ティガレックスとネルギガンテになる狩人の話   作:ムラムリ

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その後 3

 導きの地のベースキャンプは設置されたものの、程なくして青い星しか使う事はなくなった。

 それは、この地の竜、古龍達はこの新大陸の中でも他の場所に住む個体より遥かに優れた個ばかりである事が原因であった。

 この地でも弱者であるクルルヤックでさえも、岩を持ち上げた時にはランスの盾並みの精度を誇るガードをした挙げ句に、ちゃんと実績のある狩人の一人の頭を潰してみせた。

 流れるようで、掴みどころのない動きをするトビカガチは、大剣を振るう狩人の背後に回り込んだかと思えば、鎧の隙間から爪を縫い込ませて首を裂いた。

 通常種のリオレウスでさえもボウガンの弾を乾いた笑いが出る程に躱して見せたし、砂礫を潜行するディアブロスに突き上げられれば、遥か高くまで飛んだ挙げ句にそのまま双角に串刺しにされた。

 イャンガルルガに飛びかかられた狩人は、目にも止まらない速さで嘴を叩きつけられてひき肉にされた。バゼルギウスの爆鱗に逃げ場を失った狩人は、その爆鱗塗れの胸に押し潰され、武器も防具も全てが跡形なく消えた。ラージャンに捕まれば、頭を兜ごと握り潰された。

 背を向けたキリンに武器を構えた瞬間、落雷が狩人の体を貫いた。ヴァルハザクの瘴気はウチケシの実を瞬く間に使い切らせ、逃げる事も許さずにその肉体を干からびさせた。

 イヴェルカーナの放つ冷気は、気付けば外気に晒している指がぽろりと落ちる程だった。ネルギガンテの突進に巻き込まれれば、文字通り狩人の体は四散した。

 そんな土地を、しかし青い星だけが堂々と闊歩し、余所者を排除するかのように歯向かってくる竜達を悉くに返り討ちにした。そして時が経ち、他の狩人達が屠られるか命からがらに逃げ出す頃には、他の竜や果てには古龍までが、まるで挑戦するかのように青い星に挑むようになっていた。

 オドガロンはまず最初に得意の惨爪を切り飛ばされてしまい、戦意を喪失して尻尾を巻いて逃げていった。

 ベリオロスはまずスパイクを的確に砕かれて、次に体を滑らせた瞬間、首を裂かれていた。

 ジンオウガの亜種は龍属性の力を纏って目にも止まらぬ猛攻を仕掛けてきたが、どれも致命傷を負わせる事は出来ず、時が経つに連れて逆に鋭い一閃が深々と全身に刻まれ、地に倒れ伏した。

 ネロ・ミェールは水蒸気大爆発を起こしたその直後、直撃を避けつつも秘薬を噛み砕いて無理矢理耐え、そして水煙に紛れたその青い星に致命を受けた。

 ナナ・テスカトリはヘルフレアを放てる程に全身の力が漲る前にその制御に重要な角に三度、兜割りを的確に叩き込まれて切り落とされた。

 ネルギガンテは、何よりも拮抗したが、最後の最後にその動きを見切った青い星に首を切られた。

 そして、それを最後に青い星はこの地を訪れる事はなかった。

 ……人としては。

 

*

 

 戻ってくれば、まずは沢で水を鍋に汲む。茶葉の袋は丁寧に丁寧に、指先で摘んで破れないように。

 それからその鍋に水を保ったまま、溶岩地帯へと歩く。こんなバランスを保って物を運ぶなんてこの体になってからは初めての事だったが、意外とそう苦労なく出来た。

 大抵の古龍は冷気から雷から炎熱から果てには毒まで様々な能力を種によって使いこなして来るが、このネルギガンテという古龍は、身から生える棘を飛ばす事はあれど、基本この身一つで戦うからだろう。己が身の使い方は、他のどの古龍よりも生まれながらにして優れている。

 坂道を下る。陽の明かりが薄れ、代わりに絶えず流れ続ける溶岩の明かりが視界を確保する。

 その熱気。人だった頃のようにクーラードリンクを必要とする程ではないにせよ、長居したいとは思わない熱さ。

 ……この茶葉、こんな熱気の中でどうにかなってしまわないだろうか?

