NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION 作:ASNE
前回と同じように、使徒の真正面に射出されたエヴァ初号機。シンジの思考が戦闘モードに切り替わり、操縦桿をきつく握りしめる。
(さあ、行こう。エヴァ初号機……母さん。心のままに)
『いいわね、シンジ君』
「はい!」
シンジは前とは違い、力強く返事を返した。
『最終安全装置、解除。エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!』
『シ……「すみませんリツコさん、こっちで勝手にやります!」ちょっと、シンジ君!?』
リツコの指示を待たず、シンジは初号機を走らせてジャンプさせた。
辺りを上から見渡し、トウジの妹―鈴原サクラを捜す。
(サクラちゃん……どこだ!?)
素早く周囲を見渡し、シンジはビルを二つ行った先の角を右に曲がり、三つビルを先のビルに小さな女の子が隠れているのを見つけた。
(居た、今すぐ何とかするッ!)
「おおおッ!」
着地と同時にサキエルをA.T.フィールドで覆った右拳でサキエルのフィールドごとぶん殴り、都合ビル五つ分以上真っ直ぐ奥に吹き飛ばす。サキエルはフィールドを展開する間もなく吹き飛ばされ、突き当りのビルにめり込んだ。初号機のツインアイが眩しく輝く。
「ミサトさん、ビルの影に女の子が!使徒を僕が引き付けているうちに、早く!」
『何ですって!?日向君、急いで保安部に保護させて!』
『はい!』
シンジが初号機で指さした先に女の子の姿を確認したミサトが、大慌てでオペレーターの日向に指示を出す。シンジは使徒に向き直り、その動きを観察する。
(さあ、どこからでも来いッ!)
次の瞬間、体を起き上がらせながら光の槍を伸ばしてくるサキエル。頭部の右側を狙ってきたその一撃を、間一髪で体をスライドさせて避ける初号機。
(こいつ、学習してる!?)
前史にはない攻撃パターン。初号機の強力な一撃に呼応して、使徒も進化したのだ。
(まずい、長期戦は避けないと……ミサトさん、まだか!?)
シンジはサキエルが続けて放った光線を避けながら、市街を駆け回ってサクラから引き離す。
そして、何発目かを避けた時。ミサトから、待望の知らせが届いた。
『シンジ君、女の子は無事よ!今こっちで保護したわ!』
「……了解!」
その言葉は、シンジにとって全力解放の合図。初号機のアンビリカルケーブルをパージし、その力を解き放つ。
「行くよ、母さん!」
「ルオオオオオオォォォッ!」
初号機が歓喜の雄たけびを上げ、サキエルに飛び掛かると地面に引きずり倒す。コアの前の肋骨のようなものを外に開いてへし折り、剥き出しになったコアを捕食する。
シンジはシンクロ率を400パーセント手前で止まるように初号機―ユイをなだめすかしながら捕食音をBGMとし、必死に制御した。
(僕が溶けちゃうからこらえてくれ……母さん……)
意識が飛びそうになりながらも、S2機関の取り込みを何とか終えたシンジはシンクロ率を元に戻した。初号機の口元は血に塗れ、まるで悪鬼のようであった。だがその瞳は従来の機械的なツインアイであり、シンクロ率400パーセントまで至っていないことが分かる。
(ふう……ちょっと疲れたな……)
何やらミサト達が呼び掛けているが、そんなことは疲れ果てたシンジには何の意味もなさない。インテリアに寄り掛かると、目を閉じて回収されるのを待つのであった。
少し時は戻り、NERVの第一発令所。初号機が使徒の前に姿を現した。
「いいわね、シンジ君」
『はい!』
ミサトはシンジの力強い返事にその決意を感じ取り、頷いた。
「最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」
最終安全装置が解除され、初号機が自由になる。リツコがまず歩くようにと指示をした瞬間、初号機が走って助走をつけ、ジャンプした。
「シ……『すみませんリツコさん、こっちで勝手にやります!』ちょっと、シンジ君!?」
「シンジ君ったら……でも動いたわね、初号機」
ミサトが感心した声を上げ、無視されてピクついていたリツコもそれには頷いた。
