなんて、一体なにがあったのですか?」
普段はシスターらしく、真面目でどんな状況においても決して動揺しない彼女がここまで取り乱す程にパニックに陥ったという事はよほどの事が聖王教会で起きたのだろう。
シグナムはシャッハに、何があったのかを聞き出そうする。
「じ…実は……聖王教会が……」
シャッハがそう言いかけた時…
「ザ~ビザビザビザビザビザ~~~~♪」
突然どこからともなく奇怪なメロディーと共に、あまり長時間聞きたくないような不快な合唱が聞こえてくる。
その歌が耳に入った途端、3人の背筋が凍り付くかのような感覚に襲われる。
「なっ!?なんだこの不気味な歌は!?」
シグナムは思わず周囲を見回して警戒体勢をとる。
「あの…シスターシャッハ?…この歌なんですか?」
「信じられないでしょうけど……この教会の新しい『讃美歌』です…」
「さ、賛美歌!? これが…!?」
シグナムは珍しく動揺しながら問い返した。
すると、そこへ聞き慣れない声が聞こえてきた。
「「これが」とは失礼ですね。これは今も時空を超えたどこかにいらっしゃるザビー様へ捧ぐ愛の
そう言いながら3人の前に、人の顔を模した形状の移動式砲台のような奇抜な機械に乗って現れた一人の少年が姿を見せる。
はやてとシグナムは宗麟を見た途端、そのあまりの趣味の悪い服装に言葉を失った。
「おぉ! “ニューソードマスター・シャッハ”。 新たな入信希望者ですか?わざわざ貴方が勧誘しなくとも、その辺のヒラ信者に任せたらよかったのに~」
「違うわボケ! 誰がテメェらなんかの為に信者なんか集めるかこの金髪チビ野郎!あと私は『ニューソードマスター』なんかじゃねぇって何度言ったらわかるんじゃあ!!」
「し…シスターシャッハ!?」
「きゃ…キャラが壊れてますよ!」
少年が現れた途端、キャラを崩壊させて怒鳴りつけるシャッハを見て、はやてとシグナムは思わず驚いて飛び上がった。
「あ…あの…君は一体、誰?」
はやては恐る恐る少年に問いかけた。
すると少年は、はやての方を向くと礼儀正しくもどこか変な仕草でお辞儀をしながら、クルクルと身体を回転させながら自己紹介をする。
「初めまして、レディー。僕の名前は大友宗麟。 偉大なる『ザビー教』に仕える若き修道士にして、我が偉大なる教祖・ザビー様に認められた愛の伝道師~! そしてこの聖地ベルカに降り立つザビー様に認められし聖母“ノストラダムスカリーム”と共にこの『聖王ザビー教会』のを司る愛の天使~!!!」
「「ざ…ザビー教!?」」
聞いた事も無い宗教の名前に、同時に聞き返すはやてとシグナム。
「な…なんなんやその“ザビー教”って!? いつのまにここはそないなヘンテコ宗教に鞍替えしてもうたんや!? っていうかノストラダムスカリームってなんやねん!?」
「『ノストラダムスカリーム』は私の洗礼名よ。はやて」
そうはやてに声をかけてきたのは、機動六課設立の際にも協力してくれたはやてが姉のように慕う女性…カリム・グラシアであった。
しかし、その姿を見た途端はやては愕然としてしまう。
カリムの服装は今まで教会内で着ていた黒い礼服ではなく、金と黄色という派手な色彩のシスター服に宝石がいくつも付いたような派手なロザリオを首に巻いたなんとも奇妙な姿であった。
「久しぶりね。はやて。ハヴァナイス・ザビー♪」
「か、カリムぅぅ!?」
ついこの間までの自分が知る姿とは全然違う、奇抜な衣装と奇抜な挨拶を使い、自分の頭の中にあった優しい穏やかで理知的な笑みとは、まるで違う陽気だが頭の中は何も考えていなさそうな軽々しい笑顔を浮かべるカリムの姿に、はやては思わず卒倒しそうになった。
「ど、どどど…どないしたんやその服!? ってか今の挨拶何!?」
「どう似合う? これはザビー教幹部信者の象徴ともいえる礼服なの。実際に着てみたのは今日が初めてなんだけどね。ちなみに、今の挨拶はザビー教が誇る伝統的な挨拶よ。聞こえなかったのなら、もう一度…ハヴァナイス・ザビー♪」
なにも疑う様子も見せず奇妙奇天烈な挨拶をかましてくるカリムに、はやてとシグナムは慌ててシャッハを捕まえて耳打ちで話しかけた。
「どないなってんですか!? ここしばらく見ん内にカリムと教会に一体何があったっていうんですか!?」
「そもそも一体何者なのですか!? あの大友宗麟とかいう見るからにバカ丸出しな子供と“ザビー教”なる得体のしれない邪教徒の一団は!?」
「………これが、今日お二人にここへ来てもらった理由です…」
そしてシャッハの口から衝撃の事実が語られる…
