天才の弟
ずっと、僕は身内の間でそう言われてきた
天才の弟も天才で間違いない
そんな期待を背負って生まれた僕
けど実際、蓋を開けてみれば......
楓「僕は、病気だったんです。」
透子「!?」
生まれた時から心臓の病気と言い渡され
それを知った身内は誰も僕を相手にしなかった
だって、病気持ちを可愛がる理由がなかったから
楓「皆、お兄ちゃんだけを優遇しました。心臓に爆弾を抱えた僕より、将来有望なお兄ちゃんの方が良かったので当たり前なんですが。」
透子「い、いや、そんなのおかしいじゃん!」
楓「なにもおかしくありませんよ。」
そう、なにもおかしくない
周りはごく自然な反応をしただけ
楓「1度、大きな物......例えば大金を手に入れ、その生活に慣れると、人は簡単に生活水準を落とすことが出来なくなると思うんです。」
透子「っ!(そ、そうかも......)」
楓「それと一緒で、一度あのお兄ちゃんを見れば、僕なんてゴミ同然ですから。だから、誰も決して悪くはないんです。」
透子「い、いや、そんな事......」
桐ケ谷さんは優しい
僕なんかに気を使ってくれてる
本当に......
”透子”
言葉に詰まった
生まれた時から呉服屋の娘として生まれて
今まで何の不自由もなく生きて来た
お小遣いは衛宮から見れば大分多いし
欲しいものが手に入らない事もほぼなかった
そんなあたしが、衛宮に何か言うなんて
そんなの、おこがましいにも程がある......
楓「でも、両親やお兄ちゃんは僕に優しかったんです。」
透子「!」
楓「毎日お見舞いに来てくれて、外のお話を聞かせてくれて、本などもたくさん与えてくれました。」
透子「そ、そっか。」
衛宮は両親と兄に愛されてた
暖かい家族、そんな印象だった
けど、そんな背景があったんだ
楓「......だからこそ、辛かったんです。」
透子「え?」
楓「両親は僕にかかりっきりで、お兄ちゃんに使える時間が少なくなったんです......」
透子「......!」
悲しそうな声で、衛宮はそう言った
そっか、入院して毎日お見舞い
そりゃ、時間も無くなる
楓「極めつけは、お兄ちゃんが小学校5年生の運動会の時です......僕の体調がいきなり悪くなって、運動会の途中に両親は学校を離れてしまったんです......」
透子「!」
楓「勿論、心配してくれたことは嬉しかったんです。けど、そういう時くらい、お兄ちゃんを優先して欲しいと思ったんです.....体調だって、その日の夜には回復しましたし......」
こいつ、異常だろ
あたしが親でも確実にそうする
もしかしたら、それが命にかかわることかもしれない
けど、それでも、兄を優先してって言う
やっぱり、こいつはおかしい
楓「でも、お兄ちゃんは僕を責めなかった......それどころか、『楓が無事でよかった。』って言ってくれたんです......それが一番、辛かった。」
透子「......」
もっと、自分の事心配しろよ
そう思うけど、こいつは絶対にしない
てか、この異常さは生まれつき持ってるものなのか
楓「だから、僕は誰より、人に優しくないといけないんです。そう出来ないなら、僕に生きる意味はない。」
透子「......そんな事ないって。」
楓「?」
透子「衛宮はもっと自分の事考えても良いって。そうやって誰かのために生きるのはさ、大人になって、結婚とかした時でいいじゃん。今は、別に普通に病気とか治ってるんでしょ?」
楓「......」
透子「え?」
衛宮は、首を横に振った
え、ちょ、待って?
この反応って事は、まさか......
透子「ま、待てよ......」
楓「......僕の病気は、厳密に言えば治っていないです。」
透子「っ!!」
やっぱり、そうだった
なんなんだよ、こいつ
ルイとかななみとかシロ、どうする気なんだよ
なんで、あんなに優しくすんだよ
楓「だから、後悔したくない。」
透子「後悔......?」
楓「僕は死んじゃう時、あの人を助けられなかった、あの時にもっと頑張ればよかった、もっとやれることはあった、そんな後悔をしたくないんです。」
その結果がこいつの行動ってわけか
人より人生が短いからこその志
その時その時に全力でいられる理由か
透子「衛宮は、それでいいのかよ......」
楓「いいんですよ。誰かのために全力で何かできるなら、僕は僕の人生に満足できます。」
透子「自分は、どうでもいいのかよ。もっと、他人じゃなくて自分のために......」
楓「いえ、これが僕のためでもあるんです。」
透子「!」
衛宮はそう言ってベンチから立ち上がった
そして、笑顔でこっちを向いた
クリーム色の髪が太陽の光で照らされ
キラキラと輝いている
楓「後悔しないで死ねるなら、それ以上に幸せなことってないと思うんですよ。だから僕は、朽ち果てるまで誰かのために頑張りたい。」
こいつの目には迷いがない
これ以上ないくらい澄み切ってる
あるものをあるまま受け入れる
そんな目だ
透子「......そっか。」
楓「話せることは多分、これだけです。」
......分からない
衛宮は死ぬの時に後悔したくない
だから、あんだけ人に優しいし、頑張る
その優しさには、あたしだって救われた
透子(どうしたいんだ?あたしは......)
衛宮は弟みたいに思ってた
けど、あいつはあたしよりしっかりしてるし
練習でぶっ倒れた時にはいつも助けてくれる
大切な、仲間......
楓「僕は帰りますね。また明日__」
透子「ちょっと待て。」
楓「はい?」
透子(あーもう!分かんない!!)
わかんない、わかんないけど
なんか、このままじゃ駄目な気がする
てか、あたしがそれを拒否ってる
透子「今週日曜、駅前に集合!!」
楓「え?」
衛宮は首を傾げた
ほんとーに分かんない
けど、なんでかこいつを放っておけない
いや、放っておきたくない
楓「僕は構いませんが。」
透子「きっちりオシャレして来いよ!分かったな!」
楓「は、はい?」
あたしはそれだけ言って家に方に歩きだした
あーもう、分かんない
なんで......こんなに胸が痛いんだろ
”楓”
なぜか、桐ケ谷さんに遊びに誘われた
どうしたんだろうか
そういう気分だったのかな?
桐ケ谷さん、そういう感じの人だし
楓(お友達とお出かけかぁ......桐ケ谷さんとだし、きっと楽しいよね!)
折角、誘ってくれたし
何を頑張ればいいか分からないけど、頑張ろう
オシャレしろって言われたし
今日は家で着ていく服でも選ぼうかな?
そんな事を考えながら、僕は家に帰って行った