あれから、衛宮君は手術室に入った
固く閉ざされた扉の上に手術中のランプが光っている
時間が恐ろしくゆっくりに感じる
瑠唯(衛宮......君......)
ドクンドクンと心臓が大きな鼓動を刻んでいる
この手術が終われば、すべてが決まる
彼の運命も、私たちの運命も
透子「......衛宮ってさ。」
ましろ、七深、つくし、瑠唯「......?」
透子「初めて会った時から、不思議な奴だったよね。」
彼女はいきなり、そんなことを言い出した
こんな時に何を......と思ったけれど
頭の中に、彼との出会いを思い出す
瑠唯(あの時は......)
1学期の始業式の日、クラス表の前
顔を真っ青にして頭を押さえて蹲っていた
今思えば、あれは彼の能力の過負荷によるものだけれど
あの時は変な人だと思っていた
七深「......きっと、運命だった。」
つくし「ななみちゃん......?」
七深「かえ君に出会わなかったら、私は今も救われてない......それくらい運命的だった。だからこそ、私はここまで、かえ君を好きになった......」
瑠唯「......」
彼女もまた、彼に救われた1人
大袈裟でもなんでもなく、人生そのものを変えてしまった
そんな彼の特異な才能の影響を最も受けた1人
その言葉には、何とも言えない重みがある
七深「......だからね、私はかえ君のいない世界になんて、何のこだわりもないんだよ。」
ましろ、つくし、瑠唯「......っ!」
透子「そ、それって......」
七深「......うん。」
彼女は小さく頷き
ひどく光のない目を私たちに向けた
七深「かえ君を1人にはしない。ずっとついて行くよ。それが例え、あの世であっても。」
瑠唯「......っ」
重い、重すぎる
愛情ではない、依存と執着
彼女にとっての彼はそれほど大きな存在になっていた
そんな彼女がもし、彼を失うことがあれば......彼女の言葉通りの事態になることは十分考えられる
ましろ「ななみちゃん、それは......」
七深「しろちゃん。これがね、愛なんだよ。恋なんて可愛いものじゃないんだよ。」
つくし(ほんとに、やばいかも......)
瑠唯「......」
恐ろしい
彼女はもう、彼の存在なしには生きていけないだろう
そんな風に彼女を変えてしまった、彼の才能が恐ろしい
透子「......でも、それさ、衛宮は喜ぶ?」
七深「......どういうこと?」
透子「もし仮に衛宮が死んじゃって、七深もすぐに向こうに行って、そこで出会うことになったら......どう思うんだろうね。」
七深「......」
桐ケ谷さんも、彼を思っている
誰よりも早く、衛宮君の病気のことを知って
行動の細かい部分に彼を気遣う動きがあった
そう言う成長も、彼は促した
七深「......それでも、一緒にいればいつかは忘れる、いや、忘れさせる。あっちには死なんてないから。何十年でも何百年でも何千年でも、一緒にいられる。」
つくし「そんなの、ダメだよ......」
七深「なんでかな?つーちゃん?」
つくし「だって、衛宮君が大切にしてくれてたもの、残らないから......」
七深、瑠唯「......!」
その言葉を聞いて初めて、広町さんの表情が変わった
何かに気づいたような表情をしている
つくし「衛宮君が残り少ない時間を費やしてくれた、バンド。ななみちゃんがいないと、なくなっちゃうよ......?」
七深「......っ」
つくし「私達のために、ほぼ毎日、練習に付き合ってくれた。そのおかげで、大きく成長できた。それを、どんな結果になっても、私は守りたいって思ってる。」
二葉さんもまた、独自の決意を持っている
バンドを彼の形見とする......私も考えなくはなかったし
どうなっても、しばらくは続けると思っていた
つくし「もっと上手になって、衛宮君のいる場所に届くようなライブをする。」
七深「......そっか。」
二葉さんの決意は伝わって来たし
私もそれに協力するのはやぶさかではない
だが、まだ、彼女の雰囲気は変わらない
未だに彼女からは死の気配が溢れ出している
ましろ「......私は、今のままでいる気はないよ。」
透子、七深、つくし、瑠唯「......っ!!」
病院の廊下に響く、いつもよりもトーンの低い声
雰囲気も、柔らかいものではなく、どこか重苦しい
ましろ「もっと練習する。それで、もっと上手になって、綺麗になる。Circleのステージに立つのは、もう目標じゃない。」
透子、七深、つくし、瑠唯「......!?」
倉田さんは固く拳を握り込み
そして、一度、大きく呼吸をし
ゆっくりと口を開いた
ましろ「私、メジャーデビューを目指したい。衛宮君が繋いでくれたこのバンドで。そして、証明する。衛宮君は本当にすごいんだって。」
透子「......!(シロ......!)」
つくし(あの、ましろちゃんが......)
七深「......」
あの消極的で大人しかった少女が、確固たる決意を持った女性に変わった
倉田さんの目にはただならぬ覚悟が宿ってる
彼女は決して天才などではない
ましてやメジャーデビューなんて、実現できない可能性の方が高い
瑠唯(......なのに。)
ましろ「絶対にそこまで行く。私の人生すべてをかけて。その間にあるCircleも先輩のバンドも何もかも、ぜんぶ通過点だから。」
決して、天才でも実力者でもない彼女の言葉
でも、誰もそれを戯言などとは思えない
確固たる決意と狂気を孕んだ目を見れば、全て本気であると、納得させられる
そう、まるで......
瑠唯(まるで、衛宮君の目......)
常軌を逸したあの目
それを目の当たりにして、私は恐ろしくなった
あの、何もかもを変えてしまう才能の再来を、予感したから