体育館で行なわれていた顔合わせを途中で放棄した俺たちは、教室に戻り席に座る。
ただし龍園だけは前に立ち、俺たちに向かって話を始める。
「今回の体育祭、俺たちは2つに分かれる。1つは運動神経の悪い奴らのグループ、もう1つはそれ以外だ。今から名指しするヤツは黒瀬のところに集まれ」
龍園は数人の名前を言って、俺のところに集まらせる。
俺はこちらに来たやつの人数を数える。
(男子5、女子10で15人か。
それにしても、運動のできないやつの育成か...。
初めてやることだができるだけ頑張るか)
「僕たちは何をすれば・・・・・・?」
運動が出来ない代表の金田が、いつもとは違っておずおずと聞いてくる。
周りのやつを見ても、全員から自信のなさが伺えてくる。
「とりあえず空気椅子をしてくれ。もちろん、壁に背をつけるなよ」
俺はそう指示して、全員の様子を確認する。
(空気椅子は足の筋肉を鍛えるときにやる筋トレの1つ。
教室でも出来る筋トレでかなりお手軽にできるし、それに結構辛いからな)
そう思っていると、いつの間にか全員が床にお尻を付けていた。
「だいたい10秒ぐらいで全員ダウンか・・・・・・これは長くなりそうだな・・・・・・」
想像以上の駄目さに、ため息をついて龍園のほうを見ると、何やら話をしているようだ。
(あっちの方は何か企んでいるようだが、向こうには真鍋がいるからな。
情報が綾小路に流れる可能性が...あるわけないか。
何か弱みを握られてる可能性はあるが、Aクラスの情報を流すようなことはしないだろ。
向こうは龍園に任せて、こっちのことを考えないと)
とりあえず思い浮かべた筋トレを紙に書き、こいつらが毎日続けられそうなのだけを残していく。
「こ、これは・・・・・・?」
体を起き上がらせたひよりが、俺の書いていた紙を覗いてくる。
他の倒れていた奴らも何ごとかと思ったのか、こちらにやって来る。
「これはお前たちが体育祭まで、毎日行う筋トレメニューみたいなのだ」
(と言ってもまだ完成してないけどな)
そう思ってひよりたちの方を見たら、心底嫌そうな顔をしていた。
(こいつらまじで運動無理なんだな...。
無理矢理しても意味ないし、ここは何かご褒美をあげればいけるかもしれない)
「そうだな・・・・・・。頑張って毎日続けたやつには、出来る範囲で願いを1つだけ叶えてやる。例えばポイントが欲しいとかな」
「ポイントがもらえるなら、ちょっとだけやる気になったかも・・・・・・」
「それならやってもいいかな・・・・・・」
それを聞いた運動が出来ない奴らに少しだけやる気が出てくる。
俺はその後の時間をメニュー作成に費やして、その日のうちに全員に渡すことに成功したのであった。
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放課後となり特にやることがなかったので、寮に戻って再度メニューの確認をする。
(腕立て伏せ5回、空気椅子10秒×3セット、スクワット5回、プランク20秒×2セット。
これら全てが走る時に使う筋肉を鍛えるためのものだ。
これぐらいなら、おそらくあいつらでも出来るはずだ。
もしやってなかったら、明日見れば分かる。
だって、空気椅子10秒でダウンしてる奴らが、これを全てやれば明日筋肉痛になるのは間違いないからな。
筋肉痛の奴の歩き方は確実に変わるし、触れば一瞬だ)
確認が終わりすることに悩んでいると、チャイムが鳴った。
(誰だろう?
龍園とか石崎じゃないことを信じたい)
玄関のドアを開けて訪問者を確認する。
「今から時間、空いてますか?」
訪問者は首を傾げてこちらに聞いてくる。
(男じゃなくて女の子でよかったー...。
って、なんか変態が言いそうな言葉だな...)
