色の少年   作:火の車

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成就と犠牲

瑠唯「__っ!」

 

 バっと、私は体を起こした

 

 周りを見渡すと、暗い病院の中で

 

 他の4人も毛布を掛けられて眠っている

 

 それで、私が寝てしまったのだと分かった

 

 気を張ってたはずなのに......

 

瑠唯(し、手術は.....)

 

 恐る恐る、手術室の方を見る

 

 その時、サーっと血の気が引くのを感じた

 

瑠唯(お、終わってる。)

 

 手術中を示す赤いランプは消えていた

 

 ドクンドクンと心臓が鼓動を刻む

 

 時計の秒針がいつもよりゆっくり動いてるように感じる

 

瑠唯「......」

 

 少し前は虚勢を張っていたけれど、不安を感じる

 

 私の知らない間に彼の運命が決まってしまった

 

 それが、不安で仕方ない

 

瑠唯(......行くしか、ないのね。)

 

 今、私が目を覚ましたこと

 

 それが、運命なようにも、そうでないようにも思える

 

 実際のところがどうなのかは分からない

 

 だからこそ、確かめないといけない

 

瑠唯「......行きましょうか。」

 

 私はそう呟いて、立ち上がった

 

 足が床に張り付いてるように感じる

 

 けれど、ここで立ち止まってばかりもいられない

 

 そう思い、私は彼のいるであろう病室に向かった

____________________

 

 コツ......コツ......と、足音が院内に響く

 

 少しの照明と夜勤の看護師の方々が目に入った

 

 当然だけれど、昼とは全然違う

 

瑠唯(......ここ、ね。)

 

 そんな院内を歩いて、病室に辿り着いた

 

 今まで以上に心臓が痛いほどに動いてる

 

 この扉を開けた時点で、全てが決まる

 

瑠唯(......もし、彼がいなかったら......)

 

 体が動かない

 

 何かに四肢を掴まれているように感じる

 

 こんな感覚、初めてかもしれない

 

瑠唯「......止まっていられない。」

 

 ドアに触れる

 

 しばらく触れられていないのか、ヒンヤリと冷たい

 

瑠唯(お願い、神様......!)

 

 私は体中に力を入れ、扉を開けた

 

 もう引き返せない

 

 この先は天国と地獄しか存在しない

 

 けれど、わがままを言うなら、願わくば......

____________________

 

 窓から、月の光が差し込む病室

 

 それはまるで舞台を照らすライトのように、とある一点を優しく照らしている

 

 そして......

 

瑠唯「衛宮......君......?」

楓「__え、八潮さん?」

 

 光の元に希望はいた

 

 全体的に白い彼は月の光でよく映えて

 

 優しい笑顔をこちらに向けていた

 

楓「えっと、なんで、こんな時間に病院に......?」

瑠唯「......ずっと、いたわよ。あなたが倒れた日から、手術が終わる今まで。」

楓「あ、そ、そうですか。」

瑠唯「......」

 

 いろんな感情が溢れそうで、どうすればいいのか分からない

 

 嬉し泣きか、抱き着くのか、おかえりと言えばいいのか

 

 正常な判断力を失ってる私には分からない

 

瑠唯「......よかったっ。」

楓「!?」

 

 そのさなか、口からそんな言葉が零れ

 

 それと同時に目から水滴が滴り落ちる

 

楓「ど、どうしたんですか!?」

瑠唯「ごめんなさい......こんな風にする気は、なかったの......でも......っ。」

 

 涙が止まらない

 

 湧き水のように延々と溢れてくる

 

 こんなことは、初めてかもしれない

 

楓「え、えっと、その、ごめんなさい。ご心配、おかけして。」

瑠唯「ほんとうに、そうよ......っ。」

楓「ご、ごめんなさい。」

 

 彼は、ずっと申し訳なさそうにしてる

 

 違う、本当はこんなことを言いたいわけじゃない

 

 なのに......

