「あーっ! チノみっけ! おーい、突然洞の中に吸い込まれてたけど生きてるかー! 心配したんだぞー!」
「チノちゃん大丈夫ー? 頭とか体とかどこか打ってない?」
しばらくはその場で考え込んでいたのだが、程なくしてマヤとメグがチノを見つけてくれた。ナツメとエルもその後ろにいる。
四人とも、さっきまでの小さくなった姿ではなく元の姿に戻っていた。いわく、ゴーレムを倒した後ちょっとして元の姿に戻ることが出来たのだという。チノは四人の呪いについて、時間経過で解けるか、ダンジョンのフロアのボスを倒すかのどちらかで解けると推測していたが、どうやら後者だったということらしい。
チノは、もう一人のチノと出会ったことと会話の内容についてかいつまんで話した(もちろん、もう一人のチノがバニーガール姿だった点は伏せて。今考えると、バニーガール姿をマヤ達に目撃されなくて本当に良かったと思う)。最初は半信半疑な反応を示されたが、現にチノの魔力や各種ステータスが洞の中に入る前より大幅に上がっている事実を確かめると、話を信じてくれた。
もう一人のチノから言われた、このダンジョンには降霊術は無いので早く脱出すべき、という意見についてもあっさりと受け入れてくれた。これについては、チノがもう一人のチノと会話していた場所には(チノはそれどころではなかったので気付かなかったのだが)たくさんの金銀財宝の入った宝箱があり、クエストの成功報酬を当てにしなくて良いほどの報酬を確保できたからという理由もあったかもしれない。
とにかくそういう訳で、脱出アイテムを使って世界樹から脱出し、街へと撤収することが慌しく決まった。ナツメとエルの姉妹とは街への帰りの馬車の中でもっとじっくりと話をしてみたかったのだが、「じゃあ、私達は次のクエストがあるから別の街に向かうから」というナツメの一言であっさりとお別れになってしまった。二人は何で旅をしているのか?――その理由を聞いてみたかったのだが、今は仕方ない。無事に元の世界に帰れたら、元の世界の二人にそれは聞いてみる機会があるかもしれない。そう思って自分を納得させるチノだった。
姉妹と別れたので帰りの馬車は三人きりだった。世界樹から街までは馬車に乗っても丸一日以上かかる長い道のりだ。それでも行きはまだみんな元気があったので、まるで卒業旅行の行きの電車のようなわいわいした旅だったのだが、流石に帰りは三人とも疲れているのか口数が少なくなる。ようやく道のりの四分の一ほどまで来た頃、蹄の音だけが響きわたる静かな馬車の中で、マヤがポツンとこう言った。
「チノ、ごめんな。私が小さい姿になってる間にチノにしちゃったこと……」
「? ああ、いえ、良いんですよ。マヤさんに言われたとおり、私が勉強不足だったのも、頼りないリーダーだったのも事実です。あの一言を言われたおかげで私も目が覚めましたし、アドバイスのおかげで何とか無事にゴーレムを倒すことが出来ました。全然気にしてませんし、むしろ感謝しています」
「いや、それもあるんだけどそうじゃなくて、こう、チノの、……お、お、おっぱいを吸っちゃったこと」
「!!?? げふっ! ごふっ!」
「!?」
真っ赤になりながらマヤがそう言うと、チノはむせ返り、メグは真っ白になってフリーズしてしまった。
「あの姿になると判断力が低くなるとはいえ、本当にごめん。やっぱりチノも最初におっぱいを吸われるのは好きな人にが良かったよね? 私はいわばチノのファーストおっぱいキスを奪ってしまったことになる訳で、謝って許されるものではないとは分かってるけど……」
「なななななななんですかファーストおっぱいキスってそんな言葉あるんですか? べべ
べべべ別におっぱいを吸われたこととか全くこれぽっちも気にしていないというかマヤさんは好きか嫌いかでいうともちろん好きな人なのでおっぱいを吸われても何の問題もないといいますか」
チノは混乱してもはや自分で言っていることが分からなくなっている。
「わ、私が知らないところでチノちゃんとマヤちゃんがいつの間にか大人への階段を上ってるー!?」
ようやくフリーズ状態から復帰したメグの叫び声が馬車の中にこだました。この後街に戻るまでの丸一日近い旅程の間、馬車の中の空気はとても気まずいものだった――と後にメグは語っている。
3章はここまでです。次が実質的な最終章です