色の少年   作:火の車

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天才

 ”七深”

 

 朝、目を覚ますと、かえ君が隣にいた

 

 泊ってって言ったのは私だし

 

 隣で寝ることにしたのも私

 

 だから、いること自体に驚いたとか無かった

 

楓「すぅ......すぅ......」

七深(あ~!好き好き好き!///)

 

 驚かなかったけど

 

 ただ、かえ君が存在することが嬉しかった

 

 私の好きな人で親友

 

 そんなかえ君が横で穏やかな表情で眠ってる

 

 その事実で胸が暖かくなる

 

七深(昨日のかえ君、かっこよかったなぁ......///)

 

 あの余裕のない表情

 

 ストレートに思いをぶつける言葉

 

 私のために体まで張ってくれた

 

 元々、かえ君の事は好きだった

 

 けど、昨日のことで更に......

 

 いや、少しだけ違う感情になった

 

七深(かえ君は私を好きでいてくれる。受け入れてくれる。味方でいてくれる。)

 

 今まではまだ純粋だった

 

 普通の恋愛対象として好きだった

 

 だけど、今は少し違う

 

 純粋じゃない執着

 

 かえ君が欲しいって思っちゃってる

 

楓「......ん......?朝......」

七深「あっ、おはよう!」

 

 しばらく眺めてると、かえ君が目を覚ました

 

 まだ眠たそうに瞼を擦ってる

 

 かえ君の一挙一動が愛おしい

 

 可愛い

 

楓「おはよう、って今何時?」

七深「えっとね~、いつも通り起きたはずだから6時くらい__!?」

楓「どうしたの、って、え?」

 

 私は自分の目を疑った

 

 いつも、私は6時くらいには起きる

 

 けど、時計の針は8時を指してる

 

 あ、あれ~?壊れてるのかな~?(現実逃避)

 

楓「ね、ねぇ、これ、もしかしなくてもマズいんじゃ?」

七深「い、一応、かえ君の荷物は持って来てもらってるから......」

楓(いつの間に!?)

七深「と、とりあえず急がないと!着替えよ!」

楓「ちょっと脱ぐのは待って!?」

 

 かえ君は慌てて部屋を出て行った

 

 って、かえ君いつ着替えるんだろ?

 

 いや、私が早く着替えないといけないんだよ

 

七深(今日は車出してもらわないと。かえ君を遅刻させるわけにはいかないし。)

 

 そんな事を考えなら制服に着替え

 

 かえ君が着替えてる間に車の手配をし

 

 急いで2人で家を出た

__________________

 

 ”楓”

 

 朝は本当に焦った

 

 けど、広町さんが車を呼んでくれて

 

 それに乗って何とか間に合った

 

 登校だけで車なんてっていつもなら言うけど

 

 走ってたらどうなってたか分からない

 

 本当に助かった

 

透子「__よー!2人ともー!」

楓「あ、おはよう、桐ケ谷さん。」

七深「おっはよ~。」

透子「......ん?」

楓、七深「?」

 

 いつも通り元気な桐ケ谷さんに挨拶をすると

 

 なぜか、首を傾げた

 

 どうしたんだろう?

 

透子(あれ、この2人、同じ匂いする......?)

楓「どうしたんですか?」

透子「お、お前ら、もしかして......ヤッたか?」

七深「!?///」

楓「?(やった?なにをだろう?)」

 

 何のことを言ってるんだろう

 

 動作を表してる事は間違いない

 

 けど、抽象的すぎて分からない

 

七深「そ、そんな事してないよ~!///」

透子「いや、だって、昨日デートだって言ってたし......衛宮は?」

楓「えっと、何の話をしてるんですか?何らかの行動を表してるのは分かるんですが、どういう内容なんですか?」

七深、透子「!?」

楓「?」

 

 2人が驚いた顔をしてる

 

 僕、何か変なこと......って、まさか

 

 あれは何かの隠語で僕だけ理解出来てない

 

 だから、こんな顔をされるのか

 

透子「え、衛宮ってさ、中学のときとかに性教育とか受けたことある?なかった?」

楓「(理科の)授業でなら。」

透子(って事は、単純に下ネタ通じない奴か......衛宮ならコウノトリが運んでくるくらい言いそうだけど。いや、それは困るからやめて欲しいけど。)

七深(高校生にしてはピュアだな~。天使すぎる。)

 

 急にどうしたんだろ?