「ええ。ここまで動かせるとは……シンジ君には何かあるわね」
発令所に詰めるスタッフたちも、驚きや感動の声を上げている。そして若干発令所の集中が緩んだ瞬間、シンジが雄たけびを上げる。
『おおおッ!』
初号機が着地と同時に使徒をぶん殴り、思いっ切り吹き飛ばす。その拳には、A.T.フィールドが纏われていた。
「おお……!」
「エヴァ初号機から、A.T.フィールドの発生を確認!」
「A.T.フィールド……やはりエヴァにも使えたのね」
やはり、と頷くリツコ。そこに、シンジの切羽詰まった声が届く。
『ミサトさん、ビルの影に女の子が!使徒を僕が引き付けているうちに、早く!』
「何ですって!?日向君、急いで保安部に保護させて!」
「はい!」
ミサトの指示に心得ていた日向は、保安部に指示を出して救助に向かわせる。画面の向こうでは、初号機が間一髪で使徒の攻撃を避けていた。
「槍が伸びた!?」
「あそこまでは、槍は伸ばせなかったはずなのに……まさか学習しているの!?」
上段では、ゲンドウと冬月がこそこそ言葉を交わす。
「おい碇、不味くないか?」
「……問題ない。いざとなれば、初号機が暴走するはずだ」
「日向君、まだなの!?」
「あともう少しです!」
画面の向こうでは、初号機が何度目かの使徒の眼からの光線を回避し、街の一部が爆発で吹き飛ぶ。今は余裕があるから大丈夫だが、いつ直撃するか分からない。本来はミサトたちが指示をしてやるべきだが、使徒と戦闘するのが初めてなのと、初めて稼働する初号機など、初めて尽くしで指示を出す余裕はなく、見守ることしか出来ないでいた。そんな彼らに、朗報が届く。
「女の子、無事に収容しました!」
日向の言葉を聞いたミサトが、すかさずシンジに伝える。
「シンジ君、女の子は無事よ!今こっちで保護したわ!」
『……了解!』
シンジの力強い返事。それと同時に、初号機がアンビリカルケーブルをパージした。
「エヴァ初号機、アンビリカルケーブルをパージ!内部電源に切り替わります!」
青葉が叫ぶ。それと同時に、シンクロ率をモニターしていたマヤからも悲鳴のような報告が上がる。
「シンクロ率、急速に上昇!80、90……100パーセントを突破しました!上昇、止まりません!」
「何が起こっているの!?」
「まさか……」
混乱する発令所。その中で真実を知る三人はあることに思い至る。……そして、シンジから決定的な一言が告げられる。
『行くよ、母さん!』
『ルオオオオオオォォォッ!』
「「「!?」」」
「下顎部装甲、損壊!」
(まさか、もう目覚めたというの、彼女が……)
「碇、これはいかんぞ……初号機は既に……」
「……も、問題ない。この件は、暴走として処理する」
(母さん、だと?シンジ、お前は何を……)
リツコ、ゲンドウ、冬月は起きたことを悟り、険しい表情を浮かべた。
初号機は吠え、使徒を引きずり倒すとコアを剥き出しにしてそれを捕食する。その様子を見たマヤや一部の女性職員が、口元を抑える。モニターに映るシンジは、何かを懸命にこらえていた。
「使徒を、喰ってる……」
「S2機関を、取り込んでいるんだわ……」
口元を抑えながらシンクロ率をモニターしていたマヤが、あることに気付く。
「シ、シンクロ率安定しました。399.99パーセントです……」
(身体崩壊の一歩手前、か。やはりシンジ君は、エヴァとお母さんのことを……)
一同が見守る中で初号機は捕食を終え、立ち上がると元の状態に戻る。シンクロ率も、それに合わせて元の数値に戻った。シンジは脱力し、インテリアに頭を預けて目を閉じた。
「シンジ君、ちょっと、シンジ君!初号機の回収、急いで!」
『は、はい!』
使徒殲滅は為されたものの、その内容は波乱に満ちていた……。
NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
EPISODE2 RE-BIRTH
トウジの妹の名前ですが、TV版では明かされていないため新劇場版の「サクラ」を使わせていただきました。
初号機の早すぎる覚醒、そして使徒の強化。シンジたちはエヴァの力をフルに使えますが、それに対抗して使徒も学習し、強化されてゆきます。その結果がどのようになるかは、今後のお楽しみに。
では、また次回で。