NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION   作:ASNE

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The Voyage(後編)

日本を出たシンジたちの飛行機がドイツに着くと、日本では午後だがこちらでは朝。日本とは八時間の時差がある。空港で入国手続きをした後、三人がまず向かったのはアスカの実家。ドイツに滞在する間、シンジとアスカはここに滞在することにしているのだ。加持が運転する車の後部座席では、緊張でシンジがカチンコチンになっており、隣に座るアスカは苦笑してその横顔を眺める。

「緊張してる?」

「……うん。だって、それはそうだろ?初対面だし、しかも大切な人の両親だ。む、娘さんを僕に下さいって言わなきゃ……」

「それはまだ気が早いでしょ。アタシらが結婚する時でいいんじゃない?……そんなに心配しなくても大丈夫よ」

「でも……」

「アスカ、こういうのは男の方が緊張しまくるものなのさ。娘の両親からすれば大事に育てた娘を、赤の他人である男が掻っ攫うんだからな」

「そっか……」

顔を少し後ろに向けて振り返りながら楽し気に言った加持の言葉に、ふうんといった感じの表情を浮かべるアスカ。

 

 

 

そして加持の車がアスカの両親の家の前に停車し、シンジは緊張で心臓がバクバクしながらもアスカに背中を押されて車から降り、恐る恐る玄関のインターホンを押した。

『はーい!』

バタバタと足音がして、ガチャリとドアを開けて現れたのはアスカの継母。

『どちらさま?』

ドアを開けた先に固まっている少年、シンジの顔を見たアスカの継母は一瞬驚いた後満面の笑みを浮かべた。

「……シンジクンネ?」

たどたどしいながらも日本語で話しかけてきたアスカの継母に、シンジは慌てて挨拶をした。

「は、はい!い、碇シンジです!」

『どうぞ、入って』

アスカはニコリとほほ笑んだ後、三人を中に案内した。中にはスーツ姿で、今から仕事に出かけようというアスカの父が。

『ん?……君が、碇シンジ君か」

「はい、はじめまして」

彼は仕事カバンを持つとシンジとすれ違いざまに、頭をポンと叩いた。

「娘を頼む」

「……はいッ!」

アスカの父は微笑むと玄関のドアから出て行った。

『良かったわね、アスカちゃん』

『……うん、ありがとう。お父さん』

『いいお父さんだな、アスカ』

「……ありがとうございます。必ず、アスカは幸せにします」

 

 

荷物を置いてNERVのドイツ支部に来た三人が向かったのは、弐号機の格納庫だ。そこに立つ弐号機は―シンジたちが知るものよりもごつくなっていた。

「これが、弐号機の水中戦用装備……」

「へえ、悪くないじゃない」

「リッちゃんの趣味全開って感じだな」

弐号機の全身に水圧に耐えられる強度を持った強化装甲が装着され、背部には水流ジェットエンジンと思しき推進機関が。両腕には三対のクロ―、腰部マウントラッチには水中仕様にカスタマイズされたショットガンがマウントされている。この装備は使徒全ての資料を渡されていたリツコが一か月弱で設計し、ドイツ支部に丸投げされて七月から突貫で完成させたものである。整備員たちの顔色は疲労が色濃く、隈も出来ていた。

 

 

 

 

数日後、久しぶりの弐号機の起動実験である。アスカがプラグスーツに着替えて改修された弐号機W型装備とシンクロする中、シンジと加持はとある一室を訪れていた。

「アダム……」

「これが、胎児の状態のアダムか」

シンジと加持の真正面の壁のど真ん中に、化石の展示のように硬化ベークライトで固められたアダムが置かれており、少し離れたところにあるのは最終手段の小型のN2爆弾だろう。

加持が壁からアダムを取り外し、トランクケースの中に放り込んだ。

「これで目的は達成、ですね」

「ああ。こいつを日本に持ち帰れば、任務完了だな」

 

 

 

三人が日本に帰国する前日。シンジとアスカの二人は朝から出かけていた。花屋で花束を買った二人が向かったのは……アスカの母、惣流・キョウコ・ツェッペリンの墓だった。母の魂は未だ弐号機の中にあるため、肉体のみが入っている墓に行くのは少々ん?とはなるが気持ち的に行っておきたかったのだ。花束を墓に備えた二人は手を合わせた。

「ママ……ありがとう、守ってくれて」

「キョウコさん……ありがとうございました。僕は、碇シンジ。……娘さんは、僕と共に前に進みます」

「アタシたちが、絶対世界を守ってみせる。見てて……ママ」

 

 

 

そして、帰国する当日。荷物をまとめ、出発する二人をアスカの両親が見送る。

「一週間、本当にありがとうございました!……必ず、結婚報告をしにまた来ます」

「!?」

シンジの予期せぬ発言にアスカの頬がぽっと赤くなり、アスカの父は眉はピクリと動かし、アスカの継母はアラアラと頬を抑えた。

「ちょ、シンジ!?と、兎に角全部終わったら又帰ってくるから!それじゃあね!」

「お世話になりました!」

二人は加持の車に乗り込み、艦隊の停泊している港に出発していった。彼らに向けて手を振って見送るアスカの両親。

『いい男を見つけたな、アスカ。……頼んだぞ、シンジ君』

『必ず、帰ってきてちょうだーい!』

 

