NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION 作:ASNE
ガギエル殲滅後、シンジ、アスカ、レイは再び普通の学校生活を送り始めた。前で味わうことの出来なかった何気ない日常。シンジとアスカは心の奥底に痛みを抱えながらも、学校生活を続けていた。
「センセたちは宿題は大丈夫なんか?一週間ぐらいドイツに行っとったさかい」
「うん、その辺は問題ないよ。先に出してもらってたし、向こうでもやってたしね」
「そっか。……少し雰囲気が変わったな、碇」
「え、そうかな」
登校するシンジたちは男子組と女子組に分かれ、談笑する。
「……ヒカリ、今度また料理教えてほしい」
「あ、アタシもアタシも!」
「碇君じゃなくていいの?」
「知らぬ間に上達して驚かせたいのよ」
彼らが日常を謳歌する中、関係ないとばかりに使徒はやって来る。
「巡洋艦はるなより入電、紀伊半島沖に潜行する巨大な影を確認!」
「パターン青、使徒です!」
「非常事態宣言の発令、及び関係各所への伝達完了しました!」
「了解、第三新東京市の機能復旧は未だ完了していないため沿岸部で迎撃します。指揮車両の用意を。エヴァ零号機、弐号機共にB型装備でスタンバイ。……加持君、ここはお願い」
「お任せを、葛城作戦本部長」
使徒迎撃のため、使徒が上陸すると思われる沿岸部に到着した指揮車両。登場機体である初号機の修復が未だ完了していないため、シンジも指揮車両に同乗している。
「いい二人とも、けっして無理はしないで。倒せないと分かったら一旦引きます」
『分かってるわよ、ミサト』
『了解』
「では、攻撃開始ッ!」
ミサトの命令と同時に完成した新型武器、ソニックグレイブで使徒イスラフェルに切りかかる弐号機。
『チェストォォォォ!』
ソニックグレイブの刃がイスラフェルを頭から一刀両断にする。この流れは前と一緒だ。
(さて、どうなるんだ……)
前でどうなったか知るシンジが見守る中、事態は推移してゆく。
「さって、どうなるかしら……」
ソニックグレイブでイスラフェルを一刀両断した後、油断せず弐号機に距離を取らせるアスカ。すると、イスラフェルは予測通りに分裂して二体に増殖した。
『分裂した!?』
『ぬわんてインチキ!』
「やっぱ分裂するか……レイ!」
『任せて』
二号機が飛びのくと同時に零号機がパレットガンで交互にほぼ間髪入れずに二体のコアを射撃するも、撃破することは叶わず瞬時に再生してしまう。それに加え、パレットガンの攻撃が効果が無くなってしまった。
指揮車両に同乗していたリツコは、冷静にその能力を分析する。
「やはり、同時に攻撃しなければ倒せないようね。しかも、一回受けた攻撃は意味をなさないから新しい攻撃手段を使わなければいけない」
リツコがそう言ってミサトに目配せし、既に察していたミサトはすぐに決断した。
「これ以上攻撃を続行しても無駄よ。現時刻を持ってNERVの作戦指揮権を一時放棄、国連軍に一時譲渡します。二人とも、急いでそこから離れてちょうだい。N2が来るわよ」
『りょーかい』
『了解しました』
弐号機はソニックグレイブをぶん回して二体に分裂した使徒を弾き飛ばすと、零号機の援護射撃を受けながら沿岸まで後退してゆく。それでも近づこうとしたイスラフェルをA.T.フィールドで強化したソニックグレイブを投げつけて沖合まで後退させ、そこに国連軍が間髪入れずに新型N2爆弾で爆撃した。体表が焼けこげ、機能停止する二体のイスラフェル。NERVはそれを見届けながら、本部に引き上げてゆく。
この日、NERVは事実上初の敗北を喫した。
NERV本部に帰着すると、発令所の面々が集まり早速対策を立て始めた。
「厄介だな」
「はい、冬月副司令。あの使徒を倒すには、二体のエヴァの同時荷重攻撃でコンマ数秒の誤差で仕留める必要があります。日向君、目標が活動再開するまで後何日かかるかしら」
ミサトの意を受けた日向がキーボードに指を走らせ、再侵攻までの時間を計算した。
「このペースだと、おそらく六日後には活動再開するかと」
「六日か……時間がないな。リッちゃん、それまでに第三新東京市の復旧は終わるか?」
