NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION   作:ASNE

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……た、大変驚いております。
2020/8/21、日間総合ランキング52位、二次44位、ありがとうございます。
これからも皆さんのご期待に添えるよう、全力で頑張ります!


courage(後編)

アスカは加持を伴い、食堂で軽めの食事を取っていた。シンジの食事が恋しくて、好物のハンバーグを思わず頼んでしまう。が……。

(確かに悪くはないんだけど……やっぱシンジの作ってくれた方が美味しいわね)

そんなことを考えてながら、ハンバーグをもぐもぐしているアスカの横から彼女の顔を覗き込むのは、ドリングバーで頼んだ飲み物を呷っている加持だ。

(確実に変わったな、アスカ。前までは自信たっぷりに見せちゃいたが、あれは虚勢みたいなもんだった。脆い本来の自分を押し殺すための、な。だが……今の彼女は違う。己の弱さを受け入れ、それでも前に進む覚悟を持った人間の目だ。それに、俺との距離も取ろうとしている気がする……)

加持はドリンクを空にし、空のコップの底を見つめる。

(人類補完計画……その存在と内容を知るのは碇司令や冬月副司令、それからゼーレの委員会メンバーのはずだ。俺も、その概要までしか掴めていない。だが……アスカはそれを知っていると言った、そのすべてを。何も知らず、エヴァのパイロットとしての訓練に打ち込んでいただけの彼女が、どうやってそれを知った?俺が知る限りじゃ、上層部がアスカに接触した形跡は微塵もなかった。一体何が……)

その視線に気づいているアスカは、気取られないよう苦笑する。

(見られてる見られてる。ま、アタシ変わりすぎだしね。それに、加持さんが何よりも知りたい真実をアタシは、アタシたちは知っている。何故か、って思うだろうし)

視線を感じながらも、まったり食事してくつろぐアスカ。その最中、食堂に何名か駆け込んできて休憩中の職員に何かを慌てて伝える。休憩中の職員は、それを聞いて慌ててぞろぞろ出て行く。彼らの会話の断片から、アスカは察する。

(NERV本部、第三新東京市、初号機。……早速おっぱじめたわね、シンジ)

加持が何が起きたのか確認しようと腰を浮かせかけたので、アスカは引き留めるように日本語で声を掛けた。

「聞くだけ時間の無駄だと思うわ、加持さん。どうせ碇司令がすぐに箝口令を敷くでしょうから」

「……また知っているのか?」

「ええ。初号機の覚醒。シンジの仕業ね」

「シンジ……サードチルドレンか?アスカ、彼の何を……」

「だって、彼も知ってるもの。全てを」

「!?」

(彼も全てを知っているだと!?それに、いつ彼と接触したんだアスカ!?)

珍しく驚愕の表情を浮かべる加持。アスカはクスクス笑い、不意にその笑いを収める。

「ふふ。そんな顔しないでよ、加持さん。……アタシたち運命を仕組まれた子供たちは、そのくそったれな運命をぶち壊す。それだけ」

アスカの瞳に宿るのは……怒りの炎。加持は、何も言えなかった。

 

二人は少しの間黙ったまま、その場に留まる。そして、ハンバーグを食べ終えたアスカはトレイを持って立ち上がり、返却口に返すとさっさと食堂を出てゆく。加持は慌てて、彼女の後を追う。

「アスカ、どこに行くんだ!?」

「だって、ここに居ても意味ないし。どうせごたごたで午後の訓練はなしになるから、外に出て用事を済ませようかなって」

「用事?」

「……パパとママに会いに。けじめ、つけないと」

そう加持に告げたアスカは、何か強い決意を抱いている様子だった。

 

 

 

 

シンクロ率の制御に力を使い、疲れ果てたシンジ。彼は微睡の中で、ある人と出会う。その人物は―碇ユイ。

「シンジ……」

(その声は、母さん……?)

