NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION 作:ASNE
シンクロテストを何とか怪しまれずに切り抜けたアスカは、更衣室で私服に着替えると軽く何か食べようと食堂に向かっていた。その途中の通路で壁に寄りかかって待ち構えるのは、加持リョウジ。
(加持さん?……もしかして、気づかれた?)
内心若干冷や汗を掻きながら、加持に駆け寄るアスカ。
『あ、加持さん!どうしたの?』
『いや、大したことじゃないんだが……』
昔の自分のように加持に腕を絡め、小首を傾げるアスカ。
(やっぱ、全然嬉しくない。……ホントに好きじゃなかったんだ、アタシ)
『どうして、さっき笑ってたんだ?』
『!』
アスカはばっと腕を放し、加持と距離を取る。加持の瞳は、飄々としている普段とは打って変わって真剣なもの。……真実を探る、男の目だ。
「……笑ってた、アタシ?」
(さっすが加持さん。アタシの無意識の笑みで感づくとは……やはり只者じゃないわね)
「!ああ。口元にほんの少しだけだがな」
(日本語!?可笑しい。アスカはまだそこまで流ちょうに話せないはず。こりゃ、本気できな臭くなってきたぞ……)
「……流石加持さん、鋭いわね。……今は、まだ話せない。ここでは、目が多すぎるから。
「!どうしてそのことを……」
アスカは加持の言葉を遮るようにして、彼の耳に背伸びして口を寄せる。
「……人類補完計画」
「!」
「もうちょっとしたらアタシたちの知る秘密を全て、教えてあげる。だから、今は我慢して」
アスカは囁くのを止めて、加持の手を取って走り出す。
「お、おいアスカ!?」
『ほら、行こ?』
アスカはまるで何事もなかったようにドイツ語に戻すと、加持を引っ張って食堂に走り出した。
レイが目覚めたのは、自分の病室であった。全身の痛み。朧げに記憶にある零号機の起動実験失敗による後遺症だと、レイは理解した。
(そう……戻ってきたのね、私は。……でも、私は覚えていない。……三人目だから)
時間遡行の成功を理解すると同時に、自分が三人目の綾波レイであることを自覚させられてしまう。
(私は、何がしたいの?)
自問自答するレイ。今まで(二人目の記憶というか、記録のような感覚)、命令に従うのみで自分の意思で何かしよう、と思ったのはサードインパクトを起こした時のみ。その未来を変えるために、そしてヒトとして自分は何がしたいのか。レイには、まだわからない。レイはゆっくり首を振り、意識を切り替えた。
(この後は、確か碇君が拒絶して私が呼び出されるはず)
無表情ながらも、若干そわそわしながら呼び出されるのを待つレイ。……だが、いつまで経っても自分をケージへと運び出す人間が来ない。
(……どうして、来ないのかしら)
そのままただ待ち続けるレイ。そして脈絡もなく、あることを思い出した。
(碇君も、戻ってきているから……私は呼び出されない?)
ヒトとして生きている時間が短いためか、何処か天然なレイであった。
シンジは前回と同じく軽くエヴァの操縦について説明を受けた後、前回と同じくインターフェイスのみを付けてエントリープラグに入る。操縦席のシートに座り、目をつぶって深呼吸する。
「ふうー……」
(落ち着いていこう、シンジ。キミなら出来る)
自分に言い聞かせるように、心の中でつぶやくシンジ。そうして操縦桿を握ると、嫌な思い出が蘇る。虚数空間の中で感じた死の恐怖。ダミーシステムの手によって、握りつぶされるトウジの乗るエントリープラグ。使徒に侵され、自爆して果てる零号機。……そして、今と同じようにヘッドセットを付けて出撃し……目にした弐号機の無残な姿。……思い出すだけで、操縦桿を握る手が小刻みに震える。
(ああ……逃げたい。……でも、逃げたら駄目だ。逃げ続けた果てが、サードインパクトなんだ。逃げちゃ駄目だっ!)
