NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION 作:ASNE
シャムシエル撃破から数日後、シンジはアスカと共に第三新東京市内の病院を受診した。シャムシエル戦時にシンジに起きたフラッシュバックと、アスカがたまに見るようになってしまった悪夢。自分でも自分は正常な状態ではないと分かっていた二人は、迷わず病院の診察を受診。その病院の精神科の先生から受けた診断はというと……。
「PTSDと悪夢障害!?」
そこは、シンジたちが暮らすコンフォート17の部屋。来日してすぐ越してきた加持は角のミサトの部屋のすぐ傍に一部屋借りて壁を取り払い、シンジを自分の部屋の側に引き取った。そしてさらにもう一部屋その隣に借りてレイを住まわせ、そことの壁も取り払ってもらった。そして基本的に朝食と夕食はミサトの部屋で五人一緒にとることにしており、その夕食の席でシンジとアスカは病院で診断された自らの疾患を報告していた。
「みたいです。……やっぱり心の傷って、そう簡単に癒えるものではないですね」
「……で、お医者さんの診断は?」
加持が心配そうに向かい側に座る二人に尋ねる。シンジたちは気丈に振舞ってはいたが、その心の内は決して穏やかではない。
「一か月に一回のカウンセリング。アタシはそれに加えて悪夢を見た時用の睡眠導入剤」
アスカは、取り出した薬の入った袋をゆらゆらさせながら見せた。
「……ま、分かってたわよ。アタシらが心に受けた傷は、早々に癒えるもんじゃない。少しずつ癒していくしか、道はないのよ」
アスカの言葉が意味することは、心に傷を抱えた状態でシンジとアスカは使徒と戦い続けるということ。
「……それで、本当にいいの?」
子供たちから前史で彼らが辿った運命を知るミサトは、心配そうに確認を取る。一度は心がボロボロになってしまった少年少女を再び戦いに送り込むことになってしまうために、ミサトの心の内は罪悪感で一杯であった。それは加持も同様である。
「いいも何も……それ以外に僕たちが生き残る道はありませんから。……今度こそ、皆で生き残るんです」
ラミエル襲来までも、束の間の平穏。その穏やかな日々を謳歌する中、綾波レイの心は少しずつ変化していた。彼女はかつて前史で、第十六の使徒アルミサエルに乗機を侵食され、エヴァ初号機―シンジを守るために自爆。三人目となってしまったためその記憶の大部分を消失してしまった。それに付随して学んできた感情の大半も喪失してしまい、今のレイはかつての彼女のようにまっさらな心を埋めていっている状態であった。
(どうしてあの二人は、いつも通りに振舞えるの?)
この前保護者である葛城一尉や加持一尉と共に、シンジとアスカが心に負っているダメージのことを聞いたレイ。そのダメージが生易しいものではないことは、感情が未だ乏しいレイでも分かる。だからこそ、それでもいつも通りに振舞えるシンジとアスカの姿を見てそう疑問に思ってしまうのだ。
放課後、掃除当番であるシンジたち三バカを残してレイとアスカは帰宅の途についていた(ヒカリは途中で夕飯の買い物のため別れた)。
「……聞いてもいい?」
「ん~?」
レイはいい機会だと思い、ここ最近疑問に思っていたことを聞くことにした(退院して一緒に暮らすようになってから、アスカによく面倒を見てもらっていたレイは前史よりも彼女との距離が縮まっている……気がしていたため、アスカを選んだ)。前を歩いていたアスカは歩くスピードを緩め、レイの隣に並んだ。
「どしたの?」
「……どうしてあなたたちは、そこまで平静で居られるの?」
「……ああ、そのことか」
アスカは静かに微笑み、空を見上げた。
「心の傷を癒せるのはね、自分自身の明るい気持ちなのよ。アタシもシンジも、前は送れなかった楽しい日常を満喫することで少しずつ前に進んでる。……ま、シンジの場合はトラウマの一つが傍に居るから何とも言えないけど」
「……鈴原クン」
「そ」
アスカはそこで立ち止まると、すぐそこにあったたい焼き屋さんに駆け寄って二つ購入し、戻ってくるとレイに一つに手渡した。
「今回は上層部が完全に味方だから、多分大丈夫だと思うけどね。……レイのことも、多分トラウマの一つだけど」
「私?」
二人はたい焼きを食べ歩きしながら、会話を続けた。アスカはたい焼きを頬張りながら、レイに向かって笑いかけた。
「目の前でアンタが自爆しちゃったから。……アンタには代わりが居るからなんて、絶対に思わないでよ?レイはレイしかいないんだから、一人の人間として、生き抜いて欲しい。これは、アタシとシンジ両方の願いよ」
「……。まだ私は、自分の心すらも理解出来ていない未熟な存在。それでも、生きていていいの?」
「あったり前でしょ!アタシだって、まだまだ子供だもの。自分の心を理解しきれてないのは、アタシらみんな同じ。だから、レイが気にする必要はないわ」
レイはぱくりと一口たい焼きを齧り、ポツリと言った。
「……そう。もっと生きていたいのね、私は」
一方シンジは、トウジやケンスケたちと一緒に教室の床を箒で掃いたり、雑巾で窓を拭いたりしていた。シンジが窓を雑巾で拭いていると、箒と雑巾を使って野球の真似事をしていたトウジが話しかけてきた。
「なあ、シンジ」
「ん?」
「なんかたまーになんやけど、ワシの方を見てビクついとらんかったか?」
「!」
シンジは思わず雑巾を動かす手を止めてしまう。トウジはケンスケが投げた丸まった雑巾を箒でポンと打ち返しながら、話を続けた。
「センセが何か抱えとるっていうのは、ワシらも薄々察しとる」
「……ごめん、トウジ。別に大したことでもないんだけど……まだ僕の中で整理が付いてないんだ。……いつか話すと思うから、それまで待っててほしい」
「……ほうか」
その後は、彼らは表面上は普段通りの会話をしたものの、シンジの心にはさざ波が立っていた。
シンジとアスカが抱える心の傷。それらを負わせた出来事をどう乗り越えていくのかが、今後の課題となります。そして心と言えば、最大の敵となる使徒が一体……。
本作においてレイの記憶は自爆の影響で虫食い状態になってしまっており、心もまた一から育て直しています。シンジや、前史でレイとの関係が最悪だったアスカは特にレイの面倒を見ており、まるで姉妹のよう。レイもシンジやアスカを兄・姉のように慕っています。
まだ幼いながらも、恋人として甘い時間を過ごすシンジとアスカ。
だがしかし、使徒は待ってはくれない。
襲来した第六の使徒ラミエルは、前史よりも強大な力を振るい、NERV本部に迫る。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「Climax Point One」
さぁーて、次回もサービスサービスゥ!