「正直、厳しいところね。どこか誘いこむポイントを決めるしかないわ」
「それよりも、アスカとレイの息を出来る限り合わせないと……加持君、ちょっと手を貸してくれる?」
「ああ。シンジ君にも協力してもらおう」
ミサトと加持は急いで帰宅し、先んじて帰宅していた三人を集めた。
「シンジ君とアスカは覚えていると思うけど、今回の使徒は二体同時の荷重攻撃で仕留めなければならないわ」
「二人は一回経験しているが、残念ながら初号機の修復は間に合いそうもない。だから、アスカとレイにやってもらう」
加持が取り出したのは、今回のプログラムが入ったカセットテープだ。
「俺たちは邪魔になるから本部に戻って第三新東京市の復旧に全力を注ぐ。シンジ君は、二人の健康管理の面からサポートを頼む」
「はい、食事の献立は二人に合ったものに合わせます」
「すまんが頼む。俺たちはすぐに本部に戻る。必要な機器は後で届けさせるから、それまで出来ることを始めててくれ」
「「「はい!」」」
「お願いね、二人とも。シンジ君、後はヨロシク」
「わかりました。ミサトさん、加持さんも頑張ってください」
ミサトと加持は山積みになった書類仕事を片付けるためNERV本部にトンボがえりしていった。そしてアスカとレイは、シンジのサポート下で学校を休み、ユニゾンの訓練を始めた。
アスカとレイのユニゾン訓練は、思った以上にスムーズに進んで行った。もともと同居しており、一緒に居ることの多い二人である。特にアスカはレイを妹のように大切にしていたため、心を通わせるのに支障はなかったと言えるだろう。二人は一緒に歯磨きやお風呂、シンジから借りたS-DATで聴く音楽、食事、洗濯物干し、ツイスターゲームなどで呼吸を合わせていった。
そんな三日目の夜のこと、二人はリビングに布団を敷いて横になっていた。
「レイ、まだ起きてる?」
「……うん」
「ごめんね、眠いのに。ちょっと話したいことがあってさ」
アスカはレイをベランダに誘い、冷蔵庫からレイに渡すジュースと……自分が飲む用のビールの缶を取り出した。
「いいの?碇君に怒られない?」
「こんぐらいへーきよ。……それに、飲まなきゃ話せそうにないし」
二人はベランダに出ると、夜空に浮かぶ月を見上げながら缶を開け、飲み物をすする。しばらくの間、二人は黙って夜空を見上げた。その沈黙を破り、アスカは静かに語りだした。
「……今だから言える話だけどね」
「?」
「……レイは覚えてないかもしれないけど、アタシは前の時はレイのことが嫌いだった。お人形さんみたいだったし、アタシと違って碇司令に曲がりなりにも大事にされてたしね」
「……」
「今思えば、アタシがレイのことを嫌いだったのは自己嫌悪だったんだと思う。自分の姿が重なって見えてしまって……。すっごく後悔してる。レイは何も悪くなかったわ。真っ当なヒトとしての生き方を知らなかったんだから……。だから決めたの。レイに居場所を見つけてあげたい、真っ当なヒトとして生きさせてあげたいって」
アスカはレイの顔の方を向くと、そっと微笑んだ。ビールを飲んだ影響でその頬は紅潮している。……ビールだけのせいとは限らないが。
「レイは、必ず私が守る。……約束、する……」
アスカは言い切ることなく、突如レイの肩に寄りかかって眠ってしまった。酔いが回ったのもあるし、これまでに溜まっていた疲れもあったのだろう。レイは驚き慌てたが、アスカをそっと支えた。
「……ありがとう、お姉ちゃん」
「……まったく、お酒は飲んじゃダメって言ったのに」
「碇君?」
シンジがベランダに現れ、優しくアスカを抱き上げた。どうやら影から見守っていたらしい。
「アスカは引き取るよ。お休み、レイ」
シンジはアスカをお姫様抱っこするとベランダから引き揚げてゆく。レイの視界から消える直前、シンジはぼそりと呟いた。
「……お兄ちゃん、って呼んでくれると嬉しいかな」
レイにはそれがしっかり聞こえていたらしく、赤面した。
「……もうちょっと待ってほしい」
NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
EPISODE9 BROTHER, SISTER