色の少年   作:火の車

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現実

 体育祭が始まってしまった

 

 彼はついに、開会式に姿を現すことはなかった

 

 衛宮君のご両親の話では、早くに家を出たらしい

 

瑠唯(ど、どういうことなの......?)

 

 彼がサボるなんてことはありえない

 

 何か、大変なトラブルに巻き込まれたのかも......

 

 そんな不安が胸を締め付けてくる

 

瑠唯(衛宮君......)

 

 根拠はないけど感じる不安

 

 最近の彼の様子

 

 あれは地味だったけれど、明らかに異常だった

 

 あの咳の頻度、体のふらつき方

 

 まるで、体が少しずつ弱ってたような雰囲気だった

 

穂希「八潮さん。どうかされましたの?」

瑠唯「......白鳥さん。」

 

 1人で立ち尽くしていると

 

 白鳥さんが後ろから声をかけてきて

 

 私は声のした方を向いた

 

穂希「彼のことを気にしているのですか?」

瑠唯「!」

穂希「まぁ、確かに不可解ですわね。決して優秀とは言えないですが、サボりを働くような人間でないことは一目見れば分かりますし。」

 

 白鳥さんは考え込むような仕草をしながらそう言った

 

 かつて敵対関係だった彼女ですらこんな見解を示す

 

 そのレベルで彼は真面目な人物であるはずなのに

 

瑠唯(一体、何が......)

 

 衛宮先生もご両親も不安なのが見て取れる

 

 本当にどうしたというの?

 

 お願いだから、せめて連絡だけでもして......

 

穂希「はぁ......本当に彼に入れ込んでるのですね。」

瑠唯「......それがどうしたというの?」

穂希「月ノ森でも屈指と言われた才媛のあなたが、たった1人の平凡な男子に......いえ、平凡ではないですね、あの人は。」

 

 白鳥さんはそう言い、一つ息をついた

 

 彼女は敵と言う立場で彼を経験してる

 

 だからこそ、彼の非凡さを感じられたのかしら

 

穂希「彼のあの優しさ......もはや、執念すら感じます。普通の人間なら踏みとどまってしまうようなラインを易々と踏み越えてしまう。そのくせ、本人はあんなに弱弱しい。正直、呪われてるのではないかと思います。」

瑠唯「......」

 

 呪われてるという言葉に私は納得してしまった

 

 度々思っていた

 

 彼のやさしさにはどこか使命的なものを感じていた

 

 優しくいなければならない、あるいはそれに固執してる

 

 そんな危うい雰囲気を感じたことは何度もあった

 

瑠唯「......否定はしないわ。」

穂希「!」

瑠唯「私はそんな狂気的な優しさな彼に命を救われて、好きになったんだもの......」

穂希「難儀ですのね。恋というのは。」

瑠唯「......そうかもしれないわね。」

 

 本当に難儀だと思う

 

 彼のことを異常だと思って、大人しくしてほしいとは思う

 

 けれど、彼の意志を否定したくない

 

 そんな相容れることのない気持ち

 

 今日の倉田さんと桐ケ谷さんの話を聞いて

 

 それはさらに強くなった

 

瑠唯「......もし、彼に何かあったら__」

凪沙「__なんだって!?」

瑠唯、穂希「!?」

 

 白鳥さんとの会話の途中

 

 聞いたこともないような衛宮先生の声が聞こえてきた

 

 あの人からあんな声が出るのかと驚きつつも

 

 私の胸の内は一気に嫌な予感で埋め尽くされた

 

凪沙「い、今すぐ行きます!」

 

 衛宮先生は慌てた様子で携帯をしまい

 

 信じられない速さで学校を駆け出して行った

 

瑠唯「__っ!」

穂希「八潮さん!?」

 

 それを見て、私も駆け出した

 

 信じたくはない、嘘であってほしい

 

 けれど、なぜか確信めいたものがある

 

 そんな不安で押しつぶされそうになりながら

 

 私は、学校を出て行った衛宮先生を追いかけた

___________________

 

 十数分ほど走って、私は病院に到着した

 

 ここは、衛宮君がよく来ていた病院で

 

 この辺りでは一番規模が大きい

 

瑠唯(衛宮君......っ!)

