Cクラスの浜辺から離れ、昨日見張るだけで終わったAクラスの拠点へ行くことにした。
昨日と同じでずっと見張っていてもいいが、あまり時間を無駄にしたくないので、今日は正面から尋ねてみることした。
「あのー、すみません」
「誰だお前?」
「Dクラスの者なのですが、神室さんか橋本くんがどこにいるか教えてくれないでしょうか?」
いつもよりも腰を低くし丁寧な喋り方にすることで、相手に好印象を与えつつ、運が良ければ調子に乗らせ聞きたい情報を引き出すことが出来る。
そんなことを知らない相手はDクラスと知った瞬間、上から目線になる。
「はっ、Dクラスの野郎か。残念だがお前に教える気はない」
(こいつが弥彦ってやつか?なんか隠れてた時に聞いた声に似てる。それ以上にうざいけど)
もしこいつが弥彦なら、橋本が言っていたことは本当であったことが証明される。
そんなことに今は興味はないが。
「それなら葛城くんについて教えてほしいのですが・・・・・・いいですか?」
「葛城さんについてか・・・・・・。お前次第で教えてやろう。今から質問をする。それによっては話してやる」
(なんか地雷を踏んだ気がするが...。葛城の情報が手に入るならいいかな)
「分かりました。ではお願いします」
「1つ目、お前は坂柳と繋がっているか?」
「いいえ」
表情を変えずに返事をする。
「2つ目、お前は葛城さんを崇拝するか?」
そんないきなりのことに表情は変えなかったが、少し困惑する。
(何こいつ。葛城を崇拝?葛城は神なのか?)
「ええっと、葛城くんを崇拝ですか・・・・・・?」
「そうだ。葛城さんを崇拝するかと聞いているのだ」
「いいえ、俺にそんなことは出来ません」
「なら合格だ。俺が直々に葛城さんについて教えてやる」
(良かったー...。これで葛城について知れる)
同年代の人について知るためにこんな質問をされるとは思ってもいなかったが、葛城のことを知れる状況に持っていけたのはいいことだろう。
「葛城さんはだな、頭脳明晰で筋肉が凄い。俺らにはないものを持っているのが葛城さんだ。それに対して坂柳は小さいし、危ない橋を渡りすぎる。あんな奴についていくなんて有り得ない」
(葛城と思考が同じなんだろうな、こいつは。
それよりも坂柳を小さいと言ったのは面白すぎる。いつか痛い目に会うぞ)
「それはありがとうございます。ところであなたの名前は?」
「俺か?俺はな、戸塚弥彦っていうんだよ。そう言えば俺もお前の名前を聞いてなかったな」
(戸塚弥彦か。橋本が言ってた戸塚ってこいつなんだろうな)
「そうですね。俺は本城悠って言います」
俺の名前だと警戒される可能性があるので、ここは本城の名前を使ってやり過ごす。
「その名前を覚えておこう。それにしてもDクラスに葛城さんのことがわかる奴がいたとはな。かなり驚いている」
(俺、1度も葛城について言ってないんだけど。こいつの頭大丈夫?)
「そ、そうですね。あはは」
「よお、黒瀬。どうしたんだ?Aクラスの拠点に来て」
あまりに身に覚えがないことに苦笑いをしていると、こちらに見知ったAクラスの生徒が来た。
(ここでエンカウントしたのは
Aクラスで、色んな部活に行ってる時に知り合ったお方。平田やBクラスの柴田と同じで、会ったら話す程度のやつ)
「く、黒瀬・・・・・・?」
その名前を聞いた戸塚は当然のように疑問を浮かべる。
だがそんなことを他所に、司城と会話を始める。
「よお、司城。いやー、神室と橋本がどこにいるのか知りたかったんだがな、こいつが教えてくれなかったんだよ」
「そうかよ。神室は知らねえけど、橋本ならそこにいるぜ」
司城の指さした方を見ると、木陰で休んでいる橋本がいた。
「お、おい。司城。く、黒瀬って・・・・・・?」