 

瑠唯「もう、お願いだから、無理をしないで......離れないで......」

楓「!」

瑠唯(っ!?)

 

 気づけば、そんな言葉が漏れていた

 

 それに自分自身、ひどく驚いた

 

 けど、それ以上に、目の前にいる彼が一番驚いている

 

 その様子を見て、私は今の言葉を激しく後悔した

 

 “楓”

 

 正直、驚いた

 

 あの場所から戻ってきて、目を覚まして

 

 少し外を見てたら、八潮さんが現れた

 

楓(運命があるとするなら、今、なのかもしれない。)

 

 まだ意識がハッキリしてない

 

 頭がボーっとしてる

 

 上手く、言葉が出てこない

 

楓「あの、八潮さん。」

瑠唯「衛宮君......?」

楓「僕は、一度、死にました。」

瑠唯「......!」

 

 嘘は言えない

 

 あの時、僕は確かに死んでた

 

 嘘は言えないし、これを言わないと話を始められない

 

楓「そして、そこで、ある人の助けを借りて、いろいろ考えました。」

瑠唯(ある、人......?)

楓「僕は、何も知らなかった。いや、恐らく、知っていても、向き合えなかった。自分には無理だと思って。」

 

 けど、今は違う

 

 たくさん話して、考えて、寿命も延びた

 

 きっと、今なんだ

 

楓「けど、僕は今までよりも長く生きられるようになりました。だから......」

 

 あの場所で過ごした少しの時間

 

 その間に僕は学んだ

 

 前までの僕なら、分からなかったと思う

 

 けど、今は分かるから

 

 ちゃんと、言わないといけない、よね

 

楓「そこで学んで、分かったことを、八潮さんに言います。」

瑠唯「......?」

 

 ゆっくりと、呼吸をする

 

 いろいろと考えたけど、僕には正直に言う以外できない

 

 そう、心の中で意気込んで、八潮さんの方に目を向けた

 

楓「僕は、八潮瑠唯さんが好きです。」

瑠唯「__えっ?」

 

 その言葉は驚くほどあっさりと出て来て

 

 それを聞いた八潮さんは、ひどく驚いていた

 

 これで、ちゃんと、伝わったかな......?

 

 “瑠唯”

 

 涙が引っ込むと言うのは、このことだと思う

 

 驚いて、言葉が出てこない

 

 今、彼の言ったことを理解できない

 

瑠唯「え、な、今、なんて......?」

楓「えっと、八潮さんが好きです、と......」

 

 好き?彼が、私を?

 

 現実的じゃなさ過ぎて、信じられない

 

楓「あ、お友達としてじゃないですよ?その、恋愛的な意味で。」

瑠唯「それは、わ、分かったわ......///」

 

 思考が追い付いてきて、段々と顔が熱くなる

 

 鼓動が早くなっていくのを感じる

 

 今までも似たような感覚はあったけれど、今までで一番強い

 

楓「僕は今まで、恋を知らなかった。いや、知ろうとしなかったんです。長くない命だからって。」

瑠唯「......」

楓「仮に誰かとそういう関係になっても、取り残してしまうだろうって。多分、関係ないものとして処理してたんです。」

 

 命がないというのは、そういう事なのかもしれない

 

 人間関係とかも、どこか外から見てた

 

 きっと、主観とは少しずれたところにいたんだと思う

 

 だから、何にも気づかなかったんだ

 

楓「でも、今は、どこまでかは分かりませんが、長く生きることが出来ます。その時間を一緒にいたいと思ったのが、八潮さんなんです。」

瑠唯「......///」

 

 顔が熱い、胸が高鳴る

 

 彼が、まだ生きられる

 

 そして、人生のパートナーとして私を選んでくれた

 

 それがどうしようもなく嬉しい

 

楓「だから、あの......僕とお付き合いしていただけないでしょうか。」

 

 彼が首を傾げながら、そう聞いてくる

 

 その様子は、いつもの可愛らしい彼

 

 そんな状況で、私が答えに困ることはなかった

 

