「はあ、はあ、はあ……」
何とか逃げ切った五人は、ダンジョンの片隅の比較的安全な一角で息を整えていた。ゴーレムは重い岩で出来ているからか、動きがそこまで素早くなかったのは幸運だった。
フロアボスの存在を忘れてふらふらと洞の方に近づいたのは迂闊でした、落下事件があった直後だというのに、また私の不注意でみなさんを危険な目に合わせてしまいました――、そう自分でも思っていたチノだが、マヤとナツメからもそれを指摘されてしまった。
「ちの、しっかりしてよー。ふろあぼすにはおいかけられるし、わたしたちの『しゅぞくとくせい』もしらないしさー。わたしたちのちからがいかせるようちゃんとべんきょうしないと、りーだーしっかくだよー。ちゃんとかんがえてうごいてる?」
「ちの、あわてんぼさんだね!」
自分で分かっていることでも、他人から言われると急にイラっとすることがある。今のマヤの言葉がまさにそれだった。マヤが子供の姿のくせに一丁前な一言を放ったのも原因だったかもしれない。チノはやや言葉に険を含めてこう返した。
「マヤさん、そもそもこの状況に陥ったのが誰の所為だか分かって言ってるんですか……? マヤさんがトラップに引っ掛かったりしなければこんな苦労をすることには……、いやそもそも私はこのクエストを受けることも反対でしたが、それを受けてみようって言ったのはマヤさんで……」
「このじょうきょう?」
マヤがきょとんとする。
(そうでした、子供化する前の記憶は無いっぽいんでした……)
はあ、子供は気楽で良いですよね、そう皮肉まじりに返しそうになって、誰かにじーっと見られていることに気付く。この視線は――
「ちのおねえちゃん、まやちゃん、けんかはやめて……」
「なかよくしてね!」
「メグさん!? エルさん!?」
メグ、エルの二人が、目を潤ませてこちらを見ている。
「ちのおねえちゃん、マヤちゃんをいじめないであげて……? わるぎがあるわけじゃないから……」
「べ、別にいじめていた訳では……」
メグのうるんだ瞳と二度目の「お姉ちゃん」呼びに心外ながらもくらっときてしまう。女神ココアさんから能力を与えられた時にココアさんの一部が乗り移りでもしたのでしょうか?と思わず自分に苦笑してしまった。
(でも、「お姉ちゃん」というのもあながち間違ってないですね。マヤさん、メグさんに比べて誕生日の遅い私は言ってみれば一番の年下でしたけれど、今のこの状況では私が「お姉ちゃん」な訳で)
考えてみれば四人は無邪気なふるまいをしてはいるものの、危険なダンジョンの奥でいきなり子供になってしまい、今までの記憶も失い、不安に思っていない訳がないのだ。四人が元の姿に戻れるようになるまで、自分がお姉ちゃん、もといパーティーリーダーとして、しっかり四人をまとめていかなければならない。チノはマヤにきつく当たったことを少し反省した。
冷静な頭になると、「私達の力を生かせるよう、考えて動け」というマヤの言葉はこの状況を打開するヒントにもなるような気がしてきていた。さしあたってのチノ達の第一の目標は、フロアボスであるゴーレムの撃破。チノは先ほどまでは、子供パーティの戦力ではフロアボスの撃破は無理だと思っていたが、チノを押し倒した時のマヤの力の強さ、落下した時の運動神経、ゴーレムから逃げるときの俊敏さなどを見ると、意外にもパーティとしての戦力は侮れないのかもしれない。ゴーレムは今は五人を追いかけるのをやめて持ち場に戻り、元のような動かない石塊と化している。ゴーレムが陣取っている洞の入口の周囲は、上層へと伸びる枝が絡み合って切り立った崖のようになっているものに囲まれており高低差に富む地形となっている。この条件で、四人の種族特性を生かしながら戦う方法は――
「マヤさん、メグさん、ナツメさん、エルさん……私達は必ずボスを倒して、みなさんを元の姿に戻して、このクエストを成功させます。そのために、みなさんの力を貸してもらえませんか」
チノは決意に満ちた目でそう言った。その目には、さっきまで四人のお守りに追われてあたふたしていた時のような、戸惑いや迷いはもう無かった。