気持ちを落ち着かせたチノは今後の方針を考え始める。詳しくは分からないが四人がかかってしまったのは種族が強制的に変更されてしまう呪い、または精神が幼稚化する呪い、あるいはその両方なのだろう。この手の呪いは、時間経過で解けるものもあれば、ダンジョンのフロアのボスを倒すなど一定の条件でしか解けないものもある。前者であればこのまま時間を潰せば済む話だが、後者であるとすると仲間全員が子供化してしまった今のパーティの戦力ではかなり厳しいだろう。いずれにせよいったん街に戻り腕の良いヒーラーに頼めば呪いを強制的に解くことは出来るが、それにはお金がかかる。脱出アイテムを使ってヒーラーを頼れば青山から提供された資金は使い果たしてしまい、もう一度ここに来ることはできないだろう。つまるところクエスト失敗である。前進か、撤退か――考え込んでいると、チノの鼻先に円いものがぴょこぴょこと突きつけられた。
「チノおねえちゃん、おべんとうたべないのー? たべないとからだこわしちゃうよー」
「お、お姉ちゃん!?」
見ると、メグが携行食のビスケットをチノの目の前に差し出していた。
「お姉ちゃん」の単語に反応するだなんて、まるでココアさんみたいです――自分で自分の行動に苦笑しつつ、チノは差し出されたビスケットをありがたくいただくことにした。
「ありがとうございます。メグさんはこんなに小さくなっても優しいんですね」
「こんなにちいさく?」
この状況を理解していないのか、それとも大きい姿だった時の記憶を失っているのか、メグがことん、と首を傾げる。
「すー、すー……」
食事が終わると、子供四人組ははしゃいだ疲れが出てきたのかうとうとし始め、あっという間にそのままお昼寝モードに入ってしまった。先ほどまであれほどはしゃぎ回ってチノを手こずらせた四人だが、眠ってしまうと無邪気な寝顔が可愛らしい。こうやって寝顔を眺めているとまるで子供みたいです、いや本当に子供なんですけど、とチノは思う。
チノの食べた乾いたビスケットも、お腹の中で水気を吸って膨らみ、チノの満腹中枢を刺激していた。四人につられるかのようにチノも眠くなってくる。ぼんやりしてくるチノの思考はいつのまにか四人が子供化する直前に考えていた問題にまた戻ってきていた。
(降霊術。私はそれを手に入れるべきなのでしょうか)
十五歳にして身近な人との別れを二度も経験しているチノである。自分の目の前から突然いなくなった人に焦がれる気持ちは人一倍あった。だが、自分の世界から遠く離れた異世界で、死者の安らかな眠りを覚ますのが果たして良いことなのかどうか。
ふと、こういう時はココアさんだったらどういうアドバイスをくれるだろう、と思った。初日のチュートリアルで出会った女神ココアが元の世界のココアと同一人物なのかは分からないが、いずれにせよココアとはここ数週間会っていない。元の世界にいた時は、ココアが帰省していた一週間を除きほぼずっと一緒にいたので、こんなに長い間離れているのは不思議な気分だ。――ココアさんがこの世界にいたらどんな職業でどんな冒険者になっていただろう。肉弾戦が得意そうなイメージは無いし、地味な補助役をやりたがるイメージもない。案外、華のある魔法使いとかをやりたがるかもしれない。手品の練習をして、マジックショーをやりたいとか言っていたし。手品といえば、ハロウィンの夜、私に見せてくれた手品のタネは最後まで分からなかった。いや正確に言うと手品自体は昔母がよく見せてくれたものだったのでタネはよく知っている。ただお世辞にも手品が上手いとは言えないココアさんがどうやって短時間であの手品を習得したのか、そもそもあの手品をどこで知ったのかは謎だった。あれはあのお祭りの一夜にだけ起こった奇跡か何かだったのだろうか――そんな脈略のない思考があっちこっちに飛び回るうちに、チノのまぶたはいつの間にか重くなっていった。