今回は掲示板の後に起こった出来事です
始まりは、ほんの出来心だった。
歳の離れた兄が買ってきたそのゲームは、海外へ出張という形で使われることなく机の上へ置いていかれていた。
遊びとは無縁に思えた兄が、使う機会を失ってしまったことを心の底から残念そうにしていたので、「どんなモノなのか」とそれに興味を持ったのが最後。
わたしはナーヴギアを被り——デスゲームに囚われた。
正式チュートリアルが終わり、黒鉄宮前の広場で約1万のプレイヤーたちは呆然としていたが、瞬く間に多重の音声が仮想の大気を震動させる。
その光景の中、わたしは足元がガラガラと音を立てて崩れ落ちる感覚に襲われた。
今までの努力を、ただの出来心で全て水の泡にした……自分の影が、責める様にわたしへ囁く。
こんな事件に巻き込まれるとは思わなかったとはいえ、兄のゲームを勝手に使ったのだ……自業自得だろう。
気がつけば陽は沈み、街路灯が照らす道を独り当てもなく歩いていた。
(これから、どうしたらいいんだろう)
兄ならばこの手のゲームに関して、多少の知識があるだろう。
携帯電話の無料アプリしかやったことのないわたしには、どうすれば安全を確保できるのかさっぱりわからない。
宿屋くらいは看板が出ているはず……そんなことを考えながら街中を彷徨っていると、金属同士が打ち合う音が聴こえた。
——もし、その剣戟が聴こえていなかったら、わたしは宿屋を見つけ、狭く暗い部屋に閉じこもって助けを待っていたかもしれない。
音のする方角へ足を進めると、小さな噴水のある広場で5、6人くらいの男性プレイヤーたちが剣を構えて、1人の少女プレイヤーに攻撃していた。
襲われている、と思ったのも束の間。
男たちは一人一人タイミングを見計らって剣を振るうも、その悉くを少女は弾き、受け流し、押し返す。
そして隙ができたところに鋭い一撃を与え、男たちは紫色の障壁と共に吹き飛ばされる。
「……凄い」
自分より年下に見える少女が、大人の男たち相手に無双する姿を見て、思ったことが口に出ていた。
剣の構え方から、恐らく現実でも武道、それも剣道の心得があるのだろう。
流れる様に剣を鞘に収めると、こちらに振り向いて、少女は目を丸くしていた。
「わ。すっごい美人……い、いやそうじゃなくて、コレには深〜い訳が……」
「……へ?」
「……と、いう訳なんです」
噴水側に設置されたベンチで少女……プレイヤー名【リーファ】は、ことの顛末を説明してくれた。
先ほど戦っていた男性プレイヤーたちはパーティを組んでいる仲間で、別行動中のプレイヤーを待っている間、少しでも体を慣らすために剣道を用いた戦闘演習をしていたらしい。
「……ということは、リーファちゃんたちは街を出るの……?」
「はい、おn……探索に出かけた人たちがこのゲームのβ版経験者で、『生きて脱出するには少しでも強くなるしかない』らしいので」
「——そう、なの」
わたしは愕然としていた。
彼女たちが外の助けを待つのではなく、自ら脱出しようと考えていることに。
そして何より……彼女の目に強い意志が宿っていることに。
同時に、わたしは自分を恥じた。
年下の少女が諦めていないのに、わたしは一体、何をしているのか——いや、何もせずにいていいのか。
そこでようやく決心がついた。
強くなろう、そして生きてこの世界から脱出しよう、と。
——そのためには彼女たちの協力が必要だ。
「……ねぇ、リーファちゃん。わたしも一緒に、連れて行っても大丈夫かな?」
「え、でも……」
「わたしも、生きてこの世界から出たいの」
わたしと彼女の視線がぶつかる。
最初は戸惑いながら見ていた少女だが、わたしの想いが通じたのか、「完敗です」と笑顔を見せる。
「でも、わたしやクラインさんたちじゃあ判断が難しいので、探索に出てる経験者の2人が帰ってこないと『まだやってたのか、リーファ』……あ、2人ともお帰り!」
どこか呆れたような少年の声が耳に届く。
向けた視線の先にいたのは金褐色の髪の少女と、黒髪の少年。
この2人が彼女の言っていた経験者だろう。
「オヤオヤ、見ない間に女の子が1人増えてるナ。リーちゃんの友達かナ?」
「えーと、クラインさんたちと稽古してるのを観てた人で、一緒に連れて行ってほしいそうなんですけど……」
リーファちゃんが質問を返すと、2人の表情が強張る……少年の方は、わたしを観た時から強張っていたような気がするが、見間違いだろう。
「んー参ったナ。あんまり人数が増えると危険が高まるからナー……どうする、キー坊?」
金褐色の髪の少女は少し困りつつも、どこか期待するような目で黒髪の少年を見やる。
少年は少し考える
「これはリーファやクラインたちにも確認したことだが……街の外に出るってことはモンスターに襲われたり、不測の事態が起こったり……最悪の場合は命を落とすことだってある。それでも君は付いてくるか……?」
少年の言葉には、「できれば来てほしくない」という考えが含まれているのがわかった。
見ず知らずの相手を犠牲にした時の責任が嫌なのか、それともわたしが心配なのか。
どちらにしろ、わたしのことを見くびっているように思えたので、少しカチンときた。
「危険なんて百も承知よ。それとも、素人は戦えないから邪魔って言いたいの? ……だったら強くなるわ。『生きて脱出するには少しでも強くなるしかない』のでしょう?」
リーファちゃんがあわあわしている様子を横目に、少年の反応を見守っていると、金褐色の髪の少女が急にお腹を抱えて笑い出した。
「ニャハハハ! キー坊、これは一本取られたナ。この子は何が何でも付いてくる気だゾ?」
笑いながら横腹を突く少女に観念したのか、少年は一つため息をついて、わたしに向き直る。
「わかったよ……ただし、無理だと思ったならすぐに言って、この街に戻ること。それでいいか?」
「構わないわ……でも、無理だなんて思わないでしょうけどね」
他人から見たらムスッとした表情になっているかもしれないが、それもこれも人を煽るような話し方をする彼が悪い。
少し険悪な空気になってしまったところで、リーファちゃんが一言。
「……え、あたしに言うの?」
「いやお前じゃないって、話のニュアンスでわかるだろ!?」
「あ、ごめんなさーい」と、リーファちゃんと少年が漫才のようなやりとりを始める。
その様子があまりにも自然だったので、思わずクスリと笑う。
「お、兄妹漫才は好評だったみたいだナ」
「……あ」
しばらく黙っていた少女に指摘されて、恥ずかしくなったもののすぐに気を取り直す。
……リーファちゃんと少年は兄妹だったのか、と思っていると少年がメニュー画面を操作しながら話し始める。
「それじゃあパーティ登録……の前に、自己紹介だな。リーファたちとは既にしてるだろうから俺たち2人の名前だな。俺は【キリト】、そしてこっちが……」
「【アルゴ】だヨ。よろしくナ!」
「……【アスナ】です。これからよろしくお願いします」
確かにわたしは、出来心で選択を間違えたかもしれない。
しかしその出来心が、彼らと……キリトくんと出会うきっかけを作ってくれた。
いつの日か、わたしは今日を懐かしんだ時、こう思うだろう。
「わたしの選択は、間違いなんかじゃなかった」と……
コテハンオンリーで観たいグループは?(内容は次回アンケートにて)
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主人公系
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原作キャラ系(主人公無し)
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原作キャラ系(主人公あり)
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オリキャラ系
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面倒だ全部混ぜやがれッ!