色の少年   作:火の車

79 / 86
本当は?

 薄暗い道の端にある岩に僕と織衣さんは腰かけた

 

 お話するらしいけど、何のだろう?

 

 今の世の中の事とかかな?

 

 僕もそんなに知らないんだけど

 

織衣「あなたのお名前は?」

楓「衛宮楓です。」

織衣「楓......綺麗な名前だね。」

楓「ありがとうございます。」

 

 僕もこの名前は好きだし

 

 これ以降、誰かに名乗ることはないけど

 

 自我がある限りは大切にしていたい

 

織衣「祖父の名前は?」

楓「すみません、分かりません。僕は、親戚と関わりがなかったので。」

織衣「そうなの?」

楓「僕は心臓の病気だったので。敬遠されてたんです。」

 

 別にそれについての恨みとかはない

 

 顔も知らないから、そう言う感情を抱けない

 

 感覚的には他人だしね

 

織衣「......私のせいだね、その病気。」

楓「え?それは、どういうことですか?」

織衣「もう、100年前になるのかな。」

 

 織衣さんは空を見上げながら話し始めた

 

 さっきよりも暗い声だ

 

織衣「私の家は貧乏で、私はお金持ちの家に嫁いだの。」

楓「そうなんですか。」

織衣「嫁いだと言っても、ほぼ奴隷だった。朝4時に起きて、掃除洗濯、朝ご飯の準備。それが終わったら家中の掃除をして、旦那様が帰ってくるまでにお風呂と夜ご飯の準備をして、その片付けをして、誰よりも遅くに眠る。冠婚葬祭の準備も、法事の準備も、全部私1人でして。浮気に気づいても、見て見ぬふりをする。そんな生活だった。」

 

 思ってたよりもひどい生活だ

 

 今と違って便利な家具もないだろうし

 

 きっと、すごく大変な生活だったはず

 

織衣「そんな生活を送ってたある日、私はある神様に出会ったの。」

楓「神?」

織衣「その神様は私に言ったの。『君が一晩僕のものになるなら、一つ願いを叶えよう。』って。」

楓「そんな神様がいるんですか?」

 

 何と言うか、変な神様だ

 

 言葉が妙に軽いというか

 

 価値観がいわさんとは違いすぎる

 

織衣「それで、その誘いに乗った。その後に私が願ったのは、綺麗な世界が見たい、だった。」

楓「綺麗な世界、ですか?」

織衣「うん。それで与えられたのが、あなたの持ってる力。」

楓「......綺麗ですか?この目で見える世界って。」

織衣「私の住んでた場所は人が少なかったから。綺麗だった。」

 

 まぁ、それはそっか

 

 僕は生まれつき都会育ちだったし

 

 そもそも環境が違うんだ

 

楓「でも、なんで、僕にその力が受け継がれたんですか?」

織衣「それは......あなたに、あの神様の因子みたいなものが宿ってたから。」

楓「え?」

織衣「あなた、家族の中で1人だけ髪の色が違うでしょう?」

楓「そう、でしたね?」

 

 僕以外は3人とも、赤みのある色をしてた

 

 小さい時は何でだろうって思ってたけど

 

 そう言うものだって受け入れてた

 

織衣「あなたの髪の色は、あの神様と同じだから。」

楓「そうなんですか!?」

織衣「うん。」

 

 なんでそれが僕に受け継がれたのかも謎だけど

 

 もう、神様だからってことにしよう

 

 考えても分からないし

 

楓「なんて言うか、現実感ありませんね。」

織衣「それを言ったら、今の状況も現実味ないよ?」

楓「確かに。」

 

 よくよく考えたら、ここはどこなんだろう?

 

 天国でもなければ地獄と言うわけでもない

 

 何と言うか、変な空間だ

 

織衣「じゃあ、次は君の話を聞きたいな。」

楓「僕ですか?」

織衣「ねぇ、好きな人いる?」

楓(どこかで聞いたことのあるセリフ。)

 

 いつの時代も女の人ってそう言う話が好きなのかな

 

 僕はよくわからないけど

 

楓「それはどいう意味でですか?」

織衣「それはもう、結婚したいって方向性の。」

楓「じゃあ、いません。」

織衣「嘘。」

楓「嘘じゃないですよ?」

 

 な、なんで疑われるんだ?

 

 別に僕って恋とかそういうのするタイプに見えないと思うけど

 

織衣「嘘だよ。だって、あなた、恋をしてる魂だもの。」

楓「!?」

 

 あ、そうだった

 

 この人って僕と同じ力を持ってるんだ

 

 いや、でも、それでもおかしい

 

 僕は別に恋なんてしてない

 

 そんな感覚、今まで一回も.....

 

織衣「鈍感なんだよ、あなたは。人の心にも自分の心にも。」

楓「そう、なんでしょうか?」

 

 また、鈍感って言われた

 

 今年になってから何回言われただろう

 

 数えきれないや

 

楓「......わからないです。」

織衣「え?」

楓「生前、僕はお友達だと思ってた子に告白されたんです。それで、気づいたんです。僕が大切に思ってた人たちは、僕のことを恋愛的な意味で好きだったんだって。」

 

 なんで僕なんだって思った

 

 あんなに素敵な人たちなのにって

 

 正直、消えてしまいたくなった

 

織衣「あなたは、好きじゃないの?」

楓「勿論、大好きです。でも、分からないです。」

織衣「やっぱり、鈍感だね。でも、仕方ないのかもね。」

 

 織衣さんはまっすぐ僕の目を見た

 

 少し、自分と似てる気がする

 

 特に、目の感じとか

 

織衣「あなたは、そういう環境で育ってきたから。」

楓「......!」

織衣「病気のせいで自己肯定感も低くなった。だから、自分に好意を向けられること自体をありえないと思う。そう思うのは仕方のないことだよ。あなたは悪くない。それは、私のせいだから。」

 

 悲しそうな表情を浮かべる

 

 色が見えなくてもわかる

 

 この人、本気で自分のせいだと思ってる

 

織衣「私の身勝手さのせいで、あなたに辛い宿命を突き付けてしまった。本当に、ごめんなさい。」

楓「そんなに気に病まないでください。」

織衣「!」

楓「僕は自分の人生に満足してます。」

 

 優しい家族がいた

 

 最後に優しい思い出も出来た

 

 僕の人生に悔いなんて一切ない

 

織衣「......それは、本当に?」

楓「え?」

 

 織衣さんがそう尋ねてきた

 

 どういうことだ?

 

織衣「本当に、自分の気持ちを全部出し切れた?」

楓「......!」

 

 その言葉に動いてないはずの心臓が跳ねたような気がした

 

 なんだ、この感覚は

 

 自分の中で何かが崩れる感覚

 

 倉田さんに告白されたときに似てる

 

織衣「もう一度聞くよ、楓。」

楓「......は、い。」

織衣「好きな人は、いる?」

 

 織衣さんの目は真っすぐに僕をとらえていた

 

 そのせいかそうじゃないかわからないけど、僕はうまく声を出せなくなって

 

 2人の間は、静寂に支配されていた

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。