約束していたプールの日。
『午前10時にロビー集合』とのことなので、10時ちょうどにロビーへと到着する。
「こっちで~す!」
俺を見つけた石崎が大きく手を振って呼んでいる。
石崎の方に行くと、おそらく今回のプールに行くメンバーがいた。
(龍園にメンバーを聞いていなかったから、誰が来るのか一切知らなかったが...。
こんなにいるとは思っていなかった)
ここにいるのは石崎、アルベルト、龍園、近藤、小宮、そして伊吹、椎名、
そこに俺を合わせて10人となる。
「おはようございます!黒瀬さん!」
「おはようございます」
「おはよう」
石崎とひよりに挨拶されたのでしっかり返しておく。
「これで全員だな。行くぞ」
俺で最後だったようで、俺が来たことを確認した龍園は先頭を歩く。
その後ろに伊吹とアルベルトがついていく。
俺は誰かと話す気がないため、1番後ろからついて行く。
(話すネタもないから、とりあえずこっちくんなオーラだけ出しとくか)
こっちに来るなというオーラによって、プールに着くまで少しギスギスした感じになったのは言うまでもない。
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『特別水泳施設』と呼ばれる水泳部専用の施設が今はプールとして開放されてあり、俺らはその中に足を踏み入れる。
中へと入ると案内があり、俺たちはそれに従って更衣室を目指す。
更衣室の手前で龍園の足が止まったので、俺たちも止まる。
「てめえら、ここからは自由行動だ」
龍園はそう言い残して更衣室の中へと入っていった。
(ここで自由行動になったら一緒に来た意味ねえじゃん!)
と心の中でツッコむが、他の人も何も疑問を抱くことなく仲間たちと更衣室に入り始める。
それを見た俺も行こうとしたらひよりに止められた。
「黒瀬くん」
「どうかしたのか?」
「もし時間があれば泳ぐのを教えてくれませんか?私、運動が苦手で・・・・・・」
どうやら、椎名は運動が苦手で泳ぐのが得意ではないようだ。
(理由が可愛ええ...。
こう何て言うか、グッときますね。
身長的に上目遣いになってしまうから、うん。いいね)
俺は基本的なスポーツはでき、コーチング程度のことなら全然出来るのである。
「いいぞ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
教えてもらえることが嬉しかったのか、笑顔で感謝される。
(運動が苦手なのに凄いなぁ...。
俺、感心しちゃう!)
ひよりと約束を交わし、俺も更衣室に入る。
学年別で更衣室の使える場所が違うと言ってもやはり人が多いので、出入口に一番近く空いていたところに陣取る。
それを横目で確認した石崎がこちらへとやって来る。
「黒瀬さんはこのあと何をするか決めてますか?」
「特に決めてない」
そう言って上着を脱ぐと、石崎がおおーと言う。
「しっかりと鍛え抜かれた筋肉。こんなの見たことない・・・・・・」
(本城と須藤みたいな感想じゃなくて、これを求めてたんだよ!)
初めて筋肉を褒めてもらい、つい嬉しくなってしまう。
「それは嬉しいな」
その嬉しさのあまり、ラッシュガードをすぐに着てしまった。
ラッシュガードを着てしまえば、下に水着を着用している(下着もしっかり持ってきてる)ため、すぐに着替えが終わってしまった。
「おっと、いけね」
眼鏡で来たことを忘れていて、そのまま行くところであった。
俺はロッカーの扉で目元を隠しながら、眼鏡からコンタクトに変える。
「お先に失礼」
「待ってくださいよ~!」
着替え終わった俺は呼び止める石崎を無視してプールの方へと向かった。
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やはりプールとして解放されているため、施設の中にはジャンクフードが食べられる出店が多い。
それも出店をやっているのが上級生であり、その中には見知った顔の人も数人いる。
「自由行動っていわれてもな・・・・・・。やることなんてほとんどないからな・・・・・・」
あたりを見渡しながら何をしようか考えていると、前から見知った、白髪でブルーアイの上級生が向かって来た。
「やっぱりそうだったな・・・・・・久しぶりだな、神威」
「お久しぶりです。
手を軽く上げて挨拶してくる先輩に会釈をして返す。
彼は2つ上の先輩で、家が近所でもあったため小さいときから付き合いのある方である。
エプロンを身につけていることから、屋台でも出しているんだろうか。
「先輩もこの学校に来ていたんですね」
「ちょっと家が嫌になってな。もしかしてお前もか?」
俺たちは相手の家庭についてもかなり知っているため、大体のことは察することができる。