「こいつの名前だがどうかしたか?」
俺を指差しながらそう言う司城。
「いや、何でもない。それよりこいつに坂柳派の奴らと会わせるのは・・・・・・」
「安心しろって、戸塚。こいつは俺が見張っとくからよ」
「わ、分かった」
「じゃあ、見張り役の戸塚は頑張れよ」
「頑張れよ、戸塚くん」
橋本がいるところへ行こうとしたら、いきなり戸塚に腕を掴まれる。
「お、おい、さっきは何故偽名を使った?」
「俺の名前がいろんな人に伝わってる可能性があったからだよ。ありがとうな、戸塚」
「くっ。だが勝つのは俺たちだ。これは間違いない。それにさっき言ったことなんて────」
「試験に関係ないとか言うんだろ?なら、特別にいいことを教えてやろう。さっきの会話は試験に関係しているとな」
答え合わせな部分が多かったが、今回知った情報は試験をする上で重要なものである。
「俺はぼろを出したのか・・・・・・。いや、それは有り得ない。ならこいつが言ったことははったりだ。そうだ、俺を惑わせるためのはったりだ」
いきなり独り言を言う戸塚。
掴まれていた腕が離されたので橋本と司城のところに行き、気になっていることを司城に聞いてみる。
「司城、お前はどっちについているんだ?」
「それなら大丈夫だぜ。司城はこっち側のやつだ。それに黒瀬のことも話してある」
それを司城の代わりに橋本が答える。
「それなら話しても大丈夫そうだな。ここで話してたら聞かれるかもしれないから移動するぞ」
「「りょーかい」」
3人でAクラスの拠点から少し離れた森ところまで行き、話を始める。
「話なんだが、Aクラスのリーダーがわかったから答え合わせをしたいのとCクラスとの契約についてだ」
「前者については調べ中だ。葛城のやつが「お前らは信用ならん」って言って話に入れてもらえなかったんだ。後者はだが・・・・・・。俺らは何も言えないな」
「まだAクラスのリーダーが分からないのか・・・・・・。それとCクラスとの契約は口外禁止か」
橋本の知っている情報は坂柳派ということであまり知らされていないようだ。
少し参ったことになったなと思っていると、司城が手を挙げた。
「どうしたんだ?」
「俺はAクラスのリーダーを知っている。葛城はまだ俺を仲間だと思っているからな」
(流石、イケメン司城はやっぱちげーよ)
「なら答え合わせをしよう。俺が「Aクラスのリーダーは?」って言うからそれに合わせろよ」
「いいぜ」
「ガキかよ」
(いいじゃん!あれって憧れなんだぞ。意外と)
橋本にツッコミを入れられるが、俺にとっては割と憧れなことである。
「ガキでも何でもいいから始めるぞ。Aクラスのリーダーは?」
「「戸塚弥彦」」
「おお~」
俺らの答えは同じ人物を指し、蔑んでいた橋本はそれに対して拍手をする。
「これで戸塚弥彦がAクラスのリーダーってことが分かった。これをBとCに伝えて-150ポイント。そうなると残り120ポイント。橋本、スポットの誤使用の件だが、どうなってる?」
「1回は何とか。だがこれ以上は流石に無理だと思うぜ。だよな、司城」
「ああ、これ以上やれば葛城に何かされるかもしれない」
Cクラスの契約で誤算が生じているとはいえ、1回だけでも誤使用できただけことを聞けて、こちらの気は少し楽になった。
(1回の誤使用で-50ポイント。残り70ポイント。
ここにDクラスのリーダー当てに失敗させて、残り20ポイント。どうしたものか)
「もしかして、今回の試験でAクラスを0ポイントにさせるのか?」
残るポイントをどう無くすか考えていると、司城がそんなことを聞いてきた。
「俺はそのつもりで動いている」
「そうか・・・・・・」
(もしかして、ポイントが関係しているのか?)