「ごめんなさい、シンジ。貴方の記憶を見たわ。私たちは、あなたたちに重くて辛いものを、背負わせてしまった……」

(いいんだ、母さん。確かに辛いことも沢山あったし、何度も逃げ出した。―でも……みんなと会えた)

シンジは、姿がぼやけてよく見えない母に笑いかける。ユイは、それに驚いたように見える。

「……あの人に伝えて。私の居場所は、ここしかない。私はもう……外に出るつもりはない。私という過去の亡霊に縛られる必要はない。シンジたちを、頼みます。……愛しているわ、あなたって」

(……分かった。伝えるよ)

「じゃあね、シンジ」

(うん、また何処かで)

シンジが目を開けると、ちょうど初号機がケージの中に収容されたところだった。

「……ありがとう、母さん」

 

 

 

 

アスカは加持の車に乗せてもらってドイツ支部から抜け出し、家族の住む家の前まで送ってもらった。車が停車するとアスカは助手席のドアを開け、外から運転席の加持に声をかける。

「少し、ここで待っててくれる?」

「ああ。俺が居ても野暮なだけだからな。気が済むまで話すといい」

『……ありがとう、加持さん』

アスカは玄関のドア前に立ち、自身の姿を見下ろす。アスカは、以前のような露出度が高いワンピースは着ていない。以前までの自分は、露出度の高い服を着ることで自身の魅力をアピールすると共に、加持に媚びていた節があった。今思えば……己の脆弱さの表れだったのかもしれない。手段を問わず、何としてでも己を認めて欲しかったのだろう。……もう、夢から覚めた。誰かに媚びる必要は……もうない。自分のことを心から理解してくれている者は、もう居る。―碇シンジ。お互いに己の内面まで曝け出しあった、アスカのパートナー。彼と共に、困難を乗り越えてゆく。これは、その第一歩だ。

アスカは深く深呼吸をし、インターホンを押した。

『はーい!』

バタバタと足音がし、ガチャリと音がして玄関のドアが開く。……出てきたのは、己の継母であった。

『アスカちゃん……』

アスカは、彼女に深々と頭を下げた。

『ど、どうしたの!?』

『……今まで、ごめんなさい。アタシは、ママを避けてた。ママも、キョウコママと同じようにアタシのことを愛してくれていたはずなのに……。パパにも、酷いことをしてしまった。キョウコママを失って辛かったのはパパも同じだったのに……。アタシは、何てひどいことを……』

頭を下げたままのアスカの瞳から、ポタリ、ポタリと涙が垂れる。懸命に言葉を繋ごうとするが、感情の高ぶりのせいで声は震え、途切れ途切れになる。

『アタシの心が、よ、弱いばかりに……。アタシは、周りを見てなかった……見れて、なかった……』

『ア、アスカちゃん……』

『……もういい、アスカ』

途方に暮れるアスカの継母の後ろから、アスカの父が姿を現す。そのまま、泣き崩れてしまった娘をそっと抱きしめた。

『パパこそすまない。大事なママを失ってどれだけアスカの心が辛かったのか、慮ってやれなかった。アスカの気持ちをよく考えず、再婚を決めてしまった。……ごめんな、アスカ』

『パパ、パパ……!』

アスカの継母も、父の上からそっとアスカを抱きしめる。

『ママも、ごめんなさい。アスカちゃん……アスカがどれだけ苦しんでいたのか、察して上げられなかった。ママ失格ね……』

『ママ、パパ……!アタシを、赦してくれる……?』

『『勿論』』

二人は優しい笑顔を浮かべて、アスカに頷きかけた。アスカはそれを聞いて、心を縛り付けていたものが軽くなったのを感じ、より一層激しく泣きじゃくる。アスカの涙が枯れるまで、二人はアスカを優しく抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

シンジはエントリープラグから出た後、整備員たちの手荒い歓迎をそこそこに、更衣室のシャワーを借りてL.C.Lの血の匂いを洗い流していた。

「……血の匂い、か」

シャワーを浴び続けながら、シンジは手のひらを見やる。フラッシュバックするのは、エヴァの手で大切な人たちを握りつぶした、嫌な記憶だ。

「あんなこと、もう二度とするもんか」

シンジは開いていた右手を閉じ、きつく握りしめる。

 

 

 

シンジは更衣室横にある自販機からスポーツ飲料を買い、長椅子に座ってストローから啜る。そんな彼に近づいてくる人があった。―赤木リツコだ。

「あ、リツコさん。ミサトさんたちは?」

「後片付けに大忙しよ」

「あはは、すみません……」

「いいのよ。貴方が上手く戦ってくれたおかげで、想定よりも被害の規模は少なくてすんだし、使徒の実物をほぼきれいな形で手に入れることが出来た。……コアは手に入らなかったけど」