ちなみに扇先輩は有名な会社である『OG』の御曹司であり、その生活をあまり好んでいなかったのでここへとやって来たのであろう。
「いえ、俺は他の理由で。それより
ふと自分が口にしてまったことに違和感を感じるが、今はそれを無視する。
それを聞いた先輩は肩をビクッとさせる。
「あの後一度も・・・・・・」
先輩はまだ過去のことを引きずっているようで、明らかに暗い顔をする。
(俺は彼女がどうなったのか、
「そんな暗い顔をしたら、彼女に怒られてしまいますよ」
「そうだよな・・・・・・すまん」
先輩は首を横に振って、気持ちを切り替える。
「話を逸らしてしまいすみません。それで何か用ですか?」
「少し出店の手伝いをしてほしくてな。俺よりもお前が作る方が美味しいから、いいと思ったんだが」
ここにある出店の1つが先輩の店らしく、それを手伝ってほしいとのこと。
料理があまり上手くなかったあの先輩が出店をだしていることに、練習したんだなと内心思う。
「手伝ってくれる時間はお前の自由にしてくれて構わない。それにお前が稼いだポイントは全額やるから頼めないか?」
それを聞いて少し悩み、それから答えを出す。
「・・・・・・いいですよ。一応言っておきますが、ポイントは要らないので」
「だが・・・・・・」
「こうなった俺は頑固ですよ」
「そうだったな。分かった、それで引き受けよう」
俺の出した提案に先輩は了承する。
「店はこっちだ」
歩き出した先輩の大きくなった背中に視線を向ける。
(彼女を守ることの出来なかったことへの、せめてもの償いとして)
胸に秘めることしかできないこの思い。
誰にも明かすことのない思いを抱き、その後ろをついていく。
「この店だ」
先輩が指差した店には大きな鉄板があり、メニューには『焼きそば 300ポイント』と書いてあった。
どうやら夏の定番メニューである焼きそばを売っているようだ。
ちなみに歩いている途中、女子たちがよく先輩の方を見ていたので、やっぱりモテるんだなと思う。
「見ての通り焼きそばの屋台だ。材料はそこにあるから自由に使ってくれ」
指差された方向には材料があり、どれもポイントで購入したものであることが一目見て分かる。
「お前が手伝ってくれてる間、俺は接客をしてるから、分からないことがあったらいつでも聞いてくれ」
「分かりました」
俺は道具を確認しながら、どれぐらいまでやるか考える。
(今は11時手前だから、ちょうど人が増え始めるあたりかな。
人が多い時にやめるのは嫌がらせになるから、少なくなってきたタイミングで抜けよう。
それより、エプロンどこ?)
エプロンが無ければ最悪ラッシュガードを汚してしまう。
それに裸でやったとしても、やけどの恐れがあるためあまりやりたくない。
「先輩、エプロンを使いたいんですが」
「分かった。その代わり、お前のラッシュガードを貸してくれよ」
「いいですよ」
先輩は自分が使っていたエプロンを脱いでこちらに渡してきたので、俺もラッシュガードを脱いで渡す。
そのエプロンを身につけ、焼きそば作りを始める。
(まず鉄板に油をひいて、伸ばしていく。
満遍なく伸ばしたら、豚バラ肉を投入。
この時に塩コショウで味付け。だいたい赤身がなくなってきたら、食べやすく切ったキャベツともやしを投入。
焼けてきたら、スペースを作ってそこに麵を投入。
水を使って麵をほぐしていき、ほぐれたら肉とかと混ぜる。
水を飛ばしたら、ソースで味付けをして完成)
「いい匂い~」
「焼きそばの匂い嗅いだら腹が減ってきた・・・・・・」
「店員の人、イケメン・・・・・・」
作れる分の焼きそばを作り終わり、店の前を見ると匂いに釣られてやって来た客による行列が出来ていた。
先輩効果もあってか、見た感じ女性客が多い気がする。
俺は素早く焼きそばをパックに詰めていき(パック詰めの時にかつお節をトッピングして)、テーブルに置いていく。
(この人だかりだったら、すぐに売り切れそうだな)
そう思いながら、焼きそば作りを黙々と行っていく。
「焼きそば2つ~」
「はいよ。600ポイントね」
「焼きそば1つ、お願いします」
「はい、焼きそば1つ。300ポイントね」
昼に近づくにつれて、焼きそばを求める人も多くなる。
そうなると、誰かと出会う確率が高くなるのは必然的だ。
「こんなところでバイトか?」
いきなり声をかけられたので誰かと思い見てみると、焼きそばを何個か持った南雲先輩がいた。
「手伝ってるだけですよ」
「てっきりポイントが絡んでいるかと思ったが・・・・・・」
「雅く~ん、まだ~?」
南雲先輩の帰りが遅くてこちらを見に来た女子生徒が、こちらへ来るなり俺を睨み先輩の腕を引っ張ってどこかへ行ってしまった。