 

 病院の中でも、つい急ぎ足になってしまう

 

 不安と疲労で息が荒くなる

 

 どうか無事でいてほしい

 

瑠唯(お願い......なんでもするから、無事でいて......っ!)

 

 いつもみたいに優しく笑っていてほしい

 

 全部、何かの冗談で

 

 彼はなんともなくて、この後一緒に体育祭に参加したい

 

瑠唯(......そして、できることなら__っ!)

 

 そんなことを考えてると衛宮先生は足を止めた

 

 私もそれを見て立ち止まり

 

 病室に衛宮先生が入っていくのを見た

 

瑠唯「ここに、衛宮君が......」

 

 私は病室の前に立ち、そう呟いた

 

 ここに衛宮君がいる

 

 入ったら、すべての答えが出てしまう

 

瑠唯(......お願い。)

 

 ぎゅっと、服の裾を握った

 

 怖い、入りたくない

 

 もし、彼に何かあったら、私は......

 

瑠唯(無事でいて、衛宮君......!)

 

 私は大きく深呼吸をした

 

 そして、ドアノブをつかみ

 

 静かにドアを開けた

___________________

 

瑠唯「......?」

 

 病室に入ると、恐ろしく静かだった

 

 先に入った衛宮先生は入り口近くで立ち尽くしている

 

 一瞬、不可解に思った、けれど、所詮一瞬

 

 先生が立ち尽くしてる理由は、すぐに理解できた

 

瑠唯「え、衛宮、くん......?」

 

楓「......」

 

瑠唯「嘘......」

 

 今までの人生で、これほど自分を信じたくなかったことはない

 

 今見てるものすべてが夢か幻であってほしい

 

 けれど、無情にもこれが現実だと理解してしまう

 

瑠唯「な、なん、で......?」

 

 純白のベッドの上に向かって、何本も管が伸びている

 

 周りには見たこともないような機械の数々

 

 そして、その真ん中には......ほぼ全身に血が滲んだ包帯を巻かれ

 

 人工呼吸を取り付けられた......衛宮君がいた

 

瑠唯「えみ、や、くん......?」

凪沙「八潮、ちゃん?」

瑠唯「うそ、なんでしょう......?」

凪沙「っ!!」

 

 私はおぼつかない足を動かし、ベッドの上にいる衛宮君に歩み寄った

 

 こんなの、嘘よ

 

 衛宮君は昨日まで一緒に体育祭の準備をしてた

 

 バンドの練習だってした

 

 昨日まで、元気そのものだった

 

瑠唯「起きて、お願い、おねがい......っ!」

凪沙「......」

瑠唯「え、衛宮先生、衛宮君は、大丈夫、ですよね......?」

 

 私は震える声でそう尋ねた

 

 この人が否定してくれれば否定してくれる

 

 こんな状態の衛宮君も助けてくれる

 

 この人なら......

 

凪沙「.......ありがとう、八潮ちゃん。」

瑠唯「え.......?」

 

 衛宮先生はいきなりそんなことを言い出した

 

 なぜ、私はお礼を言われたの?

 

 今は__

 

凪沙「でも、ごめん......」

瑠唯「えっ__っ!!」

 

 お礼の後すぐに述べられた謝罪

 

 一瞬、何のことかわからなかった

 

 けれど、すぐに理解できた

 

 ......いや、できてしまった

 

瑠唯「そ、そんな.......えみや、くん......っ。」

 

 体中の力が抜けていき

 

 立っていられなくなって、床に膝をついた

 

 なんで、なんで、なんで.......

 

瑠唯「いや......目を覚まして、お願いだから......」

楓「......」

瑠唯「まだなの......私は、まだ何も伝えてないの......お願い、お願いだから、目を覚まして、衛宮君......!!!」

 

 私は3人だけの病室で心の底から叫んだ

 

 でも、その叫びは眠っている衛宮君に届くはずもなく

 

 時間は無情に過ぎていった

 

 

 

 

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