「あの大友宗麟というガキンチョが、騎士カリムや聖王教会の信者達にわけのわからない邪教を吹き込んで、事もあろうに騎士カリムがその邪教に惚れ込んで入信してしまったんです!!」
「「な…なんやて(なんだと)ーーーーーーーーーーーー!?」」
はやて、シグナムが同時に声を張り上げた。
*
一方、こちらは機動六課隊舎内 ロビー。
そこにはドンッっと仁王立ちしたティアナを前にしてスバルが冷や汗をかいていた。
「スバル!一体どういう事なの!?シューティングアーツを捨てて、家康さんの格闘術を覚えなおすだなんで…自分が何言ってるのかわかってるの!?」
「わ…わかってるよ。確かにここ最近ガジェットドローンの事件が連発しているし、こんな時に一から格闘術を覚え直すのはおかしいと思うけど…」
スバルはティアナの迫力に押されながらなんとか弁解しようとする。
「おかしいと思うならなんで覚えなおそうとするのよ!? 下手に得意手を捨てて、うろ覚えな戦法で実戦に臨めばそれこそ命取りになるわよ!」
「そうだけど…私どうしても家康さんの拳法を覚えたいの!」
「どうして!?」
スバルの断固とした態度にティアナはわけがわからず、思わず声を張り上げる。
そんなティアナをなだめながらスバルはゆっくりと説明し始める。
「先週の家康さんの訓練を見た時、私感じたんだ…同じ拳を使って戦うけど家康さんの拳は私のシューティングアーツなんかとは格が違う…あの魔法も使わずにガジェットを粉砕する力、その力を宿した身体から繰り出される研ぎ澄まされた技…あれはただ覚えて得たものじゃないんだって。それで私あの日の晩に家康さんに聞いてみたんだ…」
*
一週間前…
家康が訓練をしたその日の夜…
隊舎近くの防波堤に家康を呼び出したスバル。
「それで、ワシに話とはなんだ?スバル殿」
「あの…家康さん…実は…」
家康の問いにスバルはしばらくしどろもどろな態度になりながらも、やがて意を決して家康に願い出る。
「私に……私に家康さんの拳法を教えて下さい!」
スバルがそう言って声を上げると、家康は一瞬キョトンとした表情になる。
「ワシの……拳法を?」
「はい!今日の家康さんの訓練を見た時、私家康さんの拳法に感激しました。恥ずかしい事ですけど、私のシューティングアーツでは成せない何かが家康さんの拳法にはあると思ったんです。それに…」
そこまで言うとスバルは急に俯き、暗い表情になる。
「私自身…まだまだ鍛錬が足りないんだってそう思ったんです…だから家康さんのような修行を重ねてさらに自分を強くしたいのです!」
スバルが熱心に話すのを黙って聞いていた家康だったが、やがて「フフッ」と小さく笑うと、静かに語り出した。
「スバル殿。気を悪くしないでほしい。でも君はひとつ大きな勘違いをしている」
「勘違い…?」
すると家康は急に真剣な表情を浮かべて話し出した。
「あぁ。君はワシの強さの源が日々の鍛錬だと言ったが、それは違う。
いや…確かに鍛錬も非常に大事な事だ。だがそれが強くなる為に最も重要な事なのかと言ったらそれは違う」
家康はスバルを諭すように熱心に話す。
「ワシは今にまでに随分と苦労してきた。そもそも子供の頃のワシは、『天下を取る』『時代を切り開く』と言った綺麗言を掲げていたのはいいが、正直自分では何もできない他力本願な奴でな…本当の強さの意味もわからず、戦ではほとんど自分自身で戦おうとせずに家臣の者にまかせてばかりだった…」
家康は防波堤の先に広がる海を見つめる。
「だがある時、ワシにとって師のような存在の男がこう言ったんだ。
『誠の強さとは記された道の上を進んで得るものではない。強き
…ワシはこの時初めて知ったんだ。本当の強さとはなんなのかを…」
家康は語りながら右手の拳に目線をやり、そして拳を強く握り締める。
「その男の言葉をきっかけにワシは決心したんだ。『本当の強さを持った。真の武士になろう』と!ワシはそれまで持っていた武芸や武器を全て捨て去り、家臣達と同じ苦楽を共に行くことで本当の絆を得るため、そして幾多の戦友達と戦い、得た傷の数だけ絆を深めようと、素手で戦うべくこの武術を得たんだ」
「家康さん…」
スバルは熱く語る家康をじっと見つめる。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「スバル殿…ワシは君に教えを説けるような鍛錬は行っていない。むしろ鍛錬なら君の方が多い筈だ」
「だから…」っと家康がスバルの頼みを断ろうとした時…
「う……うぅ……うわああああああああああああああああああん!!」
突然スバルが大声を上げて泣き出した。
「す…スバル殿!?」