それはまるで、この人は私のものと主張しているように見える。
(南雲先輩は女子生徒のことをものとしか見てないからな...。
あ、これはサッカー部の先輩からの入れ知恵だからね)
そんなことを思っていると、またもや顔見知りがこちらにやって来る。
「黒瀬くん、やっほー」
「やっほー」
「お前らも来ていたのか」
やって来たのは一之瀬と七詩、と白波。
3人の間隔から見るに友達のようだ。
(白波からの殺意のようなものを感じる...。怖いよ~)
「折角の機会だからね。そう言う黒瀬くんも龍園くんと一緒に来たの?」
一之瀬から龍園というワードを聞いて、龍園とどこかで会ったと考える。
「そうだが、どこかであいつと会ったのか?」
「うん。さっきまで1年のAD対BCでバレーの試合をしててね。その時に龍園くんたちが参加してたからもしかしてと思って」
(昨日悪い予感がすると思ったが、もしかしたらその試合のことだったのかもな)
俺は少し気になったので、その詳細を聞いてみることにした。
「その試合って、誰が参加してたんだ?」
「試合をしたのは私たちと神崎くんと柴田くん、Dクラスの堀北さんや須藤くんや櫛田さんや綾小路くん、Cクラスの龍園くんとアルベルトくん、Aクラスの橋本くんに
一之瀬の口から大量の名前が飛んできて一瞬パンクしかけたが、人数的に8人で試合をしたようだ。
(参加しなくて良かった...)
「それでどっちが勝ったんだ?」
「BとCのチームが勝ったよ。須藤くんは強敵だったけど、勝ったのは龍園くんとアルベルトくんと蒼ちゃんがいたからかな~」
「えへへ、そんなことないよー」
龍園とアルベルトが凄いのは知っているが、七詩がバレーを出来ることは初めて知った。
(七詩はバレーの経験者っぽいな。
龍園とアルベルトに並べられるぐらいの実力を持つ、か)
当の本人は一之瀬に褒められて照れている。
「帆波ちゃん、蒼ちゃん!他の店も見に行こ!」
それを見ていた白波は痺れを切らしたのか、一之瀬と七詩を引っ張る。
「ごめんね、黒瀬くん。私たちはこれで」
「またねー」
それに連れられた一之瀬と七詩はこちらに手を振って去っていった。
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南雲先輩や一之瀬と七詩に会ってから特に誰かと会うわけでもなく、黙々と作業を続けること約2時間。
客足も減ってきたので手伝いを終えようと思い、先輩に話しかける。
「先輩、手伝いを終えてもいいですか?」
「客も減ってきたし、俺一人でも出来そうだから大丈夫だぞ」
「分かりました」
俺は先輩から借りたエプロンを返し、貸していたラッシュガードを返してもらう。
俺がラッシュガードを着ている間に先輩が焼きそばを2つ持って来た。
「流石に手伝ってもらったお礼をしないといけないと思ってな。お前が作ったものだが、2つとも持っていけ」
「ですが・・・・・・」
「こうなった俺は頑固だぞ」
少し前に俺が言った言葉をそのまま返されてしまう。
それに苦笑いをする。
「・・・・・・分かりました。今回の報酬として食べますよ」
(正直に言うと、ずっと作ってたせいでお腹が空いているからありがたい)
「じゃあ、また会った時はよろしくな」
「こちらもです。それでは」
俺は軽く手を上げて屋台から離れる。
「どこで食べようか・・・・・・って、うん?」
焼きそばのため立って食べるわけにはいかない。
そんなことで座れる場所を探していると、少し遠くの席でナンパをされている椎名と神室を発見した。
(こんなところでもナンパするやつはいるんだな...。とりあえず助けるか)
そんなことを思いながらその席へと足を運ぶ。
「────そんなこといいからさ。俺たちと遊ぼうぜ」
「約束をしている相手がいるので結構です」
「そう言ってるけど、本当は来ないんじゃないの?その相手」
(強引にすれば監視カメラによってばれてしまうから、相手が折れるまで粘着か。
なんか嫌な野郎だな)
ナンパ野郎は2人のようで、俺に近かったやつの肩を叩く。
「なんだてめえ」
「相手が断っているのに粘着するのは良くないんじゃないですか?」
「そんなの、俺らの勝手だろ」
その言葉に一理はある。
だが、やっていいこととやっていけないことの線引きはしっかりするべきだろう。
「そうですね。ですが、この2人は俺のものなんで」
俺は2人の耳元に顔を近づけて、ドスの効いた声でこう言う。
「手出しすんじゃねえよ」
「「・・・・・・!」」
2人は俺の声を聞いて、肩をビクッとさせる。
「・・・・・・早く離れようぜ」
「・・・・・・ああ」
そう言って2人はここから離れていった。
(まじで恥ずかしいー!
