真嶋先生の話が終わると、各クラスの担任のところへ行くように補足説明され、俺たちは茶柱先生の元に集まる。
「来月から3万、来月から3万、来月から3万・・・・・・やるぞお!」
3万ポイントという言葉を聞いて男子も女子も嬉しそうにしている。
(Dクラスにとって3万ポイントはかなり大きい。それも1週間我慢するだけで・・・・・・か)
「今からお前たち全員に腕時計を配布する。これは1週間後の試験終了まで外すことなく身につけておくように。許可なく腕時計を外した場合にはペナルティが課せられる。この腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えている。また万が一に備え学校側に非常事態を伝えるための手段も搭載している。緊急時には迷わずそのボタンを押せ」
(何そのハイテク腕時計!まじで凄いやつじゃないっすか!)
「非常時って、クマとか出たりしませんよね?」
「仮にもこれは試験だ。結果を左右する可能性のある質問には答えられない」
「う・・・・・・そんな風に言われると怖いじゃないっすか」
「危険な動物は流石にいないと思うよ。もし襲われて生徒が怪我でもしたら大問題だ。単純に僕たち生徒の健康管理だけを目的としてるんじゃないかな?無人島に放り出す以上、学校も安全性を確保しないといけないだろうし」
(この島を見た感じ安全そうだし、それに生徒に護身用の武器を渡さないあたりいないだろ)
腕時計が自分の手元に来たので左手に嵌める。
見て分かるほどのハイテク腕時計に関心を覚えながら、話を聞く。
「でも、身に着けたまま海とか入って大丈夫なんスか?」
「問題ない。完全防水だ。それに万が一故障した場合には、ただちに試験管理者がやって来て代替品と交換するようになっている」
(完全防水なのかよ!この腕時計欲しいわ)
「茶柱先生。僕たちは今からこの島で1週間生活するとのことですが、ポイントを使わない限り全て僕たちで何とかしなければならないということでしょうか」
「そうだ。学校は一切関与しない。食料も水も、お前たちで用意してもらう。足りないポイントにしてもそうだ、解決方法を考えるのも試験。私の知ったことじゃない」
(食料も水も自分たちで準備ね。マニュアルを読んで少しは理解しておくか)
そう思い、先生にマニュアルを借りられるか聞いてみる。
「先生、マニュアルを借りてもいいですか?」
「いいぞ」
茶柱先生が手に持っていたマニュアルが渡される。
俺はマニュアルを先生の説明に支障をきたさないよう、素早く読んでから返す。
そして、Dクラスの集まりから少し距離をおき、今回の試験について考える。
(マニュアルに書いてあったのは、マイナス査定の項目,購入できるアイテム,スポットについて。それと白紙の島の地図が付属されていた。
マイナス査定には、
・著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はー30ポイント。その者はリタイア
・環境を汚染する行為を発見した場合、-20ポイント
・毎日8時と20時に行う点呼に不在の場合、1人につき-5ポイント
・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格。対象者のプライベートポイントの全没収
購入できるアイテムはテントや調理器具などのサバイバルに必要不可欠な道具、デジカメや無線機などの機器、パラソル、浮輪、バーベキューセット、花火などの娯楽品。水や食料もある。
ポイントを使用したい場合は都度担任の先生に申し出ることで、誰でも申請可能。
スポットについては、
・占有時間は8時間。8時間を過ぎると自動的に権利が取り消される
・スポットを占有するには専用のキーカードが必要。そのキーカードを使用出来るのはリーダーとなった人物のみ
・1度の占有につき1ポイントを得る。そのポイントは試験中には使用することは出来ない。試験終了時に残ったポイントに加算される
・占有したスポットは自由に使用できる
・他が占有しているスポットを許可無く使用した場合-50ポイント
・正当な理由無くリーダーを変更出来ない
・占有されてなければ何箇所でも同時に占有出来る
・繰り返し同じクラスが占有することは可能
こんなところだろう。
リーダーになる気はないし、なれないと思うからほとんど関係ないとして考えると、単独行動がいいかもしれないな。俺のせいで水を消費させたくないし。
それに、7日目の最終日の点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利がある。