「家康さん! 私…知りませんでした! 家康さんがそんな苦労の末に今の力を身に付けていただなんて…」
「いや…だからワシは――――」
家康がスバルに再度断りの返事を返そうとすると、スバルはさらに家康を驚かす行動に出る。
「家康さんお願いします!家康さんが強くなったように、私にも教えて下さい!家康さんの『絆の力』を!」
そう言って頭まで下げだしたスバル。家康はすっかり面喰ってしまった。
こんな事は初めてである。
今まで家康の自論に共感してくれる人間は多くいたが、彼女は家康と同じ道を学び、『絆』を知ろうとしてきたのだ。
(ここまでしてワシの教えを受けようとするなんて………そういえばあの人にこんな事も教えられたんだったな)
その時、家康はふと自分に『本当の強さ』の事を教えてくれた男からこんな事を言われたのを思い出した。
『竹千代よ。お主もいずれワシのように師となる時がくるだろう。だが誰かがお主を師として選んだ時、お主は自分がまだ半人前だと痛感して弟子を取る事を拒もうとする筈だ。…よいか、たとえ自分がまだ師として教える事ができる者ではないと思っても…お主を師と尊敬する者は拒んではならぬぞ。
それが誰であれ彼の者はお主を尊敬し、認め、そして自分がこの先進む為の道しるべと決めたのだ。その者にお主の弟子としての素質があるかどうかは、弟子にとってから決めるがいい…だが何も知らずにその者が進むと決めた道を自ら崩す真似は決してはならぬぞ』
(信玄公……)
家康の脳裏に彼の心の師とした人物の名が思い浮かんだ。
武田信玄―――
「甲斐の虎」の異名をとる武田家の当主にして甲斐の国主。真田幸村、猿飛佐助の主君でもある。
大将としての貫禄、威厳は抜群で、しばしば敵からも武将としての器を絶賛されるほど。
仁義に篤く心も広いため、幸村をはじめ多くの将兵から敬愛されており、家康も何度も戦いながら彼を戦における師として尊敬してきた。
だが徳川軍との戦の最中に病に倒れ、戦場から離れてしまう事となった。
しかし、家康は今でも彼との戦いやその教えから学んだ事を教訓にしており、時折こうして思い出す事も少なくなかった。
家康はしばらく考えこんでいたが、やがてスバルに静かに問いかける。
「スバル殿……さっきも言ったが『絆の力』とはただ覚えるだけでは身につかないぞ。ワシの教えを受けるのは構わないが、それを己の力にできるかどうかは君次第だ…」
家康の言葉にスバルは下げていた頭をゆっくりと上げる。
「えっ……それじゃあ…」
「あぁ! ワシの格闘術は君の格闘術とはまったく異なる流派だし、それに魔法とは違って、頼れるのは己の身体と経験だけだぞ。それでもいいのか?」
「はい!シューティングアーツなら捨てる覚悟もできています!」
スバルの決意を聞いて家康も顔を縦に振った。
「わかった! なら教えよう! ワシの『絆の力』の源の全てを!」
「家康さん……ありがとうございます!!」
スバルは満面の笑顔を浮かべながら家康に礼を言った。
そんなスバルを微笑ましく見つめる家康。
「では、もう遅い事だし、そろそろ戻るとするかスバル殿」
「あっ!あの家康さん!」
そう言って隊舎へと戻ろうとする家康に再び声をかけるスバル。
「ん?」
家康がスバルの方を再び振り向くと、スバルは照れくさそうに話しだす。
「あの…できれば私の事は「スバル」って呼び捨てで呼んでくれませんか?」
スバルの言葉を黙って聞いていた家康だったが、すぐに笑顔になってさっきの言葉をもう一度言いなおす。
「では……そろそろ戻るとするか…“スバル”」
「!……はい!!」
そう言うと二人は並んで隊舎へと戻って行った…
*
「ふ~ん…そんな事があったわけねぇ……ってか回想の一番最後いらなくない!?」
話のあらすじを一通り聞いたティアナが回想の最後にツッコミを入れつつもようやくスバルの考えに納得したようだった。
「そんなわけで、私家康さんみたいな『本当の強さ』を持った強い人になろうと思うんだ」
「でもスバル。さっきも言ったけど、うろ覚えな方法を実戦で使用しようとしたらそれだけリスクは大きくなるのよ。それでもいいの?」
ティアナはそう心配するがスバルは拳を握りしめながら笑顔で答える。
「大丈夫!この一週間みっちり叩きこまれたし、それに私にはティアやなのはさん達との『絆の力』もあるから!」
「ちょ…!? なに勝手に『絆の力』なんて作って…」
ティアナがそうスバルにツッコミを入れようとしたその時だった。
突然スバルとティアナの前に赤い画面『ALERT』の文字が書かれたホログラムが投影され、同時に警報音が鳴り響く。
「!!…ティア!これは!」
