卒業旅行に来たら異世界に召喚されました   作:岸雨 三月

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1章:ココア先輩の優雅な異世界チュートリアル―⑦

チノの言うとおり確かに、「ドウゥン……ドウゥン……」という重低音が、マヤとメグの耳にも聞こえ始めていた。地鳴りだろうか? 事態に気付いたマヤは慌て始める。

 

「な、なんだこの音!? どんどんこっちに近づいてきてないか?」

 

間違いなく幻聴や気のせいなどではない。「ドウゥン……ドウゥン……」という音は、急速にチノ達に近づきつつあった。しかも音に合わせて地面の揺れまで感じる。周りが森なので視界が悪く発生源を特定できないが、これはまるで、大型の生物がこちらに近づいてくる時の足音のような――

 

「グルォォォォオオオオオオオ!!!!」

「うわぁ!!! 出たぁー!!!」

 

咆哮をあげ、木々をなぎ倒しながら姿を現したのは、巨大な翼竜だった。小山ほどもある体長、鋭い鉤爪。さらに口から火炎球のようなものを吐きながら、こちらに向かって突進してくる。

 

「うわぁぁぁぁあああ!!!???」

「な、なななななななんですかこれ!!?」

「見りゃ分かるだろ!? ドラゴンだよ!! チノ、メグ、とにかく逃げろ!!」

 

マヤに言われるまでもない。ドラゴンなど生で見たことは当然ないチノだが、その凶暴性は一目見ただけで分かる。三人は脱兎のごとく森の中の道を走り抜けて逃げ出した。しかし、翼竜は図体の大きさに反して意外とすばしっこく、行く手を邪魔する森の木々を器用にかわしたり、時々なぎ倒したりしながら、チノ達をしつこく追ってくるのだった。

 

ゴウッ! ジュッ。

「あわわわわわわわわわ……」

 

翼竜から放たれた炎が、チノの耳元をかすめていきローブのフードをわずかに焼く。今までティーテーブルの山で出現したモンスターは、どちらかというと元の世界にもいた野生動物の延長線上のような、どこか可愛らしさを残すモンスターが多かったが、こいつはあまりにも格が違いすぎる。もしもこれがゲームだったら山の奥とか、ダンジョンの最下層にでもいそうな風格のボスモンスターといった体だが、街にも比較的近い森の中になんでこんな凶暴なモンスターがいるのだろう――?

 

ドゴォォォォン!

「うわっち!」

 

今度はマヤの方に鋭い鉤爪を突きたてようとする。それにしても先ほどからこの翼竜、マヤのことばかり執拗に攻撃しているような気がする。装備の重さから機敏に動けないメグと、足の速さで劣るチノは、素早い翼竜を前に一瞬逃げ遅れて無防備な体勢を晒しそうになる場面が何回かあった。だが、そんな時でも翼竜は、近くのチノやメグを狙わずにわざわざ遠くにいるマヤの方を狙ってくる、そんな場面が何回もあった。なぜ、マヤばかりを狙うのだろう。

 

「マヤさん、何だか狙われてませんか……? 何かこの竜の機嫌を損ねるようなことしたのでは……」

「全く心当たりない!」

「あーっ! 思い……出した! この竜……『アップルミントティードラゴン』って種なんけど……普段は山奥に生える山菜などを食べて暮らしている草食の生態で、特に生の根菜類が大の好物なんだ!! 確か魔法生物学の授業で習ったよ!」

「そ、そんな名前なんですかこの竜!? それにこの顔で草食系って……はっ!」

 

メグの解説を聞いてチノも同じ結論に思い当たる。そう、生の根菜類――巨大ニンジンをマヤは袋の中に持っているのだった。

 

「マヤさん! それです! その袋です! その袋を捨ててください! あの竜、袋の中のニンジンを狙っています!!」

 

そう、翼竜はマヤの持つニンジンを狙っていたのだ。ニンジンを巣穴から持ち帰ったことで、匂いにつられた翼竜を山奥から招き寄せてしまったのかもしれない。それに気付いたチノは、マヤに対しニンジンの入った袋を捨てるように言う。ニンジンを捨てるということは、冒険者学校卒業の資格をフイにするということだ。それはチノにも良く分かっていた。でも、このまま翼竜に追われ続けたら、どこかで体力が尽きて致命傷を負ってしまうだろう。どんなものでも、命には代えられない。

 

「……」

「マヤさん! 命と卒業とどっちが大事なんですか!!」

「……」

「マヤさん!!!」

 

マヤはチノの呼びかけに反応しようとしない。こうなったら無理やりに捨てさせてでも。そう思いマヤに近づく。

そして気付いた。マヤは、――泣いている。

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