俺の部屋を訪れたのは、龍園でも石崎でもなくひよりだった。
服装が体操服であることから、運動をするのだろうと推測する。
「空いてるぞ」
「それならあのメニューに付き合ってくれませんか?私1人だとちゃんと出来ているのか分からないので」
(ここに来たということは俺の部屋、もしくはひよりの部屋以外の場所ということだろう。
だが生憎と、俺の部屋は筋トレをするにはあまり向いていない。
それならあの場所以外なさそうだな)
「いいぞ。少し着替えてくるから待っておいてくれ」
「分かりました」
俺は一度部屋に戻って、動きやすい服装に着替える。
その時に眼鏡からコンタクトへ変えておく。
ここではなく別の場所で行うため、靴を履いて玄関に鍵をかける。
「時間がかかってすまんな」
「全然大丈夫ですよ。それより鍵をかけたということは別の場所でやるんですか?」
「そうだ。俺の部屋でやるにはちょっと狭いからな」
そう言って歩き出すと、ひよりが横に並んでくる。
エレベーターがちょうどこの階に止まっていたので、そのまま乗り込んで寮から出る。
「その場所はどこにあるんですか?」
目的の場所に向かっている途中、ひよりが横から聞いてくる。
「学校にあるところでもいいんだが部活とかで使う人がいるだろうから、ケヤキモールにあるトレーニングジムに行こうと思う。あそこは人があまり来ないからな」
この学校にはトレーニング器具が揃っている場所が2つあり、1つは学校のトレーニングルーム。
もう1つはケヤキモールにあるトレーニングジムである。
トレーニングルームは生徒なら先生の許可があれば使うことができるが、部活動で使うところがあるためあまりゆったり出来ないだろう。
その分、トレーニングジムはこの敷地内の人なら誰でも使え、かなり空いているためかなりいいのである。
その代わり、使うのにポイントが必要なのが難点だが。
「そんな施設がケヤキモールにあったんですね」
ひよりはケヤキモールにそんなところがあるのを初めて知ったようだ。
(秘密の隠れ家に連れていくみたいでなんかいいな...。
って、またいけないことを...)
「まあ、気づきにくい場所にあるからな。そう言うのは仕方ない」
その後もトレーニングジムについて話していると、目的地へとたどり着いた。
「ここですか」
「そうだ」
俺を先頭にトレーニングジムに入ると、後ろで顔をのぞかせるひよりから感嘆の声が聞こえた。
「俺は受付をしてくるから待っておいてくれ」
俺は入口にある受付カウンターで受付を行う。
(ここは1日利用で2000ポイント、トレーナー有りで5000ポイント。
会員に入ると月16000ポイントだが、ここを使い放題プラストレーナー付きという良さ。
それに結構優しいトレーナーさん(美男美女)が多いから、トレーニングジム初心者の人でも続けるきっかけになるだろう。
是非とも来てほしいところだ。
ちなみに俺はここの会員で、夏休み前はちょくちょく暇な時に通っていた)
ひよりの分と会員の更新費を払い、彼女のところに戻る。
「私、このような場所に来るのは初めてなのでよろしくお願いします」
そう言ってお辞儀をされたので、ここは頑張りたいと思う。
「最初は筋トレメニューから終わらせるぞ」
「はい。分かりました」
俺たちは準備体操をして筋トレを開始した。
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「ううっ・・・・・・。こんなの、毎日続けられそうにないです・・・・・・」
筋トレメニューを消化し、トレーニングジムを出たときにひよりがそんなことを言う。
足取りが重いのを見て、初めての筋トレでかなり疲れているようだ。
「ある程度やったらそのうち慣れてくるだろう」
「そうなったらいいですね・・・・・・それにしても黒瀬くんは私よりも動いていたのに元気ですね」
「あれぐらいは準備体操と変わらないぞ」
(俺がやったのは、バーベルの片方だけに重りを付けて片手で素振り、手足に重りを付けてランニングマシンの最速を走ったぐらいだ。
久しぶりにやったから汗をかいてしまったが、かなり余裕だったな)
「す、凄いですね・・・・・・」
ひよりはそう言って、自分のお腹辺りを見る。
(もしかしてお腹が空いたとかか?
それなら言うはずだが...。
てことはお腹を気にしている?
そうなればプールで泳ぎの練習をしたいと言ったのも納得できる。
本人に直接聞くのがいいが、女子にそのような話をしてはいけないと聞いたことがある...。
ここは聞かないでおこう)
俺はそれを見て見ぬふりをして会話を繋げる。
「頑張ればひよりも出来るようになると思うぞ」
「私、頑張ります」
体の前で握りこぶしを作っているのを見て、普段よりも可愛いなと思ってしまう。
次の日、全身痛そうに歩いているひよりのことは秘密にしておこう。