「一級警戒態勢!まさかガジェットドローンが…!?」
その時、隊舎内にアナウンスが放送される。
≪緊急要請!緊急要請! フォワードチームは全員直ちにヘリポートに集合してください!≫
「スバル!」
「うん!」
スバルとティアナの目付きが一気に変わった。
二人は互いに頷き合うとヘリポートに向かって駆け出していった。
*
ミッドチルダ。第五航空監視塔。
ビルの中ではこれまで出現してきた数より遥かに多い約1000体のガジェットドローンが破壊活動を行っていた。
既にビルにいた人間は避難しており、人的被害はないが既に高層建築物であるビルのいたる階層で火災が起きていた。
ビルの周辺では地上本部より出動した武装隊や消防隊が鎮圧活動を行うがあまり効果はない。
そんな中、ビルの屋上には一人の男の姿があった。
全身に包帯を巻き、空に浮かぶ輿に乗ったその男は屋上から広がる大都会の景色を見つめ、この状況を楽しんでいるかのような不気味な笑みを浮かべる。
そこへもうひとり、番傘を差した着物姿の女性が現れる。
「餌は十分に撒けたよ刑部。あとは連中を招き寄せるだけ…」
「あい承知……こちらも既に抜かりはない……」
女…皎月院の言葉に、男は頷きながら、今はまだ姿を見せていない“的”を見据えて、そして含み笑う。
「さぁ…早く参れ…お主らの力量をしかと見せてもらおうぞ……機動六課よ…ヒーヒッヒッヒッヒッヒッ!!!」
男…大谷吉継は愉悦に満ちた不気味な笑い声を上げ、やがて皎月院と共に姿を消した…
*
スバル、ティアナ、エリオ、キャロ達フォワードチームと、なのは、フェイト、ヴィータ、そして家康の8人は、ヴァイスの操縦するヘリに乗ってガジェットドローンの襲撃に遭ったという第五航空監視塔へ向かっていた。
機内ではフェイトがホログラムモニターを投影させ、本局より送られた今回の事件の情報を確認していた。
「えぇ!? 1000体!?」
スバル達が今回現れたガジェットドローンの総数を聞いて驚きの声を上げる。
家康もこないだの訓練の時の3倍以上にも及ぶその数に眉を顰めた。
「えぇ。それも未確認だけど、どうやら新型の機種も混じってるって情報もあるわ」
「新型?今回の襲撃場所は別に“レリック”も、その他のロストロギアも保管されてないんだろ?わざわざそんなところに新型なんて…」
ヴィータがぼやいていると、家康は彼女の言葉の中にでてきたある単語が気になった。
「ヴィータ殿。その“レリック”というのは一体なんなのだ?」
「あっ!家康さんにはまだ説明してなかったね」
家康の質問にフェイトが代わりに説明する事にした。
フェイトはホログラムモニターを使って、赤い宝石のような結晶の写真を表示する。
「レリックっていうのは超高能のエネルギー…つまり強い力が濃縮された結晶体で、以前説明した危険な異世界の遺産『ロストロギア』の一種で、私達機動六課がその捜索、封印、そして保管を任されている物…ロストロギアの中でもかなり危険な代物で下手に扱えば大災害を引き起こす危険性があるんだ」
「ほら。以前私がなのはさんに助けられた空港の火災事件の話をしましたよね? あの事件の原因となったのもこの“レリック”だって言われてるんです」
フェイトの解説に、スバルも補足で説明を加えた。
それを聞いた家康はやはり魔法世界にもこういった負の部分があるのか…と内心ため息をつく。
「ガジェットドローンは、レリックの奪手を目的に動いているみたいなの。だからレリックの管理を任されている私達は必然的に奴らと戦わなくてはならなくならないって事」
なのはがそう言って説明を締めると家康は納得したように頷いた。
「なるほど。それで訓練所の仮想敵勢も、ガジェットドローンだったわけか…」
「でも、今回みたいな事は異例だね。今までも何度か六課の実力を確かめる目的でガジェットドローンが現れた事はあったけど…わざわざ新型を動員して、それもミッドチルダの市街地中心の…然程重要でもない施設を、多勢力で襲うだなんて…」
フェイトの訝しげた疑問になのは達も同じ考えだったのか、頷きながら同調の意思を示した。
「確かに…今までの行動パターンからみても今回はかなり特異なケースだな…まるであたしらをおびき寄せているかのように…」
ヴィータが厳しい口調で言った。
すると、それを聞いていた家康が不意に呟く。
「うむ…聞けば、ガジェットドローンなる機械群…ただのカラクリ仕掛けの傀儡と思ってはいたのだが、思いの外に頭も切れるものなのかな?」
「いいや…これはガジェット共というよりは、アイツらを動かしている“運用者共”の思惑だろうな…」
「運用者…?」