 

 

そして、前史のようにヘリからミサトが降り立った。違うのが、シンジが空母に居ることと、加持が出迎えに出ていることだ。

「ミサトさん、ただいま!」

「戻ったわよ、ミサト!」

「ただいま、葛城」

「はいはいおかえり。こっちではなーんにもなかったわ」

 

 

そして、艦橋に入ったミサトは艦長に弐号機の非常用ソケットの仕様書を手渡した。……その艦長の機嫌はかなり悪いが。

「こちらは、非常用ソケットの仕様書になります」

「海の上であの人形を動かす要請など聞いとらんが」

「万が一ということ……いえ、十中八九使徒はエヴァに向けて襲い掛かってきます。その時唯一対抗できるエヴァの起動が出来なければ、我々は船と命運を共にするでしょう」

「……我々では役不足だと?」

「いえ……そうではありません。普通の脅威ならばこの艦隊で十分です。……しかし、使徒ははっきり言って常軌を逸しています。皆さんの命を、無為に失わせる訳には参りません。……どうか、よろしくお願いいたします」

ミサトはそう言ってがばりと頭を下げた。それに面食らう艦長たち。

「艦長、どうか聞き届けちゃくれませんか?エヴァが直ぐに動ければ、この艦隊の損害も軽微で済みます。ご一考を」

加持もそう言って、ミサトの隣で頭を下げた。

「……分かった。好きにしたまえ」

艦長はミサトから書類をひったくると内容に目を通し、サインをして突き返した。

「「ご配慮いただき、感謝いたします」」

 

 

 

 

シンジたちはプラグスーツに着替え、エントリープラグに入って使徒襲来を待つ。……そして、遠くの方から水中衝撃波の音が。

「アスカ!」

「分かってる!エヴァンゲリオン弐号機、起動!」

日本語で立ち上げられた弐号機のシステム。立ち上がった弐号機は背部スラスターから白煙を噴出しながら上空に飛翔した。

「「エヴァ弐号機、着艦しまーす!」」

「切り替え終了ッ!」

周囲の空母に配慮しながら、空母『オーバー・ザ・レインボウ』に衝撃を起こさず着艦した弐号機はソケットを接続すると、海面から弐号機に噛みつかんと巨大な口を開いて弐号機に襲い掛かる。

「舐めんなッ!」

弐号機は両手に構えた二丁のショットガンをその開いた口に叩き込み、ガギエルは口内から真っ赤な体液を噴出し、悲鳴を上げて海に飛び込んだ。

「アスカ!」

「逃がすかってーのッ!」

弐号機もすかさず使徒を追って海に没し、使徒を探す。

「落ちたぞ、大丈夫なのか!?」

「問題ありません!あの弐号機は水中戦用装備ですので!」

「それよりも艦長、脱出した船員の救助を!」

「わかっておる!各フリゲートには救助作業を急がせい!」

『はッ!』

一方その頃、太平洋の海の中では弐号機とガギエルが激しい水中戦を繰り広げていた。

「こいつ、ちょこまかとッ!」

「アスカ、来るよ!左三時方向!」

「こなくそッ!」

ガギエルは前史よりも増したスピードで海中を動き回り、なんと水流のブレスを放ってきたのだ。そのため弐号機はスラスターで回避行動を取ってからショットガンを撃っており、どちらもヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けていた。弐号機の攻撃は何発か命中しているもののガギエルの勢いは衰えず、血を所々から垂れ流しながらも弐号機に襲い掛かってくる。今回も命中したものの……体表を抉るのみだった。そして……

「アスカ、残弾ゼロだ!」

「やっぱ中から行くしかないか……」

アスカは弾の無くなったショットガンを投げ捨て、両腕の手の甲に装着されたクロ―を構えた。水流ブレスを放ちながら突撃してくるガギエルのそのブレスの中心、所謂台風の目に向かって、弐号機は体表にA.T.フィールドを纏いながら突撃していく。

「「はああああああッ!」」

緑の四ツ目を光らせながら突撃する弐号機。ガギエルも危険を察知したのか口を閉じようとするが、A.T.フィールドで強化されたクロ―に口を引き裂かれ、口内に侵入を許した。

「ぐうッ!」

「アスカ、装甲が……!」

ガギエルもただでは転ばず、酸を分泌してコアへの到達を阻もうとする。弐号機はその酸に増加装甲を溶かされながら、何とかコアに辿り着いた。

「もういらないわよね。装甲パージ!」

追加装備を排除した弐号機。アスカは弐号機の真の力を解放し、コアに喰らいついた。

「ガアアアアアアアアッ!」

顎部装甲を損壊させ、ガギエルのS2機関を捕食していく弐号機。

「これで、終わりッ!」

「行け、アスカ!」

LCLに溶けないようシンクロ率を必死に制御しながらも、アスカは弐号機に最後の一口をかぶりつかせた。完全にS2機関を取り込んだ弐号機は雄叫びを上げながらガギエルの中から脱出。こうして第七の使徒ガギエルは殲滅され、弐号機はオーバー・ザ・レインボウに回収され、日本に帰り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




襲来するイスラフェル。未だ修理の完了しない初号機に代わり、零号機と弐号機が対処することに。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「Sun and Moon」
さあて、次回もサービスサービスゥ!

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