1ヶ月後に開催される体育祭に向けて本格的な準備が始まった。
週1に設けられる2時間のホームルームは自由にやっていいとのことなので、龍園にいろいろと相談してみることにした。
「なあ龍園」
「どうした?」
「体育祭の参加表はどうやって決めるんだ?全員で話し合って決める、なんてことはしないだろ?」
「参加表については俺が全て書く。ちなみにお前は全競技に出すってことだけは言っといてやる」
どうやら、俺が全競技に参加することは決まっているらしい。
借り物競争だけは参加したくなかったが、頑張ることにしよう。
「分かった。もう1つ聞きたいことがあってな、今から外で練習をしてもいいか?」
「構わないぜ。他クラスに雑魚どもの情報が渡ったとしても変わらねえからな」
こういうところは隠すかと思っていたが違ったらしい。
「聞きたいことはそれだけだ。少し時間を取ってすまないな」
そのまま外で練習するために運動の出来ないメンバーを集めようと動いたら、龍園に止められる。
「なあ、黒瀬。
「Dクラスだけじゃなくてこの学年で敵はいない」
それを聞いた龍園は声を出して笑い出す。
「クハッ!この学年で敵なしか!相当の自信じゃねえか!」
「事実だから仕方ない」
運動部所属の1年生には確実に勝てるし、所属してなくとも敵になりそうなやつは本気でやらないため、実質敵と呼べる奴はいない。
その言質を嬉しそうに受け取る龍園。
「クク、その言葉、信じさせてもらうぜ」
「ああ」
俺は運動の出来ない奴らを集め、体操服に着替えるように言い、外のグラウンドに行く。
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外のグラウンドに出てみると、校舎の窓から数人の生徒が見えた。
おそらく他クラスの偵察をしようと思っているのだろう。
こちらは隠す必要などないため、思いっ切りやらせていただこう。
「全員揃ったようだな。それじゃあ今から軽く100メートルを走ってもらう」
そう言うと、やはり全員が嫌そうな顔をする。
それを見て少し頭を抱えてしまったが、ここで新たな提案を1つしてみる。
「そうだな・・・・・・もし体育祭当日の100メートル走で3位以内に入ったら、願いごとをもう1つ叶えてやる」
それを聞いてもまだ不満のある顔だったが、全員100メートルを走ってくれた。
(少し俯きながら走っているやつ、小走りなやつ、無駄に上に飛んでいるやつなど走り方が人それぞれで面白い)
俺はその時に測ったタイムでどうするべきか考える。
(男子が17~25秒、女子が19~31秒か。
走り方を改善するのは絶対として、体力を上げるのを中心にした方が良さそうだな。
全員100メートル走っただけで、息を切らして倒れかけてるからな)
走り終わって休憩している全員のいるところに行き、1人ずつアドバイスしていく。
「もっと足を前に出してみたほうがいい」とか「顔は正面を向けるべき」などなど。
個々にアドバイスをし終えたら、次に全体でやることを伝える。
「全員のを見て体力が全くないことが分かった。ということで、1500メートルゆっくり走りますか」
先ほどの100メートルの時よりも嫌そうにしているが、強制的に走らせていく。
と言っても、人が歩いてるスピードよりもほんの少しだけ速いスピードで走っているが。
ゆっくりと時間をかけて走ったせいで、1500メートル走り終わった時には次の時間に変わっており、Dクラスがぞろぞろとグラウンドへやって来た。
「こんにちは。黒瀬くん」
みんなが疲れて休憩しているのを待っていると、いつもの張り付いた笑みを浮かべる平田がやって来た。
「平田か」
「確か黒瀬くんたちのクラスはCクラスからAクラスに上がったんだね。おめでとう」
こちらが前回みたいな状態でないことを確認した平田は、いつも通りの口調で祝ってくる。
前回の試験であんなことをしてしまったのに、こうやって祝ってくれるやつはそうそういないと思う。
「ぎりぎりなところだがな。今回の体育祭でどう転ぶかによって変わってくる」
「そうだね。ところで前回の話し合いの件、考え直してくれないかな?」
どうやら、こちらに近付いて来た理由はそれのようだ。
こちらの意見は以前と変わず、ノーを突きつける。