家康が尋ねた。するとフェイトが家康にもわかりやすい様に言葉を選びながら説明してあげた。
「いくら機械兵器であるガジェットドローンでも当然、それを動かす為には人の力…っというよりは“意思”が関わってくる…しかもガジェットドローンの狙いが“レリック”に集中しているとなればなおさら、それを欲する誰かの陰謀が背後で蠢いている事を意味している」
「つまり…ガジェットドローンを動かして、そのレリックなる秘宝を集め、何かよからぬ事を企んでいる邪な人間がいるというわけか…?」
家康が身を乗り出しながら言った。
フェイトの説明を聞いて、薄々思い描いていた構図がはっきりと姿を見せてきた気がした。
「そのとおりだよ。その“よからぬ事”を企んでいるのが誰か、捜査する事も私達、機動六課の仕事なんだよ」
なのははそう言って、家康、そしてスバル達フォワードチームに目を配りながら、改めて言った。
「だからこそ…その手がかりを少しでも手に入れる為にもこの任務はいつも以上に気を引き締めていかないとね。剰え今回の敵の頭数は今までスバル達も経験した事のない大多数だから、しっかりとね」
「「「「はい!!」」」」
「承知した。ワシも振るえる限りの力を示すつもりだ」
力いっぱいに返答するスバル達に負けぬように、家康も威勢ある表情を浮かべながら、頷くのであった。
*
首都クラナガン近辺・フィフティーン・アベニュー―――
様々な複合施設が立ち並ぶクラナガン近辺でも有数の繁華街のこの場所には通りのいたる箇所に移動販売車や屋台による出店が出ている事が多かった。
様々な異世界の文化が交流しているミッドチルダの首都だけあって、立ち並ぶ出店もそれぞれの文化を反映したような、なかなかに個性溢れるものが多かった。
そんな中でも、この『鮨処 BUSHI堂』はとりわけ個性の強い出店として有名であった。
鮨処の名の通り、寿司をメインに提供しているこの店は、店主の腕前も味も値段も決して悪いものではなく、むしろ、この界隈に出店する屋台の中でも特にリーズナブルで高水準であるとして有名だった。
だが、この店にやってくる客はほとんど、寿司を食べようとしない。
何故かといえば、この店のネタはどれも店主のこだわりなのか、普通の寿司屋にないものばかり揃っていたからだった…
通常寿司屋のネタといえば、マグロ、カンパチ、イカ、タコ、エビ…などが一般的。ミッドチルダのような様々な文化の行き交う場所においてはせいぜいカリフォルニアロールなどの邪道種などが関の山であろう。
ところがこの寿司屋のお品書きを順に見ていくと、カエル、イモリ、マムシ、豚の子宮、牛のケツメド、サイの金玉…とにかく訳のわからないネタしか揃っていなかった。幸いにもここの店主はメニューにない品であっても、注文があれば何でも作ってくれる為、何も知らずに店にやってきた客はネタを見て仰天し、結局寿司以外のご飯を注文するのがセオリーになってしまっていた。
そんな訳あって、現在ではこの店で食べるのはよっぽど空腹に飢えた者か、その風変わりな店の雰囲気を楽しみたい物好き、または値段の安さに引かれたけちん坊のみに限られていた。
散々宛もなくさまよった末、今日ようやくここクラナガンまでたどり着いて、久方ぶりに見つけた日ノ本の料理を提供する場所に歓喜して有無を言わさずに突撃した伊達政宗とそれに従う片倉小十郎の主従もその二人であった…
「Hu~。 寿司のネタはbizarreなものばっかでとても食えたもんじゃねぇ店だが、飯の味自体は意外と悪くねぇな!」
「政宗様。そんな大声で不謹慎な事を話さないで下さい。店の者に失礼です」
屋台の近くに用意されたテーブル席のひとつを陣取り、納豆をかけた大盛りのご飯を口にかきこむ政宗を小十郎が注意した。
二人の座るテーブルには焼き魚、味噌汁、漬物、天ぷらなど、とにかく日本食のオールスターズが大量に置かれていた。
こんな大量に頼めば当然ながら周囲の客や屋台周辺を行き交う人々から注目を浴びることになるが、そんな周囲の目など気にせず、政宗はあぐらをかきながら膨大な数の食事を平然と平らげていく。
一週間前、ミッドチルダに飛ばされてきた政宗と小十郎はその日の内になんとか人の多い市街地へと足を踏み入れた。
しかしミッドチルダの事はなにもわからない2人は、通貨や言語、さらには食の文化なども一切わからず、腹ごしらえをしようにも、どの料理店も政宗、小十郎の愛した和食が全然無く、挙句に身体に悪そうな色の食べ物を売り物にしている店を見かけて思わず殴り込みをかけようとしたほどであった。
