第30話 移動
初めての特別試験が終わり、ほとんどの生徒が疲れを癒している中、俺は船の屋上にあるカフェで茶柱先生と対面している。
「この契約書はどういうことだ?」
目の前にある1枚の紙を見て茶柱先生がそう言う。
「そのままのことですよ。俺はCクラスに移動する」
そう、この契約書には俺がCクラスへと移動するために必要なことが書かれている。
クラス変更に関する契約条項
第1条(契約の趣旨)
Cクラス(以下、「甲」という)は、Dクラスの黒瀬神威(以下、「乙」という)をDクラスからCクラスにクラス替えを行う。
第2条(契約期間)
契約を行う期間は8月7日から8月8日までとする。
第3条(契約内容)
(1)乙は甲に対し、2000万ポイントを譲渡する。
(2)甲は(1)のポイントを使い、乙をCクラスへクラス替えをする。
第4条
乙が(1)を行わなかった、またはポイントが不足していた場合、この契約をないものとする。
第5条
甲が(1)のポイントを(2)以外のことに使用した場合、甲は乙に対し3000万ポイントを払わなければならない。
甲の代表 東京都高度育成高等学校1年C組
氏名:龍園翔
乙 東京都高度育成高等学校1年D組
氏名:黒瀬神威
「なぜ私にこの契約書を見せに来た?坂上先生には見せたのだろ?」
「数分前に見せに行きましたよ。そしたら「茶柱先生にも見せに行きなさい」と言われたので」
茶柱先生に会う前、龍園とCクラスの担任である坂上先生の前でこの契約書への記入をしている。
契約書への確認が終わった坂上先生に、「学校側には私が報告するので、茶柱先生にもこれを見せておいてください」と言われたので、こうして会って話をしているのだ。
「そういうことか。私が反対する理由はない。だが、今すぐにクラス替えをするのは不可能だと思うぞ」
(反対する理由がないとか、そんな噓をよく言うぜ)
「そちら側に何か不都合なことでもあるんですか?」
「それを言うことが出来ない」
そのことはおそらく俺をDクラスに留めさせるための噓であり、もしそれが本当なら坂上先生が事前に言っているはずである。
なのに実際はなかった。そうなると、自ずと答えは導けるというもの。
(綾小路を使ってまでDクラスを勝たせたぐらいだから、これも頷けるってやつか。
まあ、これを持ちかけた相手が俺じゃなかったら通じたかもしれないが)
「まあいいです。ですが、もし試験が船の中であった場合、俺はスパイとしてCクラスにDクラスの情報を教えますよ。そうなると、損をするのはあなたじゃないですか?」
「っ!」
(痛いところを突かれたって感じか)
「そうですね・・・・・・もし明日までにクラス替えが出来たら、次の試験で
「わ、分かった。明日までにクラス替えをするようにしてやる」
「ありがとうございます」
俺の提案したことを飲み込んだ茶柱先生に愛想笑いで返事をする。
それを見た茶柱先生は席を立ち店を出ていく。
「理想を抱いた鳥は、自然という抗うことのできない敵に墜とされる」
コーヒーを一口飲み、俺も部屋に戻ることにした。
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8月8日の朝、昨日まで無人島での1週間の生活を強いられ、もしかしたら船に戻っても試験があるかもしれないと思っている生徒が多い中、奇妙なアナウンスが流れる。
『今から呼ばれたクラスは指定された場所に集合して下さい。1年Cクラスと1年Dクラス。Cクラスの生徒は1階第一宴会場、Dクラスの生徒は1階第二宴会場に集合して下さい。繰り返します。────』
呼ばれたクラスの生徒はそれに従って移動を開始する。
呼ばれていないクラスの生徒も何かあるかもしれないと身構える。
俺も移動しようと思ったらメールが来た。
『お前は今日からCクラスの生徒だ』
差出人は元担任だ。
どうやら、頑張って今日にクラス替えを行えるようにしたのだろう。
アナウンスがあった通りに移動していると綾小路と出会う。
「ずっと部屋の中にいたのか?」
「そうだ。そういうおまえも同じじゃないのか?」
「俺も部屋に籠っていたな。そうだ、この後一緒に昼を食べないか?」
「どういう風の吹き回しだ?」
純粋な気持ちでご飯に誘ってみたら、警戒されてしまう。
「同じボッチとしてどうせ暇だと思うやつを誘って何が悪い」
「そういうことか。それならよろしく頼む」
(ボッチという単語は世界を救う!ボッチ仲間に乾杯!)
「じゃあ、終わったらカフェに集合で」
「分かった」
そこから会話が弾むわけがなく、無言で指定された場所へ目指す。
どうやら第二宴会場が手前にあるらしく、綾小路が扉の中に入っていった。
俺も目的地に着き中へ入ると、そこには丸い机と椅子がたくさんあり、大半の生徒が座っていた。
そして、俺はその生徒たちから凄く注目を浴びてしまう。
それはそうだろう。違うクラスのやつがいきなり入ってきたらこうなる。
「おい、黒瀬。こっちに来いよ」
そう言って手招きをする龍園。
龍園のところにはアルベルトと石崎が座っていて、空いている椅子が1つあったのでそこに座ることにした。
周りがざわめきはじめたが、俺は目を瞑る。
数分してから坂上先生が入って来、マイクを手にして喋り始めた。
「いきなり呼び出してしまい申し訳ないと思う」
そう言って決して多くない毛量の頭を下げる。
「ここに呼び出したのはこのクラスにDクラスの黒瀬神威くんが加わるからだ。これからはCクラスの一員となる。みんな、仲良くするように。これでこの話を終わりとする」
その言葉を言い残して坂上先生はこの部屋を去っていった。
あまりにも短すぎる言葉に皆、動揺を隠せない。
「てことは黒瀬さんはうちのクラスに来たってことですか?」
坂上先生の説明で分からなかった石崎が俺に聞いてくる。
「そうだ」
「「「うおおおおおおお!!」」」
(え、なにこれ?)