他クラスのリーダーを当てられたら50ポイント、外すと-50ポイント。逆に当てられると-50ポイントにボーナスポイントであるスポット占有で貯めたポイントを全て失う。
これは出来るだけ1人でやりたいからな。Aクラスのポイントを減らすためにも。
とりあえず、他クラスが動き始めそうだし動くか)
自クラスが何かで揉めているのを尻目で確認し、俺は他の人に見つからないように気配を消して森の中へ入る。
森を観察するために立ち止まっていると後ろから1人やって来た。
(もう少し後になるかと思っていたが、1つでも不安要素は取り除いておきたいのだろう)
「何か用か、綾小路」
「前の電話でのことだ」
「お前が『ホワイトルーム』出身で最高傑作ってことをなぜ俺が知ってるかだろ」
綾小路にとって、このことはかなり重要なことだろう。
俺だって同じ境遇にいたため、その気持ちは分かる。
「その話の前に戻らなくて大丈夫なのか?」
「戻って話を聞いているよりこちらの方が価値がある」
綾小路はこちらを刺すような目つきでこちらを見つめてくる。
「そうか。先に言っておくが俺は『ホワイトルーム』出身ではない。てか『ホワイトルーム』の中を見たこともないし、外観も見たことがない。なら、なぜ知っているかという疑問にたどり着く。それは、俺も別の場所で最高傑作と呼ばれていたから。正確には、俺と同じ境遇であるお前を、親から聞いたと言えばいいかな。まあ、同じと言っても施設の中で最高傑作で呼ばれていたことだけだがな」
父親からそのことを聞かされた時のことは今でも鮮明に憶えている。
なぜなら最後に父親と話したのがその日であるから。
その話を聞いた綾小路の態度は依然と変わらない。
「黒瀬が『ホワイトルーム』出身でないことはわかった。だが、おまえがオレを脅かす存在であることは変わりない」
「そうだろうな。俺が動けばお前の計画が潰れるかもしれないし、お前が退学するかもしれない。だが安心してくれ。俺はお前を退学させないし、出来るだけお前の計画を潰さないようには心掛ける。てか、退学してもらうとこの学校にいる楽しみが1つ減ってしまうからな」
俺がこの学校に来た理由の1つである、強者との出会い。
その強者に綾小路が当てはまるかは分からないが、最高傑作と呼ばれるだけの所以があるはずだ。
そんな強者の可能性があるようなやつを自分の手で退学させるなど、愚か者のすることである。
「そうか、なら1つ聞かせてくれ。おまえはどこ出身なんだ?」
「俺は生まれも育ちも日本だ。ただ数年間『ブラッディルーム』ってとこにいたってだけのな」
それを聞いた綾小路の表情は本当に人なのかと思うぐらい特に変わらなかった。
おそらくあんなところを知ってるやつなんてひと握りしかいないのは分かっているし、仮に知っていたとしても子供に教える価値などないところだ。
「この際だから言っておくが、今回の試験ではAクラスを潰すつもりだ。お前は堀北あたりを使って、Dクラスを1位にするだろ?」
「しなければならないからな」
(「しなければならない」か。どうせ教師あたりの命令だろう)
「茶柱先生に脅されてるとかか?」
「よくわかったな」
そんなことを簡単に話していいのかと内心思いつつ、苦笑いする。
「まさか当たるとは・・・・・・まあいい、俺は今から他クラスを見てくる。それじゃあまた後で」
「じゃあな」
ビーチの方へと戻る綾小路と別れ、俺は身長の2倍ほどの高さにある丈夫そうな木の枝に向かって跳躍する。
そして木の枝を掴み、この後のプランを考える。
(さて、ここからどうするかだが...。
Aは未知数なやつがトップだし、放っておくには不安すぎる。
Bはあまり知らないが、暴力事件で動いていた一之瀬か神崎あたりが仕切るとしたら、攻撃的なことはしてこないはず。
Cは龍園がいるから後回しにするのは得策じゃない。
そうなるとAかC。坂柳から負かすよう頼まれているのはAだから、Aからまわるか)
目先にある枝に飛び移るために勢いをつけて次の枝に飛び移り、勢いを殺さぬよう次へ次へと飛び移っていく。
少しするとAクラスの集団が歩いているのを見つけ、地上に降り物陰に隠れながらそれを観察する。
(途中でDクラスの集団の上を通ったが、めっちゃ高円寺に見られた。それも笑いながら。
まあそれは置いといて、神室か橋本に接触しないと)
Aクラスの集団を見ていると、少し離れた最後尾にその2人がいることを確認した。
誰にもバレないよう2人の後ろに回り込みついていく。
「ウチのリーダーからの命令は「黒瀬くんに従って動いてください」だが。黒瀬に任せて大丈夫なのか?」
「知らないわよ。あいつが優秀なのは知ってるけど」
「俺もそれぐらい知ってるぞ」
(そんなこと言われたら照れるな)