「それは無理だな」
「理由を聞かせてくれないかな?」
「ウチのリーダーは話し合いに興味がないんだ。もし話し合いがしたければ直接言うことだ」
「分かった。そうさせてもらうよ」
物分かりのいい平田はそれで引き下がってくれるようだ。
だが、それを傍で聞いていた軽井沢がつっかかってきた。
「ていうか体育祭って協力し合うものでしょ。なのにそれを断るなんて、あんたどんな神経してるのよ」
それに軽井沢の後ろにいた篠原たちが同調している。
(綾小路はよくこんなやつを駒にしようとしたな...。
あの時、俺がいなかったらどうしたのか気になるわ)
溜め息をつきながらも、軽井沢にも同じ説明を行う。
「さっきも言ったが、うちのリーダーは話し合いをしようとしていない」
「なら、あんたが納得させればいいじゃない。私たちが言うより聞いてくれるかもしれないんだし」
「俺も話し合いが必要だと思っていない。頼むなら他の人を当たってくれ」
あまり周りに人が集まってほしくなかったが、いつの間にかDクラスの生徒が集まって来ていた。
「ああ?話し合いがなくて負けたらどうすんだよ?責任取ってくれんのか?」
俺の言葉を聞いて、こちらにキレ気味に詰め寄ってくる須藤。
「この試験はあくまでクラス対抗だ。組が一緒だからといってDクラスが負けた時に責任を取る意味が分からない」
「何だとてめえ!?」
須藤は俺の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
その形相は今にも殴りかかってきそうだ。
それを見ていた平田はすぐに止めるよう仲裁に入り、少し離れたところにいた櫛田も止めるよう促している。
(ちょっと煽ったらすぐに殴ってきそうだな)
「Dクラスが4位を取ったとしてもそれはクラスの問題だ。しっかりとしたリーダーがいな────」
そこで殴ってくるのかよというタイミングで須藤は拳を振り上げるも、
「須藤くん、そこまでにしときなさい」
この騒動に気付いた堀北が止めに来たせいで寸止めで終わってしまった。
「チッ、分かったよ・・・・・・」
舌打ちをしながらも、須藤は胸ぐらを掴んでいた手を乱暴ではあるが、離してくれた。
こちらへ近寄ってくる堀北に一応感謝だけはしておく。
「堀北が止めてくれなかったら殴られてた。感謝する」
「感謝しているというより残念に思っているような気がするけど?それに殴られる状況を作ったのはあなたよ。その辺の自覚も必要だと思うのだけど?」
「そうだな、すまなかった。それではさようなら」
これ以上長くいても面白いことが起こらない。
そう思い、回れ右して休んでいるやつらのところに行こうとしたら、堀北に背中の襟を掴まれる。
「掴まれたら服が伸びるんだが・・・・・・」
「まだ話は終わってないわよ」
それを聞いて、またため息を漏らしてしまう。
こちらとしても、これ以上突っかかってくるのは勘弁してほしいため、こう告げることにした。
「どうせ体育祭の話し合いのことだろ?それなら前と変わらない。一応、元クラスメイトの頼みとしてウチのリーダーに言っておくが」
(龍園に言ったとしても、やらないだろうし意味がないんだけど)
「そう。それならしっかり伝えておいてちょうだい」
龍園に伝えることが分かった堀北は服を離してくれた。
(今日は2回も服を掴まれたから、絶対伸びてるわ...。軽くショック...)
少し気分が害されたが、休んでいるやつらと共に自分たちのクラスへと戻った。
「外で揉め事があったみたいですが、何かあったんですか?」
教室へ入り自分の椅子に座ったら、石崎に話しかけられる。
「Dクラスのやつらに話し合いをしてくれと言われて、断ったら須藤に殴られかけた」
「それは惜しかったなあ。あと少しでペナルティを食らわられたのに」
俺の話を聞いていた龍園が会話に入ってくる。
「殴ってたら、前の仕返しが出来たのに・・・・・・」
それが悔しかったのか、石崎は体の前で握りこぶしを作っている。
(前とはあの暴力事件のことだろう。
殴られたとしても、それが仕返しになるのか微妙だが)
「そう言えば、Dクラスのやつらから伝言で、話し合いをしてほしいと。やることはやったし疲れたから寝る」
そう言い残し体を机に預け、そのまま眠りについたのであった。