色の少年   作:火の車

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小さな英雄

 今まで、僕の世界には色がたくさんあった

 

 喜びの色、楽しそうな色、怒りの色、悲しみの色

 

 僕には、そんな色が見えていた

 

 人が存在する数と同じだけ種類のある色

 

 それがそこら中を無作為に色だった世界

 

 それが、僕の世界だった

 

楓「はぁ、はぁ、はぁ......っ!」

 

 けど、そんな世界は一色に支配された

 

 それは、黒と赤が混ざり合った地獄のような色

 

 それがカーテンのように僕の視界にかかっていて

 

 ほとんど、赤黒い景色になってる

 

警官「だ、大丈夫か!?」

楓(......あれ、なんで......僕は倒れてるんだ......?)

 

 体中にアスファルトの感触を感じる

 

 そして、視線が低い

 

 なんで、こうなったんだっけ......

 

楓(体が動かない......と言うか、痛い......血、水たまりみたいになってる。)

 

 一瞬気を失ってたけど、思い出してきた

 

 僕、女の子を探すために色を見てて

 

 それで、しばらくはなんとか頑張ったけど

 

 結局、限界迎えて倒れたんだ

 

楓「あ、ぐっ......」

 

 どこがどう痛いのかもわからない

 

 けど、明確に痛いのは心臓

 

 いつもより圧迫感が強くて、今にも破裂しそうだ

 

楓(どうしよう......これ、今までの人生で、一番つらい......)

 

 内臓全部に穴が空いたように痛い

 

 体を動かそうとすると、激痛に襲われる

 

 たとえ、動かすのが指一本だろうと

 

「お兄ちゃん!!大丈夫!?」

「警官さん!救急車を!」

警官「は、はい!君、待ってろ!すぐに救急車を__」

楓「まっ......て......」

警官「!?」

 

 自分で聞いて、自分の声と一瞬分からなかった

 

 いつもよりも低くて掠れてる

 

 声を出す力も、ほとんど残ってないみたいだ

 

 でも......

 

楓「ま......だ......見つ、けて、ない......」

警官「な、なにを言ってるんだ!?確かに、あの子のことも大切だが、今の君は__」

楓「これで、いいん、です......っ!」

 

 どうせ、残り少ない命

 

 いや、もう残ってないのかもしれない

 

 体の感覚なんて、もうほとんど残ってないもん

 

楓「きっと......その子は、僕よりも長く、生きられます......」

「お兄、ちゃん......?」

 

 今の僕は、燃え尽きる前の蝋燭

 

 火は弱く、小さくなって、いつ消えてもおかしくはない

 

 けど、どんなに小さい火だって、周りを明るくできる

 

 少しくらい誰かを温められるんだ

 

楓(どこだ......あの子の、色は......?)

 

 真っ赤になった景色の中で一つ

 

 クリーム色って言われる黄色

 

 これだ......これが、あの子の色だ

 

楓「こっち......だ。」

「だ、大丈夫なんですか!?口どころか、目からも血が......!!」

警官「だ、ダメに決まってるでしょう!?(見ただけで虫の息だと分かるレベルなのに、なぜ、この子は動けるんだ......!?)」

 

 一歩、足を踏み出す

 

 動いたかどうかはいた意味で分かる

 

 今、僕は一歩進んだ

 

 大丈夫、まだ動ける

 

楓「あっ、ぐっ、うっ......っ!!(動け、僕の体......!)」

 

 クリーム色の線に沿って、歩を進める

 

 一歩踏み出すごとに体中に激痛が走る

 

「き、君......もう、病院に......」

 

 遠くから、あの人達の声が聞こえる

 

 けど、何を言ってるかは分からない

 

 目以外の感覚がほぼ死んでるんだ

 

楓(ここは、どこなんだろう......?)

 

 時間の感覚も距離の感覚もない

 

 けど、色はちゃんと追えてる

 

 まだまだ先は長いけど、着実に進んでる

 

「__お、おい。なんだ、あれ......?」

「ち、血!?」

「顔中血だらけだぞ!?」

「映画の撮影か......?」

 

 なんだか、周りに色が増えた

 

 そのほとんどが疑惑の色だ

 

楓(大丈夫、色、見失ってない......)

 

 他の色は見ない

 

 ただ一つ、目的の色を追う

 

 そう、あの時みたいに......

 

楓(あの時も、こんな感じだったなぁ......)

 

 何も分からない中で必死にもがいて

 

 一つの命を救うことに必死で

 

 ただ、手を伸ばし続けてた

 

楓「......っ!!」

警官「っ!」

 

 その時だった

 

 視界が真っ黒に暗転した

 

 なんだ、これは......

 

楓(何も分からない。僕は今、立ってるのか?倒れてるのか?)

 

 何も感じない

 

 歩を進めてた証の痛みも無くなった

 

 全部、一瞬で消えていった

 

楓(死んだのか、僕は?こんなところで、やりきらないで?)

 

 ここで終わり......?