そんな調子でなんとか自分達の食えそうな飯屋を探している内に1週間が経ち、空腹でぶっ倒れそうになっていた矢先にようやくこの屋台を見つけたのだった。
「しかし政宗様…」
「なんだ 小十郎」
食事を初めて数十分…
ようやく空腹も落ち着いてきた政宗に小十郎が、さっきからずっと話したがっていた事を話し始めた。
「この一週間の放浪でわかったのですが…この国の技術は日ノ本よりも大分進展していますな」
「Ah…確かにそうだな。この一週間いろいろとこの街を見てきたが、どれも奥州どころか国のMain Landである京の都にすらねぇ…とんでもねぇskillばかりだな」
食べる手を休めながら政宗がこの一週間の放浪生活を振り返ってみる。
自動車、高層ビル、テレビ、新聞、生活面も情報面もすべてが日ノ本の常識を遥かに超えたこのミッドチルダに二人はずっと驚かされてばかりであった。
そんな二人をさらに驚かせたのはこの世界に来て5日目に目撃したある集団の事…
それは二人が今夜の夜営の場を探そうとしていた時の事、ある店の中から刃物を持った強盗が出てくるのを二人は遭遇した。
すぐに捕まえようとそれぞれ愛用の刀に手をかけた政宗と小十郎であったが、それよりも早く、強盗は突然空から現れた数人の集団の攻撃を受け、さらに彼らの持つ杖のようなものから放たれた光を受けて、全身に光る輪をかけられ、拘束されてしまったのだった。
政宗達はそのあっという間に騒動を鎮圧した集団の戦闘技術よりも、彼らの使った秘術に驚いた。
「なぁ小十郎…もしかしたらこの国は秘術の使い手の国じゃねぇのか?」
「秘術?…っと申しますと? 凶王の参謀・大谷吉継のような…?」
小十郎は日の本の国において何度もその忌まわしい術で自分達を苦しめた石田軍の妖術使い達の事を思い出す。
だが、政宗は即座に頭を振って否定した。
「No!あのMammy野郎みてぇな賤しいもんじゃねぇよ。たぶん俺の推測だとあれだな…あれは南蛮の一部に伝わる伝説の秘術…Magic…日ノ本の言葉に言い換えれば“魔法”ってやつさ」
「魔法…ですか…?」
小十郎は呆気にとられた表情を浮かべる。
だが政宗は、自分が
「あぁ…まぁ、俺達の使う“気”の力をもっとお手軽にしたもんと言っていいかもな? それがこの国じゃ、当たり前のように使われている…Ha! まさにFantastic Worldってやつだな。そう思うと俺達もこんなFantasyな場所にやってきたのはある意味luckyだったかもしれねぇぜ?」
「政宗様。悠長な事を言っている場合ですか? ここがどこかさえもまだよくわからない上に、果たして我々は日ノ本に帰る事ができるかもわからないというのに…この小十郎。この一週間常にその不安ばかりを抱えていて…」
「You think too much 小十郎。わからない事に頭回したって無駄に自分を詰めるだけだぜ? まずはここがどこなのかゆっくり把握しながら、日ノ本に戻る手立てを考えてばいいじゃねぇか」
「それはそうかもしれませんが―――」
小十郎が納得できない様子で言葉を返そうとしたその時だった…
屋台のある広場から見える巨大な街頭ホログラムテレビの画面に突然ニュース速報が流れる。
≪番組の途中ですがニュース速報をお伝えします!先ほど発生したクラナガン第五航空監視塔襲撃事件で、現在被害は監視塔の周辺の建物にも広がり始め、地上本部はこれを受けて周辺地域一帯に避難勧告を発表しました! ご覧の該当地区に滞在中の皆さまは直ちに最寄りの避難場所か街頭区域の外へ避難してください!≫
速報に続いて、避難勧告の街頭区域を描いた地図が発表されたと同時に、通りにいた人々がパニック状態になり一斉にどこかへと避難し始めた。
その光景に戸惑う政宗と小十郎。
「おい。一体どうしたんだ?」
近くに居た屋台の客の一人に小十郎が聞こうとすると…
「逃げるんだよ!このあたりももうすぐ戦闘地帯になるんだ!アンタ達も巻き込まれたくなかったら早く逃げろ!」
そう叫びながら客は他の人々達に続いて大通りを逃げていった。
あっという間に屋台の周りには政宗と小十郎だけが残った。
「政宗様…我々も退避した方が良いのでは……政宗様?」
そう言って小十郎が政宗の方へ顔を向けると、政宗は平然と食事を続けていた。
「政宗様?」
「小十郎。おめぇもしっかり食っとけよ。これから派手に暴れっからstamina付けねぇとな」
「……ッ!!?」
小十郎は政宗の行動に一瞬驚く。
「政宗様…まさか今の襲撃とやらの現場に赴くおつもりで?」
「事の仔細はよくわからねぇが…恐らく俺の胸をhotにさせるド派手なPartyが開かれているとみた…コイツは少しばかし遊んでいってみるべきだろ?」
