ケヤキモールで橋本と別れ、監視カメラの回収をするため特別棟に行き取り外し作業をしていると、神室がこちらに来た。
「一応あんたに頼まれたことはやったわよ」
「ありがとうな」
回収作業を一旦止め、俺が貸した録音機を受け取る。
再生ボタンを押して音声を確認してからポケットに仕舞う。
「ねえ、こんなことで本当に50万貰っても良かったの?」
「俺はただお前らを使う上で、不安要素があるから多くあげただけだ。これからはそんなにあげることはないと思うぞ」
「これからも私たちはあんたに使われるってことね・・・・・・」
そのことにうんざりしたような表情を見せる神室。
「だが報酬が多かったらやるだろ?」
「やるでしょうね。私だってポイントは欲しいし、今回みたいに簡単なことだと思うし」
「簡単かどうかは場合によるけどな」
現状は危険がありそうなのは出来るだけ頼まない方針ではいるが、それが簡単かどうかは俺には分からない。
例えば寮に出たゴキブリを退治するは危険性がなくとも女子にかなり難しいものに当てはまる。
そんな感じで人には向き不向きがあり、それによって簡単か難しいのが決まっていく。
「まあ、このまま学校生活が終わるとは微塵も思ってない。確実に学校側から何かがあるだろう。その時に使うと思っておいてくれ。もちろん、自クラスが不利になるようなことは頼まない」
「分かった・・・・・・それよりこれあとはどうするの?」
「この後はな・・・・・・おっさんと話すだけだ。お前も来るか?」
「行かない」
この答えは分かりきっていたが、聞くだけなら損ではないはずだ。多分。
「了解。もう帰っていいぞ」
「それじゃあ」
「じゃあな」
神室が階段を降りるのを確認してから、回収作業を再開した。
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回収作業を終えて寮へと戻り、夜を待ちながら今回の計画を思い返す。
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俺はあのおっさんに会った瞬間、1人の人物を思い浮かべた。
それは『あの施設』にいた監視者の1人だ。
そいつは男子にはかなりの暴力を振るい、女子には鼻の下を長くして手を出していたクズ野郎。
あそこではそういったことをするやつは多いが、その中でも一際酷かったのがそいつである。
まあそういったやつに限ってあまり強くない小物なのが事実で、1週間程度でこの世から去っていたのを憶えている。
そいつとおっさんは顔や姿などは全く異なるが、雰囲気がクズ野郎であることを物語っている。
そこからデジカメが預けられるまでおっさんを観察しつつ、1つのことにたどり着いた。
ああいう人間をもっと知ってみたい、と。
それを実行するためにあの3人を呼んだのだ。
「今日ここに呼んだ理由だが、それはとある仕事をしてほしいからだ」
「その仕事って何なんだ?」
「それはな、まず橋本。お前の部屋番号を使ってもいいか?」
「は?俺の部屋番号を何に使うんだ?」
その疑問は当然のものであり、俺もいきなり聞かれればそう答えるはずである。
「ある人物の行動を知りたい。もし俺の予想が当たれば手紙が届くと思う。それも気持ち悪いのが」
「それは嫌なんだが・・・・・・」
橋本の顔が明らかに嫌そうになる。
気持ち悪い手紙が届くことが予め分かっているのに、それを引き受けてくれるほど虫がいいとは全く思っていない。それに本来なら俺がやるべきことであるのは分かっている。
だが俺の住所は先ほど店員に知られてしまっているのでバレてしまう可能性がある。
俺は条件を付けつつ話を続けていく。
「その手紙の処理を他の人がやってくれるって言ったら?」
「・・・・・・それなら100歩譲って使ってもいいが・・・・・・。いや、そもそもその処理役は誰がやるんだ?」
「それは本城に任せたい。いいか?」
「大丈夫だよ」
二つ返事で返す本城に橋本は待ったをかける。
「いやいやちょっと待て。気持ち悪い手紙だぞ?そんな毒物みたいなものの処理をそんな簡単に・・・・・・」
「毒物?手紙をポストから出して捨てるだけでしょ?それぐらいなら誰だって出来ると思うけど」
そんな簡単に割り切れるようなことではないと思うが、本人があまり気にしていないのならそれでいいだろう。
「本城はそう言っているがどうするんだ?」
「・・・ポイントが貰えるなら」
