とにかくこれでリストにある全ての職業を試した。チノ達は別室に集められ、青山からの鑑定結果の発表を聞くことになった。
「えー、こほん。ではまず、みなさんの『属性』の鑑定結果から発表させていただきます。マヤさんとメグさんは、前と変わらず『水』、『炎』の属性でした。チノさんの属性ですが、……おめでとうございます! チノさんは『姉』属性でした!」
「姉」
「あね?」
「姉……?」
「そう、姉です」
いやいや、おかしい。チノは頭痛がしてきた。この世界での属性は「炎」「水」「風」「土」「陽」「月」の六つという話だったではないか。
「それは一般的に知られてる属性ですね。極めて確率は低いですが、ごく一部の選ばれた者だけが属する属性として『姉』『妹』というものがあることが知られています。『姉』属性は六属性全てに対して有利ですが、『妹』に対しては互いに互いの攻撃が通りやすいという関係にあります」
「いやいやいや……『炎』『水』『風』『土』『陽』『月』は、四元素説とか、五行思想とか、何かそういうのありそうだなって分かりますが、『姉』『妹』って何ですか突然そんなものが入ってきておかしいです私は絶対に認めません」
「そう言われましても、古代の魔術師が間違いなく観測し存在を証明したものですので……」
「チノ、すげぇじゃん! 隠し属性なんて! しかも他の属性全部に有利とかめちゃくちゃ強いし、かっこいいなー。やっぱり女神が能力を与えてくれたのかな?」
マヤの言うことの前半には素直に頷けなかったが、後半には同意だった。「姉」属性だなんて、そんな変なことをするのはココアさんの仕業に違いない、自分がお姉ちゃんになりたいからって私も「姉」になったら喜ぶと思ったんでしょうか――、そんなことを考えるチノだった。
「では続きまして、スキルを発表させてもらいます。鑑定結果は一覧表にしてみなさんの手元に配りましたのでご確認ください。特筆すべきは、チノさんのスキルですね。何と、『パン焼き』スキルがMAXの99まで行っていることが確認できました」
「パン焼き」
「チノちゃんすごーい、パンの焼き方なんていつ習ったのー? 今度食べさせて欲しいなー」
メグはのんびりした口調で言うが、チノはさらに頭痛が増してきた。これも(自称)女神ココアがくれたものに違いない。でもこれは冒険に一切関係ないし、魔王を倒すまで元の世界に戻れないのであれば、どうせなら魔王討伐に役立つようなスキルをくれれば良かったのに。
「最後にみなさんのスキル・属性を考慮しての、適性職業を発表します! どぅるるるるる……」
青山が奇妙な効果音を口で発し始める。ドラムロールのつもりなのだろうか。
「じゃん! まずメグさんですが、適性職業は『踊り子』と判定されました」
「ええーっ! 私が踊り子なんて、そんな、似合わないよ~」
「メグさんは運動神経、リズム感が高く、また心の奥底には自分を表現したい、美しいものを愛でたい、誰かの憧れの存在になりたいといった願望を秘めています。恵まれたボディの方もまだまだ成長が見込めますし、踊り子はまさにぴったりの職業と言えるでしょう」
(メグさんが踊り子。元の世界ではバレエが得意だったし、ゲームセンターでもダンスゲームで高得点を出してましたし、結構当たってる気がします)
「続いてマヤさんです。適性職業は『賢者』と判定されました」
「へ……? 賢者?」
「高い魔法適正と知力を示したことはもちろんですが、賢者にはパーティーのリーダー、アドバイザーとしての人格が求められます。マヤさんの天真爛漫のように見えて実は将来を見据えている思慮深さ、周囲への気遣いが出来る繊細さといった要素が賢者に向いていると判定されました」
「なっ……!」
(マヤさん、真っ赤になって口をぱくぱくさせてます……。図星なのでしょうか。本人は認めたがらないかもしれませんが、これも結構当たってるような気がします)
青山の生まれつき持っているミステリアスな雰囲気は、この世界では清廉な白い神官のコスチュームに身を包むことで一段と濃いものになっていた。そういった雰囲気から心の底を見通されているような気分になるからかもしれなかったが、マヤ・メグに対するコメントはどれも的を射ているように思われた。では、私はどうなのだろう、青山さんは私のことをどのように言い当てるのでしょうか――、チノは緊張した面持ちで唾を飲んだ。
「えー最後にチノさんですが適性職業は『パン屋』でした。とにかく何と言ってもパン焼きスキルがMAXなのですから性格とか向き不向きとか関係無しにパン屋になるしかありません。この国のパン史を振り返ってもレベルMAXまで行ったパン職人は一人もいないそうです。開業すれば伝説的パン屋になりますし、逆にパン屋にならないのは人類の損失です」
「「「ですよねー!!!」」」
拍子抜けというか、ある意味予想通りの結果だった。女神ココアからチートパン焼きスキルを授かったのだから、パン屋になる。これ以上分かりやすいことはない。
「さて、結果発表はこれにて終了ですが、いかがでしたでしょうか? せっかくどんな職業に適性があるのか分かりましたし、もしもみなさんにその気があれば、この場でクラスチェンジしていくこともできますが……」
青山の問いかけに対し、チノはマヤ・メグと顔を見合わせる。その表情には、チノが頭の中の考えているのと同じ結論だ、と書かれていた。そう、我ら永遠、チマメ隊。言葉を交わさなくても、以心伝心でお互いの考えていることは分かる。三人は揃ってこう言った。
「せっかくだけれど、踊り子にはならずに元の職業を続けたいかな。自分の壁をぶち壊せるかな、と思ってバーサーカーを選んだ時の気持ち、最後まで忘れずにいたいんだ」
「賢者が向いてるなんて言われても意外すぎて実感ないし。それに私、呪文の詠唱とかするよりは物理で敵をバンバン撃ちたいんだよねー」
「というか私は魔王を倒さなければならないので、パン屋さんになっている暇はありません。美味しいパンにはちょっとだけ未練ありますけれど」
青山は、なるほど、と頷きこう語った。
「お三方とも、自分が選んだ今の職業をもう一度選ばれる……と。それはとても素敵なことですね。自分に出来ることや向いていることを生かす、天から与えられた使命に邁進するのももちろん素敵だと思います。ですが、敢えてそれらには目を向けず、自分のやりたいことを選ぶ……、それもまた生き方なのでしょう。自分の選んだ道を後から振り返って見ると人生になっている、そんな生き方。是非、そんな生き方でしか出会えないセカイと自分に、出会ってくださいね……、って、あらー?」
語り終わった青山は目を丸くした。さっきまで青山の目の前にいたはずの三人がいない。チノ達三人は、既に青山の前から離れ、新たなる旅立ちに向けてやる気満々になっていた。
「ありがとなー! 青ブルマー! じゃあ私達もう行くねー!」
「ちょっマヤさん……だからその呼び方は……」
「今の職業のままで行くと決まったからには、早速レベル上げしなくっちゃね」
そのまま慌しくチマメ隊は去っていき、その場にいるのは青山だけになった。ポツンと残された青山の叫びが神殿にこだました。
「ちょっ……マスター!? 私今いいこと言ってましたよね!? せめて天国のマスターだけでも私を褒めてくださーい!」
2章はここまでです。
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