身の丈に合わない言葉を言うんじゃなかったー!
もう消えたい...)
恥ずかしい言葉を言って、顔が赤くなっているだろう。
「ぷっ。黒瀬でもそんな言葉を言うんだ」
神室が笑いを堪えているのが見えて、過去の自分を殴ってやりたいと思ってしまう。
「あれは仕方なくだ・・・・・・。だから、忘れてもらえるとありがたいんだが」
「折角あんたの弱みを握れたんだから、忘れるなんてもったいないじゃない」
「ぐっ・・・・・・」
神室がもしこのことを坂柳に報告をしたら、俺の自由は確実に奪われてしまう。
ひよりに関しても同じで、龍園に報告されたら一生ネタにされてしまう。
どちらにしても忘れていただかないと、個人的に死んでしまうのだ。
「黒瀬くん、私たちをナンパから助けるために行った行動に対する感謝を忘れるなんて無理ですよ」
(確かに感謝されるのはありがたいが、そうじゃない。
俺は言葉を忘れてほしいんだ)
「そうよ。忘れるわけないじゃない」
ひよりはおそらく素の言葉だが、神室に関しては絶対に悪意がこもっている。
(もう帰りたい...。
自分の部屋で1人で泣きたい...)
俺は手に持っていた焼きそばをテーブルに置いて、静かに椅子を引いて座る。
「・・・・・・それは一旦置いといて、一応焼きそばが2つあるが、いるか?」
「いいんです────いえ、いりません」
何かを口にしようとしたひよりは、言い終える前に自分の手で口を塞いで籠った声で答える。
(何か隠してるのか?)
それを見ていた神室は焼きそばへと手を伸ばす。
「じゃあ私が貰う」
そう言って焼きそばを1つ取り、割り箸を割って食べ始める。
俺もそれを見て、残っている1つを食べ始める。
(ひよりの様子が少しおかしい...。
何かあったのか...?
てか、この焼きそば美味すぎて箸が止まらん)
「う~ん・・・・・・!美味しい~・・・・・・!椎名もいる?」
「い、いえ。いりません」
神室に聞かれても、いらないというひより。
そう言っているわりには、チラチラと焼きそばの方に視線が行っているが。
チラチラと視線を焼きそばに向けるひよりを横目で見ながら、焼きそばを完食する。
「ふう・・・・・・。ひより、約束してた泳ぎの練習でもするか」
「分かりました」
「神室はこの後どうするんだ?」
(俺の予想が当たれば1人でここに来たはずだ。
そうなると、暇だろうし聞いておいて損はないだろう)
視線を神室の方へと向けると、そちらもちょうど食べ終えたところのようで、持っていた箸を置く。
「あんたたちが何かするんだったら、それを見ているわ」
俺は後々神室に聞いたことを後悔するのであった。
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カシャ、カシャ。
「おい」
「どうかしたの?」
カシャ、カシャ。
「いい加減、携帯で写真を撮るのをやめてくれないか」
「いいじゃない。折角の機会なんだから」
そう言いながら、神室はプールの縁から俺たちの写真を撮る。
(くそ、バタ足の練習するのに一番効率が良さそうなのが、手を引っ張ってやることだと思っている。
だからひよりの手を引っ張っているが、それをいいことに写真を撮りやがって...)