それを聞いた司城は不安な表情を浮かべる。
あまりAクラスのことに詳しくないが、坂柳と葛城が対立することでポイントが減ることを心配しているやつは司城以外にもいるはずである。
そういった人を安心させるため、補足しておく。
「ポイントで心配しているなら安心しろ。この試験が終わったら坂柳にポイントを渡して、自分の派閥の奴に配ってもらうよう頼んでおく」
「それなら協力する気になるな」
「と言っても、もうAクラスの人達にやってほしいことなんて、Aのリーダーを変えないようにしてほしいぐらいだな」
「リーダーを変えることなんて出来るのかよ」
橋本が有り得ないという顔をしながら言ってくる。
「出来る。あのマニュアルには、『正当な理由無くリーダーを変えることは出来ない』と書いてあった。それの裏を返せば、正当な理由があれば変更可能ってことだ。ここからはわかるだろ?」
「まあ、何となく」
(流石Aクラス)
正当な理由なくリーダーを変えることは出来ない。
だが逆に理由さえ作ってしまえばリーダーを変えることが出来る。
その正当な理由はおそらく、体調不良や怪我などだと思うが。
「そういうことだ。そしてこれは他言無用だ。これをされたらAクラスを最下位に出来ない可能性が出てくる」
「それぐらい分かってるぜ」
「分かった」
(ここからどうするかだが...。もう1度Bクラスに行ってみよう。
七詩に礼を言わないといけないし、Aクラスのリーダーを教えないといけないし)
今回の試験での最難関、BクラスにAクラスのリーダーを当てさせること。
これをクリアすればAクラスを0ポイントで終わらせることが可能になる。
だが少しでもしくじれば、何が起こるか分からない。
七詩に会うことを口実にBクラスの拠点に入ろうと思いながら、他に聞きたいことがないか2人に聞いてみる。
「俺からは以上だ。お前らは何かあるか?」
「特にない」
「俺も」
「それじゃあ、ここから残り5日間。頑張ってくれよ」
俺は手を挙げてじゃあなと言い、移動を開始する。
朝の時の記憶を頼りにして進んでいくと、途中で柴田と他のBクラスの生徒と出会った。
(これはチャンス)
「よお、柴田。今からBクラスの拠点に行くとこだったんだが、教えてくれないか?」
「おー、黒瀬。それならいいぜ。おーい、みんな!戻るぞ!」
柴田の掛け声でBクラスの生徒が集まってくる。
ざっと柴田を含めて7人だろうか。
「これで全員。よし!戻るぞ」
柴田を先頭にBクラス集団が動き始めた。
俺はその集団から少しだけ距離をとったところからついていくことにした。
歩くこと数10分、Bクラスの拠点に着き、柴田にお礼を言って一之瀬と七詩を探す。
一之瀬は特徴的な髪をしているのですぐに見つかったが、七詩は見つからなかった。
とりあえず先に一之瀬と話をすることにしたので、一之瀬の元へ行く。
「あ、黒瀬くんだ。久しぶり~」
俺が声をかけるよりも先にこちらに気付いた一之瀬が、手を振りながらこちらに来た。
(話し方が近所のおばさんのに似ている。笑いそうに...)
「久しぶりかは分からないが久しぶり」
「Bクラスのところまで来てどうかしたの?」
「お願いをしに来たんだ」
「お願い?」
(とりあえず一之瀬の後ろにいる女の子からもの凄い敵意を向けられるんだが)
可愛らしく首を傾げる一之瀬の後ろに、ドラマなどで見る恋敵に遭遇した時の目をする女の子。
あまりのインパクトに狼狽えそうになったが、それを口調や表情には出さずに会話を続ける。
「ああ。それはだな────」
「お話中すいません。あの一之瀬さん。柴田くんはどこにいるかわかりますか」
話しをしようとしたら、男子生徒が割り込んでくる。
(こいつ、おそらく他クラスのやつだな)
「柴田なら汗を流すとか言ってたぞ」
「それはありがとうございます」
一之瀬の代わりに答えると、その男子生徒はシャワーがある方に向かった。
「それでさっきの話の続きなんだが────」
「彼が誰なのか気にならないの?」
話の続きを話そうとしたら、今度は一之瀬に質問される。
「だいたい察しはつくから別にいいかと」
「それならいいけど」
「話を戻すが、Bクラスに最終日のリーダー当てでAクラスのリーダーを当ててほしい。と言っても、もう俺はAクラスのリーダーを知っているから言うだけで終わるんだが」
「え、もうAクラスのリーダーが分かったの!?」
リーダーが分かったことに驚く一之瀬。
その声が大きかったようで、周りにいるBクラス生徒からの視線がこちらに集まってくる。
「あ、ごめんね。大きな声出しちゃって」
「あ、帆波ちゃんと黒瀬くんだ。こんなところで何をしてるの?」
Bクラスで今から集まることがあるのか、一之瀬が大声を出したことに謝ったタイミングで、俺たちを見つけた七詩がこちらへ来た。
「Aクラスのリーダーが分かったから、それを教えに来たって感じだ」
「たった2日でリーダーが分かっただなんて凄い・・・。それで帆波ちゃんは何て答えたの?」
「うーん・・・・・・私としては有り難いけど、やっぱり信用できないかな。その情報が嘘だったらこっちには損しかないからね」
(そうだよな。ここは頑張って説得させるしか────)
やはり一筋縄ではいかないなと思い説得させるための言葉を考えようとしたら、七詩がいきなり声を上げる。
「そんなことないよ!黒瀬くんが噓をつくはずがないよ!」
(俺と七詩が一緒にいた時間なんてそんなにないよな!?
なのに俺のことについて語ってるって怖い!?)