「けど中間テストで対策プリントくれたのはあいつなんだし、何とかなるんじゃない?」
「そうだよな」
「そんなに褒められたら照れるな」
俺が後ろからそう言うと、2人は驚いて歩みを止める。
「!・・・・・・心臓止まるかと思った・・・・・・」
「!・・・・・・何でここにいるのよ?それよりいつから?」
「お前らに会うために来た。それより歩かないとバレるからさっさと歩け」
「分かったわよ」
小さい声で悪態をつきながらも歩き始めたので今回の要件を伝える。
「1つ聞きたいんだが、葛城派がAクラスを動かしてるのか?」
「そうだぜ。そのせいで葛城派の
橋本曰く、戸塚というやつが葛城派にAクラスの主導権が渡ったことで調子に乗っているらしい。
(それは可哀想に)
「戸塚とかいうのは置いておいて、お前ら2人にはAクラスのリーダーを探ってほしい。こちらでも探すが、念には念を入れたいからな。それと、スポットの誤使用を1回でもいいからやってくれ。そしたら、0ポイントでAクラスが最下位になると思う」
「それだけで本当にAクラスを最下位に出来るの?」
神室の意見はもっともで、スポットの誤使用が1回程度では-50ポイント。
かなり大きい数字ではあるが、スポット占有でポイントが貰えると考えればそれだけで最下位にはならない。
「俺の計画はこうだ。BとCとDでAクラスのリーダーを当てて-150ポイント。スポットの誤使用で-50ポイント。残り70ポイントになるが、7日間なら最低でも70ポイントは使うだろう。そしたら最終的に0ポイントになる」
「Dクラスは置いといて、BとCクラスにリーダーを当てさせるってどうするのよ」
「Cクラスは龍園と繋がりがあるから言えばやってくれるだろう。Bクラスは誰かにAクラスのリーダーを見てもらえば多分いける」
「聞いてて心配になってくる・・・・・・」
龍園は乗ってくれると思うが、Bに関しては情報があまりないせいでこれといった案がないのが現状である。
情報収集してこなかったつけがこんなところで回ってくるとは思ってもいなかった。
「・・・・・・もしも計画が変更になったり、Aクラスのリーダーを確認したいときはお前らのどちらかに接触する。だから、2人で情報をしっかり共有しておいてくれ」
「りょーかい」
「わかった」
「それじゃあ頼んだぞ」
俺はバスケットボールのレイアップシュートをするように上へと跳び、上の木の枝に掴まる。
「すげぇ」
橋本の驚嘆する声が聞こえたと同時に先ほど同様、勢いをつけて次の枝に飛び移って移動していく。
次の目的である龍園に接触するために色んな所を動き回っていると、後ろから誰かが追ってきた。それもかなり速いスピードで。
このままだと何が起こったとしても対処が難しいため、地上に降り後ろの人物を確認した。
そこには高円寺が息を切らさずに木々を飛び移っており、こちらに近づくとスタイリッシュに着地した。
(化け物かよ)
「流石、私が見込んだ男なだけあるよ。ブラックボーイ」
「俺より速い速度で木々に飛び移るやつを初めて見た。それも息を切らさずに」
「フフフ、それをそのまま君に返そうじゃないか」
確かに俺は息を切らしてはいないが、高円寺よりも速くなかった。
もし同じ速度で移動していたら、俺は途中で休憩を入れるだろう。
そんなことを悠々とこなした高円寺がこちらに質問をしてくる。
「そんな君に質問なんだが」
「なんだ?」
「君にはこの島がどんな風に見えている」
(この島がどう見えるか、か)
「この島はあまりにも安全すぎる。こんなに動いて出会った動物は鳥と虫だけ。そうだな・・・・・・管理された島とだけ言っておこう」
もしここが本当の無人島なら、色んな野生動物がいてもおかしくない。
だが現に見たのは人にあまり害をなさない鳥や虫ばかり。
そうなるとここは管理している、もしくは管理されていた島になるだろう。
「私の想像通りの解答だねえ。それではまだ私を退屈させる存在のようだ」
その解答は、高円寺の期待に応えることが出来なかったらしい。
(かなりの実力者だからこそかなりの自信があるんだな。全く、強者は俺を飽きさせない)
「俺なんてまだまだだからな。例えるなら、やっと羽ばたくことが出来るようになった鳥でしかない」
「そうかね。私には君は弱者を食らうライオンにしか見えないがね。そうなれば、私はそれを狩る狩猟者になるねえ」
「その例えで合ってるかもな」
「フフ、では私はこれで失礼させてもらうよ」
ハーッハッハッハッと高笑いをしながら去っていく高円寺。
とりあえず、早く龍園を探さないと。
私が思っている総合的な実力は高円寺>黒瀬です。
綾小路は分からない点が多い(高円寺もだけど)のですが、勉強面では綾小路が上だと考えています。