 とは言え、この身になってから所持品など一つも持った事はない。隠す場所もない。

 とにかく。この水を沸かせばここには用は無い。水が湧くまでの間で茶葉がどうにかなる事もないだろう。多分。

 そうして溶岩に鍋を乗せて待っていれば、奥の方から足音が聞こえてきた。

 足音である事から、ウラガンキンではない。四足のようでもない。そうなると、獣竜であるディノバルドかイビルジョーか、ブラキディオスか。

 ディノバルドは、人だった頃に私が倒した。イビルジョーは前のネルギガンテが殺していたのを見た。だから、それぞれに新参者が来ていなければ、来るのはブラキディオスだった。

 人だった頃には戦わなかった、そしてネルギガンテを倒してしまった人間だった頃の私にも絶望せずに鍛錬を続け、猛り爆ぜると付けられる程まで成長を遂げたブラキディオス。

 私を見つけると不機嫌そうな顔をしてくる。ただ、何をしているのか興味が湧いたようで、近寄ってきた。

「……ヴグゥ?」

 何をしているんだ?

 そう問うような声。

 水を沸かしてるんだよ。

 返すように顔を鍋へと戻した。

 早速水の下から気泡が出来始めた。そして、程なくしてぽこ、ぽここ、とそれが水面へと上がって小さく爆ぜていく。

 気泡は段々数を増していき、それに伴って沸き立つ量も頻度も増えていく。

 気付けばブラキディオスもそれを眺めていて、けれど頃合いだと鍋を溶岩から下ろす。

 そして、もう一つ。あの場所から持ってきていたものを、ブラキディオスの前に置いた。

 太刀の刀身。狩人だった頃に使っていたそれ。頭が出ていた部分は硫黄まみれになってもう見る陰もないが、そこから先、突き刺さっていた部分は以前の輝きを微塵も失っていなかった。

「……? ……バァッ!?」

 ブラキディオスが、思わず大声で叫ぶ。

 思わず耳を塞ぎたくなる程の声量だったが、それを尻目に鍋の吊り下げ台を咥えて戻る事にする。

 それに対して、ブラキディオスは追ってくる気配もなかった。混乱しているのだろう。

 ただ……少なくとも。最終的に、狩人としての私がもう居ない事だけは理解するはずだ。

 このネルギガンテが、私であるかどうかまで悟るかどうかに関わらず。

 森林地帯まで戻ってきたところで、鍋を置き、丁寧に袋を開く。

 茶葉は……この量なら半分くらいか? 

 丁寧に鍋の中に入れて、中の乾燥した葉が色づき、開いていくのを待つ。本当ならば、まずは蒸らすところからだが、流石にそこまではもうやってられない。

 ただ、それでも匂いを嗅げば、なんとまあ落ち着く事か。

 それだけで分かる。この体になっても茶は楽しめる。

 ……もしかすると、体の血肉にならないような嗜好品ならば、この身でも変わらず楽しめるのではないだろうか? そういう点において、他にも楽しめるものはあるのではないか?

 そんな事を思う。

 湯も色付いて、香りも楽しみ終えれば、恐る恐るというように鉄鍋の縁に口を付ける。

 陶器のように味を全く邪魔しないものではないのが少しだけ悔やまれるが、これ以上を望む事は流石に無理だろうとも思う。

 そして、ずず、と一気に飲み干してしまわないように、けれど鍋の半分程を口に含んだ。

 ……ああ、美味い。

 濃厚さも、旨味も、体の血肉になってくれるような充足感も何もない。なのに体はどうしようもなくこれを求めていたようだった。

 この体にしてみれば、鍋の一杯でさえも人の身でのコップの一杯には程遠い。それでも、口の中の僅かな茶を何度も舌の上で転がして、味を長く楽しむ。

 ……何度も楽しみたいものだが、それでも人と会おうとは思わない。だが、この地の植物なら一つや二つくらいは茶として飲むのに適しているだろう。

 何せ、この地はあの赤い龍が各地を巡り、その全てを再現しようと試みた箱庭だ。生えている植物は平凡なものから希少なものまで多種多様、更にどれもがどこで採れるものより成長は速いわ、大きさも段違いだわ、挙げ句の果てにリオレウスの爆炎やバゼルギウスの爆撃で地中の奥深くまで焼け爆ぜようとも気付けばまた元通りになっているわ。

 だから、ここがこんな魔境でなければ、植物学者達は寝食を忘れて軽く一年はここに引き篭もっても全くおかしくなかった。

 そんな事を思っていたら、気付けば口の中で転がしていた茶は飲み干しており、もう半分も口の中に入っていた。

 あれっ、いつの間に?

