NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION 作:ASNE
ある老人たちが画策した、人を群体から単体へと戻し、行われようとした人の心の補完。それは、思わぬ形で成ることはなかった。人類の母たるリリスはその形を失い、地球からもっとも栄えた生物であるリリン―人類は赤き海と化し、浜辺にたった一組の少年少女が残された。この世界の形を変えたサードインパクトの引き金を引いた少女と、その依り代となった少年。彼らは自らの過ちを呪い、嘆き、そして決意した……。
ある少年は願う。失った暖かい拠り所を、家族を取り戻したい。己の心をさらけ出して、見知らぬ人と、世界と触れ合ってみたい。
ある少女は願う。己が過去に捨て去った全てを拾い上げたい。自らが見ようとしなかったものを、見て回りたい。
ある少年は願う。ヒトとして、生きてみたい。たとえ己の創造主の意に反していたとしても、己の願いに殉じたい。
ある少女は願う。知りたい。心とは、感情とは一体何なのか。ヒトが生きる意味は、何なのか。たとえ、どれほど長い時をかけたとしても、その答えを見つけたい。
彼らの願いを受け、新たな巨人が目覚める。天上人たちに、その牙を剥くために……。
碇シンジ。国連直属の特務機関NERVの司令、碇ゲンドウの実の息子であり、それと同時に汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオンの試作機、エヴァンゲリオン初号機の適格者、サードチルドレンであった。
彼は紆余曲折あってその心を摩耗させ、大切な人たちを全て失い、その心は欠けた。それを待っていたゼーレは初号機とロンギヌスの槍、九機の量産型エヴァンゲリオンを用いてサードインパクトを起こし、人類の心を補完しようと試みた。
―だがその試みは、また人と触れ合うことを望んだシンジが母に別れを告げたことで完全に破綻。L.C.Lに人が溶けたものの完全な補完は為されず、彼ともう一人だけが人としての形を取り戻した。そのもう一人とは、惣流・アスカ・ラングレーである。
彼はサードインパクト中の全てを覚えているわけではないが、彼女と触れ合ったことは覚えていた。心と心を触れ合わせ、しかし一つになることは拒絶された。その触れ合いを覚えているか定かではないが、シンジは赤い波が打ち寄せる砂浜で目覚め、その隣に横たわる少女を見て激しく混乱し、心中に彼女に対する様々な感情が溢れ出す。彼女への愛、もう一度会えたことに対する喜び、拒絶されたことへの怒りや悲しみ、彼女ともう一度触れ合うことへの不安、恐れ。ごちゃ混ぜになった感情が無意識に彼を突き動かし、シンジはアスカの首を絞めてしまう。
(アスカ、アスカ、アスカ!僕は、僕は……)
そうしていること少し。アスカが彼の頬に手を触れた。
シンジの心は決壊し、手を離して泣き崩れた。
惣流・アスカ・ラングレー。ドイツが誇る天才であり、ネルフのエヴァの適格者の中ではもっとも高い能力を誇るセカンドチルドレン。
しかし、その実は彼女の心は脆く、エヴァが彼女にとって全てで、依存していた。そんな彼女のプライドは、粉々に打ち砕かれた。砕く原因となったのは、同じエヴァパイロットの冴えない少年、碇シンジ。己が敵わなかった使徒を三体も単独で連続撃破し、そんな彼に彼女は嫉妬した。彼に近づいていた心は完全に離れ、憎しみさえ抱いてしまう。使徒に心を覗かれたことで、彼女の心は完全に崩壊。
戦自侵攻の折求めていた母の存在に触れたアスカは仮初の復活を果たすものの、九体の量産型エヴァに蹂躙され、食い荒らされて生死不明となる。その惨状を目撃したシンジの慟哭をトリガーとし、サードインパクトが発動。その最中、アスカはシンジの心に触れた。その心の内を知ったアスカは、己の奥底に眠っていた感情に気付かされる。―彼への思慕、独占欲。彼女は混乱し、彼と一つになることを拒む。
「アンタと一つになるなんて、死んでも嫌」
そして人として形を取り戻した彼女が最初に目にしたのは、己の首を絞めるシンジの姿。その姿からアスカは何かを察し、手をシンジの頬に触れさせた。
(……もういい。アンタを、赦す)
シンジは次の瞬間手を離して泣きじゃくる。シンジを見つめるアスカ。彼女の中に生まれた、おそらく再構成されたばかりの肉体からの生理的反応。彼女は、無意識にポツリと言った。
「……気持ち悪い」
この小説の主人公は碇シンジ、そしてヒロイン兼もう一人の主人公は惣流・アスカ・ラングレー。つまりカップリングはLAS。アスカ以外にヒロインキャラを登場させる予定は一切ありませんので、ご了承ください。では、また次回で。