「政宗様! お忘れではありませんでしょうが、我らはこの地について何も知らないのですぞ! それに政宗様の言うように“魔法”なる秘術がこの世界では当たり前というのであれば尚の事、無闇に火事場に乗り込むような真似は慎むべきかと…」
小十郎はそう忠言するが、政宗は眼帯で隠されていない左目をカッと見開き、小十郎を見つめた。
「だからこそさ! このFantastic WorldのParty…どんなものかそろそろこの目で確かめてみてぇものと思っていたんだよ。それに…」
「?」
政宗は遠くを見据えるように店のテレビに映った第五航空監視塔の現場の映像に目をやりながら、呟いた。
「俺の第六感が感じるんだよ…『あの場所に向かえ』っていう“龍の勘”って奴がな…」
政宗の眼差しをしばらく唖然と見つめていた小十郎であったが、やがて彼の心中を察すると諦めるように小さく溜息を漏らした。
伊達に幼少期より政宗の右目を務め続けてきた事はない。
こうなった以上、無理に引き止めても、逆に政宗を無茶な独断行動に走らせるだけでかえって面倒なことになってしまうのだ。
「…………わかりました。 では時間がありませんので手短に済ませましょう」
小十郎はそう言うと、再び腰を下ろした。
政宗はガツガツと食べ進めながら戦前とは思えぬ軽快な口調で呟いた。
「Ha! できれば、伊達の出陣前のtraditional eventとして“ずんだ餅”でもありゃよかったんだがな。あれを食ってから出陣すりゃ、いい気付けになったろうに」
政宗の言う“ずんだ餅”とは枝豆を茹で、薄皮を剥いて潰してこしたものに、砂糖と食塩を混ぜて作った“ずんだ餡”を搗きたての餅に絡めて食べる奥州ならではの夏菓子の事である。
伊達家では大事な戦に出陣する前夜などの宴席でこのずんだ餅を食べる事で軍内の士気と団結力を高めるという習わしがあったのだった。
「無理な事を言わないでください。こんな異郷の地で奥州独特の伝統菓子があるわけが…」
小十郎がそう言いかけた時、不意にテーブルに新たに2つの皿が差し出された。
そこに盛られていたのは鮮やかな黄緑色の餡のかかった餅…ずんだ餅だった。
政宗も小十郎も思わず目を丸くし、お互いの顔を見合わせてから、いつの間にかテーブル席の近くに立っていた皿を差し出したであろう人物に目をやる。
「…食う?」
そこにいたのは板前服を身に纏い、何故か顔の上半分に片角の折れた黒鬼の面を被り、歌舞伎の鏡獅子のような赤い長髪の付いた異様な風体の男が立っていた。
それは政宗達がこの屋台にやってきた時に厨房に立っていた男…即ち、この『鮨処 BUSHI堂』の
呆気にとられている政宗達に向かって、それだけを言うとまるで何事もなかったかのように、他のテーブル席に残っていた逃げていった客の食べ残した皿を片付けて回っていた。
「……なんであるんだ? ずんだ」
「…っていうか、あの店主…この騒ぎなのに、どうして逃げないのでしょうか?」
色々ツッコみたい事が山積みだった政宗と小十郎だったが、マスターのいろんな意味でただならぬ雰囲気と突拍子もない行動に呆気にとられるばかりだった…
そして数分後―――
「よし。じゃあ腹ごしらえも済んだし、行くか小十郎!!」
あれだけあった食事…勿論、マスターからの思わぬ計らいで用意して貰ったずんだ餅も含めてすっかり平らげた政宗は、軽く身体を捻らせながら立ち上がる。
「はっ! しかし政宗様。くどいかもしれませぬが、ここは未知なる土地…いつも以上に用心して行動してください」
小十郎がそう忠告すると政宗は不敵な笑みを浮かべる。
「Ah? もしもの時はお前が俺の背中を守るんじゃなかったのか?」
「無論、この片倉小十郎。如何なる未知の相手と刺し違える事となろうとも、命を賭けて政宗様の背中をお守りいたします!」
「Ha! その意気だ小十郎! I leave Ok? じゃあ行くか」
政宗は久々に味わう戦の快感と緊張に胸を躍らせながら、腰から外していた愛刀の六爪を身につける。
一方、小十郎は相変わらず屋台の裏で空いた食器を洗っていたマスターの下に近づいていき…
「主。使えるかわからんが、飯の代金はこれでなんとか勘弁してもらえるか?」
そう言って懐から小判を三枚取り出して、差し出すと、マスターは振り返らないまま、スッと屋台の傍にあるお品書きの書かれた立て看板の方を指し示した。
それに導かれるまま小十郎が看板に目をやると、メニューの下にこんな一文が記されていた。
『お支払いは、小判も可』
「………………」
「…払う?」
看板の内容に呆気にとられていた小十郎に、マスターがスッと立ち上がると改めて尋ねてきた。