意味不明なことに一瞬混乱しかけるも、周りから奇異の目に晒されたおかげで正常な状態を維持する。
その目が心地良いわけがないのだが、そんなことお構いなしな2人は話を続ける。
「あ、蒼ちゃん落ち着いて。私も黒瀬くんが嘘をつくような人だなんて思ってないからね。落ち着いて」
「なら、黒瀬くんを信用すべきだよ!」
そう言いながら一之瀬に詰め寄る七詩。
「わ、分かったから。信用してみるから落ち着いて」
押された一之瀬は七詩が熱心すぎる説得した甲斐があってか、自分から折れてくれた。
(何か知らんが一応説得出来た。七詩様様だわ)
「ということは、BクラスはAクラスのリーダーを当ててくれるんだな?」
「分かったから七詩ちゃんを止めて!」
「・・・・・・七詩、一之瀬が困ってるから止まるんだ」
未だ一之瀬との距離が詰まっている七詩の肩を掴み、そう言葉を掛ける。
すると七詩は止まりこちらへと振り向く。
「黒瀬くん」
「は、はい」
いつもよりトーンの少し低さに戸惑う俺。
「やりました!」
そしてそこから繰り出される満面の笑みでサムズアップをする七詩。
(うっ。ま、眩しい!)
「これで黒瀬くんの役に立てましたよ!」
(いつの間に、いつの間にそんな子に!お父さん、嬉しい!)
いきなり子供のように喜ぶ七詩に対し、俺はあまりの急展開に脳が思考放棄をしてしまった。
「お、おう。ありがとうな」
何とかひねり出した言葉と共に脳からの勝手な指令で頭を撫でてあげると、七詩は鼻歌を歌いながら去っていった。
(...なんとか乗り切った)
乗り切れたことに心の中で安堵し、一之瀬の方に視線をやる。
「・・・・・・一之瀬、本当にいいのか?かなり無理矢理だったが」
「私も黒瀬くんを信じて書くことにするよ」
七詩の説得はしっかりと功を奏したようで、一之瀬も俺を信じてくれるようだ。
俺は一之瀬に近づき、周りに出来るだけ聞こえないよう小声でAクラスのリーダーを言う。
「なら今から言うぞ。Aクラスのリーダーは戸塚弥彦だ」
「戸塚くんだね。分かったよ」
小さな声で返事をした一之瀬は、マニュアルについていたメモを取る。
「すまないな一之瀬。かなり強引な感じになったが」
「もしかして、これって前から考えてた感じなのかな?」
「七詩のは知らん。勝手に暴走しただけだ」
七詩と事前に打ち合わせをした記憶は一切ないのに、あの暴れ様。
おそらく七詩に何かあったのかと思うが、踏み込みすぎるのは良くないだろう。
「そ、そうなんだ」
「ということだ。ありがとうな、一之瀬」
俺は一之瀬と別れ、Dクラスの拠点に戻る。
今日は思った以上に動いたようで、戻った時にはもう19時だった。
色んなクラスメイトに見られながら夜ご飯を1人で食べ、20時の点呼を終えて今日を終えることにした。
(何か忘れてるけどいいや)
本城と七詩の裏での会話(ショートストーリー)
無人島生活2日目の昼頃、森の中に2人の陰があった。
片方はDクラスでリアル男の娘こと本城、もう片方は入学して1週間後に少し話題に上がった七詩である。
2人の接点は全くなく、先ほどDクラスの拠点に訪れた七詩が黒瀬の居場所を尋ねたのが本城であり、その時に初めて言葉を交わしたのだ。
七詩は黒瀬と本城が一緒にいるところを遠巻きに見たことがあり、それで本城を狙って接触し森の中へと誘導、そこで黒瀬との関係について話したり聞いたりしていた。
「ーーーあなたと黒瀬くんがどんな関係かはわかりました。それで、あなたは黒瀬くんに何かメリットがあることをしているんですか?」
「僕は黒瀬くんの駒のようなものです。黒瀬くんが手伝ってほしいと言ったら手伝うようなものと思ってください」
「そうですか。なら、私は陰から黒瀬くんのフォローをしようと思います」
笑みを浮かべながら言う七詩はどこか不気味で気持ち悪く見えるが、本城は態度を崩さずそれに応える。
「分かりました。僕はそんなあなたを応援していますよ。僕にはそんなことできないことですからね」
「私にはそう思いませんが。まあ、それはいいです。これから、仲良く黒瀬くんの役に立ちましょうね」
「そうですね」
その言葉を最後に2つの陰は消えた。
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補足として言っておきますが、司城は原作に出ているキャラで7.5巻でほんの少しだけ触れられてました(他の巻は忘れた)実力は橋本と同じぐらいと思って書いていきます。
坂柳派で、部活で黒瀬と仲良くなったと思っていてください