わたくしがお嬢様に憧れるのは絶ぇえっ対にぃぃいいッ、間違っておりませんわっ!!! 作:実験場
「女子力が高まるぅ……溢れるぅ……」
シャルリー
あら、何処かへ行ってしまいましたわね?
ベル・クラネルさん……雪のような白い髪の毛に赤い瞳。まるで白兎のようなお方でしたわ。
それにしても……。
──お嬢様。
「ふひっ」
おおっといけませんわ、いけませんわ。お嬢様というものがはしたない、涎を拭きませんと。それに顔に掛かりました血も。淑女たるものいかなる時にでも身だしなみは気にしませんといけませんわ。汚れているお嬢様なんてド三流もいいとこですわ! ハンカチ、ハンカチ。
「ククッ、おいアイズ、なんだってんだよあの傑作なトマト野郎は。ここで何があったらあんな面白──」
「あ、ベート、さん。シャルが──」
「いや、言わなくても良い。何となく理解したわ……あのガキも大変だったんだな」
これで、良し! 身だしなみは完璧! 何処に出しても恥ずかしくのないお嬢様の爆誕ですわ!!
全くこんなにもわたくしはお嬢様していますのに周りはやれ、
──お嬢様。
「オイオイオイ、鬼女の奴、明後日の方向見ながらブツブツぼやき始めやがったぞ」
「ベートさん、声を掛けてシャルを元に戻して、下さい」
「……」
「聞こえないふりは、ダメ」
せめてもう一度聞きたかったですわ。
──お嬢様。
他の人の口から聞いたのは初めてだったんですもの。
──お嬢様。
初めて人から認めてもらえました……。
「はあっ……はぁっ……」
──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様。
「ふへ、ふへへへへへへへ」
──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様──お嬢様。
最っっっっっ高にぃ!!! ハイッてやつですわーーーーーーっっっ!!!!!!!
もう、たまりませんわ! この世の楽園は目の前にあったのです! ああああ、漲ってきますわ!
「女子力が高まるぅ……溢れるぅ……!!!」
いやーん、わたくしどうにかなっちゃいそうですわーーー!!!
「オイ、やめろっ! 拳をふりまわすんじゃねえ!!! どう考えても壁を壊しながら言っていいセリフじゃねえだろう!!? てめえの場合は破壊力が高まってんだろうがっ!!」
「おーーーーーーっほほほほほ!」
「ヤベェ、声が耳に入ってねえ!!?」
「私、皆を呼んでくる」
「一人だけ逃げる気かアイズ!?」
「…………私はベートさんを信じてます」
「上目遣っっっ!!? チッ、しょうがねえな。ここは俺に任せて行け」
「お願いします……これが女の武器の使い方……シャルに教えてもらっておいて良かった」
今日は良き日ですわっ! 五十一階層でのイレギュラーにイライラさせられましたけれども、終わり良ければ全て良し。流石先人たちは素晴らしい事を言いますわね。面倒くさがらずにミノタウロスを追いかけて正解でしたわ。こんな運命の出会いがあるなんて。しかし、盲点でした。自分の身なりや言動ばかりだけを気にしていてもいけないとは。
『執事』
完全に見落としていました。そうなのです、お嬢様には執事が必要なのです! わたくしが見た本の中にも、ちゃんといましたわ。お嬢様を護る存在。彼らがいなければパーフェクトなお嬢様ではありませんわ。ふふふ、咄嗟に閃いたわたくしにはゴールデンお嬢様賞を差し上げますわ。
ベルさんに対してのお淑やか、優しさアピールは成功。想像してみてもあの白色の髪の毛に黒の執事服は似合いすぎですわ。きっとベルさんはわたくしの執事をする為に生まれてきたのでしょうね。そうと決まれば早速勧誘しませんと。
…………わたくし名前しか知りませんわね。ミノタウロスから逃げていたという事はLv.1もしくはLv.2の冒険者ってところかしら……んー、どうしましょう。
「やっと動きを止めやがった……」
「無事だったかい」
「遅すぎなんだよ、フィンッ!」
「すまないね。これでもアイズから聞いて急いできたんだよ。それで戦況は?」
「見ての通りだ。今は動きを止めて何事か考え込んでやがる」
