卒業旅行に来たら異世界に召喚されました   作:岸雨 三月

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4章:魔王城攻略完了(みっしょんこんぷりーと)―③

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

「うわああああああ!!!」

「何!? 何が起こるのー!?」

 

詠唱とともに、世界が反転したような錯覚に陥る。めちゃくちゃな地面の揺れとすさまじい光。いったいこれからどんな存在が召喚されるというのだろうか。ひょっとして、「魔王すらも従える最強の闇の支配者」的な、召喚してはいけない系の存在を召喚してしまったのでは? チノは青ざめるが、呼んでしまった以上はもはや止められるものではないことも理解していた。だが、ようやく揺れと光がやみ、目を開けられる状態になった時、チノの目の前に立っていたのは、あまりに意外な人物だった――

 

「モ、モカさん!?」

「お、お姉ちゃん!?」

 

魔王城の広間に降り立ったのは、チノもココアもよく知る人物――ココアの姉、モカだった。魔王やソーサラーなど、ファンタジーぽい衣装を着ているココアやチノ達と違って、元の世界から着の身着のままに来たかのような普段着を着ている。頭には緑の三角巾までつけていて、ホット・ベーカリーのキッチンに立ったまま異世界召喚されたのではないかと思うような出で立ちだ。

 

「ココアー! 話は聞かせてもらったわよ! 駄目じゃない、チノちゃん放っておいて遊んでたら……。というかなーに? その格好? コスプレ?」

「おおおおお姉ちゃん!? この格好は、つまりその、えーっとその……」

(ココアさん、真っ赤になってます……流石のココアさんでも、ほとんど裸みたいな魔王衣装を家族に見られるのは恥ずかしいらしいです)

「こんな寒そうな部屋でそんなお腹の出る格好してたら冷えちゃうわよ? というか食事とかはちゃんと食べてるの? 自炊は出来てる? 異世界の水が合わなくてお腹壊したりはしてない? ラビットハウスさんにお世話になってるときは毎食ご飯出てるから心配してなかったけど、異世界だと食材とか調達できるところも少なそうだし心配で……」

「そ、そんなに心配しなくたって平気だって!」

 

ココアはモカに質問攻めにされてたじたじになっている。先ほどまで魔王としてあれほどフリーダムに振舞っていたのと同一人物とは思えないほどの変化だ。

 

(魔王に特攻効果のある「ある存在」を召喚する魔法……確かに言われてみれば当たっているのかもしれません。ココアさんにとってモカさんはお姉ちゃんであるとともに弱点的存在……、この状況でココアさんに言うことを聞かせられるのはモカさんだけかも)

 

「で、ココアは何でそもそもこの世界に来たの?」

「そ、それは私も分からないよ!? 私だって目覚めたらいつの間にかこの世界に転移してただけだし……でもせっかく来たからには、遊んでいかないと損だなーって思って」

「遊ぶのも大事だけど、元の世界でココアが戻ってくるの、みんな待ってるわよ? チノちゃんなんかはるばる迎えに来ちゃったみたいだし……。遊びたければ、卒業旅行終わった後にでもまた実家に戻ってきなさい? お母さんも待ってるし、私も昔みたいに遊んであげる! ココアの行きたいところどこへでも連れて行くわよ? こっちに来る暇がなければ、また私からそっちに行ってもいいし。お姉ちゃんに、任せなさい?」

「ええっ本当!? お姉ちゃん遊んでくれるの!? わーい……っていやいや、私だってお姉ちゃんなんだから、遊んでもらわなくたって大丈夫だよ! でも、逆にお姉ちゃんが私と遊びたいっていうなら、一緒に遊んであげなくもないというか」

「はいはい、じゃあそういうことでいいから……」

「ってちょっちょっちょっ、待ってください、何ですか、またすごく地面が揺れてませんか!?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

ココアとモカの会話が終わるか終わらないかくらいの時から、モカが召喚された時と同じような揺れが再び起こっていた。まるでさっきのシーンを巻き戻し再生するかのように、すさまじい光もあふれはじめる。

 

普通は地震が起こっている真っ最中に眠くなるなんてことはあり得ないが、異常なことに、光に包まれると急激にチノは眠気に襲われた。頭の芯から麻痺するような異常な眠気だ。これはもしかして、チノがこっちの世界に来る前の夜に感じた「誰かが強制的にチノの意識を飛ばそうとしているかのよう」と思ったあの眠気と同じなのでは。ちゃんと思考することが出来たのはそこまでで、そこから先は立っていることすらできず床に崩れ落ちる。意識が飛ぼうとする直前に、ココア、千夜、シャロ、リゼも同じように膝をついているのを目の端で見ることが出来たが、それがチノがこの異世界で見た最後の光景になった。

 

夢の終わりが訪れるのは、やはりいつも突然のことなのかもしれない。

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