リツコは目を細め、シンジをじっと見つめる。シンジは苦笑いするしかなかった。

「……碇司令が呼んでいるわ」

「……でしょうね。行きますよ」

「……逃げないのね」

「……逃げてばかりだと、何にもいいことありませんから」

シンジは飲み物を空にすると、ごみ箱に放り込んで立ち上がる。

 

 

そうしてリツコに先導され、シンジは薄暗い父の部屋に足を踏み入れた。いつものポーズをとって父が座り、冬月が左後ろに控える。リツコは空いている右隣りに立つ。

「……来たか」

「うん、来たよ。……もう、僕は逃げない」

しかしその言葉とは裏腹に、シンジは心の中で逃げたい気持ちが沸き上がっていた。

(父さんは、受け入れてくれるのかな。もし信じてくれなかったら、どうしよう……)

自分の話を信じてくれる確証がない。『サードインパクトが起きた未来から還ってきました』などいう自分たちの身の上が、荒唐無稽だということは分かっている。信じてもらえず、拒絶されるのがものすごく怖い。

(けど、信じたい。父さんたちのまごころを)

「……お前は、誰だ」

「シンジだよ。けど、ちょっと違う。色々と知ってる」

「何を知っているの?」

「人類補完計画、アダム、ヘブンズドア、リリス、ロンギヌスの槍、ゼーレ、ダミーシステム、綾波レイ……」

シンジが最重要機密の単語を話す度に、三人の表情がどんどん険しくなる。

「……何故それを」

「サードインパクト」

「「「!?」」」

「実は、一度起きたんだ。ゼーレのサードインパクトが。僕と初号機を依り代として」

「……何だと?」

「父さんの望み通りには、ならなかった。このまま行くと、後一年ぐらいでその未来が訪れる」

「……お前は、何を言っている」

ゲンドウは一見すると分からないが、信じられない、という表情を浮かべている。他二人も同様だ。

「実際に見てもらった方が、早いかな」

シンジは目を閉じると、左手を前に突き出した。小さな赤い光球が三つ出現し、目にもとまらぬ速さで三人の頭に入り込む。

「ぐうッ……」

「うっ……」

「きゃあああッ!」

三人の脳裏に、戦自侵攻からサードインパクト発動までの記憶が怒涛のように流れこむ。これは、自分が皆と一つになっている時に皆から得た記憶の断片を搔き集めたものだ。

 

しばらく記憶が流れ込んだ負荷で三人は苦しみ続け、シンジはそれを見守り続ける。しばらくして記憶の再生が終わり、三人は脂汗を浮かべながらも顔を上げた。

「ア、アハハ。私は結局母さんには勝てなかった。アハハハハハ!」

「これでは、何もかも無駄ではないか。ユイ君、私たちは一体何処で間違えたのか……」

「ユイ、私が何もかも捨てても、お前には届かないのか……」

リツコは狂ったように笑い、ゲンドウと冬月は絶望で嘆く。

「今見てもらったのが……証拠です。僕たちは何もかも失った。全ては、ゼーレの目論見通り。欠けた僕たちの心が、サードインパクトを引き起こした。父さん、こんなことを母さんは望んでいたの?NERVの全てを利用し、僕ら運命の仕組まれた子供たちの心を犠牲にした結果、人類を滅ぼすなんてことを……」

シンジは三人の様子に辛そうに顔をしかめながら、ゲンドウに問いかける。冬月とリツコは何とか平静を取り戻し、ゲンドウを見やる。

「……ユイは、何か言っていたか?」

数十秒ほど沈黙を保った後、ゲンドウは絞り出すようにシンジに尋ねた。

「『私の居場所は、ここしかない。私はもう……外に出るつもりはない。私という過去の亡霊に縛られる必要はない。シンジたちを、頼みます。……愛しているわ、あなた』……そう言ってたよ」