 

 流石にさっき聞かれたことくらいは分かる

 

 だって、分からないと理科のテストがダメだし

 

 優性の法則とかならちゃんと答えられる

 

透子「その、衛宮とななみから同じ匂いするんだけどさ。」

楓「あ、広町さんの家に泊まったからですね。」

透子「そこは誤解じゃねぇのかよ!」

楓「色々あって。」

透子(......あれ?衛宮、指怪我してね?)

 

 そろそろホームルームだ

 

 席に着いておかないと

 

透子「え、衛宮?その指は?」

七深「!(あ、気付かれた!)」

楓「これは......」

 

 どうしよ、なんて答えよう

 

 自分で切ったなんて言ったら変な奴だし

 

 かといって出来る言い訳が少ない

 

 えっと、えっと......

 

七深「それは、私のためにしてくれたの。」

透子「!?(え、やば。)」

七深「今日の練習を見て、その後で判断して欲しいな。」

透子「ど、どういう事?(なんかあったの?いやでも、衛宮が理由もなくあんな事するわけないし......取り合えず、言う通りにしとくのがいいや。)」

楓「あの、先生来ましたよ?」

七深「席に行こっか~。」

透子「そ、そうだね。」

 

 それから、僕たちは席に着き

 

 いつも通りホームルームを受けた

 

 ずっと桐ケ谷さんからの視線があったけど

 

 やっぱり、あれが尾を引いてるのかな?

__________________

 

 ”瑠唯”

 

 天才と呼ばれた人間が成長し平凡になる

 

 これはそこまで珍しい話でもない

 

 どんな天才だって壁にぶつかり、挫折する

 

 月ノ森が誇った天才もいつの日からか普通になった

 

 ......はずだった

 

七深「__こんな、感じだよ。」

楓「す、すごい。」

透子「え、こんな演奏できたの!?」

つくし「練習した......って感じではないね。」

ましろ「え、ど、どういう事......?」

瑠唯「......」

 

 その天才はいきなり目覚めた

 

 6人しかいないアトリエの中

 

 ベースを始めて2か月の天才が

 

 熟練者をあざ笑うような高度な演奏を披露した

 

 私も含めて、全員、その才能に息を呑んだ

 

瑠唯「......隠すのはやめたのね。」

七深「かえ君がいるから。もう、怖がらなくていいから。」

瑠唯「......そう。」

 

 天才を目覚めさせたのは、彼だった

 

 きっと、彼女の苦しみを察したに違いない

 

 彼にはそれが出来る目があるもの

 

楓「これが広町さんの本当の姿なんです。その、すごく出来る人って感じで。」

透子「そ、そういう事か。これのために。」

つくし「でも、すごい戦力じゃない!?」

ましろ「う、うん!心強いよね......!」

瑠唯「......そうね。」

 

 広町七深が普通になった時

 

 誰も異変を感じず、注目しなくなった

 

 平凡になった、ただそれだけと言い「

 

 遠回しに、彼女を見捨てたとも取れる

 

 けど、彼は違った

 

 人の感情をもとらえる事の出来る目を持ち

 

 天才を復活......それどころか、更に歩ませた

 

七深「か、かえ君......!」

楓「ね?言ったでしょ?皆は受け入れてくれるって!」

七深「うん!」

透子「隠してるなんて水臭いじゃーん!」

つくし「そうだよ!リーダーの私にまで隠してるなんて!」

ましろ「すごいね?ななみちゃん。」

楓「すごいんだよ!広町さんは凄い色を持ってるから!」

 

 彼の指の怪我

 

 あれは最後に会った時には無かった

 

 つまり、土日の間に負った傷

 

 そして、この急激な広町さんの変化

 

 これらを総合して考えて、あの指は彼女を目覚めさせる代償と考えるのが妥当

 

瑠唯(なぜ......)

