今、あたしは人生の大きな分岐点を迎えてる
いや、衛宮に出会ってからかな
あたしの運命は動き出した
透子「......衛宮と出会って、もう半年経つんだ。」
最初は、ななみと一緒に茂みから覗いて来てたっけ
あの時は、よく一緒にいる2人の内の1人って感じで
そんなに印象に残る存在じゃなかった
けど、バンド組んで、一緒に過ごすようになって
段々、良い奴だなって思うようになって
そこから好きになるのにそんなに時間はかからなかった
透子(......何してんだろ。)
あの日から、あたしは毎日、衛宮のお見舞いに来てる
別に何か理由があるわけじゃない
ただ、体が勝手にここに向かうだけ
透子「なんで、ここに来るんだろ。」
分かんない
あたしが今、何を求めてるのか
衛宮に会いたいのか、最近バンドの練習がなくて暇だからなのか
なぜか、ここに引き寄せられる
透子「衛宮はどっちだと思う?」
楓「.......」
透子「.......って、答えらんないか。」
今まではなんでも答えてくれてた
SNSの話題なんてわからないのに
頑張って、話を合わせてくれてた
それが、すごい嬉しかった
透子「ほんとに衛宮は誰にでも優しかったよね。」
あたし達はもちろん
クラスの皆や会ったこともない他人
さらには敵だった白鳥にまで
衛宮は優しかった
透子「誰かを助けて、こんなになるとか。ほんとに、馬鹿じゃん。」
バカって言えるほど、あたしも賢いわけじゃないけど
けど、衛宮は特別だ
特別バカで.......
透子「.......すごい、かっこいい。」
困ってる人がいれば、自分がどんな状況でも助けようとする
例え、命が風前の灯火でも
どんなに痛くても辛くても
衛宮は自分が信じれば、真っ直ぐ突き進んでいく
それが、かっこいい
透子「.......なんで、人ばっか助けて、衛宮は助からないの?」
衛宮はいっぱい、人を助けてきた
なのに、衛宮のことは誰も救えない
......なんで?
透子(あたしが、何もできないからだ。)
頭がいいわけでも、ななみみたいな天才でもなければルイほど努力家でもない
そんなあたしが衛宮を救えるわけがない
......だから、見送りたかった
明るいのが取り柄だから、衛宮が振り向かないように振舞いたかった
透子「......けどっ。」
嫌なのに、涙があふれてくる
我慢なんて、無理に決まってるじゃん
衛宮が病気なことなんてずっと前から知ってた
いつかはこうなるかもしれないとも思ってた
けど......けど......
透子「あたし......好きな人が死ぬのを、笑って見送れるほど......大人じゃなかった......っ!」
ルイに散々言っといてこれって、すごいダサい
けど、我慢できない
結局あたし、普通の女だった
透子「......あたしは、衛宮が好きだよ。だから__」
あたしは呟くようにそう言って
ベッドの上にいる衛宮の胸に顔をうずめた
その時、衛宮から、どこか冷たい冬の匂いがした
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“楓”
ここは、静かだ
だから、余計な情報が入ってこなくて
今起きてる事柄だけを考えさせられる
楓(......僕は。)
好きとか、そうじゃないとかなんて考えたことがなかった
だって、僕は人より早く死ぬのが分かってたから
人を好きになったって、仕方ないから
楓(......)
そのはずなのに、なんだろう
この胸に何かがつっかえてる感覚は
織衣「きっと、いたと思うよ。最後、あなたの頭に浮かんできた人。」
楓「最後に、浮かんできた人......(......誰だ?)」
最後、死ぬ寸前の景色を思い出す
あの時は、目の前が真っ白で
それで......
楓「......色、でした。」
織衣「!」
楓「最後に見えたのは、色だったんです。僕の人生を彩ってくれた色が走馬灯のように見えました。」
時間にしてみれば、ほんの一瞬だったのかもしれない
けど、いろんな色が見えた
父さんと母さんとお兄ちゃん、先生に生徒会の皆さん
そして......僕の最初で最後の5人のお友達
織衣「......そっか。(本当に、いい子過ぎるね。)」
きっと、皆特別なんだ
僕の人生は色んな人に支えられてきたから
織衣「まぁ、いいよ。もう少し、ここにいて、考えればいいよ。」
楓「いいんですか?それって。」
織衣「大丈夫。あなたはまだ、ここにいられる。だって__」
磐長姫「__まだ、楓は死んでないから。」
楓「え?」
織衣「神様?」
空気が少し緩んだ瞬間
向こうからいわさんが姿を現した
いきなり現れたみたいだった
磐長姫「そうだよね。織衣。」
織衣「はい。その通り。楓はまだ死んでません。」
楓「そう、なんですか。」
正直、もう死んでると思ってた
と言うより、よく生きてたね
僕、ありえないくらい酷い状態だと思ってたけど......
磐長姫「生きてると言っても、楓には時間がない。これから、楓は手術を受ける。それまでに、楓は選ばないといけない。」
楓「選ぶって......?」
磐長姫「これから生きるか、このまま死ぬのか。」
楓「!」
まさか、考えないよね
まだ僕が死んでなくて、生きられる
そんな可能性、ここに来てから考えてなかった
でも......
楓「......僕には、どうすればいいのか分かりません。」
織衣、磐長姫「!」
生きたいとか、今まで考えたこともない
死にたいとも思ってないけど
正直、今の現状に満足している節がある
楓「僕がここで倒れることは運命だったと思うんです。きっと、僕の役目は全部終わったんだと思うんです。」
磐長姫「......それは違うと思う。」
楓「え?」
いわさんの声が低くなる
それに僕も織衣さんも少し背筋が伸びた
磐長姫「楓が死にかけて悲しんでる人間を、ここに来るまでに私は見てきた。」
楓「......!」
磐長姫「まだ、楓は役割を終えてない。楓が幸せに出来る人間はまだいる。」
......大体、分かってる
僕の周りにいる人たちは優しいから
僕なんかの為に悲しんでくれてるんだと思う
磐長姫「......でも、私は正直、このままでいて欲しいとも思ってる。」
楓「!」
織衣「神様?」
また、雰囲気が変わった
声音は変わらないけど
なんだか、少し震えてる気がする
磐長姫「神は平等でないといけない。けど......」
楓「?」
サファイヤのような目に僕の姿が写ってる
次の言葉が出るまでの時間が長く感じる
僕はいわさんを見たまま、固唾を飲んだ
磐長姫「......あのね、楓。」
静かな足音と共にいわさんが近づいてくる
そして、目の前でフワッと浮いて
僕に向かって両手を広げた
楓「いわ、さん......?」
磐長姫「あのね、楓。」
いわさんの顔が近い
けど、この距離で見ると人間とそこまで変わらないって思う
そんなことを思ってると、いわさんが口を開いた
磐長姫「私は、楓のことを愛してる。初めて出会った時から。何百年でも何千年でも、一緒にいたい。」
いわさんはそう言って、穏やかな笑みを浮かべた
その表情は、あまりにも綺麗すぎて
僕は呼吸をすることすら、忘れさせられた