「霊体になった私は、あなたを元の世界に送り返す方法を知るため、私が自分の体に戻る方法を知るため、自由に動き回れる特権を利用して色々なところに行ったり調べまわっていました。まず、謎だった魔王の居城を突き止めました。あと魔王を倒す伝説の召喚魔法も習得することが出来ました」
「す、すごいです……」
「この魔法は魔王にだけ特攻効果を有する『ある存在』を召喚できるそうです。一回しか使えないそうなので何が召喚されるのか試すわけにはいきませんが、これで魔王討伐に大きく近づいたのは間違いないでしょう」
チノがはるばる時間をかけて世界樹まで来て探していた召喚魔法を既に習得済だという。異世界の「私」は強かった。もうこれ「私」一人で良いのでは――そんなことを思っていると、ぐいっと「私」が近づいてきた。「私」の姿を至近距離で見ることになり、とても気恥ずかしい気分になる。思わず目をそらすが、どうしても「私」の姿をチラチラ見てしまい話に集中できない。
「ですが、霊体は世界との繋がりが薄い状態ですので、世界の魔力を十分に引き出すことができず、全力で魔法を使うことが出来ません。なのでせっかく魔法を習得しても体に戻れなければ意味がないんです。そこで、私が私の体に戻る方法についても古い文献などから調べてみましたが、これはよく分かりませんでした。平行世界にいる同一人物を召喚する、なんて魔法は歴史の中でも使用された前例があまりありません。元いた魂が追い出されたなんて事例となるとさらに少ないです。どうやら、召喚された側の魂と、元いた魂の『差異』があるレベル以上に達すると、魂を融合することが出来ず、そういうことが起こるらしいということまでは突き止めたのですが……」
「魂の差異……?」
「私」の話はどんどん飛躍していくのでついて行くのが難しいが、なんとかついていく。召喚された側の魂と元いた魂の差異、と「私」は言った。つまり、私と異世界の私、見た目は一緒でも中身は違うとかそういうことなのだろうか。
「そうです。魂です。同じ私であっても、育ってきた環境や交流してきた人たちの違いなどで、考え方や行動原理に差が生じているのです。二つに分かれた分かれ道がどこかで一つに繋がるように、また一緒の魂を持つようになることもあるようですが……少なくとも今の私とあなたは、道同士が離れている状態だということですね」
どこかで聞いたようなたとえ話のおかげで少しは分かったような気がするが――、そうだとして、結局どうすれば良いのだろう。環境によって考え方が違うことが原因で体に戻れないのであれば、もはやどうしようもないような気もするが。
「ここ数日は、姿を見えないようにすることが出来るという霊体の特性を生かして、あなたのことをこっそり観察させてもらっていました。私とあなたで離れている『道』が何なのかを見極めさせてもらうために」
「そ、そんなことしてたんですか!?」
今のこのシチュエーションも相当気恥ずかしいものがあるが、「私」が私を見つめていたかと思うと、それは別の意味で恥ずかしいものがある。
「とりあえず、マヤさんに自分のおっぱいを吸わせるのはやめた方が良いと思いますが……」
「わーっ!! わーっ!! ちが、違うんです、それは誤解です!!」
「ふふっ、冗談ですよ。そんなに慌てている自分を見るのは、ちょっと面白いです」
自分にからかわれてしまった。あのシーンを見られていたとは、顔から火が出そうになる。
「本当に見させてもらっていたのは、あなたがこの世界でどんな行動を取り、どんな考え方をするか、それが私とどれほどに違うのかという点です。……ずばり聞きたいのですが、あなたは降霊術、欲しくはないのですか? 世界樹のクエストを受注するのにも最初反対してましたし、どうもあなたはそこまで積極的に欲しがっていないように見えます。私にとっては、亡くなったお母さんやおじいちゃん、なんとしてももう一度会いたいですし、喉から手が出るほど欲しいです」
もしあなたが欲するのであれば、どこにあるのか場所を教えることも出来ますが、とも付け加える。さて、どう答えるか。
もう一人のチノの瞳がまっすぐチノを射抜く。クエストの成功報酬のことを考えるのであれば、「私も欲しいですぜひ教えてください」と言うべきなのだろうが、チノは文字通り「自分で自分に嘘をつくことはできない」ことを直感していた。チノは、ところどころ詰まったりつっかえたりしながらも、ゆっくりと語り始めた。