ひよりと約束していた通り、現在端の人気があまりないプールで泳ぐ練習をしている最中である。
最初、どれだけ泳げるのか確認したところ、基礎中の基礎に当たるバタ足からだめだったため、こうしてひよりの手を引きながらバタ足の練習をしている。
(水泳の授業で「全員泳げるようにしてやるぞ」的なことを言っていた気がするんだが、この際別にいいや)
その絵面がはっきりと言えばアウト極まりなく、それをしめしめと思ったのか神室がいきなり携帯で写真を取り始めたのだ。
俺としてはその行動を止めさせたいのだが、如何せんこちらはプールの中で相手は陸地。
それもこちらはひよりの練習に付き合っているため、両手を使うことが出来ないのだ。
「お前の携帯を水没させるぞ」
「そうする前にこの写真、坂柳に送るけど」
そう言われて見せられた写真には、楽しそうに泳ぎの練習をしている俺たちが写っていた。
「俺の早業を持ってすればその前に・・・・・・」
「してもいいけど、椎名に送ったこのボイスが坂柳のところに行ってもいいなら」
神室はそう言ってとあるボイスを再生する。
『そうですね。ですが、この2人は俺のもの────』
(どうやら俺は詰んだようだー)
「すいませんでした。俺が悪かったです」
この状況を打開する手段を今は持っていないのでここは潔く謝っておく。
それを見た神室は嬉しそう顔をしている。
そんな顔を見ていたら妙にイラついてき、視線をひよりの方へと戻すと腰の部分が水の中に沈んでいた。
「ひより、腰が沈んでるぞ」
「わ、分かりました・・・・・・」
そうは言ったが、ひよりの体力がそこまでないためすでに疲れている様子で、腰が沈んだ状態から変わらない。
(やり始めてそこまで時間が経ってないけどな...。
俺も鬼じゃないからここはサポートしてやるか)
俺は横に移動して、片手でひよりの手を持ちながら、お腹の部分を下から押し腰を浮かせる。
その時にプニッとした感触を覚える。
「ヒャッ!」
(人のお腹ってこんなにプニッとした感触じゃないはず...。
柔らかさ的に脂肪に近いような...)
そんなことを考えていたら、ひよりの足が止まりかけていた。
「泳ぐ練習なのに足を止めてどうするんだよ・・・・・・」
「黒瀬くんの手がくすぐったくて・・・・・・」
言っていることは本当のようで、ひよりの頬は赤く染まっている。
そして俺が今現在何をしているのか気付く。
(これって傍から見たらヤバいですよね。
イチャイチャしてるようにしか見えないですよね)
案の定、神室は写真を撮りまくっている。
「自分から提供してくれるなんて、黒瀬は優しいわね」
(ここは耐えろ。
壁までいけばあれをするだけ。頑張れ、俺)
そんな思いはすぐに叶い、プールの壁際に手がつく。
それを確認した俺はひよりを立たせてから手を離す。
「今日はここまでにしよう。急いだとしても上手くなるわけじゃないしな」
「分かりました」
そして神室に近づいて、無言でプールに引きずり落とす。
「キャッ!」
それを唐突に受けた神室はいつもの感じとは裏腹に、乙女らしい声を出してプールへと落ちる。
その時に、携帯を手から滑らせたのでしっかりとキャッチする。
「フフフ・・・・・・。この時をずっと待っていた。これで写真を・・・・・・って、あれ?」
いつの間にか、携帯を持っていたはずの手から携帯が消えていた。
俺はプールサイドの方に目を向けると、そこには携帯を持ったひよりがいた。
「俺の計画が・・・・・・」
そう言った時、プールに落とされた神室が水から顔を出し、俺の頭を押さえて水に沈める。
「まじで最低」
一瞬だけ見えた神室の目はこちらをゴミのように見ていたのであった。
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「大丈夫ですか?黒瀬さん」
「死ぬかと思った・・・・・・」
頭を沈められた後、なかなか頭から手が離れなくて死にかけていたところに、俺を探していた石崎が来てくれたおかげで死ぬことを免れた。
そして今は寮へと帰っている途中だ。
(女性を怒らせるものじゃないな...。
やった倍、それ以上のダメージが必ず入ってしまうのが辛い)
神室はあの後坂柳に写真を送ったようなので、現在進行形で泣きそうである。
「それより、龍園とかはまだプールなのか?」
「はい。もうちょっと遊んでからだそうです」
プールってそんなに遊ぶところがないような気がするが、よくそんなに遊べるなと思う。
そんなことを喋っていると、いつの間にか寮の前に着いていた。
「俺はちょっとコンビニに行ってくるので」
石崎はコンビニに用事があるようで、ここで別れるようだ。
「また明日な」
「はい!また明日!」
石崎と別れ俺は自分の部屋へと戻る。
「今日は思った以上に濃かったな」
最初はこんな感じになるとは思っていなかったし、思わぬ出会いもあった。
(この学校に扇先輩がいるとはな。
あの人のことだから、Aクラスにいるだろうけど)
扇先輩に会ったことによって、思い出したこともある。
(ずっと彼女が死んだことだけしか覚えていなかった。
だが先輩と会って、彼女がなぜあの施設にいたのか、なぜ死んでしまったのか思い出すことが出来た。
先輩と会って思い出した理由が分からないが、忘れていたのには1つだけ心当たりがある)
そのことを俺は頭の中で、順を追って確認することにした。
次の話は過去の話となります。
次の次も施設の話になる予定。
あと2話分で次の話に入ると思います。