夢の終わりと言うのはいつも突然に訪れるものだと思っていた。チノの異世界での冒険も、もしもこれが夢なのだとしたら、「チノの冒険はこれからも続く!」とか打ち切り漫画じみた終わり方をして、後は突然目が覚めて元の世界に戻ってくるとか、そういう終わり方をするのではないかと内心期待していた。
だがそうはならなかったことを思うと、これはやはり夢ではないのかもしれない。何しろチノの冒険は打ち切りエンドではなく、真のエンディング、つまり魔王との対峙の局面を今まさに迎えようとしているのだ。
「いよいよですね。マヤさん、メグさん、準備は大丈夫ですか?」
「「もっちろん!」」
バニーガール姿のチノに教えてもらったとおりの場所にあった魔王の居城。チマメ隊の三人は、その最奥にある魔王の部屋の扉を開く。
「たのもーっ!」
「お、お邪魔しまーす」
「いやいやマヤさん、メグさん、その第一声はどちらもおかしくないですか!?」
いまいち気合の入りきらないテンションのまま魔王の部屋に踏み込むと、遠くに見える玉座に人影のようなものが見える。あれが魔王なのだろう。
「ふっふっふ……よく来た、無謀なる勇者どもよ……。いずれ劣らぬ一騎当千の武者揃いの我が配下を蹴散らしてここまで来ることができた実力と勇気、それだけは褒めてやろう……。だが、貴様らの命運も今日この時をもって尽きるのだ。この闇の支配者たる我、魔王様の手によってな……」
魔王の声が部屋中に響きわたる。言っている内容こそ何となく魔王っぽいが、声質がそこまで恐ろしげではないので、こちらもいまいち気合が入りきらない。もっと老人のような威厳のある声をイメージしていたが、どちらかというと少年のような、いやむしろ少女が無理やりに威厳を出そうとしている声のように聞こえる。かん高い地声を持つ少女がわざと低い声を作っているようなこの声、どこかで聞き覚えがあるような――
「ってココアさん! その声はココアさんじゃないですか!」
そうだ。チノには分かる。この声は間違いなくココアがちょっと無理をして作っている声だ。
「ばれてしまっては仕方がないね……じゃあここからは素で行かせてもらうよ!」
魔王が鎧と仮面を脱ぎ捨てると、あらわになったのはよく見慣れた顔、紛れも無くココアの姿だった。黒を基調としたマントつきの服は「怪盗ラパン」の衣装を少し思わせるところがあるが、下に着ているのは黒いボンデージのような衣装である。イヤリングなど装飾品も髑髏をあしらったデザインのものが多く、闇の支配者であることを精一杯アピールしているのだろう。だが今ひとつ大人っぽさやセクシーさを出し切れておらず、女神ココアの姿を目にした時と同じような、コスプレっぽい、中身が伴わないような印象を受ける。
「ココアってどういうこと! チノの知り合い!? というか、チノを召喚したっていう女神と同じ名前じゃん!」
「魔王を倒すためにチノちゃんを召喚したっていう女神さまと魔王が同一人物……マッチポンプかなー?」
「ココアさん……いったいどういうことなのか説明してもらえますか? 何で魔王がココアさんなのか、私をこの世界に召喚した存在とどういう関係なのか……」
「ふっふっふ……教えてあげよう。でもそれは、私の可愛い配下達を倒せたら、だけれどもね!」
そういってココアが口の中で何事かをぶつぶつと唱えると、何もない空間から光を発し、何者達かが突然広間の中央に出現する。
「……誰が配下達なのよ。私はココアの配下になったつもりなんか一度も無いんだけれど」
「今度の相手は誰だ!? 誰が相手だろうとやっつけてやるぞ!」
「て、転移空間に隠れてる間に、あ、足つっちゃった……」
三人の少女が広間に降り立つ(約一名、緑色の衣装の少女はちゃんと着地できずに崩れ落ちてしまい、他の二名、黄色と紫色の少女に介抱されている)。三人は、マヤ達が世界樹でなってしまった小人種族のような背格好をしている。話し方や内容を聞く限りは、マヤ達のような幼稚化はしていないようだ。確認するまでもない。この三人は、チノもよく知っている――
「シャロさん、リゼさん、千夜さん! どうしてここに!? というか、ココアさんの配下になったんですか?」
「チ、チノちゃん!? チノちゃんもこの世界に召喚されたの!? というか配下になってないわよ! 私達はただ魔王とか名乗ってるココアに召喚されただけ!」
「魔王のココアさんに召喚……ということは、シャロさん達も『元の世界』から来て、えっでも、私は女神のココアさんに召喚されて……いったいどういうことです?」
「ふっふっふ……それは私から説明しよう!」
(ココアさん、配下を倒すまで教えないって言ってたのに結局説明しちゃうんだ……)