“瑠唯”
放課後、私達は彼のいる病室に来た
そこで彼に今日あったことを報告し
そして、現在に至る
楓「......なるほど。」
彼は下を向いて、考え込んでいる
表情も感情も読み取れない
ただ、無表情で思考している
楓「......」
瑠唯「......っ!」
その時、彼の目が一瞬だけ見えた
それと同時に、私の背筋が凍った
ひどく冷たい目をしていた
いつもは優しい目をしているあの彼が
楓「分かりました......取り合えず、話をしましょう。あちらの話を聞かないと、筋が通らないので。」
ましろ、透子、七深、つくし「......!」
完全に、怒っている
声を聞いて、確信に変わった
初めて見たかもしれない、こんな彼は
楓「明日から僕も登校出来るので、取り合えず、その人の話を聞きます。」
そう言って、彼は自分の荷物を持った
もう、退院の準備は出来ているらしい
楓「皆、ありがとうございました。毎日お見舞いに来てくれて、嬉しかったです。」
透子「あ、当たり前じゃん!」
七深「ほんとはつきっきりで看病したかったくらいだよ~!」
つくし「気にしなくてもいいよ!」
楓「あと、倉田さん。」
彼は倉田さんの方を向いた
その表情はいつも通り、優しく笑っていて
ホッと心が温かくなる
楓「大丈夫だから、安心して。」
ましろ「衛宮君......」
楓「悠然と飛ぶ蝶の羽は、誰にも汚せはしないから。」
彼はそういった後、病室を出ていき
私たちも着いて行った
最後の言葉......
彼にしては珍しく、自信に満ち溢れていて
少しだけ、胸騒ぎがした
_____________________
“楓”
この感情は何だろうか
怒り、と言うには落ち着きすぎているし
怒ってないと言われれば、それも違う
こんな感情を抱いたのは、初めてだ
楓(......)
僕ごときに何ができるか分からない
きっと、今から来るのは、僕なんかよりすごい人だ
そんな人をどうこうできるわけがない
けれど、それでも、引き下がれない
透子「__連れてきたよ、衛宮。」
楓「!」
穂希「お久しぶりですわね、衛宮さん♪」
楓「え?(話したこと、あったっけ?)」
お、覚えてない
どこだ?どこで話した?
バンドの皆以外とはほとんど話してないのに
穂希「あら?覚えておられませんか?お兄様のことで教室に伺ったのですが。」
楓「......あっ。」
あの時か
確かに、あの時は人も多かったし
1人1人をちゃんと覚えてるわけがない
瑠唯「世間話もいいけれど、さっさと本題に入った方がいいのではないかしら?」
楓「そ、そうですね。(会話に困ってたから助かったぁ......)」
穂希「そうですわね。」
そう言って、白鳥さんは僕の前に座った
話を聞いた段階で、自分に自信がある人だと思ったけど
直接見たらさらにわかる
この人の色は、自信に満ち溢れている
楓「大体のお話は聞いています。」
穂希「でしたら話は早いですわね。あなた達のバンドのボーカル交代を要求しますわ。」
楓「......!」
迷いなく言ってきた
これは、早く話を進めたいいんだ
自分が断られるわけがないと思ってるんだ
穂希「歌唱力、ビジュアル、経験値。その全てを兼ね備えた私ならば、月ノ森ブランドを背負うのに相応しいでしょう?」
楓「......」
穂希「あなたの人を見る目は確かだと聞いております。そんなあなたなら、真に正しい決断を下していただけると信じていますわ。」
絶対的な自信だ
勝ちを確信した時の色をしてる
普通なら、この人の誘いを断ることはない
そう、普通の、寄せ集めのバンドなら
楓「悪いですけど。あなたの色じゃ、皆とかみ合いませんよ?」
穂希「......はい?」
楓「あなたがコーラスコンクールで結果を残しているのは聞いています。そして、八潮さんに過去の映像を見せてもらいました。」
確かに、すごいと思った
綺麗で良く通る声で
体の使い方だって、レベルが違った
けれど、それでも、僕は確信できた
彼女では、皆のバンドには嚙み合わないと
楓「あなたの色では、皆の演奏をくすませてしまう。そもそも、あなたでは倉田さんが書いた歌詞は歌えない。」