「ポイント程度なら何とかなる。ということで頼んだ」
最後の抵抗でポイントを寄越すよう言われたが、南雲先輩にまだ今日の報酬であるポイント額を伝えていないので、いくらでもポイントを出すことが出来る。
流石に限度というものがあると思うが。
「次に神室だが、これを修理に今日出してほしい。その時の必要事項の名前は自分で、携帯の番号は俺がいまから言う番号、他のは橋本ので書いてほしい」
俺は本城に電話で頼んでおいたカメラと保証書(ロビーの人に頼んで部屋を空けてもらうよう先ほど伝えたため部屋に入れた)を受け取り、神室の前に出す。
「これ、どこも壊れてないじゃない?」
「今はな」
そう言って手に持っているカメラをふわりと投げて床に落とす。
床に落ちたカメラを拾い上げ、動くかどうかの確認をする。
(動かなくなったな)
「あんた、頭いかれてるんじゃない?」
「そうか?保証書がここにあるから無料で直してくれるなら変わらないと思うが」
「それでも使えるものを壊す時点で頭がいかれてる」
神室は呆れた表情を浮かべ、橋本もその現場を見て啞然としている。
それに比べ本城は一切動揺せずケーキを頬張っているのを見ると、俺と本城がおかしいのか、それとも神室と橋本がおかしいのか分からなくなってしまう。
「そんなこと今はどうでもいい。とりあえず、これを修理に出しに行ってくれ。店員がいろいろと誘ってくるかもしれないが、ウザがらずに相手に好印象を与えてくれ」
「そんなことって。それに注文が多いわね」
「受け答えなんて笑顔で「そうですね」と「それ好きなんですよ」と「いいですね」を言っていたら、大丈夫だ」
ああいうタイプの人間は表情や言葉に惑わしやすい。
笑顔で言えば喜んでいると思い、世辞を言えば気分が上がる。
ただ暴走しやすいという点を除けば、非常に取り扱いやすい人であるのは変わりないだろう。
「それでも納得いかない」
「なら今度、お菓子を作ってやると言ったら?」
このテーブルの上には飲み物以外のメニューが4つあり、そのうちの1つは本城が頼んだケーキで、残りは神室が注文したスイーツである。
ちょうどお昼頃とはいえ、俺でもスイーツを3つ、それもパフェとケーキとパンケーキを食べたいとは思わない。
これが『スイーツは別腹』というのだろうか。
「あんたのお菓子が美味しいっていう保証がないから却下」
「それならこの後、お前たちにシフォンケーキを作ってやる。それで納得がいかなかったらポイントを払ってやるから」
「・・・・・・分かったわよ。やればいいんでしょ」
溜め息をつきながらもカメラと保証書を手に取る神室。
(これで2つ目)
「最後に、本城と橋本。本城には同じクラスの佐倉の監視、橋本には今回のターゲットである家電量販店の店員の監視。それを明日から俺がやらなくてもいいって言うまでやってほしい。もちろん、出来る範囲で大丈夫だ」
「僕は大丈夫だよ」
「それぐらいならいいが、そのターゲットが分からない」
「これだ」
先ほどこっそりと撮った写真を橋本に見せる。
「この顔ね。りょーかい」
「この他にも頼むかもしれないがやってくれるか?やってくれるならここで前払いとしてポイントを払うが」
「ポイントが貰えるなら私はやるわ」
「やらせてもらうぜ」
「僕もやるよ」
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(神室はあのあとカメラを修理に出しに行った時にいろいろと誘いを受けたらしく、そのことをかなりイラつきながら話してくれた。
ちなみにシフォンケーキの件はいっぱい食べてくれ、「また作って」って言われたから良かった方と捉えておこう)
ここまでは思わぬ出来事があったが、順調にことが進んできた。
そして、俺が考えたシナリオのラストへと突入する。
今回でおっさんとは会わなくなるだろう。
「よし、行くか」
本城には『佐倉の監視はもう大丈夫だ』と送り、橋本には『ロビー集合』と送ってから部屋を出る。
ロビーで橋本と合流し、待ち合わせ場所に指定した監視カメラのない公園に向かう。
そこにはすでにおっさんがおり、かなりイラついているようだ。
橋本に隠れるように言ってからおっさんのところへ行く。
「こんばんは」
「話が違うじゃないか!僕と雫はお似合いだって言ってたじゃないか!」
こちらの声を聞くなり、大声を出しながら詰め寄ってくるおっさん。