「とりあえずの危機は去った訳か。まだ暴走しているようだったら隊を分けて他の冒険者の護衛に当たらないといけないところだったよ。……それにしても……ははは、随分見通しが良くなったね」
「うわあ……」
「うわあじゃねえよ、バカゾネス妹っ! てめえら同族だろうが、さっさとあの鬼女を元に戻してきやがれ!」
「ちょっとそれは聞き捨てならないわね! 私達アマゾネスをあの破壊の権化と一緒にしないで。ほら、ティオナも言われっぱなしじゃなくて言い返しなさい!」
「いやー、軽口を叩かれるだけでシャルを止めなくていいのならそれに越したことはないかなーって。ティオネもそう思うでしょ?」
ギルドに聞いても答えてはくれないでしょうし、いっその事あの子が来るまでギルドの入り口かダンジョンの入り口に張り込んでいようかしら。一週間も待てばきっとやってきますわよね。それとも、手っ取り早くギルドに交渉(物理)でもしようかしら。ベルさんの前ではお淑やかさを前面に押し出しておりましたが、本来お嬢様は傲慢さを兼ね備えたものでもありますし。ああっ! 一つの個の内にお淑やかさと傲慢を抱えるという矛盾! 深すぎですわっ! 底が見えませんわっ! 余りの深さにわたくしは溺れ沈んでいきますわーーーー!!! ぶくぶくぶく。
「シャルの奴、両腕を上げて藻掻いているんだが」
「ガハハハハハ、ほっとけ、通常運転じゃろうが」
「ふむ。触らぬ神に祟りなしか」
「リヴェリアさんもガレスさんも放っておくんすか?! また暴れ始めるかもしれないっすよ!」
「ラウルさん、世の中には言い出しっぺの法則というものがあってですね」
「とても素晴らしいアイディアだよレフィーヤ。だから頼むよ、ラウル」
「団長の命令と言えどそれは御免被る」
「口調が……そんなに嫌なんだね」
まあ、一人で考えても仕方ありません。わたくしには頼れる仲間がいることですし後で相談でもさせて頂きましょう。ってナイスタイミングですわね。気づかないうちに皆様お揃いでした。
「あ、こっち見た」
ティオナさんが此方を指さしながら言ったのを皮切りに皆様の視線が集中してきましたわ。天真爛漫なのは素敵なことですけども人に指を差してはいけないと教わらなかったのかしら? ……あの蛮族が教えるわけありませんわね。
「無事……ではないけれども、ミノタウロスは討伐出来たみたいだね」
苦笑しながらフィンさんが声を掛けてきます。この方、わたくしを前にするといつもこのような表情をしますの。何でかしら? 余計なものまで背負いこみ過ぎなのかしらね。仕方ありません、少しでも団長の荷を軽くするのが団員の務めですわ。やだ、わたくしったらとても淑女!
「大丈夫ですわ、ダンジョンの壁なんて勝手に再生するので問題ありません」
「……………………そうだね」
苦虫を百匹位潰した顔になりましたわね。何でかしら?
「はぁ……。さあ皆、本拠地へ帰還するぞ」
団長の号令で歩き始めるメンバー達。これがわたくしの所属する、オラリオで一、二位を争うファミリア、『ロキ・ファミリア』。
先頭を歩くのは団長であるフィン・ディムナさん。頭の回転も速く、幾度もファミリアの窮地を救っています素敵な殿方なのに毎回わたくしに小言を並べますの。何でかしら?
副団長はリヴェリア・リヨス・アールヴさん。エルフの王族だけあって流石に気品が溢れてます。わたくしも見習いませんと。ただ、言葉使いがまだまだ粗暴ですわね。減点。結果、わたくしの方が頂には近いでしょう。良い勝負でしたわ、リヴェリアさん。
最古参の一人、ガレス・ランドロックさん。体格の通り力はオラリオでも最高峰ですの。わたくしは力比べで負けたことありませんけど。あと、わたくしの事を面白い面白いとからかってきますの、面白い事はしておりませんのに。何でかしら?
アイズ・ヴァレンシュタインさん。惜しいですわ。素材は申し分ないのですが言葉使いと服装に興味が無いのは減点対象です。強さにしか興味ないとは貴方こそ
ベート・ローガさん。昔はよくじゃれて来て下さった子犬のような方ですわ。可愛かったですわね。周りからは平和で仲の良い温かな姉弟のように見えていたと思います。最近は大人になったのか余りじゃれてはくれませんわね。姉離れかしら? お姉さん寂しいですわ。確か昔二人で遊んでいた時に倒れてピクリとも動かなくなってから近寄ってくれなくなりましたわね。何でかしら?