楓「?(見られてる?)」

瑠唯「衛宮君、指の傷を見せてくれるかしら。」

楓「え、あまり見ても気持ちのいいものじゃありませんが。」

 

 彼はそう言って指の絆創膏を外した

 

 かなり大きめの絆創膏だけれど

 

 どんな傷が......

 

瑠唯「っ!?」

 

 彼の指にはかなり深い切り傷があった

 

 一体何をしたのかは分からない

 

 けど、こんな傷を負ってまで、彼女を解放したの?

 

 彼の事だから、バンドのレベルを上げる為とか、そんな打算的な考えではない

 

 ただ、彼女を苦しみから解放する

 

 それだけのためにあそこまでした

 

 なぜ?

 

瑠唯「衛宮君。」

楓「はい?」

瑠唯「あなたの指の怪我、原因は広町さんなのよね?」

ましろ、つくし「!?」

楓「......はい。」

瑠唯「なぜ、そこまでしたというの?彼女を苦しみから解放するため?」

 

 私はそう問いかけた

 

 彼は少し答えずらそうな顔をし

 

 少しして、口を開いた

 

楓「それもあります。これくらいの事を出来ないなら、僕に生きてる価値なんてありませんから。」

瑠唯「も、と言う事は、それ以外にもあるのね。」

楓「もう一つは......ただの自分の事情です。」

瑠唯(自分の事情?)

楓「人生で初めての広町さんには、自分を曝け出してほしくて。」

瑠唯(......!?)

 

 ただ、それだけの理由で?

 

 その為だけに、あんな傷を負えるの?

 

 ......狂ってる、普通なんかでは断じてない

 

瑠唯「......もう少し、自分を大切にしなさい。」

楓「!」

瑠唯「倉田さんを見なさい?泣きそうな顔をしてるわよ?」

楓「え!?」

ましろ「え、衛宮君がケガしてる......だ、大丈夫?痛くない?」

楓「だ、大丈夫だよ?血もすぐに止まったし。」

つくし「いや、そういう問題じゃないよ!?」

 

 異常、狂気

 

 彼の正義は常にそれらを孕んでいる

 

 己を顧みないなんて、とても私には出来ない

 

瑠唯「衛宮君、あなたはなぜ、人を助けるの?」

楓「え?」

瑠唯「っ!い、いえ、今のは。(口に出てしまったわ。)」

 

 私は焦って口を閉じた

 

 こんなこと、聞くものじゃない

 

 彼が不快に思うかもしれない

 

楓「手を伸ばして届くなら、誰でも助けたいと思ってるからです。物語の英雄たちはどんなに不可能と言われても、そうして誰かを助けていたので。」

瑠唯「!!」

ましろ(か、かっこいい......///)

七深(かえ君......///)

 

 やはり、彼と出会ってからおかしい

 

 彼がおかしいのは明らか

 

 アンケートでも取れば99%、そう答える

 

 けれど、私はやはりそれに惹かれる

 

 その狂気的な優しさに魅力を感じてしまう

 

瑠唯「素晴らしい、信念だと思うわ......///」

楓「ありがとうございます!」

瑠唯「でも、体は大切にしなさい......心配してしまうわ///」

楓「えっと、それは気をつけますね、あはは......」

 

 控えめに笑う彼が愛おしい

 

 出来る事なら、もっと彼と早く出会っていたかった

 

 そんな妄想ともいえる思いを抱きつつ

 

 私は今日の練習に臨んだ

 

 

 

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