「そうか……」

「母さんは自分はもう死んだものとして欲しいんだと思う。……リツコさんと一緒になって欲しいんじゃないかな。そんな気がする。……未来を見て、生きようよ。父さん……」

シンジの懇願。リツコは複雑な心境に戸惑い、黙ったままだ。冬月が、ゲンドウを促すような目線で見る。その腹は、もう決まっているらしい。

「碇……」

「……分かった」

「え?」

「人類補完計画は、現時刻をもって破棄。……すまなかったな、シンジ」

「父さん、ありがとう……」

(ああ、良かった……)

ゲンドウの纏っていた重苦しい雰囲気が霧散し、柔らかくなる。これで、大きな困難が一つ終わったことにシンジは安堵する。

「……リツコ君」

「は、はい」

ゲンドウはリツコの方に振り向き、リツコはピクリと反応する。

「後で、話し合おう。我々の、未来について」

「……」

リツコは無言で、コクリと頷いた。その頬は、心なしか赤く染まっている。シンジは見たことのないリツコの表情に驚きながらも、微笑んだ。

(良かった……リツコさん)

ゲンドウはシンジの方に向き直り、シンジに問いかける。

「お前がサードインパクトの起きた未来から還ってきたのは分かった。しかし、どうやって?」

「……驚かないでよ?」

シンジは一瞬だけ、瞳を赤く染めた。

「その瞳は……」

「補完を拒絶したのは、僕とアスカだけだった。聖書のアダムとイヴのようにたった二人だけのヒトになった僕たちは、使徒としての力を目覚めさせた。僕がアダム、アスカがリリス。そして、魂だけの状態で僕たちの前に現れた綾波とカヲル君……最後のシ者タブリスの力を借りて力の大半を使い、世界の状態を巻き戻したんだ。今日この日まで」

「……そうか」

ゲンドウは、シンジの告白を黙って聞き届けた。シンジの、酷く申し訳なさそうな顔を見つめながら。

「ごめん、父さん。僕は、純粋なヒトじゃ……」

「だからどうした」

「!」

「私の大事な息子であることに変わりはないのだろう?……無論、レイも」

ゲンドウの不器用ながらも優しい言葉に、涙を浮かべたシンジ。ゲンドウは、何か憑き物が取れたような表情をし、椅子から立ち上がる。

「……冬月、少し頼む」

「どうした、碇」

「レイの所に行く。……シンジ、ついてきてくれ」

「う、うん!」

「わ、私も……」

リツコも慌てて続こうとしたが、ゲンドウがそっと押しとどめる。

「無理はするな。……まだ整理がついていないのだろう?」

「!」

図星、という風にリツコの体が硬直する。

「また後で、レイとゆっくり話をしてやってくれ。……我々には、時間がたっぷりあるのだから」

「……はい、ありがとうございます」

「行くぞ、シンジ」

シンジはゲンドウに頷き返すと、部屋を出てゆく彼に続いていった。その背中を、冬月とリツコは黙って見送った。

 

 

 

 

 

 

ゲンドウはレイの病室の前まで辿り着くと、ボタンに手をかけようとしてその動きを止めた。

「父さん、どうしたの?」

「……レイとどのように接すればいいのか、分からん」

シンジは父の不安を察し、ボタンにかけられた手に自分の手を重ねた。

「大丈夫。父さんが思っていることをちゃんと伝えればいいと思うよ」

「……そうだな」

ゲンドウは意を決して、ボタンを押してドアを開ける。ちょうどベッドの上で体を起こしていたレイは、無表情ながらもゲンドウの姿を認めて目を見開いた。

「……碇司令」

ゲンドウはゆっくりレイに歩み寄ると……その細い体を優しく抱きしめる。

「あ……」

「すまない。本当にすまなかった、レイ。―私の、大事な娘よ……」

「お、とうさん……」

シンジは抱き合って静かに涙を流す父子を、出入り口のドアから見つめ、優しく微笑む。

 

 

 

 

 

To be continued......




今回のタイトル、「courage」。これが示すのは、シンジが真実を打ち明ける勇気。アスカの、両親と和解しようとする勇気。そしてゲンドウの、レイを娘として接したいという勇気。人々の心の再生の物語。サブタイトルの「RE-BIRTH」はこれと、今後生まれ変わるであろうNERVを表しています。



父と子の和解はなった。次に為されるのは……「家族」の再生の物語。
次回、NEON GENESIS EVANGELION RETROGRESSION
「reunion」
さあて、次回もサービスサービスゥ!
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