「卒業試験」の会場に半ば強制的に連れて行かれる道中、マヤとメグと色々話をして、ようやくおぼろげながらもこのシチュエーションや様々な物事の輪郭が見えてきた。話から得られた情報、そこからチノが推測した情報をまとめるとこういうことになる。
・チノ、マヤ、メグは「冒険者学校」の生徒をしている。三人はパーティを組んでいつも一緒に行動している仲良しトリオだった。
・今日は「冒険者学校」の卒業試験の日だ。卒業試験では、生徒同士でパーティを組んでクエストに挑戦しクリアするのが課題となる。三人はここでもまた一緒にパーティを組む約束だった。
・三人は今朝最後の復習をするためにラビットハウスに集まっていたが、チノが「ちょっと用事がありますので」と言って席を外してしまい、中々戻ってこないので、残された二人はやきもきしていた。そしてようやく戻ってきた……というのが、先ほどチノがラビットハウスに来たときの状況である。(つまり、この世界ではチノが召喚される以前に別の「チノ」が存在していたことになる。もう一人の「チノ」は、いったいどこに消えてしまったのだろうか?)
・マヤとメグは、この世界に召喚されてきたという訳ではない。生まれた時から今までのこの世界での記憶を持っている。
・リゼ、千夜、シャロと言った名前にはマヤ、メグは心当たりはない。ラビットハウスにはバイトはおらず、ほとんど父一人で切り盛りしているのだという。
そしてチノの方からは、自分がこの世界の人間ではないこと、つい先ほど女神ココアと名乗る存在に召喚されたばかりであることなどを包み隠さず二人に話したのだが、それに対する反応は――
「うーんチノ、だいぶ重度の幻覚魔法にかかったみたいだなー。森で大きのこ狩りでもしてた? やつらの使う胞子には幻覚効果があるっていうからなー」
「げ、幻覚じゃないです! 現に私、この世界のことや、魔法の使い方なんかも何も知らないですし」
「まあ高度の幻覚魔法は忘却効果もあるからね。しっかし運が悪いなー、よりによってテスト前に幻覚魔法にかかっちゃうとはね」
「ち、違います! だから、ココアさ……女神ココアに召喚されて……」
「そんなこと言われても女神ココアなんて名前、神話学の授業の中でも全然聞いたことないしなー。あっ、そいつ女神の名を騙る悪霊なんじゃね? 悪霊にかけられた幻覚魔法だとすると、こりゃ試験始まるまでには解けないかも」
「こことは違う世界……教会の塔よりも高い『びる』が立ち並ぶ大都会、馬よりも速く走る『でんしゃ』、魔法なしで『かがく』で火も起こせる世界……チノちゃんの想像力は本当に凄いねー、もし卒業試験落っこちても吟遊詩人としてやっていけそう!」
「おいこらメグー! 縁起でもないこと言うなよー! メグこそ幻覚魔法にかかって、試験中にこの前みたく周りを火の海にしたりしないでくれよー!」
「はわわ、流石に二度もそんなことしないよー!」
談笑するマヤとメグだったが、チノは自分の言うことを全然信じてもらえないという予想外の事態に慌てた。ココアの指示は「二人の仲間を自分のところに連れて来い」というものだったので、せめてチノの目覚めた森の広場まで一緒に来てくれないか、と頼み込むも、「はいはい、そういうのはとりあえず試験終わってからね? 試験終わっても幻覚解けてなかったらその時は付き合ってあげるからさー」と軽くあしらわれてしまった。
マヤとメグをどう説得するか、考えあぐねているうちについに試験会場に到着してしまった。そこはチノが最初に目覚めた場所からさほど遠くないところにあるテントだった。パーティーごとに決められた時間にこのテントに集合すると、冒険者学校の先生からクエストの書いた紙を渡されるので、書かれている課題を制限時間以内にクリアする――というのが卒業試験の流れらしい。
チノ、マヤ、メグのパーティからはマヤが代表してクエストの紙を受け取った。羊皮紙らしき素材のその紙には、「北の『ティーテーブルの山』に行き、大うさぎを退治すること。期限は明後日の18時」と書かれてあった。
「ティーテーブルの山か……、そこそこ険しい山だし道中にモンスターも多いな……、今からすぐ出発しても明後日の18時に間に合うかどうか」
「いったん街に戻って山越えとキャンプ装備を整えてからの方がかえって早いんじゃないかな。ちゃんとした準備なしには難しいクエストだと思うよ」
結局、ココアのチュートリアルの次を受ける時間も無く、卒業試験に挑まなければならないことになってしまった。――成り行きでこんなことになってしまいましたが、この世界に関する知識もない、モンスターの倒し方も分からない、魔法も使えないのに、卒業試験をクリアすることなんて出来るんでしょうか――、チノの不安は深まるばかりだった。