瑠唯「......はい///」

楓「!」

瑠唯「不愛想で、可愛げのない女だけれど......よろしくお願いします///」

楓「八潮さんは可愛いですよ?」

瑠唯「......あ、あなたはっ///」

 

 純粋に褒められるのが、一番響く

 

 彼の場合、そう思ってるのではなく、そうとしか思ってない

 

 だからこそ、一層恥ずかしい

 

楓「これからも、よろしくお願いします。」

瑠唯「えぇ///末永く///」

 

 そう言って、私は彼のいるベッドに腰を下ろした

 

 この時間は、短くも永遠のようにも感じて

 

 ただ、生きた彼を感じられたことが幸せだった

____________________

 

 “七深”

 

 夜の病院の廊下で立ち尽くす

 

 理由なんて明白で

 

 今、この状況を理解できないから

 

七深「__あれっ......?」

 

 ポタポタと水滴が床に落ちていく

 

 この時にやっと、状況を理解できた

 

 私の初恋は、終わったんだって......

 

七深(なんで、なんで......っ!)

 

 なんで、私じゃないの?

 

 ずっと一緒だって言ったのに

 

 いつも、一番近くにいたはずなのに

 

七深「かえくん......」

 

 かえ君を幸せにするのは、私だと思ってた

 

 私なら、かえ君のすべてを受け入れられる

 

 どんなことがあっても、かえ君さえ、いればよかった

 

 なのに......選ばれたのは、るいるいだった

 

七深(なんで、私じゃないの......?なんで......?)

透子「__何してんの?」

七深「......!」

 

 横から、声が聞こえる

 

 とーこちゃんだ

 

 起きてたんだ......

 

透子「大体、どういう状況かは分かったよ。(あれ見たらね。)」

七深「......」

 

 とーこちゃんがチラっと病室の中を見たのが分かった

 

 本当に、すごいと思うよ

 

 なんで、平気でいられるんだろう......?

 

透子「そんなに泣くことないじゃん。男なんていくらでもいるし......」

七深「......」

透子「......とも、言えないか。衛宮はマジで、特別すぎるから。」

 

 とーこちゃんはそう言って、小さくため息をついた

 

 やっぱり、そうだよね

 

 かえ君はほんとに、特別なんだもん

 

透子「でもさ、特別だからこそ、幸せになってほしいじゃん。」

七深「......それなら、私でも__」

透子「衛宮の幸せは、衛宮が決めることだよ。」

七深「っ!」

 

 言葉が刺さってくる

 

 自分勝手にするなって

 

 かえ君が決めた道を応援しろって

 

 わき腹をチクチクと刺されてる気がする

 

透子「間違っても、邪魔なんてしちゃダメだよ。衛宮の幸せ以上に優先することなんて、ないんだからさ。」

七深「......うん。」

 

 悔しい、死ぬほど悔しい

 

 胸がズキズキ痛いよ

 

 きっと、この先の人生でこれ以上はないと思う

 

七深「......かえ君の邪魔はしないよ。」

透子「うん。」

七深「でも。」

透子「?」

 

 かえ君には誰よりも幸せになってほしい

 

 納得しきったわけじゃないけど、かえ君が言うから仕方ない

 

 今回は諦めて、見守らないといけない

 

 でも、それでも......

 

七深「私は一生、かえ君一筋だから。絶対に、それだけは、変わらないもん......っ!」

透子「......そっか。」

 

 私は歩きながら、そう言った

 

 絶対に変わらないもん

 

 何年、何十年経ったって、かえ君以外を好きになったりしない

 

 ......いや、出来ない、かな

 

透子「ほら、何か奢るからさ、一緒に飲み食いしよ。シロとふーすけも入れて。」

七深「......そーだね。」

 

 そんな会話をして、私たちはその場を去った

 

 その夜は、死ぬほど泣いた

 

 悔しくて、悲しくて

 

 これは、しばらく、2人と上手く話せる気はしないや

 

 

 

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