雷神へ贈る弾丸 作:ネームレス
読経と蝉の声と、風鈴の音が混じった一室。そこに二つの棺が横たわっていた。
──合同葬儀。
毎日夥しい数の死者が出ている今、その多くは無造作に積み上げられて燃やされるか、身元など関係なくまとめて墓穴へ放り込まれていた。
そんな中で葬式をあげてもらえているというのは、本来幸運なことなのだろう。
……ただ、
「お父さんとお母さんは死んでなんかいないッ!!」
両親を一度に失った少年に対し、『お前は幸福だ』などと言える者は、誰もいなかった。
少年はお経を遮るようにして叫び、お坊さんに掴みかかった上に棺の蓋を蹴り飛ばして暴れ始めた。
「ほら、みんな見てよ!
しかし誰もが少年を憐れみの目で見つめるだけで、信じようとはしなかった。
それを理解してしまった少年は鯨幕へ体当たりするように外へ────
「待て、蓮太郎」
「──ぁ、に……おじさん?」
「ハッハッハ、私もお祖父様と同じくおじさん呼びか……私は一応まだギリギリ二十代なのだが。
……と言っても、まだ
少年──蓮太郎が家を飛び出す前に止められたことで、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
ここ、天童家は地獄と化した日本──いや、世界全体の中で、数少ない安寧の地。逆に言えば、ここを一歩でも出れば無力な少年の命は風前の灯火も同然なのだから。
「……カズミツさんも、ボクを信じてくれないの?」
とは言え、幼い少年にそれを理解しろというのも無理な話。ここで返答を間違えれば、彼はきっとここを出るだろう。
「────あぁ、
蓮太郎の顔が失意に染まり、周囲の人々がギョッとした目で和光を睨む。
だが、彼の言葉はまだ終わってはいなかった。
「私は、己の目で見たもの以外は信じない。だから
「じゃ、じゃあ──!」
「あぁ。私が一緒に、お父さんとお母さんを探してやる。
だがその前に、お坊さんに謝らないとな。あの人は頼まれてここに来たんだ。しっかり『ごめんなさい』と言って、式を終わらせて、それから迎えに行かないと、お父さんとお母さんに怒られてしまうからな」
「うん、うん……!」
それから式はつつがなく進行し、少年は青年と共に各地を飛び回ることになる。
────そして式から二ヶ月後、日本は国民に『とある外敵』へ敗北したことを公式に宣言し、各地に設置された『外敵』を遠ざける特殊磁場発生装置──『モノリス』の間隔を狭めることで、自律防御の構えを取った。
日本に続くように、世界の列強国もモノリスを閉鎖。
日本は国土の大半を侵略され、大勢の死者と、その数十倍もの行方不明者を出した。
そうして二○二一年、人類は外敵──ガストレアに敗北した。
その間、彼等が何をしていたのかと言うと……。
「…………よしできたっ、これで文句はねぇですよねお師匠様!?」
何故か、仏像を彫っていた。
蓮太郎は己の作品を師匠──
「……ふん、まぁ及第点といったところか。
だが、それはそれとして──フンッ!」
「イ゛ッ!? 何すんだよジジイッ」
「言葉遣いがなっとらん。それでは立派な政治家になれんぞ?」
「うぅ〜、政治家になる気はないと、何度言わせるのですかお祖父様……」
叩かれた頭をさすりながら、蓮太郎は言葉に注意しつつ文句を言う。
その様子をたまたま見ていた少女──木更は、顔を赤くして大声を上げた。
「あーっ、またお爺ちゃんが里見くんを虐めてる! お兄様〜っ!」
「き、木更……これは虐めではなくだな……?」
「ハッハッハ……こうなった木更は聞く耳を持ちませんよ、お祖父様。
しばらくそこで大人しくしていてください。
──さて蓮太郎、稽古を付けてやる約束だったな。ついて来い」
「よっしゃ!」
「お兄様お兄様っ、私にもお願いします!」
「木更よ、抜刀術なら私が──」
「……フンッ」
「──グハッ」
そうして
「……いつ見ても、この感覚には慣れんな」
天童家の屋敷は洋風建築にも関わらず、敷地内に存在する道場は古き良き伝統工法を用いた木造建築である。
……とは言え、今は和洋折衷も当たり前に受け入れられる時代であることを考えれば、それほどおかしな話でもないのかと、和光は一人納得する。
そして道場に入った彼は振り返って構え、後から入ってきた二人と対峙した。
──天童式戦闘術『百載無窮の構え』 天地は永久無限の存在であることを意味する攻防一体の型。
「さぁ蓮太郎、木更、胸を貸してやる。何処からでもかかって来い──!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
──和光達と別れてからすぐ、菊之丞の携帯が着信を伝えた。
相手は天童
「……私だ。何があった」
『内密かつ可及的速やかに、お耳に入れていただきたい案件が。申し訳ないのですが、私の部屋までお越し下さい』
「……分かった。今行く」
──天童の闇が、動き始めた。