シンジが思考の中に没入する間も、初号機の起動準備は着々と進む。エントリープラグがエヴァに挿入され、L.C.Lが注入されていく。思考に没入していたシンジは、無意識に受け入れていた。
その様子は、発令所でもモニターされていた。
「彼、驚いてないわねえ」
「そうね、不自然なほど落ち着いている。彼は、何かを知っている……」
「……いえ、センパイ。シンジ君、落ち着いている訳じゃなさそうです」
「マヤ?」
指摘したのは、意外にもリツコを先輩と慕うメインオペレーターの一人、伊吹マヤだ。彼女が指さす先にあるのは……小刻みに震える手元。
「落ち着かせているんだと思います。怖いんです、シンジ君」
「……そうよね、初めて乗るロボットでいきなり戦えって言われたんだもの。そりゃ怖いか」
「L.C.Lに反応を示さなかったのは、落ち着かせるのに集中しすぎて反応できなかったからかしら」
少し張りつめていた空気が弛緩し、マヤはほっと息を吐いた。だが、またすぐに彼らの疑念は沸くことになる。
「主電源接続!」
「全回路、動力伝達!」
「了解」
アンビリカルケーブルが背部に接続され、初号機との神経接続の準備が整う。
「第二次コンタクトに入ります」
シンジは流石にこれには反応して思考を中断し、エヴァとのシンクロの準備に入る。
(行くよ……母さん)
「A10神経接続、異常なし」
「思考形態は、日本語を基礎言語としてフィックス。初期コンタクト、全て問題なし」
そして、驚くべき数字がマヤから告げられる。
「双方向回線、開きます。シンクロ率……!?」
数字を目にした瞬間、言葉に詰まるマヤ。何かあったと察したリツコが、マヤに声をかける。
「どうしたの、マヤ」
「シンクロ率……75.62パーセント。ハーモニクスは全て正常。暴走、ありません」
「「!?」」
前史よりも高いシンクロ率。実はシンジはこれでも抑えている方なのだが、アスカ程訓練を受けていないためここまでしか下がらなかったのだ。
「あのアスカですらプラグスーツの補助ありで80パーセント付近だってのに、スーツ無しでそのアスカに迫るシンクロ率なんて……」
「正に、エヴァに乗るために生まれてきた子供、ということね」
素人のはずなのに、高いシンクロ率を叩き出したシンジ。ミサトとリツコの中に、かすかだが疑念が生まれる。ゲンドウもピクリ、と反応していた。
だが、その疑念にも構っていられず、粛々と発進準備が進行する。
「発進、準備!」
「発進準備!」
『第一ロックボルト外せぇ!』
『解除確認!』
『アンビリカルブリッジ、移動開始!』
『第二ロックボルト外せぇ!』
『第一拘束具を、除去。同じく第二拘束具を、除去』
『一番から十五番までの安全装置を解除!』
『内部電源、充電完了!』
『外部電源用コンセント、異常なし』
「了解。エヴァ初号機、射出口へ」
初号機が射出口へ移動してゆく振動を感じ、どこか懐かしさを感じるシンジ。
(いよいよだ。……今度は、ちゃんと戦わないとな)
前回は、まともに戦えず初号機が暴走し、その結果トウジの妹に大けがを負わせてしまった。……その過ちを、二度も犯してはならない。
「進路クリアー、オールグリーン!」
「発進準備、完了」
マヤとリツコの声を受けて、ミサトは上の席に座るゲンドウと冬月副司令に向き直る。
「了解。……構いませんね」
「勿論だ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来はない」
「碇、本当にこれでいいんだな」
冬月が確かめるように、ゲンドウに尋ねる。ゲンドウはお馴染みのポーズの下でニヤリと笑った。
「発進!」
初号機が高速でシャフトに射出され、使徒と会敵する場所に出現する。
(行くぞ……!)
To be continued......
今回は前半アスカ、真ん中レイ、後半シンジら、と視点分けをしました。今後は、第三新東京市とドイツ支部という二つの場所からの視点で、物語は進んでゆきます。
シナリオ通りは、今回まで。次回から既存のシナリオが破壊され、新たなシナリオが始まります。
早すぎる覚醒を遂げるエヴァ初号機、即時殲滅される第三の使徒。戸惑い、焦るゲンドウにシンジが告げることとは?
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「courage」
さあて、次回もサービスサービスゥ!
PIXIVとの同時投稿を始めてみました。