 それ程に美味いと感じていたのだろうけれど、余りにも勿体ない。

 ただ、後ろから足音が聞こえてきて、仕方なく飲み干す。

 向き直れば、そこにはブラキディオス。口にその刀身を咥えてやって来ていて、刀身を私の目の前で落とした。

 別に返して貰う必要は無かったんだが。私にはもう不要なものだし、人であった頃の思い出を未練がましく持っておくつもりもない。

 ただ、ブラキディオスはそれを押し付けるように眼前まで滑らせた。

 ……ああ、理解したのか。そして、それを他の皆にも示す為に持っておけと。

「ヴゥ」

 分かったよ、と手にして顔を上げれば、ブラキディオスと目が合う。

 本当にこれがあの狩人なのか? と未だ疑心暗鬼のような顔だ。

 それなら。

「グルゥ?」

 一戦、軽くでも交えてみるか?

 構えてみれば、ブラキディオスはほんの僅か逡巡したものの、すぐに距離を取って前脚の粘菌を舐めた。

 その間に鍋と刀身を隅に追いやって、体を伸ばす。

 さて。

 相手は猛り爆ぜるブラキディオス。テオ・テスカトルを軽く撲殺する力の持ち主。

 膂力だけなら、今の私を超えているだろう。まともに食らったら、今の私もかなりのダメージを喰らう……いや、そのまま決着が着いても全くおかしくない。

 そして私がこの地に狩人として来る前から、この地で鍛錬を欠かさず続けている。

 ネルギガンテとなってから、これまで私が戦ってきた誰よりも強い。それは確実だ。

 ただ、それでも。このブラキディオスは、私にとっては格下だ。

 ぐっ、ぐぐぐっ。

 戦意に応じて、自ずと全身の棘が伸びていく。

「バアアアアッ!!」

 ブラキディオスが吼え、そして跳び掛かりながら拳を掲げた。

 さあ、狩人の本質というものを見せてやろう。

 

*

 

 開始一分も経たない内に、ブラキディオスはそれが狩人であった事を骨の髄まで思い知らされる。

 まずはと試しに拳を叩きつけようとすれば、ネルギガンテは後ろ脚で立ち上がると同時に拳を横から叩く。体のバランスが僅かに崩されながら、拳は虚しく地面に着弾。

 目と目が間近で合う。だが、ブラキディオスが頭突くよりも先に、ネルギガンテがその横っ面を逆方向から叩く。

 しかも的確に顎を揺らされ、途端に脚に力が入らなくなる。

 加速するバランスの崩れ。気付けば、叩きつけた拳にその棘塗れの尾が巻き付いていた。

 声すら出せない。ネルギガンテは体を捻って前脚を大きく広げた。

 そして、尾で前脚を引っ張ると同時に、再びブラキディオスの顎を叩いた。

 パァンッ!

 小気味良い音が鳴る。

 脚に、拳に力が入らない。世界がぐるりと回っていく。

 どどぉっ!

「ガッ、バッ」

 ブラキディオスにとっては大したダメージじゃない。それでも、一発試しに殴ろうとしただけで、顎を揺らされ、転ばされ、僅かな時間でも動けなくなるなんて予想だにしなかった。

 ……これは、本当に狩人だ。

 やろうと思えば、きっとそのまま命を奪い取る事まで出来ただろう。膂力で劣っていようとも、己の不用意な行動から首に噛み付くだけの隙を、このネルギガンテは簡単に作る事が出来る。

 ごろりと転がって、しかしブラキディオスは再びネルギガンテと相見える。

 勝てない。どう足掻いても。

 それをこの一合で理解させられつつも、もっとはっきりと、このネルギガンテとの隔絶を理解しておきたかった。

 ネルギガンテもそれを理解して再び、来いよと言うように待ち構えた。

 

 体の使い方に関して、覚える事など何一つとしてなかった。生まれた時からこの体だったかのように、爪先から尾の先まで自由自在に動かす事が出来た。

 棘が如何なる時に黒く染まり、そして生え変わるのにどれ程のエネルギーが必要なのか。それに関しても使い込んだかのように自ずと理解していたし、また、その棘を利用した攻撃も。

 だが、それだけではただのネルギガンテでしかなかった。

 まだ、ここに来てそう時間も経っていない頃、ゾラ・マグダラオスを捕食しようとしていたあのネルギガンテ……ゾラ・マグダラオスの背の上で戦うなんて特殊な状況でなければ、ソードマスターにもきっと劣っていたであろうネルギガンテと同等だった。

 が、そこに狩人としての経験が入る事で、ネルギガンテはすぐに化けた。

 体格で酷く劣りながらも、戦闘中であろうとも観察を一瞬たりとも欠かさずに隙を伺い、そして鋭く研いだ牙で命を刈り取る。

 基本パーティを組む事も、オトモアイルーすらも連れる事のなかったその狩人には、窮地に陥った時に助けてくれるような相棒なども居なかった。

 だからこそ、特に致命を避ける事は誰よりも優れていたし、そしてまた、致命を捩じ込む事にも優れていた。

 そこに、ネルギガンテとしての膂力が兼ね備わった。相手がどのように動くのかを的確に見極めながら、前なら見過ごしていたような僅かな隙、バランスの崩れでさえも、それを押し広げる事が出来る。不用意な一撃でさえも、それから致命へと持っていく事が出来る。