ティオネ・ヒリュテさん。片田舎の蛮族の姉の方、同郷みたいなものですわ。フィンさんに惚れて言葉遣いも仕草も女らしくはなりましたけども、凶暴な本性が見え隠れするのはいただけませんわね。甘々ですわ。そんな体たらくでは、わたくしの相手にはなりませんことよ。相談なら受け付けていますから何時でもいらっしゃいな。
ティオナ・ヒリュテさん。片田舎の蛮族の妹の方。元気で笑顔を絶やさないとても良い子ですの。淑女には程遠いですが。全くあの蛮族は……。乱暴な習性に露出狂と間違われてもおかしくない格好。淑女の『し』の字もございませんわ。そう考えるとこの姉妹は可哀想ですわね。女らしさというものを学ぶ機会がなかった訳ですから。こうなったら、わたくしが一肌も二肌も脱いで差し上げます。遠慮せずにバッチこいですわ!
ラウル・ノールドさん。……誰かしら? 冗談、冗談ですわ! ちょっとしたお茶目、お嬢句ですの。えーっと、男の人で、若くて、黒髪で、えーっと、特徴のないのが特徴ですの。
レフィーヤ・ウィリディスさん。まだまだ少女なので、お嬢様に必要な色気や強さや高飛車さを持ち合わせてはおりませんが将来有望ですわね。是非とも研鑽を重ね、わたくしを脅かす存在になって下さいまし。わたくしは期待しておりますわ。
仲間とは時にライバルとしてお互い高めあうもの。今はわたくしの一人勝ちですが女性陣の皆々様は女子力を高めて頂ければ、きっとわたくしのライバルとして相応しい女性になれると思いますの。皆様それぞれ良いものを持っていますから。
ここに宣言致しますっ! この個性豊かな仲間達と共にわたくしはこの世界の中心オラリオで、強く、気高く、美しく! 淑女を超え、お嬢様を超えやがて究極の『淑嬢』へと至るのですわ!!! 優雅に慎ましやかに淑嬢道を爆進、道に立ち塞がるモノは全てぶっ飛ばして差し上げますわー!!!! おーほっほっほ!!
「──────ほっほっほ!! ん?」
皆、いなくなってしまいましたわね。やれやれ、早く本拠地へ帰還して疲れを癒したいのは分かりますが些かせっかち過ぎではありませんこと? でもわたくしは寛容な女。どんな仕打ちも広い心で受け止めてみせますわ。
さて、皆様に追いつきませんと。しかし、焦ってはいけません。どんな時も優雅に立ち振る舞うのです。なので走って追いかけるなど言語道断。
「こっちがこうで……あちらが……であれば…………うん、こちらの方角ね」
どうするか? それは最短距離を進めばいいのですわ! それ、どかーん。
「わたくしが進むのは、誰もが辿り着いたことのない未踏の頂点。ゆえに道など存在しませんわ!」
えいっ、どーん。どかーん。
「ならば、道はわたくしの手で作り上げてみせますわーーーーーーっ!!!」
五十一階層での仕返しもありますし、宣言通りこのまま出口まで立ちふさがる壁をぶっ飛ばして進みますわよーーっ!
「おーーーーーーーっほっほっほっほっほっほ!!!!」
◆
ベルは走る、ダンジョンを抜け街の中を。
駆け出した当初は無我夢中で目的なぞ無かったのだが今は走るべき理由があるのだ。外の空気に触れ少しだけ冷えた頭でダンジョンでの二つの出会いを想う。
黄金の妖精を想うと胸が味わった事の無い心地良い痛みに支配され顔が熱に浮かされる。
真赤な一輪の薔薇を想うと胸が張り裂けるほどの動機に襲われ、顔からは滝のような汗が噴出する。
これが答えだ。
ベルは自分が行うべき行動を正確に理解していた。そして自分の思いも。
英雄となり、数多くの女性から慕われハーレムを作る。これはその第一歩なのだ。
ギルドの分厚い扉に手を掛け力の限り開く。木製の扉が軋む音がかき消されるほどの大きな声でベルは叫んだ。
そう、ベルは──
「エイナさぁあああああん!! アイズ・ヴァレンシュタインさんとシャーロット・グレースさんの情報をおしえてくださああああいっ!!!」
二人に恋をしたのだ。
ぐるぐるお目目のベルは恐怖と混乱から脳内に大量の
エイナさん「ここまでがヴァレンシュタイン氏について教えてあげられることかな」
ベル「ほとんど教えてもらえなかった……じゃあ、シャーロットさんの事を」
エイナさん「今日はいい天気ね」
ベル「あの、シャー」
エイナさん「見て鳥が飛んでる」
ベル「あの、あの」
エイナさん「エイナ、休憩入りまーす」
ベル「あの」
紐神様「二人に同時に恋をしたって……え?」
「憧憬『一途』って……え?」
「…………え?」