穂希「何を根拠にそういうのですか?」
楓「あなたが倉田さんじゃないことです。」
穂希「......は?」
僕の言葉に白鳥さんが首をかしげる
ちょっとおかしいことを言ってるかもしれない
けど、事実だからこう言うしかないんだ
楓「倉田さんの書く歌詞は、倉田さんの世界なんです。真に理解できるのは本人だけで、他の人間では真の深みには到達出来はしない。」
穂希「それでも、歌唱力の差は明白ではなくて?いくら歌詞の意味を汲み取れても、お客様は歌の巧拙でしか評価しません。」
楓「本当にそうでしょうか?」
白鳥さんのカウンターにひるまず
すかさず反撃する
楓「心というものは伝わります。上手い下手を超えた心を表現するのが、バンドです。白鳥さんはありませんか?」
穂希「何をでしょうか?」
楓「......自分の思いの丈を込めて、歌ったことはありませんか?」
穂希「......っ!」
白鳥さんの色が乱れた
見るからに動揺してる
やっぱり、僕の予想通りだ
穂希「そ、そんなことに、意味は......」
楓「だからあなたは、結果しか残せない。」
穂希「なっ......!?」
楓「コンクールで優勝して、あなたは何を感じましたか?」
穂希「......っ。」
色がどんどん曇っていく
これは、あまり見ない変化だ
色から今の心境が読み取りづらくなった
楓「当たり前と思って喜びや達成感を感じられなかったなら、あなたはバンドには向いていません。」
穂希「......ですか。」
楓「......?」
穂希「それが何だというのですか!?」
楓「!」
キーンと甲高い声が耳に響いた
すごい声だ
耳を通り越して頭蓋骨まで割れるかと思った
穂希「私は、あの程度では月ノ森の名に傷がつくと言ってるのですよ!」
楓「そもそも、それが勘違い、ですよ。」
穂希「はぁ......?」
楓「このバンドは、月ノ森で出来たバンドというだけで、月ノ森のバンドではありません。」
穂希「......!!!」
これはもう、屁理屈という他ない
けど、結構もっともらしいでしょ?
穂希「......そう来ますか。ならばこちらも、容赦しません。私を認めないなんて、許されません。」
楓「......?」
穂希「私は1年生にして、次の生徒会長候補筆頭と言われているんですよ?」
楓「!(まさか......!)」
白鳥さんの色がくすみ切った
完全に汚れた
もう、今の彼女に気高さなんてものはない
穂希「私が生徒会長になった暁には、生徒会が公認しない課外活動を禁止することとします!」
楓「......!(しまった......!)」
透子(やっばいじゃん!)
つくし(もしも、本当にあの子が生徒会長になったら......)
瑠唯(本当にやりかねないわね。)
どうすればいいんだ......!?
彼女の色は本気だ
正直、話し合いが通じるとは今の様子を見たら思えないし
どうすれば......
穂希「私を愚弄したこと、後悔させてあげますわ!」
楓「......そ、それは、どうでしょうか?」
穂希「まだ何かあるんですの?」
楓「あなたが生徒会長になれば、僕たちは終わりです。なら、やることは一つですよね?」
七深(ま、まさか......!)
ましろ(......??)
正直、出来る自信はない
けど、倉田さんを侮辱されて、僕だって怒ってるんだ
この人には、やり返さないと気が済まない
楓「僕が、次の生徒会長になります......っ!」
穂希「!?」
楓「そうなれば、バンドは存続できますよね?」
穂希「......出来るものなら、やってみなさい。」
白鳥さんはそう言って、席を立った
そして、すごい目つきで僕を睨みつけた
穂希「教えてあげますよ。あなたの言葉が、いかに愚かなのかを。」
楓「そう言われて引き下がれるほど、僕は賢くないので。」
穂希「......ふんっ。」
白鳥さんはそっぽを向いて教室を出て行った
......さて、後先考えずにすごい大口叩いちゃったけど
この状況、どうしよう......
今年のクリスマスはましろの話を2本投稿します。(一つは外伝の方で)