 

 ブラキディオスが今度は遠距離から粘菌を飛ばしてきた。しかし、ネルギガンテが一気に飛べば、風圧で粘菌は地面へと磔にされ、そのままブラキディオスへと突っ込んだ。

 迎撃しようと拳を構えるが、ネルギガンテは空中へと突き出された拳に前脚をとん、と置いてそのまま宙返り、ブラキディオスの背後へと着地する。せめてと必死に尾を振るが、抑え込まれた挙げ句にがぶりと噛まれて悲鳴を上げた。

 

 三度目、今度はネルギガンテが攻めに転じた。

 歩いてきたかと思えば、正面を向いたままに地面に尻尾を叩きつける。

 どうする、どうしてくる!?

 既に平常心をも失いつつあるブラキディオスは、そこから何をしてくるかが分からずに何も出来ない。

 ずっ、ずずずっ!

 ネルギガンテはそのまま体を捻って、地を這わせるように尾をブラキディオスへとまくりあげた。咄嗟に腕で防御するが、共にまくりあげられた土砂が容赦なく目に入り、同時に腕には尾が締め付いた。

 そしてまた転ばされれば、頭を抑えつけられ。

「ヴルル」

 もう、良いだろう? と言うように、はたまた既に飽きたかのように喉を鳴らされた。

 ブラキディオスは、それにもう何も返せなかった。

 

*

 

 それからネルギガンテが刀身をこの地の竜、古龍に見せていけば、自分の挙動が狩人……人間っぽさがあると元から思われていたのか、自分は元狩人を倒したネルギガンテではなく、元狩人そのものであると、想像以上の早さで理解されていった。

 反応としては誰もが困惑したりだとか、そんな好意的なものではなかったにせよ、それでも見せていくに連れて、この身のわがだまりが少しずつ解消されていくのをネルギガンテは感じていた。

 

 それから赤い龍の元に顔を出すと、つまらなさそうな顔をしていた。

 何か面白い事が起こればいいのに、とでも思っていたのだろう。

 ーー……退屈だなあ。何か面白い事でもしろよ。

「ガ、ガァ!?」

 いきなり無茶振りしないで欲しい。

 それにあんたなら外の世界、どこにでも飛んでいけるだろう?

 ーー嫌だよ。一回な、俺、死にかけた事あるんだよ。

 ……誰に?

 聞いてみれば、トラウマを極力掘り起こさないように、という感じに目線を遠くにやってから。

 ぼそりと言った。

 ーー首の長い、黒い龍。やれる事は炎を吐くだけ。でも、その炎は俺の内側まで一気に焼き焦がす程強い。そんなヤツ。

 …………それは、お伽噺の中でのみ、聞いた事があった。

 ーーお前、ソイツの事、知ってるのか?

 ……聞いただけなら。

 ーー教えてくれよ。

 

 お伽噺の内容を教えた後に赤い龍が言った言葉は、『一国くらいなら俺でも滅ぼせそうだけどなー』というものだった。

 汚い手段を取ってでも、こいつは殺しておいた方が良い気がするんだが。

 ただ、それから赤い龍は自分の事をじろじろと見てきて。

 ーーもっとお前が成長するか、もう一匹お前くらいの奴が居れば、あの黒い龍にも太刀打ち出来そうなんだよなあ。

 …………もし、倒したら?

 ーー外を巡って、俺の箱庭をもっと豪華にしたいな。

 意外と可愛い欲望だった。

 ただ、せめてこいつにはこの地でじっとしていて貰いたいから、そういう事にはならないで欲しい。

 

 ……けれど、その翌日。

 アルバトリオンがやって来たのだった。




続きありそうな感じにしてるけど、一旦おしまい。

導きの地:
青い星レベルじゃないと調査なんて出来ない魔境なので、ムフェト・ジーヴァも見つかってない。
大団長? 死んだんじゃないかな。

アルバトリオン:
ムフェト・ジーヴァに分からされる予定。
エスカトン・ジャッジメントも余裕で耐えられた挙げ句に組み敷かれて、王の雫を溜めながら死ぬか服従するか選ばされる。

その後、三匹でミラボレアス殺害ツアーの予定。

アルバトリオン

  • ムフェト:お前がママになるんだよ!
  • ムフェト:お前がママになるんだよ!
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