それを聞いた石崎とその周りのやつらが叫ぶ。
それをいきなり近くでやられてしまい、呆気に取られてしまう。
「クク、てめえもそんな顔をするんだな」
それを見ていた龍園がそんなことを言ってくる。
どうやら顔にも出ていたようだ。
「いや、いきなり叫ばれたら誰だって────」
「「「黒瀬さん!これからよろしくお願いします!」」」
「Nise to meet you」
「これからよろしくお願いします。黒瀬氏」
「よろしくお願いします。黒瀬くん」
その声にまたびっくりして周りを見ると、Cクラスの生徒が数人集まっていた。
俺に特に興味がない生徒は退出し始めているが。
「よろしくな。みんな」
集まってきたCクラスの生徒と軽く話し、約束していたカフェを目指す。
(集まった意味ってあったのか?)
そう思っているとカフェに到着し、綾小路を探して座っている席へと行く。
するとそこには堀北もいた。
「お前は呼んでないぞ」
「少しあなたと話したいと思ったから同席しているのよ。突っ立ってないで早く座ったら?」
(こいつムカつくな)
渋々席に座ったら堀北がこちらに話しかけてきた。
「あなた、Cクラスにクラス替えをしたと聞いたのだけど、どうやってポイントを貯めたのかしら?普通に生活をしていたら100万ポイントも手に入らないはずよ」
(めんどくせー)
「秘密」
「なら質問を変えるわ。2000万ポイントはCクラスの生徒のポイントと自分のポイントを合わせて出したの?」
「僕、何も知らない」
「はあ・・・・・・」
俺が質問に答える気がないことを見て、堀北はため息をついてしまう。
「これだけは答えてちょうだい。無人島試験でAクラスを0ポイントにしたのはあなたよね?」
「すいませーん」
質問してくるのを聞いているのがめんどくさくなったので店員を呼ぶ。
「もういいわ。あなたに何かを聞こうとした私がバカだった」
そう言って堀北は立ち去っていく。
「空を飛べると思った雛鳥は親鳥の言うことを聞かずに巣から飛び出していった。最初は飛べた。だが、地上へ雛鳥は落ちていくのであった」
俺の独り言に一瞬だけ足を止めたが、すぐに歩き始めた。
「ご注文が決まりましたでしょうか?」
入れ替わりに店員がやってくる。
「日替わりランチ、ドリンクはアイスコーヒーで」
「かしこまりました」
「いい例えだな」
注文を言い終え店員が去ったあと、綾小路が小声でそんなことを言う。
空耳だと流したかったが、他人からの評価というのは気になるというものである。
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
「まあいい。とりあえず、今後のことについて何だが」
「今まで通り作ってくれ」
(おお、伝わった!これこそ以心伝心というやつですな)
「クラスが変って今まで通り持っていけないから、お前のポストに入れて置く」
「分かった」
この後、綾小路と雑談をして別れた。
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クラスを替えるとどうやら部屋も分けないといけないらしく、前の部屋から新しい部屋に荷物を移動させる。
新しい部屋は1人部屋で、前の部屋と変わらない間取りなので、凄く広く感じる。
ゆっくりしていると携帯が鳴る。どうやら、誰かから電話のようだ。
「何か用ですが?」
『こんにちは、黒瀬くん』
「坂柳か」
電話をかけてきたのは坂柳だ。
色々とあり連絡する暇がなかっただけで、決して忘れいたわけではない。
『まずは無人島試験、ご苦労さまでした。まさか本当にAクラスを0ポイントで最下位にさせるとは思っていませんでした』
「葛城が弱かった。ただそれだけだ」
『私としても葛城くんが取った行動のせいで少々厄介なことになりました。それで報酬の方をあげたいのですが、ポイントがあまり無くて』
(嘘臭いが俺と比べればほとんど無いのと変わらないからな。
協力している相手だし坂柳には賭け事のことを教えて良いだろう。
そうなると運動部は無理だから必然的にボードゲーム部だけになるな)
「それならボードゲーム部に行くといい。そこは賭け事をやっていてな。その代わり、勝ちすぎると賭け事をしてくれなくなるから気をつけろよ」
『分かりました。このあと行ってみることにします。それで黒瀬くん。Cクラスにクラス替えをしたという噂を聞いたのですが、本当ですか?』
(こいつの耳に届くの早くね?)
想像以上に早い情報収集に、CクラスかDクラスにスパイでもいるのかと疑ってしまう。
おそらく橋本や神室みたいな駒のようなやつがいると考えたら、そいつらの耳にたまたま入って坂柳に伝わったんだろうと思うが。
別段隠すことでもなくどのみち知ることになると思うので、包み隠さず告げる。
「本当だ」
『そうですか・・・・・・』
「俺、何か悪いことでもしたか?」
『いえ、私の部下を勝手に使われたこと以外は怒っていません』
(まさか、あのことを根に持たれていたとは...)
『黒瀬くんのクラスが変わっても今まで通り葛城派を潰すのに協力して下さいね。それではまた』
そう言い坂柳は電話を切った。
「これからも頑張るか」
自分しかいない部屋にそんな独り言を漏らした。