そんなことを言った憶えはなく、メールでのやり取りも一方的に向こうから送ってくるだけで、こちらが送ったメールは待ち合わせ場所を示した先ほどのやつのみである。
「そんなことを言った憶えはありません。流石に妄言がひどいすぎですよ」
「うるさい!君のせいで僕と雫は・・・・・・」
「俺がいなくても絶対無理ですよ。あなたが佐倉にストーカー行為をしていた。その時点で社会的に抹消されて当たり前ですし、そんな野郎を好きになる女は1人もいませんよ」
「そんなはずない!」
「「やめてください」って言われたのに?あなたの記憶力は皆無ですか?そんなことより、あなたが手紙やらメールを送っていた佐倉以外の人がいますよね?」
「それがどうしたって言うんだよ・・・・・・」
それを聞いて先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、おっさんは動揺し始める。
こちらが仕掛けたことなので全容は分かっているが、それを伏せつつ話を続ける。
「そんな浮気者を好きになるやつなんて、その人への愛のレベルの次元が違う人と変わり者ぐらいですよ」
「・・・・・・」
「1つ言っておきますが、あの手紙とメール。実は全て男の子に送ってたんですよ。面白いですよね。女の子だと思ってたら、男の子だなんて」
「僕を嵌めたんだな!あの女!」
おっさんは送っていた相手が男と分かるとまた怒り始める。
「嵌めたというより、あなたが気持ち悪かったから仕方なく使ったんじゃないですか?まあ、その助言をしたのは俺ですが」
「君は僕をサポートするって言ったじゃないか!」
「サポートすると言いましたが、あなたから俺に頼られない限り、こちらは何もすることができないんですよ。分かりましたか?」
「それでも僕のために動くのが普通だろ!」
「はぁ・・・・・・」
大人だというのに、全てが自分の都合通りに動くだなんて思っていたり、女の子相手に手紙やメールを送りつけたりと、誰かが介入する必要などなく犯罪を犯し、自分本位の生き方という恥を晒す者。
それがこの目の前にいるやつである。
(どこまで行っても救いようのないクズか。つまらん)
ここまで来ると面白いとかよりもつまらないとしか思わない。
協力してくれた仲間に申し訳ないと思いつつ、最後の幕引きぐらいは面白いものを見せてほしいと願いを込め、こちらに物申しているおっさんへこの言葉を送ることにした。
「────僕を手伝うのが役目だろ!それなのに何もしないなんておかしいだろ!今すぐ謝れ!そしたら僕は────」
「未成年者に手を出そうとしてたクズがあまり調子に乗るなよ。そんなんだと永遠にお前に愛は訪れないぞ」
「うるさい!君みたいなやつに何が分かるんだよ!」
そうおっさんが叫びながら殴り掛かってくる。
その拳はあまりにも遅すぎてあくびが出るほどだが、ここはあえて受けることにした。
おっさんの右の拳が左の頬に当たる。が俺は1歩も動くことなくそれを受ける。
(情に任せた一撃。面白そうと思って食らってみたが)
「弱い」
その拳があまりにも弱すぎてつい言葉で発してしまった。
鼻血ぐらいは出るかと思っていたが、それ以下とは思ってもいなかった。
「このやろぉぉー!」
更に追撃と左手でも殴ってきたが、右手で受け止め指の付け根を全て外す。
その勢いが余って手首を外してしまったがまあいいだろう。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
関節を外されたおっさんは両膝から崩れ落ち、右手で左手を包む。
最後の最後まで想定以下の存在にはこれぐらいがお似合いだろう。
俺はこの場から去り、橋本と合流する。
「面白くなかっただろ?」
「一之瀬のやつに比べたら無論」
「あれを超えるのは無理だろ」
「それもそうだな」
(あれを超えるのは漫才師でも難しそうだな)
そんな感想を思いながら、暗がりの帰路を2人で歩く。
「とりあえず、ああいう人間は人の話が聞けないのと覚えてないってことは分かったわ」
「俺はあんなやつにならないって思ったな」
「それは当たり前だろ」
あまりに小学生感溢れる言葉を述べてしまい、橋本に笑われてしまう。
「まあ、こんな感じだがこれからもよろしく頼む」
「こっちこそご贔屓よろしく頼むぜ」
こうして全てのことが終わりを告げたのであった。
今回で2章ラスト
21.5話ではなく、4.5章で「ハイファイ」の話を書きます
これからも駄文ですが、よろしくお願いしますm(*_ _)m