「……なんで使えるんだ? 小判」
ますます謎めいたマスターと店の雰囲気に圧倒されそうにながら、小十郎は一先ず小判をマスターに渡すと急いで政宗の後に続いて駆け出した。
その場に残ったマスターは、やはり何も起きていないかのように、人っ子一人いなくなった大通りで仕事に戻るのだった。
*
「はっ!はっ!はっ!」
その頃…別の場所では、幸村が両手に愛用の二槍を手に、第五航空監視塔に向かって走っていた。
彼の走る大通りは反対方向から避難してくる民間人達でごった返しており、幸村はそんな人込みをかき分けながら進んでいた。
「真田の大将! 本当に行くのか!?」
すると幸村の数メートル後ろに佐助が現れ、通りの脇の店の屋根の上や街路樹、看板を飛び越えながら幸村の後を追う。
「当然だ! このような民を苦しめる愚かな敵にこの幸村。決して容赦はしない!」
「でも大将! さっき様子を見てきたけど、敵はどうも人間ではないようだぜ!それに『管理局』とかいう集団があの城みてえな建物の周辺を完全に包囲しちまってる!俺達が入れそうな隙間はどこにもなかったぜ!」
「何を言うか佐助!お館様の教えを忘れたか!!『無き道は無理矢理でもこじ開けろ』と!! 管理局なる集団が道を塞ぐというのならば!この幸村、連中を地の果てに飛ばしてでも進もうぞ!!」
幸村の言葉に、佐助は思わず顔を真っ青にする。
「ちょ…! 大将! だから何度も言ってんじゃない! ここは俺や大将も知らない土地なんだから、むやみに騒動は起すなって…」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! お館様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! どうかこの幸村をお守りくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
佐助の忠告に耳も貸さず幸村は全速力で第五航空監視塔へと突っ走って行く。
「んもぉぉぉ!! 大将ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 頼むから俺様にこれ以上苦労かけないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
悲痛な叫びを上げながら幸村の後を追う苦労人…佐助であった。
*
第五航空監視塔付近駐車場。
機動六課のヘリは今、そこを臨時のヘリポートとして着陸していた。
なのはは機動六課の代表として他の武装隊と連絡をとり、話し合い末に地上付近のガジェット達は武装隊が応対し、機動六課は主に建物内と建物の周辺上空を旋回するガジェットの相手をすることになった。
「それじゃあ皆、機内で説明したとおり、建物内のガジェットから対処していってね」
なのはがフォワードチーム。そして家康と順番に最終確認していく。
「「「「はい!!」」」」
「特に家康君は今回が初めての任務だから、気を抜いちゃだめだよ」
「あぁ!わかっている」
家康は自信を持って頷いた。
「皆、行くよ!」
なのはの号令を合図に、六課のメンバー達はそれぞれデバイスを掲げる。
≪Standby Ready≫
それぞれのデバイスから電子音が鳴り…
「「「「「「「セーットアップ!」」」」」」」
それぞれバリアジャケットを装着した。
家康も気合いを入れるべく拳を握りしめる。
すると家康の拳から黄金のオーラが輝きだした。
「家康さん!スバル達をお願いね」
「お前も気を付けるんだぞ!」
フェイト、ヴィータがそう言って声をかけると、なのはと共に空中にいるガジェットドローンの編隊へ攻撃に向かう。
その様子を見送った家康はスバル達に指示を出す。
「ではワシらも行こう! おそらく建物内も敵は大勢だ。皆、連携を崩すんじゃないぞ!」
「「「「はい!!」」」」
そして家康達はビルの裏口より、敵の入り乱れる建物へと侵入して行った。
今回の主な改変点はやはり、『リリバサ』屈指のカオスな集団(笑)聖王ザビー教会のメンバーに、教祖ザビーが未登場という点です。
正直、オリジナル版を執筆していて、ザビーサイドのメンバーはボケ役の宗麟、そしてカリムとツッコミ役のシャッハの3人がいれば、十分動かせる事がわかったので、ザビーには信玄、謙信、秀吉みたいな『後に控えし大玉』扱いとして登場はもう少し待ってもらう事にしました。
その代わりに宗麟、カリムの2人にはオリジナル版以上にカオス且つ破天荒に暴れさせてやろうと思っていますのでお楽しみに。