 

 僕はまだあきらめてない

 

 気持ちはまだ動いてる

 

『__お兄ちゃん!!!』

楓(......なんだ?)

 

 遠くから、大きな声が聞こえる

 

 この声、さっきの男の子......?

 

『がんばれー!!!』

楓(......!!)

 

 耳から入って、体中に響く声

 

 胸の奥が温かい

 

楓(......痛い。)

 

 体の中に流れこんでくるエネルギー

 

 それでいっぱいになるわけじゃない

 

 けど、一滴が体に染みわたる

 

 一滴あれば十分、動きだすだけの力にはなる

 

楓「ぁ......ぐ、うぅ......っ!」

 

 感覚が薄くだけど戻って来た

 

 僕は道の真ん中で倒れてた

 

 周りにたくさん、人がいる

 

 それに横に救急車が来てる

 

 どれだけ倒れてたんだろう

 

楓(もう、少し......)

 

 なんとか、僕は立ち上がった

 

 けど、立ち上がることでエネルギーを使い果たしたのかな

 

 また感覚がなくなった

 

「き、君!止まりなさい!すぐに病院に__」

楓「......行こう。」

「え?」

 

 けど、大丈夫

 

 視界はもう、赤くも真っ暗でもない

 

 白い

 

 まるで何も書かれていないキャンバスみたいだ

 

楓「あぁ、そっちにいるんだね......」

 

 そのキャンバスに一本のクリーム色の線が引かれる

 

 それを追うように僕は一歩を踏み出した

 

楓(綺麗だなぁ、この色......)

 

 さっきよりも速く歩けてる気がする

 

 不思議な感覚だ

 

 体が羽にでもなったみたいに軽い

 

楓(こっちだね。すぐ行くよ。)

 

 真っ白なキャンバスの上を歩いていく

 

 綺麗だなぁ、色のない世界って

 

 静かで、無駄なものは何もなくて

 

楓(っと、何かのぶつかった。なんだろ。)

 

 白い景色を歩いてると何かにぶつかった

 

 何にぶつかったのかな

 

 そう思いながら、僕は右手を前に出した

 

楓「......進めるみたい。」

 

 すると、その壁は消えて

 

 僕はまた、歩を進めた

 

楓「階段。」

 

 白い景色に階段が現れた

 

 色はそっちに続いてる

 

楓(もうすぐ行くよ。)

 

 きっと、向こうに行っても楽しいよね

 

 いわさんもいるだろうし

 

 もしかしたら、皆のことを見守れるかもしれない

 

楓(死ぬのも、悪いことばかりじゃないのかな。)

 

 スーッと溶けていく感覚

 

 体か精神か、それとも両方か

 

 分からないけど、溶けて行ってる

 

 まるで、終わりとでも言わんばかりに

 

「な、なんだ!?」

楓「あっ。」

 

 階段を上り切って

 

 僕は少し、口角を上げた

 

 そして、色の終着点に向かって最後の力を振り絞って歩いて

 

 そこにたどり着いた

 

楓「__追いつけた。」

 

 “別視点”

 

警官「突撃ー!!!」

「うわっ!!な、なんでここが!!」

 

 警官の一声に反応し

 

 何人かの他の警官が犯人を取り押さえる

 

 犯人はジタバタと藻掻くがそれも及ばず

 

 あっさりと手錠をかけられた

 

「あ、あぁ......!!よかった......!!」

「美優......!!」

「ふぇ、ママ、パパ......?」

 

 その奥にいた女の子に両親が駆け寄る

 

 女の子、美優は目に涙を浮かべ

 

 両親に抱き着いた

 

警官(ま、まさか、本当に見つけてしまうなんて。あの子......いや、彼は、素晴らしい少年だ。)

 

 警官は尊敬の念を抱いた

 

 一つの尊い命を救った勇気

 

 ボロボロな体でやり切った根性

 

 その全てに

 

警官(これは、表彰ものだな。あの制服、確か月ノ森学え__)

「お、お兄ちゃん!?」

警官「っ!?」

 

楓「......」

 

 男の子の悲鳴のような叫びに警官は反応した

 

 その声に反応し、警官がそっちを見ると

 

 そこには__

 

楓「......(これで......終わり......)」

警官「き、君!!!」

 

 糸の切れた人形のように力なく倒れる

 

 尊敬の念すら抱いた少年の姿があった

 

警官「き、救急隊!すぐに担架を!近くの病院に連絡を回せ!!救急だ!!!」

「は、はい!」

警官「しっかりしろ!!気をしっかり持つんだ!!!」

「お兄ちゃん!しっかりして!」

 

 その空間に訪れた喜びはほんの一瞬だった

 

 再開した家族の喜びを掻き消すように、その家族を救った小さな英雄は力尽きた

 

 それを見たすべての人間は悲痛な叫びを上げ

 

 その空間はすぐに悲痛な感情に支配された

 

 その中心には、血の水たまりに生気なく横たわる屍のような少年の姿があった

 

 

 

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